説明

水−ワックスエマルションおよびそのコーティング用途

水性エマルションを調製するために、ヒマシ、ヤシおよびダイズのような硬化植物油から調製したワックスを用いる。天然由来の再生可能な資源から得られる本発明のワックスは、アニオン性、カチオン性および非イオン性条件下で乳化され、約45%固形物までの固形物含量を有するエマルションを生じる。板紙のような繊維性セルロース製品をコーティングするために用いた場合、当該エマルションの性能は石油由来のワックスを含有するエマルションと類似していた。本発明のワックスは低いヨウ素価(2〜5の間)および約120〜200°F(メトラー滴点)の融点を有する。これらのワックスは、脂肪酸が主にステアリン酸またはリシノール酸であるトリグリセリドを含む。本発明のワックスはコーティング、光沢剤、接着剤、紙製品、板紙および他の製造用途に用いられるエマルションの製造において、石油由来のまたは高価な天然のワックスの代替品として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
植物資源由来のワックスを用いて調製されるエマルションは、紙や木などの繊維性セルロース製品を耐湿性とする目的でこれらに塗布されるなど多くの用途に用いられており、石膏シート製品にも用いられうる。これらのエマルションは、耐湿性を改善する目的で果実コーティングとして用いられる。このエマルションは、水、植物ワックスおよび界面活性物質を含む。ヒマシ油、ヤシまたはダイズなどの源由来の植物ワックスは、約136〜200°Fの範囲の融点を有するトリグリセリドを含む。前記エマルションの固形物含量は、エマルションの全重量に対して45%と高いものであってもよい。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
ワックスベースのエマルションは、例えば、製品に対して耐湿性を付与する目的で、紙、段ボール紙、クラフト紙、ボール紙などの繊維性セルロース製品に塗布されるといった極めて多くの工業的な用途に用いられている。ワックスエマルションは通常、約15%〜40%(重量比)のワックスを含み、ワックスの重量に対して約5%〜25%の界面活性物質が添加されている。エマルションは、取扱い、塗布および他の水性ベース成分との配合が容易であるために溶融ワックスの塗布に代えて用いられる。いったん調製されるとエマルションは長期間に亘って安定したままで(すなわち、自身の成分に分離せずに)存在しうる。この安定性により、製造者からエンドユーザーへの輸送、貯蔵、および特定用途での使用などの因子が容易となる。これに対し、溶融ワックスを塗布するには当該ワックスが必要に応じて溶融状態に維持されて溶融している必要があり、溶融状態で塗布される必要がある。
【0003】
ワックスエマルションは一般的に、バッチ反応器で、またはホモジナイザーを用いて製造される。エマルションの調製に用いられる装置は、完全な混合を達成するために反応物を撹拌でき、反応物および生成物の十分な加熱および冷却を維持するために適切な温度コントロールをできることが重要である。一般的に、ホモジナイザーを用いると、従来の撹拌バッチ反応器での混合を用いて調製されたエマルションと比較して、最終エマルション製品における固形物の割合が高くなることが知られている。これらの発明のエマルションの製造には、双方のタイプの装置がよく用いられている。
【0004】
特定の用途には実用的な程度に高いワックス固形物含量を有するエマルションを用いることが好ましい。例えば、紙製品、果実または医薬などの商品をワックスで処理する際には、処理製品の乾燥時間を最小化することが好ましく、この目的を達成するための1つの手段は高いワックス固形物含量を有するエマルションを用いることである。エマルションが長距離に亘って輸送されなければならない場合には、体積を低減させることにより輸送コストの削減の助けになる。水性のエマルションはまた、環境汚染または健康および安全に対する悪影響のために、有機溶媒ベースのエマルション(または分散液)よりも好ましい。
【0005】
ワックスベースのエマルションは一般的に、通常は後にワックスエマルションと配合される他の成分に対して適合性とする目的で、特定のイオン性電荷を有するように配合される。ワックスエマルションは、ワックスエマルションの作製に用いられる乳化剤(一般的には、界面活性剤のような界面活性物質である)に応じて、アニオン性、非イオン性またはカチオン性のいずれであってもよい。
【0006】
乳化されるワックスは、ワックスのポリマーに結合した、カルボキシル、酸またはエステル基のような官能基をいくつか有していなければならない。乳化工程において、これらの官能基はケン化されてより親水性となり、こうして所望の界面活性剤がワックスの周囲にミセルを形成しうる。ワックスの官能基をケン化するために一般的に用いられる塩基としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、並びにアンモニア、ジエチルアミノ(「DEA」)および他のアミン誘導体のようなアミンが挙げられる。特定のエマルションタイプを調製するには、氷酢酸または類似の酸のような酸が官能基修飾のために用いられる。安定なエマルションを形成するのに修飾されるのが必要な官能基の量は、分子量や鎖の分枝の量などのワックスの特性に応じて変動しうる。一般的に、約20〜30mgKOH/gワックスと最低のケン化価を有するワックスは容易に乳化されうる。ケン化価またはケン化数は、高温下にて1gのワックスと反応するKOHのミリグラム量であり、ケン化されうる遊離カルボン酸および任意のエステルの合計量を示す。この値、および後述する酸価により、ワックスの遊離カルボン酸およびエステルの含量の指標が提供される。ケン化数をどのように決定するかの例としては、ASTM D1387がある。ASTM D1386は、酸価;1gのワックスを中和するのに必要なKOHのミリグラム量であり、存在する遊離カルボン酸の量を示す;を決定する方法である。
【0007】
乳化工程の一般的な第一段階は、ワックスを溶解させ(必要であれば加熱により)、ワックス上の所望の数の官能基をケン化するのに十分な塩基を添加することである。次いで界面活性剤を添加し、よく撹拌してエマルションを形成させる。エマルションの製造にホモジナイザーを用いる場合には、ホモジナイザーの剪断作用により、得られるワックスエマルションの粒子サイズが影響を受ける。ホモジナイザーを用いてエマルションを調製する際には、ワックスの機械的剪断の貢献のために、ワックスのケン化はそれほど重要ではなくなる。一般的に、最も安定なエマルションは(一般的には最小の粒子サイズを有する)、ケン化および良好な混合の組み合わせを用いて作製される。
【0008】
いったん形成されたエマルションの品質を通常特徴付けるパラメータとしては、エマルションの透明度および安定性が挙げられる。安定性は一般的に、長期間後のエマルションの成分への分離の度合として測定される。
【0009】
ASTM D1321およびASTM D−5により定義される硬度は、所定の温度、所定の重量下で特殊な針がワックスを通過する距離(ミリメートルの10分の1、dmm)に関する。「軟らかい」ワックスは10mm超通過する硬度特性を有し、あまり有用ではないと考えられるが、10mm未満通過する硬度値を有するワックスはこれらの調製においてより有用と考えられる。特定のワックス製剤の色は、たとえ同じワックスであってもバッチごとに変化する。固化したワックス製剤の全体的な色は、ワックスの冷却速度、吸蔵空気の量、および表面処理のような因子の影響を受ける。一般的に、溶融ワックス製剤についてのワックスの色は、ASTM D1500(ガードナー)またはASTM D156(シーボルト)のいずれかの方法を用いて決定される。ASTM D1500の方法は通常、ダークブラウンからオフホワイトの色を測定するために用いられるのに対し、ASTM D156の方法はオフホワイトから純白色の測定に用いられる。
【0010】
食品または医薬品錠剤のコーティングのような用途には、低い通過硬度および良好な色特性(カラースケールの茶色端に対する白色端に向かって)を有することを特徴とするワックスを用いることが好ましく、
紙、板紙、段ボール原紙、または他の紙製品上にコーティングされてこれに耐湿性を付与する場合に、ワックスエマルションはそれ自身で、または他の成分と組み合わせてよく用いられる。例えば、魚または、ブロッコリーのような野菜などの食品は頻繁に、ワックスでコーティングされた紙箱中に包装され、輸送される。ワックスコーティングは、包装中に氷が存在する場合や、冷蔵車での輸送、および冷蔵環境などの湿潤環境において、包装の強度や品位を維持する助けとなる。最終使用用途に応じた、光沢、耐すべり性および最終紙製品上または最終紙製品の印刷適性のような他の特性もまた、ワックスコーティングの影響を受ける。ワックスコーティングされた包装は、一旦用いられると通常は廃棄される。
【0011】
包装された製品が用いられ、ワックスコーティングされた包装が一旦消費者により処分された後に、紙製品をリサイクルするという風潮が、国内的および国際的に増大している。しかしながら、リサイクル工程において、包装上のワックスコーティングは、その存在によりリサイクル装置に問題を引き起こす、工業的に「スティッキー(stickies)」および「タッキー(tackies)」として知られているものを形成する傾向がある。この問題はとても一般的であるため、場所によってはワックスコーティングされた紙製品をリサイクル工程から除外する必要がある。その結果、ワックスコートされた物品は分別され、リサイクルされる代わりに、焼却処分されるか埋立地に廃棄されることになる。ワックスに添加される添加剤の使用(ミッチェルマンに対する米国特許第6,255,375号および米国特許第6,273,993号;ナランシックらに対する米国特許第6,416,620号;およびロックらに対する米国特許第6,053,439号)などの、リサイクル工程へのワックスの混入を最小化するための代替技術が提案され、用いられている。これらのアプローチはいずれも、リサイクル工程でのワックスに関連する問題の解決手段としては永久に受け入れられるものではない。
【0012】
石油由来のワックスの商業的供給源としては、シッゴー(CITGO)、エクソンモービル(ExxonMobil)、シェル石油(Shell Oil)などがある。これらのワックスのほとんどは、潤滑油の精製工程由来であり、当該工程において潤滑油留分からワックスが分離され、パラフィンやマイクロクリスタリンワックスを含む種々のワックス画分に精製される。ワックスのさらなる商業的供給源としては、従来技術の用途向けのワックスを供給する、アスターワックス(Astor Wax)、アイジーアイ(IGI)、およびムーアアンドマンガー(Moore & Munger)のような製造業者が挙げられる;これらのワックスは、しばしば「そのまま」石油会社から転売されるか、および/または消費者の特定の要求を満たすように配合および再包装される。しばしば「エマルションハウス」と称される、ミッチェルマン(Michelman)(オハイオ)およびケムコア(ChemCore)(ニューヨーク)のようなその他の商業的供給者は、種々のワックスをコーティングおよび他の用途に用いられるエマルションに変換する。
【0013】
従来技術には、エマルションへの配合用に石油由来のワックスおよび合成ワックスを用いることは記載されているが、エマルションに植物由来のワックスを用いることには言及していない。世界の石油の供給が有限であり、枯渇しつつあることを考慮すると、供給が減少しつつある限られた天然資源由来の石油ワックス等の石油由来製品の代替品を開発することに対する要求が長期に亘って認識されている。ワックスエマルションは食品の包装用途に頻繁に用いられるため、安全のために食品グレードの特性を有するワックスもまた、好ましい。天然由来であり、長期間に亘る悪影響なく環境に容易にリサイクルされうる材料をエマルションに使用することに対する要求もまた、長期に亘って認識されている;例えば、ワックスベースのコーティングおよび接着剤を有する段ボール箱はリサイクルするのが困難であることが知られている。従って、エマルション製剤に用いられる石油由来または合成のワックスと類似の特性を有するワックスを採用することも要求されている。大量のワックスがこれらの用途に消費されているため、容易に入手可能な組成物もまた、好ましい。供給および天然資源の双方の観点からは、当該組成物は植物抽出物由来のように好ましくは再生可能な源から得られたものであることが好ましい。よって、ワックスは輸入する必要がなく、さらにパラフィンやマイクロクリスタリンワックスのような石油由来のワックスと競合しうるコストで製造可能なものであることが好ましい。
【0014】
アニオン性、カチオン性または非イオン性エマルションへの変換が可能であり、比較的高い融点を有し、粘度が低く、優れた防湿特性を有し、および熱的に安定なワックスに対する要求が存在する。また、上記で説明した世界の石油供給を考慮すると、ワックスは石油由来のものよりはむしろ、植物のような再生可能な源から得られうるものであることが好ましい。本発明において用いられるワックスは、これらの要求を満足するものである。
【0015】
本発明は、トリグリセリドを含む植物油を用いて調製され、約136〜200°F(50〜95℃)の融点を有するエマルションに関する。これらのワックスエマルションは、紙や木のコーティングなどの種々の用途、光沢剤および化粧品用途、インク、塗料および接着剤;並びに、果実のコーティングおよび耐湿性を改善するための石膏製品に用いられる。
【0016】
本発明は、1以上の植物油を硬化させることにより得られる一連のワックスに関する。高度に硬化されると、油の特性は修飾され、高い融点、低い粘度および優れた硬度を有するワックス様となる。本発明のワックスは、高度の官能基を有する点でも独特である。本発明のワックス上の前記官能基の一部を修飾することにより、本発明のワックスは容易に乳化されうる。さらに予期せぬことに、本発明のワックスはまた、ワックス上の官能基をさらにケン化し、これにより当該ワックスをより親水性にしうることから、容易にリサイクルされうることが見出された。さらに他の予期せぬ発見は、ワックスの密度が比較的低く、ワックスがインク、接着剤およびゴミを浮かせて運搬しうることから、ケン化されたワックスがリサイクル工程中にインクおよび接着剤ゴミの分離を促進しうるということである。
【0017】
