説明

気体成分採取装置及び気体成分採取方法

【課題】複数種類の気体成分を同時に採取できる気体成分採取装置及び気体成分採取方法を提供することを目的とする。
【解決手段】特定波長の光を受けると励起されて超親水化される光触媒を含み軸方向に延びる帯状の光触媒薄膜層が、少なくとも一対、互いに平面方向に間隔をおいて内面に被膜され、前記特定波長の光を透過する材質で形成された筒状部材と、試料気体中に含まれる分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液を前記光触媒薄膜層の一方に供給する酸性成分吸収液供給手段と、前記試料気体中に含まれる分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液を前記光触媒薄膜層の他方に供給する塩基性成分吸収液供給手段とを備えていることを特徴とする気体成分採取装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の微量ガスや微量揮発性物質など気体成分を分析するために用いる気体成分を採取する気体成分採取装置及び気体成分採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への関心が高まり、様々な科学的な測定が行われており、その一つとして、大気中の成分分析などが挙げられる。大気中の成分分析を行うためには、先ず、大気中の気体成分を採取しなければならず、その気体成分を採取する気体成分採取装置としては、デニューダ管を用いたものがある(特許文献1参照)。
【0003】
デニューダ管を用いた気体成分採取装置は、特定波長の光を受けると光励起されて超親水化される光触媒を含む光触媒薄膜層が内面に被膜され、前記特定波長の光を透過する材質で形成されたデニューダ管と、測定対象である試料気体をデニューダ管内に供給する試料気体供給手段と、試料気体中に含まれる気体成分を吸収するための気体成分吸収液を光触媒薄膜層の表面に供給する気体成分吸収液供給手段と、前記特定波長の光を照射する光照射手段と、を備えており、気体成分が吸収された吸収液を洗浄水によって光触媒薄膜層から洗い流すことによって気体成分を採取するよう構成されている。
【特許文献1】特許第3087729号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のデニューダ管を用いた気体成分採取装置において、気体成分吸収液は、NHなどの分析塩基性成分の吸収用のものとHNOやHClなど分析酸性成分の吸収用のものは、異なり、分析塩基性成分の吸収用のデニューダ管と分析酸性成分の吸収用のデニューダ管それぞれが用意されており、分析塩基性成分と分析酸性成分を同時に採取することができないという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、分析塩基性成分と分析酸性成分を同時に採取できる気体成分採取装置及び気体成分採取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定波長の光を受けると励起されて超親水化される光触媒を含み軸方向に延びる帯状の光触媒薄膜層が少なくとも一対、互いに平面方向に間隔をおいて筒状部材の内面に被膜させることによって、分析塩基性成分と分析酸性成分を同時に採取できることを見出した。すなわち、本発明は、特定波長の光を受けると励起されて超親水化される光触媒を含み軸方向に延びる帯状の光触媒薄膜層が、少なくとも一対、互いに平面方向に間隔をおいて内面に被膜され、前記特定波長の光を透過する材質で形成された筒状部材と、試料気体中に含まれる分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液を前記光触媒薄膜層の一方に供給する酸性成分吸収液供給手段と、前記試料気体中に含まれる分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液を前記光触媒薄膜層の他方に供給する塩基性成分吸収液供給手段とを備えていることを特徴とする気体成分採取装置である。本発明に係る気体成分採取装置において、平面方向とは、筒状部材の軸方向に垂直に交わる面と平行な方向をいう。
【0007】
本発明に係る気体成分採取装置において、前記筒状部材は、対向する内面を少なくとも一対有する角筒状であり、前記対向する一対の内面それぞれに光触媒薄膜層が被膜されていることが好ましく、また、前記筒状部材の内面に対向する板部材を少なくとも1つ設け、該板部材の表裏面及びそれに対向する筒状部材の内面それぞれに光触媒薄膜層が被膜され、対向する光触媒薄膜層の一方に前記酸性成分吸収液が供給され、他方に前記塩基性成分吸収液が供給されるよう構成されていることが好ましい。