説明

水に溶出し易い物質の固定化方法、およびそれにより得られる資材

【課題】被処理物中に含まれる物質を易溶出状態から難溶出状態へと変化させる技術を提供する。
【解決手段】水に溶出し易い物質を含有する被処理物に降下性火山噴出物の風化物を混合し、そして該混合物において該水に溶質し易い物質と該降下性火山噴出物の風化物との結合により難溶出性の化学的複合体を形成することを特徴とする水に溶出し易い物質の固定化方法および再利用方法、並びに該再利用方法により得られた化学的複合体。本発明の方法は、処理費用が安価であり、処理作業が簡単で、処理能力も大きく、固定化能力に優れる。また同時に複数の物質に対して作用して異なる化学的複合体を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶出し易い有害物質を同時に複数含有する焼却灰、燃焼灰、汚泥、土壌、廃棄物、排水、廃液等に反応性物質を添加することにより、該水に溶出し易い有害物質を固定化する方法、およびそれにより得られる特定用途に利用可能な資材に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却灰、燃焼灰、汚泥、土壌、廃棄物等、およびそれら由来の排水、廃液中には、水に溶出し易く環境に対して負荷を与える有害物質を含有することが知られている。従って、これらを環境中にそのまま排出することはできず、溶出した有害物質が環境中に放出せぬよう特別な対策を施した処理場に埋め立てるか、水に溶出し易い有害物質を難溶出性にする、即ち固定化することが行われている。ここで従来慣用に用いられている固定化処理には、固化法、化学的不溶化法、電気分解法、洗浄法および熱処理法がある。
【0003】
固化法は、被処理物をセメントまたは固化材と混合して、その表面に、さらにはその内部に遮水層を形成し、形成した遮水層により水に溶出し易い物質の短期拡散を抑制する方法である。この方法は、処理費用が安く処理能力が大きいことから広く用いられているが、長期の保存では、酸性雨によるpH変化等のために遮水層が劣化して固定化した有害物質の再溶出が起こるため、安定性が低いという欠点を有する。
【0004】
化学的不溶化法は、種々の化学物質を使用して、水に溶出し易い有害物質を難溶出性に変化させる方法である。水系に方法を適用する場合には、難溶性の塩を形成させて、水に溶出し易い有害物質を沈殿除去することもできる。また使用する化学物質は固定化する有害物質によって異なり、例えばカドミウムおよび鉛には水酸化物が、クロムには亜硫酸塩が、ヒ素およびセレンには鉄塩またはアルミニウム塩が、シアン化合物には次亜塩素酸ナトリウムが、ホウ素およびフッ素にはカルシウム塩またはアルミニウム塩が一般に使用される。この化学的不溶化法は処理費用が比較的安価であるため多用されるが、pH変化等により難溶出性塩が分解して再溶出が起こる虞がある。また被処理物が水に溶出し易い有害物質を複数含有する場合には、固定化する有害物質に対応して複数の化学物質を使用する必要があり、処理費用の高騰および処理作業の煩雑化を招く。
【0005】
また、水に溶出し易い有害物質の除去には、電気分解により金属イオンを回収する電気分解法、水洗および分級により濃度の高い細粒分を除去する洗浄法、並びに加熱により揮発性成分を回収する熱処理法も用いられており、これらの方法で目的物質を50%程度まで除去できる。しかしながら、それ以上の除去は困難であって多量の残留物質が生じ、また処理時間が長い、処理費用が高い等の問題もある。汚染土壌を原位置で処理する場合に行われる揚水抽出と超高圧洗浄とを組み合わせた処理においても同様の問題があり、また汚染土壌の原位置での処理では、中短期的な環境改善を目的として汚染土壌を覆砂することも行われているが、これは「臭いものに蓋」的な方法であって汚染土壌はそのまま残存するため根本的な解決には至らない。
【0006】
ところで、塩基性ケイ酸アルミニウムであるアロフェンは、直径約0.3〜0.5nmの微細孔を多数持つ多孔質材料である。そして、この多孔質性を利用してアロフェンは様々な物質の物理的吸着および凝集に用いられており、例えば、アロフェンに所定の配合割合で水酸化カルシウムを添加してなる浄化材が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この浄化材では、アロフェンと水酸化カルシウムとから合成された粘着性を有する水酸化アルミニウムと硫酸カルシウムの膜が汚水中の不純物を包み込み、アロフェンが沈殿を促進することで有害な目的物質を分離する。
【0007】
また、ケイ素18〜24%、アルミニウム23〜29%、鉄1〜5%の化学組成を有し、アロフェンを主成分とする火山灰土壌を造粒して得られる火山灰吸着材も知られている(例えば、特許文献3参照)。これは嵩比重0.5〜0.7および水中破壊率25%以下の球状造粒物であり、ホスフィン酸イオンおよびホスホン酸イオンを吸着除去できる。
【0008】
