説明

気体軸受スピンドル

【課題】回転軸の回転精度を良好に保つことが可能な気体軸受スピンドルを提供する。
【解決手段】気体軸受スピンドルは、回転軸1と、スリーブ3、4と、ハウジング2とを備える。スリーブ3は、回転軸1の側面の少なくとも一部と隙間を介して対向するように配置される。ハウジング2は、開口部を有し、当該開口部の内部にスリーブ3、4および回転軸1を保持する。回転軸1では、ハウジング2の開口部側の端部に形成された開口に連通する空洞部としての空洞1bが形成される。回転軸1の側面に、回転軸1の側面を周回する円周溝1aが形成されている。回転軸1では、円周溝1aと空洞1bとを繋ぐ連通孔1cが形成されている。スリーブ3、4およびハウジング2には、円周溝1aに液体や気体などの冷却媒体を供給する供給路2bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、気体軸受スピンドルに関し、より特定的には、高精度な加工機や検査装置などに組み込まれて使用される気体軸受スピンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静圧気体軸受は、ハウジング内部において、回転軸と回転軸に対向する部材(スリーブ)との微少な隙間に圧縮気体が供給されることにより、回転軸がハウジングに対して非接触の状態で支持される。このため、軸受における摩擦損失が小さいだけでなくその回転精度が高く、精密加工機や精密検査装置のワークスピンドルまたは工具スピンドルなどに使用される。
【0003】
ところが、上記回転軸を回転させるモータ等の発熱によって回転軸が熱膨張し、軸端位置の変化や、軸受隙間が小さくなることに伴う軸受剛性の低下等によって、精密な加工や測定ができなくなる場合が発生する。また、上述したモータ等に起因する熱が、軸端に配置した測定対象物に伝わると、精密な測定等に悪影響を及ぼす場合もある。
【0004】
このような問題を解決するための1つの方法として、回転軸にインバー合金やセラミックス等、線膨張係数の低い材料を使用することが考えられる。しかし、このような材料は一般に高価であり、現実的な解決方法とは言い難い。また、回転軸を冷却する方法も考えられ、その一例がたとえば特開2000−334604号公報(以下、特許文献1と呼ぶ)に示されている。
【0005】
図6は、上記特許文献1に開示された従来の気体軸受スピンドルを示す断面模式図である。図6を参照して、従来の気体軸受スピンドルを説明する。
【0006】
図6に示すように、気体軸受スピンドル120は、切削装置に搭載されるスピンドルユニットであり、先端にブレード121が装着された回転軸111が、スピンドルハウジング123に備えられた静圧気体軸受のラジアル気体軸受124及びスラスト気体軸受125によって非接触の状態で回転可能に支持されている。また、当該回転軸111はビルトインモータ126によって回転駆動される。
【0007】
図6に示した気体軸受スピンドル120では、ビルトインモータ126により駆動されて回転軸111が高速回転すると、当該回転軸111の先端部に取付けられているブレード121が高速回転する。そして、気体軸受スピンドル120全体が下降することにより、高速回転するブレード121が保持テーブル128に保持された被加工物127に接触する。この結果、被加工物127がブレード121により切削される。
【0008】
このとき、回転軸111には、当該回転軸111回転に伴いラジアル気体軸受124などやビルトインモータ126などでの発熱により熱膨張が生じる場合がる。この結果、ブレード121の水平方向の位置にずれが生じることで、切削位置もずれ、高精度の切削ができないという問題が生じる場合があった。
【0009】
このような問題に対する対策として、図6に示した気体軸受スピンドル120では、回転軸111の後部端の開口部113から、回転軸111の軸心方向に沿ってブレード121が設置された前部側の端部近傍まで連通する空洞部112が形成されている。また、回転軸111においてスピンドルハウジング123より突出した突出部の外周114には、回転軸111に形成された空洞部112に連通する複数の外周孔115が等間隔に形成されている。そして、上記回転軸111の開口部113から上記空洞部112に冷却用の媒体を供給することにより、回転軸111の熱膨張を防止し、水平方向の位置ずれを抑制するとしている。
【特許文献1】特開2000−334604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述した従来の気体軸受スピンドルには以下のような問題があった。すなわち、図6に示した気体軸受スピンドル120のように、回転軸111の後端部にビルトインモータ126(つまりサーボモータ及びロータリエンコーダ)を設置している気体軸受スピンドルでは、回転軸111の後端部の軸径は細くなっており、当該後端部での回転軸111の断面積は小さくなっている。さらに、回転軸111は高速回転する。そのため、上記のように回転軸111の後端部の開口部113から、回転軸111の軸心に設けた空洞部112に冷却媒体を供給する時、当該冷却媒体を導入するための固定側の供給管路と、回転する回転軸111の後端部との効率的な連結が難しい。そのため、上記固定側の供給管路と回転軸111の後端部との繋ぎ部分で冷却媒体の漏れが発生したり、固定側の部材との接触圧や冷却流体の反力等が回転軸111の後端部に加わり、回転軸111の回転精度を悪化させたりする場合があった。また冷却媒体が液体の場合、漏れた液体がロータリエンコーダなどに付着し、正常な回転が不可能となる可能性もあった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、回転軸の回転精度を良好に保つことが可能な気体軸受スピンドルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に従った気体軸受スピンドルは、回転軸と、スリーブと、ハウジングとを備える。スリーブは、回転軸の側面の少なくとも一部と隙間を介して対向するように配置される。ハウジングは、開口部を有し、当該開口部の内部にスリーブおよび回転軸を保持する。回転軸では、ハウジングの開口部側の端部に形成された開口に連通する空洞部が形成される。回転軸の側面および当該側面に対向するスリーブの表面の少なくともいずれか一方に、回転軸の側面を周回する円周溝が形成されている。回転軸では、円周溝と空洞部とを繋ぐ連通孔が形成されている。スリーブおよびハウジングには、円周溝に冷却媒体を供給する供給路が形成されている。
