説明

水または気体を輸送するための多層パイプ

【課題】パイプの内側から外側へ向かって下記の層:少なくとも一種のフルオロポリマーから成る層L1(任意層);PVDF上に少なくとも一種の不飽和極性単量体を照射グラフトして得た少なくとも1つの官能化PVDFから成る層L2;接着結合層L3(任意層);少なくとも一種のポリオレフィンまたは官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L4(任意層);バリヤー層L5(任意層);少なくとも一種のポリオレフィンまたは官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L6(任意層)を上記順番で有する多層パイプ。
【解決手段】不飽和極性単量体がグラフトされるPVDFが少なくとも50重量%VDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴を有する:結晶化温度Tc(ISO 11357-3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃;降伏強度σYが10〜40Mpa;溶融粘度v(毛細管レオメトリーで230/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PVDFに少なくとも一種の不飽和モノマーを照射グラフトして得た官能化PVDFの層とポリオレフィンの層とを有する多層パイプに関するものである。
ポリオレフィンはポリエチレン、特に高密度ポリエチレン(HDPE)または架橋したポリエチレン(以下、PEX)にすることができる。
本発明のパイプは液体、特に熱水または気体の輸送で使用できる。
本発明はこのパイプの使用にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼または鋳鉄のパイプをプラスチックのパイプに交換することがますます増えている。ポリオレフィン(特にポリエチレン)は機械特性に優れ、加工が簡単で、簡単に結合できるため広く使用されている熱可塑性プラスチックである。ポリオレフィンは水または都市ガスの輸送パイプの製造でも広く使用されている。このポリオレフィンは高圧の気体(>10バール以上)の場合、加圧気圧によって加わる応力に機械的に耐えることが必要である。
ポリオレフィンは化学的な攻撃に対して抵抗できる。例えば、水の輸送の場合、水は攻撃的な添加剤または化学薬品(例えば、ジャヴェル水のように水を浄化するために使用される酸化作用のあるオゾン、塩素誘導体)を含み、加熱されている場合もある。これらの添加剤または化学薬品は長時間かけてポリオレフィンに損害を与える(特に加熱回路や、菌/バクテリア/微生物を除去するために輸送水を高温に加熱する水道網の場合)。
【0003】
特許文献1(欧州特許第EP 1484346号公報)には照射グラフトによって得た官能化フルオロポリマーの層を含む多層構造が記載されている。しかし、この多層構造はビン、タンク、容器またはホースの形で、本発明の多層パイプの構造は記載がない。
特許文献2(欧州特許第EP 154134号公報)に記載の多層構造は照グラフトによって官能化されたフルオロポリマーをベースにした化学薬品の貯蔵または輸送に用いられる。この特許での「化学薬品」という用語は腐食性化合物か危険化合物あるいは純度を維持しなければならない化合物と理解され、本発明の多層パイプの構造は記載がない。
【0004】
特許文献3(米国特許第US 601684号明細書)には内側層と外側保護層との間の接着力が0.2〜0.5N/mmであるプラスチックパイプが記載されている。しかし、照射グラフトで得られる官能化フルオロポリマーに関する記載はない。
特許文献4(米国特許第US 2004/0206413号明細書)および特許文献5(国際特許第WO 2005/070671号公報)には金属シースを有する多層パイプが記載されている。しかし、照射グラフトで得た官能化フルオロポリマーは記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第EP 1484346号公報(2004年12月8日)
【特許文献2】欧州特許第EP 1541343号公報(2005年6月8日)
【特許文献3】米国特許第US 6016849号明細書(1996年7月25日)
【特許文献4】米国特許第US 2004/0206413号明細書
【特許文献5】国際特許第WO 2005/070671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題の1つは、耐薬品性に優れたパイプを開発することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、パイプに「バリヤー(障壁)特性」を与えることにある。「バリヤー」という用語は外側環境中の汚染物またはポリオレフィン中に存在する汚染物(例えば抗酸化剤や重合残渣)がパイプ中を輸送される流体中に移行するのを阻止することを意味する。また、「バリヤー」という用語で酸素または被輸送流体中に存在する添加剤がポリオレフィン層へ移行するのをパイプが阻止することも意味する。
パイプが優れた機械的特性、特に優れた衝撃強度を有し、層間が互いに良く接着する(層間剥離しない)ことも必要である。
本発明者は、上記の課題を解決する多層パイプを開発した。本発明パイプは被輸送流体に対して優れた耐化学抵抗性を有し、上記のバリヤ特性も有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1実施例の多層パイプは、パイプの内側から外側へ向かって下記の層を下記の順番:
(1)任意層としての、少なくとも一種のフルオロポリマー(フッ素化重合体)、好ましくはPVDFから成る層L1;
(2)PVDF上に少なくとも一種の不飽和極性単量体を照射グラフトして得た少なくとも1つの官能化PVDFから成る層L2;
(3)任意層としての、接着結合層L3;
(4)任意層としての、少なくとも一種のポリオレフィン、必要な場合にはそれと少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L4;
(5)任意層としての、バリヤー層L5;
(6)任意層としての、少なくとも一種のポリオレフィン、必要な場合にはそれと少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L6;
で有する多層パイプであって、
上記の不飽和極性単量体がグラフトされるPVDFが少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴:
(a)結晶化温度Tc(ISO 11357-3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリーで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s、
を有する点に特徴がある。
【0008】
本発明の第2実施例の多層パイプは、パイプの内側から外側へ下記の層:
(1)任意層としての、少なくとも一種のフルオロポリマー、好ましくはPVDFから成る層L'1;
(2)PVDF上に少なくとも一種の不飽和モノマーを照射グラフトして得られる少なくとも1種の官能化PVDFから成る層L'2;
(3)EVOHまたはEVOH−ベースの混合物、PGAまたはPDMKの中から選択されるバリヤーポリマーから成るバリヤー層L'3;
(4)任意層としての接着結合層L'4;
(5)少なくとも一種のポリオレフィン、必要な場合にはそれと少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L'5;
(6)任意層としての、バリヤー層L'6;
(7)任意層としての、少なくとも一種のポリオレフィン、必要な場合にはそれと少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L'7、
を上記順番で有する多層パイプであって、
上記の不飽和極性単量体がグラフトされるPVDFが少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴:
(a)結晶化温度Tc(ISO 11357-3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリーで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s、
を有する点に特徴がある。
【0009】
本発明はさらに、水、特に熱水、化学薬品または気体を輸送するため、特に床暖房の放射加熱系の加熱水を輸送するためまたは放射熱要素へ熱水を輸送するための多層パイプの使用に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記の官能化PVDFは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDF(フッ化ビニリデン(CH2=CF2))と、このVDFと共重合可能な少なくとも一種のコモノマーとのコポリマーである。コモノマーの例としてはフッ化ビニル(VF)、三フッ化エチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,2-ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、3,3,3-トリフルオロプロペン、2-トリフロロメチル-3,3,3-トリフルオロ-1-プロピレンが挙げられる。押出しが容易であるという理由で、熱可塑性PVDFであるのが好ましい。