さらに、還元性の金属と、還元剤、硫酸アルミニウム、アロフェンおよびベントナイトからなる群より選択される少なくとも1種とを含有する廃棄物処理材(例えば、特許文献4参照)、およびα化デンプンまたはデキストリンと、ケイ酸ナトリウムまたはリン酸水素塩化合物と、アロフェンとを含有する無害安定化処理剤(例えば、特許文献5参照)も知られている。ここでアロフェンは、前者では物理的吸着材として、また後者では他の2成分により生成した反応生成物の凝集材として作用する。
【0009】
アロフェンを用いて水中のホウ素およびフッ素を除去することも知られている(例えば、特許文献6および特許文献7参照)。この除去方法では、水中に存在するフッ素イオンまたはホウ素イオンを除去し得る成分として、アルミナ、アロフェンまたはマグネシウム化合物を択一的に使用し、また処理時には被処理水のpHを調節する必要もある。
【特許文献1】特開平5−137905号公報
【特許文献2】特開平5−168817号公報
【特許文献3】特開平6−154594号公報
【特許文献4】特開平7−60221号公報
【特許文献5】特開平7−136615号公報
【特許文献6】特開2004−283760公報
【特許文献7】特開2002−263640公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水に溶出し易い有害物質を含み、該物質の固定化が必要な被処理物として、焼却灰の1種である石炭灰が挙げられる。この石炭灰は、エネルギー消費の増大に伴って今後も発生量が増大し続けることが予想され、発生量が多いことから処理費用が安価で処理能力が大きい方法により含まれる水に溶出し易い有害物質を固定化することが望まれている。しかしながら、従来技術でこれら2つ条件を満たす方法は固定化能力に乏しく、実用に供し得ないものであった。また石炭灰が複数の固定化すべき有害物質、例えばホウ素、フッ素、ヒ素、セレン等を同時に含有することも、処理費用の高騰および処理作業の煩雑化を招いていた。これらの理由により、有害物質の含有量が少ない一部の石炭灰が処理されているのみであって、含有量が多いものについては従来技術では十分に処理し得ず、未処理のまま埋め立てられていた。しかしながら、増え続ける石炭灰に対して埋立地の残容量は限られており、また新たな埋立地の整備も困難であることから、処理費用、処理能力および固定化能力に優れ、石炭灰処理に適用できる新規な固定化方法の開発が急務であった。
【0011】
従って本発明の目的は、被処理物中に含まれる水に溶出し易い有害物質を固定化する方法であって、処理費用が安価で処理作用が容易であり、かつ固定化能力が高い方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は鋭意研究を行った結果、降下性火山噴出物の風化物が水に溶出し易い有害物質と結合して、難溶出性の化学的複合体を形成することを見出した。そして、この処理では、降下性火山噴出物の風化物を安価に調達でき、被処理物の増加に容易に対応可能で、固定化能力も十分であること、さらには複数の水に溶出し易い有害物質に対して同時かつ多元的に作用し得るとの知見を得て本発明を完成させた。
【0013】
さらに本発明者は、降下性火山噴出物の風化物を添加しても、添加前の被処理物の物理的性質(比重、体積、硬度、外観、強度等)に大きな影響がないことを見出した。そして、降下性火山噴出物の風化物の添加量を制御することにより、降下性火山噴出物の風化物と難溶出性の化学的複合体を形成した水に溶出し易い物質が、徐放出性を有することを利用して、該水に溶出し易い物質が極微量で存在することが有効な様々な特定の用途に、該化学的複合体を再利用し得ることをも発見した。
【0014】
本発明は、降下性火山噴出物の風化物が水に溶出し易い有害物質と種々の化学的複合体を形成するという新たな知見に基き、さらに該化学的複合体の構造や組成について研究を行ってなされたものである。従って、降下性火山噴出物の風化物が1成分としてアロフェンを含有するものであったとしても、降下性火山噴出物の風化物が化学的複合体を形成することを特徴とする本発明は、アロフェンが有する多孔質構造に基いた物理的な吸着・凝集作用を利用する従来技術とは区別されるものである。
【0015】
即ち、本発明は、
水に溶出し易い有害物質を含有する被処理物に降下性火山噴出物の風化物を混合し、そして該混合物において該水に溶出し易い有害物質と該降下性火山噴出物の風化物との結合により難溶出性の化学的複合体を形成することを特徴とする、水に溶出し易い有害物質の固定化方法
に関する。
【0016】
本発明の水に溶出し易い有害物質の固定化方法の好ましい態様は、
前記被処理物が、焼却灰、燃焼灰、汚泥、土壌、廃棄物、排水および廃液からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記水に溶出し易い有害物質の固定化方法、
