気体分析装置
【課題】低コストで、エタノール等の特定成分の濃度を測定できる気体分析装置を提供すること。
【解決手段】特定成分を含む気体試料にテラヘルツ波を照射して、前記気体試料による吸収強度を取得する計測部3と、前記吸収強度に基づいて前記特定成分の濃度を算出する解析部5と、を備えることを特徴とする気体分析装置1。前記テラヘルツ波は、気体試料に含まれる前記特定成分の吸収強度が、前記気体試料に含まれるバックグラウンド成分による吸収強度よりも大きい周波数領域であり、かつ、バックグラウンド成分の吸収スペクトル形状の平坦な周波数領域であることが好ましい。
【解決手段】特定成分を含む気体試料にテラヘルツ波を照射して、前記気体試料による吸収強度を取得する計測部3と、前記吸収強度に基づいて前記特定成分の濃度を算出する解析部5と、を備えることを特徴とする気体分析装置1。前記テラヘルツ波は、気体試料に含まれる前記特定成分の吸収強度が、前記気体試料に含まれるバックグラウンド成分による吸収強度よりも大きい周波数領域であり、かつ、バックグラウンド成分の吸収スペクトル形状の平坦な周波数領域であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、気体中に含まれるアルコール等の濃度を測定できる気体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の飲酒状態を検出するために、車載の飲酒状態検知装置が提案されている(特許文献1参照)。この飲酒状態検知装置では、エタノールに固有の吸収波長に対応する赤外光を用いて、エタノール濃度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−92450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、エタノールに固有の吸収波長に対応する赤外光を照射する必要がある。この吸収波長の周波数帯は狭いため、赤外光を照射する部材は、周波数分解能の高いものでなければならず、結果として、飲酒状態検知装置が高価となってしまう。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、低コストで、エタノール等の特定成分の濃度を測定できる気体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の気体分析装置は、気体中の特定成分がテラヘルツ波を吸収する吸収強度に基づき、特定成分の濃度を算出する。特定成分のテラヘルツ波領域の吸収は、他の領域と比べて幅広い周波数領域に分布しているため、気体分析装置は、周波数の分解能が高いテラヘルツ波の照射手段を備えなくてもよい。その結果、気体分析装置の製造コストを低減できる。また、本発明の気体分析装置では、特定成分を精度良く測定することができる。
【0007】
本発明の気体分析装置において、測定に使用するテラヘルツ波は、気体試料に含まれる特定成分の吸収強度が、バックグラウンド成分による吸収強度よりも大きい周波数領域であり、かつ、バックグラウンド成分の吸収スペクトル形状の平坦な周波数領域であることが好ましい。こうすることにより、バックグラウンド成分による影響を少なくし、精度良く特定成分の濃度を測定することができる。
【0008】
本発明の気体分析装置では、気体試料に含まれるバックグラウンド成分のテラヘルツ領域における吸収スペクトルを取得するバックグラウンド吸収スペクトル取得手段と、バックグラウンド成分の吸収スペクトルに基づき、計測部で用いるテラヘルツ波の周波数を設定する周波数設定手段とを備えることが好ましい。こうすることにより、計測時のバックグラウンド成分に応じ、その吸収の影響が少ない周波数を、計測評価で用いる周波数に適切に設定することができる。
【0009】
本発明の気体分析装置において、特定成分の濃度の算出に用いるテラヘルツ波の周波数における幅は、±3cm-1以下であることが好ましい。こうすることにより、S/N(特定成分の検出値とバックグラウンド成分の検出値との比率)が高くなり、特定成分の測定精度を一層向上させることができる。
【0010】
本発明の気体分析装置において、計測部は、複数の周波数での吸収強度を取得し、解析部は、複数の周波数からなる吸収強度のパターンに基づき、特定成分の種類を同定するものとすることができる。こうすることにより、特定気体の成分の濃度測定だけでなく、任意気体成分の種類の同定及び、濃度測定も行うことができる。これは、物質の種類によって、複数の周波数における吸収強度の大きさ及び、形状が特有であることに基づく。
【0011】
前記特定成分としては、テラヘルツの周波数領域においてブロードな吸収を有するものを広く用いることができる。例えば、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール)、水等が挙げられる。
【0012】
前記テラヘルツ波とは、0.1〜10THzの周波数を有する電磁波である。本発明で用いるテラヘルツ波は、1つの周波数領域であってもよいし、複数の周波数領域の組み合わせであってもよい。
【0013】
前記バックグラウンド成分とは、気体試料の成分のうち、測定対象となる特定成分以外の成分をいう。例えば、一般的な大気の成分(窒素、酸素、特定成分以外の微量成分(例えば水蒸気、炭酸ガス、アルゴン等))が該当する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】気体分析装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】テラヘルツ波の電場波形を表すグラフである。
【図3】バックグラウンド大気を透過した透過光強度を表すグラフである。
【図4】テラヘルツ波の電場波形を表すグラフである。
【図5】気体試料を透過した透過光強度を表すグラフである。
【図6】バックグラウンド大気と気体試料について、各周波数成分での吸収強度を表すグラフである。
【図7】バックグラウンド大気で吸収されにくい周波数を表す説明図である。
【図8】エタノールについて、各周波数成分での吸収強度を表すグラフである。
【図9】気体試料S1、S2について、エタノール濃度(分圧)と、エタノールの吸収強度との関係を表すグラフである。