【0013】
このようにすれば、回転軸の側面側から当該回転軸の空洞部に冷却媒体を供給できるので、回転軸の端部(たとえばハウジングの開口部が開口している先端側と反対側の後端側)から冷却媒体を当該空洞部に供給する場合のように、冷却媒体を空洞部に供給する配管などと回転軸の端部との接続部から冷却媒体が漏れる、あるいは冷却媒体の反力などが回転軸に伝わり、回転軸の回転精度が悪化するといった問題の発生を抑制できる。
【0014】
上記気体軸受スピンドルでは、回転軸の延在方向において、円周溝を挟むようにシール部が形成されていてもよい。シール部は、回転軸の側面とスリーブの表面との距離が少なくとも回転軸の半径方向における円周溝の深さより小さくなっていてもよい。この場合、円周溝から冷却媒体が回転軸の側面に沿って漏れる程度を小さくすることができる。また、連通孔は回転軸の中心軸に対して点対象となるように複数個形成されていてもよい。この場合、回転軸の回転精度が、連通孔の形成により悪化することを抑制できる。また、回転軸の側面とスリーブの表面との間では、上記シール部を回転軸の中心軸の延在方向(回転軸の延在方向)において挟むように静圧気体軸受が形成されていてもよい。このようにすれば、シール部を形成することで、冷却媒体が静圧気体軸受を構成する隙間に流入する可能性を低減できる。
【0015】
上記気体軸受スピンドルにおいて、回転軸の側面および当該側面に対向するスリーブの表面の少なくともいずれか一方に、回転軸の中心軸の延在方向において円周溝を挟む位置に配置され、回転軸の側面を周回する1組の排出用円周溝が形成されていてもよい。スリーブおよびハウジングには、排出用円周溝と連通する排出路が形成されていてもよい。この場合、排出用円周溝および排出路を介して、余分な冷却媒体を外部に排出することができる。このため、冷却媒体が回転軸の側面に沿って広がり、静圧気体軸受に悪影響を及ぼすことを抑制できる。
【0016】
上記気体軸受スピンドルにおいて、回転軸の側面および当該側面に対向するスリーブの表面の少なくともいずれか一方には、回転軸の中心軸の延在方向において円周溝を挟む位置に流体動圧発生用の溝形状部が形成されていてもよい。この場合、当該溝形状部により冷却媒体が回転軸の側面上に当該溝形状部を超えて広がることを効率的に抑制できる。
【0017】
上記気体軸受スピンドルにおいて、上記溝形状部はヘリングボーン溝が形成された領域であってもよい。具体的には、溝形状部では、回転軸の中心軸の延在方向に交差する方向に、互いに平行に延びる複数の溝が形成されていてもよい。この場合、上述した冷却媒体が回転軸の側面上に当該溝形状部を超えて広がることを効率的に抑制するという効果をより顕著にすることができる。
【0018】
上記気体軸受スピンドルにおいて、回転軸の側面および当該側面に対向するスリーブの表面の一方に円周溝が形成されていてもよく、回転軸の側面および当該側面に対向するスリーブの表面の他方には、円周溝と対向して円周状に延びるとともに、回転軸の延在方向において円周溝の幅より広い幅を有するポケット溝が形成されていてもよい。この場合、気体軸受スピンドルの動剛性を向上させることができる。つまり、回転軸の振動を抑制することができる。
【0019】
上記気体軸受スピンドルにおいて、1組の排出用円周溝は、回転軸の中心軸の延在方向においてポケット溝を挟むように配置されていてもよい。この場合、排出用円周溝によりポケット溝から回転軸の側面上に漏れ出る冷却媒体を排出することができる。そのため、当該冷却媒体が回転軸の側面とスリーブとの間に形成される気体軸受部分に流入することを抑制できる。
【0020】
上記気体軸受スピンドルは、回転軸の開口が形成された端部に接続され、回転軸より幅の広い取付部材を備えていてもよい。取付部材には、回転軸の開口と繋がる中心孔と、当該中心孔と、回転軸の中心軸からみて半径方向における取付部材の外周部に形成された排出口とを繋ぐ排出路が形成されていてもよい。
【0021】
この場合、回転軸の空洞部に供給された冷却媒体を、回転軸の開口から取付部材の中心孔、排出路を介して排出口から外部へ効率的に排出できる。
【0022】
上記気体軸受スピンドルにおいて、取付部材は、ハウジングの表面上にまで延在してもよい。ハウジングには、取付部材の表面と対向する領域に、回転軸を囲むように環状に配置された複数の給気孔と、給気孔に気体を供給するための供給路とが形成されていてもよい。この場合、取付部材とハウジングとの対向する領域に、給気孔から気体を供給することで非接触シール部を構成することができる。この非接触シール部により、取付部材とハウジングとの対向する領域から、ハウジング内の回転軸とスリーブとの間に形成された気体軸受部に異物が入ることを抑制できる。
【0023】
上記気体軸受スピンドルでは、ハウジングにおいて供給路として回転軸を囲むような円管状の給気溝が形成され、当該円管状の給気溝に複数の給気孔が繋がっていてもよい。この場合、複数の給気孔から偏り無く気体を噴出させることができる。このため、取付部材とハウジングとの間に、環状の均一な非接触シール部を形成することができる。
【0024】
