説明

気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法

【課題】製造後の炭素繊維に含まれる鉄系不純物を乾式で効率よく除去する気相法炭素繊維の鉄系不純物除去方法を提供する。
【解決手段】炭素源と鉄系触媒を用いて製造された気相法炭素繊維中の鉄系不純物の乾式の除去方法であって、炭素繊維と鉄系不純物とを含む炭素繊維の凝集体を解砕手段3により解砕し、次いで、解砕された炭素繊維を、電磁石を具備する鉄系不純物除去手段4に供給して鉄系不純物を除去処理する気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法に関する。特に本発明は、酸溶液などを使用することなく、乾式による気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの炭素繊維(以下、単に炭素繊維と言う)は、高い導電性を有することから、リチウムイオン電池などへの添加剤としての利用が期待されている。
しかしながら、リチウムイオン電池に用いるためには、鉄系不純物などを極力除去する必要がある。
このような炭素繊維は、主に鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属を単独で、または組合せて触媒として使用し、炭素源を高温で熱分解させる気相法で製造されており、炭素繊維中に触媒金属が含まれる。
前記気相法炭素繊維の製法のうち、触媒金属として有機鉄化合物を用い、それを炭素繊維製造装置に供給し、熱分解させてナノレベルの微細な金属鉄を析出させ、それを核にして炭素繊維を生成させ(特許文献1)、ついで、2000℃以上の高温で熱処理することにより、炭素系不純物および鉄系不純物を気散させる方法(特許文献2)が、反応効率の良さ、炭素繊維の結晶性の高さ、純度の点で、注目されている。
この方法の場合、炭素繊維内部に含まれる鉄金属は通常、数質量ppm(以下、単にppmと言う。) 程度であり、最終製品にそのまま使用されても問題ない。
【0003】
ところで、前記の気相法炭素繊維の製造方法においては、熱分解により析出した鉄が炭素繊維製造装置内で分散せずに凝集すると、炭素繊維の生成の核にならずに、生成した炭素繊維凝集体の表面や、凝集体間に不純物として存在するようになる。また、その後の熱処理で、一旦蒸発した鉄系化合物が凝縮して約50μm以上の粗大な粒子となり、炭素繊維製造装置内に残留することにより、前記と同様に、炭素繊維内に不純物として存在するようになる。
これらの不純物は炭素繊維の純度を落とし、不都合をきたすために除去されなければならないものである。
さらに、炭素繊維製造装置が鉄系金属製の場合、炭素繊維が前記製造装置の表面と接することにより生じた磨耗鉄粉や腐食部分が剥離した不純物が炭素繊維に含まれるようになり、これらの炭素繊維製造装置由来の鉄系不純物も除去する必要がある。
これら鉄系不純物の炭素繊維中の含有量は、多いときには100ppm以上となる。
【0004】
このような炭素繊維の凝集体に含まれる鉄系不純物を除去する方法は、これまで提案が見当たらない。これに対して、炭素繊維内部の鉄系金属を除去する方法は、これまでに提案がある。例えば、未精製のカーボンナノチューブに酸を加えて鉄系不純物を溶解除去したり、前記カーボンナノチューブを液体中で粉砕し、磁場中を通過させたりする方法(特許文献3)、カーボンナノチューブを含む粗生成物に硫酸と硝酸カリウムの混合溶液を加えて加熱する方法(特許文献4)、不純物を含むカーボンナノチューブを100〜150℃で酸に露出する方法(特許文献5)などである。
しかしながら、これらの方法は、本発明とは異なる部分の鉄系金属を除去する方法であり、しかも、酸溶液を使用することから、洗浄、乾燥工程が必要となり、炭素繊維の製造工程が煩雑であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−54998号公報
【特許文献2】特開平8−60444号公報
【特許文献3】特許第2682486号明細書
【特許文献4】特許第3874269号明細書