【図10】大気、エタノール、両者の混合気体(気体試料S1)の吸収強度を表すグラフである。
【図11】図10のグラフにおける一部の範囲の拡大図である。
【図12】吸収強度を積分するときの周波数の幅と、周波数の中心値とを様々に変えた場合におけるSN値の分布を表すグラフである。
【図13】気体分析装置101の構成を表すブロック図である。
【図14】テラヘルツの周波数領域における各物質の吸収強度を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を説明する。
1.第1の実施形態
(1)気体分析装置1の構成
気体分析装置1の構成を図1に基づいて説明する。
【0016】
気体分析装置1は、計測部3、制御−解析部5、データ計測部7、及びデータ記憶部9から構成される。
計測部3は、周知のTDS(タイムドメインスペクトロスコピー)方式の計測部である。計測部3は、周波数がテラヘルツ領域にあるテラヘルツ波を発生・検出するために用いるパルスレーザ11、テラヘルツ波を信号分割するためのビームスプリッタ(BS)13、THz-エミッター15、THz-ディテクター17、気体試料を保持するガスセル19、及び信号分割された一方の信号と時間遅延を生じさせるオプティカルディレイライン21を有する。
【0017】
パルスレーザ11から射出されたパルスのうち、ビームスプリッタ13で反射したものは、THz-エミッター15に入射し、THz波パルスを射出するために使う。このTHz波パルスはガスセル19を経て、THz-ディテクター17に至る。一方、パルスレーザ11から射出されたパルスのうち、ビームスプリッタ(BS)13を透過したものは、オプティカルディレイライン21を経て、THz-ディテクター17に至り、THz波パルスの時間波形を計測するために使う。
【0018】
制御−解析部5は、オプティカルディレイライン21を制御しながら、その制御信号に応じて、データ計測部7から計測データを受信する。また、制御−解析部5は、周知のCPUを搭載しており、後述する各処理を実行する。
【0019】
データ計測部7は、計測部3の近傍に設置され、制御−解析部5からの指示により、THz-ディテクター17から計測データを取得する。
データ記憶部9は、制御−解析部5と連携し、計測データを記憶する。また、データ記憶部9には、後述するデータベースが記憶されている。
(2)気体分析装置1が実行する処理
気体分析装置1が実行する処理を図2〜図8に基づいて説明する。
(i)エタノールを含まない大気(バックグラウンド成分のみから成る大気)のテラヘルツ波透過強度の計測
まず、ガスセル19に、バックグラウンド大気を充満させた状態で、オプティカルディレイライン21を動作させて遅延時間を変化させながら、透過光電場強度(THz-エミッター15を経て、ガスセル19を透過し、THz-ディテクター17に到達する電場の強度)を計測し、テラヘルツ波の電場波形を得る。このテラヘルツ波の電場波形を図2に示す。テラヘルツ波の電場波形は、計測データとして、データ記憶部9に記憶される。
【0020】
なお、ガスセル19へのバックグラウンド大気の導入は、図示しない導入装置により自動的に行ってもよいし、手動で行ってもよい。
次に、テラヘルツ波の電場波形をフーリエ変換することにより、各周波数成分ごとの、バックグラウンド大気を透過した電場強度(透過光強度)を求める。その結果を図3に示す。
(ii) エタノールを含む気体試料のテラヘルツ波透過強度の計測
まず、ガスセル19に、エタノール(特定成分)を含む気体試料を充満させた状態で、オプティカルディレイライン21を動作させて遅延時間を変化させながら、透過光電場強度(THz-エミッター15を経て、ガスセル19を透過し、THz-ディテクター17に到達する電場の強度)を計測し、テラヘルツ波の電場波形を得る。このテラヘルツ波の電場波形を図4に示す。テラヘルツ波の電場波形は、計測データとして、データ記憶部9に記憶される。
【0021】
なお、ガスセル19への気体試料の導入は、図示しない導入装置により自動的に行ってもよいし、手動で行ってもよい。
次に、テラヘルツ波電場波形をフーリエ変換することにより、各周波数成分ごとの、気体試料を透過した電場強度(透過光強度)を求める。その結果を図5に示す。
(iii) 各周波数成分での吸収強度の算出
バックグラウンド大気について、前記(i)で求めた各周波数成分の電場強度から、周知の方法で、各周波数成分での吸収強度を計算する。また、エタノールを含む気体試料について、前記(ii)で求めた各周波数成分の電場強度から、周知の方法で、各周波数成分での吸収強度を計算する。その結果を図6に示す。なお、この処理のうち、バックグラウンド大気について、各周波数成分での吸収強度を計算する処理は、バックグラウンド吸収スペクトル取得手段に対応する。
(iv)バックグラウンド大気による吸収強度が周囲の周波数に比べて相対的に小さい周波数の選択
前記(iii)で計算した、バックグラウンド大気における各周波数成分での吸収強度に基づき、バックグラウンド大気で吸収されにくい周波数を複数設定する。図6に示す例では、丸印をつけた周波数が、設定する周波数となる(図7参照)。なお、この処理は、周波数設定手段に対応する。
(v)バックグラウンド大気による影響の除外
前記(iii)で算出した、各周波数成分でのエタノールを含む気体試料の吸収強度において、前記(iv)で設定した周波数を中心値とし、幅が±3cm-1の周波数領域での吸収強度(上記の周波数領域での吸収強度の積分値であって、以下では、吸収強度αとする)を算出する。設定した周波数は複数あるので、吸収強度αは、各周波数ごとに算出する。
【0022】
また、前記(iii) で算出した、各周波数成分でのバックグラウンド大気の吸収強度において、前記(iv)で設定した周波数を中心値とし、幅が±3cm-1の周波数領域での吸収強度(上記の周波数領域での吸収強度の積分値であって、以下では、吸収強度βとする)を算出する。設定した周波数は複数あるので、吸収強度βは、それぞれの周波数ごとに算出する。
【0023】
そして、吸収強度αから吸収強度βを差し引き、これを吸収強度γとする。この吸収強度γは、設定した周波数における、エタノールのみによる吸収強度に該当する。図8に、吸収強度γ(丸印が付された部分の値)を示す。
(vi)エタノール濃度の算出