【0011】
好ましいコポリマーは4〜22重量%、好ましくは10〜20重量%のHFPを含むVDF/HFPコポリマーである(不飽和極性単量体をグラフトする前に計算した含有量)。
PVDFは(グラフ前で)下記の性状も有する:
(a)結晶化温度Tc(ISO 11357-3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度(破断強度)σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリーで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s、
さらに、PVDFの引張り(tensile)ヤング係数(ASTM-D638規格)(グラフ前で)は200〜1000Mpa、好ましくは200〜600Mpaであるのが好ましい。
【0012】
出発材料の上記官能化PVDFの粘度vは特許文献6(欧州特許第EP 1508927号公報)に記載のカイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801のグレードより低い。従って、官能化PVDFの粘度は官能化したカイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標)2801以下であり、溶融状態または溶剤中の溶液状態での官能化PVDFの加工が簡単であるということを意味する。
【特許文献6】欧州特許第EP 1508927号公報
【0013】
従来の官能化PVDFと比較した上記官能化PVDFまたはその混合物の利点はは下記の点にある:
(1)官能化PVDFから成る層とそれと接触した層との接着力が大きく、
(2)溶融状態または溶剤溶液状態での加工が簡単で、
(3)共押出速度を高くすることができる。
【0014】
本発明に適したPVDFの例はアルケマ社(Arkema)から市販の下記グレード:カイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標) 2500および2750である。
カイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標) 2500の特性
19重量%のHFPを含むVDF/HFPコポリマー
Tc: 87.4℃
σY: 15Mpa
v: 1000Pa.s
引張りヤング係数: 220Mpa
カイナーフレックス(KYNARFLEX、登録商標) 2750特性
16重量%のHFPを含むVDF/HFPコポリマー
Tc: 103℃
σY: 18Mpa
v: 900Pa.s
引張りヤング係数: 360Mpa
【0015】
この官能化したPVDFはPVDF上に上記定義の少なくとも一種の不飽和極性単量体を照射グラフトすることによって得られる。得られたものを官能化PVDFということにする。
【0016】
照射グラフトプロセスは下記の段階から成る:
(a) 従来公知の任意の溶融混合方法によってPVDFを予め不飽和極性単量体と混合する。この混合段階は任意の混合装置、例えば熱可塑性プラスチックの業界で使用されている押出機または混合機で実行される。顆粒の形で混合する押出機を用いるのが好ましい。従って、例えば米国特許第US 5576106号明細書に記載のような粉末の表面にだけグラフトするのではなく、混合物(塊全体)にグラフトするのが好ましい。PVDFの配合比率は80〜99.9重量%、好ましくは90〜99重量%で、不飽和極性単量体の比率は0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0017】
(b) 次に、上記混合物に10〜200KGray、好ましくは10〜150KGrayの照射量で電子源またはホトニクス源を用いてソリッドステートで照射(β線またはγ線照射)をする。例えば、上記混合物をポリエチレンのバッグに詰め、空気を追出し、バッグを密封する。照射量は2〜6Mrad、好ましくは3〜5Mradにするのが好ましい。特にコバルト60に暴露して照射するのが好ましい。
【0018】
グラフトされる不飽和極性単量体の含有量は0.1〜5重量%(すなわち、99.9〜95重量部のPVDFに対してグラフトされる不飽和極性単量体が0.1〜5重量部)、好ましくは0.5〜5重量%、さらに好ましくは0.9〜5重量%である。この含有量は被照射混合物の不飽和極性単量体の初期含有量に依存し、さらにグラフト効率、従って、照射エネルギーの持続時間に依存する。
【0019】
(c) 次に、グラフトしなかった不飽和極性単量体と、グラフトで遊離した残留物、特にHFを除去するのが好ましい。この行程はグラフトしなかった不飽和極性単量体が後段での接着性を悪くしたり、毒性の問題を引起す場合には必要である。この操作は当業者に公知の方法を用いて実行できる。真空脱気操作で行なうことができ、同時に加熱することもできる。適切な溶剤、例えばN-メチルピロリドン中に官能化されたPVDFを溶かし、非溶媒、例えば水またはアルコール中で沈殿させるか、官能化されたPVDFをフルオロポリマーおよびグラフトされた官能基に対して不活性な溶剤で洗浄することもできる。例えば、無水マレイン酸をグラフトした場合にはフルオロポリマーはクロロベンゼンで洗浄できる。
【0020】
ラジカル開始剤を使用した従来法に比べた照射グラフトプロセスの1つの利点はグラフトした不飽和極性単量体の含有量を高くできる点にある。すなわち、照射グラフトプロセスでは一般にグラフトした不飽和極性単量体の含有量を1%以上(99重量部のPVDFに対して1重量部の不飽和モノマー)、さらには1.5%以上にすることもできる。従来の押出機を用いた方法ではこの値にはならない。さらに、照射グラフトは「冷間」、一般には100℃以下、例えば50℃の温度で行われ、従来の押出機でのグラフト操作のように混合物が溶融状態になることはない。押出機中で溶融状態でグラフトした場合には均一なグラフトが起こるが、グラフトが結晶相で行われるのではなく、非晶相で行われるのが1つの基本的な違いである。従って、照射グラフトの場合には不飽和極性単量体はPVDF鎖に沿って均一に分布しない。従って、本発明で官能化されたPVDFは押出機でグラフトした場合に得られる製品と比較してPVDF鎖上の不飽和極性単量体の分布が相違する。
【0021】
グラフト中は酸素の存在を避けるのが好ましい。酸素を除去するためには混合物を窒素またはアルゴンでパージすることができる。官能化したPVDFは官能化前のコポリマーの優れた耐薬品性および耐酸化性およびよい耐熱機械的強度を有する。
【0022】
官能化したPVDFはそのまま使用できるが、他のPVDFと混合することもできる。上記の他のPVDFはPVDFのホモポリマーまたはコポリマーにすることができ、2つのフルオロポリマーを互いに相溶させ、混合物がDSCの単一の溶融ピークしか有しないように選択する。上記の他のPVDFはVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーにするのが好ましい。VDFの含有量はコポリマーの少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%で、上記の官能化したPVDFと同じ熱的および機械的特性を有するのが好ましい。混合物は1〜99重量%、好ましくは50〜99重量%の官能化されたPVDFと、99〜1重量%、好ましくは1〜50重量%の上記の他のPVDFとから成るのが好ましい。混合物は熱可塑性樹脂に適した混練装置、例えば押出機を用いて溶融混合で作ることができる。
【0023】
不飽和極性単量体はC=C二重結合と、少なくとも一つの極性官能基とを有する。極性官能基はカルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、エポキシド、カルボン酸エステル、シリル、アルコキシシラン、カルボン酸アミド、ヒドロキシル、イソシアネートの官能基にすることができる。複数のモノマーの混合物を使用することもできる。
【0024】
特に好ましい不飽和モノマーは4〜10の炭素原子を有する不飽和カルボン酸およびその官能誘導体、特に無水物である。不飽和モノマーの例としてはメタアクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸、アリルコハク酸、シクロヘキシ-4-エン-1,2-ジカルボン酸、4-メチルシクロヘキシ-4-エン-1,2-ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.1] ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、x-メチルビシクロ-[2.2.1] ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウム、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ジクロロマレイン酸、無水ジフルオロマレイン酸、無水クロトン酸、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルシラン、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メタアクリルオキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0025】