ワックスエマルションは、主に、水、界面活性物質(特定のエマルションについて所望の特性に応じて、カチオン性、非イオン性またはアニオン性である)、および酸または塩基(しばしばKOH、NaOHまたは種々のアミンの1つから選択される)のいずれかからなる。本技術分野の当業者に周知のように、殺生物剤または安定化剤のような他の成分が添加されうる。殺生物剤、および/または抗微生物剤がエマルションに添加されうるが、特性の殺生物剤または抗微生物剤の選択は、しばしばエマルションの最終用途に依存する。用いられうる殺生物剤としては、メチルまたはエチルヒドロキシパラ安息香酸のようなパラベン、または第4級アンモニウム化合物があり、その他の化合物は本技術分野の当業者に周知である。本発明の製剤において用いられるワックスは天然由来であり、容易に入手可能であり、一般的に安全とみなされており、比較的高い融点を優れた高度および色とともに有していることから、あまり好ましくない合成ワックス(しばしば、ポリエチレンのような石油由来である)に代えて、または、例えばモンタンまたはカルナバ単独のようなあまり入手が容易でない天然由来のワックスに代えて用いられうる。
【0018】
さらに、本発明において用いられるワックスは、ボール紙や紙などの、適用された物品から容易に除去されうる。これらのワックスは容易に修飾されうることから、かような除去は紙のリサイクルに一般的であると考えられる条件下(温かいアルカリ性水性混合物中へ分散させ、撹拌する)で行われる。さらに、本発明者らは、本発明において用いられるワックスの比較的低い密度により、紙のリサイクル工程において、ワックスが紙から浮遊し、容易なスキミングおよび除去のために自身とともにインクおよび他のリサイクルゴミを運ぶことから、紙のリサイクル工程におけるインクおよび他のゴミの分離が促進されることを見出した。処理された商品からのこれらのワックスの除去が容易であることから、当該ワックスを含有するエマルションは、紡糸および/または製織の工程などにおいてワックスの潤滑特性およびサイジング特性が必要とされうるが、乾燥またはデサイジングのような後段階でワックスが除去されることが好ましい、繊維用途での使用に適切なものとされる。新規なワックスの生分解性により、当該ワックスは天然有機材料を取り扱いうるごみ処理場への廃棄に特に好適なものとされる。新規なワックスエマルションの果実への用途もまた、水分の蒸散を低減させ、農産物の貯蔵期間を延長させる能力を通じた有用な特性を有することが示されている。
【0019】
本発明は、エマルションを作製するのに用いられる天然ワックスを開示する。当該ワックスは商業的に入手可能な、ダイズ、ヤシ、ヒマシ、カノーラおよび油が得られる他の穀物などの天然油を含有する商品の加工により得られる高トリグリセリドワックスである。異なる硬化度を有する植物油が食品工業において用いられている。料理用油としては、不飽和油が好ましい。本発明において用いられる、商業的に入手可能であるが高度に硬化されたワックスは、食品工業における用途が制限されるために、さほど広く製造または使用されてはいない。本発明において用いられるワックスは商業的に入手可能である。材料は、その製品番号86−197−0で示されるアーチャー ダニエルズ ミッドランド(ジケーター III)、その製品番号800mrcs0000uで示されるカーギル インコーポレイテッド(ワイザタ、ミネソタ州)、および一般名「硬化ダイズ油」での他の源により加工され、供給される。ヤシ油ワックスは、カスタム ショートニングス アンド オイルズ(リッチモンド、バージニア州)により供給され、その製品番号マスター シェフ ステイブル フレーク−P(Master Chef Stable Flake−P)として示された。硬化ヒマシ油とダイズワックスとの混合物はまた、ステフォテックス(STEFOTEX)の商標で販売されており、アビテック(abitec)グループ(コロンブス、オハイオ州、植物油由来のワックスの混合および配合業者である)から得られた。
【発明の開示】
【0020】
発明の概要
本発明の目的は、水性ワックスエマルション中に配合されうるワックス組成物を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、植物由来ワックスを用いて調製される、安定な一連のエマルションを提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、後に紙、板紙、段ボール原紙、他のセルロース製品などのような物品に塗布されて、消費者のための包装および他の工業用途に用いるための耐湿性をこれらに付与しうる、ワックスベースのエマルションを提供することである。
【0023】
本発明のさらに他の目的は、現在多くのワックスベースのエマルション製剤に用いられている石油由来のワックスの代替品として、ワックスベースのエマルション製剤中に配合されうる組成物を提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、ワックスベースのエマルション製剤中に配合された際に、当該製剤の他の成分と適合し、安定なエマルションを形成する組成物を提供することである。
【0025】
本発明のさらに他の目的は、紙または他のセルロース製商品のコーティングに用いられるエマルション中に配合され、そして耐湿性を付与する目的で物品にコーティング製剤を塗布した際に、当該コーティングが、石油由来のワックスを用いて調製される従来のワックスベースのエマルション製剤のコーティング特性に類似した特性を有する組成物を提供することである。
【0026】
本発明のさらに他の目的は、再生可能でない石油ベースの組成物に代えて、再生可能な資源から得られうる組成物を提供することである。
【0027】
本発明のさらに他の目的は、セルロース製商品および他の製品のコーティングを含む用途に用いるのにより経済的であり、そのために天然由来ではあるがより高価で入手しにくいワックス(例えば、カルナバ)に代替しうる天然由来の組成物を提供することである。
【0028】
本発明のさらに他の目的は、水分の蒸散を低減させ、農産物の貯蔵期間を延長するための果実のコーティングを含む用途に用いるのにより経済的であり、そのために天然由来ではあるがより高価で入手しにくいワックス(例えば、カルナバ)に代替しうる天然由来の組成物を提供することである。
【0029】
本発明のさらに他の目的は、再生可能な資源から得ることができ、経済的に製造されうる組成物を提供することである。
【0030】
本発明の他の目的は、食品の包装およびコーティングに用いるための、食品医薬品局(FDA)により安全であると通常みなされる特性を有する組成物を提供することである。
【0031】
本発明者らは、予期せぬことに、ヤシおよびダイズのような高度に硬化された油が、ワックスベースのエマルション化合物において従来の石油ワックスおよび合成ワックスの代替品として有効に用いられうるワックスへと変換されうることを見出した。
【0032】
本発明は、ワックス様の特性を有し、従来の乳化方法を用いて水エマルション中に配合されて、石油由来のワックスを含有するエマルション製剤に類似のバリア特性およびコーティング特性を有するエマルションを製造しうる、高度に硬化された植物油(ヤシ、ダイズ、トウモロコシ、ヒマシ、カノーラなどから得られる)を含む。天然由来の再生可能な資源から得られる本発明のワックスによれば、アニオン性、カチオン性および非イオン性条件下において乳化され、約45%固形物までの固形物含量を有するエマルションを製造された。ダイズワックスおよびヤシワックスは実質的に、90%超のトリグリセリドを含み、その脂肪酸成分がパルミチン酸およびステアリン酸(ステアリン酸(C18)がより主要(50%超)である)を含む硬化油からなる。これに対し、ヒマシ油は、約1%のステアリン酸と、主成分としてのリシノール酸(約90%)を含有する。ワックス組成物は低いヨウ素価(2〜5の間)、および約120〜185°Fの間の融点(メトラー滴点(Mettler Drop Point))を有する。本発明のワックス組成物はまた、従来のワックスを用いて調製された箱よりもより容易に後にリサイクルされうる、ワックスコートされた箱のような繊維性セルロース製品の製造において、添加剤として(コーティングとして)も用いられうる。板紙などの繊維性セルロース製品をコーティングするために用いられた場合、エマルションの性能は石油由来のワックスを含有するエマルションに類似していた。本発明のワックスエマルションはまた、それ自身でまたはコーティングとしての他の成分と組み合わされて、果実または他の農産物のような食品の水分の蒸散を低減させ、または貯蔵期間を延長させるためにも用いられうる。本発明のワックスは、コーティング、光沢剤、接着剤、紙製品、板紙および他の製造作業において、石油由来のワックスまたはより高価な天然由来のワックスの代替品として用いられる。
【0033】
図面の簡単な説明
図1は、硬化油を製造するための工程を示すフローチャートである。
【0034】
図2は、ダイズワックスベースのエマルションを用いた柑橘類果実のコーティングの、重量減少に対する効果を示す。
【0035】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、石油由来のワックスの代替品として用いられうる、植物由来のワックス組成物を用いて調製されるエマルションに関する。より詳細には、本発明は、植物由来のワックス組成物を用いて調製される水へのワックスエマルションを開示する。本発明において用いられるワックスは再生可能な源から経済的に製造されうるため、当該ワックスはまた、本明細書中に記載される種々の用途において、天然由来ではあるがより製造が高価なワックスや、石油由来のワックスもしくは合成ワックスを含有するコーティング、またはカルナバのような入手しにくい天然由来のワックスの特性を代替しうる(表3を参照)。天然由来のワックスおよび合成ワックスは、以下に制限されないが、例えば、床の光沢剤のような、消費者用途および工業的用途のための化粧品、食品、潤滑剤、個人衛生、医薬品および光沢剤などの広範な工業の代表例において広く用いられている。他の用途としては、繊維柔軟剤およびサイジング剤、果実のコーティング、水性のインクおよび塗料、石膏、パーティクルボードのような建材のコーティング、段ボール紙、板紙、段ボール原紙、積層紙のような紙製品、並びに肥料のコーティングが挙げられる。ワックスという語は、広範な種類の有機エステルおよびワックス様化合物を示すために用いられ、化学構造は多岐に亘り、広範囲の融点を示す。周囲の温度に応じて、同一の化合物が「ワックス」、「脂肪」または「油」と称されうることがよくある。当該化合物がどのような名前で称されたとしても、特定用途のためのワックスの選択は、当該ワックスが用いられる製品の温度において当該ワックスが液体であるかまたは固体であるかによって決定されることがよくある。所定の目的に有用とするためには、ワックスを高度に精製し、化学的に修飾する必要があることが頻繁にある。修飾のためのかような努力にもかかわらず、ワックスの多くの物理的特性によって、依然として当該ワックスを好適に用いることが妨げられ、または当該ワックスを商業的に使用可能とするために高度で頻回の、高価なさらなる処理が必要とされる。
【0036】
トリグリセリドは、グリセロールの脂肪酸エステルである。本明細書において用いられる場合、「遊離脂肪酸」という語は、エステル結合を介してグリセロールに共有結合していない脂肪酸を意味するものとする。「脂肪酸成分」という語は、エステル結合を介してグリセロールに共有結合している脂肪酸を記述するのに用いるものとする。
【0037】
天然由来のカルボン酸(「脂肪酸」)およびその誘導体、より一般的にはグリセロール分子の3つのヒドロキシ基が全てカルボン酸によりエステル化されたグリセリル誘導体が、商業的には用いられる。前記カルボン酸は、飽和であっても不飽和であってもよい。3置換グリセロール(トリグリセリド、トリアシルグリセロールとも称される)は、ほとんどの動物性および植物性脂肪、油およびワックスの主成分である。グリセロール分子の3つの全てのヒドロキシ基が同一の脂肪酸によりエステル化されている場合には、当該3置換グリセロールは一酸トリグリセリドと称される。トリグリセリドが「ワックス」、「脂肪」または「油」のいずれで称されるかは、特徴づけがなされる際の周囲温度に加えて、エステル化された酸の鎖長およびその飽和または不飽和の程度に依存する。一般的に、エステル化された酸の飽和の程度が上昇し、鎖長が長くなるにつれて、トリグリセリドの融点は高くなる。商業的に用いられている多くのトリグリセリドおよび遊離脂肪酸は、好ましくは、ダイズ、カノーラ、綿実、トウモロコシ、オレンジ、アマニ、ヤシ、ピーナッツ、ベニバナ、ダイズ、およびヒマワリの油などの植物源から得られる。トリグリセリドは、以下に制限されないが、植物性トリグリセリドを得るための脂肪族溶媒を用いた植物バイオマスの溶媒抽出のような本技術分野の当業者に周知の方法を用いて精製された後に用いられる。その後の追加の精製としては、蒸留、分別晶出、脱ガム、漂白、および水蒸気蒸留が挙げられる。得られたトリグリセリドは、部分的にまたは完全に硬化される。さらに、脂肪酸は天然トリグリセリドの加水分解(例えば、アルカリ加水分解と、それに続く蒸留および水蒸気蒸留などの本技術分野において周知の方法による精製)によって、または石油化学的脂肪族アルコールからの合成によって得てもよい。遊離脂肪酸、トリグリセリドなどはまた、カーギル、アーチャー ダニエルズ ミッドランドおよびセントラル ソヤ(Central Soya)のような商業的供給源から得てもよい。
【0038】
本発明において、遊離脂肪酸およびトリグリセリドの脂肪酸成分は飽和しており、種々の鎖長を有する。コーティングが用いられる温度においてコーティング組成物が固体である場合には、遊離脂肪酸およびトリグリセリドの脂肪酸成分は不飽和であってもよい。遊離脂肪酸/トリグリセリド混合物の融点などの特性は、遊離脂肪酸の鎖長および飽和度、並びにトリグリセリドの脂肪酸成分の関数として変動する。例えば、飽和度が低下すると、融点は低下する。同様に、脂肪酸の鎖長が短くなると、融点は低下する。好ましい遊離脂肪酸は、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸およびベヘニル酸などの飽和脂肪酸である。ステアリン酸(C18の飽和脂肪酸)は、より好ましい。リシノール酸((9Z,12R)−12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)は、C18のヒドロキシ不飽和脂肪酸である。以下にさらに記載するように、リシノール酸は、低濃度のオレイン酸、リノール酸およびパルミチン酸を含有する、ヒマシ油およびヒマシワックスの主成分である。
【0039】
ヨウ素数とも称されるヨウ素価「I.V.」は、化合物の飽和または不飽和の程度の尺度である。ヨウ素価としては、所定時間に化合物または混合物により吸収されるヨウ素の量を測定する。よって、植物油のような不飽和材料について用いられる場合、IVは化合物または混合物の不飽和または二重結合の数の尺度となる。
【0040】
