説明

気密容器の製造方法および製造装置

【課題】高い生産性と信頼性を両立した気密容器の製造方法を提供する。
【解決手段】粘度が負の温度係数を有し、第1および第2のガラス基材14,13よりも軟化点が低い接合材1を、第1のガラス基材14の上に枠状に形成し、第2のガラス基材13を、接合材1と接触させるように、接合材1が形成された第1のガラス基材14に対向配置する。局所加熱光41は、対向配置された一対の反射部材の間に形成されたギャップ内に入射することで、接合材1の枠状に延びる方向に沿って線状にビーム整形される。ビーム整形された局所加熱光を、接合材1の枠状に延びる方向に沿って移動させながら接合材1に照射し、対向配置された第1のガラス基材14と第2のガラス基材13とを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器の製造方法および製造装置に関し、特に、内部が真空にされ、電子放出素子や蛍光膜を備えた画像表示装置に適用できる気密容器の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向するガラス基材を気密接合して気密性を有する内部空間を形成する技術が知られている。この技術は、真空断熱容器の製造方法や、有機LEDディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の、フラットパネルの気密容器(外囲器)の製造方法に適用されている。これらの気密容器の製造においては、対向するガラス基材の間に必要に応じて間隔規定部材や局所的な接着材等を配置した上で、周辺部に接合材を配置して、加熱等によりガラス基材同士を接合する。ガラス基材同士の接合方法としては、ガラス基材を仮組みして得られた組立体を加熱炉によって全体加熱(ベーク)する方法と、組立体の周縁部のみを局所加熱手段によって選択的に加熱する方法と、が提案されている。加熱冷却時間、加熱に要するエネルギーの低減、容器内部の機能デバイスの熱劣化防止といった観点で、局所加熱は全体加熱よりも有利である。
【0003】
特許文献1には、局所加熱の長所を生かしてレーザ光による気密接合を平面表示装置の製造方法に適用した例が開示されている。平面表示装置を製造するには、接合材(フリット)部分が開口しているマスクを平面表示装置に設置し、レーザ光の照射によってフリットを加熱溶融させ、ガラス基材同士を接合する。マスクを使用している効果によって、平面表示装置の素子部へのレーザ光の照射は防止され、信頼性の高い平面表示装置が提供される。
【0004】
特許文献2には、フラットパネルディスプレイや電子デバイスの気密封止の方法として、レーザ光による気密封止の例が開示されている。気密封止を行う装置として、複数のレーザ光を並べて線状のレーザ光に集光したり、光学レンズを用いて照射したレーザ光を線状に集光したりすることによって基材同士を接合する。線状のレーザに集光させて基材の封止を行うことで、温度差に起因した残留応力の発生を抑制でき、信頼性の高い気密封止を行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0035503号明細書
【特許文献2】特開2009−104841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、素子部を保護し、また接合部の残留応力を低減する為に、局所加熱光を走査方向に対して線状に整形する手法が知られている。しかしながら、局所加熱光の整形手法として光学レンズや複数の局所加熱光を用いる場合、残留応力を低減した信頼性の高い気密封止が可能であるが、装置コストの観点から生産性の確保が難しい場合がある。一方、光学レンズや複数の局所加熱光を不要とするマスクを用いた場合、高い生産性は確保されるが、十分な接合を得るためには局所加熱光のエネルギーが不足し、それに伴ってクラックや剥離等の接合不良を引き起こす可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、上述の問題点を解決し、高い生産性と信頼性を両立した気密容器の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、第1のガラス基材と、該第1のガラス基材とともに気密容器の少なくとも一部を形成する第2のガラス基材と、