さらに、前記筒状部材は、着脱自在に構成されていることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る気体成分採取装置は、前記特定波長の光を照射する光照射手段をさらに備えていることが好ましく、また、測定対象である試料気体を前記筒状部材内に供給する試料気体供給手段をさらに備えていることが好ましく、さらに前記光触媒薄膜層の表面に、洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記分析酸性成分又は前記分析塩基性成分を吸収した酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液を収集する吸収液収集手段とをさらに備えていることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、特定波長の光を受けると励起されて超親水化される光触媒を含み軸方向に延びる帯状の光触媒薄膜層が、少なくとも一対、互いに平面方向に間隔をおいて内面に被膜され、前記特定波長の光を透過する材質で形成された筒状部材の前記少なくとも一対の光触媒薄膜層の一方に試料気体中に含まれる分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液を供給し、他方に分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液を供給する吸収液供給工程と、前記光触媒薄膜層に光を照射して光触媒を励起させて、供給された酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液それぞれを光触媒膜層上に拡散させる吸収液拡散工程と、測定対象である前記試料気体を前記筒状部材内に供給し、前記試料気体に含まれる分析酸性成分及び分析塩基性成分を前記酸性成分吸収液及び前記塩基性成分吸収液それぞれに吸収させて採取する採取工程と、を備えていることを特徴とする気体成分採取方法である。本発明に係る気体成分採取方法は、前記採取工程後、前記光触媒薄膜層の表面に、洗浄液を供給する洗浄液供給工程と、前記光触媒薄膜層に光を照射して光触媒を励起させて前記洗浄液を前記光触媒膜層上に拡散させ、前記光触媒薄膜層に拡散されている前記酸性成分吸収液及び前記塩基性成分吸収液を前記光触媒薄膜層から排出させて収集する収集工程とを備えていることが好ましい。さらに、本発明は、本発明に係る気体成分採取装置の筒状部材の前記光触媒薄膜層に光を照射して光触媒を励起させて、供給された酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液それぞれを光触媒膜層上に拡散させる吸収液拡散工程と、測定対象である前記試料気体を前記筒状部材内に供給し、前記試料気体に含まれる分析酸性成分及び分析塩基性成分を前記酸性成分吸収液及び前記塩基性成分吸収液それぞれに吸収させて採取する採取工程と、を備えていることを特徴とする気体成分採取方法である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、分析塩基性成分と分析酸性成分を同時に採取できる気体成分採取装置及び気体成分採取方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係る気体成分採取装置の第1実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、第1実施形態に係る気体成分採取装置の概念斜視図、図2は、図1のI−I’線に沿った断面図である。
【0012】
気体成分採取装置10は、断面矩形状に形成されたデニューダ管12と、HNOやHClなど分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液が収容された酸性成分吸収液容器14と、NHなど分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液が収容された塩基性成分吸収液容器16と、試料気体をデニューダ管12の下方からデニューダ管12内に供給する試料気体供給部18と、光触媒を励起させるための光照射部20と、洗浄液が貯留された洗浄液容器22と、気体成分が吸収された酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液それぞれが収集される吸収液収集部24と、気体成分装置10の動作を制御する制御部26と、を備えている。
【0013】
デニューダ管12は、光触媒を励起させるための波長200〜700nmの光が透過する材質、例えば、石英やガラスなどによって形成されている。デニューダ管12の筒内部には、矩形の長辺を二分する位置に、板部材28が、矩形の短辺を形成しているデニューダ管12の側壁12A、12Bと平行となるように配置されており、この板部材28は、デニューダ管12と同一の素材によって形成されている。
【0014】