上記気体軸受スピンドルは、回転軸の開口が形成された端部に接続され、回転軸より幅の広い取付部材を備えていてもよい。取付部材には、回転軸の開口と繋がる中心孔と、当該中心孔と、回転軸の中心軸からみて半径方向における取付部材の外周部において、ハウジングおよびスリーブに面する表面において中心孔を囲むように配置された環状の溝と、溝と中心孔とを繋ぐ排出路とが形成されていてもよい。
【0025】
この場合、回転軸の空洞部に供給された冷却媒体を、取付部材の環状の溝から排出することができる。このため、たとえば溝の幅などを調整することで、当該溝とハウジングまたはスリーブの表面との間にシール部を構成することができる。この結果、当該シール部により、ハウジング内の回転軸とスリーブとの間に形成された気体軸受部に異物が入ることを抑制できる。また、取付部材の外周部から外側に向かって直接冷却媒体を噴出する形態より、当該冷却媒体の排出に伴う騒音の発生を抑制できる。
【0026】
上記気体軸受スピンドルは、回転軸の開口が形成された端部に接続され、回転軸より幅の広い取付部材を備えていてもよい。取付部材には、回転軸の開口と繋がる中心孔と、当該中心孔と、回転軸の中心軸からみて半径方向における取付部材の外周部において、ハウジングおよびスリーブに面する表面において中心孔を囲むように環状に配置された複数のノズル孔と、ノズル孔と中心孔とを繋ぐ排出路とが形成されていてもよい。
【0027】
この場合、回転軸の空洞部に供給された冷却媒体を、取付部材のノズル孔から排出することができる。このため、当該ノズル孔とハウジングまたはスリーブの表面との間にシール部を構成することができる。この結果、当該シール部により、ハウジング内の回転軸とスリーブとの間に形成された気体軸受部に異物が入ることを抑制できる。
【0028】
上記気体軸受スピンドルでは、取付部材の排出路は中心孔を中心として回転軸の半径方向に延びるように、放射状に複数形成されていてもよい。この場合、排出路の形成により取付部材の回転特性が劣化することを抑制できる。
【0029】
上記気体軸受スピンドルにおいて、回転軸の空洞部は、回転軸において開口が形成された側と反対側の端部に形成された後端側開口に連なるように形成されていてもよい。上記気体軸受スピンドルは、後端側開口に着脱可能に固定され、ノズル孔を有するブッシュ状部材をさらに備えていてもよい。この場合、ノズル孔の径や長さを適切に設定したブッシュ状部材を選択して回転軸に設置することにより、当該回転軸の後端側から排出される冷却媒体の流量を調整することができる。この結果、回転軸全体を偏り無く冷却できるように、冷却媒体の流れの状態を調整することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、回転軸の回転精度を良好に保つことが可能な気体軸受スピンドルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1の気体軸受スピンドルの断面模式図である。図1を参照して、本発明の実施の形態1における気体軸受スピンドルを説明する。
【0033】
ここでは、図1に示すように、本発明による気体軸受スピンドルを加工機のワークスピンドルに適用した場合を例に説明する。図1に示した気体軸受スピンドルでは、静圧気体軸受スピンドルであって、スリーブ3、4がハウジング2に対して適宜の手段で固定されている。スリーブ3は円筒状の形状を有する。そして、当該スリーブ3の内径側には回転軸1が挿入されている。当該回転軸1の先端側には円形の取付板12が接続されている。回転軸1は、回転軸1の他の部分より半径が大きくなっている、フランジ状のスラスト板1dを含む。スラスト板1dの平面形状は円形状である。スリーブ3の取付板12側(以下、開口側または前方側とも言う)、及び当該前方側と反対側(以下、後方側とも言う)にはラジアル軸受部11a、11bが形成される。具体的には、スリーブ3において、回転軸1と微小隙間を介して対向するスリーブ軸受面に開口する複数個の微細な給気孔3bが、円周方向において等間隔に配置されている。当該複数個の給気孔3bは、スリーブ3の内周面(軸受面)において円周方向に二列に並ぶように配置され、給気孔列を形成している。なお、回転軸1の外周面には、スリーブ3に形成された二列の給気孔列と対向する位置に軸受剛性を高めるために円周溝(図示せず)が設けられてもよい。
【0034】
また、上記後方側のラジアル軸受部11bのさらに後方に、スラスト軸受部3a、4aが形成されている。当該スラスト軸受部3a、4aを構成するスリーブ3、4は、スラスト板1dと微小な隙間を介して対向するように配置されている。スリーブ3、4には、スラスト軸受部3a、4aを構成する軸受面(スラスト板1dと対向する面)に開口する複数個の微細な給気孔3c、4cが形成されている。当該複数の給気孔3c、4cは、回転軸1の中心軸を囲むように、円周方向等間隔に配置されている。つまり、給気孔3c、4cは、円周上一列の給気孔列をそれぞれ構成する。このスラスト軸受部3a、4aにおいても、静剛性を上げるために、スリーブ3、4に形成された給気孔列の給気孔3c、4cを連結するように、スラスト板1d又はスリーブ3、4に円周溝を設けてもよい。
【0035】
上記の静圧気体軸受(ラジアル軸受部11a、11bおよびスラスト軸受部3a、4a)を具備する気体軸受スピンドルでは、回転軸1と同軸上に駆動源及び回転位置を検出するエンコーダ20が設けられている。駆動源は回転軸1に一体に取り付けられたモータロータ9aと、これに対向したモータステータ9bとによって構成される。駆動源はこのような構成を備えることによって、相互に作用する電磁力により発生する駆動力によって回転軸1を回転させる。
【0036】