を接合することを含む、気密容器の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の気密容器の製造方法は、粘度が負の温度係数を有し、第1および第2のガラス基材よりも軟化点が低い接合材を、第1のガラス基材の上に枠状に形成する工程と、第2のガラス基材を、接合材と接触させるように、接合材が形成された第1のガラス基材と対向配置する工程と、接合材の枠状に延びる方向に沿って線状に、局所加熱光をビーム整形する工程と、ビーム整形された局所加熱光を、接合材の枠状に延びる方向に沿って移動させながら接合材に照射し、対向配置された第1のガラス基材と第2のガラス基材とを接合する工程と、を有し、局所加熱光をビーム整形する工程は、対向配置された一対の反射部材の間に形成されたギャップ内に、ビーム整形されるべき前記局所加熱光を入射することを含んでいる。
【0010】
また、本発明によれば、上記に記載の気密容器の製造方法を実施するための気密容器の製造装置が提供される。
【0011】
本発明の気密容器の製造装置は、局所加熱光を出射する光源装置と、ギャップを挟んで対向配置された一対の反射部材を備えたビーム整形部材と、を有している。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明によれば、高い生産性と信頼性を両立した気密容器の製造方法および製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の気密容器の製造方法を適用可能なFEDの一部破断斜視図である。
【図2】本発明のプロセスフローの一例を示す、ガラス基材の断面図である。
【図3】本発明の気密容器の製造装置におけるビーム整形部材を示す斜視図である。
【図4】図3のビーム整形部材の上面図、正面図、および側面図である。
【図5】ビーム整形された局所加熱光の接合材への照射の様子を示す平面図である。
【図6】レーザヘッドとビーム整形部材とガラス基材との関係を示す側面図である。
【図7】実施例における局所加熱光の有効ビーム径を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の気密容器の製造方法は、内部空間が外部雰囲気から気密遮断されることが必要なデバイスを有するFED、OLED、PDP等の製造方法に適用することが可能である。特に、内部が減圧空間とされたFED等の画像表示装置では、内部空間の負圧によって発生する大気圧荷重に対抗可能な接合強度が求められるが、本発明の気密容器の製造方法によれば、接合強度の確保と気密性とを高度に両立することができる。しかし、本発明の気密容器の製造方法は、上述の気密容器の製造に限定されるものではなく、対向するガラス基材の周縁部に気密性が要求される接合部を有する気密容器の製造に広く適用することができる。
【0015】
図1は、本発明の対象となる画像表示装置の一例を示す部分破断斜視図である。画像表示装置11の外囲器(気密容器)10は、いずれもガラス製のフェースプレート12、リアプレート13、および枠部材14を有している。枠部材14はそれぞれが平板状のフェースプレート12とリアプレート13との間に位置し、フェースプレート12とリアプレート13との間に密閉空間を形成している。具体的には、フェースプレート12と枠部材14、およびリアプレート13と枠部材14とが互いに対向する面同士で接合されることによって、密閉された内部空間を有する外囲器10が形成されている。外囲器10の内部空間は真空に維持され、フェースプレート12とリアプレート13との間の間隔規定部材であるスペーサ8が所定のピッチで設けられている。フェースプレート12と枠部材14、またはリアプレート13と枠部材14は、あらかじめ接合または一体形成されていてもよい。
【0016】
リアプレート13には、画像信号に応じて電子を放出する多数の電子放出素子27が設けられ、画像信号に応じて各電子放出素子27を作動させるための駆動用マトリックス配線(X方向配線28,Y方向配線29)が形成されている。リアプレート13と対向して位置するフェースプレート12には、電子放出素子27から放出された電子の照射を受けて発光し画像を表示する蛍光体からなる蛍光膜34が設けられている。フェースプレート12上にはさらにブラックストライプ35が設けられている。蛍光膜34とブラックストライプ35は交互に配列して設けられている。蛍光膜34の上にはAl薄膜よりなるメタルバック36が形成されている。メタルバック36は電子を引き付ける電極としての機能を有し、外囲器10に設けられた高圧端子Hvから電位の供給を受ける。メタルバック36の上にはTi薄膜よりなる非蒸発型ゲッタ37が形成されている。
