説明

気泡入り加工卵白

【課題】増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さが得られる気泡入り加工卵白を提供する。
【解決手段】増粘多糖類を配合した気泡入り加工卵白において、前記気泡入り加工卵白が、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加し、pH4〜6である気泡入り加工卵白。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さが得られる気泡入り加工卵白に関する。
【背景技術】
【0002】
卵白を泡立てることで得られるメレンゲは、いったん口に含むと瞬時に溶けていく口溶けの良さが大きな特長であり、前記特長を活かして様々な料理に利用されている。例えば、スフレやスポンジ等の生地に練り込む料理や、大きく膨らんだ外観の見栄えの良さを活かして肉料理や魚料理のトッピングとしても広く利用されている。
【0003】
ところで、メレンゲのような気泡入り卵白を流通し消費者に提供することができれば、レストラン等で泡立てる手間が省け大変便利である。しかし、気泡入り卵白の形状は非常に不安定であり、押圧力の影響等によりすぐに気泡が潰れてしまう。したがって、気泡入り加工卵白を工業的に大量生産して用いることは非常に困難であった。
【0004】
気泡入り加工卵白の気泡安定性を高める方法として、例えば、特開2004−357643号公報(特許文献1)には、卵白に糖類、キサンタンガム及びセルロースを含有する気泡入り加工卵白の製造方法が記載されている。しかしながら、前記気泡入り加工卵白は、気泡安定性は向上しているものの、増粘多糖類特有の粘稠性の食感によりメレンゲ特有の口溶けの良さを損ねてしまっていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−357643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さが得られる気泡入り加工卵白を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、増粘多糖類を配合した気泡入り加工卵白において、前記気泡入り加工卵白が、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加し、特定のpHに調整されてなるならば、意外にも増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)増粘多糖類を配合した気泡入り加工卵白において、前記気泡入り加工卵白が、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加し、pH4〜6である気泡入り加工卵白、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さを有する気泡入り加工卵白を提供できる。従って、これをレストラン等の外食店の厨房で用いる業務用の製品として流通させることで、加工卵白の更なる需要拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の気泡入り加工卵白を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明において、気泡入り加工卵白とは、卵白を気泡の主成分とし、気泡がほぼ全体に存在し比重0.1〜0.9に調整されたものをいう。本発明で用いる前記卵白としては、特に制限はないが、具体的には、例えば、常法により鶏卵を割卵して卵黄と分離し得られた液卵白、冷凍卵白とした後に解凍したもの、乾燥卵白、更には、起泡性を備えている限り、これら卵白からリゾチーム、グルコース等の成分の一部を除去したもの、プロテアーゼ等の酵素で処理したもの等が挙げられる。
【0012】
また、本発明の気泡入り加工卵白の卵白含有量は、特に限定されないが、気泡がほぼ全体に存在し比重0.1〜0.9に調整できるように含有すれば良く、具体的には液卵白換算で50〜95%が好ましい。
【0013】
アルギン酸とは、L−グルクロン酸及びD−マンヌロン酸の2糖がピラノース型で1,4グリコシド結合したポリマーである。本発明の気泡入り加工卵白に添加するアルギン酸アルカリ金属塩は、アルギン酸のカルボキシル基の水素がアルカリ金属塩に置換されたもので、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。
【0014】
本発明の気泡入り加工卵白に添加する水溶性カルシウム塩は、清水への溶解度が1%以上(品温25℃)のものを指し、食用に供するものであれば特に限定されないが、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等を用いれば良い。特に、乳酸カルシウムを用いた場合、メレンゲ特有の口溶けの良さに加え風味にも優れ好ましい。
【0015】
本発明の気泡入り加工卵白は、配合原料として前記アルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加し両成分を接触させることにより、アルギン酸アルカリ金属塩のカルボキシル基2分子がカルシウムイオンを介して架橋結合し、アルギン酸カルシウムを生成する。
【0016】
本発明の気泡入り加工卵白におけるアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩の添加量は、本発明の効果を発揮する程度に添加すれば特に限定されないが、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩を0.1〜1%、水溶性カルシウム0.1〜1%添加することが好ましい。添加量が前記範囲より少ない場合、アルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウムの反応によるアルギン酸カルシウムの生成が十分に行われず、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さが得られ難い。前記範囲より多いと、前記アルギン酸カルシウムの生成が過剰となって、苦味を有し風味を損ねる場合がある。