不飽和モノマーの他の例としては不飽和カルボン酸のC1〜C8アルキルエステルまたはグリシジルエステル誘導体、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、モノエチルマレアート、マレイン酸ジエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、モノメチルおよびジエチルイタコネート;不飽和カルボン酸のアミド誘導体、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N-モノエチルアミド、マレイン酸−N,N-ジエチルアミド、マレイン酸−N-モノブチルアミド、マレイン酸−N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N-モノエチルアミド、フマル酸−N,N-ジエチルアミド、フマル酸−N-モノブチルアミド、フマル酸−N,N-ジブチルアミド;不飽和カルボン酸のイミド誘導体、例えばマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド;不飽和カルボン酸の金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタアクリル酸カリウム、ウンデシレン酸亜鉛、カルシウムまたはナトリウムが挙げられる。
【0026】
フルオロポリマーを架橋させるような2つのC=C二重結合を有するモノマー、例えばジアクリレートまたはトリアクリレートは除外される。この観点から、無水マレイン酸およびウンデシレン酸亜鉛、カルシウムおよびナトリウムが好ましい。これら単独重合する傾向が低く架橋もしない。
【0027】
無水マレイン酸を用いるのが好ましい。このモノマーが以下の効果を有する:
(1)固形物であり、溶融混合前にフルオロポリマー顆粒と一緒に簡単に導入できる、
(2)固形物にあるので取扱が簡単である(特に、揮発性がない)、
(3)優れた接着性が得られる、
(4)多くの官能基と反応性がある、
(5)他の不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリル酸またはアクリル酸エステルと違って、単独重合も安定化もしない。
【0028】
被照射混合物中でのPVDFの配合比率は80〜99.9重量%に対して不飽和モノマーは0.1〜20重量%である。好ましくは、PVDFの配合比率は90〜99重量%、不飽和極性単量体は1〜10重量%である。
【0029】
フルオロポリマーは重合時に開くビニール基を含む化合物の中から選択される少なくとも一種のモノマーをその鎖中に有し且つこのビニール基に直接結合した少なくとも一つのフッ素原子、フルオロアルキル基またはフルオロアルコキシ基を含む任意のポリマーである。上記モノマーの例として下記を挙げることができる:フッ化ビニル;ビニリデンフルオライド(VDF(CH2=CF2));三フッ化エチレン(VF3);クロロトリフルオロエチレン(CTFE);1,2-ジフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル、例えばペルフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)そして、ペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE);ペルフルオロ(1,3-ジオキソル);ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソル)(PDD);式:CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2Xの化合物(XはSO2F、CO2H、CH2OH、CH2OCNまたはCH2OPO3Hである);式:CF2=CFOCF2CF2SO2Fの化合物;式:F(CF2)nCH2OCF=CF2の化合物(ここで、nは1、2、3、4または5);式:R1CH2OCF=CF2の化合物(ここで、R1は水素またはF(CF2)zで、zは1、2、3または4である);式:R3OCF=CH2の化合物(ここで、R3はF(CF2)z-で、zは1、2、3または4である);ペルフルオロブチルエチレン(PFBE);3,3,3-トリフルオロプロピレンおよび2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロ-1-プロピレンである。
【0030】
フルオロポリマーはホモポリマーまたはコポリマーであり、また、非フッ素化モノマー、例えばエチレンまたはプロピレンを含むことができる。例えば、フルオロポリマーは下記から選択される:
(1)VDFを少なくとも50重量%含むビニリデンフルオライド(VDF(CH2=CF2))のホモポリマーおよびコポリマー。VDFのコモノマーはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、三フッ化エチレン(VF3)およびテトラフルオロエチレン(TFE)の中から選択できる;
(2)エチレン/TFEコポリマー(ETFE);
(3)三フッ化エチレン(VF3)のホモポリマーおよびコポリマー;
(4)VDFおよびTFEと組み合わせたEFEP型のコポリマー(例えばダイキンのEFEP);
(5)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)および/またはエチレン単位および選択的にVDFおよび/またはVF3単位の残基と組合せたコポリマー、特にターポリマー。
【0031】
フルオロポリマーはPVDFのホモポリマーまたはコポリマーであるのが好ましい。このフルオロポリマーは優れた耐化学特性性、特に耐紫外線性および耐薬品性を有し、簡単に(PTFEまたはETFE-タイプのコポリマーより簡単に)成形できる。PVDFは少なくとも50重量%、好ましくは、少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%のVDFを含むのが好ましい。コモノマーはHFPであるのが好ましい。
【0032】
PVDFは100Pa.s〜2000Pa.sの粘度を有するのが好ましい。粘度は毛管レオメータを使用して100s-1の剪断速度で230℃で測定する。このPVDFは押出成形および射出成形に適している。PVDFは300Pa.s〜1200Pa.sの粘度を有するのが好ましい。粘度は毛管レオメータを使用して100s-1の剪断速度で230℃で測定する。
【0033】
ポリオレフィンという用語はエチレンおよび/またはプロピレン単位を主成分として含むポリマーを表し、ポリエチレンのホモポリマーまたはコポリマーにすることができる。コモノマーはプロピレン、ブテン、ヘキセンまたはオクテンの中から選択できる。また、ポリプロピレンのホモポリマーまたはコポリマーでもよく、コモノマーはエチレン、ブテン、ヘキセンまたはオクテンの中から選択できる。
【0034】
ポリエチレンは高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)または超低密度ポリエチレン(VLDPE)にすることができる。ポリエチレンはチーグラー−ナッタ、フィリップスまたはメタロセン−タイプの触媒を使用するか、高圧法で製造できる。ポリプロピレンはアイソタクチックまたはシンジオタクチックポリプロピレンである。
【0035】
また、架橋したポリエチレン(XPEという)でもよい。この架橋したポリエチレンは例えば下記文献に記載の加水分解可能なシラン基を含み、このシラン基が互いに反応して架橋するポリエチレンにすることができる。
【特許文献7】国際特許第WO 01/53367号公報
【特許文献8】米国特許公開第20040127641A1号明細書
【0036】
シラン基Si-ORが互いに反応してSi-O-Si結合となり、ポリエチレン鎖を連結する。加水分解可能なシラン基の含有量は、100個の-CH2-単位に対して少なくとも0.1個の加水分解可能なシラン基にすることができる(赤外分析法で測定)。また、ポリエチレンを照射(例えばガンマ線照射)によって架橋させることもできる。また、過酸化物タイプのラジカル開始剤を使用して架橋させたポリエチレンでもよい。従って、タイプAのXPE(ラジカル開始剤を使用して架橋)、タイプBのXPE(シラン基を用いて架橋)またはタイプCのXPE(放射線架橋)を使用できる。
【0037】
さらに、下記文献に記載のビモダル(2峰)なポリエチレン、すなわち平均分子量が異なるポリエチレンの混合物から成るものを使用することもできる。