【0017】
フェースプレート12、リアプレート13、および枠部材14は、透明で透光性を有していればよく、ソーダライムガラス、高歪点ガラス、無アルカリガラス等が使用可能である。後述する局所加熱光の使用波長および接合材の吸収波長域において、これらの部材が良好な波長透過性を有していることが望ましい。
【0018】
次に、本発明の気密容器の製造方法におけるガラス基材の接合方法について、図2から図7を参照して説明する。なお、以下の説明では、第1のガラス基材を接合材が形成される基材、第2のガラス基材を第1のガラス基材と対向配置される基材という意味で用いている。このため、第1および第2のガラス基材が意味する具体的な部材が異なる場合がある。
【0019】
(ステップ1)まず、図2(a)に示すように、枠部材14(第1のガラス基材)を準備し、次に、図2(b)に示すように、接合材1を枠部材14の上に形成する。接合材1は、粘度が負の温度係数を有し、高温で軟化すればよく、かつフェースプレート12、リアプレート13、及び枠部材14のいずれよりも軟化点が低いことが望ましい。接合材1の例として、ガラスフリット、無機接着剤、有機接着剤が挙げられる。接合材1は、後述する局所加熱光の波長に対して高い吸収性を示すことが好ましい。内部空間の真空度維持が要求されるFED等に適用する場合は、残留ハイドロカーボンの分解を抑制できるガラスフリットや無機接着剤が好適に用いられる。
【0020】
(ステップ2)次に、図2(c)に示すように、電子放出素子27等が形成されたリアプレート13(第2のガラス基材)を枠部材14と対向配置する。これによって、枠部材14(第1のガラス基材)とリアプレート13(第2のガラス基材)との間に、枠部材14とリアプレート13の双方に接触するように、接合材1が配置される。この際、図2(d)に示すように、接合材1とリアプレート13との接触を確保するために、補助的にガラス基材52で枠部材14を覆い、接合材1をリアプレート13に押しつけることが好ましい。
【0021】
(ステップ3)次に、図2(e)および図3に示すように、ビーム整形部材70を用いて、局所加熱光41をビーム整形する。図4は、本実施形態で用いるビーム整形部材70の詳細な構成を示している。
【0022】
ビーム整形部材70は、図4に示すように、対向配置された一対の反射膜(反射部材)73を備えており、反射膜73の間には、ギャップ71が形成されている。局所加熱光41は、レーザヘッド61から放射され、全光束がギャップ71内に入射されるようになっている。ギャップ71内に入射した局所加熱光41は、反射膜73によって反射を繰り返すことで集光され、図3に示すように、ほぼ線状の有効ビーム径41bにビーム整形されてレーザヘッド61の側とは反対側から射出される。
【0023】
反射膜73は、局所加熱光41をより反射させる材料であることが好ましい。例えば、局所加熱光41に近赤外線を用いる場合においては、例えば銀や銅、またはアルミニウムなどが好適に用いられる。このような材料を選択することによって、レーザヘッド61から放射された局所加熱光41を、対向配置された反射膜73のギャップ71内で、エネルギー強度の減衰を最小限に抑えてビーム整形させることが可能となる。
【0024】
ギャップ71内への局所加熱光41の全光束の入射は、レーザヘッド61からビーム整形部材の上面までの距離72を、使用する局所加熱光41の焦点距離に調整することによって可能となる。このようにすることで、局所加熱光41のエネルギーのほとんどをギャップ71内に投入することができる。しかしながら、使用する局所加熱光41のビーム特性によっては、ビーム整形部材70の上面において局所加熱光41が反射、あるいは散乱し、全光束がビーム整形部材に投入されない場合がある。そのため、本実施形態においては、ビーム整形部材70のギャップ71の大きさを、局所加熱光41の焦点位置における有効ビーム径よりも大きくすることが好ましい。そうすることで、ビーム整形部材70の上面での反射および散乱を低減することができ、局所加熱光41のエネルギーロスを抑制することが可能になる。