データ記憶部9には、各周波数におけるエタノールの吸収強度γと、試料中のエタノール濃度との対応関係を規定するデータベースが記憶されている。前記(iv)で設定した周波数における、前記(v)で算出したエタノールの吸収強度γに対応するエタノール濃度を、データベースから読み出し、エタノール濃度を算出する。
【0024】
なお、テラヘルツ帯での幅広い吸収構造形状(パターン)は物質固有である。このため、試料中にエタノール以外の気体(第2の特定成分)が混入している場合、複数の点の値(吸収強度)と物質の吸収構造形状を連立させることにより、混入している第2の特定成分の種類を同定するとともに、その濃度を計算により見積もることができる。
(3)気体分析装置1が奏する効果
気体分析装置1は、THz-エミッターが射出するテラヘルツの周波数領域にあって、バックグラウンド大気による吸収強度が相対的に小さい周波数を用いてエタノール濃度を算出する。
【0025】
エタノールの吸収スペクトルの周波数は、比較的、幅広く分布しているので、気体分析装置1の周波数分解能は高くなくてもよい。周波数分解能はオプティカルディレイライン21の移動幅で決まり、例えば、分解能4cm-1(120GHz)、0.5cm-1(15GHz)、0.1cm-1(3GHz)の場合に必要なオプティカルディレイライン21の移動幅は、それぞれ、約0.125cm、約1cm、約5cmである。気体分析装置1では、上記のように、テラヘルツ波の周波数分解能は低くてもよいから、オプティカルディレイライン21の移動幅を小さくできる。その結果、オプティカルディレイライン21、及び気体分析装置1を小型化できる。その結果、気体分析装置1の製造コストを低減できる。さらに、移動幅を小さくすることにより測定時間を短縮することができる。
(4)エタノール濃度の測定精度の確認
大気中に濃度既知のエタノールを混合した気体試料S1と、濃度既知のエタノールのみから成る気体試料S2を用意した。気体試料S1、S2は、エタノールの濃度を変えて、それぞれ複数用意した。
【0026】
この気体試料S1、S2について、前記(3)(i)〜(v)の方法で、エタノールの吸収強度αを求めた。図9に、気体試料S1、S2における既知のエタノール濃度(分圧)と、算出したエタノールの吸収強度αとの関係を示す。この図9から明らかなように、エタノールの吸収強度αは、エタノール濃度と非常に良く相関している。よって、本実施形態で求めたエタノールの吸収強度から、エタノールの濃度を精度良く算出できることが確認できた。
【0027】
なお、図10、図11に、大気、エタノール(気体試料S2)、両者の混合気体(気体試料S1)の吸収強度を示す。
(5)周波数の幅の検討
前記(2)(v)では、吸収強度を積分するときの周波数の幅を±3cm-1としたが、その値を様々に変え、また、測定に用いる周波数の中心値も様々に変えて、それぞれの場合におけるエタノールの吸収強度と、バックグラウンド大気の吸収強度とを算出した。そして、エタノールの吸収強度をバックグラウンド大気の吸収強度で除した値をSNとした。周波数の幅と、SNとの相関関係を図12に示す。この図12に示すように、周波数の幅が±3cm-1以下の場合に、SNが20程度以上となり得る。よって、周波数の幅は、±3cm-1以下が好ましいことが分かった。
【0028】
2.第2の実施形態
(1)気体分析装置101の構成
気体分析装置101の構成を図13に基づいて説明する。
【0029】
気体分析装置101は、運転者の呼気中のアルコール濃度を測定するための車載装置であって、計測部103、制御−解析部105、データ計測部107、及びデータ記憶部109、及び報知部111から構成される。
【0030】
計測部103は、単一周波数を持ったTHz帯発光レーザ(QCL(Quantum Cascade Laser))113を複数個有する。複数のQCL113は、互いに、射出するレーザの周波数が異なる。QCL113は車両の天井に設置される。複数のQCL113における周波数は、それぞれ、エタノールには吸収されるが、バックグラウンド大気による吸収強度が相対的に小さい周波数である。
【0031】
また、計測部103は、被測定空間(車室内の空間)115を挟んで、QCL113と対向する位置(車両のコンソールボックス部)に、レーザスペクトルを取得可能なTHzカメラ117を備える。なお、THzカメラ117の代わりにボロメータを備えていてもよい。
【0032】
制御−解析部105は、QCL113の発光動作を制御する。また、QCL113を制御するための制御信号に応じて、THzカメラ117の信号を取り込む命令をデータ計測部107に向け発信する。制御−解析部105は、車両のコンソール内に配置することができる。さらに、解析後のデータ(エタノール濃度)がある一定値以上の数値を示すと、報知信号を報知部111に渡す。その他、制御−解析部105は、後述する各処理を実行する。
【0033】
データ計測部107は、計測部103の近傍に設置され、THzカメラ117の信号を取り込む。また、データ計測部107は、THzカメラ117のデータをAD変換し、制御−解析部105へ渡す。また、データ計測部107とデータ記憶部109との間でデータを照合し、所望のデータを得る(詳しくは後述する)。
【0034】
データ記憶部109は、計測データを記憶する。計測データには、運転者がいない場合のデータと、運転者が存在する場合のデータとがある。なお、気体分析装置101は、図示しない乗員検知センサを備えており、運転者の存在の有無を判断できる。また、データ記憶部109には、後述するデータベースが予め記憶されている。
【0035】
報知部111は、制御−解析部105から報知信号を受信した場合、車両のオーディオスピーカ(図示略)から報知信号を発生させる。
(2)気体分析装置101が実行する処理
気体分析装置101が実行する処理を説明する。
(i)運転者の存在の判断
乗員検知センサ(図示略)により、運転者が存在するか否かを判断する。運転者が存在しない場合は、次の(ii)の処理を実行する。運転者が存在する場合は、後述する(iii)の処理を実行する。なお、乗員検知センサの検知結果は、乗員検知センサから、車載LANにより制御−解析部105に伝達することができる。この運転者の存在の有無の判断は、定期的に繰り返し実行する。
(ii) 運転者が存在しない場合の大気(バックグラウンド大気)のテラヘルツ波透過強度の計測