両側壁12A、12Bの内面、及び板部材28の表面、裏面には、特定波長の光を受けると光励起されて超親水化される光触媒を含む光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dが被膜されている。光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dは、いずれもデニューダ管12の軸方向、すなわちデニューダ管12の上面及び底面の垂直方向に延びる帯状に形成されている。これら光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dは、このように形成し配置することにより、対向する各光触媒薄膜層がデニューダ管12の平面方向、すなわち筒状部材の軸方向と垂直に交わる面と平行な方向において、接することなく間隔をおいて配置することができる。光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dに含まれている光触媒としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズを挙げることができ、これらの中では、酸化チタンが好ましく、アナターゼ型酸化チタンがさらに好ましい。光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dは、単一の光触媒を用いた単一膜としても、複数の光触媒を用いた複合膜としてもよい。
【0015】
試料気体供給部18は、デニューダ管12の上方にポンプ11を備えており、このポンプ11の上方からの吸引によって、試料気体31(図1及び3参照)をデニューダ管12の下方から筒内部に供給することができる。
【0016】
酸性成分吸収液容器14及び塩基性成分吸収液容器16は、それぞれ二つずつ対となって設けられており、酸性成分吸収液容器14には、HNOやHClなどの分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液が、塩基性成分吸収液容器16には、NHなどの分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液が貯留されている。また、洗浄容器22には、洗浄液が貯留されている。酸性成分吸収液としては、例えば、炭酸ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられ、塩基性成分吸収液としては、例えば、クエン酸が挙げられ、洗浄液としては、例えば、純水が挙げられる。
【0017】
光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dそれぞれに対応させて、三方弁41A、41B、41C、41Dが設けられており、これら三方弁41A、41B、41C、41Dは、酸性成分吸収液容器14又は塩基性成分吸収容器16、洗浄液容器22、及び光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dにそれぞれの供給チューブ15、17、23、40を介して接続されている。すなわち、酸性成分吸収液容器14、14は、酸性成分吸収液供給チューブ15を介して、三方弁41A、41Dに接続され、塩基性成分吸収液容器16、16は、塩基性成分吸収液供給チューブ17を介して、三方弁41B、41Cに接続されている。また、洗浄液容器22は、途中で4つに分岐された洗浄液供給チューブ23を介して、三方弁41A、41B、41C、41Dに接続されている。さらには、酸性成分吸収液若しくは塩基性成分吸収液、又は洗浄液は、三方弁41A、41B、41C、41Dを切り替えることにより、共通供給チューブ40に供給可能であり、共通供給チューブ40それぞれが光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dの上端近傍の表面に接続されている。
【0018】
酸性成分吸収液供給チューブ15、塩基性成分吸収液供給チューブ17及び洗浄液供給チューブ23それぞれには、ベリスタルティックポンプなどのポンプ13、19、21が設けられ、これらポンプ13、19、21によって、それぞれ必要量の酸性成分吸収液、塩基性成分吸収液、及び洗浄液を三方弁41A、41B、41C、41D及び共通供給チューブ40を介して光触媒薄膜層30A、30B、30C、30Dの上端近傍の表面に供給することができる。
【0019】
光触媒を励起させるための光照射部20は、円筒形のランプであり、光触媒を励起させるための波長200〜700nmの光が照射できるように構成されている。ランプは、円筒形のランプの長軸がデニューダ管12の軸と平行となるように側壁12A及び12Bの外側に配置され、すべての光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dに光が照射可能となっている。
【0020】