【特許文献5】特許第3887315号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の実情を鑑みてなされたものであって、気相法炭素繊維中の鉄系不純物を乾式で効率よく除去する気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねて本発明を完成させたものである。すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.炭素源と鉄系触媒を用いて製造された気相法炭素繊維中の鉄系不純物の乾式の除去方法であって、炭素繊維と鉄系不純物とを含む炭素繊維の凝集体を解砕手段により解砕し、次いで、解砕された炭素繊維を、電磁石を具備する鉄系不純物除去手段に供給して鉄系不純物を除去処理することを特徴とする気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
2.炭素繊維の凝集体が2750℃以上の温度で加熱処理されたものである上記1に記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
3.炭素源がベンゼンである上記1または2に記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
4.鉄系触媒が有機鉄化合物である上記1〜3のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
5.解砕後の炭素繊維が目開き1.0〜5.0mmのフィルターを通過するものである上記1〜4のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
6.解砕手段が、フィルターで囲繞された攪拌羽根を有する粉砕機である上記1〜5のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物除去方法。
7.鉄系不純物除去手段が、該鉄系不純物除去手段を分解することなく、該鉄系不純物除去手段が有する電磁石に捕集された鉄系不純物を空気吸引または圧送手段により除去する機能を備えたものである上記1〜6のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
8.鉄系不純物除去手段により鉄系不純物が除去処理された炭素繊維を、再度鉄系不純物除去手段に供給する上記1〜7のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
9.鉄系不純物除去手段により鉄系不純物が除去処理された炭素繊維を、再度解砕手段に供給し、解砕と鉄系不純物の除去処理とを繰返す上記1〜7のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
10.鉄系不純物除去処理後の炭素繊維の鉄系不純物の含有量が30質量ppm未満である上記1〜9のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、気相法炭素繊維中の鉄系不純物を、乾式で効率よく除去する気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法の一実施態様を示すフローシートである。
【図2】本発明の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法に使用される鉄系不純物除去手段の主要部の一実施態様を示す透視側面図である。
【図3】本発明の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法に使用される鉄系不純物除去手段に使用されるスクリーンの一実施態様を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
本発明は、炭素源と鉄系触媒を用いて製造された気相法炭素繊維中の鉄系不純物の乾式の除去方法であって、炭素繊維と鉄系不純物とを含む炭素繊維の凝集体を解砕手段により解砕し、次いで、解砕された炭素繊維を、電磁石を具備する鉄系不純物除去手段に供給して鉄系不純物を除去処理する気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法である。
図1は本発明の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法の一実施態様を示すフローシートである。ここで、1は気相法炭素繊維製造装置、2は上部ホッパー、3は解砕手段、4は鉄系不純物除去手段、5は下部ホッパー、6はブロア(バグフィルターを前置)、7は炭素繊維を上部ホッパー2に戻す循環ライン、8は精製された炭素繊維取出ライン、9は鉄不純物貯蔵容器、10は空気供給ラインを、それぞれ示す。