前記水に溶出し易い物質が、ホウ素、フッ素、ヒ素、セレン、クロム、シアン化合物、リン、カドミウム、銅、亜鉛、鉛、水銀およびモリブデンからなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記水に溶出し易い有害物質の固定化方法、
前記降下性火山噴出物の風化物が、アロフェンを含有することを特徴とする、前記水に溶出し易い有害物質の固定化方法、
前記降下性火山噴出物の風化物が、粉砕および/または沈底により、20μm以下に粒度を調節したアロフェンを含有することを特徴とする、前記水に溶出し易い有害物質の固定化方法、および
前記降下性火山噴出物の風化物が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオンからなる群より選択される1種または2種以上の金属イオンをシラノール基に担持させたアロフェンを含有することを特徴とする、前記水に溶出し易い有害物質の固定化方法
に関する。
【0017】
また本発明は、
前記固定化方法により得られた難溶出性の化学的複合体を形成している水に溶出し易い有害物質と降下性火山噴出物の風化物との混合物と、セメントまたは固化剤とを含有することを特徴とする、土木用または建設用の資材に関する。
【0018】
さらに本発明は、
水に溶出し易い物質を含有する被処理物に降下性火山噴出物の風化物を混合し、該混合物において該水に溶出し易い物質と該降下性火山噴出物の風化物との結合により難溶出性の化学的複合体を形成し、そして特定の用途に適する該化学的複合体を該混合物より取り出
すことを特徴とする水に溶出し易い物質の再利用方法
に関する。
【0019】
本発明の水に溶出し易い物質の再利用方法の好ましい態様は、
前記被処理物が、焼却灰、燃焼灰、汚泥、土壌、廃棄物、排水および廃液からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記水に溶出し易い物質が、ホウ素、フッ素、ヒ素、セレン、クロム、シアン化合物、リン、カドミウム、銅、亜鉛、鉛、水銀およびモリブデンからなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記降下性火山噴出物の風化物が、アロフェンを含有することを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記降下性火山噴出物の風化物が、粉砕および/または沈底により、20μm以下に粒度を調節したアロフェンを含有することを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記降下性火山噴出物の風化物が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオンからなる群より選択される1種または2種以上の金属イオンをシラノール基に担持させたアロフェンを含有することを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記水に溶出し易い物質がホウ素であり、前記化学的複合体が次式
HOSiO3Al2(OH)2B(OH)4
で表される塩基性ケイ酸ホウ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/B=1〜2000であることを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記水に溶出し易い物質がフッ素であり、前記化学的複合体が次式
HOSiO3Al2(OH)2
で表される塩基性ケイ酸フッ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/F=1〜2000であることを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、
前記水に溶出し易い物質がヒ素であり、前記化学的複合体が次式
(HO)3Si39Al6AsO4(OH)6
で表される塩基性ケイ酸ヒ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/As=1〜2000であることを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法、および
前記水に溶出し易い物質がセレンであり、前記化学的複合体が次式
(HO)3Si39Al6SeO4(OH)6
で表される塩基性ケイ酸セレン酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/Se=1〜2000であることを特徴とする、前記水に溶出し易い物質の再利用方法に関する。
【0020】
加えて本発明は、前記再利用方法により得られた化学的複合体に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、水に溶出し易い有害物質と火山性噴火降下物の風化物とが化学的複合体を形成するため、物理的吸着を利用する従来技術と比較して固定化能力が高い。また火山性噴火降下物の風化物は風化軽石等の原料からなり、日本中至る所で入手可能であるため安価に調達できる。さらに処理作業も被処理物に風化物を混入するだけであるので簡単に行