植物油または動物性脂肪は、低いまたはとても低いヨウ素価を有するように、本技術分野の当業者に周知の方法を用いて合成的に硬化されうる。元来主に飽和トリグリセリドからなる脂肪(例えば、ヤシ油または分画脂肪)は、複合材料としての耐水性を向上させるために、単独でまたは接着剤/ラミナント(lamimants)との混合製剤で用いられうる(米国特許第6,277,310号)。植物油の主成分はトリアシルグリセロールである。
【0041】
低いヨウ素価(約0〜約70のヨウ素価、好ましくは約0〜約30のヨウ素価の範囲に亘る)を有する飽和トリグリセリドは、ダイズ、ダイズステアリン、ステアリン、トウモロコシ、綿実、ナタネ、カノーラ、ヒマワリ、ヤシ、ヤシ核、ココナッツ、クランベリー、アマニ、ピーナッツの油、魚油およびトール油;またはラードおよび獣脂などの動物性脂肪、並びにこれらの混合物のような市販の油の硬化により製造されうる。これらの油はまた、高い割合の脂肪酸を有する低IV油を得るために、遺伝子組換え植物から製造されてもよい。
【0042】
脂肪は一般的に、当該脂肪のより硬い画分が結晶化しうるのに十分長い時間に亘って混合物を冷却する、「脱ロウ(winterization)」として知られる工程により分画される。この冷却後には、より硬い画分が濾過ケーク中に保持されるように濾過を行う。これらのより硬い画分はより低いヨウ素価を有し、従って、分離されたもとの脂肪の融点よりも高い融点を有する。よって、脱ロウはまた、低IV脂肪の源としても用いられうる。
【0043】
上記の脱ロウ工程は、一般的に動物性脂肪を分画するために用いられ、よって、異なるヨウ素価、およびその結果として異なる化学的特性を有する種々の動物性脂肪の画分を製造可能である。これらの画分は、上述した植物または植物抽出物のような他の源から得られた脂肪酸および遊離脂肪酸と混合されてもよい。
【0044】
ワックスベースのエマルションは一般的に、段ボール紙、段ボール箱などの製造に用いられる。これらはまた、床の光沢剤、繊維の柔軟剤やサイジング剤、果実のコーティング、化粧品製剤、水性のインクや塗料、石膏の製造、および肥料のコーティングのように多様に用いられる。これらの用途の多くにおいて、性能には水分の蒸散を防止するワックスの特性が重要である。本発明のワックスはパラフィンワックスに匹敵する水分蒸散防止特性を有することが示されている(表5を参照)。
【0045】
エマルションは用途に応じて種々の濃度および添加レベルで用いられる。例えば果実のコーティング用途においてワックスは、果実に対して光沢を付与するためのセラックをも含むことが多い製剤の大部分を含みうる。紙の用途において、または他の繊維性セルロース製品に用いる場合に、ワックスベースのエマルションはそのまま(すなわち、希釈せずに)用いられることができ、またはコーティングもしくはサイジング製剤中に配合される場合には希釈されてもよい。前記用途には通常、好ましいイオン性荷電が関連している。例えば繊維では、カチオン性ワックスエマルションはアニオン性または非イオン性エマルションよりも繊維または布に対して優れた親和性を有し、カチオン性エマルションはワックスが繊維/布を集めるのを手助けするのに一般的に用いられる。乳化剤とも称される界面活性剤(すなわち、界面活性物質)としては、ノニルフェノールエトキシレートおよびその他の商業的供給源から入手可能なエトキシレートが挙げられる。例えば、アルコールエトキシレート、アルキルアミンエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、オクチルフェノールエトキシレートなどが挙げられる。多くの脂肪酸エステルのような他の界面活性剤;例えば、以下に制限されないが、グリセロールエステル、ポリエチレングリコールエステルおよびソルビタンエステル、並びに獣脂アミンのようなアミド化された脂肪酸エステルが用いられてもよい。
【0046】
用いられうる非イオン性界面活性剤としては、イジェパル(IGEPAL)(登録商標)CO−630(CAS番号68412−54−4)などのイジェパル(登録商標)の商標(ロディア,インコーポレイテッド、クランベリー、ニュージャージー州)またはポリステップ(POLYSTEP)(登録商標)F−3(ステパン カンパニー(Stepan Co.)、ノースフィールド、イリノイ州)の名で販売されているようなノニルフェニルエトキシレート;アルキルフェノールエトキシレート;イジェパル(登録商標)CAシリーズ化合物などのオクチルフェノールエトキシレート;デシルフェノールエトキシレート;オレイルアルコールエトキシレート;ノニデット(NONIDET)NP−40(CAS番号9016−45−9)などが挙げられる。用いられうる他の非イオン性界面活性剤としては、HLB10.5のトマドール(TOMADOL)(登録商標)25−3/25−9の組み合わせ(トマー ケミカル コーポレイション(Tomah Chemical Corp.)、ミルトン、ウィスコンシン州、エトキシ化直鎖アルコール非イオン性界面活性剤の混合物)またはHLB10.5のテルジトール(TERGITOL)(登録商標)15−S−5/15−S−9の組み合わせ(ダウ ケミカル(Dow Chemical)、ミッドランド、ミシガン州)がある。
【0047】
一般的に、用いられる上記の界面活性剤は特定の範囲のHLB値を有し、これらに代えて類似の特性を有する界面活性剤を用いてもよい。
【0048】
カチオン性界面活性剤としては、イミダゾリン、ジエチルアミン、または獣脂アミンであるTAM−5もしくはTAM−15のようなエトキシ化されたアミンが挙げられる。用いられる上記の界面活性剤は特定の範囲のHLB値を有し、これらに代えて類似の特性を有する界面活性剤を用いてもよい。
【0049】
紙からのインクの除去に用いられる特定の界面活性剤としては、アンタロックス(ANTAROX)(ロディア インコーポレイテッド、クランベリー ニュージャージー州)グループのものが挙げられる。これらの化合物には、非イオン性分散剤、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、ノニルフェノールエチレンオキシド−プロピレンオキシド、およびポロキソマー(poloaxomers)が含まれる。イリノイのネーパーヴィルのオンデオ ナルコ(ONDEO Nalco)のような会社もまた、特定の消費者のインク除去および再パルプ化の要求を満足させるために調製される特注の混合界面活性剤を供給する。
【0050】
本発明は、トリグリセリドを含む植物性ワックスを用いて調製され、約136〜200°Fの融点を有するエマルションに関する。本発明は、ヨウ素価がゼロに近くトリグリセリドをより熱的に安定にする、硬化トリグリセリドを用いる。当該トリグリセリドは、0〜30の間のヨウ素価を有するものから選択されうるが、2〜5の間のヨウ素価を有するトリグリセリドが好ましい。
【0051】
上述したように、ワックスエマルションは主に、水、界面活性物質(特定のエマルションに好ましい特性に応じて、カチオン性、非イオン性またはアニオン性のいずれかである)および酸または塩基(しばしば、KOH、NaOH、もしくは種々のアミンから選択される)から構成される。
【0052】
殺生物剤または他の安定化剤のような他の成分がエマルションに添加されてもよく、これらの剤は本技術分野における当業者に周知である。殺生物剤および/または抗微生物剤がエマルションに添加されてもよく、特定の殺生物剤または殺微生物剤の選択はしばしば、エマルションの最終用途に依存する。用いられうる殺生物剤としては、メチルまたはエチルヒドロキシパラ安息香酸のようなパラベン、または第4級アンモニウム化合物があり、その他の化合物は本技術分野の当業者に周知である。本技術分野の当業者に周知の緩衝剤および増粘剤が本発明のエマルションに添加されてもよい。ホルムアルデヒドのような一般的な保存剤が時々用いられ、食品医薬品局(FDA)や環境保護庁(EPA)などの規制当局の規制を受ける。
【0053】
本発明の調製に用いられるワックスは天然由来であり、入手が容易で、一般には安全とみなされ、優れた硬度および色とともに比較的高い融点を有することから、これらのワックスはあまり好ましくない合成ワックス(しばしば、ポリエチレンのような石油由来である)に代えて、または、例えばモンタンまたはカルナバ単独のようなあまり入手が容易でない天然由来のワックスに代えて用いられうる。
【0054】
本発明は、ワックスベースのエマルション製剤に用いるための天然ワックスである。この製品は商業的に入手可能な、ダイズ、ヤシ、ヒマシ、カノーラおよび油が得られる他の穀物などの天然油を含有する商品の加工により得られる高トリグリセリドワックスである。本発明において用いられるワックスはヤシ油ワックスおよびダイズワックス並びに、硬化油から調製されるヒマシ油とのこれらの組み合わせである。材料は、カス ケム(Cas Chem)(ベイオン、ニュージャージー州)、その製品番号86−197−0で示されるアーチャー ダニエルズ ミッドランド(ジケーター III);その製品番号800mrcs0000uで示されるカーギル インコーポレイテッド(ワイザタ、ミネソタ州);および一般名「硬化ダイズ油」での他の源により加工され、供給される。ヤシ油ワックスは、カスタム ショートニングス アンド オイルズ(リッチモンド、バージニア州)により供給され、その製品番号マスター シェフ ステイブル フレーク−Pとして示された。またダイズワックスはマーカス ナット(Marcus Nat)155の商品名で、マーカス オイル アンド ケミカル コーポレイション(Marcus Oil and Chemical Corp.)、ヒューストン、テキサス州、から供給された;これらの添加剤はまた、食品添加剤としても用いられうる。
【0055】
ダイズワックスおよびヤシワックスの特性を表1および表2にまとめたが、これらのワックスはそれぞれ、5および2の間のIVを有することが示される。
【0056】
メトラー滴点として測定した場合、ダイズ油ワックスは155〜160°Fの融点を有するのに対し、ヤシ油ワックスの融点は136〜142°Fである。
【0057】
ヤシワックスおよびダイズワックスはさらに、210°Fの温度にて10〜200cpsの粘度を有することにより特徴付けられる。ヤシワックスおよびダイズワックスはそれぞれ、微量の脂肪酸とともに93重量%のトリグリセリドを含む。当該トリグリセリドは、ケン化価を得るために、KOHのような塩基の添加によりケン化されうる。ケン化価は主に、植物性ワックスの源の関数である脂肪酸の鎖長に依存して変動する。硬化ダイズワックスおよび硬化ヤシワックスについてのケン化価は、通常180〜200mgKOH/gの範囲である(表1および表2)。
【0058】
ガス液体クロマトグラフィ(「GLC」)の周知の方法を用いてヤシワックスおよびダイズワックスの脂肪酸含量を分析するとダイズワックスは82〜94%のステアリン酸(C18:0)および3〜14%のパルミチン酸(C16:0)を含むことがわかった。これと比べると、ヤシ油ワックスは約55%のステアリン酸(C18:0)、39.5%のパルミチン酸(C16:0)、1.1%のミリスチン酸(C14:0)および約1.0%のオレイン酸(C18:1)を含む。
【0059】
ヒマシワックスは、ダイズワックスおよびヤシワックスがそれらの対応する油から調製されるのと同様にして、ヒマシ油から得られる。ヒマシ油は、トウゴマ草木の種子から得られる天然油である。ヒマシ油は、約90%のリシノール酸(9−10位の二重結合および12番目の炭素上のヒドロキシル基を有するC18のヒドロキシ不飽和脂肪酸である、(9Z,12R)−12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)を含む唯一の商業的に重要な油であるという点で、全ての脂肪および油の中でも独特である。ヒマシ油の脂肪酸組成は、37%のリシノール酸、3%のリノール酸、2%のパルミチン酸、1%のステアリン酸および微量のジヒドロステアリン酸であると記載されている(メルクインデックス、第13版、2001、メルク アンド カンパニー インコーポレイテッド、ホワイトハウス ステーション、ニュージャージー州)。ヒマシ油の主要な源は、インド、中国およびブラジルである。科学的および歴史的な記録によれば、その起源にかかわらず、ヒマシ油の化学的性質および組成は非常に均一であることがわかっている。
【0060】
硬化ヒマシ油とも称されるヒマシワックスは、触媒的に硬化されたヒマシ油である(ニッケル触媒存在下でのヒマシ油の硬化)。ヒマシワックスは、水にほとんど不溶性であり通常は有機溶媒中で用いられる、当業者に周知の硬く脆いワックスである。当該ワックスは約84〜88℃(約183〜185°F)の融点を有し、2〜3(mgKOH/g)の酸価、約174〜186(mgKOH/g)のケン化価、および3〜4のヨウ素価を有することにより特徴付けられる(表3)。
【0061】
ヒマシワックスは、撥水性のある、または油、石油および石油誘導体に耐性のあるコーティングの調製に用いられている。ヒマシワックスの主要な用途はグリースの製造であるが、ヒマシ油はまた、食品の包装用の紙のコーティングや化粧品用途にも用いられ、ヒマシワックスの誘導体は界面活性剤およびプラスチック添加剤として用いられる。これらのワックス中でのステアリン酸含量の相違に留意すべきであり、ヤシワックスおよびダイズワックスは84〜92%のステアリン酸を有するのに対し、ヒマシワックス中には約1%のステアリン酸しか存在しない。
【0062】
特定の詳細の程度により本発明を説明したが、下記の実施例は単に本発明を例示する目的のためのものであって、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲により規定されるものであることは理解されるべきである。
【実施例】
【0063】
実施例の調製
実施例1.ダイズワックスを含みホモジナイザーを用いて調製される非イオン性エマルションの調製および評価
本発明を例示する目的で、マーカス ナット155ワックス(ダイズワックス)を用いて非イオン性エマルションを調製した。エマルションの調製は、2つの不活性容器(atmospheric vessels)を用いて行ったが、一方はワックスを溶融させて乳化剤を混合するためのものであり、他方は水を温度まで加熱するためのものである。溶融して水が温度まで上昇したら、適当な温度に加熱された水にワックス−乳化剤混合物を添加した。化学工業および酪農業の双方において一般的に用いられている装置であるAPV/ゴーリン(Goullin)ホモジナイザーを用いて当該混合物を均質化させた。均質化後、製品を熱交換器または他の容器により冷却させてもよい。ホモジナイザーによればより激しい混合が可能であり、標準的な混合技術を用いて得られうるよりもエマルションを高固形としうる。
【0064】
【表1】