上記回転軸1の中心部にはハウジング開口部側(取付板12が設置された側)から上記スラスト板1dの方向に向けて、先止りの空洞1bが形成されている。また上記ラジアル軸受部11a、11bの間の軸方向中間部には、回転軸1の側面とスリーブ3の内周面との間に、上記ラジアル軸受部11a、11bと同程度の隙間を形成することが好ましい。また、当該軸方向中間部の中央には、上記回転軸1の外周面またはスリーブ3の内周面に円周溝1aが形成されている。回転軸1には、円周溝1aと上記空洞1bを連通する複数の孔1cが形成されている。当該孔1cは、回転軸1の中心軸から半径方向に放射状に延びるように形成される。また、当該孔1cは、回転軸1の中心軸に対して軸対称の位置に設けられている。また、上記円周溝1aに向けてスリーブ3の内周面に開口している開口部と連結するように、冷却媒体の供給路2bがハウジング2及びスリーブ3に形成されている。
【0037】
上記回転軸1の回転軸前方端には、上述のようにワーク(被加工物)を把持するチャックやワークを搭載する搭載板を取付けるための取付板12が設置されている。当該取付板12は回転軸1の外径より直径の大きい円形状である。取付板12は、上記ハウジング2及びスリーブ3の取付板12に面する表面(開口部端面)から所定の隙間を設けて設置されている。
【0038】
この取付板12の中心部には、上記回転軸1の中心部に形成された空洞1bに連通する先止まりの中心孔12aが設けられている。取付板12では、さらにこの中心孔12aに連通し、回転軸1の中心軸に対して軸対称の位置に、複数個の放射状の排出路12bが設けられている。
【0039】
なお、取付板12の外周部では、この放射状に設けた排出路12bの先端部において、斜前方(回転軸1から離れる前方方向であって、回転軸1の中心軸と交差する方向)に向けて排出孔12cが形成されている。つまり、図1に示した気体軸受スピンドルでは、回転軸1の開口が形成された端部に接続され、当該回転軸1より幅の広い取付部材としての取付板12を備える。取付板12には、回転軸1の開口と繋がる中心孔12aと、当該中心孔12aと、回転軸1の中心軸からみて半径方向における取付板12の外周部に形成された排出口としての排出孔12cとを繋ぐ排出路12bが形成されている。このため、回転軸1の空洞1bから取付板12の中心孔12a、排出路12bおよび排出孔12cを介して外部へ排出される冷却液などの冷却媒体は、スリーブ3の開口部前方端と取付板12との間を通りラジアル軸受部11aに入り込み難くなっている。
【0040】
上記気体軸受スピンドルでは、軸受給気口18から圧縮気体を供給すると、圧縮気体は、ハウジング2に設けられた給気通路2aを経由して給気孔列の給気孔3b、3c、4cからラジアル軸受部11a、11bおよびスラスト軸受部3a、4aの軸受隙間に流入する。この結果、軸受隙間内の圧縮気体の圧力によって径方向及び軸方向に回転軸1の自重や外部負荷に釣り合う軸受反力を生じて、回転軸1は非接触状態で支持される。そして、回転軸1は駆動源としてのモータロータ9aおよびモータステータ9bとを含むモータ部により発生される回転力により回転する。この結果、回転軸1に接続された取付板12も同様に回転し、ワークや工具など取付板12に取付けられた部材を高速かつ安定して回転させることができる。
【0041】
図1に示された気体軸受スピンドルは主に横置きで使用され、冷却媒体は主として冷却された流体(気体又は液体)が使用される。たとえば、ハウジング2およびスリーブ3に形成されている冷却媒体の供給路2bに水等の冷却された流体を供給すると、上記円周溝1aの周囲(回転軸1の中心軸に沿った方向における両側)は微小な隙間となっているため、この隙間を通過してラジアル軸受部11a、11b側に流出する流体(冷却媒体)の流量は制限される。すなわちこの隙間によって非接触のシール部30を形成する。このため、供給された冷却媒体の大部分は連通孔1cを経由して回転軸1内の空洞1bに供給される。
【0042】
空洞1bに流入した流体は、図1に示した気体軸受スピンドルが横置きでもあるため、容易に取付板12の中心孔12aを経由し放射状の排出路12bに導かれる。このとき取付板12は回転軸1に比較して直径が大きいため、排出路12bの特に外周側では冷却流体に大きな遠心力が働く。この結果、冷却媒体は排出路12bから排出孔12cを介してスムーズに外気に放出されやすい。このため、冷却流体が回転軸1の空洞1b内をスムーズに流れて上記排出孔12cから排出されるので、回転軸1が効率よく冷却される。
【0043】
なお、円周溝1aの両側(回転軸1の中心軸に沿った方向における両側)に設けた、シール部30を構成する上記微小な隙間の大きさは、冷却媒体の粘度と許容できる冷却媒体の漏れ量によって決定することができる。
【0044】
このように、本発明によう気体軸受スピンドルでは、上記のように回転軸1と非接触の状態を保った上で安定して回転軸1内に冷却媒体を供給でき、回転軸1の高精度な回転に悪影響を及ぼすこともない。
【0045】
また、図1に示すように、ラジアル軸受部11a、11bと、その中間部(回転軸1の中心軸に沿った方向におけるラジアル軸受部11a、11bの間の領域)に形成されているシール部30(非接触シール部)との間には、排出路17aに連通する排出用の円周溝15が設けられている。ラジアル軸受部11a、11bおよびスラスト軸受部3a、4aから流出する気体は、軸受端部から直接、または上記円周溝15を経由して排出路17aを介して、または排出路17bを介してハウジング2の外部に排出される。回転軸1とスリーブ3の狭い隙間によるシール部30から漏れた流体(冷却媒体)も、上記円周溝15を経由し排出路17aを介して外部に排出される。このため、漏れた流体が回転軸1後方のモータ部やエンコーダに付着することはなく、回転軸1の正常な回転が持続出来る。
【0046】