QCL113から射出され、被測定空間115を通過したテラヘルツ波をTHzカメラ117で検出する。その検出結果から、バックグラウンド大気におけるテラヘルツ波透過強度(以下、テラヘルツ波透過強度Aとする)を求める。上述したように、QCL113は複数存在し、互いに射出するテラヘルツ波の周波数が異なるから、テラヘルツ波透過強度Aは、複数の周波数について、それぞれ得られる。得られたテラヘルツ波透過強度Aは、データ記憶部109に記憶する。
(iii) 運転者が存在する場合の気体試料のテラヘルツ波透過強度の計測
QCL113から射出され、被測定空間115を通過したテラヘルツ波をTHzカメラ117で検出する。その検出結果から、運転者が存在する場合の気体試料のテラヘルツ波透過強度(以下、テラヘルツ波透過強度Bとする)を求める。上述したように、QCL113は複数存在し、互いに射出するテラヘルツ波の周波数が異なるから、テラヘルツ波透過強度Bは、複数の周波数について、それぞれ得られる。得られたテラヘルツ波透過強度Bは、データ記憶部109に記憶する。
(iv)エタノール濃度の算出
この処理は、前記(ii)のテラヘルツ波透過強度Aと、前記(iii)のテラヘルツ波透過強度Bとが得られたときに、実行される。
【0036】
それぞれの周波数ごとに、テラヘルツ波透過強度Bから、テラヘルツ波透過強度Aを差し引く。このことにより、バックグラウンドの影響を除外した、エタノールのみによるテラヘルツ波透過強度(以下、テラヘルツ波透過強度Cとする)が算出される。テラヘルツ波透過強度Cは、複数の周波数において、それぞれ算出される。得られたテラヘルツ波透過強度Cは、データ記憶部109に記憶する。
【0037】
データ記憶部109には、各周波数におけるテラヘルツ波透過強度Cと、QCL113の出力信号と、気体試料中のエタノール濃度との関係を規定するデータベースが記憶されている。このデータベースに基づき、上で算出したテラヘルツ波透過強度C及びQCL113の出力信号から、エタノール濃度を算出する。
(v)報知処理
上記(iv)で検出したエタノール濃度が、所定の基準値より高い場合、制御−解析部105は、報知信号を報知部111に渡す。報知部111は、報知信号に応じて、報知を行う。
(3)気体分析装置101が奏する効果
気体分析装置101は、テラヘルツの周波数領域にあって、バックグラウンド大気による吸収強度が相対的に小さい周波数を用いてエタノール濃度を算出する。
【0038】
その周波数は、比較的、幅広く分布しているので、テラヘルツ波を照射する手段(QCL113)の周波数分解能は高くなくてもよい。その結果、気体分析装置101の製造コストを低減できる。
【0039】
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、濃度を測定する対象となる特定成分は、エタノールに限定されず、テラヘルツの周波数領域においてブロードな吸収を有する物質を、広く対象とすることができる。そのような物質としては、例えば、他のアルコール(例えば、メタノール、プロパノール)、水等が挙げられる。図14に、テラヘルツの周波数領域における、メタノール、エタノール、プロパノール、水の吸収特性を示す。メタノール、プロパノール、水は、メタノールと同様に、テラヘルツの周波数領域においてブロードな吸収を有するため、エタノールの場合と同様に、本発明によって濃度を測定することができる。
【0040】
また、前記第1の実施形態において、気体分析装置1は、バックグラウンド大気の吸収強度βをその都度測定せず、予め記憶しておくようにしてもよい。
また、前記第2の実施形態において、気体分析装置101は、テラヘルツ波透過強度Aをその都度測定せず、予め記憶しておくようにしてもよい。
【0041】
また、前記第1の実施形態において、データ記憶部9に、複数の吸収強度αに対応するエタノール濃度をそれぞれ規定したテーブルを記憶しておき、算出した吸収強度αと、そのテーブルとから、補完計算により、エタノール濃度を算出するようにしてもよい。
【0042】
また、前記第2の実施形態において、データ記憶部109に、複数のテラヘルツ波透過強度Bに対応するエタノール濃度をそれぞれ規定したテーブルを記憶しておき、算出したテラヘルツ波透過強度Bと、そのテーブルとから、補完計算により、エタノール濃度を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1、101・・・気体分析装置、3、103・・・計測部、
5、105・・・制御−解析部、7、107・・・データ計測部、
9、109・・・データ記憶部、11・・・パルスレーザ、
13・・・ビームスプリッタ、15・・・THz−エミッター、
17・・・THz−ディテクター、19・・・ガスセル、
21・・・オプティカルディレイライン、111・・・報知部、
113・・・QCL、115・・・被測定空間、117・・・THzカメラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、気体中に含まれるアルコール等の濃度を測定できる気体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の飲酒状態を検出するために、車載の飲酒状態検知装置が提案されている(特許文献1参照)。この飲酒状態検知装置では、エタノールに固有の吸収波長に対応する赤外光を用いて、エタノール濃度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−92450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、エタノールに固有の吸収波長に対応する赤外光を照射する必要がある。この吸収波長の周波数帯は狭いため、赤外光を照射する部材は、周波数分解能の高いものでなければならず、結果として、飲酒状態検知装置が高価となってしまう。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、低コストで、エタノール等の特定成分の濃度を測定できる気体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の気体分析装置は、気体中の特定成分がテラヘルツ波を吸収する吸収強度に基づき、特定成分の濃度を算出する。特定成分のテラヘルツ波領域の吸収は、他の領域と比べて幅広い周波数領域に分布しているため、気体分析装置は、周波数の分解能が高いテラヘルツ波の照射手段を備えなくてもよい。その結果、気体分析装置の製造コストを低減できる。また、本発明の気体分析装置では、特定成分を精度良く測定することができる。