【0025】
以上述べたように、本実施形態では、レーザヘッド61から放射された局所加熱光41を、ビーム整形部材70のギャップ71内に入射することで、レーザヘッド61の側とは反対側から、ビーム整形された局所加熱光41bを取り出すことが可能となる。ビーム整形された局所加熱光41bは、本実施形態のビーム整形部材70を使用しない(ビーム整形されない)場合の局所加熱光に対して、後述するようにエネルギー密度を向上させることができる。このように、本実施形態では、高価な光学レンズ等を用いることなく局所加熱光をほぼ線状にビーム整形させることができる。また、気密容器を製造する分野だけでなく、その他の接合、溶接の幅広い分野においても、上述のビーム整形された局所加熱光を好適に用いることができる。
【0026】
(ステップ4)次に、レーザヘッド61とビーム整形部材70とを一体的に移動させることによって、ステップ3でビーム整形された局所加熱光41bを接合材1に照射し、対向配置されたリアプレート13と枠部材14とを接合する。このとき、ビーム整形部材70は、ギャップ71が、接合材1の枠状に延びる部分に対向するように配置され、この配置が維持されるように、接合材1の枠状に延びる方向に沿って移動する。したがって、ビーム整形された局所加熱光41bは、図5に示すように、有効ビーム径の長手方向が、接合材1の枠状に延びる方向とほぼ平行になった状態で、その方向Dに沿って移動しながら、接合材1に照射される。
【0027】
本実施形態では、図6(a)に示すように、局所加熱光41を出射するレーザヘッド(光源装置)61は、搬送ガイド60に移動可能に取り付けられ、ビーム整形部材70とアーム74で連結されている。これにより、レーザヘッド61の搬送に伴って、ビーム整形部材70をレーザヘッド61と共に搬送させることができる。一方で、ビーム整形部材を、レーザヘッドから分離して、接合材への加圧力を補助するためにガラス基材上に配置される補助加圧装置(図示せず)に取り付けることで、レーザヘッドのみを移動させてもよい。その場合、ビーム整形部材は、局所加熱光が照射される接合材に対して固定された構成となるため、その接合材の長さと同等の長さを有している必要がある。
【0028】
局所加熱光は、接合領域の近傍を局所的に加熱可能であればよく、光源としては半導体レーザが好適に用いられる。接合材1を局所的に加熱する性能やガラス基材の透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好ましい。
【0029】
なお、局所加熱光(レーザ)の走査速度、パワー、スポット径サイズ(形状)、波長、使用台数(個数)等は、工業的な生産性や接合材の温度特性に応じて任意に選択可能である。また、被接合材として、高歪点ガラス基材を使用することができる。その場合、局所加熱光41は、パワー10W〜1000W、波長808nm〜980nm、スポット径0.1mmφ〜6.0mmφ、走査速度5〜2500mm/secの範囲で適用可能である。ただし、局所加熱光の照射条件は、これらの条件に限定されず、より好ましい接合をするために、接合材の特性に合わせて調整することが望ましい。
【0030】
本実施形態では、ビーム整形された局所加熱光41bの有効ビーム径(形状)は、ビーム整形部材70のギャップ71の大きさと、ビーム整形部材70上面と接合材1との間隔75(図6(a)参照)を変化させることによって調整可能である。具体的には、有効ビーム径41bの長手方向の長さは、ビーム整形部材70上面と接合材1との間隔75を大きくすることで、長くすることができる。一方、横方向の長さ、すなわち幅は、ビーム整形部材70のギャップ71を大きくすることで、大きくすることができる。前述したように、ビーム整形された局所加熱光41bの有効ビーム径(形状)は、被接合材の特性に合わせて調整することが好ましい。すなわち、被接合材の特性に合わせてビーム整形部材70のギャップ71の大きさと、ビーム整形部材70上面と接合材1との間隔75とを調整することが、信頼性の高い気密容器を製造する上で重要である。
【0031】