え、処理作業に要する時間も短く、また大量の有害物質を処理するには風化物の添加量を増大させればよいので処理量の増加にも容易に対応できる。従って本発明は、焼却灰、汚泥、建設残土等の中に含まれる有害物質の固定化に好ましく利用できる。
【0022】
また本発明で使用する火山性噴火降下物の風化物は、同時に複数の有害物質に対して作用して固定化し得る。これにより、個々の物質については適当な処理方法が知られていたが、複数の物質を同時に処理しようとすると処理費用が高騰したり処理作業が煩雑となるという従来技術の問題を克服でき、特に処理すべき物質を複数含有する排水、廃液等の処理に有用である。
【0023】
さらに本発明で使用する該火山性噴火降下物の風化物は、元より自然界に存在する地化学的物質であるため、本発明の方法により新たな環境負荷が生じることはない。また本発明では水に溶出し易い有害物質が化学的複合体を形成するので、従来のように環境の変化によって再溶出したりせず長期間安定である。これらの特徴により本発明は、汚染土壌の原位置での処理に好ましく適用できる。
【0024】
さらに本発明では、降下性火山噴出物の風化物の添加量を制御することにより、難溶出性の化学的複合体から水に溶出し易い物質が極微量ずつ放出されることを利用して、該化学的複合体を様々な用途に再利用できる。従って、本発明の化学的複合体は、特定の物質が極微量ずつ継続的に放出されることが要求される用途において、好ましく適用し得る資材となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明における被処理物は、降下性火山噴出物の風化物と難溶出化の化学的複合体を形成できる水に溶出し易い物質を含有するものであれば特に限定されないが、特に水に溶出し易い有害物質により汚染された物質が挙げられる。このような被処理物としては、例えば、石炭灰(フライアッシュ、クリンカアッシュ)、コークス灰、重油灰、木炭灰、スラグ等の焼却灰、燃焼灰、活性汚泥、製紙汚泥等の有機汚泥、砂利洗浄汚泥、セメント工場排水処理汚泥等の無機汚泥、建設汚泥、上下水汚泥、建設残土、重金属類等を含む汚染土壌、産業廃棄物、一般廃棄物、排水、廃液等が挙げられる。また、被処理物はこれらの2種以上の混合物であってもよい。
【0026】
前記被処理物中に含まれ、前記降下性火山噴出物の風化物と化学的複合体を形成する水に溶出し易い有害物質としては、ホウ素、フッ素、砒素、セレン、クロム、シアン化合物、リン、カドミウム、銅、亜鉛、鉛、水銀、モリブデン等が挙げられる。特に近年の発生量の増大により注目される石炭灰は、ホウ素、フッ素、砒素、セレン等を含むが、従来技術では十分に難溶出化できない程にこれらを大量に含む石炭灰についても本発明は有効であり得る。また、被処理物が2種以上の水に溶出し易い物質を同時に含有する場合であっても、降下性火山噴出物の風化物は各々の物質と異なる難溶出性の化学的複合体を形成して、多元的に固定化できる。
【0027】
本発明で使用する降下性火山噴出物の風化物は、例えば火山灰または軽石の風化物であって、成分の1つとして塩基性ケイ酸アルミニウムであるアロフェンを含有する。アロフェンは、直径約3〜5μmの微細孔を多数持つ多孔質材料であり、従来技術において物理的吸着材または凝集材として知られていた。しかしながら本発明では、降下性火山噴出物の風化物と水に溶出し易い有害物質とが化学的複合体を形成する点において、従来技術とは明らかに相違する。
【0028】
また本発明では、前記降下性火山噴出物の風化物に対して粉砕または沈底を行って、前記アロフェンの粒度を調節することができる。該アロフェンの粒度は、例えば20μm以
下であり、2μmが好ましく、そして0.2μm以下が特に好ましい。
【0029】
さらに前記アロフェンが有するシラノール基に金属イオンを担持させ、前記降下性火山噴出物の風化物の化学的複合体形成作用を制御することもできる。担持させる金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を担持させることができる。
【0030】
本発明の特徴は、前記水に溶出し易い有害物質と前記降下性火山噴出物の風化物とが化学的複合体を形成することにある。該降下性火山噴出物の風化物の1成分であるアロフェンは、孔隙上に存在するSi-O-からなる部分とAl-OH2+からなる部分とを含み、前者は鉛、銅、亜鉛、カドミウム等の陽イオンの形態を有する物質と結合し、また後者はフッ素、ホウ素、ヒ素、セレン等の陰イオンの形態を有する物質と結合してアロフェン表面上に化学的複合体を形成する。そして、一度この化学的複合体が形成すると、化学的複合体に他の陽イオンまたは陰イオンが接近してもイオン交換、配位子交換等の反応は進行せず、水に溶出し易い有害物質は難溶性のままとなる。
