気流発生装置および移動体
【課題】電界集中を抑制し、安定して均一な気流を発生することができる気流発生装置、およびこの気流発生装置を備えた移動体を提供する
【解決手段】気流発生装置10は、固体からなる第1の誘電体20と、第1の誘電体20の一方の表面に設けられた第1の電極30と、第1の誘電体20の他方の表面に、第1の電極30に対設された第2の電極31とを備えている。また、気流発生装置10には、第1の電極30の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30aを覆うように、第1の電極30の端縁30aに沿って、固体からなる第2の誘電体40が設けられている。
【解決手段】気流発生装置10は、固体からなる第1の誘電体20と、第1の誘電体20の一方の表面に設けられた第1の電極30と、第1の誘電体20の他方の表面に、第1の電極30に対設された第2の電極31とを備えている。また、気流発生装置10には、第1の電極30の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30aを覆うように、第1の電極30の端縁30aに沿って、固体からなる第2の誘電体40が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマの作用により気流を発生させることができる気流発生装置、およびこの気流発生装置を備えた移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
流体機器や流体機器システムにおける動力低減は、省エネルギの観点から重要性が高まっている。また、流体機器や流体機器システムに起因する振動や騒音の抑制は、プラントの安全性確保、作業環境向上の観点から非常に重要である。
【0003】
本発明者らは、気体の一部をプラズマ化させ、このプラズマの作用により気流を発生させて、流れを制御する気流発生装置を発明し、その効果を確認した(例えば、特許文献1−2参照。)。
【0004】
この気流発生装置によれば、平板上に非常に薄い層状の誘起気流を適宜制御しながら発生させることが可能である。また、この発生した誘起気流により、流れの境界層の速度分布を変化させたり、層流から乱流への遷移を強制的に引き起こしたり、渦を発生または消滅させたりするなどの気流制御を実現することができる。そのため、種々の産業機器の革新的要素技術として、この気流発生装置を利用できる可能性がある。
【0005】
従来の気流発生装置では、例えば、誘電体上に短冊状の対向電極が配置され、その上に、誘電体が配置され、さらにその上に、対向電極と所定の間隔を置いて平行に、対向電極と同形の放電電極が配置されている。
【0006】
この気流発生装置において、放電電極と、この放電電極に近接配置された対向電極との間に、例えば1kV〜10kV程度の電圧を印加すると、これらの電極間に誘電体バリア放電が生じる。この誘電体バリア放電は、放電電極が配置されている誘電体の表面に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、放電電極が配置されている誘電体の表面に沿って、放電電極の対向電極側の端部から対向電極側に向かう気流が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−317656号公報
【特許文献2】特開2008−1354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来の気流発生装置において、放電電極が配置されている誘電体の表面上における放電電極の対向電極側の端部は、電極、誘電体および気体の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する。このトリプルジャンクションでは、高電界となるため、本来不要な放電が発生することがある。この放電によって、安定した誘電体バリア放電を行うことができず、均一な気流の発生を阻害することがあった。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電界集中を抑制し、安定して均一な気流を発生することができる気流発生装置、およびこの気流発生装置を備えた移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、固体からなる板状の第1の誘電体と、前記第1の誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、前記第1の誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極と、前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記第1の誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の端縁を少なくとも覆うように設けられた、固体からなる第2の誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記第1の誘電層の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させることを特徴とする気流発生装置が提供される。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、固体からなる板状の誘電体と、前記誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、前記誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記誘電体の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させる気流発生装置において、前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の一方の端縁に対向する他方の端縁が、前記第1の電極の一方の端縁よりも、前記第2の電極側に位置することを特徴とする気流発生装置が提供される。
【0012】
さらに、本発明の一態様によれば、上記した気流発生装置を外側面に備えたことを特徴とする移動体が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の気流発生装置およびこの気流発生装置を備えた移動体によれば、電界集中を抑制し、安定して均一な気流を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置を上方から見たときの平面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置の断面を示す図であり、図1のA−A断面図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置において、他の構成の第2の誘電体を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置の断面を示す図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置において、他の構成の第1の電極を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置において、トリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図7】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置において、他の構成の第2の誘電体を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図8】前方側面に気流発生装置を備えた移動体の一部の断面を模式的に示した図である。
【図9】電界解析を行った気流発生装置のモデル形状の断面を示す図である。
【図10】第1の電極の端縁の形状を曲面とした場合における電界解析の結果を示す図である。
【図11】第1の電極の両端縁を含む端面を傾斜面とした場合における電界解析の結果を示す図である。
【図12】第1の電極の端縁の形状が直角に形成されている場合における電界解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置10を上方から見たときの平面図である。図2は、本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置10の断面を示す図であり、図1のA−A断面図である。
【0017】
図1および図2に示すように、気流発生装置10は、固体からなる板状の第1の誘電体20と、第1の誘電体20の一方の表面に設けられた第1の電極30と、第1の誘電体20の他方の表面に、第1の電極30と面方向(気流Fを発生させる方向)にずらして対設された第2の電極31とを備えている。
【0018】
また、気流発生装置10には、第1の電極30の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30aを覆うように、第1の電極30の端縁30aに沿って、固体からなる第2の誘電体40が設けられている。換言すると、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分に第2の誘電体40が設けられている。
【0019】
なお、ここでは、第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面と同一平面となるように構成されているが、この構成に限られるものではない。第2の電極31は、例えば、第1の誘電体20に埋設されるように構成されても、第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面から突出するように配置されてもよい。第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面から突出するように配置された場合には、第2の電極31の突出した部分は、基材50によって覆われる。
【0020】