(ステップ5)次に、図2(g)から図2(k)に示すように、ステップ1〜4と同様の手順で、フェースプレート12(第1のガラス基材)と枠部材14(第2のガラス基材)とを接合する。具体的にはまず、図2(g)に示すように、蛍光膜34等が形成されたフェースプレート12を準備する。次に、図2(h)に示すように、フェースプレート12の上に、ステップ1と同様にして、接合材2を枠状に形成する。次に、図2(i)に示すように、ステップ2と同様にして、フェースプレート12と枠部材14とを接合材2を介して接触させる。ここでは第3のガラス基材52は用いていない。次に、図2(j)に示すように、ステップ3およびステップ4と同様にして、ビーム整形部材70によりビーム整形された局所加熱光41bを、枠状の接合材2の各辺に沿って照射する。このようにして、図2(k)に示すように、フェースプレート12とリアプレート13が枠部材14を介して対向し、内部空間が形成された外囲器10を形成する。本実施形態において、接合材2はフェースプレート12に形成しているが、枠部材14に形成することも可能である。なお、接合材2の種類・物性、レーザ光の照射条件等はステップ1〜5と同様とすることが好ましい。
【0032】
以上説明した実施形態では、リアプレート13と枠部材14を接合し、さらにフェースプレート12と枠部材14を接合し、それによってフェースプレート12とリアプレート13の間に枠部材14が挿入された外囲器10が製造される。しかし、本発明はより一般的には、少なくとも一部がリアプレート13とフェースプレート12とからなる気密容器を製造する方法を提供するものである。従って、枠部材14の形状をした突状部があらかじめ一体形成されたガラス基材をリアプレート13またはフェースプレート12の一方として用い、他方のプレートと接合することも可能である。また、フェースプレート12と枠部材14を先に接合し、その後にリアプレート13と枠部材14を接合することも可能である。
【0033】
さらに、以上説明した実施形態は画像表示装置を対象としたが、本発明はより一般的に、第1のガラス基材と第2のガラス基材との接合に適用することができる。複数の局所加熱光を用いる場合は、局所加熱光はすべて第1のガラス基材側から照射してもよく、いくつかを第1のガラス基材側から、残りを第2のガラス基材側から照射してもよく、あるいは、すべてを第2のガラス基材側から照射してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0035】
(実施例1)
上記実施形態で説明した製造方法を適用して枠部材とリアプレートとの気密接合を行い、さらに、枠部材とフェースプレートとの気密接合を行って、真空気密容器を製造した。
【0036】
(工程1)第1のガラス基材として枠部材14を形成した。具体的にはまず、1.5mm厚の高歪点ガラス基材(旭硝子株式会社製PD200)を用意し、外形980mm×580mm×1.5mmに切り出した。次に、切削加工により、中央部の970mm×570mm×1.5mmの領域を切り出して、幅5mm、厚さ1.5mmの略四角形断面の枠部材14を成形した。次に、有機溶媒洗浄、純水リンス及びUV−オゾン洗浄によって、枠部材14の表面を脱脂した。
【0037】
次に、接合材1を準備した。本実施例では、接合材1としてガラスフリットを用いた(接合材2も同様)。ガラスフリットとしては、熱膨張係数α=79×10−7/℃、転移点357℃、軟化点420℃のBi系鉛非含有ガラスフリット(旭硝子株式会社社製BAS115)を母材とし、バインダーとして有機物を分散混合したペーストを用いた。このようなペーストを、スクリーン印刷によって、枠部材14上に、枠部材14の周長に沿って幅1mm、厚さ7μmで塗布した。次に、それを120℃で乾燥し、その後有機物をバーンアウトするため460℃で加熱、焼成し、接合材1を形成した(図2(a)および図2(b)参照)。
【0038】
(工程2)第2のガラス基材として、リアプレート13を形成した。具体的にはまず、外形1000mm×600mm×1.8mmのガラス基材(旭硝子株式会社製PD200)を用意し、有機溶媒洗浄、純水リンス及びUV−オゾン洗浄により表面を脱脂した。次に、このようにして得られたガラス基材の中央部の960mm×550mmの領域に、表面電子伝導型電子放出素子27とマトリクス配線28,29を形成した。形成した電子放出素子27は、1920×3×1080の画素数を個別に駆動可能なように、マトリクス配線28,29に接続した。次に、マトリクス配線28,29上に、Tiからなる非蒸発ゲッタ材料を、厚さ2μmでスパッタリングにより成膜し、非蒸発型ゲッタ(図示せず)を形成した。以上のようにして、第2のガラス基材であるリアプレート13を用意した。なお、真空排気を行うために、リアプレート13のマトリクス配線28,29が形成されていない領域に、ガラス基材を貫通する直径3mmの開口(図示せず)を予め設けた。