【0017】
本発明の気泡入り加工卵白のpHは4〜6であり、4〜5.5が好ましい。pHが前記範囲より低いと、酸変性により泡立ちが悪くなりメレンゲ特有の口溶けの良さが得られ難い。pHが前記範囲より高いと、泡が軟らかくなり気泡安定性に劣る場合がある。
【0018】
本発明の気泡入り加工卵白に用いる酸材は、食用に供されるものであれば特に限定されず、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン、オレンジ、リンゴ等の果汁、食酢、ヨーグルト等の発酵食品等が挙げられる。
【0019】
本発明の気泡入り加工卵白は、気泡が潰れ難く安定に保つために増粘多糖類を配合する。増粘多糖類の配合量は、気泡が潰れ難くなるように適宜調節すればよいが、前記反応で生成したアルギン酸カルシウムによって加工卵白の気泡安定性が向上することから、粘稠性の食感を有する増粘多糖類の配合量を低減することができる。増粘多糖類の配合量を低減すれば、さらにメレンゲ特有の口溶けに優れた気泡入り加工卵白が得られ好ましい。具体的には、増粘多糖類の配合量は、0.2〜3%が好ましく0.2〜1%がより好ましく、0.2〜0.6%がさらに好ましい。増粘多糖類の配合量が前記範囲より少ないと、気泡が潰れてしまいメレンゲ特有の口溶けの良さが損なわれる場合がある。増粘多糖類の配合量が前記範囲より多い場合、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が強くなり本発明の効果が発揮され難い。
【0020】
本発明で用いる前記増粘多糖類としては、食用に供するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギナン、タラガム、カシアガム、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の気泡入り加工卵白は、製菓用等に用いる場合は糖類を配合してもよい。用いる糖類は、特に限定するものではないが、具体的には、例えば、グルコース、フラクトース等の単糖類、マルトース、シュークロース等の二糖類、オリゴ糖、これらに水素添加を施した還元糖等が挙げられる。前記糖類の配合量は、気泡入り加工卵白の用途等により適宜調整すればよいが、具体的には、気泡入り加工卵白に対して好ましくは1〜40%、より好ましくは5〜30%である。
【0022】
本発明の気泡入り加工卵白には、前記した原料の他に本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム等の高甘味度甘味料、クエン酸カルシウム、フマル酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等の有機酸塩、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、ポリソルベート等の乳化剤、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類、鉄、マグネシウム等の各種ミネラル類、香料、着色料、調味料及び保存料等を配合することができる。
【0023】
本発明の気泡入り加工卵白の製造方法は、特に限定されないが、例えば、まず、前記した卵白、増粘多糖類、アルギン酸アルカリ金属塩、水溶性カルシウム塩、pH4〜6に調整するための酸材、更に必要に応じて糖類等の原料を混合後、通気撹拌し気泡を生じさせることで、本発明の気泡入り加工卵白を調製する。また、より品位のばらつきを抑えるため、僅かな空気でも噛み込まないように、脱気しながら原料を均一に混合した後、通気攪拌し気泡を生じさせても良い。
【0024】
本発明の気泡入り加工卵白に含気させる方法は、特に限定されないが、例えば、プロペラ式撹拌機を用い空気を巻き込むようにして撹拌する方法や、通気専用の配管を通して加工卵白に通気を行う方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の気泡入り加工卵白の比重は、気泡がほぼ全体に存在するように比重0.1〜0.9に調整する。気泡安定性を高めるためには、一般的な製菓の比重0.1〜0.2より高めに調整することが好ましく、具体的には0.3〜0.6が好ましい。
【0026】
本発明の気泡入り加工卵白は、種々の食品に用いた際において、メレンゲ特有の口溶けの良さを有する食品を得ることができる。このような食品としては、具体的には、例えば、スフレ、ムース、ババロア、プディング、オムレツ等の生地に練り込む場合や、メレンゲ状に泡立てて、飲料、デザート、野菜サラダ等の料理のトッピングとして飾り立てる場合が挙げられる。なお、前記食品中における気泡入り加工卵白の含有量は、用いる食品により異なるが、通常5%以上であり、好ましくは10〜90%である。
【0027】
以下、本発明の実施例、比較例及び試験例を述べ、本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
下記配合原料を用意した。次に、脱気機能付き撹拌ミキサーに、まず、液卵白50%、グラニュ糖10%、キサンタンガム1%、アルギン酸ナトリウム0.3%、乳酸カルシウム0.3%、クエン酸0.25%、清水38.15%を投入し、バキュームを引いて真空度0.1MPa以下の状態を保ちながら中速で60分間攪拌し、アルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムを十分に反応させた。次に、徐々にバキュームを解除し常圧に戻してから、さらに中速で30分間含気するように攪拌することで本発明の気泡入り加工卵白を得た。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは5.0であった。