ここで、第1の電極30と第2の電極31は、直接接触することなく第1の誘電体20を介在させて配設されている。また、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aと、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aとの間の水平方向(図2では、左右方向)の距離は、所定の印加電圧が印加された際、両電極間において適正な誘電体バリア放電を生じることができる範囲に設定される。また、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aと、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aとの間の水平方向の距離をゼロ(0)に設定してもよい。すなわち、気流発生装置10の上方から両電極を透過して見たときに、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aと、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aとが重なるように設定してもよい。さらに、気流発生装置10の上方から両電極を透過して見たときに、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aが、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aよりも第1の電極30側に位置するように設定してもよい。すなわち、第1の誘電体20上に、第1の電極30側から第2の電極31側に向かう気流を発生させることができるように、第1の電極30と第2の電極31とが配置されていればよい。
【0021】
また、第1の誘電体20の他方の表面は、誘電体からなる基材50に面するように構成されている。換言すれば、気流発生装置10は、誘電体からなる基材50上に配置されている。なお、第2の電極31が誘電体20に埋設されるように構成される場合には、気流発生装置10を、誘電体からなる基材50上に配置する必要はない。
【0022】
また、図1に示すように、第1の電極30と第2の電極31との間は、ケーブル61を介して放電用電源60に接続されている。
【0023】
第1の誘電体20、第2の誘電体40および基材50は、例えば、樹脂材料やセラミックス材料などの誘電材料で構成される。樹脂材料としては、例えば、次に示す熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、芳香族樹脂等から選択された樹脂材料で構成される。選択される樹脂材料として、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリケトン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、セラミックス材料としては、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、ハフニア、チタニア、シリカなどを主成分としたセラミックス材料などが挙げられる。
【0025】
ここで、第2の誘電体40は、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体と同じ材料で構成される以外に、例えば、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体よりも誘電率の高い材料、または誘電率の低い材料で構成してもよい。第2の誘電体40を、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体よりも誘電率の高い材料で構成することで、誘電体40の表面の電位傾度をより均等にすることができ、尾長の長い、安定した誘電体バリア放電を形成可能であるなどの効果が得られる。一方、第2の誘電体40を、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体よりも誘電率の低い材料で構成することで、誘電体40の表面の電位傾度が電極30の端縁30b側に密になり、より低電圧からの誘電体バリア放電を形成可能であるなどの効果が得られる。
【0026】
また、第2の誘電体40は、上記した誘電体に、例えば、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、ハフニア、チタニア、シリカや、クロライト、フロゴバイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、マーガライト、テニオライト、テトラシリシックマイカなどからなるマイカ群などからなる無機充填材を含有した誘電体で構成されてもよい。また、第2の誘電体40は、上記した誘電体に、例えば、モンモリナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイトなどからなるナノ充填材(大きさの平均、すなわち積算分布(累積分布)の中位径(累積分布曲線で累積量が50%時の粒子径)が1μm以下)を含有した誘電体で構成されてもよい。これによって、例えば、耐放電特性を向上させることができる。なお、ここでいう耐放電特性とは、誘電体バリア放電によって誘電体の表面に損傷を受け難い特性である。なお、第1の誘電体20および基材50も、この無機充填材やナノ充填材を含有した誘電体で構成されてもよい。
【0027】
第1の電極30および第2の電極31は、気流発生装置10が使用される環境に応じて、公知の導電性の材料から適宜に選択される。第1の電極30および第2の電極31は、例えば、銅箔などを用いることができる。また、第1の電極30および第2の電極31として、例えば、ステンレス、インコネル(商品名)、ハステロイ(商品名)、チタン、白金、タングステン、モリブデン、ニッケル、銅、金、銀、すず、クロム等の金属や、これらの金属元素を主成分とする合金、カーボンナノチューブ、導電性セラミックス等の無機良導電体や、導電性プラスチック等の有機良導電体等を使用する環境下に応じて使用することもできる。
【0028】
特に、インコネル、ハステロイ、チタン等の耐熱または耐腐食性金属を導電体に用いた場合には、高温多湿、酸化性等の高腐食雰囲気においても長期間使用することができる電極を実現することができる。また、金属でなく導電性プラスチックを導電体に用いた場合には、製造コストを大幅に削減できるだけでなく、加工性がよくなり、複雑曲面等の複雑形状の気流発生装置が実現できる。
【0029】
放電用電源60は、電圧印加機構として機能し、第1の電極30と第2の電極31との間に電圧を印加するものである。放電用電源60からは、例えば、正極性および/または負極性の電圧を断続的に出力するパルス状の出力電圧、正極性および負極性のパルス状の電圧を交互に出力する交番電圧、交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧などが出力される。また、放電用電源60は、例えば、出力電圧に強弱をつけて出力するなど、電圧値を調整しながら第1の電極30と第2の電極31との間に電圧を印加してもよい。具体的には、例えば、所定のデューティー比で正極性および負極性の電圧を交互に断続的に出力する際、初めから2パルスは高出力とし、それに続く2パルスをその半分の出力とし、この高出力の2パルスとその半分の出力の2パルスの組み合わせを繰り返し印加する制御などが挙げられる。なお、これらに限られるものではなく、電圧の制御は、使用条件や用途などに応じて適宜に設定可能である。
【0030】
次に、第1の実施の形態の気流発生装置10の作用について説明する。
【0031】
放電用電源60から第1の電極30と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極30と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極30と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第1の誘電体20に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第1の誘電体20の一方の表面上を第1の電極30側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0032】
ここで、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体40が設けられているため、電界集中が緩和される。さらに、第2の誘電体40を設けることで、トリプルジャンクションを形成する部分が、端縁30aに対向する、第1の電極30の端縁30b側に移動する。これによって、本来放電を発生させたい第1の電極30の端縁30b側に、トリプルジャンクションを形成する部分を位置させることができる。
【0033】
上記したような大気圧下における誘電体バリア放電において、第1の電極30と第2の電極31との間に直流電圧を印加すると、放電の進展とともに第1の誘電体20の一方の表面に電荷が蓄積する。これによって、第1の電極30と第2の電極31との間の電界が緩和され、最終的には電界が空間の電離を維持できなくなり、放電が停止する。この放電の停止を防止するためには、第1の誘電体20の一方の表面に蓄電された電荷を除去することが必要である。そのためには、第1の電極30と第2の電極31との間に、パルス状の正負の両極性電圧である交番電圧や交流電圧を印加することが好ましい。このように第1の電極30と第2の電極31との間に交番電圧または交流電圧を印加することで、持続的に誘電体バリア放電を行うことが可能となる。
【0034】
上記したように、第1の実施の形態の気流発生装置10では、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体40を設けることで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0035】
なお、第1の実施の形態の気流発生装置10における第2の誘電体40の構成は、上記した構成に限られるものではない。
【0036】
図3は、本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置10において、他の構成の第2の誘電体40を備えたときの、気流発生装置10の断面を示す図である。
【0037】
図3に示すように、第2の誘電体40を、第1の誘電体20の一方の表面上に、第1の電極30の第2の電極31側の端縁を含む端面から第2の電極31側に向かって徐々に下方傾斜するように構成してもよい。この場合、第2の誘電体40は、第1の電極30の端縁30bから徐々に下方傾斜するように構成されており、第1の電極30の表面30cから段差なく連続的に第2の誘電体40の傾斜面が形成される。