ここで、上記説明と一部重複数部分もあるが、上述した気体軸受スピンドルの特徴的な構成を要約すれば、この発明に従った気体軸受スピンドルは、図1に示すように、回転軸1と、スリーブ3、4と、ハウジング2とを備える。スリーブ3は、回転軸1の側面の少なくとも一部と隙間を介して対向するように配置される。ハウジング2は、開口部を有し、当該開口部の内部にスリーブ3、4および回転軸1を保持する。回転軸1では、ハウジング2の開口部側の端部に形成された開口に連通する空洞部としての空洞1bが形成される。回転軸1の側面および当該側面に対向するスリーブ3の表面の少なくともいずれか一方に、回転軸1の側面を周回する円周溝1aが形成されている。回転軸1では、円周溝1aと空洞1bとを繋ぐ連通孔1cが形成されている。スリーブ3、4およびハウジング2には、円周溝1aに液体や気体などの冷却媒体を供給する供給路2bが形成されている。
【0047】
このようにすれば、回転軸1の側面側から当該回転軸1の空洞1bに冷却媒体を供給できるので、回転軸1の端部(たとえばハウジング2の開口が形成されている先端側と反対側の後端側)から冷却媒体を当該空洞1bに供給する場合のように、冷却媒体を空洞1bに供給する配管などと回転軸1の端部との接続部から冷却媒体が漏れる、あるいは冷却媒体の反力などが回転軸1に伝わり、回転軸1の回転精度が悪化するといった問題の発生を抑制できる。
【0048】
また、上記気体軸受スピンドルでは、回転軸1の延在方向において、円周溝1aを挟むようにシール部30が形成されている。シール部30は、回転軸1の側面とスリーブ3の表面との距離が少なくとも回転軸1の半径方向における円周溝1aの深さより小さくなっている。この場合、円周溝1aから冷却媒体が回転軸1の側面に沿って漏れる程度を小さくすることができる。また、連通孔1cは回転軸1の中心軸に対して点対象となるように複数個形成されている。この場合、回転軸1の回転精度が、連通孔1cの形成により悪化することを抑制できる。また、回転軸1の側面とスリーブ3の表面との間では、上記シール部30を回転軸1の中心軸の延在方向において挟むように静圧気体軸受としてのラジアル軸受部11a、11bが形成されている。この場合、シール部30を形成することで、冷却媒体がラジアル軸受部11a、11bを構成する隙間に流入する可能性を低減できる。
【0049】
上記気体軸受スピンドルにおいて、回転軸1の側面および当該側面に対向するスリーブ3の表面の少なくともいずれか一方に、回転軸1の中心軸の延在方向において円周溝1aを挟む位置に配置され、回転軸1の側面を周回する1組の排出用の円周溝15が形成されている。スリーブ3およびハウジング2には、排出用の円周溝15と連通する排出路17aが形成されている。この場合、円周溝15および排出路17aを介して、余分な冷却媒体を外部に排出することができる。
【0050】
図2は、図1に示した気体軸受スピンドルの変形例を示す断面模式図である。図2を参照して、図1に示した気体軸受スピンドルの変形例を説明する。
【0051】
図2に示す気体軸受スピンドルは、基本的には図1に示した気体軸受スピンドルと同様の構成を備える。ただし、図2に示した気体軸受スピンドルでは、シール部30において、回転軸1の外周面またはスリーブ3の内周面に、流体動圧発生用の溝としてヘリングボーン溝16が形成されている。別の観点から言えば、回転軸1の側面および当該側面に対向するスリーブ3の表面の少なくともいずれか一方には、回転軸1の中心軸の延在方向において円周溝1aを挟む位置に流体動圧発生用の溝形状部としてのヘリングボーン溝16が形成された部分が配置されている。当該ヘリングボーン溝16は、回転軸1の中心軸の延在方向に交差する方向に、互いに平行に延びる複数の溝からなる。このようにすれば、たとえば上記円周溝1a周囲のシール部30(隙間)の幅が狭くても、シール部の効果を高めることができる。
【0052】
(実施の形態2)
図3は、本発明の一実施の形態である実施の形態2の気体軸受スピンドルの断面模式図である。図3を参照して、本発明の実施の形態2における気体軸受スピンドルを説明する。
【0053】
図3に示した気体軸受スピンドルは、基本的には図1に示した気体軸受スピンドルと同様の構成を備えるが、回転軸1に形成された円周溝1aに対向するスリーブ3の内周面の領域に、ラジアル軸受部11a、11bでの軸受隙間以上の深さを有する円周状のポケット部3dが形成されている点が異なる。つまり、回転軸1の側面および当該側面に対向するスリーブ3の表面の一方(図3では回転軸1の側面)に円周溝1aが形成され、回転軸1の側面および当該側面に対向するスリーブ3の表面の他方(図3ではスリーブ3の内周面)には、円周溝1aと対向して円周状に延びるとともに、回転軸1の延在方向において円周溝1aの幅より広い幅を有するポケット溝としてのポケット部3dが形成されている。
【0054】
また、図3に示した気体軸受スピンドルでは、回転軸1の前方端に設置された取付板12の底面12d(取付板12の表面のうち、ハウジング2側の面)に対向して、ハウジング2の開口部側での端面2cに給気ノズル3gが回転軸1を囲む円周状に複数個形成されている。また、ハウジング2には、この給気ノズル3gに連通する円周溝3fと、この円周溝3fに気体を供給する給気路3eが設けられている。つまり、ハウジング2には、取付板12の表面と対向する領域に、回転軸1を囲むように環状に配置された複数の給気孔としての給気ノズル3gと、給気ノズル3gに気体を供給するための供給路としての給気路3eとが形成されている。また、ハウジング2において供給路として回転軸1を囲むような円管状の給気溝である円周溝3fが形成され、当該円管状の円周溝3fに複数の給気ノズル3gが繋がっている。
【0055】
上述したポケット部3dのさらに軸端側(回転軸1の中心軸に沿った方向における両端側)には回転軸1の外周面とスリーブ3の内周面間にラジアル軸受部11a、11bと同等の隙間のシール部30を設け、さらにそのシール部30とラジアル軸受部11a、11bとの境界部には、排出路17aに連通する円周溝15が形成されている。つまり、1組の排出用円周溝としての円周溝15は、回転軸1の中心軸の延在方向においてポケット部3dを挟むように配置されている。
【0056】