【0011】
先ず、気相法炭素繊維が気相法炭素繊維製造装置1で製造される。
上記のように、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの炭素繊維は、主に鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属を単独で、または組合せて触媒として使用し、アーク放電法、気相法、またはレーザー蒸着法などで製造されている。いずれの方法によっても、気相法炭素繊維中に鉄系不純物が含まれれば、本発明の対象となる。特に、前記の通り、触媒金属として有機鉄化合物を、キャリアガスとして水素を用い、それを炭素繊維製造装置に吹き込み、熱分解させてナノレベルの微細な金属鉄を析出させ、それを核にして炭素繊維を生成させる。その後、2750℃以上の高温で熱処理することにより炭素系不純物および鉄系不純物を気散させて得られる高純度かつ高結晶性の気相法炭素繊維が、本発明の対象として好適である。
以下に、このような気相法炭素繊維を対象とする場合について説明する。
【0012】
このような気相法炭素繊維の製造に使用する触媒として、有機鉄化合物を使用する。有機鉄化合物として、酢酸鉄、フェロセン、鉄カルボニルなどが挙げられる。また、助触媒として、硫黄および硫黄化合物を添加することもできる。
一方、炭素繊維の製造に使用される炭素源としては、たとえば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、プロピレン、イソプロピレン、n−ブタン、ブタジエン、ブテン、ペンタン、ペンテン、n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、またはこれらの混合物を挙げることができる。これらのうち、液体であり、触媒である有機鉄化合物を溶解しやすく、取扱いが容易であるという理由で、特にベンゼンが好ましい。
【0013】
このような有機鉄化合物および炭素源を、キャリアガスとして水素を用い、前記有機鉄化合物存在下に、約1200℃以上の温度で接触させると、有機鉄化合物が熱分解してナノレベルサイズの金属鉄が生成し、その鉄表面が活性点となって、金属鉄を取り囲んで炭素繊維が成長する。こうして生成した炭素繊維は、通常、凝集体を形成する。
このようにして得られた反応直後の炭素繊維は、炭素系不純物や鉄系不純物を含んでおり、かつ、その結晶性も低い。
そこで、さらに、熱処理することにより、純度の高い炭素繊維を製造することができる。
熱処理の温度は、2750℃以上が好ましく、この場合、炭素繊維の結晶性も高めることができる。
【0014】
本発明の対象となる炭素繊維の平均繊維直径は、50〜200nm程度で、鉄含有量は、50ppm未満がそれぞれ好ましく、鉄含有量は、特に30ppm未満がより好ましい。
平均繊維直径が50nm未満では、炭素繊維の凝集体が分散しにくいと言う理由で、さらに、平均繊維直径が200nmを超えると、リチウムイオン電池の添加剤として使用する場合、添加量が多くなると言う理由で、いずれも好ましくない。
また、本発明の対象となる炭素繊維のBET比表面積は、10〜40m2/gが好ましい。BET比表面積が、10m2/g未満では、リチウムイオン電池の添加剤として使用する場合、添加量が多くなるという問題がある。BET比表面積が40m2/gを超えると、炭素繊維が凝集しやすく、分散しにくいという問題がある。
さらに、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維外径)は、40〜1000程度、好ましくは50〜500が望ましい。
X線回折法のd002は、炭素繊維の黒鉛層の面間隔を示すもので、0.345nm以下、好ましくは0.343nm以下とする。
以上の測定値は、いずれも実施例の項に記載した方法で測定された値である。
【0015】
こうして得られた炭素繊維の凝集体は、好ましくは、次いで2750℃以上の温度で加熱処理して、前記凝集体に含まれる炭素系不純物や、核にならなかった鉄微粒子を蒸発させて除去する。この加熱は、前記炭素繊維製造装置内で行ってもよいが、通常は、専用の加熱装置を別途設置して実施する。
【0016】
次いで、このようにして製造された鉄系不純物を含む炭素繊維の凝集体は重力や空気などのキャリアガスなどによって、上部ホッパー2に送られる。この上部ホッパー2は、最低1回分の精製をバッチ式で行う容量を備える。その後、炭素繊維は上部ホッパー2から解砕手段3に送られる。