【0007】
本発明の気体分析装置において、測定に使用するテラヘルツ波は、気体試料に含まれる特定成分の吸収強度が、バックグラウンド成分による吸収強度よりも大きい周波数領域であり、かつ、バックグラウンド成分の吸収スペクトル形状の平坦な周波数領域であることが好ましい。こうすることにより、バックグラウンド成分による影響を少なくし、精度良く特定成分の濃度を測定することができる。
【0008】
本発明の気体分析装置では、気体試料に含まれるバックグラウンド成分のテラヘルツ領域における吸収スペクトルを取得するバックグラウンド吸収スペクトル取得手段と、バックグラウンド成分の吸収スペクトルに基づき、計測部で用いるテラヘルツ波の周波数を設定する周波数設定手段とを備えることが好ましい。こうすることにより、計測時のバックグラウンド成分に応じ、その吸収の影響が少ない周波数を、計測評価で用いる周波数に適切に設定することができる。
【0009】
本発明の気体分析装置において、特定成分の濃度の算出に用いるテラヘルツ波の周波数における幅は、±3cm-1以下であることが好ましい。こうすることにより、S/N(特定成分の検出値とバックグラウンド成分の検出値との比率)が高くなり、特定成分の測定精度を一層向上させることができる。
【0010】
本発明の気体分析装置において、計測部は、複数の周波数での吸収強度を取得し、解析部は、複数の周波数からなる吸収強度のパターンに基づき、特定成分の種類を同定するものとすることができる。こうすることにより、特定気体の成分の濃度測定だけでなく、任意気体成分の種類の同定及び、濃度測定も行うことができる。これは、物質の種類によって、複数の周波数における吸収強度の大きさ及び、形状が特有であることに基づく。
【0011】
前記特定成分としては、テラヘルツの周波数領域においてブロードな吸収を有するものを広く用いることができる。例えば、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール)、水等が挙げられる。
【0012】
前記テラヘルツ波とは、0.1〜10THzの周波数を有する電磁波である。本発明で用いるテラヘルツ波は、1つの周波数領域であってもよいし、複数の周波数領域の組み合わせであってもよい。
【0013】
前記バックグラウンド成分とは、気体試料の成分のうち、測定対象となる特定成分以外の成分をいう。例えば、一般的な大気の成分(窒素、酸素、特定成分以外の微量成分(例えば水蒸気、炭酸ガス、アルゴン等))が該当する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】気体分析装置1の構成を表すブロック図である。
【図2】テラヘルツ波の電場波形を表すグラフである。
【図3】バックグラウンド大気を透過した透過光強度を表すグラフである。
【図4】テラヘルツ波の電場波形を表すグラフである。
【図5】気体試料を透過した透過光強度を表すグラフである。
【図6】バックグラウンド大気と気体試料について、各周波数成分での吸収強度を表すグラフである。
【図7】バックグラウンド大気で吸収されにくい周波数を表す説明図である。
【図8】エタノールについて、各周波数成分での吸収強度を表すグラフである。
【図9】気体試料S1、S2について、エタノール濃度(分圧)と、エタノールの吸収強度との関係を表すグラフである。
【図10】大気、エタノール、両者の混合気体(気体試料S1)の吸収強度を表すグラフである。
【図11】図10のグラフにおける一部の範囲の拡大図である。
【図12】吸収強度を積分するときの周波数の幅と、周波数の中心値とを様々に変えた場合におけるSN値の分布を表すグラフである。
【図13】気体分析装置101の構成を表すブロック図である。
【図14】テラヘルツの周波数領域における各物質の吸収強度を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を説明する。
1.第1の実施形態
(1)気体分析装置1の構成
気体分析装置1の構成を図1に基づいて説明する。
【0016】
気体分析装置1は、計測部3、制御−解析部5、データ計測部7、及びデータ記憶部9から構成される。
計測部3は、周知のTDS(タイムドメインスペクトロスコピー)方式の計測部である。計測部3は、周波数がテラヘルツ領域にあるテラヘルツ波を発生・検出するために用いるパルスレーザ11、テラヘルツ波を信号分割するためのビームスプリッタ(BS)13、THz-エミッター15、THz-ディテクター17、気体試料を保持するガスセル19、及び信号分割された一方の信号と時間遅延を生じさせるオプティカルディレイライン21を有する。
【0017】
パルスレーザ11から射出されたパルスのうち、ビームスプリッタ13で反射したものは、THz-エミッター15に入射し、THz波パルスを射出するために使う。このTHz波パルスはガスセル19を経て、THz-ディテクター17に至る。一方、パルスレーザ11から射出されたパルスのうち、ビームスプリッタ(BS)13を透過したものは、オプティカルディレイライン21を経て、THz-ディテクター17に至り、THz波パルスの時間波形を計測するために使う。
【0018】
制御−解析部5は、オプティカルディレイライン21を制御しながら、その制御信号に応じて、データ計測部7から計測データを受信する。また、制御−解析部5は、周知のCPUを搭載しており、後述する各処理を実行する。
【0019】
データ計測部7は、計測部3の近傍に設置され、制御−解析部5からの指示により、THz-ディテクター17から計測データを取得する。
データ記憶部9は、制御−解析部5と連携し、計測データを記憶する。また、データ記憶部9には、後述するデータベースが記憶されている。
(2)気体分析装置1が実行する処理
気体分析装置1が実行する処理を図2〜図8に基づいて説明する。
(i)エタノールを含まない大気(バックグラウンド成分のみから成る大気)のテラヘルツ波透過強度の計測
