説明

水ポンプ用軸受

【課題】ころ保持器の摩耗の問題を生じさせず、密封装置にころによるスラスト力の影響を与えることを少なくし、密封装置の摩耗を減少させて耐久性を向上させた水ポンプ用軸受を提供すること。
【解決手段】少なくとも軸方向の一方側に鍔曲げ部31bが形成され、円筒形状の内周軌道3aを有する外輪3と、外輪3の内周軌道3aに対向する円筒形状の外周軌道2aを一方側に有し、外輪3の両端部より軸方向外方に突き出た延長部を有する回転軸2と、外輪3の円筒形状の内周軌道3aと回転軸の円筒形状の外周軌道2aとの間にそれぞれ介装されたころ群4と、外輪3の一方側に取り付けられ、外輪3と回転軸2との環状空間を密封する密封装置6とを備え、ポケットにころ群4が収容されるころ保持器14が、鍔曲げ部31bとの当接により、軸方向の移動が規制される水ポンプ用軸受であって、密封装置6は、鍔曲げ部31bに圧入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば自動車のエンジン冷却水を循環させるための水ポンプ用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水ポンプ用軸受は、内方に複列の内周軌道を有する外輪と、外輪の内周軌道に対向する複列の外周軌道を回転軸に有し、この回転軸は、外輪の軸方向両端部より外方に突き出た先端側の延長部と後端側の延長部とを有し、外輪の内周軌道と回転軸の外周軌道との間に介装された複列の転動体群と、転動体群を保持する保持器と、軸受内部を密封する密封装置とから構成される。この転動体群は、複列のうち先端側の列にころ群を、後端側の列に玉群を配列している。ころ群はころ保持器により、玉群は玉保持器により保持されている。密封装置は、外輪の両端となる先端側及び後端側に、それぞれ設けられている。
【0003】
そして、外輪から突き出た回転軸の両端部のうち、ころ群を設置した先端側から突出した端部には、駆動ベルトを巻き掛けるためのベルトプーリーが固定され、玉群を設置した後端側から突出した端部には、冷却水の流れを惹起させるためのインペラが固定されている。この状態でベルトプーリーを回転させれば、回転軸の回転に伴いインペラがエンジンのウオータジャケット内で回転して、冷却水を循環させる。
【0004】
このように水ポンプはベルト駆動されるため、ベルトの張力により発生する荷重が、水ポンプ軸受の回転軸の先端側延長部に径方向から作用することにより、先端側の転動体列に作用する荷重が、後端側よりも高くなることが知られている。そのため、先端側の転動体にころを使用して先端側の転動体列の負荷容量を大きくし、後端側の転動体には玉をそのまま使用する構成にして、水ポンプ軸受全体の耐久性を向上させている。この水ポンプ用軸受の形式をころ&玉形式という。
【0005】
この従来のころ&玉形式の水ポンプ用軸受では、通常回転中に、ころ保持器がころ群を保持した状態で軸方向に移動することがあるので、この移動を防止するために、一方向には外輪にころを係止する段部を設けている。もう一方向は密封装置によってころ保持器の移動を止めるようにしている(特許文献1参照)。また、もう1つの従来の水ポンプ用軸受では、ころ保持器の軸方向の先端側への移動は、先端側の密封装置に当接させて防止し、ころ保持器の軸方向の後端側への移動は、玉群に当接させて防止するようにしている(特許文献2参照)。このように、従来のころ&玉形式の水ポンプ用軸受においては、いずれもころ保持器の軸方向の先端側への移動は先端側の密封装置に当接させて防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−242750号公報
【特許文献2】特開2006−336738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、水ポンプ用軸受は、エンジンの高出力化及び負荷能力の増大に伴いベルトプーリー側荷重が大きくなってきており、先端側に位置するころ軸受において、モーメント荷重を受けやすくなっている。そのため、ころのスキューが大きくなり、それに伴いころ保持器にスラスト力が働き、ころ保持器が先端側の密封装置の芯金を押して摺動することにより、芯金ところ保持器が摩耗し、密封装置の密封状態が低下する場合があった。本発明はかかる問題点を解決するためになされたもので、先端側の密封装置にころによるスラスト力の影響を与えることを少なくし、先端側の密封装置の摩耗を減少させて耐久性を向上させた水ポンプ用軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために提供される請求項1に記載の発明は、少なくとも軸方向の一方側に鍔曲げ部が形成され、円筒形状の内周軌道を有する外輪と、前記外輪の内周軌道に対向する円筒形状の外周軌道を一方側に有し、前記外輪の両端部より軸方向外方に突き出た延長部を有する回転軸と、前記外輪の円筒形状の内周軌道と前記回転軸の円筒形状の外周軌道との間にそれぞれ介装されたころ群と、前記外輪の一方側に取り付けられ、前記外輪と前記回転軸との環状空間を密封する密封装置とを備え、ポケットに前記ころ群が収容されるころ保持器が、前記鍔曲げ部との当接により、軸方向の移動が規制される水ポンプ用軸受であって、前記密封装置は、前記鍔曲げ部に圧入されることを特徴とする。
【0009】