解砕手段3は、凝集体を解体して粉体とすることにより、含有される鉄系不純物の除去を効率的に行えるようにするものである。
ここで用いられる解砕手段3の具体例としては、炭素繊維を前記の大きさに解砕することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、パワーミル、ボールミル、超音波解砕機、グラインダー、ジェットミル、スタンプミルなどが挙げられる。
特に、パワーミルとして市販されている解砕機には、解砕羽根がフィルターで囲繞された機種があり、この機種を採用すると、炭素繊維がフィルターの目開き以下にまで解砕された粉体となって排出され、解砕と篩分けとを同時にできるので、好ましい。
フィルターの目開きは、好ましくは1.0〜5.0mm、より好ましくは1.3〜3.0mmである。このようにすると、鉄系不純物除去手段4による鉄系不純物と炭素繊維との分離が効率的に行われるので、好ましい。図1には、前記パワーミルを使用した例を示す。
なお、本発明の解砕手段は、前記パワーミルに限定されず、一般的な解砕機を使用して凝集体を解砕した後、目開き1.0〜5.0mm、好ましくは1.3〜3.0mmのフィルターでふるって、特定粒径以下の粉体を得るようにしてもよい。
こうして、解砕された炭素繊維と鉄系不純物とを含む粉体は重力や空気などのキャリアガスなどによって、鉄系不純物除去手段4に送られる。
【0017】
鉄系不純物除去手段4には、磁性材料を層状に並べたスクリーンと、それを取り巻くコイルを具備する。このスクリーンは、電磁石となる磁性材料が横方向に3.0〜7.0mm、好ましくは4.5〜7.0mmの間隔をおいて、かつ多層状に配列されている。この間隔が炭素繊維や鉄系不純物の通路32を形成する。磁性材料としては、鉄やステンレス鋼、ケイ素鋼、パーマロイ、フェライトなどがあげられ、形状としては、これらの材料のいずれかから製造された一定間隔のスリットを多数有する目皿や、グリッドなどが例示される。
鉄系不純物除去手段4の主要部の一実施態様の透視側面図を図2に示す。
図2において、21はスクリーン、22はコイル、23はスクリーン固定手段、24はスクリーン載置用突起部、25は鉄系不純物の排出手段27と炭素繊維の排出手段26を切り替える切替手段としての二方切替弁、28はスクリーンに振動を与えるマグハンマー、29は炭素繊維粉体の入口を、それぞれ表す。
また、図3は、スクリーン21の一実施態様を示す平面図であり、31は同心円状に層状に堆積されたステンレス鋼製の目皿状磁性材料、32は通路を表す。
図2のスクリーンは、図3の平面図に示すような、一定間隔からなる通路32を有するステンレス鋼製の目皿状磁性材料31が、上下方向に多数層をなして設けられているが、場合によっては、この磁性材料31は一段でもよい。複数列の場合には、炭素繊維や鉄系不純物の通路32を形成するように、磁性材料間の通路32は、磁性材料層の上から下まで連続するように設ける、こうすると、解砕された炭素繊維粉体を鉄系不純物除去手段4の入口29から供給することにより、前記粉体が重力によりスクリーン21の通路32を移動することができるので、好ましい。なお、スクリーン21を構成する目皿状磁性材料31は、通路32が垂直に貫通するように設けてもよく、また、螺旋階段状に少しづつ(15〜60度程度)ねじれるように設けてもよい。螺旋階段状とすることにより、炭素繊維粉体が磁性材料と接触する機会が増加するので、好ましい。
図2では、上記のスクリーン21は、鉄系不純物除去手段4の内部に設けられたスクリーン載置用突起部24に静置される。
【0018】
こうして容器内に設置されたスクリーン21は、スクリーンを囲繞して設けられるコイル22に電圧を印加することにより電磁石となるが、本発明の場合、電磁石は10,000ガウス以上の磁力を有するものとすることが好ましい。具体的には、例えば、日本マグネティックス社製のCG−150HHH、CG−250HHH,CG−210、日本エリーズマグネチックス社製のDVF−50−6、DVF−50−9、DVF−50−12などを使用することができる。
前記において、磁性体の磁力が10,000ガウス未満となると、鉄系不純物を吸着する力が弱くなり、上記の大粒径の鉄系不純物が炭素繊維に残留する可能性があるので、好ましくない。