【0038】
このような第2の誘電体40を備えた気流発生装置10において、放電用電源60から第1の電極30と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極30と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極30と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第2の誘電体40の傾斜面に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第2の誘電体40の傾斜面上を第1の電極30側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0039】
上記した第2の誘電体40を下方傾斜するように構成した気流発生装置10においても、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0040】
さらに、第1の電極30の表面30cから段差なく連続的に第2の誘電体40の傾斜面を形成することで、段差を有する場合に発生する気流の乱れを抑制することができるとともに、この気流の乱れに伴って発生する、エネルギ損失、騒音などを低減することができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11の断面を示す図である。なお、第1の実施の形態の気流発生装置10の構成と同一部分には同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
【0042】
第2の実施の形態の気流発生装置11では、第1の実施の形態の気流発生装置10と第1の電極の形状が異なる。ここでは、この形状の異なる第1の電極について主に説明する。
【0043】
図4に示すように、気流発生装置11は、固体からなる板状の第1の誘電体20と、第1の誘電体20の一方の表面に設けられた第1の電極70と、第1の誘電体20の他方の表面に、第1の電極30と面方向(気流Fを発生させる方向)にずらして対設された第2の電極31とを備えている。
【0044】
また、図4に示すように、第1の電極70の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70aは、曲面で構成されている。すなわち、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接しているトリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面としている。
【0045】
ここで、第1の電極70の端縁70aは、曲面で構成されていればよいが、図4に示す、第1の電極70の端縁70aの断面において、端縁70aの外郭の曲線が懸垂曲線となるように構成されることがさらに好ましい。端縁70aの外郭の曲線が懸垂曲線となるように構成されることで、等電位線の急激な変化を抑制することができ、安定した誘電体バリア放電を行うことができる。これによって、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0046】
また、図4には、第1の電極70の端縁70aを曲面で構成した一例を示しているが、この曲面は、例えば、第1の電極70の端縁70aに対向する端縁70bから端縁70aに亘って形成されてもよい。
【0047】
なお、第1の電極70を構成する材料は、第1の実施の形態の気流発生装置10における第1の電極30を構成する材料と同じである。
【0048】
次に、第2の実施の形態の気流発生装置11の作用について説明する。
【0049】
放電用電源60から第1の電極70と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極70と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極70と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第1の誘電体20に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第1の誘電体20の一方の表面上を第1の電極70側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0050】
ここで、トリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面としているため、電界集中が緩和される。また、トリプルジャンクションを形成する部分における部分放電を防止することができる。
【0051】
上記したように、第2の実施の形態の気流発生装置11では、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とすることで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0052】
なお、第2の実施の形態の気流発生装置11における第1の電極70の構成は、上記した構成に限られるものではない。
【0053】
すなわち、第1の電極70は、第1の電極70の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極の端縁70aに対向する端縁70bが、第1の電極70の端縁70aよりも、第2の電極31側に位置するように構成されていればよい。
【0054】
図5は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11において、他の構成の第1の電極70を備えたときの、気流発生装置11の断面を示す図である。
【0055】
図5に示すように、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を、端縁70bから端縁70aに向かって傾斜する傾斜面70cで構成してもよい。この傾斜面70cは、第1の電極70の端縁70b側が、第2の電極31側に張り出すように構成されている。
【0056】
このような第1の電極70を備えた気流発生装置11において、放電用電源60から第1の電極70と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極70と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極70と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第1の誘電体20の一方の表面に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第1の誘電体20の一方の表面上を第1の電極70側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0057】
この際、鋭角となる、第1の電極70の端縁70bに電界が集中して、この端縁70bから放電が発生しやすくなる。一方、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接しているトリプルジャンクションを形成する部分における電界集中を緩和することができる。
【0058】
上記した、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面が、端縁70bから端縁70aに向かって傾斜する傾斜面70cで構成された気流発生装置11においても、トリプルジャンクションを形成する部分における電界集中を緩和することができる。一方、トリプルジャンクションを形成する部分と対向する側の、第1の電極70の端縁70bにおいて電界を集中させることができるので、安定した誘電体バリア放電を行うことができる。これによって、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0059】
ここで、図6は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11において、トリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体80を備えたときの、気流発生装置11の断面を示す図である。図7は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11において、他の構成の第2の誘電体80を備えたときの、気流発生装置11の断面を示す図である。
【0060】
図6に示すように、第1の実施の形態の気流発生装置10で例示した場合と同様に、第1の電極70の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70aを覆うように、第1の電極70の端縁70aに沿って、固体からなる第2の誘電体80を設けてもよい。すなわち、トリプルジャンクションを形成する部分に第2の誘電体80を設けてもよい。
【0061】
このように、トリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体80を設けることで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0062】
また、図7に示すように、第1の実施の形態の気流発生装置10で例示した場合と同様に、第2の誘電体80を、第1の誘電体20の一方の表面上に、第1の電極70の第2の電極31側の端縁を含む端面から第2の電極31側に向かって徐々に下方傾斜するように構成してもよい。この場合、第2の誘電体80は、第1の電極70の端縁70bから徐々に下方傾斜するように構成されており、第1の電極70の表面70dから段差なく連続的に第2の誘電体80の傾斜面が形成される。
【0063】
このように、第2の誘電体80を下方傾斜するように構成することで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0064】
また、第1の電極70の表面70dから段差なく連続的に第2の誘電体80の傾斜面を形成することで、段差を有する場合に発生する気流の乱れを抑制することができるとともに、この気流の乱れに伴って発生する、エネルギ損失、騒音などを低減することができる。
【0065】
なお、上記した第2の誘電体80は、図5に示した、傾斜面70cを有する第1の電極70を備える気流発生装置11に設けられてもよい。この場合においても、第2の誘電体80を備えることで得られる上記した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