本請求項の水ポンプ用軸受は、外輪の先端側となる、軸方向の一方側に、外輪の内周面に形成された内周軌道と回転軸の外周面に形成された外周軌道との間にころ群が介装されてころ軸受部が構成されている。このころ軸受部にモーメント荷重が作用する場合、ころ群はスキューを起こし、それに伴いころに発生するスラスト力により、ころ保持器が軸方向外方へ移動する。本発明では、外輪の鍔曲げ部がころ保持器に当接することにより、ころ保持器の軸方向移動を規制するので、ころ保持器と密封装置とが当接することはなく、摩耗により密封装置が破損することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ころ保持器の摩耗の問題を生じさせず、密封装置にころによるスラスト力の影響を与えることを少なくし、密封装置の摩耗を減少させて耐久性を向上させた水ポンプ用軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態の水ポンプ用軸受の全体を説明するために示す断面図。
【図2】本発明の実施形態の水ポンプ用軸受の要部を説明するために示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1は本発明の水ポンプ用軸受の全体を示す断面図であり、図2は本発明の水ポンプ用軸受の要部を示す断面図である。
【0013】
図1に示すように、水ポンプ用軸受1は、軸受1の内輪であるとともに回転部材であるシャフト2と、このシャフト2の外周に配置された外輪3と、この外輪3とシャフト2との間に介在する複列の転動体4,5とから構成される軸受と、この軸受内部を密封する一対の密封装置6,7とから構成されている。水ポンプ用軸受1は、ポンプハウジング8の軸受組付用筒9内に圧入によって組み付けられている。
【0014】
シャフト2は、図1に示すように、複列の転動体4,5をそれぞれ転動させる外周軌道2a,2bを外周面に有し、ポンプハウジング8の軸受組付用筒9内に中心軸線Oの回りに回転可能に配置されている。そして、シャフト2は、一方の外周軌道2aが転動体4を、また他方の外周軌道2bが転動体5を、それぞれ転動させる部位として機能するように構成されている。シャフト2の先端側(図1の左側)端部には、プーリシート10を介してプーリ11が、またその後端側(図1の右側)端部には、水ポンプ用のインペラ12が、それぞれ取り付けられている。
【0015】
プーリ11は、エンジン側に駆動力伝達ベルト(図示せず)を介して連結されている。インペラ12は、基部12a及び羽根部12bを有し、ポンプハウジング8内に回転可能に支持されている。これにより、プーリ11がエンジン側からの駆動トルクを受けると、シャフト2及びインペラ12が中心軸線Oの回りに回転駆動され、インペラ12によってエンジンの冷却水が循環される。
【0016】
ポンプハウジング8は、インペラ12を内部に収容する収容空間8a、及びこの収容空間8aに連通する貫通孔8bを有し、水ポンプ用軸受1の後端側に配置され、その内部がハウジング用シール部材13によって密封されている。
【0017】
軸受組付用筒9は、ポンプハウジング8における貫通孔8bの外側開口周縁に一体に設けられ、全体が外部に開口して収容空間8aに連通する円筒部材によって形成されている。また、軸受組付用筒9は、筒厚がポンプ駆動源側(図1の左側)の開口端部から水ポンプ用軸受1の圧入方向(矢印a方向)に沿って漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0018】
外輪3は、図1に示すように、複列の転動体4,5をそれぞれ転動させる内周軌道3a,3bを内周面に有し、シャフト2の外周囲に配置され、かつポンプハウジング8の軸受組付用筒9内に圧入されて固定されている。また、外輪3は、軸受組付用筒9の内周面に圧入され、全体が中心軸線Oに沿って両方向に開口する円筒部材によって形成されている。そして、外輪3は、一方の内周軌道3aが転動体4を、また他方の内周軌道3bが転動体5をそれぞれ転動させるように構成されている。外輪3は、SCM415もしくはSPB2S等の低炭素鋼からなり、全体に浸炭熱処理され、プレス成形されている。
【0019】
外輪3の鍔部31は、鍔端部31aが軸受内部側に向くように、径方向内方に折り曲げられ、鍔曲げ部31bが形成されている。鍔曲げ部31bの内周はシャフト2を挿通させるシャフト挿通孔31cとなっている。
【0020】
この外輪3のシャフト挿通孔31cの内径は、ころ保持器14のポンプ駆動源側の端部14aの中心軸線Oに対する外径よりも小さく形成され、ころ保持器14が軸方向に移動した場合には、ころ保持器14の軸方向端面が外輪3の鍔端部31aに当接するように構成されている。
【0021】
先端側の転動体4は、図1に示すように、円筒状の転動面を有するころからなり、水ポンプ用軸受1の先端側である軸受組付用筒9のポンプ駆動源側に配置され、ころ保持器14によって保持されている。
【0022】
後端側の転動体5は、図1に示すように、鋼球からなり、水ポンプ用軸受1の後端側である軸受組付用筒9のポンプ側(ポンプ駆動源側とは反対側)に配置され、玉保持器15によって保持されている。
【0023】
密封装置6,7は、転動体4,5を介して互いに対向し、シャフト2と外輪3との環状空間に配置されている。密封装置6,7は、略同一の構成であるため、ポンプ駆動源側の密封装置6のみについて説明し、ポンプ側の密封装置7については説明は省略する。
【0024】
密封装置6は、図2に示すように、芯金部材60と、弾性部材61とを有しており、芯金部材60と弾性部材61とは互いに固定されて、シール部材62を構成している。