【0065】
手法
1)水を仕込み、ボルテックスなしに良好に作動するように撹拌セットする。
2)仕込み水を70〜80℃まで加熱する。
3)マーカス ナット155ワックスを仕込む。
4)非イオン性界面活性剤を添加する。
5)水酸化カリウム(45%KOH)を添加する。
6)混合物を70〜80℃に30分間保持する。
7)撹拌したまま50℃まで冷却する。
8)3000psi(二次(secondary)500/一次(primary)2500)にセットされたホモジナイザーを通して排出させる。
(エマルションの温度および粘度はホモジナイザーからの排出の間に上昇することに留意すべきである)
9)熱交換器または第2の容器を用いることにより、材料を30〜35℃まで冷却する
(30〜35℃まで冷却することで、エマルションの粘度は低下する)。
【0066】
本実施例において、用いた非イオン性界面活性剤はイジェパル(登録商標)CO−630(ロディア インコーポレイテッド、クランベリー、ニュージャージー州)であった。界面活性剤は、「目標HLB」として示されるように、当該界面活性剤が11〜12の範囲のHLBを有するように選択される。界面活性剤のHLB特性は当業者に周知であり、さらなる説明は省略する。従って、イジェパル(登録商標)CO−630に代えて、所望の特性を有する他の界面活性剤が用いられてもよい。かような代わりの界面活性剤の例は、本明細書において上述した。
【0067】
得られたエマルションは乳色で安定であった。エマルションをガラススライド上で観察すると、目視では均一に見え、ごく微量の乳化されていないワックス粒子が観察された。
【0068】
実施例2.ダイズワックスを含むカチオン性エマルションの調製および評価
本発明を例示する目的で、マーカス ナット155ワックス(ダイズベース)を用いてカチオン性エマルションを調製した。エマルションの調製は、2つの不活性容器を用いて行ったが、一方はワックスを溶融させて乳化剤を混合するためのものであり、他方は水を温度まで加熱するためのものである。溶融して水が温度まで上昇したら、温度まで加熱された水とワックス−乳化剤混合物を合わせた。乳化のためのこの技術は、水へのワックス(wax to water)技術として当業者に周知であり、エマルションを調製するには標準的な混合技術を利用する。
【0069】
【表2】