まず、ガスセル19に、バックグラウンド大気を充満させた状態で、オプティカルディレイライン21を動作させて遅延時間を変化させながら、透過光電場強度(THz-エミッター15を経て、ガスセル19を透過し、THz-ディテクター17に到達する電場の強度)を計測し、テラヘルツ波の電場波形を得る。このテラヘルツ波の電場波形を図2に示す。テラヘルツ波の電場波形は、計測データとして、データ記憶部9に記憶される。
【0020】
なお、ガスセル19へのバックグラウンド大気の導入は、図示しない導入装置により自動的に行ってもよいし、手動で行ってもよい。
次に、テラヘルツ波の電場波形をフーリエ変換することにより、各周波数成分ごとの、バックグラウンド大気を透過した電場強度(透過光強度)を求める。その結果を図3に示す。
(ii) エタノールを含む気体試料のテラヘルツ波透過強度の計測
まず、ガスセル19に、エタノール(特定成分)を含む気体試料を充満させた状態で、オプティカルディレイライン21を動作させて遅延時間を変化させながら、透過光電場強度(THz-エミッター15を経て、ガスセル19を透過し、THz-ディテクター17に到達する電場の強度)を計測し、テラヘルツ波の電場波形を得る。このテラヘルツ波の電場波形を図4に示す。テラヘルツ波の電場波形は、計測データとして、データ記憶部9に記憶される。
【0021】
なお、ガスセル19への気体試料の導入は、図示しない導入装置により自動的に行ってもよいし、手動で行ってもよい。
次に、テラヘルツ波電場波形をフーリエ変換することにより、各周波数成分ごとの、気体試料を透過した電場強度(透過光強度)を求める。その結果を図5に示す。
(iii) 各周波数成分での吸収強度の算出
バックグラウンド大気について、前記(i)で求めた各周波数成分の電場強度から、周知の方法で、各周波数成分での吸収強度を計算する。また、エタノールを含む気体試料について、前記(ii)で求めた各周波数成分の電場強度から、周知の方法で、各周波数成分での吸収強度を計算する。その結果を図6に示す。なお、この処理のうち、バックグラウンド大気について、各周波数成分での吸収強度を計算する処理は、バックグラウンド吸収スペクトル取得手段に対応する。
(iv)バックグラウンド大気による吸収強度が周囲の周波数に比べて相対的に小さい周波数の選択
前記(iii)で計算した、バックグラウンド大気における各周波数成分での吸収強度に基づき、バックグラウンド大気で吸収されにくい周波数を複数設定する。図6に示す例では、丸印をつけた周波数が、設定する周波数となる(図7参照)。なお、この処理は、周波数設定手段に対応する。
(v)バックグラウンド大気による影響の除外
前記(iii)で算出した、各周波数成分でのエタノールを含む気体試料の吸収強度において、前記(iv)で設定した周波数を中心値とし、幅が±3cm-1の周波数領域での吸収強度(上記の周波数領域での吸収強度の積分値であって、以下では、吸収強度αとする)を算出する。設定した周波数は複数あるので、吸収強度αは、各周波数ごとに算出する。
【0022】
また、前記(iii) で算出した、各周波数成分でのバックグラウンド大気の吸収強度において、前記(iv)で設定した周波数を中心値とし、幅が±3cm-1の周波数領域での吸収強度(上記の周波数領域での吸収強度の積分値であって、以下では、吸収強度βとする)を算出する。設定した周波数は複数あるので、吸収強度βは、それぞれの周波数ごとに算出する。
【0023】
そして、吸収強度αから吸収強度βを差し引き、これを吸収強度γとする。この吸収強度γは、設定した周波数における、エタノールのみによる吸収強度に該当する。図8に、吸収強度γ(丸印が付された部分の値)を示す。
(vi)エタノール濃度の算出
データ記憶部9には、各周波数におけるエタノールの吸収強度γと、試料中のエタノール濃度との対応関係を規定するデータベースが記憶されている。前記(iv)で設定した周波数における、前記(v)で算出したエタノールの吸収強度γに対応するエタノール濃度を、データベースから読み出し、エタノール濃度を算出する。
【0024】
なお、テラヘルツ帯での幅広い吸収構造形状(パターン)は物質固有である。このため、試料中にエタノール以外の気体(第2の特定成分)が混入している場合、複数の点の値(吸収強度)と物質の吸収構造形状を連立させることにより、混入している第2の特定成分の種類を同定するとともに、その濃度を計算により見積もることができる。
(3)気体分析装置1が奏する効果
気体分析装置1は、THz-エミッターが射出するテラヘルツの周波数領域にあって、バックグラウンド大気による吸収強度が相対的に小さい周波数を用いてエタノール濃度を算出する。
【0025】
エタノールの吸収スペクトルの周波数は、比較的、幅広く分布しているので、気体分析装置1の周波数分解能は高くなくてもよい。周波数分解能はオプティカルディレイライン21の移動幅で決まり、例えば、分解能4cm-1(120GHz)、0.5cm-1(15GHz)、0.1cm-1(3GHz)の場合に必要なオプティカルディレイライン21の移動幅は、それぞれ、約0.125cm、約1cm、約5cmである。気体分析装置1では、上記のように、テラヘルツ波の周波数分解能は低くてもよいから、オプティカルディレイライン21の移動幅を小さくできる。その結果、オプティカルディレイライン21、及び気体分析装置1を小型化できる。その結果、気体分析装置1の製造コストを低減できる。さらに、移動幅を小さくすることにより測定時間を短縮することができる。
(4)エタノール濃度の測定精度の確認
大気中に濃度既知のエタノールを混合した気体試料S1と、濃度既知のエタノールのみから成る気体試料S2を用意した。気体試料S1、S2は、エタノールの濃度を変えて、それぞれ複数用意した。
【0026】
この気体試料S1、S2について、前記(3)(i)〜(v)の方法で、エタノールの吸収強度αを求めた。図9に、気体試料S1、S2における既知のエタノール濃度(分圧)と、算出したエタノールの吸収強度αとの関係を示す。この図9から明らかなように、エタノールの吸収強度αは、エタノール濃度と非常に良く相関している。よって、本実施形態で求めたエタノールの吸収強度から、エタノールの濃度を精度良く算出できることが確認できた。
【0027】
なお、図10、図11に、大気、エタノール(気体試料S2)、両者の混合気体(気体試料S1)の吸収強度を示す。
(5)周波数の幅の検討