【0031】
前記化学的複合体の具体的な構造は、例えば、前記水に溶出し易い有害物質がホウ素である場合、該化学的複合体は次式
HOSiO3Al2(OH)2B(OH)4
で表される塩基性ケイ酸ホウ酸アルミニウムの部分構造を有する。そして該化学的複合体の組成は、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/B=1〜2000であり、またその理論値はSi/Al=0.5、OH/Al=1.5、かつSi/B=2.55である。
【0032】
また前記水に溶出し易い有害物質がフッ素である場合、前記化学的複合体は次式
HOSiO3Al2(OH)2
で表される塩基性ケイ酸フッ酸アルミニウムの部分構造を有する。そして該化学的複合体の組成は、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/F=1〜2000であり、またその理論値はSi/Al=0.5、OH/Al=1.5、かつSi/F=1.47である。
【0033】
さらに、前記水に溶出し易い有害物質がヒ素である場合、前記化学的複合体は次式
(HO)3Si39Al6AsO4(OH)6
で表される塩基性ケイ酸ヒ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成は、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/As=1〜2000であり、またその理論値はSi/Al=0.5、OH/Al=1.5、かつSi/As=1.12である。
【0034】
同様に、前記水に溶出し易い有害物質がセレンである場合、前記化学的複合体は次式
(HO)3Si39Al6SeO4(OH)6
で表される塩基性ケイ酸セレン酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成は、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/Se=1〜2000であり、またその理論値はSi/Al=0.5、OH/Al=1.5、かつSi/Se=1.06である。
【0035】
本発明において、前記水に溶出し易い有害物質を含有する被処理物と前記降下性火山噴出物の風化物の化学的複合体は、双方を直接混練するか、または機械装置の運転過程で双方を接触させて形成できる。後者の場合、接触させる方法は混練に限定されず、従来慣用の種々の方法を使用できる。
【0036】
本発明の方法で処理された水に溶出し易い有害物質を含有する非処理物は、セメント、固化剤等と混合して所望の形状に成形した後、土木用資材または建設用資材として再利用できる。また本発明では、被処理物に降下性火山噴出物の風化物を添加しても、添加前の被処理物の物理的性質(比重、体積、硬度、外観、強度等)が大きく変化しないため、土木用途または建設用途に要求される特性を備えた資材を容易に得ることができる。
【0037】
また本発明の化学的複合体は、被処理物中の水に溶出し易い物質を難溶出性の状態で含有する。言換えると、難溶出性の該化学的複合体は、降下性火山噴出物の風化物の添加量を制御することにより、固定化した物質に、非常に微量で徐々に放出するという徐放出性を持たせることができる。従って、本発明の化学的複合体は、水に溶出し易い物質が微量ずつ継続的に放出されることが要求される用途に好ましく利用できる。このような用途の具体例として、例えば、ホウ素を含有する化学的複合体の場合には、ホウ素を必要とする職物、微生物、動物等に対する緩効性の徐放出性ホウ素肥料等、フッ素を含有する化学的複合体の場合には、ヒドロキシアパタイトを硬化する性質を利用した飲料水、歯磨き粉、練り歯磨き等のための虫歯予防剤等、またヒ素またはセレンを含有する化学的複合体の場合には、ヒ素またはセレンにより生体機能をかく乱される、細菌および鼠、野兎等のげっ歯類のための抗菌剤、殺生物剤等が挙げられる。
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明を実施例に限定することを意図しない。
【0039】
実施例1〜5および比較例1
複数の水に溶出し易い有害物質を含有する石炭灰(フライアッシュ)を被処理物として使用した。また、鳥取県倉吉で入手した大山由来の風化軽石を粉砕し、水ひによって2μm以下の粒径に調整して得た生成物を降下性火山噴出物の風化物として使用した。
上記の被処理物85gをセメント15gと混合し、得られた混合物の全重量100gに対して0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、5.0重量%および10重量%の添加率で降下性火山噴出物の風化物を添加した。次いで水20gを添加してこれを良く混練し、実施例1〜5の難溶出化混合物を製造した。また比較例1として、降下性火山噴出物の風化物を添加しない組成物も製造した。