【0070】
手法
1)マーカス 155ワックス、カチオン性界面活性剤を60〜70℃で溶融させる。
2)第1の仕込み水を55〜65℃まで加熱する。
3)第1の仕込み水が温度まで達したら、段階1の溶融物に氷酢酸を添加する。
4)溶融ワックス、カチオン性界面活性剤および酸の混合物を加熱された水に移す。
5)全ての材料を移したら、30分間混合する。
6)30〜35℃まで冷却する。
7)水を添加して35%固形物の最終濃度を達成する。
【0071】
得られたエマルションは乳色で安定であった。エマルションをガラススライド上で観察すると均一に見え、ごく微量の乳化されていないワックス粒子が観察された。
【0072】
実施例3.ダイズワックスを含む非イオン性エマルションの調製および評価
本発明を例示する目的で、マーカス ナット155ワックス(ダイズベース)を用いて非イオン性エマルションを調製した。エマルションの調製は、2つの不活性容器を用いて行ったが、一方はワックスを溶融させて乳化剤を混合するためのものであり、他方は水を温度まで加熱するためのものである。溶融して水が温度まで上昇したら、温度まで加熱された水とワックス−乳化剤混合物を合わせた。実施例2と同様に、乳化のためのこの技術は、水へのワックス(wax to water)技術として当業者に周知である。
【0073】
【表3】