なお、磁選装置として永久磁石を設けると、鉄系不純物が直接磁石に吸着しないように、磁石を非磁性体でカバーし、鉄系不純物を分離する際には、カバーを磁石から遠ざけて消磁する必要があり、磁選装置を解体しなければならないので、好ましくない。
【0019】
前記鉄系不純物除去手段4において、コイルへの電圧印加を行うと共に、二方切替弁25が炭素繊維の排出手段26側にシフトされた状態で、好ましくは解砕された炭素繊維がこの鉄系不純物除去手段4の入口29から供給されると、炭素繊維は重力により電磁石となったスクリーン21に設けられた通路32を通じて落下していく。その落下の途中で、鉄系不純物は、電磁石によって捕捉される。一方、触媒鉄を含有する炭素繊維は、磁石にほとんど吸いつけられることなく、そのまま通路を落下していき、炭素繊維の排出手段26を介して下部ホッパー5に収集される。こうして鉄系不純物が除去された炭素繊維は、炭素繊維取出ライン8から取出され、箱詰めして製品として出荷される。
【0020】
上部ホッパー2からの炭素繊維の供給が終了すると、次いで電磁石上に捕捉された鉄系不純物の剥離を行う。このときには、二方切替弁25を鉄系不純物の排出手段27側に切り替える。加えて、鉄系不純物除去手段4には、図1に示したように、上流側に設けられた空気供給ライン10と、鉄系不純物の排出手段27に連絡されたブロア6(図1の場合、バグフィルターを前置)とを具備する空気吸引手段が設けられているので、この空気吸引手段により、スクリーン21周辺の空気を一定以上の流速で吸引することが好ましい。
コイルへの印加を中止してスクリーン21を消磁すると、捕捉されていた鉄系不純物がスクリーン21から分離し、重力および吸引空気により通路32を介して落下して、鉄系不純物の排出手段27に送られ、次いで鉄系不純物貯蔵容器9に収集される。
なお、図2では、好ましい例として、スクリーン21からの鉄系不純物の剥離をさらに加速するために、マグハンマー28を設け、それを駆動してスクリーン21に振動を与えるようになされている。
以上のように、本発明では、空気吸引手段により、鉄系不純物除去手段4を分解することなく、磁性体上の鉄系不純物を除去することができる。
このような鉄系不純物除去手段4により、100μm以上、好ましくは50μm以上、さらに好ましくは、30μm以上の鉄系不純物が除去される。
【0021】
炭素繊維中の鉄系不純物の含有量は少ないほど好ましく、一回で精製程度が不十分であれば、上記の解砕と鉄系不純物の分離を複数回行うことが好ましい。
すなわち、鉄系不純物除去手段4により鉄系不純物が除去処理された炭素繊維を、再度鉄系不純物除去手段4に供給するか、または、再度解砕手段3に供給し、鉄系不純物の除去処理を繰返すことが好ましい。
具体的には、鉄系不純物除去手段4から排出された炭素繊維を、循環ライン7を介して前記の上部ホッパー2に返送することにより、再度、解砕手段3と鉄系不純物除去手段4に供給する。なお、別の循環ライン(図示せず)を介して、直接鉄系不純物除去手段4に返送してもよいが、特に解砕手段3に返送することにより、電磁石により捕捉されやすくなって、精製度が大幅に向上するので好ましい。炭素繊維を循環して精製している間は、炭素繊維製造装置1からの炭素繊維の供給は中断する。
このような鉄系不純物の除去は、炭素繊維中の鉄系不純物の含有量が30ppm未満となるまで行うのが好ましい。
【0022】
なお、上記説明において、鉄系不純物の排出手段27と炭素繊維の排出手段26を切り替える手段として、二方切替弁25を用いて説明したが、切替手段としては、これに限定されない。
スクリーン21の据付方法も、図2に示した突起部24を設けることに限定されず、例えば、鉄系不純物除去手段4上部から吊下手段を設けてもよい。特にマグハンマー28など、スクリーン21に振動を与える手段を設ける場合には、スクリーン21が振動する余地を残すように設置することが肝要である。
また、空気供給ラインにポンプを設け、この空気圧送手段により、スクリーン21周辺の空気を一定以上の流速で圧送してもよい。
さらに、鉄系不純物除去手段4を2系列以上並列して設けると、効率よく鉄系不純物を除去して炭素繊維を精製することができる。この場合にも、炭素繊維を循環して精製している間は、炭素繊維製造装置1からの炭素繊維の供給は中断する。
なお、炭素繊維と接する部分をステンレス鋼や合成樹脂製とするか、または、ステンレス鋼や合成樹脂で金属基材をライニングすると、装置からの鉄系不純物の擦下物や腐食生成物の炭素繊維への混入がなくなるか、または軽減されるので好ましい。