吸収液収集部24は、分析酸性成分が吸収された酸性成分吸収液が収容される酸性成分収集容器24A及び分析塩基性成分が吸収された塩基性成分吸収液が収容される塩基性成分収集容器24Bを備えている。酸性成分収集容器24Aは、収集チューブ24Cを介して光触媒薄膜層30A及び30Dに接続され、塩基性成分収集容器24Bは、収集チューブ24Cを介して光触媒薄膜層30B及び30Cに接続され、これら収集チューブ24Cには、バルブ45が設けられている。収集チューブ24Cの基端は、それぞれ光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dの下端近傍に接続され、分析酸性成分が吸収された酸性成分吸収液及び分析塩基性成分が吸収された塩基性成分吸収液は、収集チューブ24Cを通ってそれぞれ酸性成分収集容器24A及び塩基性成分収集容器24Bに収集される。
【0021】
制御部26は、ポンプ11、13、19及び21、三方弁41A、41B、41C、41D、バルブ45それぞれに接続され、以下のようにこれらを制御することによって、気体成分の採取を行うことができる。
【0022】
次に、第1実施形態の気体成分採取装置10を用いた気体成分採取方法を説明する。図3は、気体成分を採取している状態を示す模式図、図4は、光触媒薄膜層上の酸性成分吸収液の拡散状態を示す模式図、図5は、光触媒薄膜層上の洗浄液の拡散と酸性成分吸収液を排出する状態を示す模式図、図6は、光触媒薄膜層上の酸性成分吸収液の再拡散の状態を示す模式図、図7は、第1実施形態に係る気体成分採取方法のフローチャートである。
【0023】
第1実施形態の気体成分採取装置10を用いた気体成分採取方法は、酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38を供給する吸収液供給工程と、酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38を拡散する吸収液拡散工程と、分析酸性成分32又は分析塩基性成分36を酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38に吸収させる採取工程と、洗浄液44を供給する洗浄液供給工程と、洗浄液44を拡散させ、酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38を収集する収集工程とからなる(図3等参照)。気体の採取開始前の第1実施形態の気体成分採取装置10は、三方弁41A、41B、41C、及び41Dを「閉」、バルブ45を「閉」、及びランプを「オフ」としている。
【0024】
吸収液供給工程において、制御部26は、三方弁41A、41B、41C、又は41Dを酸性成分吸収液チューブ15及び塩基性成分吸収液チューブ17と連通状態とした後に、ポンプ13及び19を稼働し、酸性成分吸収液容器14及び塩基性成分吸収液容器16から酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38を酸性成分吸収液チューブ15及び塩基性成分吸収液チューブ17、三方弁41A、41B、41C、又は41D、並びに共通供給チューブ40を介して、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dの上端近傍の表面に供給する。供給された酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38は、表面張力により図4(a)に示されるように滴状になる。酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38が必要量供給された後、制御部26は、三方弁41A、41B、41C、又は41Dを「閉」の状態に戻す。
【0025】
吸収液拡散工程において、制御部26は、先ずランプを「オン」にして、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dに光を照射する。光が照射されると、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dは、励起され、滴状の酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38は、図4(b)に示されるように拡散し、図4(c)に示されるように酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38の薄膜層である酸性成分吸収液層及び塩基性成分吸収液層がそれぞれ光触媒薄膜層上に形成される。このように光触媒の超親水作用を利用して酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38を拡散することにより、酸性成分吸収液層及び塩基性成分吸収液層を均一に形成することができ、さらに酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38が飛散して混ざり合い、中和反応等の化学反応を生じさせることもない。酸性成分吸収液層及び塩基性成分吸収液層を形成するのに十分な時間経過後、制御部26は、ランプを「オフ」にする。
【0026】