前記(2)(v)では、吸収強度を積分するときの周波数の幅を±3cm-1としたが、その値を様々に変え、また、測定に用いる周波数の中心値も様々に変えて、それぞれの場合におけるエタノールの吸収強度と、バックグラウンド大気の吸収強度とを算出した。そして、エタノールの吸収強度をバックグラウンド大気の吸収強度で除した値をSNとした。周波数の幅と、SNとの相関関係を図12に示す。この図12に示すように、周波数の幅が±3cm-1以下の場合に、SNが20程度以上となり得る。よって、周波数の幅は、±3cm-1以下が好ましいことが分かった。
【0028】
2.第2の実施形態
(1)気体分析装置101の構成
気体分析装置101の構成を図13に基づいて説明する。
【0029】
気体分析装置101は、運転者の呼気中のアルコール濃度を測定するための車載装置であって、計測部103、制御−解析部105、データ計測部107、及びデータ記憶部109、及び報知部111から構成される。
【0030】
計測部103は、単一周波数を持ったTHz帯発光レーザ(QCL(Quantum Cascade Laser))113を複数個有する。複数のQCL113は、互いに、射出するレーザの周波数が異なる。QCL113は車両の天井に設置される。複数のQCL113における周波数は、それぞれ、エタノールには吸収されるが、バックグラウンド大気による吸収強度が相対的に小さい周波数である。
【0031】
また、計測部103は、被測定空間(車室内の空間)115を挟んで、QCL113と対向する位置(車両のコンソールボックス部)に、レーザスペクトルを取得可能なTHzカメラ117を備える。なお、THzカメラ117の代わりにボロメータを備えていてもよい。
【0032】
制御−解析部105は、QCL113の発光動作を制御する。また、QCL113を制御するための制御信号に応じて、THzカメラ117の信号を取り込む命令をデータ計測部107に向け発信する。制御−解析部105は、車両のコンソール内に配置することができる。さらに、解析後のデータ(エタノール濃度)がある一定値以上の数値を示すと、報知信号を報知部111に渡す。その他、制御−解析部105は、後述する各処理を実行する。
【0033】
データ計測部107は、計測部103の近傍に設置され、THzカメラ117の信号を取り込む。また、データ計測部107は、THzカメラ117のデータをAD変換し、制御−解析部105へ渡す。また、データ計測部107とデータ記憶部109との間でデータを照合し、所望のデータを得る(詳しくは後述する)。
【0034】
データ記憶部109は、計測データを記憶する。計測データには、運転者がいない場合のデータと、運転者が存在する場合のデータとがある。なお、気体分析装置101は、図示しない乗員検知センサを備えており、運転者の存在の有無を判断できる。また、データ記憶部109には、後述するデータベースが予め記憶されている。
【0035】
報知部111は、制御−解析部105から報知信号を受信した場合、車両のオーディオスピーカ(図示略)から報知信号を発生させる。
(2)気体分析装置101が実行する処理
気体分析装置101が実行する処理を説明する。
(i)運転者の存在の判断
乗員検知センサ(図示略)により、運転者が存在するか否かを判断する。運転者が存在しない場合は、次の(ii)の処理を実行する。運転者が存在する場合は、後述する(iii)の処理を実行する。なお、乗員検知センサの検知結果は、乗員検知センサから、車載LANにより制御−解析部105に伝達することができる。この運転者の存在の有無の判断は、定期的に繰り返し実行する。
(ii) 運転者が存在しない場合の大気(バックグラウンド大気)のテラヘルツ波透過強度の計測
QCL113から射出され、被測定空間115を通過したテラヘルツ波をTHzカメラ117で検出する。その検出結果から、バックグラウンド大気におけるテラヘルツ波透過強度(以下、テラヘルツ波透過強度Aとする)を求める。上述したように、QCL113は複数存在し、互いに射出するテラヘルツ波の周波数が異なるから、テラヘルツ波透過強度Aは、複数の周波数について、それぞれ得られる。得られたテラヘルツ波透過強度Aは、データ記憶部109に記憶する。
(iii) 運転者が存在する場合の気体試料のテラヘルツ波透過強度の計測
QCL113から射出され、被測定空間115を通過したテラヘルツ波をTHzカメラ117で検出する。その検出結果から、運転者が存在する場合の気体試料のテラヘルツ波透過強度(以下、テラヘルツ波透過強度Bとする)を求める。上述したように、QCL113は複数存在し、互いに射出するテラヘルツ波の周波数が異なるから、テラヘルツ波透過強度Bは、複数の周波数について、それぞれ得られる。得られたテラヘルツ波透過強度Bは、データ記憶部109に記憶する。
(iv)エタノール濃度の算出
この処理は、前記(ii)のテラヘルツ波透過強度Aと、前記(iii)のテラヘルツ波透過強度Bとが得られたときに、実行される。
【0036】
それぞれの周波数ごとに、テラヘルツ波透過強度Bから、テラヘルツ波透過強度Aを差し引く。このことにより、バックグラウンドの影響を除外した、エタノールのみによるテラヘルツ波透過強度(以下、テラヘルツ波透過強度Cとする)が算出される。テラヘルツ波透過強度Cは、複数の周波数において、それぞれ算出される。得られたテラヘルツ波透過強度Cは、データ記憶部109に記憶する。
【0037】
データ記憶部109には、各周波数におけるテラヘルツ波透過強度Cと、QCL113の出力信号と、気体試料中のエタノール濃度との関係を規定するデータベースが記憶されている。このデータベースに基づき、上で算出したテラヘルツ波透過強度C及びQCL113の出力信号から、エタノール濃度を算出する。
(v)報知処理
上記(iv)で検出したエタノール濃度が、所定の基準値より高い場合、制御−解析部105は、報知信号を報知部111に渡す。報知部111は、報知信号に応じて、報知を行う。
(3)気体分析装置101が奏する効果
気体分析装置101は、テラヘルツの周波数領域にあって、バックグラウンド大気による吸収強度が相対的に小さい周波数を用いてエタノール濃度を算出する。
【0038】
その周波数は、比較的、幅広く分布しているので、テラヘルツ波を照射する手段(QCL113)の周波数分解能は高くなくてもよい。その結果、気体分析装置101の製造コストを低減できる。
【0039】