さらに、前記空気吸引手段では、10m/秒以上の流速で鉄系不純物除去手段内の空気を吸引する能力を有するブロアを設けることが好ましく、前記空気圧送手段では、10m/秒以上の流速で鉄系不純物除去手段内の空気を圧送する能力を有するポンプを設けることが好ましい。
【0023】
以上より、鉄系不純物の含有量が30ppm未満のレベルにまで精製された炭素繊維が得られるが、こうして得られた炭素繊維は高品質であり、リチウムイオン電池に用いられる他、航空宇宙産業やスポーツ・レジャー産業用の素材としても利用することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
本実施例で採用した炭素繊維の測定法は以下の通りである。
繊維外径
気相法炭素繊維の平均直径は走査型電子顕微鏡の2万倍像を30視野分観察し、画像解析装置(ニレコ社製LUZEX−AP)により300本の繊維外径を計測して数平均繊維外径を求めた。
アスペクト比
アスペクト比は、平均繊維長/平均繊維外径により求めた。平均繊維長は、走査型電子顕微鏡の2千倍像を30視野分観察し、画像解析装置により300本の繊維長を計測し、数平均を取って求めた。
BET比表面積
BET比表面積は、窒素ガス吸着法(ユアサアイオニクス社製NOVA1200)により測定した。
嵩密度
1.00gの気相法炭素繊維を100mLメスシリンダーで体積を測定し、1.00/体積から嵩密度(g/cm3)を求めた。
鉄含有量
蛍光X線分析計(リガク社製RIX−2100)により求めた。
X線回折法のd002
002はSiを内部標準とし粉末X線回折(リガク社製Geigerflex)により計測した。
鉄系不純物の数
気相法炭素繊維100g、精製水1.5L、ネオジウム磁石(マグナ社製5mmφ×3.0mm)を2L蓋付きポリ容器に入れ、30分間、室温で、振とう機(アズワン社製ビッグローターBR−2)で振とうさせた。磁石を取出し、精製水で濯いだ後、ろ紙で表面水を拭った。磁石表面に付着した鉄系不純物をカーボンテープに全量転写し、金蒸着後、SEM/EPMA(HORIBA社製EMAX MODEL 6051−H)で、鉄系不純物の大きさと数を測定した。
【0025】
実施例1
炭素源としてベンゼン、触媒としてフェロセン、キャリアガスとして水素ガスを用いて、公知の方法(特開平08-060444号 実施例1参照)に従い、気相法炭素繊維を製造した。さらに、特開2005−264134号に記載の方法で、2800℃で、1時間黒鉛化処理した。
このようにして得られた気相法炭素繊維は、平均繊維外径が150nm、平均繊維長さが9.0μm、アスペクト比が60、BET比表面積が13m2/g、嵩密度が0.08g/cm3、d002が0.339nm、鉄含有量が29ppmであった。それから、気相法炭素繊維中の鉄系不純物の数は、50μm以上の鉄系不純物が10個以上あった。
こうして製造された気相法炭素繊維を、解砕工程に送った。解砕手段として、P−3型パワーミル(ダルトン社製)を用いた。解砕条件は、回転数4000rpm、スクリーンは、1.5mm(ヘリボーン型)の目開きのものを使用した。装置内に前記炭素繊維の凝集体を20kg/hの速度で供給した。
次いで、鉄系不純物除去工程に送り、精製を行った。スクリーンとして、中心付近の磁力が14000ガウスの磁性材料を有するCG−210(日本マグネティックス社製)を使用した。スクリーンの磁性材料はステンレス鋼で、5mm間隔のものを縦方向に23列並べた。各磁性材料層は、45度の角度でずらして設置した。磁性材料層(スクリーン21)の長さは、440mmであった。前記スクリーンを、コイルに印加することにより励磁して電磁石となし、炭素繊維の精製を行った。
鉄系不純物除去工程終了後、鉄系不純物除去手段下部の二方切替弁を製品側から鉄系不純物排出側に切替えた後、電磁石への電圧印加を除去することにより電磁石をOFFとした。その後、ブロアにより、10分間吸引することにより、スクリーンに付着した鉄系不純物を除去した。スクリーンの鉄系不純物の除去後、ブロアを停止し、再度スクリーンを励磁し、二方切替弁を鉄系不純物排出側から製品側に切替えた後、再度、解砕工程、磁選工程を行なった。これらの工程を合計5回繰り返し、精製された炭素繊維を得た。
この気相法炭素繊維中の鉄含有量は25ppmであり、50μm以上の鉄系不純物の数は0個であった。