採取工程において、制御部26は、デニューダ管12の上に備えられた試料気体供給部18のポンプ11を稼働することによって、デニューダ管12の下方から試料気体31をデニューダ管12内を通して上方に向かって通気する。図3に示されるように、試料気体31には分析酸性成分32及び分析塩基性成分36の他に、エアロゾル42も含まれている。エアロゾル42は、ある程度の質量を有するので慣性力が働き、対向する側壁12A又は12Bと板部材28との間を通気方向に通過する。一方、分析酸性成分32及び分析塩基性成分36は、質量が軽いので対向する側壁12A又は12Bと板部材28との間に全体的に広がる。広がった分析酸性成分32は、酸性成分吸収液34に吸収され、分析塩基性成分36は、塩基性成分吸収液38に吸収される。これにより、分析酸性成分32と分析塩基性成分36とを同時に採取する。
【0027】
洗浄液供給工程において、制御部26は、三方弁41A、41B、41C、又は41Dを洗浄液供給チューブ23と連通状態とした後に、ポンプ21を稼働して洗浄液44を洗浄液容器22から洗浄液供給チューブ23に送る。送られた洗浄液44は、共通供給チューブ40に導かれ、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dの上端近傍に供給される。供給された洗浄液44は、図5(a)に示されるように表面張力により滴状になる。洗浄液44が必要量供給された後、制御部26は、三方弁41A、41B、41C、又は41Dを「閉」の状態に戻す。
【0028】
収集工程において、制御部26は、ランプを「オン」、バルブ45を「開」にして、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dに光を照射する。光が照射されると、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dは励起され、滴状の洗浄液44は、図5(b)に示されるように、酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38を押し出すように拡散し、図5(c)に示されるように薄膜を形成する。このように光触媒の超親水作用を利用することにより、側壁12A及び12B並びに板部材28の表裏面にエアロゾル42等が付着しても、洗浄液44によって洗い流される。押し出された酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38は、側壁12A、12B又は板部材28の下から排出される。排出された酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38は、収集チューブ24Cを通って酸性成分収集容器24A及び塩基性成分収集容器24Bに収集される。収集を終了するのに十分な時間経過後、制御部26は、ランプを「オフ」、バルブ45を「閉」の状態に戻す。
【0029】
酸性成分収集容器24A及び塩基性成分収集容器24Bに収集された酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38は、図示されていない液体クロマトグラフィーなどの分析装置により成分分析がされる。酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38には、同一の試料気体から同時に分析酸性成分32及び分析塩基性成分36を採取しているので、成分分析を一度に行うことができ、そのため誤差も小さく、簡便である。
【0030】
連続で気体成分を採取する場合は、図7に示されるように、収集工程後、吸収液供給工程に戻り、同様の工程を繰り返せばよい。すなわち、まず、酸性成分吸収液34又は塩基性成分吸収液38を光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dの上端近傍に供給する。供給された酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38は、図6(a)に示されるように表面張力により滴状になる。次に、吸収液拡散工程において、光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dに光を照射する。光が照射された光触媒薄膜層30A、30B、30C、及び30Dは励起され、滴状の酸性成分吸収液34及び塩基性成分吸収液38が図6(b)に示されるように、洗浄液44を押し出すように拡散し、図6(c)に示されるように酸性成分吸収液層及び塩基性成分吸収液層を形成する。次に、採取工程において、再度気体成分を採取する。その後、収集工程において、酸性成分収集容器24A及び塩基性成分収集容器24Bに気体成分を収集する。酸性成分収集容器24A及び塩基性成分収集容器24Bは、これらの工程が繰り返されるごとに新しい容器と交換するのが好ましい。交換は、制御部26により自動的に制御することができる。
【0031】
第1実施形態に係る気体成分採取装置10において、デニューダ管12は、着脱可能に構成しても良く、その場合、吸収液拡散工程において、酸性成分吸収液層及び塩基性成分吸収液層を形成した後に、デニューダ管12を取り出し、自然風等によって採取工程を行った後に、デニューダ管12を戻して、洗浄液供給工程以降の工程を行う。