(移動体への応用)
ここでは、上記した第1および第2の実施の形態の気流発生装置10、11を移動体100の空気力学的特性を制御する手段として用いた場合の一例を示す。なお、ここでは、移動体100として、新幹線などの鉄道車両を例示して説明する。
【0067】
図8は、前方側面に気流発生装置10を備えた移動体100の一部の断面を模式的に示した図である。なお、ここでは、第1の実施の形態の気流発生装置10を備えた場合を示している。
【0068】
図8に示すように、気流発生装置10は、移動体100の左右の側面に固着されている。このように気流発生装置10を配設することで、移動体100の側面に誘電体バリア放電を生じさせ、気流Fを発生させることができる。ここで、気流発生装置10は、移動体100の側面を流れる流体(空気)と平行にかつ同方向に気流Fを発生させるように配設されている。
【0069】
気体中を推進する移動体100の表面には、気体との摩擦による抗力が生じる。移動体100の側面の一部で流れが剥離するなどして抗力に不均衡が生じると、進行方向に対して横方向(左右方向)の安定性を損なう。そこで、図8に示すように、移動体100の側面に気流発生装置10を設けて駆動させると、移動体100の側面を流れる気体の境界層付近に高速の気流Fを発生させることができる。これにより、境界層の速度分布を変化させ、気体の剥離を抑制することが可能となり、抗力係数を変化させることができる。この作用により、移動体100の進行方向に対して左右の抗力差を減じるように、気流発生装置10によって気流を発生させることで、移動体100の横方向の安定性を維持することができる。また、気流発生装置10によって移動体100の進行方向に対して左右の抗力差を制御することで、移動体100の進路を変更することも可能となる。
【0070】
このように気流発生装置10によって境界層に、安定した均一な気流を発生させ、例えば、移動体100の側面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、移動体100の構造を変えることなく、移動体100における抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。また、気流発生装置10における、第1の電極30と第2の電極31との間に印加する電圧を制御することで、発生する気流の速さを任意に制御することができる。これによって、流体(空気)の流れの状態に追随して、リアルタイムで空気力学的特性の制御をすることが可能となり、革新的な空気力学的特性制御技術が実現可能となる。
【0071】
なお、ここでは、移動体100として、新幹線などの鉄道車両を例示したが、他の高速で移動する移動体にも、第1および第2の実施の形態の気流発生装置10、11を適用して、例えば、空気力学的特性の制御をすることができる。
【0072】
(電界解析による検討)
次に、図4に示すように、トリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とすることで、電界集中を緩和することができることを具体的に説明する。さらに、図5に示すように、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を、端縁70bから端縁70aに向かって傾斜する傾斜面70cで構成することで、電界集中を緩和することができることを具体的に説明する。
【0073】
ここでは、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした場合、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとした場合における等電位線を電界解析によって求めた。なお、比較のため、第1の電極70の端縁70aの形状が直角に形成されている場合についても、電界解析を行った。
【0074】
また、電界解析計算は、ElecNet(INFOLYTICA社製)の計算ソフトを使用して行った。
【0075】
図9は、電界解析を行った気流発生装置のモデル形状の断面を示す図である。なお、図9には、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした気流発生装置のモデル形状の断面を示している。
【0076】
ここで、第1の電極70の気流発生方向の長さLaおよび第2の電極31の気流発生方向の長さLbを10mmとした。第1の電極70の厚さtaおよび第2の電極31の厚さtbを2mmとした。第2の電極31は、第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面と同一平面となるように設けられた。第1の誘電体20の厚さtcを3mmとした。第1の電極70と第2の電極31との間の距離Lcを2mmとした。
【0077】
また、第1の電極70の端縁70aの曲面の曲率半径Raを2mmとし、第2の電極31の第1の電極70側の端縁を曲率半径Rbが0.5mmの曲面とした。さらに、第1の誘電体20の比誘電率を2、気流発生装置の周囲の空気層の比誘電率を1とした。そして、第1の電極70と第2の電極31との間に0.1kVの電圧を印加した条件とした。
【0078】
なお、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとしたモデルでは、傾斜角度が45度となるように傾斜面70cを設定した。
【0079】
図10は、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした場合における電界解析の結果を示す図である。図11は、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとした場合における電界解析の結果を示す図である。図12は、第1の電極70の端縁70aの形状が直角に形成されている場合における電界解析の結果を示す図である。
【0080】
図10に示すように、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした場合には、第1の電極70の端縁70aの近傍において、等電位線の間隔は曲面に沿ってほぼ均一となることがわかった。なお、この場合の、最大電界強度は、第1の電極70の端縁70aが第1の誘電体20に接触する部分Mで得られたが、その値は、第1の電極70の端縁70aの近傍の曲面に沿う部分の電界強度とほぼ等しい値であった。これにより、トリプルジャンクションを形成する部分における電界集中は緩和されることが明らかとなった。
【0081】
図11に示すように、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとした場合には、鋭角となる、第1の電極70の端縁70bにおいて等電位線が密となり、電界集中が発生することが明らかとなった。そして、この第1の電極70の端縁70bにおいて、最大電界強度が得られた。これにより、この端縁70bから放電が発生しやすいことがわかった。一方、トリプルジャンクションを形成する部分における電界集中は緩和されることが明らかとなった。
【0082】
図12に示すように、第1の電極70の端縁70aの形状が直角に形成されている場合には、トリプルジャンクションを形成する部分Mにおいて等電位線が密となり、電界集中が発生することが明らかとなった。そして、この部分Mにおいて、最大電界強度が得られた。
【0083】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0084】
10,11…気流発生装置、20…第1の誘電体、30,70…第1の電極、30a,30b,31a,70a,70b…端縁、30c,70d…表面、31…第2の電極、40,80…第2の誘電体、50…基材、60…放電用電源、61…ケーブル、70c…傾斜面、100…移動体、F…気流。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマの作用により気流を発生させることができる気流発生装置、およびこの気流発生装置を備えた移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
流体機器や流体機器システムにおける動力低減は、省エネルギの観点から重要性が高まっている。また、流体機器や流体機器システムに起因する振動や騒音の抑制は、プラントの安全性確保、作業環境向上の観点から非常に重要である。
【0003】
本発明者らは、気体の一部をプラズマ化させ、このプラズマの作用により気流を発生させて、流れを制御する気流発生装置を発明し、その効果を確認した(例えば、特許文献1−2参照。)。
【0004】
この気流発生装置によれば、平板上に非常に薄い層状の誘起気流を適宜制御しながら発生させることが可能である。また、この発生した誘起気流により、流れの境界層の速度分布を変化させたり、層流から乱流への遷移を強制的に引き起こしたり、渦を発生または消滅させたりするなどの気流制御を実現することができる。そのため、種々の産業機器の革新的要素技術として、この気流発生装置を利用できる可能性がある。
【0005】
従来の気流発生装置では、例えば、誘電体上に短冊状の対向電極が配置され、その上に、誘電体が配置され、さらにその上に、対向電極と所定の間隔を置いて平行に、対向電極と同形の放電電極が配置されている。
【0006】
この気流発生装置において、放電電極と、この放電電極に近接配置された対向電極との間に、例えば1kV〜10kV程度の電圧を印加すると、これらの電極間に誘電体バリア放電が生じる。この誘電体バリア放電は、放電電極が配置されている誘電体の表面に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、放電電極が配置されている誘電体の表面に沿って、放電電極の対向電極側の端部から対向電極側に向かう気流が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−317656号公報