尚、本発明は前記実施の形態になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、濃度を測定する対象となる特定成分は、エタノールに限定されず、テラヘルツの周波数領域においてブロードな吸収を有する物質を、広く対象とすることができる。そのような物質としては、例えば、他のアルコール(例えば、メタノール、プロパノール)、水等が挙げられる。図14に、テラヘルツの周波数領域における、メタノール、エタノール、プロパノール、水の吸収特性を示す。メタノール、プロパノール、水は、メタノールと同様に、テラヘルツの周波数領域においてブロードな吸収を有するため、エタノールの場合と同様に、本発明によって濃度を測定することができる。
【0040】
また、前記第1の実施形態において、気体分析装置1は、バックグラウンド大気の吸収強度βをその都度測定せず、予め記憶しておくようにしてもよい。
また、前記第2の実施形態において、気体分析装置101は、テラヘルツ波透過強度Aをその都度測定せず、予め記憶しておくようにしてもよい。
【0041】
また、前記第1の実施形態において、データ記憶部9に、複数の吸収強度αに対応するエタノール濃度をそれぞれ規定したテーブルを記憶しておき、算出した吸収強度αと、そのテーブルとから、補完計算により、エタノール濃度を算出するようにしてもよい。
【0042】
また、前記第2の実施形態において、データ記憶部109に、複数のテラヘルツ波透過強度Bに対応するエタノール濃度をそれぞれ規定したテーブルを記憶しておき、算出したテラヘルツ波透過強度Bと、そのテーブルとから、補完計算により、エタノール濃度を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1、101・・・気体分析装置、3、103・・・計測部、
5、105・・・制御−解析部、7、107・・・データ計測部、
9、109・・・データ記憶部、11・・・パルスレーザ、
13・・・ビームスプリッタ、15・・・THz−エミッター、
17・・・THz−ディテクター、19・・・ガスセル、
21・・・オプティカルディレイライン、111・・・報知部、
113・・・QCL、115・・・被測定空間、117・・・THzカメラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定成分を含む気体試料にテラヘルツ波を照射して、前記気体試料による吸収強度を取得する計測部と、
前記吸収強度に基づいて前記特定成分の濃度を算出する解析部と、
を備えることを特徴とする気体分析装置。
【請求項2】
前記テラヘルツ波は、前記気体試料に含まれる前記特定成分の吸収強度が、前記気体試料に含まれるバックグラウンド成分による吸収強度よりも大きい周波数領域であり、かつ、バックグラウンド成分の吸収スペクトル形状の平坦な周波数領域であることを特徴とする請求項1に記載の気体分析装置。
【請求項3】
前記気体試料に含まれるバックグラウンド成分のテラヘルツ領域における吸収スペクトルを取得するバックグラウンド吸収スペクトル取得手段と、
前記バックグラウンドの吸収スペクトルに基づき、前記計測部で用いるテラヘルツ波の周波数を設定する周波数設定手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の気体分析装置。
【請求項4】
前記特定成分の濃度の算出に用いるテラヘルツ波の周波数における幅は、±3cm-1以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の気体分析装置。
【請求項5】
前記計測部は、複数の周波数においてそれぞれ吸収強度を取得し、
前記解析部は、前記複数の周波数における吸収強度のパターンに基づき、前記特定成分の種類を同定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体分析装置。
【請求項6】
前記特定成分がアルコールであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体分析装置。
【請求項1】
特定成分を含む気体試料にテラヘルツ波を照射して、前記気体試料による吸収強度を取得する計測部と、
前記吸収強度に基づいて前記特定成分の濃度を算出する解析部と、
を備えることを特徴とする気体分析装置。
【請求項2】
前記テラヘルツ波は、前記気体試料に含まれる前記特定成分の吸収強度が、前記気体試料に含まれるバックグラウンド成分による吸収強度よりも大きい周波数領域であり、かつ、バックグラウンド成分の吸収スペクトル形状の平坦な周波数領域であることを特徴とする請求項1に記載の気体分析装置。
【請求項3】
前記気体試料に含まれるバックグラウンド成分のテラヘルツ領域における吸収スペクトルを取得するバックグラウンド吸収スペクトル取得手段と、
前記バックグラウンドの吸収スペクトルに基づき、前記計測部で用いるテラヘルツ波の周波数を設定する周波数設定手段と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の気体分析装置。
【請求項4】
前記特定成分の濃度の算出に用いるテラヘルツ波の周波数における幅は、±3cm-1以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の気体分析装置。
【請求項5】
前記計測部は、複数の周波数においてそれぞれ吸収強度を取得し、
前記解析部は、前記複数の周波数における吸収強度のパターンに基づき、前記特定成分の種類を同定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体分析装置。
【請求項6】
前記特定成分がアルコールであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【公開番号】特開2012−52910(P2012−52910A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195725(P2010−195725)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
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