【0032】
また、第1実施形態に係る気体成分採取装置10においては、酸性成分吸収液容器14及び塩基性成分吸収液容器16をそれぞれ2つ用いたが、それぞれ1つにし、酸性成分吸収液供給チューブ15及び塩基性成分吸収液供給チューブ17を分岐させて側壁12A及び12B並びに板部材28に供給してもよい。酸性成分収集容器24A及び塩基性成分収集容器24Bもそれぞれ2つ用いたが、それぞれ1つとし、まとめて収集してもよい。
【0033】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る気体成分採取装置の第2実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図8は、第2実施形態に係る気体成分採取装置に用いられるデニューダ管の概念斜視図である。
【0034】
第2実施形態に係る気体成分採取装置には、図8に示される矩形筒状のデニューダ管52が用いられる。デニューダ管52の筒内部には、矩形の長辺を三分する位置に、板部材54及び56が、矩形の短辺を形成しているデニューダ管52の側壁52A、52Bと平行となるように配置されている。
【0035】
両側壁52A、52Bの内面、及び板部材54、56の表裏面には、特定波長の光を受けると光励起されて超親水化される光触媒を含む光触媒薄膜層60A、60B、60C、60D、60E、60Fが被膜されている。光触媒薄膜層60A、60B、60C、60D、60E、60Fは、いずれもデニューダ管52の軸方向、すなわちデニューダ管52の上面及び底面の垂直方向に延びる帯状に形成されている。デニューダ管52以外は、第1実施形態に係る気体成分採取装置と同様に構成できるが、その場合は、光触媒膜層の数が第1実施形態に係る気体成分採取装置よりも多いので、それに対応させて供給チューブ等が設置される。
【0036】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る気体成分採取装置10の第3実施形態について図面に基づいて説明する。図9は、第3実施形態に係る気体成分採取装置の概念図である。第3実施形態に係る気体成分採取装置10は、図に示すようにデニューダ管12の下方に試料気体供給管70が接続され、その試料気体供給管70の基端には、サイクロンなどの粒子分級器71が接続されており、供給される試料気体は、粒子分級器71及び試料気体供給管70を介してデニューダ管12に供給されるよう構成されている。また、デニューダ管12の上方には、粒子捕集用フィルター72が設けられ、その上方にはポンプ11に接続された試料気体排出管73が接続され、デニューダ管12から粒子捕集用フィルター72及び試料気体排出管73を介して試料気体が排出されるよう構成されている。第3実施形態において、試料気体供給管70及び試料気体排出管73には、それぞれ三方弁74及び75が設けられており、図9に示すようにこれら三方弁74及び75は、連結管76によって連通している。制御部26は、これら三方弁74及び75に接続され、制御するよう構成されている。デニューダ管12には、板部材が配置されていないため、それに対応して酸性成分吸収液容器14及び塩基性成分吸収液容器16はそれぞれ1つしかない等以外は第1実施形態に係る気体成分採取装置と同様に構成されている。
【0037】
第3実施形態に係る気体成分採取装置10において、ポンプ11を常時稼働しておき、試料気体が連通管76を通るように、三方弁74及び75を開いておく。そして、採取工程において、試料気体がデニューダ管12を通るように、三方弁74及び75を切替える。この際、試料気体は、先ず粒子分級器71を通るので、大きな粒子(エアロゾル)が取り除かれた状態でデニューダ管12に供給され、さら粒子捕集用フィルター72によって粒子分級器71によって取り除かれない大きさの粉塵などが捕集される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1実施形態に係る気体成分採取装置の概念斜視図である。
【図2】図1のI−I’断面図である。
【図3】気体成分を採取している状態を示す模式図である。
【図4】光触媒薄膜層上の酸性成分吸収液の拡散状態を示す模式図である。
【図5】光触媒薄膜層上の洗浄液の拡散と酸性成分吸収液を排出する状態を示す模式図である。
【図6】光触媒薄膜層上の酸性成分吸収液の再拡散の状態を示す模式図である。
【図7】第1実施形態に係る気体成分採取方法のフローチャートである。
【図8】第2実施形態に係る気体成分採取装置に用いられるデニューダ管の概念斜視図である。
【図9】図9は、第3実施形態に係る気体成分採取装置の概念図である。
【符号の説明】
【0039】
10・・・気体成分採取装置
12・・・デニューダ管
14・・・酸性成分吸収液容器
16・・・塩基性成分吸収液容器
18・・・試料気体供給部
20・・・光照射部
22・・・洗浄液容器
24・・・吸収液収集部