【特許文献2】特開2008−1354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来の気流発生装置において、放電電極が配置されている誘電体の表面上における放電電極の対向電極側の端部は、電極、誘電体および気体の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する。このトリプルジャンクションでは、高電界となるため、本来不要な放電が発生することがある。この放電によって、安定した誘電体バリア放電を行うことができず、均一な気流の発生を阻害することがあった。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電界集中を抑制し、安定して均一な気流を発生することができる気流発生装置、およびこの気流発生装置を備えた移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、固体からなる板状の第1の誘電体と、前記第1の誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、前記第1の誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極と、前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記第1の誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の端縁を少なくとも覆うように設けられた、固体からなる第2の誘電体とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記第1の誘電層の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させることを特徴とする気流発生装置が提供される。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、固体からなる板状の誘電体と、前記誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、前記誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極とを備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記誘電体の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させる気流発生装置において、前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の一方の端縁に対向する他方の端縁が、前記第1の電極の一方の端縁よりも、前記第2の電極側に位置することを特徴とする気流発生装置が提供される。
【0012】
さらに、本発明の一態様によれば、上記した気流発生装置を外側面に備えたことを特徴とする移動体が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の気流発生装置およびこの気流発生装置を備えた移動体によれば、電界集中を抑制し、安定して均一な気流を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置を上方から見たときの平面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置の断面を示す図であり、図1のA−A断面図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置において、他の構成の第2の誘電体を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置の断面を示す図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置において、他の構成の第1の電極を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置において、トリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図7】本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置において、他の構成の第2の誘電体を備えたときの、気流発生装置の断面を示す図である。
【図8】前方側面に気流発生装置を備えた移動体の一部の断面を模式的に示した図である。
【図9】電界解析を行った気流発生装置のモデル形状の断面を示す図である。
【図10】第1の電極の端縁の形状を曲面とした場合における電界解析の結果を示す図である。
【図11】第1の電極の両端縁を含む端面を傾斜面とした場合における電界解析の結果を示す図である。
【図12】第1の電極の端縁の形状が直角に形成されている場合における電界解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置10を上方から見たときの平面図である。図2は、本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置10の断面を示す図であり、図1のA−A断面図である。
【0017】
図1および図2に示すように、気流発生装置10は、固体からなる板状の第1の誘電体20と、第1の誘電体20の一方の表面に設けられた第1の電極30と、第1の誘電体20の他方の表面に、第1の電極30と面方向(気流Fを発生させる方向)にずらして対設された第2の電極31とを備えている。
【0018】
また、気流発生装置10には、第1の電極30の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30aを覆うように、第1の電極30の端縁30aに沿って、固体からなる第2の誘電体40が設けられている。換言すると、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分に第2の誘電体40が設けられている。
【0019】
なお、ここでは、第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面と同一平面となるように構成されているが、この構成に限られるものではない。第2の電極31は、例えば、第1の誘電体20に埋設されるように構成されても、第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面から突出するように配置されてもよい。第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面から突出するように配置された場合には、第2の電極31の突出した部分は、基材50によって覆われる。
【0020】
ここで、第1の電極30と第2の電極31は、直接接触することなく第1の誘電体20を介在させて配設されている。また、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aと、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aとの間の水平方向(図2では、左右方向)の距離は、所定の印加電圧が印加された際、両電極間において適正な誘電体バリア放電を生じることができる範囲に設定される。また、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aと、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aとの間の水平方向の距離をゼロ(0)に設定してもよい。すなわち、気流発生装置10の上方から両電極を透過して見たときに、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aと、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aとが重なるように設定してもよい。さらに、気流発生装置10の上方から両電極を透過して見たときに、第2の電極31の第1の電極30側の端縁31aが、第1の電極30の第2の電極31側の端縁30aよりも第1の電極30側に位置するように設定してもよい。すなわち、第1の誘電体20上に、第1の電極30側から第2の電極31側に向かう気流を発生させることができるように、第1の電極30と第2の電極31とが配置されていればよい。
【0021】
また、第1の誘電体20の他方の表面は、誘電体からなる基材50に面するように構成されている。換言すれば、気流発生装置10は、誘電体からなる基材50上に配置されている。なお、第2の電極31が誘電体20に埋設されるように構成される場合には、気流発生装置10を、誘電体からなる基材50上に配置する必要はない。
【0022】
また、図1に示すように、第1の電極30と第2の電極31との間は、ケーブル61を介して放電用電源60に接続されている。
【0023】
第1の誘電体20、第2の誘電体40および基材50は、例えば、樹脂材料やセラミックス材料などの誘電材料で構成される。樹脂材料としては、例えば、次に示す熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、芳香族樹脂等から選択された樹脂材料で構成される。選択される樹脂材料として、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリケトン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0024】
また、セラミックス材料としては、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、ハフニア、チタニア、シリカなどを主成分としたセラミックス材料などが挙げられる。
【0025】
ここで、第2の誘電体40は、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体と同じ材料で構成される以外に、例えば、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体よりも誘電率の高い材料、または誘電率の低い材料で構成してもよい。第2の誘電体40を、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体よりも誘電率の高い材料で構成することで、誘電体40の表面の電位傾度をより均等にすることができ、尾長の長い、安定した誘電体バリア放電を形成可能であるなどの効果が得られる。一方、第2の誘電体40を、第1の誘電体20および基材50を構成する誘電体よりも誘電率の低い材料で構成することで、誘電体40の表面の電位傾度が電極30の端縁30b側に密になり、より低電圧からの誘電体バリア放電を形成可能であるなどの効果が得られる。