【特許文献9】国際特許第WO 01/60001号公報
【0038】
ビモダルなポリエチレンを用いることで、例えば衝撃強度、耐応力亀裂強度、剛性および耐圧強度を良くバランスさせることができる。
耐圧パイプ、特に加圧ガスの輸送または水の輸送に用いられるパイプの場合にはゆっくりした亀裂成長(SCG)および急速な亀裂成長(RCP)に対して優れた耐久性を有するポリエチレンを使用するのが有利である。トタルペトロケミカル社(Total Petrochemicals)から市販のHDPEXS10Bグレードは耐ひび割れ性(ゆっくりした、または、急速な亀裂成長に対する耐久性)を有する。これはコモノマーとしてヘキセンを含む、密度が0.959g/cm3(ISO1183)のHDPEであり、MI−5は0.3dg/分(ISO1133)、HLMIは8dg/分(ISO1133)、ISO/DIS9080による長期流体静圧強度は11.2MPa、ISO/DIS13479によるノッチ付きパイプでの耐遅延亀裂成長性は1000時間以上である。
【0039】
官能化されたポリオレフィン(官能化ポリオレフィン)という用語はエチレンおよび/またはプロピレンと、上記リストに示した少なくとも一つの不飽和モノマーとのコポリマーを表す。不飽和モノマーは以下モノマーの中から選択するのが好ましい:
(1)C1〜C8アルキル(メタ)アクリレート、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、2-エチルヘキシル、イソブチル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート;
(2)不飽和カルボン酸と、その塩および無水物、特にアクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸および無水シトラコン酸;
(3)不飽和エポキシド、特に脂肪族グリシジルエステルおよびエーテル、例えば、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、グリシジルマレアート、グリシジルイタコネート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、および脂環式グリシジルエステルおよびエーテル;
(4)飽和したカルボン酸、特に酢酸ビニールまたはビニル・プロピオナートのビニル・エステル。
【0040】
官能化されたポリオレフィンは、エチレンと上記リストの中から選択される少なくとも一種の不飽和極性単量体との共重合で得られる。官能化されたポリオレフィンはエチレンと極性単量体とのコポリマーまたはエチレンと他の2つの不飽和極性単量体とのターポリマーでもよい。共重合は高圧法とよばれる1000バール以上の高圧力で行う。共重合で得られる官能性ポリオレフィンは50〜99.9重量%、好ましくは60〜99.9重量%、より好ましくは65〜99重量%のエチレンと、0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜35重量%の上記リストの中から選択される少なくとも一種の極性単量体とから成る。
【0041】
官能化されたポリオレフィンの例はエチレンと不飽和エポキシド、好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートと、必要に応じて用いるC1〜C8アルキル(メタ)アクリレートまたは飽和カルボン酸ビニルエステルとのコポリマーである。不飽和エポキシド、特にグリシジル(メタ)アクリレートの含有量は0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。官能化されたポリオレフィンの例はアルケマ(Arkema)社から市販のロタダー(LOTADER、登録商標)AX8840(メタクリル酸グリシジル8 重量%/エチレン92重量%、ASTM D1238によるメルトインデックス5)、ロタダー(LOTADER、登録商標)AX8900(メタクリル酸グリシジル8重量%アクリル酸メチル25重量%/エチレン67重量%、ASTM D1238によるメルトインデックス6)、または(LOTADER、登録商標)AX8950(メタクリル酸グリシジル9重量%/アクリル酸メチル15重量%/エチレン76重量%、ASTM D1238によるメルトインデックス85)。
【0042】
官能化されたポリオレフィンは不飽和カルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸とエチレンとのコポリマー(必要に応じてC1〜C8アルキル(メタ)アクリレートまたは飽和カルボン酸ビニル・エステルをさらに含むことができる)でもよい。カルボン酸無水物、特に無水マレイン酸の含有量は0.1〜50重量%、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜35重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。官能化されたポリオレフィンの例としてはアルケマ(Arkema)社から市販のロタダー(LOTADER、登録商標)2210(無水マレイン酸2.6重量%/アクリル酸ブチル6重量%/エチレン91.4重量%、ASTM D1238によるメルトインデックス3)、LOTADER(r) 3340 (3つの重量%無水マレイン酸/16の重量%アクリル酸ブチル/、ASTM D1238に従う5のメルトインデックスを有する、81の重量%エチレン)、ロタダー(LOTADER、登録商標)4720)無水マレイン酸0.3重量%/アクリル酸エチル30重量%/エチレン69.7重量%、ASTM D1238によるメルトインデックス7)、ロタダー(LOTADER、登録商標)7500 (無水マレイン酸2.8重量%/アクリル酸ブチル20重量%、エチレン77.2重量%、ASTM D1238によるメルトインデックス70)またはオレバック(OREVAC)9309、オレバック(OREVAC)9314、オレバック(OREVAC)9307Y、オレバック(OREVAC)9318、オレバック(OREVAC)9304またはオレバック(OREVAC)9305がある。
【0043】
官能化したポリオレフィンには上記の不飽和極性単量体をラジカルにしてグラフトしたポリオレフィンが含まれる。このグラフトはラジカル開始剤の存在下で押出機中または溶液で行うのが好ましい。ラジカル開始剤の例としてはtert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、1,3-ビス-(tert-ブチルペルオキシイソプロピルベンゼン、ベンゾイルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシドまたはメチルエチルケトンペルオキシドが挙げられる。不飽和極性単量体のポリオレフィンへのグラフト方法は当業者に公知であり、その例としては下記文献が参照できる。
【特許文献10】欧州特許第EP 689505号公報
【特許文献11】米国特許第US 5235149号明細書
【特許文献12】欧州特許第EP 658139号公報
【特許文献13】米国特許第6750288B2号明細書
【特許文献14】米国特許第6528587B2号明細書
【0044】
不飽和極性単量体がグラフトされるポリオレフィンはポリエチレン、特に高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)または超低密度ポリエチレン(VLDPE)にすることができる。ポリエチレンはチーグラー-ナッタ、フィリップスまたはメタロセン-タイプの触媒を使用するか、高圧法を用いて得られる。また、ポリオレフィンはポリプロピレン、特にアイソタクチックまたはシンジオタクチックポリプロピレンにすることもできる。また、エチレンとプロピレンとのEPR型コポリマー、エチレンと、プロピレンと、ジエンとのEPDM型のターポリマーにすることができる。官能化されたポリオレフィンの例としてはアルケマ(Arkema)社から市販のオレバック(OREVAC、登録商標)18302、18334、18350、18360、18365、18370、18380、18707、18729、18732、18750、18760、PPCおよびCA100が挙げられる。
不飽和の極性単量体がグラフトされたポリマーは、また、以下から選択される。
【0045】
不飽和極性単量体がグラフトされたコポリマーはエチレンと下記(1)および(2)の中から選択される少なくとも一種の不飽和極性単量体とのコポリマーにすることができる:
(1)C1〜C8アルキル(メタ)アクリレート、特にメチル、エチル、プロピル、ブチル、2-エチルヘキシル、イソブチル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート;
(2)飽和カルボン酸、特に酢酸ビニールまたはビニルプロピオナートのビニルエステル。
官能化されたポリオレフィンの1つの例はアルケマ(Arkema)社からオレバック(OREVAC、登録商標)18211、18216または18630の名称で市販のである。
【0046】
次に、多層パイプの2つの実施例を示す。