26・・・制御部
28・・・板部材
30A、30B、30C、30D・・・光触媒薄膜層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定波長の光を受けると励起されて超親水化される光触媒を含み軸方向に延びる帯状の光触媒薄膜層が、少なくとも一対、互いに平面方向に間隔をおいて内面に被膜され、前記特定波長の光を透過する材質で形成された筒状部材と、
試料気体中に含まれる分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液を前記光触媒薄膜層の一方に供給する酸性成分吸収液供給手段と、
前記試料気体中に含まれる分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液を前記光触媒薄膜層の他方に供給する塩基性成分吸収液供給手段と、
を備えていることを特徴とする気体成分採取装置。
【請求項2】
前記筒状部材は、対向する内面を少なくとも一対有する角筒状であり、前記対向する一対の内面それぞれに光触媒薄膜層が被膜されていること特徴とする請求項1記載の気体成分採取装置。
【請求項3】
前記筒状部材の内面に対向する板部材を少なくとも1つ設け、該板部材の表裏面及びそれに対向する筒状部材の内面それぞれに光触媒薄膜層が被膜され、対向する光触媒薄膜層の一方に前記酸性成分吸収液が供給され、他方に前記塩基性成分吸収液が供給されるよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の気体成分採取装置。
【請求項4】
前記特定波長の光を照射する光照射手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の気体成分採取装置。
【請求項5】
前記筒状部材が着脱自在に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の気体成分採取装置。
【請求項6】
測定対象である試料気体を前記筒状部材内に供給する試料気体供給手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の気体成分採取装置。
【請求項7】
前記光触媒薄膜層の表面に、洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、
前記分析酸性成分又は前記分析塩基性成分を吸収した酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液を収集する吸収液収集手段と
をさらに備えたことを特徴とする請求項6記載の気体成分採取装置。
【請求項8】
特定波長の光を受けると励起されて超親水化される光触媒を含み軸方向に延びる帯状の光触媒薄膜層が、少なくとも一対、互いに平面方向に間隔をおいて内面に被膜され、前記特定波長の光を透過する材質で形成された筒状部材の前記少なくとも一対の光触媒薄膜層の一方に試料気体中に含まれる分析酸性成分を吸収可能な酸性成分吸収液を供給し、他方に分析塩基性成分を吸収可能な塩基性成分吸収液を供給する吸収液供給工程と、
前記光触媒薄膜層に光を照射して光触媒を励起させて、供給された酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液それぞれを光触媒膜層上に拡散させる吸収液拡散工程と、
測定対象である前記試料気体を前記筒状部材内に供給し、前記試料気体に含まれる分析酸性成分及び分析塩基性成分を前記酸性成分吸収液及び前記塩基性成分吸収液それぞれに吸収させて採取する採取工程と、
を備えていることを特徴とする気体成分採取方法。
【請求項9】
前記採取工程後、前記光触媒薄膜層の表面に、洗浄液を供給する洗浄液供給工程と、
前記光触媒薄膜層に光を照射して光触媒を励起させて前記洗浄液を前記光触媒膜層上に拡散させ、前記光触媒薄膜層に拡散されている前記酸性成分吸収液及び前記塩基性成分吸収液を前記光触媒薄膜層から排出させて収集する収集工程と
を備えていることを特徴とする請求項8記載の気体成分採取方法。
【請求項10】
請求項6記載の気体成分採取装置の筒状部材の前記光触媒薄膜層に光を照射して光触媒を励起させて、供給された酸性成分吸収液及び塩基性成分吸収液それぞれを光触媒膜層上に拡散させる吸収液拡散工程と、
測定対象である前記試料気体を前記筒状部材内に供給し、前記試料気体に含まれる分析酸性成分及び分析塩基性成分を前記酸性成分吸収液及び前記塩基性成分吸収液それぞれに吸収させて採取する採取工程と、
を備えていることを特徴とする気体成分採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−222563(P2009−222563A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67555(P2008−67555)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】