【0026】
また、第2の誘電体40は、上記した誘電体に、例えば、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、ハフニア、チタニア、シリカや、クロライト、フロゴバイト、レピドライト、マスコバイト、バイオタイト、パラゴナイト、マーガライト、テニオライト、テトラシリシックマイカなどからなるマイカ群などからなる無機充填材を含有した誘電体で構成されてもよい。また、第2の誘電体40は、上記した誘電体に、例えば、モンモリナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ステブンサイト、ノントロナイトなどからなるナノ充填材(大きさの平均、すなわち積算分布(累積分布)の中位径(累積分布曲線で累積量が50%時の粒子径)が1μm以下)を含有した誘電体で構成されてもよい。これによって、例えば、耐放電特性を向上させることができる。なお、ここでいう耐放電特性とは、誘電体バリア放電によって誘電体の表面に損傷を受け難い特性である。なお、第1の誘電体20および基材50も、この無機充填材やナノ充填材を含有した誘電体で構成されてもよい。
【0027】
第1の電極30および第2の電極31は、気流発生装置10が使用される環境に応じて、公知の導電性の材料から適宜に選択される。第1の電極30および第2の電極31は、例えば、銅箔などを用いることができる。また、第1の電極30および第2の電極31として、例えば、ステンレス、インコネル(商品名)、ハステロイ(商品名)、チタン、白金、タングステン、モリブデン、ニッケル、銅、金、銀、すず、クロム等の金属や、これらの金属元素を主成分とする合金、カーボンナノチューブ、導電性セラミックス等の無機良導電体や、導電性プラスチック等の有機良導電体等を使用する環境下に応じて使用することもできる。
【0028】
特に、インコネル、ハステロイ、チタン等の耐熱または耐腐食性金属を導電体に用いた場合には、高温多湿、酸化性等の高腐食雰囲気においても長期間使用することができる電極を実現することができる。また、金属でなく導電性プラスチックを導電体に用いた場合には、製造コストを大幅に削減できるだけでなく、加工性がよくなり、複雑曲面等の複雑形状の気流発生装置が実現できる。
【0029】
放電用電源60は、電圧印加機構として機能し、第1の電極30と第2の電極31との間に電圧を印加するものである。放電用電源60からは、例えば、正極性および/または負極性の電圧を断続的に出力するパルス状の出力電圧、正極性および負極性のパルス状の電圧を交互に出力する交番電圧、交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧などが出力される。また、放電用電源60は、例えば、出力電圧に強弱をつけて出力するなど、電圧値を調整しながら第1の電極30と第2の電極31との間に電圧を印加してもよい。具体的には、例えば、所定のデューティー比で正極性および負極性の電圧を交互に断続的に出力する際、初めから2パルスは高出力とし、それに続く2パルスをその半分の出力とし、この高出力の2パルスとその半分の出力の2パルスの組み合わせを繰り返し印加する制御などが挙げられる。なお、これらに限られるものではなく、電圧の制御は、使用条件や用途などに応じて適宜に設定可能である。
【0030】
次に、第1の実施の形態の気流発生装置10の作用について説明する。
【0031】
放電用電源60から第1の電極30と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極30と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極30と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第1の誘電体20に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第1の誘電体20の一方の表面上を第1の電極30側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0032】
ここで、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体40が設けられているため、電界集中が緩和される。さらに、第2の誘電体40を設けることで、トリプルジャンクションを形成する部分が、端縁30aに対向する、第1の電極30の端縁30b側に移動する。これによって、本来放電を発生させたい第1の電極30の端縁30b側に、トリプルジャンクションを形成する部分を位置させることができる。
【0033】
上記したような大気圧下における誘電体バリア放電において、第1の電極30と第2の電極31との間に直流電圧を印加すると、放電の進展とともに第1の誘電体20の一方の表面に電荷が蓄積する。これによって、第1の電極30と第2の電極31との間の電界が緩和され、最終的には電界が空間の電離を維持できなくなり、放電が停止する。この放電の停止を防止するためには、第1の誘電体20の一方の表面に蓄電された電荷を除去することが必要である。そのためには、第1の電極30と第2の電極31との間に、パルス状の正負の両極性電圧である交番電圧や交流電圧を印加することが好ましい。このように第1の電極30と第2の電極31との間に交番電圧または交流電圧を印加することで、持続的に誘電体バリア放電を行うことが可能となる。
【0034】
上記したように、第1の実施の形態の気流発生装置10では、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極30の端縁30a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体40を設けることで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0035】
なお、第1の実施の形態の気流発生装置10における第2の誘電体40の構成は、上記した構成に限られるものではない。
【0036】
図3は、本発明に係る第1の実施の形態の気流発生装置10において、他の構成の第2の誘電体40を備えたときの、気流発生装置10の断面を示す図である。
【0037】
図3に示すように、第2の誘電体40を、第1の誘電体20の一方の表面上に、第1の電極30の第2の電極31側の端縁を含む端面から第2の電極31側に向かって徐々に下方傾斜するように構成してもよい。この場合、第2の誘電体40は、第1の電極30の端縁30bから徐々に下方傾斜するように構成されており、第1の電極30の表面30cから段差なく連続的に第2の誘電体40の傾斜面が形成される。
【0038】
このような第2の誘電体40を備えた気流発生装置10において、放電用電源60から第1の電極30と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極30と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極30と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第2の誘電体40の傾斜面に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第2の誘電体40の傾斜面上を第1の電極30側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0039】
上記した第2の誘電体40を下方傾斜するように構成した気流発生装置10においても、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0040】
さらに、第1の電極30の表面30cから段差なく連続的に第2の誘電体40の傾斜面を形成することで、段差を有する場合に発生する気流の乱れを抑制することができるとともに、この気流の乱れに伴って発生する、エネルギ損失、騒音などを低減することができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11の断面を示す図である。なお、第1の実施の形態の気流発生装置10の構成と同一部分には同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
【0042】
第2の実施の形態の気流発生装置11では、第1の実施の形態の気流発生装置10と第1の電極の形状が異なる。ここでは、この形状の異なる第1の電極について主に説明する。
【0043】
図4に示すように、気流発生装置11は、固体からなる板状の第1の誘電体20と、第1の誘電体20の一方の表面に設けられた第1の電極70と、第1の誘電体20の他方の表面に、第1の電極30と面方向(気流Fを発生させる方向)にずらして対設された第2の電極31とを備えている。
【0044】
また、図4に示すように、第1の電極70の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70aは、曲面で構成されている。すなわち、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接しているトリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面としている。
【0045】
ここで、第1の電極70の端縁70aは、曲面で構成されていればよいが、図4に示す、第1の電極70の端縁70aの断面において、端縁70aの外郭の曲線が懸垂曲線となるように構成されることがさらに好ましい。端縁70aの外郭の曲線が懸垂曲線となるように構成されることで、等電位線の急激な変化を抑制することができ、安定した誘電体バリア放電を行うことができる。これによって、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0046】
また、図4には、第1の電極70の端縁70aを曲面で構成した一例を示しているが、この曲面は、例えば、第1の電極70の端縁70aに対向する端縁70bから端縁70aに亘って形成されてもよい。
【0047】
なお、第1の電極70を構成する材料は、第1の実施の形態の気流発生装置10における第1の電極30を構成する材料と同じである。
【0048】
次に、第2の実施の形態の気流発生装置11の作用について説明する。
【0049】
