説明

気体水素発生装置及び燃料電池

【課題】気体水素の発生の際における侵入熱を低減し、かつ必要なときに気体水素の取出しが可能な水素発生装置を提供する。
【解決手段】水素発生装置10Aは、内部に液体水素12を貯留する断熱真空槽11と、前記液体水素12内に浸漬された誘電体14と、前記誘電体14に対してマイクロ波を発生し、マイクロ波と誘電体14との相互作用によって、液体水素12を気化させて気体水素15を得るマイクロ波送・受信器13とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体水素から効率よく気体水素を得ることができる気体水素発生装置及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の出力増加にともなって、燃料である水素を液体水素タンクから取り出す量も増加している。特に、液体水素を用い、必要に応じて気化させて、気体水素を燃料とした移動体駆動用の燃料電池が提案されている。
【0003】
図6に従来の気体水素を得る気体水素発生装置の一例を示す。
図6に示すように、断熱真空槽101内の液体水素102をガス化するガス化用ヒータ110が、液体水素102内に浸漬されており、前記液体水素102に直接接触させ、液体水素102を加熱して、気体水素105を燃料電池120に送り込む方式が適用されている。
【0004】
また、光エネルギーを用いた光ヒータで液化ガスをガス化する方法が採用されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平08−178187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれのヒータ加熱方式では、液体水素102を蒸発させる量が増えると、ガス化用ヒータ110のサイズが大きくなるが、その結果、気体水素105を取り出す必要のないときに、前記ガス化用ヒータ110から液体水素102への侵入熱111が増加し、蒸発量が増え、この結果効率的な気体水素105の取出しができない、という課題があった。
【0007】
よって、気体水素の発生の際における侵入熱を低減し、かつ必要なときに気体水素の取出しが可能な水素発生装置の出現が切望されている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、気体水素の際における侵入熱を低減し、かつ必要なときに気体水素の取出しが可能な水素発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、内部に液体水素を貯留する断熱真空槽と、前記液体水素内に浸漬された誘電体と、前記誘電体に対してマイクロ波を発生して、液体水素を気化させて気体水素を得るマイクロ波送・受信器とを具備することを特徴とする気体水素発生装置にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記誘電体の材料が、誘電損失が液体水素と比較して大きいものであることを特徴とする気体水素発生装置にある。
【0011】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記誘電体の形状の接液面積が大きいものであることを特徴とする気体水素発生装置にある。
【0012】
第4の発明は、第1乃至第3のいずれか一つの発明において、前記マイクロ波発生器の送信部にホーンアンテナを有することを特徴とする気体水素発生装置にある。
【0013】
第5の発明は、第1乃至第4のいずれか一つの発明において、内部の圧力を監視する圧力モニタ計を有することを特徴とする気体水素発生装置にある。
【0014】
第6の発明は、第1乃至第5のいずれか一つの発明において、液体水素内の温度分布を監視する温度計を複数有することを特徴とする気体水素発生装置にある。
【0015】
第7の発明は、第1乃至6のいずれか一つの気体水素発生装置を備えたことを特徴とする燃料電池にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、気体水素の発生の際に、マイクロ加熱によって浸漬された誘電体を加熱することで、液体水素に非接触で加熱することができ、ガス化の必要のないときは液体水素に直接加熱用構造体である誘電体からの侵入熱はないものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0018】
本発明による実施例に係る水素発生装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例1に係る水素発生装置図である。
図1に示すように、実施例1に係る水素発生装置10Aは、内部に液体水素12を貯留する断熱真空槽11と、前記液体水素12内に浸漬された誘電体14と、前記誘電体14に対してマイクロ波を発生し、マイクロ波と誘電体との相互作用によって、液体水素12を気化させて気体水素15を得るマイクロ波送・受信器13とを具備するものである。図1中、前記マイクロ波送・受信器13は、送信部13aでマイクロ波を送信し、受信部13bでマイクロ波を受信し、その利用効率を確認しており、図示しない出力調整部でその出力調整を行うようにしている。ここで、マイクロ波の周波数としては、特に限定されるものではないが、例えば1〜10GHz等のギガヘルツ帯の周波数のものを用いればよい。
【0019】
実施例1では、浸漬した誘電体14に外部からマイクロ波16を照射し、加熱された誘電体14により、液体水素がガス化して、気体水素15を得ることができる。
【0020】
ここで、前記誘電体14の材料としては、誘電損失が液体水素と比較して大きいものであることが望ましい。この前記誘電体14の材料としては、誘電損失が液体水素と比較して大きいものとは、誘電正接(tanδ)の大きいものが誘電損失の大きい樹脂材料を用いることが好ましい。
この誘電損失の大きい樹脂材料としては、例えば芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタート系樹脂等を例示することができる。
前記ポリイミドは、誘電正接(tanδ)の大きいものであり、tanδが1×(10-310-2)であるが、これに対し、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリテトラフロロエチレン等の樹脂は、tanδが1×10-4と小さいものとなり、好ましくないものとなる。
【0021】
本発明においては、マイクロ波の照射構造は、液体水素12に対して、非接触であり、誘電体14は液体水素12に浸漬されているので、ガス化する必要のあるときのみ誘電体14を加熱し、ガス化の必要のないときは液体水素12に直接加熱用構造物からの侵入熱はない。よって、従来のようなヒータ等のように水素取り出し量が増大する結果、浸入熱が大きくなることがないので、気体水素15を取り出す必要のないときに、侵入熱が増加し、蒸発量が増えるようなことが解消される。
【0022】
すなわち、外部からマイクロ波16を用いて非接触状態で加熱される誘電体14は、液体水素12中に外部と遮断された形で存在しているので、従来のヒータのような外部と内部とがつながっていることがなく、ガス化の必要がない場合における浸入熱による液体水素の気化が行われることがなくなり、効率的な気体水素15の取出しを行うことができる。