以上の通り、この精製された気相法炭素繊維は、このまま出荷しても十分な品質を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
炭素繊維の製造後に含まれる鉄系不純物を、乾式で効率よく除去する本発明の鉄系不純物除去方法を採用することにより、高品質の炭素繊維を効率よく生産することができ、こうして得られた炭素繊維は、リチウムイオン電池の他、航空宇宙産業やスポーツ・レジャー産業用の素材として利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 気相法炭素繊維製造装置
2 上部ホッパー
3 解砕手段
4 鉄系不純物除去手段
5 下部ホッパー
6 ブロア(バグフィルター前置)
7 炭素繊維を上部ホッパー2に戻す循環ライン
8 精製された炭素繊維取出ライン
9 鉄不純物貯蔵容器
10 空気供給ライン
21 スクリーン
22 コイル
23 スクリーン固定治具
24 スクリーン載置用突起部
25 炭素繊維の排出手段26と鉄系不純物の排出手段27を切り替える切替手段(二方切替弁)
26 炭素繊維の排出手段
27 鉄系不純物の排出手段
28 マグハンマー
29 炭素繊維粉体の入口
31 ステンレス鋼製の目皿状磁性材料
32 通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源と鉄系触媒を用いて製造された気相法炭素繊維中の鉄系不純物の乾式の除去方法であって、炭素繊維と鉄系不純物とを含む炭素繊維の凝集体を解砕手段により解砕し、次いで、解砕された炭素繊維を、電磁石を具備する鉄系不純物除去手段に供給して鉄系不純物を除去処理することを特徴とする気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項2】
炭素繊維の凝集体が2750℃以上の温度で加熱処理されたものである請求項1に記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項3】
炭素源がベンゼンである請求項1または2に記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項4】
鉄系触媒が有機鉄化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項5】
解砕後の炭素繊維が目開き1.0〜5.0mmのフィルターを通過するものである請求項1〜4のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項6】
解砕手段が、フィルターで囲繞された攪拌羽根を有する粉砕機である請求項1〜5のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物除去方法。
【請求項7】
鉄系不純物除去手段が、該鉄系不純物除去手段を分解することなく、該鉄系不純物除去手段が有する電磁石に捕集された鉄系不純物を空気吸引または圧送手段により除去する機能を備えたものである請求項1〜6のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項8】
鉄系不純物除去手段により鉄系不純物が除去処理された炭素繊維を、再度鉄系不純物除去手段に供給する請求項1〜7のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項9】
鉄系不純物除去手段により鉄系不純物が除去処理された炭素繊維を、再度解砕手段に供給し、解砕と鉄系不純物の除去処理とを繰返す請求項1〜7のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。
【請求項10】
鉄系不純物除去処理後の炭素繊維の鉄系不純物の含有量が30質量ppm未満である請求項1〜9のいずれかに記載の気相法炭素繊維中の鉄系不純物の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−174418(P2010−174418A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20316(P2009−20316)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(390016078)昭和エンジニアリング株式会社 (9)
【Fターム(参考)】