【0025】
芯金部材60は、環状に形成され、断面L字形状を有している。芯金部材60は、円筒状の固定部60aと、固定部60aにつながり、固定部60aに対し径方向に延在する径方向延在部60bとからなる。芯金部材60は、冷延鋼板やステンレス等からなる。
【0026】
弾性部材61は、環状に形成され、芯金部材61を覆うように固着されている。弾性部材61は、ゴム材からなり、例えばニトリルゴム等を用いることができる。
【0027】
シール部材62は、芯金部材60と弾性部材61とが一体となって構成されている。シール部材62は、径方向に延在するシールリップ61a,61bを有する。
【0028】
シールリップ61a,61bは、基部61cから延在して一体に設けられ、内周側の先端部がシャフト2の外周面に接触し、外輪3とシャフト2との間の環状空間を外部からシールするように形成されている。シールリップ61aは基部61cよりもポンプ駆動源側に、シールリップ61bは基部61cよりもポンプ側に、それぞれ配置されている。そして、シールリップ61a,61bは、シャフト2の回転時にシャフト2の外周面に摺接するように構成されている。
【0029】
次に、密封装置6の組付方法について説明する。
【0030】
外輪3は、図2に示すように、組付け前の状態において、鍔部31(破線)が軸方向に延在した状態となっている。外輪3の内周軌道3a,3bは,旋削にて成形し、浸炭熱処理を実施する。次に、鍔部31は、浸炭熱処理後,高周波焼鈍にて硬さを下げておく。そして、転動体4ところ保持器14とを内周面に配置した後、ロール曲げ機等により、鍔部31を径方向内方に折り曲げ、鍔曲げ部31bを形成する。密封装置6は、この鍔曲げ部31bに芯金部材60の固定部60aを圧入することにより行われる。
【0031】
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0032】
水ポンプ用軸受1の転動体4がシャフト2側からの高荷重を受けて、ころ保持器14と共に先端側へ移動しても、ころ保持器14は、外輪3の鍔端部31cに当接し、軸方向の移動が規制されるので、密封装置6と干渉することなく、外輪3から外れることもない。従って、ころ保持器14及び転動体4の飛び出し発生を抑制することができる。また、芯金部材60の固定部60aが外輪3の鍔曲げ部31の内周面に圧入されるため、外輪3の内周面の溝部に密封装置を装着する場合と比べて、芯金部材60と外輪3との接触面積を大きくすることができるので、外輪3と密封装置6をより強固に固定することができる。
【0033】
以上、本発明の水ポンプ用軸受を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0034】
上記実施の形態では、軸受組付用筒9のポンプ駆動源側すなわち先端側の転動体4が円筒ころによって形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、先端側の転動体のみならず後端側の転動体を円筒ころによって形成してもよい。すなわち、本発明は、軸受組付用筒の少なくとも一方にころからなる転動体を含む複列の転動体を備えていればよい。また、転動体は複列でなくともよく、複数のころをシャフト2の周方向に沿って配置した一列の転動体としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1:水ポンプ用軸受、
2:シャフト、2a,2b:外周軌道、
3:外輪、 3a,3b:内周軌道、
31:鍔部、 31a:鍔端部、 31b:鍔曲げ部、 31c:シャフト挿通孔、
32:鍔部、 32a:鍔端部、 32b:鍔曲げ部、 32c:シャフト挿通孔、
4:転動体、
5:転動体、
6:密封装置、
60:芯金部材、 60a:固定部、 60b:径方向延在部、
61:弾性部材、 61a,61b:シールリップ、 61c:基部、
62:シール部材、
7:密封装置、
8:ポンプハウジング、 8a:収容空間、 8b:貫通孔、
9:軸受組付用筒、
10:プーリシート、
11:プーリ、
12:インペラ、 12a:基部、 12b:羽根部、
13:ハウジング用シール部材、
14:ころ保持器、
15:玉保持器、
O:中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも軸方向の一方側に鍔曲げ部が形成され、円筒形状の内周軌道を有する外輪と、
前記外輪の内周軌道に対向する円筒形状の外周軌道を一方側に有し、前記外輪の両端部より軸方向外方に突き出た延長部を有する回転軸と、
前記外輪の円筒形状の内周軌道と前記回転軸の円筒形状の外周軌道との間にそれぞれ介装されたころ群と、
前記外輪の一方側に取り付けられ、前記外輪と前記回転軸との環状空間を密封する密封装置と
を備え、
ポケットに前記ころ群が収容されるころ保持器が、前記鍔曲げ部との当接により、軸方向の移動が規制される水ポンプ用軸受であって、
前記密封装置は、前記鍔曲げ部に圧入されることを特徴とする水ポンプ用軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−247047(P2012−247047A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121508(P2011−121508)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】