第1の実施例の多層パイプはパイプの内側から外側に向かって下記の層を有する:
(1)少なくとも一種のフルオロポリマー、好ましくはPVDFから成る層L1(任意層);
(2)本発明の少なくとも一種の官能化されたPVDFまたはその混合物から成る層L2;
(3)接着結合層L3(任意層);
(4)少なくとも一種のポリオレフィン(少なくとも一つの官能化されたポリオレフィンとの混合物でもよい)から成る層L4(任意層);
(5)バリヤー層L5(任意層);
(6)少なくとも一種のポリオレフィン(少なくとも一つの官能化されたポリオレフィンとの混合物でもよい)から成る層L6(任意層)。
【0047】
第2の実施例の多層パイプはパイプの内側から外側に向かって下記の層を有する:
(1)少なくとも一種のフルオロポリマー、好ましくはPVDFから成る層L’1(任意層);
(2)本発明の少なくとも一種の官能化されたPVDFまたはその混合物から成る層L’2;
(3)EVOH、EVOHベースの混合物、PGAまたはPDMKから成る群の中から選択されるバリヤーポリマーから成るバリヤー層L’3;
(4)接着結合層L’4(任意層);
(5)少なくとも一種のポリオレフィン(少なくとも一つの官能化されたポリオレフィンとの混合物でもよい)から成る層L’5(任意層);
少なくとも一つのポリオレフィンから成っている層L’5は、選択的に少なく(6)バリヤー層L’6(任意層);
(7)少なくとも一種のポリオレフィン(少なくとも一つの官能化されたポリオレフィンとの混合物でもよい)から成る層L’7(任意層)
【0048】
流体と接触する内側層は層L1またはL’1か、層L2またはL’2である。
パイプの全ての層は同心であるのが好ましい。パイプは円筒形であるのが好ましい。各層はその互いの接触領域で互いに接着している(すなわち、2つの互いに連続する層は互いに直接結合している)。各層は0.001〜10000 mmの厚さ、好ましくは0.01〜100mmの厚さ、さらに好ましくは0.05〜50mmの厚さを有するのが好ましい。
【0049】
本発明多層パイプの利点
本発明の多層パイプは下記利点を有する:
(1)被輸送流体に対して化学抵抗を有する(L1/L’1および/またはL2/L’2層による);
(2)外部環境から被輸送流体中への汚染物の移行が阻止される;
(3)熱可塑性ポリマー中に存在する汚染物(抗酸化剤、添加剤、触媒残渣、その他の残渣等)の移行が阻止される;
(4)被輸送流体中に存在する酸素または添加剤の熱可塑性ポリマー層への移行が阻止される。
【0050】
層L1またはL’1(任意層)
この層は少なくとも一種のフルオロポリマー(照射グラフトで官能化されている)から成る。フルオロポリマーはPVDFのホモポリマーまたはコポリマー、さらには、EFEP型のVDFおよびTFEをベースにしたコポリマーにするのが好ましい。
【0051】
層L2またはL’2
この層は本発明の少なくとも一種の官能化されたPVDFまたはその混合物から成る。この層はバリヤー機能と他の層を化学的および機械的に保護する機能を有する。また、パイプが層L1またはL’1を有する場合には、L1とL3との間またはL’1とL’3との間の接着接合させる機能も有する。
【0052】
層L3(任意層)
任意層の層L3はL2とL4との間に配置され、これら2層の間の接着を促進する機能を有する。この接着結合層は上記2層間の接着を良くする少なくとも一種のポリマーから成る。このポリマーは官能化されたポリオレフィンが好ましく、必要に応じてそれと相溶なポリオレフィンとの混合物にするのが有利である。混合物を使用する場合には、1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは50〜90重量%の少なくとも一種の官能化されたポリオレフィンと、99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは10〜50重量%の少なくとも一種のポリオレフィンとから成るのが好ましい。
PVDFにグラフトされた不飽和極性単量体が官能化されたポリオレフィンの化学官能基と化学反応可能な一種以上の化学官能基を有する場合に接着性は大幅に増加する。例えば、酸無水物官能基を有するモノマーをPVDFにグラフトした場合、官能化されたポリオレフィンはエポキシドまたはヒドロキシド官能基を有することができる。これは例えばエチレンと不飽和エポキシドを有するのコポリマー(必要に応じてグリシジル(メタ)アクリレートおよび必要に応じてC1〜C8アルキル(メタ)アクリレートまたは飽和カルボン酸ビニル・エステルをさらに含むことができる)の場合である。同様に、PVDFにエポキシドまたはヒドロキシ官能基を含む不飽和極性単量体をグラフトした場合、官能化されたポリオレフィンは酸無水物官能基を含むことができる。これは例えばエチレンと不飽和酸無水物、好ましくは無水マレイン酸とのコポリマー(必要に応じてC1〜C8アルキル(メタ)アクリレートをさらに含むことができる)の場合である。
【0053】
層L’3
バリヤー層L’3はEVOH、EVOHベースの混合物、ポリグリコール酸(PGA)またはポリジメチルケテン(PDMK)から選択されるバリヤーポリマーから成る。このポリマーバリヤーの官能基と化学反応可能な一つ以上の化学官能基を有する不飽和極性単量体をPVDFにグラフトするのが好ましい。例えば、EVOHの場合、不飽和酸無水物、好ましくは無水マレイン酸をPVDFにグラフトした場合、極めて優れた接着性が得られる。EVOHは鹸化したエチレン−酢酸ビニールコポリマーともよばれ、これはエチレン含有量が20〜70モル%、好ましくは25〜70モルl%で、その酢酸ビニール成分の鹸化度が95モル%以下ではないコポリマーである。EVOHは酸素および炭化水素に対する優れたバリヤーを構成する。EVOHのメルトフローインデックス(230℃/2.26kg)は0.5〜100g/10分、好ましくは5〜30g/10分であるのが好ましい。EVOHは他のコモノマー成分、例えばプロピレン、イソブテン、α-オクテン等のアルファオレフィン、不飽和カルボン酸またはこれらの塩、部分的アルキルエステル、完全アルキルエステルを含む他のコモノマー成分を少量含むことができるということは理解できよう。
【0054】
EVOHベースの混合物の場合、EVOHはマトリックスすなわち連続相を形成し、それは混合物の少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%を占める。混合物の他の成分はポリオレフィン、ポリアミドおよび衝撃改質材から選択される。衝撃改質材は下記の中から選択できる:
(a) 官能化したエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー;
(b) エラストマー、好ましくはEPR、EPDMまたはNBR(これらのエラストマーは官能化されていてもよい);
(c)直鎖または星型のSBS形ブロック共重合体(水素化されていてもよい(これはS−EB−S形とよばれる))(これらコポリマーは官能化されていてもよい)。
【0055】
ポリジメチルケテン(PDMK)は無水イソ酪酸の熱分解で得られ、これは例えば下記文献に記載されている。この特許の内容は本発明の一部を成す。
【特許文献15】仏国特許第FR 2 851 562号公報
【0056】
ポリジメチルケテンは下記プロセスで得られる:
(a) 99〜50容積%の不活性ガスに対して1〜50容積%の無水イソ酪酸から成る混合物を大気圧で300〜340℃で予熱し;
(b) この混合物は0.05〜10秒間で400〜550℃の温度に上げて、ジメチルケテンと、不活性ガスと、イソ酪酸と、未反応の無水イソブチル酸との混合物を得る;
(c) 上記の流れを冷却し、ジメチルケテンおよび不活性ガスをイソブチルアルコールおよび無水イソ酪酸から分離し;
(d) ジメチルケテンを飽和または不飽和の脂肪族または脂環式の置換または未置換の炭化水素溶剤に吸収させ、上記溶剤に可溶なカチオン触媒系を用いてジメチルケテンの重合を開始する。触媒系は開始剤、触媒および共触媒から成る;
(e) 重合終了後、未反応のジメチルケテンを除去し、PDMKを溶剤および触媒系の残渣から分離する。
触媒は例えばAlBr3であり、開始剤は例えば塩化t-ブチルであり、共触媒は例えばo-クロラニルである。
【0057】
PGAは下記の単位(1)を少なくとも60重量%、好ましくは70重量%、より好ましくは80重量%含むポリマーである:
(−O−CH2−C(=O)−) (1)
このポリマーは1,4-ジオキサン-2,5-ジオンを120〜250℃の温度で触媒、例えば錫塩、例えばSnCl4の存在下で加熱して製造できる。重合は隗重合または溶剤重合で行なうことができる。このPGAは下記の(2)〜(6)の他の単位をさらに含むことができる:
(−O−(CH2)n−O−C(=O)−(CH2)m−C(=O)) (2)
(ここで、nは1〜10間の整数、mは0〜10の整数である);
【0058】

【0059】
(ここで、jは1〜10間の整数);

【0060】
(ここで、kは2〜10の整数、R1およびR2は各々独立してHまたはC1〜C10アルキル基を表す);
(−OCH2CH2CH2−O−C(=O)−) (5)
または、
(−O−CH2−O−CH2CH2−) (6)
【0061】