【0040】
こうして得られた実施例1〜5および比較例1の時被処理物について溶出試験を行った。溶出試験に際しては、予め石炭灰について従来技術のセメントによる固化法を行い、この被処理物から溶出が確認された物質:ホウ素、フッ素、ヒ素およびセレンを石炭灰中で易溶出状態にある物質であるとして試験対象元素とした。
供試体には、「セメント及びセメント系固化剤を使用した改良土の六価クロム溶出試験実施要領;国土交通省」に従って材齢7日のものを使用し、また溶出試験検液には、環境庁告示46号の方法に従って作成したものを使用した。
試験対象の測定は、ホウ素についてはJIS K 0102 47.1および47.3に、フッ素についてはJIS K 0102 34.1に、ヒ素についてはJIS K 0102 61に、またセレンについてはJIS K 0102 67.2および67.3に従って行った。
【0041】
溶出試験結果を図1〜図4に示す。図1はホウ素の溶出試験結果を、図2はフッ素の溶出試験結果を、図3はヒ素の溶出試験結果を、また図4はセレンの溶出試験結果を示すグラフであり、各グラフにおいて、横軸は降下性火山噴出物の風化物の添加率を示し、縦軸は溶出した各元素の濃度(ppm)を示す。
図1に示されるホウ素の溶出試験結果は、降下性火山噴出物の風化物の添加率0%であるときの溶出濃度(初期溶出濃度、比較例1)が0.42ppmであったのに対し、添加
率10%(実施例5)では溶出濃度が大きく減少することを表した。また全ての実施例において、溶出濃度は環境基準である1ppm以下であった。
図2に示されるフッ素の溶出試験結果は、2.53ppmの初期溶出濃度に対して、添加率が上昇するにつれて溶出濃度が顕著に減少し、少量の添加で溶出抑制が見込めることを表した。
図3に示されるヒ素の溶出試験結果は、0.104ppmの初期溶出濃度に対して、添加率が上昇するにつれて溶出濃度が顕著に減少することを表した。
図4に示されるセレンの溶出試験結果は、0.147ppmの初期溶出濃度に対して、溶出濃度は添加率0.1%(実施例1)で既に大きく減少し、添加率10%(実施例5)では初期溶出濃度の半分の値となったことを表した。
またこれらの結果より、本発明の難溶出化混合物では4種全ての元素の溶出濃度が減少し、複数の物質を易溶出状態で含有する被処理物であっても、降下性火山噴出物の風化物の添加のみで有効に難溶出化できることを表した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、実施例1〜5および比較例1の難溶出化混合物に対する、ホウ素の溶出試験結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例1〜5および比較例1の難溶出化混合物に対する、フッ素の溶出試験結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1〜5および比較例1の難溶出化混合物に対する、ヒ素の溶出試験結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1〜5および比較例1の難溶出化混合物に対する、セレンの溶出試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に溶出し易い有害物質を含有する被処理物に降下性火山噴出物の風化物を混合し、そして該混合物において該水に溶出し易い有害物質と該降下性火山噴出物の風化物との結合により難溶出性の化学的複合体を形成することを特徴とする、水に溶出し易い有害物質の固定化方法。
【請求項2】
前記被処理物が、焼却灰、燃焼灰、汚泥、土壌、廃棄物、排水および廃液からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1記載の水に溶出し易い有害物質の固定化方法。
【請求項3】
前記水に溶出し易い物質が、ホウ素、フッ素、ヒ素、セレン、クロム、シアン化合物、リン、カドミウム、銅、亜鉛、鉛、水銀およびモリブデンからなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1記載の水に溶出し易い有害物質の固定化方法。
【請求項4】
前記降下性火山噴出物の風化物が、アロフェンを含有することを特徴とする、請求項1記載の水に溶出し易い有害物質の固定化方法。
【請求項5】
前記降下性火山噴出物の風化物が、粉砕および/または沈底により、20μm以下に粒度を調節したアロフェンを含有することを特徴とする、請求項4記載の水に溶出し易い有害物質の固定化方法。
【請求項6】
前記降下性火山噴出物の風化物が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオンからなる群より選択される1種または2種以上の金属イオンをシラノール基に担持させたアロフェンを含有することを特徴とする、請求項4記載の水に溶出し易い有害物質の固定化方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちの何れか1項に記載の固定化方法により得られた難溶出性の化学的複合体を形成している水に溶出し易い有害物質と降下性火山噴出物の風化物との混合物と、セメントまたは固化剤とを含有することを特徴とする、土木用または建設用の資材。