【実施例2】
【0023】
本発明による実施例に係る水素発生装置について、図面を参照して説明する。
図2は、実施例2に係る水素発生装置図である。なお、図1に示す水素発生装置の構成部材と同一の部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図2に示すように、実施例2に係る水素発生装置10Bは、誘電体14Aの形状を例えばフィン形状として、その接液面積を大きいものとして、熱交換効率を増大するようにしている。なお、本実施例では、誘電体の形状をフィン形状の誘電体14Aとしてるが、本発明はこれに限定されるものではなく、接液面積の大きな形状のものであればいずれのものであってもよい。
【0024】
このような形状とすることで、接液面積が大きくなり、その結果、伝熱面積を拡大することとなり、気体水素15の発生量が大きなものとなる。
【実施例3】
【0025】
本発明による実施例に係る水素発生装置について、図面を参照して説明する。
図3は、実施例3に係る水素発生装置図である。なお、図1に示す水素発生装置の構成部材と同一の部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図3に示すように、実施例3に係る水素発生装置10Cは、実施例1の装置において、さらにマイクロ波送・受信器13の送信部13aにホーンアンテナ21を有するものである。
【0026】
このように、送信部13aにホーンアンテナ21を有することにより、誘電体14Aへ対してのマイクロ波16の指向性が向上し、マイクロ波の分散を防止し、誘電体14Aに対しての加熱を効率的に行うことができる。
【実施例4】
【0027】
本発明による実施例に係る水素発生装置について、図面を参照して説明する。
図4は、実施例4に係る水素発生装置図である。なお、図1に示す水素発生装置の構成部材と同一の部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図4に示すように、実施例4に係る水素発生装置10Dは、断熱真空槽11内部の圧力を監視する圧力モニタ計22を有するものである。
【0028】
本実施例では、マイクロ波16の出力を断熱真空槽11内の内圧を圧力モニタ計22でモニタしてコントロールすることにより、マイクロ波16の出力を出力調整部13cで適切に制御することができ、この結果、断熱真空槽11内の内圧の過上昇を防止することできる。これにより安定した気体水素のガス化を行うことができる。
【実施例5】
【0029】
本発明による実施例に係る水素発生装置について、図面を参照して説明する。
図5は、実施例5に係る水素発生装置図である。なお、図1に示す水素発生装置の構成部材と同一の部材については、同一符号を付してその説明は省略する。
図5に示すように、実施例4に係る水素発生装置10Eは、断熱真空槽11内部の液体水素12内の温度分布を監視する複数(本実施例では3ヶ)の第1〜3の温度計23−1〜23−3を有するものである。
【0030】
これにより、断熱真空槽11内の深さ方向の温度分布を第1〜第3の温度計23−1〜23−3で計測し、タンク内温度の深さ方向における局所的な温度上昇を防止することができる。
すなわち、液体水素の比重は70kg/m3であり、水の1/10であるので、断熱真空槽11の深さ方向の温度分布のバラツキがあるような場合に発生する液体水素の局所的なフラッシュを防止するようにしている。
【0031】
また、温度分布にバラツキがあるような場合には、必要に応じて撹拌モータMの回転を調整して、撹拌翼24で効率的に撹拌させ、一様に温度を上昇させ、内部における局所的な温度分布のムラを防止するようにしている。なお、常時撹拌翼24を回転させておき、必要に応じてさらに撹拌回数を調整するようにしてもよい。
【0032】
本発明では、以上の実施例1乃至5の装置を適宜組み合わせて、さらに効率的な気体水素15の発生を促進させることができる。
【0033】
よって、水素発生装置を有する燃料電池とすることで、効率的な水素供給が可能となり、発電効率が向上した例えば車載用の燃料電池システムを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る気体水素発生装置によれば、マイクロ加熱によって浸漬された誘電体を加熱することで、液体水素に非接触で加熱することができ、ガス化の必要のないときは液体水素に直接加熱用構造体である誘電体からの侵入熱はなく、燃料電池システムに用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1に係る気体水素発生装置の概略図である。
【図2】実施例2に係る気体水素発生装置の概略図である。
【図3】実施例3に係る気体水素発生装置の概略図である。
【図4】実施例4に係る気体水素発生装置の概略図である。
【図5】実施例5に係る気体水素発生装置の概略図である。
【図6】従来技術に係る気体水素発生装置の概略図である。
【符号の説明】
【0036】
10A〜10E 水素発生装置
11 断熱真空槽
12 液体水素
13 マイクロ波送・受信器
14 誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体水素を貯留する断熱真空槽と、
前記液体水素内に浸漬された誘電体と、
前記誘電体に対してマイクロ波を発生して、液体水素を気化させて気体水素を得るマイクロ波送・受信器とを具備することを特徴とする気体水素発生装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記誘電体の材料が、誘電損失が液体水素と比較して大きいものであることを特徴とする気体水素発生装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記誘電体の形状の接液面積が大きいものであることを特徴とする気体水素発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
前記マイクロ波発生器の送信部にホーンアンテナを有することを特徴とする気体水素発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
内部の圧力を監視する圧力モニタ計を有することを特徴とする気体水素発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つにおいて、
液体水素内の温度分布を監視する温度計を複数有することを特徴とする気体水素発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つの気体水素発生装置を備えたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−138983(P2010−138983A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315013(P2008−315013)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】