PGAは下記文献に記載されている。
【特許文献16】欧州特許第EP 925915−B1号公報
【0062】
層L4
層L4は少なくとも一種のポリオレフィンから成り、必要に応じて相溶可能な少なくとも一種の官能化されたポリオレフィンとの混合物でもよい。混合物の場合、99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは50〜90重量%のポリオレフィンに対して1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは10〜50重量%の官能化されたポリオレフィンにする。
L3が存在しない場合には、L4としてPVDFにグラフトされた不飽和極性単量体の官能基と化学反応可能な化学官能基を含む官能化されたポリオレフィンのような混合物を用いることでL2とL4との間の接着性は改善される。
【0063】
層L’4(任意層)
任意層の層L’4はL’3とL’5との間に配置され、これら2つの層の間の接着性を促進する機能を有する。この接着結合層は上記の層の間の接着性を改善する少なくとも一種のポリマーから成り、このポリマーは官能化されたポリオレフィンにすることができ、必要に応じてそれと相溶可能なポリオレフィンとの混合物にすることができる。混合物を使用する場合には、99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、さらに好ましくは10〜50重量%の少なくとも一種のポリオレフィンに対して1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは50〜90重量%の少なくとも一種の官能化されたポリオレフィンにするのが好ましい。
【0064】
バリヤー層L5またはL’6(任意層)
バリヤー層L5およびL’6はパイプの外側から内側へ(またはその逆方向へ)化合物が拡散するのを防止する。例えば、汚染物によって流体が汚染されるを防止する。汚染物の例としては酸素および炭化水素のような化学薬品がある。特殊ガスの場合には水分が汚染物とみなされる。
このバリヤー層はバリヤー・ポリマー、例えば(1)PDMK、(2)EVOHまたはEVOH−ベースの混合物、(3)PGAから成ることができる。
【0065】
バリヤー層は金属シース(外筒)であるのが好ましい。金属シースにはバリヤー機能の他にパイプの機械的強度を増加させる機能も有る。金属シースを使用する他の利点は、熱可塑性ポリマー層によって生じる機械的応力作用下でパイプがその初期位置に戻ることなしにパイプを曲げ加工または変形させることができる点にある。金属は鋼、銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金にすることができるが、耐食性および柔軟性の理由からアルミニウムまたはアルミニウム合金が好ましい。金属シースは当業者に公知の方法に従って作ることができる。特に、プラスチック/金属複合チューブの製造方法を記載した下記文献を参照することができる:
【特許文献17】米国特許第US 6 822 205号明細書
【特許文献18】欧州特許第EP 0581208A1号公報
【特許文献19】欧州特許第EP 0639411B1号公報
【特許文献20】欧州特許第EP 0823867B1号公報
【特許文献21】欧州特許第EP 0920972A1号公報
【0066】
下記行程から成る方法を用いるのが好ましい。
(1)共押出しした熱可塑性ポリマー層(すなわちL1〜L4またはL'1〜L'5)の周りに金属のストリップを巻き付け、金属ストリップの両端縁を共通側面の方へ曲げ、互いに圧接し、プラスチックパイプの縦方向の軸線とほぼ平行に延し、
(2)縦方向の両端縁を互いに溶接して縦方向溶接ビードを形成する。
【0067】
金属ストリップの縦方向両端縁を溶接することで管状の金属シースが得られる。
バリヤー層L5の接着性を改善するためにL5とL4との間および/またはL5と任意層のL6との間に接着結合層を配置することができる。同様に、バリヤー層L’6に対してL’6とL’5との間および/またはL’6と任意層のL’7との間に接着結合層を配置することができる。この接着結合層は例えば酸基または酸無水物基、例えば(メタ)アクリル酸基または無水マレイン酸基を有する官能化されたポリオレフィン、例えば(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸がグラフトされたポリエチレンまたはポリプロピレンにすることができる。例としてはアルケマ(Arkema)社からオレバック(OREVAC)18302、18334、18350、18360、18365、18370、18380、18707、18729、18732、18750、18760、PPC、CA100の名称で市販の官能化されたポリオレフィンや、ユニロイヤルケミカル(UNIROYAL Chemical)社からポリボンド(POLYBOND、登録商標) 1002または1009の名称で市販のもの(アクリル酸がグラフトされたポリエチレン)が挙げられる。
【0068】
層L6またはL’7(任意層)
パイプは少なくとも一種のポリオレフィンから成る任意層の層L6またはL’7を含むことができる。L4およびL6またはL’5およびL’7のポリオレフィンは同じでも異なっていてもよい。L6またはL’7はパイプを機械的に保護し(例えば、設置時にパイプに加わる衝撃に対する保護し)、パイプ全体を機械的に補強して、他の層の厚さを減すことができる。L4および/またはL6またはL’5および/またはL’7には優れた熱機械特性を有するPEXを使用するのが好ましい。
多層パイプの各層、特にポリオレフィン層は熱可塑性材料と一緒に混合可能な通常使用されている添加剤、例えば抗酸化剤、滑剤、着色剤、難燃剤、無機または有機の充填材および静電防止剤、例えば例えばカーボンブラックまたはカーボン・ナノチューブを含むことができる。また、パイプはさらに他の層、例えば外側断熱層を含むこともできる。
【0069】
好ましい第1実施例(最良の形態)のパイプの例
このパイプは内側から外側に向かって下記の層が互いに積層している:
(1)少なくとも一種のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーから成る層L1;
(2)本発明の官能化されたPVDFまたは混合物から成る層L2(PVDF存在にグラフトした不飽和極性単量体はカルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸である);
(3)カルボン酸無水物と化学反応可能な官能基を有する少なくとも一種の官能化されたポリオレフィン(ポリオレフィンとの混合物でもよい)から成る層L3。好ましくはエポキシ基またはヒドロキシ基を有する官能化されたポリオレフィンであり、例えばエチレンと不飽和エポキシドとのコポリマー、好ましくはメタクリル酸グリシジルとのコポリマー(C1〜C8アルキル(メタ)アクリレートをさらに含むことができる);
(4)少なくとも一つのポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L4;
(5)金属シースの形をした、好ましくはアルミニウムから成るバリヤー層L5;
(6)少なくとも一つのポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L6。
【0070】
L5とL4および/またはL5とL6との間には接着結合層を配置するのが好ましい。接着結合層は酸または酸無水物基、例えば(メタ)アクリル酸基または無水マレイン酸基を有する官能化されたポリオレフィンにするのが好ましい。例えば(メタ)アクリル酸または無水マレイン酸がグラフトされたポリエチレンまたはポリプロピレンが好ましい。
【0071】
好ましい第2実施例(最良の形態)のパイプの例
このパイプは内側から外側に向かって下記の層が互いに積層している:
(1)少なくとも一種のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーから成る層L’1;
(2)本発明の官能化されたPVDFまたはその混合物から成る層L2(PVDFにグラフトした不飽和極性単量体はカルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸である);
(3)EVOHまたはEVOHベースの混合物から成るバリヤー層L’3;
(4)接着結合層L’4;
(5)少なくとも一種のポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L’5;
(6)金属シースの形をした、好ましくはアルミニウムから成るバリヤー層L’6;
(7)少なくとも一つのポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L’7。
【0072】
L’6とL’5および/またはL’6とL’7との間には接着結合層を配置するのが好ましい。接着結合層は酸または酸無水物官能基、例えば(メタ)アクリル酸基または無水マレイン酸基を有する官能化されたポリオレフィンであるのが好ましく、例えば(メタ)アクリル酸基または無水マレイン酸基がグラフトされたポリエチレンまたはポリプロピレンであるのが好ましい。