【請求項8】
水に溶出し易い物質を含有する被処理物に降下性火山噴出物の風化物を混合し、該混合物において該水に溶出し易い物質と該降下性火山噴出物の風化物との結合により難溶出性の化学的複合体を形成し、そして特定の用途に適する該化学的複合体を該混合物より取り出すことを特徴とする、水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項9】
前記被処理物が、焼却灰、燃焼灰、汚泥、土壌、廃棄物、排水および廃液からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項10】
前記水に溶出し易い物質が、ホウ素、フッ素、ヒ素、セレン、クロム、シアン化合物、リン、カドミウム、銅、亜鉛、鉛、水銀およびモリブデンからなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項11】
前記降下性火山噴出物の風化物が、アロフェンを含有することを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項12】
前記降下性火山噴出物の風化物が、粉砕および/または沈底により、20μm以下に粒度を調節したアロフェンを含有することを特徴とする、請求項11記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項13】
前記降下性火山噴出物の風化物が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオンからなる群より選択される1種または2種以上の金属イオンをシラノール基に担持させたアロフェンを含有することを特徴とする、請求項11記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項14】
前記水に溶出し易い物質がホウ素であり、前記化学的複合体が次式
HOSiO3Al2(OH)2B(OH)4
で表される塩基性ケイ酸ホウ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/B=1〜2000であることを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項15】
前記水に溶出し易い物質がフッ素であり、前記化学的複合体が次式
HOSiO3Al2(OH)2
で表される塩基性ケイ酸フッ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/F=1〜2000であることを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項16】
前記水に溶出し易い物質がヒ素であり、前記化学的複合体が次式
(HO)3Si39Al6AsO4(OH)6
で表される塩基性ケイ酸ヒ酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/As=1〜2000であることを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項17】
前記水に溶出し易い物質がセレンであり、前記化学的複合体が次式
(HO)3Si39Al6SeO4(OH)6
で表される塩基性ケイ酸セレン酸アルミニウムの部分構造を有し、そして該化学的複合体の組成が、モル比でSi/Al=0.1〜2.5、OH/Al=0.5〜2.9、かつSi/Se=1〜2000であることを特徴とする、請求項8記載の水に溶出し易い物質の再利用方法。
【請求項18】
請求項14記載の再利用方法により得られた化学的複合体。
【請求項19】
請求項15記載の再利用方法により得られた化学的複合体。
【請求項20】
請求項16記載の再利用方法により得られた化学的複合体。
【請求項21】
請求項17記載の再利用方法により得られた化学的複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−263509(P2006−263509A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81916(P2005−81916)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(504002193)株式会社エネルギア・エコ・マテリア (24)
【出願人】(592062943)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】