【0074】
手法
1)水を仕込み、ボルテックスなしに良好に作動するように撹拌セットする。
2)仕込み水を70〜80℃まで加熱する。
3)マーカス ナット155ワックスを仕込む。
4)非イオン性界面活性剤を添加する。
5)水酸化カリウム(45%KOH)を添加する。
6)70〜80℃に30分間保持する。
7)速やかに30〜35℃まで冷却し、良好な撹拌を維持する。
【0075】
本実施例において、用いた非イオン性界面活性剤はイジェパル(登録商標)CO−630(ロディア)であった。得られたエマルションは乳色で安定であった。エマルションをガラススライド上で観察すると均一に見え、ごく微量のワックス粒子が観察された。
【0076】
実施例4.ダイズワックスとヒマシワックスとの混合物を含むカチオン性エマルションの調製および評価
床の光沢剤、繊維、コーティングおよびインクのような特定の最終用途では、ワックスエマルションは化粧品のような用途において用いられるワックスよりも高い融点を有するワックスを用いて製造される必要がある。本発明を例示する目的で、30%ヒマシワックスと70%ダイズワックスとの混合物であるマーカス ナット180ワックスを用いてカチオン性エマルションを調製した。当該ヒマシワックスおよびダイズワックスは、本明細書で既に説明したダイズワックスの調製と同様に、低いヨウ素価を有するようにヒマシ油およびダイズ油を硬化させることにより調製した。ヒマシワックスとダイズワックスとの混合ワックスは、下記のような特性により特徴付けられる:
【0077】
【表4】

【0078】
上記の材料はまた、ステロテックス(STEROTEX)(登録商標)Kの商標でアビテック パフォーマンス プロダクツ(Abitec Performance Products)から入手可能であり、一般的には医薬品工業において錠剤をコーティングするために用いられる。
【0079】
エマルションの調製は、2つの不活性容器を用いて行ったが、一方はワックスを溶融させて乳化剤を混合するためのものであり、他方は水を温度まで加熱するためのものである。溶融して水が温度まで上昇したら、温度まで加熱された水とワックス/乳化剤/アルカリを合わせた。乳化のためのこの技術は、水へのワックス(wax to water)技術として当業者に周知である。
【0080】
【表5】

【0081】
手法
1)マーカス 180ワックス、およびカチオン性界面活性剤を85〜90℃で溶融させる。
2)第1の仕込み水を90〜95℃まで加熱する。
3)第1の仕込み水が温度まで達したら、段階1の溶融物に氷酢酸を添加する。
4)溶融ワックス、カチオン性界面活性剤および酸の混合物を加熱された水に移す。
5)全ての材料を移したら、30分間混合する。
6)30〜35℃まで冷却する。
7)十分な水を添加して固形物含量を35%に調節する。
【0082】
得られたエマルションは乳色で安定であった。エマルションをガラススライド上で観察すると均一に見え、ごく微量のワックス粒子が観察された。
【0083】
実施例5.ダイズワックスとヒマシワックスとの混合物を含む非イオン性エマルションの調製および評価
非イオン性エマルションは、その広範な適合性および入手が容易な入手容易性のために非常に多用途であり、調製されうるのに用いられる界面活性剤は比較的無害である。植物油由来のワックスの混合物が非イオン性製剤として乳化されうるかどうかを調べるために、実施例4で説明したダイズ−ヒマシワックス製剤を以下のエマルション中に配合した:
【0084】
【表6】

【0085】
手法
1)水を仕込み、ボルテックスなしに良好に作動するように撹拌セットする。
2)仕込み水を90〜95℃まで加熱する。
3)マーカス ナット180ワックスを仕込む。
4)非イオン性界面活性剤を仕込む。
5)水酸化カリウム(45%KOH)を添加する。
6)混合物を90〜95℃に30分間保持する。
7)速やかに30〜35℃まで冷却し、良好な撹拌を維持する。
【0086】
本実施例において、用いた非イオン性界面活性剤はイジェパル(IGEPAL)(登録商標)CO−630(ロディア)であった。用いられうる他の非イオン性界面活性剤としては、HLB10.5のトマドール(登録商標)25−3/25−9の組み合わせ(トマー ケミカル コーポレイション)またはHLB10.5のテルジトール(登録商標)15−S−5/15−S−9の組み合わせ(ダウ ケミカル、ミッドランド、ミシガン州)が挙げられる。
【0087】
得られたエマルションは乳色で安定であった。エマルションをガラススライド上で観察すると均一に見え、ごく微量のワックス粒子が観察された。
【0088】
実施例6.ダイズワックスとヒマシワックスとの混合物を含みホモジナイザーを用いて調製される非イオン性エマルションの調製および評価
エマルションを調製するためのホモジナイザーの使用(実施例1において用いられたように)によれば、一般的に、上記の実施例4および実施例5において用いられたような従来の撹拌技術を用いて得られうるのと比較して固形物含量を高くすることが可能である。ヒマシワックスとダイズワックスとの混合物を用いて安定なエマルションが調整されうるかどうかを調べるために、以下のエマルションを調製した:
【0089】
【表7】