【0073】
パイプの製造
パイプは共押出し法で製造できる。この方法では押出される層と同じ数の押出機を使用する。ポリオレフィンがタイプB(シラン基で架橋)のPEXの場合には先ず最初に未架橋のポリオレフィンを押出す。次に、押出し成形されたパイプを熱水浴中に浸すことによって架橋反応させる。タイプA(ラジカル開始剤を用いて架橋)のPEXの場合には、押出し中に熱的に活性化されるラジカル開始剤を用いて架橋反応を行う。タイプCのPEXの場合には先ず最初に全ての層を押し出し、次に、電子線を3〜35Mradの照射量でパイプに照射してポリエチレンを架橋させる。
【0074】
パイプの使用
本発明の多層パイプは種々の流体の輸送で使用できる。本発明パイプは水の輸送、特に水道網、特に熱水の供給網に適している。このパイプは加熱(60℃以上、さらには90℃以上の温度)の熱水の輸送で使用できる。その1つの重要な例は加熱されたお湯をパイプを介して地下または床下に移送する地下または床の下への熱水移送(床暖房)で使用するパイプである。水をボイラーが加熱し、パイプを介して送る。他の例はラジエータへ供給する熱水を移送するパイプでの使用である。従って、本発明パイプは放射温水暖房で使用できる。本発明は本発明パイプから成る加熱網システムにも関するものである。
本発明パイプは化学抵抗性があるので、ポリオレフィン、特にポリエチレンを劣化させる(特に加熱時に劣化させる)化学物質の添加剤を(一般に1%以下の少量)含む水に適している。そうした添加剤としては酸化剤、例えば塩素および次亜塩素酸、塩素誘導体、漂白水、オゾン等がある。
【0075】
パイプ中を循環する水が飲料水、医学用途の水、製薬用途の水またはバイオ製剤用液体の場合には、水と接触する層(層L1またはL’1)として未変性のフルオロポリマーの層を使用するのが好ましい。フルオロポリマー、特にPVDF上に微生物(バクテリア、微生物、菌類等)が成長する傾向がある。さらに、水またはバイオ製剤用液体と接触する層には変性されたフルオロポリマーの層よりは未変性のフルオロポリマー層を使用し、グラフトしていない(フリーの)不飽和モノマーが水中またはバイオ用製剤液体中へ移動するのを防ぐのが好ましい。
【0076】
本発明パイプのバリアー特性から、本発明パイプは汚染された土地中を輸送される水の輸送に使用でき、被輸送流体中に汚染物が混入するのを防止することができる。このバリアー特性を利用して水中へ酸素が移動するのを防ぐこともできる(DIN-4726)。酸素は暖房用の過熱水をパイプ中を輸送する場合には有害である(酸素の存在は暖房装置の鋼や鉄部品の侵食の原因となる)。また、ポリオレフィン層に存在する汚染物(抗酸化剤、重合残渣等)が被輸送流体中へ移動するのを阻止するのが望ましい。
【0077】
より一般には、本発明多層パイプは化学薬品、特にポリオレフィンを化学的に劣化させる化学薬品の輸送に使用できる。
本発明の多層パイプは気体、特に高圧気体の輸送にも使用できる。PE80タイプまたはPE100タイプのポリエチレンの場合、ポリオレフィンは10バール、さらには20バール、場合によっては30バール以上の高い圧力にも耐えることができる。種々の気体が使用でき、例としては下記が挙げられる:
(1)炭化水素ガス(例えば都市ガス、アルカン、特にエタン、プロパンまたはブタンガスまたはアルケン、特にエチレン、プロピレンまたはブテンガス)(2)窒素;
(3)ヘリウム;
(4)水素;
(5)酸素;
(6)ポリエチレンまたはポリプロピレンを劣化または腐食させはるガス、例えば酸性ガス、腐蝕性ガス、例えばH2SまたはHClまたはHF。
【0078】
本発明パイプの重要な用途は、パイプ中を循環する気体が寒剤である空調用パイプである。寒剤はCO2、特に超臨界CO2、HFCまたはHCFCガスにすることができる。層L1/L’1または層L2/L’2はこれらの気体に対する耐久性のあるフルオロポリマーである。これらの層のフルオロポリマーは耐久性に優れたPVDFであるのが好ましい。寒剤が冷暖房回路の一部で凝縮し、液体になってもよい。本発明の多層パイプは寒剤気体が液体の形に凝縮した場合でも使用できる。
【実施例】
【0079】
使用した製品
カイナー(KYNAR、登録商標) 720
アルケマ(Arkema)社から市販の融点が170℃で、メルトフローインデックスが20g/10分(230℃/5kg)である下記特徴を有するPVDFホモポリマー:
Tc:135℃
σY:55Mpa
v:900Pa.s(230℃/100s-1
ヤング係数:2200MPa
オレヴァック(OREVAC、登録商標) 18302
融点が124℃で、メルトフローインデックスが1g/10分である無水マレイン酸がグラフトされたLLDPE−タイプのポリエチレン。
ロタダー(LOTADER、登録商標) AX 8840
アルケマ(Arkema)社から市販のASTM D-1238に従ったメルトフローインデックスが5であるエチレン(92重量%)/メタクリル酸グリシジル(8重量%)コポリマー。
PEX
95重量%のBORPEX(登録商標)ME−2510と5重量%のMB−51との混合物(両方ともボレアリス(Borealis)社から市販)。ポリエチレン上にシラン官能基が存在し、加熱によって架橋。
PVDF−1
下記特性を有する16重量%のHFPを含むVDF-HFPコポリマー:
Tc:103℃
σY:18 Mpa
v:900Pa.s
引張りヤング係数:360Mpa
【0080】
実施例1
官能化PVDFの製造
ワーナー40型押出機を用いてPVDF-1を2重量%の無水マレイン酸と190℃で混合した。この混合は押出機の全ての脱気口を閉じ、スクリュー速度を200回転数/分にし、流量を60kg/時にして実行した。生成物をダイフェースカッターで顆粒にし、アルミニウムのライニングをしたバッグに入れ、このバッグに20kGrayの電子線を照射した。照射後、生成物を最高減圧下、245℃、200回転数/分で再び押出機を通した。流量は25kg/hにした。この揮発分除共段階後の生成物を赤外分析法で分析した結果、グラフト率は0.31%で、フリーの無水マレイン酸含有量は300ppmであった。この生成物を官能化されたPVDF1とよぶ。
【0081】
実施例2
官能化PVDFの製造
実施例1の条件を繰り返したが、PVDF-1の代わりにカイナー(KYNAR、登録商標) 720を用いた。揮発分除共段階後の生成物を赤外分析法で分析した結果、グラフト率は0.50%、フリーの無水マレイン酸含有量は300ppmであった。この生成物を官能化されたPVDF2とよぶ。
【0082】
実施例3(比較例)
マクニール押出機を使用して多層パイプ(外径:14mm)を製作した。このパイプは下記の構造を有する:カイナー(KYNAR、登録商標) 720(130μm)/官能化PVDF2(50μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840(50μm)/PEX(780μm)。PEX層が外側層である。全ての層は互いに接着している。押出しは40メートル/分で下記条件下で実行した:
PE層:230℃
ロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840:250℃
官能化PVDF:250℃
カイナー(KYNAR、登録商標) 720:250℃
カイナー(KYNAR、登録商標)層はPEX層の優れた化学的保護を確実にした。押出し後5日後に測定した官能化PVDF層とロタダー(LOTADER、登録商標)8840層との間の周方向剥離強度は10N/cmであった。接着力は粘着破断(adhesive failure)タイプであった。
【0083】
実施例4(比較例)
実施例3と同じ条件下で下記構造を有するパイプを製作した:カイナー(KYNAR、登録商標) 720(130μm)/16%HFPを含むVDF-HFPコポリマーに官能化PVDF2を50%希釈した230℃/100s-1の粘度が900Pa.sの層(50μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840(50μm)/PEX(780μm)。押出しは40メートル/分で実行した。PEX層が外側層である。全ての層は互いに接着している。5日後に測定したPVDF混合物とロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840との間の周方向剥離強度は20N/cmであった。
接着力は粘着破断タイプであった。
【0084】
実施例5(本発明)
実施例3と同じ条件で下記構造を有するパイプを製作した:カイナー(KYNAR、登録商標) 720(130μm)/官能化されたPVDF1(50μm)/ロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840(50μm)/PEX(780μm)。
押出しは40メートル/分で実行した。5日後に測定した周方向剥離強度は60N/cmであった。接着力は凝集破断(cohesive failure)タイプで、破断はロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840の層で起った。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例3〜5の構造ではロタダー(LOTADER、登録商標)AX 8840が官能化PVDFとPEXとの間の接着結合剤の役目をする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプの内側から外側へ向かって下記の層:
(1)任意層としての、少なくとも一種のフルオロポリマー、好ましくはPVDFから成る層L1;
(2)PVDF上に少なくとも一種の不飽和極性単量体を照射グラフトして得た少なくとも1つの官能化PVDFから成る層L2;
(3)任意層としての、接着結合層L3;
(4)任意層としての、少なくとも一種のポリオレフィン、必要な場合にはそれと少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L4;
(5)任意層としての、バリヤー層L5;
(6)任意層としての、少なくとも一種のポリオレフィン、必要な場合にはそれと少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L6;
を上記の順番で有する多層パイプにおいて、
上記の不飽和極性単量体がグラフトされるPVDFが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴を有することを特徴とする多層パイプ:
(a)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリーで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項2】
パイプの内側から外側へ向かって下記の層:
(1)選択的に少なくとも一種のフルオロポリマー、好ましくはPVDFから成る層L’1;
(2)PVDF上に少なくとも一種の不飽和モノマーを照射グラフトして得られる少なくとも1種の官能化PVDFから成る層L’2;
(3)EVOHまたはEVOH−ベースの混合物、PGAまたはPDMの中から選択されるリヤーポリマーKから成るバリヤー層L’3;
(4)任意層としての、接着結合層L’4;
(5)少なくとも一種のポリオレフィンまたは必要に応じて少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L’5;
(6)任意層としての、バリヤー層L’6;
(7)任意層としての、少なくとも一種のポリオレフィンまたは必要に応じて少なくとも一種の官能化ポリオレフィンとの混合物から成る層L’7
を上記の順番で有する多層パイプにおいて、
上記の不飽和極性単量体がグラフトされるPVDFが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な最も少なく一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴を有することを特徴とする多層パイプ:
(a)結晶化温度Tc(標準のISO 11357-3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項3】
バリヤー層L5またはL’6が金属、好ましくはアルミニウムのカバーである請求項1または2に記載の多層パイプ。
【請求項4】
パイプの内側から外側へ向かって下記の層:
(1)少なくとも一種のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーから成る層L1;
(2)PVDF上に少なくとも一種の不飽和カルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸を照射グラフトして得られる少なくとも一種の官能化PVDFから成る層L2、;
(3)カルボン酸無水物と化学反応可能な官能基を有する少なくとも一種の官能化ポリオレフィンまたは必要に応じてそれとポリオレフィンとの混合物から成る層L3;
(4)少なくとも一種のポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L4;
(5)金属ケース、好ましくはアルミニウムのケースの形をしたバリヤー層L5;
(6)少なくとも一種のポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L6、
を上記順番で有する多層パイプであって、
上記不飽和酸無水物がグラフトされるPVDFが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴を有することを特徴とする多層パイプ:
(a)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項5】
パイプの内側から外側へ向かって下記の層:
(1)少なくとも一種のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーから成る層L’1;
(2)PVDF上に少なくとも一種の不飽和カルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸を照射グラフトして得られる少なくとも一種の官能化PVDFから成る層L’2;
(3)EVOHまたはEVOH−ベースの混合物から成るバリヤー層L’3;
(4)任意層としての接着結合層L’4;
(5)少なくとも一種のポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L’5;
(6)金属、好ましくはアルミニウムのケースの形をしたバリヤー層L’6;
(7)少なくとも一つのポリエチレン、好ましくはPEX型のポリエチレンから成る層L’7、
を上記の順番で有する多層パイプであって、
上記不飽和酸無水物がグラフトされるPVDFが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーであり且つ下記の特徴を有することを特徴とする多層パイプ:
(a)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項6】
上記不飽和極性単量体がグラフトされるPVDFのグラフト前の引張りヤング係数が200〜1000Mpa、好ましくは200〜600Mpaである請求項1〜5のいずれか一項に多層パイプ。
【請求項7】
(1)L5とL4との間および/またはL5とL6との間または(2)L’6とL’5との間および/またはL’6とL’7との間に接着接合層を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層パイプ。
【請求項8】
層L2または層L’2の官能化PVDFが他のPVDFのホモポリマーまたはコポリマーとの混合物である請求項1〜7のいずれか一項に記載の多層パイプ。
【請求項9】
上記官能化PVDFとPVDFとが相溶で、上記混合物がDSCで単一の溶融ピークしか有さない請求項8に記載の多層パイプ。
【請求項10】
PVDFが少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%のVDFと、VDFと共重合可能な少なくとも一種のモノマーとのコポリマーで且つ下記の特徴を有する、請求項8または9に記載の多層パイプ:
(a)結晶化温度Tc(ISO11357−3規格に従ってDSCで測定)が50〜120℃、好ましくは85〜110℃;
(b)降伏強度σYが10〜40Mpa、好ましくは10〜30MPa;
(c)溶融粘度v(毛細管レオメトリで230℃/100s-1で測定)が100〜1500Pa.s、好ましくは400〜1200Pa.s。
【請求項11】
PVDFの引張りヤング係数(ASTM D-638)が200〜1000Mpa、好ましくは200〜600Mpaである請求項10に記載の多層パイプ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層パイプの、水、特に熱水、化学薬品または気体の輸送での使用。
【請求項13】
床暖房用の加熱水の輸送または輻射要素への熱水の輸送のための請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層パイプの使用。
【請求項14】
放射熱による加熱システムにおける請求項1〜13のいずれか一項に記載の多層パイプの使用。
【請求項15】
気体が炭化水素、窒素、ヘリウム、水素、酸素または腐食性気体またはポリエチレンまたはポリプロピレンを劣化させる気体、冷媒である請求項12に記載の使用。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の少なくとも一種の多層パイプを有する放射加熱システム。

【公表番号】特表2010−500193(P2010−500193A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523328(P2009−523328)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051793
【国際公開番号】WO2008/017790
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】