上述のような構成により、図1または図2に示した気体軸受スピンドルと同様の効果を得ることができる。さらに、以下のような効果も得ることができる。
【0057】
ここで、気体軸受は圧縮気体を利用して軸受反力を発生させるものであり、流体すべり軸受に比較して減衰性能が劣る。そのため、気体軸受の軸受諸元の選定によっては微小振動が発生しやすい。本実施の形態においては、冷却流体の供給路2bに連通する円周溝1aの両側に広がる浅いポケット部3dがスリーブ3の内周面に形成されており、供給路2bからこのポケット部3dに冷却流体が供給されると、回転軸1の回転に伴ってこのポケット部3dにおいて冷却流体の動圧効果が発生する。また、上記冷却流体として非圧縮性の流体(たとえば液体)を用いる場合には、特に減衰性能が向上する。このため、気体軸受スピンドルの動剛性が向上し、回転軸1の振動が大変少ない状態での動作(加工など)が実現できる。
【0058】
上記ポケット部3dの深さは、冷却流体の粘度と必要な減衰特性に基づいて決定することができる。また、図3ではポケット部3dをスリーブ3の内周面に形成したが、当該ポケット部を回転軸1の側面に形成してもよい。また、円周溝1aをスリーブ3の内周面に形成してもよい。なお、上記円周溝1aに供給された冷却流体は、図1や図2に示された気体軸受スピンドルと同様に、回転軸1内部にも供給され、回転軸1が冷却される。
【0059】
また、本実施の形態では、上述のように取付板12の底面12dに対向して、ハウジング2の開口部側の端面2cに複数の給気ノズル3g形成されている。このため外部から給気路3eに気体が給気されると、上記給気ノズル3gから当該気体が取付板12の底面12dとハウジング2の端面2cとの間の隙間に導かれる。この結果、取付板12の底面12dとハウジング2の端面2cとの間で非接触シール部を形成できる。このように非接触シール部が形成されることにより、回転軸1周辺の汚れた油分や水分が、上記取付板12の底面12dとハウジング2の端面2cとの間、及びラジアル軸受部11aへ進入することを抑制できる。この結果、上記油分や水分に起因する気体軸受スピンドルの損傷を抑制できる。
【0060】
なお、上記非接触シール部と前方側のラジアル軸受部11aとの間には、ラジアル軸受部11aや給気ノズル3gからの気体を排気するための排出路3hを設けている。この排出路3hは排出路17aに接続されている。このようにすれば、非接触シール部とラジアル軸受部11a間に圧縮気体が溜り、エアーハンマ等が発生することを防止できる。
【0061】
(実施の形態3)
図4は、本発明の一実施の形態である実施の形態3の気体軸受スピンドルの断面模式図である。図4を参照して、本発明の実施の形態2における気体軸受スピンドルを説明する。
【0062】
図4に示した気体軸受スピンドルは、検査装置等においてワークを搭載して高精度に回転する用途等に使用されるものであって、基本的には図1に示した気体軸受スピンドルと同様の構成を備えるが、回転軸1における空洞1bの形状および取付板12の構造が一部異なっている。具体的には、図4に示す気体軸受スピンドルでは、回転軸1の中心部に当該回転軸1を貫通する空洞1bが設けられている。また、回転軸1の前方端には上記した実施の形態と同様に、チャックやワーク搭載板を取付けるための円形の取付板12が設置されている。この取付板12には、外周近傍において、外周に沿って底面(ハウジング2やスリーブ3に対向する面)から取付板12の板厚方向に円周溝12eが形成されている。円周溝12eは、取付板12の板厚方向での厚みのほぼ半分(概略中央)の深さまで延びるように形成されている。また、取付板12には、中心部に先止りの中心孔12aが形成されている。この中心孔12aと上記円周溝12eとを繋ぐように、中心孔12aを中心として複数の排出路12bが放射状に形成されている。複数の排出路12bは、回転軸1の中心軸に対して軸対称の位置に配置されている。つまり、取付板12には、回転軸1の開口と繋がる中心孔12aと、当該中心孔12aと、回転軸1の中心軸からみて半径方向における取付板12の外周部において、ハウジング2およびスリーブ3に面する表面において中心孔12aを囲むように配置された環状の溝である円周溝12eと、円周溝12eと中心孔12aとを繋ぐ排出路12bとが形成されている。
【0063】
図4に示した気体軸受スピンドルにおいては、冷却媒体(冷却流体)として、ボルテックスチューブ(超低温空気発生器)やペルチエ素子等により冷却され、フィルターを通したクリーンな気体が使用できる。上述した実施の形態と同様に、周囲を狭い隙間(シール部30)で囲まれた円周溝1aにこの冷却用の気体が供給されると、上記回転軸1中心に設けられた空洞1bに連通孔1cを介して当該気体が導入される。そして、空洞1bに供給された気体の一部は、回転軸1の前部に設置された取付板12に形成された中心孔12aから外周方向に向け放射状に形成された排出路12bを経由し、円周溝12eから外部に排気される。また、空洞1bに供給された気体の他の一部は、回転軸1の後端に形成された空洞1bの開口より外部に排気される。
【0064】
図4に示した気体軸受スピンドルでは、回転する取付板12において、放射状に形成された複数の排出路12bが直接取付板12の外周面(円周方向の外側)に向けて開口していないため、高速回転する取付板12において冷却流体が排出される開口部で風切り音等の発生が少ない。また、このような構造とすれば、回転軸1の回転精度に悪影響することなくスムーズに冷却流体を排気することができるとともに、回転軸1の冷却を行なうことができる。
【0065】
また上述のように使用される冷却流体がクリーンな気体である場合、回転軸1後端から排気された気体がミスト状となり、エンコーダ20などに付着し悪影響を及ぼすといった可能性を低減できる。さらに、図4に示した構造とすれば、回転軸1の駆動源であるモータや、エンコーダ20の取付部付近も、回転軸1の内部から冷却できる。