【0090】
手法
1)水を仕込み、ボルテックスなしに良好に作動するように撹拌セットする。
2)仕込み水を90〜95℃まで加熱する。
3)マーカス ナット180ワックスを仕込む。
4)非イオン性界面活性剤を添加する。
5)水酸化カリウム(45%KOH)を仕込む。
6)85〜90℃に30分間保持する。
7)撹拌したまま50℃まで冷却する。
8)3000psi(二次500/一次2500)にセットされたホモジナイザーを通して排出させる。
(エマルションの温度および粘度が上昇することに留意すべきである)
9)熱交換器または第2の容器を用いることにより、材料を30〜35℃まで冷却する
(30〜35℃まで冷却することで、エマルションの粘度は低下する)。
【0091】
本実施例において、用いた非イオン性界面活性剤はイジェパル(登録商標)CO−630(ロディア)であった。得られたエマルションは乳色で安定であった。エマルションをガラススライド上で観察すると均一に見え、ごく微量のワックス粒子が観察された。
【0092】
実施例7.水蒸気透過速度(「MVTR」)
湿気の透過はワックスベースのコーティングの重要な特性である。MVTRは、湿気がどの程度速くワックスコーティングを透過し、基材の特性を低下させるかを示す。過剰な湿気により果実または野菜の損傷が引き起こされる、農産物を含有する箱においては、低いMVTRを有することが好ましい。鶏肉はしばしば冷凍箱中で輸送されるが、当該箱は、一般的にワックスコーティングされ、鶏肉(または他の食品)を詰めた後速やかに、しばしば氷/水浴中への浸漬により冷凍される段ボール箱(ワックスでコーティングされたクラフト紙)である。紙が水から保護されていない場合、箱の強度は低下し、これらの種類の箱は実用的ではなくなってしまう。
【0093】
本実験においては、改良されたASTM D3833の方法によりMVTRを調べた。段ボール原紙をアルミニウムカップへ確実に接着させるために、当該改良ではクランプを使用する必要があった。
【0094】
試験ワックスの粘度に応じて、1.5〜5ミリの間隔で、ウェットフィルムアプリケータ(バード(Bird)型)を用いてコーティングを作製した。当該コーティング、4インチ幅のアプリケータおよび1/2インチ厚さのプレートガラスのシートを200〜250°Fのオーブン中に10〜15分間置いた。ガラスをオーブンから取り出し、段ボール原紙(当業者に周知の、無漂白クラフト紙)の片を当該ガラス上に置いた。特定のコーティングの所定体積を段ボール原紙の一端に置き、アプリケータにより段ボール原紙に塗布し、高温溶融コーティングを手動で段ボール原紙にコーティングして、次いで室温で固化させた。各サンプルを調べたところ、コーティング重量は5.6〜6.2lbl/1000平方フィートであることが確認された。
【0095】
この結果を表5にまとめ、これから、コーティング重量は同程度であるが、ダイズ油ワックス組成物はコントロール製剤と同程度のMVTRレベルを示す結果となったことがわかる。エマルションとしてワックスを塗布した評価は行わなかったが、上記の結果からはワックスコーティングが湿気の透過を低減させる能力が示される。
【0096】
実施例8
植物性ワックスを含む果実コーティングとしてのエマルションの評価
ワックスエマルションは、食品をコーティングして輸送、貯蔵、および最終消費者への配送の間の水分の蒸散を低減させるためによく用いられ、これにより柑橘類果実のような製品の保存の助けとなる。柑橘類果実における水分の蒸散に対する新規なエマルションの有効性を調べるために、以下の配合および手法に従って、エマルションを調製し、次いで当該エマルションを果実のコーティングに用い、続いて長期間に亘って重量の減少をモニターした。
【0097】
15gのマーカス オイル アンド ケミカル(ヒューストン、テキサス州)ナット155ワックス(ダイズワックス)を、400mLのソルバール(SORVALL)(登録商標)(ノーウォーク、コネチカット州)ステンレススチールチャンバ中に入れ、透明になるまで電熱プレート上で溶融させた。この溶融ワックスに1gのポリステップ(登録商標)F−5エトキシ化ノニルフェノール(12モルのエチレンオキシド)(ステパン カンパニー ノースフィールド、III.)および1gの30%KOH溶液を添加した。この混合物を溶融状態に維持し、30分間撹拌した。これとは別に、50gの水道水を加熱して沸騰させた。この沸騰水を高温溶融ワックス混合物に添加し、ソルバール(登録商標)モデル番号17183ローターナイフ撹拌器が設置されたソルバール(登録商標)オムニミキサーホモジナイザー中に速やかに入れた。ミキサーの速度は0.5にセットした。1分30秒後、チャンバを冷水道水中に入れ、撹拌を続けながら冷却した。室温まで冷却させた後、得られたエマルションは流動性を示し、不透明であった。このエマルションをダイズワックスエマルション#1と名づけた。
【0098】
23gのダイズワックスエマルション#1を230gの水道水に添加し、均一になるまで混合した。この希釈エマルションをコーティング#1と名づけた。柑橘類果実、具体的にはレモンを、地元の商店から購入した。3個のレモンをコーティング#1中に数秒間浸漬させ、次いで取り出してビーカー上に置いて乾燥させた。8時間後、非コートコントロールレモンと名づけられたコーティングされていない3個のレモン、および処理レモンと名づけられたコーティングした3個のレモンを秤量し、その重量を実験のために初期重量(WI)と名づけた。
【0099】
このレモンを涼しい(約65〜70°Fの温度)乾燥した部屋に置き、定期的に秤量した。3個の非処理コントロールレモンおよび3個の処理レモンの平均結果を図2に示す。12日後、非処理コントロールレモンは損傷の兆候を見せ、もはや秤量をやめた。処理レモンは15日後であっても損傷の兆候を見せず、この時点で実験を終了した。この期間中の各レモンの重量を記録し、WXと名づけ、この際Xは特定の日におけるレモンの重量である。実験重量(WX)と初期重量(WI)との間の差が重量損失であり、次いでこの差を、初期重量に対する百分率として算出し、この重量損失の百分率を時間の関数としてプロットした。
【0100】
図2に示すデータにより、新規なエマルションは処理レモンの水分の損失を12.8%から9.2%へと低減させることができ、これにより重量損失を28%低減させたことが示される。
【0101】
実施例9.再パルプ化試験
ワックスコーティングされた紙サンプルの再パルプ化の実現可能性を調べるために、1.5Lの熱い(約120°F)水道水を、オステライザー(OSTERIZER)(登録商標)モデル6641ブレンダー(サンビーム コーポレイション(Sunbeam Corp.)、フォート ローダーデール(Ft. Lauderdale)、フロリダ州)中に入れた。これに3.98gの炭酸ナトリウムを添加した。ブレンダーを低速にセットし、1分間運転させて炭酸ナトリウムを溶解させた。この水性溶液のpHは約10であった。次いで、5gのワックスコーティングされた段ボール原紙サンプル(上記の実施例7で説明したように調製した)を水中に添加した。ブレンダーを10分間運転させ、次いで停止させて、サンプルの破片がふたの側面に付着しているかどうかを簡便に決定し、仮にそうであれば、当該破片をふたから除去し、ブレンダー中の水へ加え戻した。次いで、ブレンダーをさらに10分間逆に回転させて、混合サイクルを完了した。完了後速やかに、500mLを注ぎ出し、さらに500mLの熱い(約120°F)水で希釈した。希釈液をクオートジャー中へ注入した。次いで、サンプルをコントロールワックスサンプル(用いたコントロールワックスは、石油由来のパラフィンワックスであるシッゴー ブレンド−コート(BLEND−KOTE)(登録商標)467(シッゴー ペトローリアム コーポレイション、タルサ、オクラホマ州)である)と主観的に比較し、表4に示すように液体中に存在する粒子の数およびサイズを決定した。
【0102】
この評価の結果を表4に示す。マーカス オイルのヤシワックスは最高の再パルプ化結果を示し、これで処理された段ボール原紙サンプルは目に見える粒子をほとんど生じず、コーティングはほとんど再パルプ化溶液中に消失した。この製剤のMVTR(表6)は、コントロールよりも高いが、たいていの食品の包装用途には許容しうる範囲内である程度には低いと考えられる。
【0103】
再パルプ化実験において、ダイズワックスサンプルはコントロールよりも少ない小粒子を生じたが、ヤシワックスよりは多くの粒子を生じた。シッゴーコントロールは予想通り、非常に多くの目に見える小粒子を生じた。
【0104】
本実施例における再パルプ化試験は溶融ワックスを用いて行ったが、この結果により、コーティングがエマルションの形態で塗布されると、達成されるべき結果を示すことが示される(以下の実施例10に示すように)。
【0105】
実施例10.エマルションコーティング板紙の再パルプ化および湿潤強度試験
ダンボール板紙のサンプルを得て、ダイズワックスエマルションを用いてコーティングし、エマルションコーティングされた板紙の再パルプ化能を決定した。
【0106】
以下の配合を用いて試験エマルションを調製した:
【0107】
【表8】

【0108】
205°Fにセットされた水浴中に浸漬させることによりワックスを溶融させて、KOH溶液、界面活性剤および50gの熱水をソルバール(登録商標)ミキサー(混合速度を2にセット)中に添加し、15分間撹拌し、撹拌を続けながら水道水浴中で急速に冷却することにより、エマルションを調製した。得られたエマルションは、安定で流動性の乳状エマルションであった。ポリステップ(登録商標)F−3は10〜12の範囲のHLBを有する非イオン性界面活性剤である。
【0109】
板紙、具体的には段ボール箱(200#「C」フルート、32lb/inの端部圧縮を有する段ボールクラフト)を3cm×8cmの断片に切断し、各断片を秤量した。秤量した断片を90℃にセットしたオーブン中で30分間乾燥させた。
【0110】
6つの断片(処理した3つをAと名づけ、コントロールの3つをCと名づけた)をエマルション中に5分間浸した。これらの断片には完全に染み込んだようであった。他の3つの板紙断片(非処理でBと名づけた)を非処理サンプルとして残した。6つの処理断片(AおよびC)をエマルションから取り出し、乾燥させた。全てのサンプルを90℃にセットされたオーブン中に1時間置いた。重量を以下の通り記録した:
【0111】
【表9】

【0112】
再パルプ化条件を繰り返すため、乾燥サンプルのそれぞれを80mLの水道水と混合し、3mLのポリステップ(登録商標)F−3およびKOHを添加してpHを約9とした。このサンプルを60℃まで加熱し、速度#3にセットされたソルバール(登録商標)ミキサー中で5分間混合した。各サンプルを濾紙(20ミクロン孔径)を介して濾過し、温水道水で洗浄した(3回洗浄、各洗浄は約200mL)。洗浄したパルプを90℃のオーブン中に8時間置き、乾燥させた。
【0113】
乾燥後、各サンプルから3gのパルプを取り、40mLのキシレン(マーカス ナット180ワックスに対する周知の溶媒)と混合した。キシレンに浸したパルプを80℃のオーブン中に30分間置き、次いでよく混合して、30分間放置した。13gの上清キシレンを各ビーカーから秤量ビーカーへ移し、次いでホットプレート上に置き、溶媒を揮発させた。コントロールサンプル(エマルションコーティングされた段ボール板紙のサンプル)を調製し、最初の再パルプ化を行わずにキシレン抽出に供した。
【0114】
以下に示すように、この結果によれば、温アルカリ水および界面活性剤を用いた洗浄の結果として、紙からワックスが除去されたことが示される。コントロールによれば、再パルプ化工程において除去されなければ、適量のワックスが存在していることが示される。
【0115】
【表10】

【0116】
処理サンプルは非処理サンプルよりも明らかに硬いことが観察された。エマルションコーティングが段ボールの湿潤強度特性に影響を及ぼすかどうかを調べるために、再パルプ化条件に供さなかったこと以外は上記の本実施例で説明したように処理サンプルおよび非処理サンプルをさらに調製した。全てのサンプルを室温の水に1分間浸漬させ、次いで当該サンプルをスケール上に置き、直径3/8インチの棒を紙に垂直に置き、段ボールを圧潰させるのに必要な力を測定した。
【0117】
以下に示すように、結果によれば、新規なエマルションは湿潤段ボールの潰れ強度(crush strength)を向上させる助けとなることが示される。
【0118】
【表11】