【0039】
次に、接合材1が形成された枠部材14をリアプレート13に対してアライメントしながら、接合材1がリアプレート13の電子放出素子27を備えた面と接触するように、これらの部材を仮組みした。その後、接合材1への加圧力を均一化するために、補助的に、ガラス基材52(旭硝子株式会社製PD200)を、枠部材14を覆うように配置した。ガラス基材52は、リアプレート13と同じサイズのものを用いた。さらに、加圧力を補助するために、加圧装置(図示せず)によってリアプレート13と、接合材1と、枠部材14とを加圧した。このようにして、リアプレート13と枠部材14とを接合材1を介して接触させた(図2(c)および図2(d)参照)。
【0040】
(工程3)この工程では、工程2で準備した、リアプレート13と枠部材14と接合材1とからなる仮組み構造物に、ビーム整形部材70によってビーム整形された局所加熱光(レーザ光)を照射した(図2(e)参照)。
【0041】
具体的にはまず、以下のようなビーム整形部材70を準備した。母材としてはアルミニウムを用い、反射膜73には銀をコーティングした。また、反射膜73間のギャップ71を2mmとし、ビーム整形部材70の高さ77および幅76を、それぞれ5.3cmおよび11cmとした(図4参照)。そして、図6に示すように、レーザヘッド61とビーム整形部材70とをアーム74で連結し、レーザヘッド61を、方向Dに移動できるように、搬送ガイド60に取り付けた。このとき、レーザヘッド61の先端とビーム整形部材70の上面との間隔を、局所加熱光41の焦点距離と等しい距離である13cmとした。
【0042】
次に、加工用半導体レーザ発信器を1個用意して、レーザヘッド61にファイバー(図示せず)で連結し、局所加熱光41をビーム整形部材70に入射した。このとき、ビーム整形部材70の上面(局所加熱光の焦点位置)と被接合材である接合材1との間隔75(図6(a)参照)を9.3cmとした。
【0043】
局所加熱光41の照射条件は、波長を980nm、レーザパワーを730W、走査方向Dへの走査速度を1000mm/sとした。また、局所加熱光41の焦点位置における有効ビーム径は0.8mmφであった。なお、本明細書中において、レーザパワーは、レーザヘッドから出射した全光束を積分した強度値として規定し、有効ビーム径は、レーザ光の強度がピーク強度のe-2倍以上となる範囲として規定した。
【0044】
図7は、本工程とは別に、本実施例のビーム整形部材70の使用の有無による、ビームプロファイルの差異を調べた結果である。図7によれば、本実施例のビーム整形部材70を使用することにより、レーザ光の強度が所定の強度以上である有効ビーム径が、ビーム整形部材70を使用しない場合の円形41aから楕円形41bに狭められたことが確認された。このようにして、局所加熱光がほぼ線状にビーム整形されたことが確認された。
【0045】
ビーム整形部材70によってビーム整形された局所加熱光41bの照射は、図5に示すように、接合材1の全幅が有効ビーム径内に含まれるように、局所加熱光41bを接合材1に合焦させて行った。本実施例では、ビーム整形された局所加熱光41bは、有効ビーム径を楕円形とすると、長軸方向の長さ42がおよそ20mm、短軸方向の長さ43がおよそ2mmであった(図7参照)。
【0046】
上記の工程をプレートの4つの周辺部に対して行い、リアプレート13と枠部材14との接合を完了した(図2(f)参照)。
【0047】
(工程4)次に、リアプレート13と同様に、旭硝子社株式会社製PD200をガラス基材として用いて、蛍光膜34等を具備したフェースプレート12を作成した(図2(g)参照)。
【0048】
その後、工程1〜3と同様にして、フェースプレート12と枠部材14とをビーム整形された局所加熱光41bを用いて接合し、気密容器を完成させた。本工程では、工程2で用いた補助的なガラス基材52は用いなかった。レーザ光の照射条件や走査方法は、工程3の条件と同じとした。本工程では、フリットペーストを、工程1〜3のように枠部材14に形成せずに、フェースプレート12に形成した。その他は、工程1〜3と同様にして、フェースプレート12と枠部材14とを接合した(図2(g)〜図2(k)、および図6(b)参照)。