【0066】
(実施の形態4)
図5は、本発明の一実施の形態である実施の形態4の気体軸受スピンドルの断面模式図である。図5を参照して、本発明の実施の形態4における気体軸受スピンドルを説明する。
【0067】
図5に示した気体軸受スピンドルは、図4に示した気体軸受スピンドルと同様に、検査装置等においてワークを搭載して高精度に回転する用途等に使用されるものであり、基本的には図1に示した気体軸受スピンドルと同様の構成を備える。ただし、図5に示す気体軸受スピンドルでは、回転軸1における空洞1bの形状、回転軸1の後端側の構造および取付板12の構造が一部異なっている。具体的には、取付板12において、中心孔12aに連通する放射状の排出路12bは先止りとなっている。そして、取付板12では、排出路12bと連通し、スリーブ3の前方側の端面3jに向けてノズル孔13が複数個設けられている。このノズル孔13は、放射状の排出路12bに連通して、回転軸1を囲むように取付板12の外周に沿って円周状に形成されている。つまり、取付板12には、回転軸1の開口と繋がる中心孔12aと、当該中心孔12aと、回転軸1の中心軸からみて半径方向における取付板12の外周部において、ハウジング2およびスリーブ3に面する表面において中心孔12aを囲むように環状に配置された複数のノズル孔13と、ノズル孔13と中心孔12aとを繋ぐ排出路12bとが形成されている。取付板12の排出路12bは中心孔12aを中心として回転軸1の半径方向に延びるように、放射状に複数形成されている。
【0068】
なお、このノズル13が形成されることにより、当該ノズル13から排出される冷却流体(たとえば冷却用の気体)の流量が絞られることになる。このため、回転軸1中心部に設けられた空洞1bに連通する回転軸1の後端の開口から、大部分の冷却気体が排出されることになる。このため、回転軸1の後端の開口の内径側に雌ねじを形成する。そして、その中心部に小径のノズル孔を有し、外周部にねじ加工を施したブッシュ状部材21を、当該開口にねじ込み、着脱自在に取付ける。つまり、回転軸1の空洞1bは、回転軸1において開口が形成された側と反対側の端部に形成された後端側開口に連なるように形成されている。上記気体軸受スピンドルは、後端側開口に着脱可能に固定され、ノズル孔を有するブッシュ状部材21をさらに備える。
【0069】
そして、上記ブッシュ状部材21については、ノズル孔径が異なるものを複数種類用意し、適宜取り替えることにより、上記取付板12に設けたノズル孔13からの冷却流体の排気量が適切となる、最適なブッシュ状部材21を選定し、使用することが出来る。このようにすれば、上記取付板12に設けたノズル孔13及び上記回転軸1の後方端のブッシュ状部材21のノズル孔から、冷却気体を偏ることなく排出できるので、回転軸1内部を冷却気体がスムーズに流れ、回転軸1の両端から冷却気体が排気される。このため、回転軸1を効率よく冷却できる。
【0070】
またノズル孔13から排気される冷却気体によって、スリーブ3の端面3jと取付板の底面12dとの間に非接触シール部を形成できるので、気体軸受スピンドルの使用環境が悪くても、湿気や油分等がラジアル軸受部11aに当該シール部から混入するのを防止できる。さらに、上記ノズル孔13とラジアル軸受部11aとの間には、ラジアル軸受部11aからの気体が外部に排出されるための排出路3hが設けられる。この排出路3hは排出路17aに接続されている。このため、当該部分で発生するエアーハンマ等を防止できる。
【0071】
また、図5に示した気体軸受スピンドルでは、上記実施の形態3と同様に、ブッシュ状部材21のノズル孔を通して回転軸1の後方端から排出される冷却気体をクリーンなものとすれば、エンコーダ20に水分や油分が付着し悪影響を及ぼすといった問題の発生を抑制できる。また、上記のように回転軸1の後方端から冷却気体が排出されるため、回転軸1のモータ部や、エンコーダ20の取付部付近も回転軸1内部から冷却できる。
【0072】
なお、上記の実施の形態では、冷却媒体を供給して回転軸1を冷却する例を示したが、本発明は回転軸1の冷却だけでなく、加熱した媒体を回転軸1の空洞1b内部に供給することによって回転軸1の温度を上昇させることも可能である。つまり、本発明は回転軸1の温度調整(温度制御)に適用できる。たとえば、スリーブ3やハウジング2に温度センサなどを設置し、当該温度センサの出力に応じて回転軸1の空洞1bに供給する媒体の温度を制御するようにしてもよい。たとえば、当該温度センサの出力値について設定値範囲を設け、当該設定値範囲より検出温度が高くなれば供給する媒体の温度を下げ、また、検出温度が設定値範囲より低ければ供給する媒体の温度を上げる、といった制御をおこなってもよい。この場合、回転軸1やスリーブ3などの温度を所定の範囲に維持することが可能になる。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によるスピンドル装置は、軸受として静圧気体軸受を用いたスピンドル装置であって、精密加工機や精密検査装置のワークスピンドル装置または工具スピンドル装置などに使用されるものに有利に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施の形態である実施の形態1の気体軸受スピンドルの断面模式図である。
【図2】図1に示した気体軸受スピンドルの変形例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の一実施の形態である実施の形態2の気体軸受スピンドルの断面模式図である。
【図4】本発明の一実施の形態である実施の形態3の気体軸受スピンドルの断面模式図である。
【図5】本発明の一実施の形態である実施の形態4の気体軸受スピンドルの断面模式図である。