【0119】
実施例11.ワックスおよび新聞紙の再パルプ化
本評価に用いた紙ストックは二次繊維を高い割合で用いて製造されることが本業界において知られているユーエスニュース(US News)であった。この紙は高含量のリサイクル紙を用いて製造されるため、ワックスコーティングされた紙ストックがしばしばコーティングされていない紙ストックと混合される。ワックスが除去されない限り、当該ワックスにより再加工紙には問題が生じる。かような問題としては、紙の染み付きや、紙の光沢および印刷性能への影響などがある。
【0120】
以下の評価によれば、本発明のワックスは通常の再パルプ化条件下において容易に分散しうることが示され、また、トリグリセリドワックスの石鹸へのケン化により再パルプ化が助けられるというさらなる付随的な利点も得られる。
【0121】
高速ミキサーを用いて、10%固形物の紙固形物ストック(10gの紙および90gの水)を製造した。この紙ストックをコントロールパルプストックとして用いた。植物性ワックスの1つを用いて調製されたエマルションのいずれかを添加することにより、または紙からのインクの除去に有効であることが知られている界面活性剤を添加することにより、一連の混合物を調製した。エマルションまたは界面活性剤は、水浴の重量に応じて(すなわち、紙ストックの総重量に応じて)、0.5%または1.0%のいずれかの濃度まで添加した。各エマルションは30%の活性分(actives)を含む製品から添加したのに対し、界面活性剤は45%の活性分(エチレンオキシドおよびプロピレンオキシド)を含むストックから添加した。
【0122】
以下の混合物を製造し、インク除去について評価した:
【0123】
【表12】

【0124】
本実施例において、脱インク界面活性剤は、ネーパーヴィル、イリノイ州のオンデオ ナルコにより供給されるエトキシ化プロピレンオキシドアルコールであるナルコDI1221であった。この界面活性剤は特に脱インク用途のために開発されてきた。上記の混合物を10分間撹拌した。本実施例においてさらに説明するように、ワックスを用いて調製したエマルションを含有する混合物は、水酸化ナトリウム溶液を用いて反応混合物のpHを7.5〜8.0に調節する必要があった。次いで、紙スラリーを洗浄して紙からインクを浮遊させ、当業者に周知のハンター ホワイトネス(Hunter Whiteness)スケールを用いて紙サンプルを調べた。
【0125】
以下に示すように、その結果によれば、双方のナット(NAT)ワックスがより低濃度(0.5%)で脱インク界面活性剤(ナルコDI2221)よりも優れた性能を発揮したことが示される。しかしながら、ナット180ワックス(70%の硬化ダイズワックスおよび30%の硬化ヒマシワックス)を用いて製造されたサンプルでは、加工温度を160〜175°Fまで上昇させて、基材ワックスの溶解性を改善させる必要があった。
【0126】
【表13】

【0127】
紙からのインク除去速度がより大きいことによりナットワックスがコントロールの脱インク界面活性剤よりも優れた性能を示すかどうかを調べるために、第2の実験シリーズを行った。本実験において、本発明のワックス組成物を含有するサンプルでは、最高の結果を得るのに8分間の加工を必要とした脱インク界面活性剤(ナルコDI2221)と比較して、最初の1分間の加工中にインクが除去された。
【0128】
上記の混合物において用いたエマルションは、乳化工程の間に6〜7のpHを用いて製造されたエマルションを用いて調製された。
【0129】
乳化工程の間に約7.8のpHを用い、マーカス ナット155(ダイズ)を用いてエマルションを調製し、このエマルションのサンプルについて、本実施例で上述したように新聞印刷からのインクの除去能を調べた。これらのデータによれば、6.0〜7.0の間の加工pHを用いて調製されたエマルションを用い、脱インクスラリー工程の間にアルカリを添加してpHを7.5〜8.0に調節することにより、最高の結果が得られることが示された。
【0130】
実施例12.紙ストックの再パルプ化能に対するpHおよび温度の影響
本実施例においては、仕上げが全く塗布されていないストック紙を用いた(仕上げとは、一般的に筆記用紙に塗布されるデンプン並びに/またはデンプンおよび粘土ベースのコーティングである)。紙ストックは、ギフトラッピング業界において一般的に#1ホワイトラッピングティシューと称され、紙1000平方フィート当たり10lbsの基礎重量を有する。この源はフェデラル ペーパー ボード カンパニー,インコーポレイテッド(Federal Paper Board Company,Inc.)(モントベール、ニュージャージー州)であった。
【0131】
この紙ストックの繰り返しのサンプルを、追加固形物の最終濃度が0.5%、1.0%、および1.5%となるように、マーカス ナット180(30%固形物を含み、イジェパル(登録商標)CO−630非イオン性界面活性剤を用いて調製される、ダイズワックス−ヒマシワックス混合物)を用いて調製されたエマルションで処理した。再パルプ化された混合物にはさらに界面活性剤は添加せず、サンプルのpHを測定したところ7.5および8.0であった。コーティングされた紙ストックを250°Fにて空気乾燥させた。乾燥後、高速ブレンダーを用いてコーティングされた紙ストックを再パルプ化し、非処理ストックのコントロールサンプルと比較した。
【0132】
本研究の結果によれば、低レベル(0.5%)のワックスで処理されたサンプルでは、42分間を必要としたコントロール(非処理紙ストック)と比べて、20分以内で通常の粘度のパルプが得られることが示された。水酸化ナトリウムを添加してpHを7.5〜8.0に上昇させ、さらなる加熱は行わなかった。170〜180°Fの加工温度が達成され、この熱は反応混合物の高速混合により生じた。高レベルのナット180ワックス(1.5%)を用いて調製されたサンプルでは、18秒の加工時間を示した。
【0133】
これらの結果から、ナット180(ダイズワックスとヒマシワックスとの混合物)またはナット155(ダイズ)ワックスを含有するエマルションは、紙上に低レベル(0.5〜1.5%)で存在して天然ワックスを低刺激石鹸に変換するためにpHが調節されると、再パルプ化工程を助けることが示された。パルプを得るのに必要な時間の差として示される変化の度合いは、有意であると考えられる。
【0134】
上記の教示に徴せば、明らかに本発明の改良および改変は可能である。従って、特記しない限り、添付の特許請求の範囲の技術的範囲内において本発明は実施されうることは理解されるべきである。
【0135】
【表14】

【0136】
【表15】

【0137】
【表16】

【0138】
【表17】

【0139】
【表18】

【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】硬化油を製造するための工程を示すフローチャートである。
【図2】ダイズワックスベースのエマルションを用いた柑橘類果実のコーティングの、重量減少に対する効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルションの全重量に対して約10%〜約50%の、約10未満のヨウ素価および120〜約200°Fの融点(メトラー滴点)を有することを特徴とする硬化植物ワックス;
エマルションの全重量に対して約50%〜約90%の水;
エマルションの全重量に対して約1%〜約25%の界面活性物質;および、
エマルションの全重量に対して約0.02%〜約2.5%の酸または塩基;
を含む水−ワックスエマルション。
【請求項2】
前記ワックスが、ヒマシ、ダイズ、ヤシ、トウモロコシ、綿実、菜種、カノーラ、ヒマワリ、ヤシ核、ココナッツ、クランベリー、アマニおよびピーナッツからなる群から選択される、請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
前記ワックスが、ヒマシ、ヤシおよびダイズ、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載のエマルション。
【請求項4】
前記ワックスが、ステアリン酸、リシノール酸、オレイン酸およびパルミチン酸からなる群から選択される脂肪酸を含む、請求項3に記載のエマルション。
【請求項5】
前記脂肪酸がステアリン酸である、請求項4に記載のエマルション。
【請求項6】
前記脂肪酸がリシノール酸である、請求項4に記載のエマルション。
【請求項7】
エマルションの全重量に対して約55%〜約75%の水、およびエマルションの全重量に対して約20%〜約45%の固形物を含む、請求項2に記載のエマルション。
【請求項8】
前記界面活性物質が、カチオン性および非イオン性界面活性剤からなる群から選択される、請求項7に記載のエマルション。
【請求項9】
繊維性セルロース製品を耐湿性とするのに有効な量で前記繊維性セルロース製品に塗布される、請求項7に記載のエマルション。
【請求項10】
処理された繊維性セルロース製品の潰れ強度が向上していることを特徴とする、請求項9に記載のエマルション。
【請求項11】
処理された繊維性セルロース製品の湿潤時の潰れ強度が向上していることを特徴とする、請求項9に記載のエマルション。
【請求項12】
耐湿性繊維性セルロース製品を温かいアルカリ性水性混合物で処理することにより、塗布されたエマルションが前記耐湿性繊維性セルロース製品から除去される、請求項9に記載のエマルション。
【請求項13】
インクを含有する繊維性セルロース製品を含む温かいアルカリ性水性混合物に請求項7に記載のエマルションを添加し、前記インクを除去する、繊維性セルロース製品からのインクの除去方法。
【請求項14】
前記エマルションを溶液の約0.1%〜約1%の範囲の量で温かいアルカリ性水性混合物に添加することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項7に記載のエマルションを、水分の蒸散を遅延させるのに有効な量で果実に塗布する、果実からの水分の蒸散速度の遅延方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−521448(P2006−521448A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507169(P2006−507169)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/007777
【国際公開番号】WO2004/083310
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(505348418)エイチアールディー コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】