放電用電源60から第1の電極70と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極70と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極70と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第1の誘電体20に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第1の誘電体20の一方の表面上を第1の電極70側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0050】
ここで、トリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面としているため、電界集中が緩和される。また、トリプルジャンクションを形成する部分における部分放電を防止することができる。
【0051】
上記したように、第2の実施の形態の気流発生装置11では、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接している部分、いわゆるトリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とすることで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0052】
なお、第2の実施の形態の気流発生装置11における第1の電極70の構成は、上記した構成に限られるものではない。
【0053】
すなわち、第1の電極70は、第1の電極70の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極の端縁70aに対向する端縁70bが、第1の電極70の端縁70aよりも、第2の電極31側に位置するように構成されていればよい。
【0054】
図5は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11において、他の構成の第1の電極70を備えたときの、気流発生装置11の断面を示す図である。
【0055】
図5に示すように、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を、端縁70bから端縁70aに向かって傾斜する傾斜面70cで構成してもよい。この傾斜面70cは、第1の電極70の端縁70b側が、第2の電極31側に張り出すように構成されている。
【0056】
このような第1の電極70を備えた気流発生装置11において、放電用電源60から第1の電極70と第2の電極31との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極70と第2の電極31との間に放電が生じる。この放電に伴って放電プラズマが生成される。ここで、第1の電極70と第2の電極31との間に第1の誘電体20を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電にはいたらず、安定に維持することが可能な誘電体バリア放電が生じる。また、誘電体バリア放電は、第1の誘電体20の一方の表面に沿って形成される沿面放電となる。この誘電体バリア放電によって、第1の誘電体20の一方の表面上を第1の電極70側から第2の電極31側に流れる気流Fが発生する。
【0057】
この際、鋭角となる、第1の電極70の端縁70bに電界が集中して、この端縁70bから放電が発生しやすくなる。一方、第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70a、第1の誘電体20の一方の表面、および気体(例えば、空気)の3つの物質が接しているトリプルジャンクションを形成する部分における電界集中を緩和することができる。
【0058】
上記した、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面が、端縁70bから端縁70aに向かって傾斜する傾斜面70cで構成された気流発生装置11においても、トリプルジャンクションを形成する部分における電界集中を緩和することができる。一方、トリプルジャンクションを形成する部分と対向する側の、第1の電極70の端縁70bにおいて電界を集中させることができるので、安定した誘電体バリア放電を行うことができる。これによって、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0059】
ここで、図6は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11において、トリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体80を備えたときの、気流発生装置11の断面を示す図である。図7は、本発明に係る第2の実施の形態の気流発生装置11において、他の構成の第2の誘電体80を備えたときの、気流発生装置11の断面を示す図である。
【0060】
図6に示すように、第1の実施の形態の気流発生装置10で例示した場合と同様に、第1の電極70の第2の電極31側の端縁で、かつ第1の誘電体20の一方の表面側に位置する第1の電極70の端縁70aを覆うように、第1の電極70の端縁70aに沿って、固体からなる第2の誘電体80を設けてもよい。すなわち、トリプルジャンクションを形成する部分に第2の誘電体80を設けてもよい。
【0061】
このように、トリプルジャンクションを形成する部分に、第2の誘電体80を設けることで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0062】
また、図7に示すように、第1の実施の形態の気流発生装置10で例示した場合と同様に、第2の誘電体80を、第1の誘電体20の一方の表面上に、第1の電極70の第2の電極31側の端縁を含む端面から第2の電極31側に向かって徐々に下方傾斜するように構成してもよい。この場合、第2の誘電体80は、第1の電極70の端縁70bから徐々に下方傾斜するように構成されており、第1の電極70の表面70dから段差なく連続的に第2の誘電体80の傾斜面が形成される。
【0063】
このように、第2の誘電体80を下方傾斜するように構成することで、電界集中を緩和することができる。これによって、安定した誘電体バリア放電を行うことができるので、安定した均一な気流Fを発生させることができる。
【0064】
また、第1の電極70の表面70dから段差なく連続的に第2の誘電体80の傾斜面を形成することで、段差を有する場合に発生する気流の乱れを抑制することができるとともに、この気流の乱れに伴って発生する、エネルギ損失、騒音などを低減することができる。
【0065】
なお、上記した第2の誘電体80は、図5に示した、傾斜面70cを有する第1の電極70を備える気流発生装置11に設けられてもよい。この場合においても、第2の誘電体80を備えることで得られる上記した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
(移動体への応用)
ここでは、上記した第1および第2の実施の形態の気流発生装置10、11を移動体100の空気力学的特性を制御する手段として用いた場合の一例を示す。なお、ここでは、移動体100として、新幹線などの鉄道車両を例示して説明する。
【0067】
図8は、前方側面に気流発生装置10を備えた移動体100の一部の断面を模式的に示した図である。なお、ここでは、第1の実施の形態の気流発生装置10を備えた場合を示している。
【0068】
図8に示すように、気流発生装置10は、移動体100の左右の側面に固着されている。このように気流発生装置10を配設することで、移動体100の側面に誘電体バリア放電を生じさせ、気流Fを発生させることができる。ここで、気流発生装置10は、移動体100の側面を流れる流体(空気)と平行にかつ同方向に気流Fを発生させるように配設されている。
【0069】
気体中を推進する移動体100の表面には、気体との摩擦による抗力が生じる。移動体100の側面の一部で流れが剥離するなどして抗力に不均衡が生じると、進行方向に対して横方向(左右方向)の安定性を損なう。そこで、図8に示すように、移動体100の側面に気流発生装置10を設けて駆動させると、移動体100の側面を流れる気体の境界層付近に高速の気流Fを発生させることができる。これにより、境界層の速度分布を変化させ、気体の剥離を抑制することが可能となり、抗力係数を変化させることができる。この作用により、移動体100の進行方向に対して左右の抗力差を減じるように、気流発生装置10によって気流を発生させることで、移動体100の横方向の安定性を維持することができる。また、気流発生装置10によって移動体100の進行方向に対して左右の抗力差を制御することで、移動体100の進路を変更することも可能となる。
【0070】
このように気流発生装置10によって境界層に、安定した均一な気流を発生させ、例えば、移動体100の側面と気流との境界層の流れの構造を変化させることで、移動体100の構造を変えることなく、移動体100における抗力係数などの空気力学的特性を制御することができる。また、気流発生装置10における、第1の電極30と第2の電極31との間に印加する電圧を制御することで、発生する気流の速さを任意に制御することができる。これによって、流体(空気)の流れの状態に追随して、リアルタイムで空気力学的特性の制御をすることが可能となり、革新的な空気力学的特性制御技術が実現可能となる。
【0071】
なお、ここでは、移動体100として、新幹線などの鉄道車両を例示したが、他の高速で移動する移動体にも、第1および第2の実施の形態の気流発生装置10、11を適用して、例えば、空気力学的特性の制御をすることができる。
【0072】
(電界解析による検討)
次に、図4に示すように、トリプルジャンクションを形成する部分における、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とすることで、電界集中を緩和することができることを具体的に説明する。さらに、図5に示すように、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を、端縁70bから端縁70aに向かって傾斜する傾斜面70cで構成することで、電界集中を緩和することができることを具体的に説明する。
【0073】
ここでは、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした場合、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとした場合における等電位線を電界解析によって求めた。なお、比較のため、第1の電極70の端縁70aの形状が直角に形成されている場合についても、電界解析を行った。