【図6】従来の気体軸受スピンドルを示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1 回転軸、1a 円周溝、1b 空洞、1c 連通孔、1d スラスト板、2 ハウジング、2a 給気通路、2b 供給路、2c 端面、3,4 スリーブ、3a,4a スラスト軸受部、3b,3c 給気孔、3d ポケット部、3e 給気路、3f,15 円周溝、3g 給気ノズル、3h 排出路、3j 端面、9b モータステータ、9a モータロータ、11a,11b ラジアル軸受部、12 取付板、12a 中心孔、12b 排出路、12c 排出孔、12d 底面、12e 円周溝、13 ノズル孔、16 ヘリングボーン溝、17a,17b 排出路、18 軸受給気口、20 エンコーダ、21 ブッシュ状部材、30 シール部、111 回転軸、112 空洞部、113 開口部、114 外周、115 外周孔、120 気体軸受スピンドル、121 ブレード、
123 スピンドルハウジング、124 ラジアル気体軸受、125 スラスト気体軸受、126 ビルトインモータ、127 被加工物、128 保持テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の側面の少なくとも一部と隙間を介して対向するように配置されたスリーブと、
開口部を有し、前記開口部の内部に前記スリーブおよび前記回転軸を保持するハウジングとを備え、
前記回転軸では、前記ハウジングの開口部側の端部に形成された開口に連通する空洞部が形成され、
前記回転軸の前記側面および前記側面に対向する前記スリーブの表面の少なくともいずれか一方に、前記回転軸の前記側面を周回する円周溝を形成し、
前記回転軸では、前記円周溝と前記空洞部とを繋ぐ連通孔が形成され、
前記スリーブおよび前記ハウジングには、前記円周溝に冷却媒体を供給する供給路が形成されている、気体軸受スピンドル。
【請求項2】
前記回転軸の前記側面および前記側面に対向する前記スリーブの表面の少なくともいずれか一方に、前記回転軸の中心軸の延在方向において前記円周溝を挟む位置に配置され、前記回転軸の前記側面を周回する1組の排出用円周溝が形成され、
前記スリーブおよび前記ハウジングには、前記排出用円周溝と連通する排出路が形成されている、請求項1に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項3】
前記回転軸の前記側面および前記側面に対向する前記スリーブの表面の少なくともいずれか一方には、前記回転軸の中心軸の延在方向において前記円周溝を挟む位置に流体動圧発生用の溝形状部が形成されている、請求項1または2に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項4】
前記回転軸の前記側面および前記側面に対向する前記スリーブの表面の一方に前記円周溝が形成され、
前記回転軸の前記側面および前記側面に対向する前記スリーブの表面の他方には、前記円周溝と対向して円周状に延びるとともに、前記回転軸の延在方向において前記円周溝の幅より広い幅を有するポケット溝が形成されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項5】
前記回転軸の前記開口が形成された端部に接続され、前記回転軸より幅の広い取付部材を備え、
前記取付部材には、
前記回転軸の前記開口と繋がる中心孔と、
前記中心孔と、前記回転軸の中心軸からみて半径方向における前記取付部材の外周部に形成された排出口とを繋ぐ排出路が形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項6】
前記取付部材は、前記ハウジングの表面上にまで延在し、
前記ハウジングには、
前記取付部材の表面と対向する領域に、前記回転軸を囲むように環状に配置された複数の給気孔と、
前記給気孔に気体を供給するための供給路とが形成されている、請求項5に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項7】
前記回転軸の前記開口が形成された端部に接続され、前記回転軸より幅の広い取付部材を備え、
前記取付部材には、
前記回転軸の前記開口と繋がる中心孔と、
前記中心孔と、前記回転軸の中心軸からみて半径方向における前記取付部材の外周部において、前記ハウジングおよび前記スリーブに面する表面において前記中心孔を囲むように配置された環状の溝と、
前記溝と前記中心孔とを繋ぐ排出路とが形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項8】
前記回転軸の前記開口が形成された端部に接続され、前記回転軸より幅の広い取付部材を備え、
前記取付部材には、
前記回転軸の前記開口と繋がる中心孔と、
前記中心孔と、前記回転軸の中心軸からみて半径方向における前記取付部材の外周部において、前記ハウジングおよび前記スリーブに面する表面において前記中心孔を囲むように環状に配置された複数のノズル孔と、
前記ノズル孔と前記中心孔とを繋ぐ排出路とが形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体軸受スピンドル。
【請求項9】
前記回転軸の前記空洞部は、前記回転軸において前記開口が形成された側と反対側の端部に形成された後端側開口に連なるように形成され、
前記後端側開口に着脱可能に固定され、ノズル孔を有するブッシュ状部材をさらに備える、請求項8に記載の気体軸受スピンドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−197942(P2009−197942A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41648(P2008−41648)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】