【0049】
以上のようにして気密容器を作成し、さらに通常の方法に従ってFED装置を完成させた。完成したFEDを動作させたところ、電子放出性能および画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が、FEDに適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【0050】
(実施例2)
本実施例では、工程3において、ビーム整形部材70を加圧装置(図示せず)に連結し、レーザヘッド61のみを移動させて、ビーム整形された局所加熱光41bを接合材1に照射した。これ以外は、実施例1と同様にしてFED装置を作成した。
【0051】
完成したFEDを動作させたところ、電子放出性能および画像表示性能が長時間安定して維持され、接合部が、FEDに適用可能な程度の強度と安定した気密性とを確保していることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
1,2 接合材
12 フェースプレート
13 リアプレート
14 枠部材
41,41b 局所加熱光
70 ビーム整形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス基材と、該第1のガラス基材とともに気密容器の少なくとも一部を形成する第2のガラス基材と、を接合することを含む、気密容器の製造方法であって、
粘度が負の温度係数を有し、前記第1および第2のガラス基材よりも軟化点が低い接合材を、前記第1のガラス基材の上に枠状に形成する工程と、
前記第2のガラス基材を、前記接合材と接触させるように、前記接合材が形成された前記第1のガラス基材と対向配置する工程と、
前記接合材の枠状に延びる方向に沿って線状に、局所加熱光をビーム整形する工程と、
前記ビーム整形された局所加熱光を、前記接合材の枠状に延びる方向に沿って移動させながら該接合材に照射し、対向配置された前記第1のガラス基材と前記第2のガラス基材とを接合する工程と、
を有し、
前記局所加熱光をビーム整形する工程は、対向配置された一対の反射部材の間に形成されたギャップ内に、ビーム整形されるべき前記局所加熱光を入射することを含む、気密容器の製造方法。
【請求項2】
前記局所加熱光をビーム整形する工程は、前記接合材の枠状に延びた部分に対向するように配置した前記ギャップ内に、前記局所加熱光の光源からの全光束を入射することを含む、請求項1に記載の気密容器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の気密容器の製造方法を実施するための気密容器の製造装置であって、
前記局所加熱光を出射する光源装置と、
前記ギャップを挟んで対向配置された前記一対の反射部材を備えたビーム整形部材と、
を有する、気密容器の製造装置。
【請求項4】
前記反射部材が銀を含む、請求項3に記載の気密容器の製造装置。
【請求項5】
前記反射部材が銅を含む、請求項3に記載の気密容器の製造装置。
【請求項6】
前記反射部材がアルミニウムを含む、請求項3に記載の気密容器の製造装置。
【請求項7】
前記光源装置が、前記局所加熱光が照射される前記接合材に対して移動可能に構成され、前記ビーム整形部材が、前記光源装置と一体的に移動するように該光源装置に連結されている、請求項3から6のいずれか1項に記載の気密容器の製造装置。
【請求項8】
前記光源装置が、前記局所加熱光が照射される前記接合材に対して移動可能に構成され、前記ビーム整形部材が、前記局所加熱光が照射される前記接合材に対して固定されている、請求項3から6のいずれか1項に記載の気密容器の製造装置。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−238412(P2012−238412A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105076(P2011−105076)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】