【0029】
[実施例2]
アルギン酸ナトリウムをアルギン酸カリウムに置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは5.0であった。
【0030】
[実施例3]
乳酸カルシウムを塩化カルシウムに置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは5.1であった。
【0031】
[実施例4]
クエン酸を用いてpH4.2に調整し、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。
【0032】
[実施例5]
クエン酸を用いてpH5.8に調整し、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。
【0033】
[実施例6]
キサンタンガムをグァーガムに置き換えた以外は、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは5.0であった。
【0034】
[実施例7]
アルギン酸ナトリウム0.3%及び乳酸カルシウム0.3%を、アルギン酸ナトリウム0.1%、乳酸カルシウム0.1%及び清水0.4%に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは4.9であった。
【0035】
[実施例8]
アルギン酸ナトリウム0.3%、乳酸カルシウム0.3%及び清水1.4%を、アルギン酸ナトリウム1.0%及び乳酸カルシウム1.0%に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは5.3であった。
【0036】
[比較例1]
アルギン酸ナトリウムを清水に置き換えた以外は、実施例1に準じて気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは4.9であった。
【0037】
[比較例2]
乳酸カルシウムを清水に置き換えた以外は、実施例1に準じて気泡入り加工卵白を調製した。なお、得られた気泡入り加工卵白のpHは4.8であった。
【0038】
[比較例3]
クエン酸を用いてpH3.5に調整し、実施例1に準じて気泡入り加工卵白を調製した。
【0039】
[比較例4]
クエン酸を用いてpH6.5に調整し、実施例1に準じて気泡入り加工卵白を調製した。
【0040】
[試験例1]
実施例1〜8及び比較例1〜4で調製した気泡入り加工卵白について、下記評価基準に従い食感を評価した。結果を表1に示す。なお、得られた気泡入り加工卵白の比重は、比較例3以外は全て0.45〜0.50の範囲内であり、比較例3は0.62であった。
【0041】
表中の評価記号
<メレンゲ特有の口溶けの良さ>
A:増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さに優れ好ましい。
B:増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、ややメレンゲ特有の口溶けの良さを有している。
C:増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制されず、気泡入り加工卵白の適性を損ねる。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果より、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加しpH4〜6である場合、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さを有した気泡入り加工卵白が得られた(実施例1〜8)。特に、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加しpH4〜5.5である場合、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制され、メレンゲ特有の口溶けの良さに優れ好ましかった(実施例1〜4、6〜8)。一方、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩又は水溶性カルシウム塩を添加しない場合、又はpH4〜6の範囲から外れる場合は、増粘多糖類特有の粘稠性の食感が抑制されず、気泡入り加工卵白の適性を損ねた(比較例1〜4)。
【0044】
実施例では述べていないが、水溶性カルシウム塩として乳酸カルシウムを用いた場合、塩化カルシウムを用いた場合と比べメレンゲ特有の口溶けや風味に優れより好ましかった(実施例1、3)。また、実施例には挙げていないが、キサンタンガム1.0%をキサンタンガム0.5%及び清水0.5%に置換えた以外は実施例1に準じて調製した場合、前記反応で生成したアルギン酸カルシウムによって、キサンタンガムの配合量を減らしたにも拘らず同等の気泡安定性が得られた。さらに、キサンタンガムの配合量を減らしたことでメレンゲ特有の口溶けの良さが実施例1より際立った気泡入り加工卵白が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘多糖類を配合した気泡入り加工卵白において、前記気泡入り加工卵白が、配合原料としてアルギン酸アルカリ金属塩及び水溶性カルシウム塩を添加し、pH4〜6であることを特徴とする気泡入り加工卵白。

【公開番号】特開2011−155935(P2011−155935A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21824(P2010−21824)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】