【0074】
また、電界解析計算は、ElecNet(INFOLYTICA社製)の計算ソフトを使用して行った。
【0075】
図9は、電界解析を行った気流発生装置のモデル形状の断面を示す図である。なお、図9には、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした気流発生装置のモデル形状の断面を示している。
【0076】
ここで、第1の電極70の気流発生方向の長さLaおよび第2の電極31の気流発生方向の長さLbを10mmとした。第1の電極70の厚さtaおよび第2の電極31の厚さtbを2mmとした。第2の電極31は、第2の電極31の一方の表面が第1の誘電体20の他方の表面と同一平面となるように設けられた。第1の誘電体20の厚さtcを3mmとした。第1の電極70と第2の電極31との間の距離Lcを2mmとした。
【0077】
また、第1の電極70の端縁70aの曲面の曲率半径Raを2mmとし、第2の電極31の第1の電極70側の端縁を曲率半径Rbが0.5mmの曲面とした。さらに、第1の誘電体20の比誘電率を2、気流発生装置の周囲の空気層の比誘電率を1とした。そして、第1の電極70と第2の電極31との間に0.1kVの電圧を印加した条件とした。
【0078】
なお、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとしたモデルでは、傾斜角度が45度となるように傾斜面70cを設定した。
【0079】
図10は、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした場合における電界解析の結果を示す図である。図11は、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとした場合における電界解析の結果を示す図である。図12は、第1の電極70の端縁70aの形状が直角に形成されている場合における電界解析の結果を示す図である。
【0080】
図10に示すように、第1の電極70の端縁70aの形状を曲面とした場合には、第1の電極70の端縁70aの近傍において、等電位線の間隔は曲面に沿ってほぼ均一となることがわかった。なお、この場合の、最大電界強度は、第1の電極70の端縁70aが第1の誘電体20に接触する部分Mで得られたが、その値は、第1の電極70の端縁70aの近傍の曲面に沿う部分の電界強度とほぼ等しい値であった。これにより、トリプルジャンクションを形成する部分における電界集中は緩和されることが明らかとなった。
【0081】
図11に示すように、第1の電極70の両端縁70a、70bを含む端面を傾斜面70cとした場合には、鋭角となる、第1の電極70の端縁70bにおいて等電位線が密となり、電界集中が発生することが明らかとなった。そして、この第1の電極70の端縁70bにおいて、最大電界強度が得られた。これにより、この端縁70bから放電が発生しやすいことがわかった。一方、トリプルジャンクションを形成する部分における電界集中は緩和されることが明らかとなった。
【0082】
図12に示すように、第1の電極70の端縁70aの形状が直角に形成されている場合には、トリプルジャンクションを形成する部分Mにおいて等電位線が密となり、電界集中が発生することが明らかとなった。そして、この部分Mにおいて、最大電界強度が得られた。
【0083】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0084】
10,11…気流発生装置、20…第1の誘電体、30,70…第1の電極、30a,30b,31a,70a,70b…端縁、30c,70d…表面、31…第2の電極、40,80…第2の誘電体、50…基材、60…放電用電源、61…ケーブル、70c…傾斜面、100…移動体、F…気流。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体からなる板状の第1の誘電体と、
前記第1の誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、
前記第1の誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極と、
前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記第1の誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の端縁を少なくとも覆うように設けられた、固体からなる第2の誘電体と
を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記第1の誘電層の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させることを特徴とする気流発生装置。
【請求項2】
前記第2の誘電体が、前記第1の誘電体の一方の表面上に、前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁を含む端面から前記第2の電極側に向かって徐々に下方傾斜するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の気流発生装置。
【請求項3】
固体からなる板状の誘電体と、
前記誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、
前記誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極と
を備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記誘電体の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させる気流発生装置において、
前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の一方の端縁に対向する他方の端縁が、前記第1の電極の一方の端縁よりも、前記第2の電極側に位置することを特徴とする気流発生装置。
【請求項4】
前記第1の電極の一方の端縁が曲面で構成されていることを特徴とする請求項3記載の気流発生装置。
【請求項5】
前記第1の電極の一方および他方の端縁を含む端面が、前記他方の端縁から前記一方の端縁に向かって傾斜する傾斜面で構成されていることを特徴とする請求項3記載の気流発生装置。
【請求項6】
前記第1の電極の一方の端縁を少なくとも覆うように設けられた、固体からなる第2の誘電体をさらに具備することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の気流発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の気流発生装置を外側面に備えたことを特徴とする移動体。
【請求項1】
固体からなる板状の第1の誘電体と、
前記第1の誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、
前記第1の誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極と、
前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記第1の誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の端縁を少なくとも覆うように設けられた、固体からなる第2の誘電体と
を備え、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記第1の誘電層の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させることを特徴とする気流発生装置。
【請求項2】
前記第2の誘電体が、前記第1の誘電体の一方の表面上に、前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁を含む端面から前記第2の電極側に向かって徐々に下方傾斜するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の気流発生装置。
【請求項3】
固体からなる板状の誘電体と、
前記誘電体の一方の表面に設けられた第1の電極と、
前記誘電体の他方の表面に、前記第1の電極と面方向にずらして対設された第2の電極と
を備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を印加して、前記誘電体の一方の表面近傍の気体の一部をプラズマ化することにより気流を発生させる気流発生装置において、
前記第1の電極の前記第2の電極側の端縁で、かつ前記誘電体の一方の表面側に位置する前記第1の電極の一方の端縁に対向する他方の端縁が、前記第1の電極の一方の端縁よりも、前記第2の電極側に位置することを特徴とする気流発生装置。
【請求項4】
前記第1の電極の一方の端縁が曲面で構成されていることを特徴とする請求項3記載の気流発生装置。
【請求項5】
前記第1の電極の一方および他方の端縁を含む端面が、前記他方の端縁から前記一方の端縁に向かって傾斜する傾斜面で構成されていることを特徴とする請求項3記載の気流発生装置。
【請求項6】
前記第1の電極の一方の端縁を少なくとも覆うように設けられた、固体からなる第2の誘電体をさらに具備することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の気流発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の気流発生装置を外側面に備えたことを特徴とする移動体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−41889(P2011−41889A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190832(P2009−190832)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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