説明

水中のトリエチルアミンの回収方法

【課題】トリエチルアミン及び他の有機化合物を含むトリエチルアミン含有水溶液から、上記有機化合物を安定した運転で分離することにより、水中のトリエチルアミンを効率良く回収する方法を提供すること。
【解決手段】第1蒸留塔において、トリエチルアミンと他の有機化合物を含む水溶液から水を分離し、その塔底から該水を排出すると共に、その塔頂からトリエチルアミンと有機化合物と水との混合物を得る第1蒸留工程と、該混合物を第2蒸留塔に導入し、上記混合物を、有機化合物と、トリエチルアミンと水との混合物に分離し、第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度を、トリエチルアミンと水とが2液相を形成する濃度に制御しながら、その塔頂部から上記有機化合物を主成分とする塔頂液を抜き出すと共に、その塔底部からトリエチルアミンと水との混合物を得る第2蒸留工程を含む水中のトリエチルアミンの回収方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中のトリエチルアミンの回収方法に関し、詳しくは、製造プラント等から排出される、トリエチルアミン及びトリエチルアミンと水との共沸温度よりも沸点又は水との共沸温度が低い有機化合物を含有する排水の処理に際して、水及びトリエチルアミンと他の有機化合物とを分離し、トリエチルアミンを効率良く回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリエチルアミン及びトリエチルアミンと水の共沸温度よりも沸点又は水との共沸温度が低い有機化合物を含有する排水は、スチームストリッパーにより、トリエチルアミン及びトリエチルアミンよりも沸点の低い有機化合物が濃縮された留分と、水とに分離することができ、この場合、上記留分はスチームストリッパーの塔頂に、水はその塔底に分離される。塔底から得られた水はそのまま排出するか、必要に応じて活性汚泥などで処理した後に排出することができる。
製造プラント等においては、スチームストリッパーから得られるトリエチルアミン及びトリエチルアミンよりも沸点の低い有機化合物が濃縮された留分から、トリエチルアミンとトリエチルアミンよりも沸点の低い有機化合物とを分離回収することが望まれる。
このような分離回収の方法として、例えば特許文献1には、有機化合物を含む排水を第1蒸留塔に供給してその塔頂から有機化合物及び水を留出させ、缶出液を第1蒸留塔よりも低い圧力で運転される第2蒸留塔に供給し、第2蒸留塔の塔頂から有機化合物を多く含むガスを流出させ、塔底から有機化合物濃度の低い缶出液を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では、トリエチルアミン及びトリエチルアミン以外の有機化合物を含む場合、トリエチルアミンと他の有機物とを分離することができないという問題があった。
【0003】
特許文献2には、(1) 溶剤を含む排水から、スチームストリッピングにより溶剤を分離する工程、(2) 分離された溶剤を含有する蒸気を凝縮させた後、溶剤を液液抽出する工程、(3) 抽剤を脱水し、再度工程(2) へ循環し、再利用する工程からなる溶剤の回収方法が開示されている。しかしながら、この方法では、溶剤としてトリエチルアミン及び他の有機物を含む場合、トリエチルアミンと他の有機物とを分離することができないという問題があった。また、溶剤を回収するためには、抽剤と溶剤とを分離しなければならなかった。
特許文献3には、排水中のジクロロメタンを、空気及び/又は不活性ガスで通気することにより除去し、除去したジクロロメタンをさらに製造工程に供給再利用することを特徴とするポリカーボネートの製造法が開示されている。しかしながら、排水中にトリエチルアミンが含まれている場合、これとジクロロメタンとを分離することができないという問題があった。
特許文献4には、ポリカーボネートの有機溶媒溶液からアミン系触媒を回収する方法が開示されており、この方法は、酸性水溶液にアミン系触媒を抽出し、アルカリを加えた後に有機溶媒に抽出する工程と、アミン系触媒を含有する有機溶媒を蒸留してアミン系触媒を分離する工程を含む方法である。しかしながら、この方法では、アミン系触媒がトリエチルアミンであり、有機溶媒がジクロロメタンの場合、ジクロロメタンが分解してわずかに発生する塩酸とトリエチルアミンが塩を形成してしまう。そして、蒸留時に塩が析出するため、詰まりの原因になるという問題があった。塩は水に溶解するため、蒸留時に水を添加すると塩の析出を抑制することが可能であるが、温度変動が激しくて運転できないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平7−232159号公報
【特許文献2】特開2003−47953号公報
【特許文献3】特開平6−200006号公報
【特許文献4】特開2001−329059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、トリエチルアミン及びトリエチルアミンと水との共沸温度よりも沸点又は水との共沸温度が低い有機化合物を含むトリエチルアミン含有水溶液から、上記有機化合物を安定した運転で分離することにより、水中のトリエチルアミンを効率良く回収する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、トリエチルアミン及びトリエチルアミンと水との共沸温度よりも沸点又は水との共沸温度が低い有機化合のそれぞれを特定量含有するトリエチルアミン含有水溶液から、第1蒸留工程において、塔底から大部分の水を排出すると共に、塔頂から留出する水と有機化合物とトリエチルアミンとの混合物を、第2蒸留工程において、有機化合物と、トリエチルアミン及び水とに分離することにより、トリエチルアミンを効率良く回収することができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち本発明は、以下の水中のトリエチルアミンの回収方法を提供するものである。
1. トリエチルアミン1〜10000質量ppm及びトリエチルアミン以外の有機化合物1質量ppm〜10質量%を含有するトリエチルアミン含有水溶液であって、該有機化合物の沸点をa℃、トリエチルアミンと水との共沸温度をb℃、該有機化合物と水とが共沸する場合の共沸温度をc℃としたときに、a<b又はc<bを満たすトリエチルアミン含有水溶液を第1蒸留塔に導入し、該第1蒸留塔において上記トリエチルアミン含有水溶液から水を分離し、該第1蒸留塔の塔底から該水を排出すると共に、該第1蒸留塔の塔頂からトリエチルアミンと有機化合物と水との混合物を得る第1蒸留工程と、該混合物を第2蒸留塔に導入し、該第2蒸留塔において上記混合物を、有機化合物と、トリエチルアミンと水との混合物に分離し、該第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度を、トリエチルアミンと水とが2液相を形成する濃度に制御しながら、該第2蒸留塔の塔頂部から上記有機化合物を主成分とする塔頂液を抜き出すと共に、該第2蒸留塔の塔底部からトリエチルアミンと水との混合物を得る第2蒸留工程を含むことを特徴とする水中のトリエチルアミンの回収方法。
2. 第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度の制御が、第2蒸留塔の塔底液の一部を第1蒸留塔にリサイクルすることにより行われる上記1記載の回収方法。
3. 第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度の制御が、第2蒸留塔の塔底液を液液分離し、得られた油相の一部を第1蒸留塔又は第2蒸留塔にリサイクルすることにより行われる上記1記載の回収方法。
4. 第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度の制御が、第1蒸留塔の塔頂留分を液液分離して油相と水相を得、得られた油相を第2蒸留塔に導入し、次いで、第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度に見合うように上記水相の一部又は純水を第2蒸留塔に導入することにより行われる上記1記載の回収方法。
5. 第2蒸留塔の大気圧下での運転において、塔底液中のトリエチルアミン濃度を、1.5〜98.4質量%に制御する上記1〜4のいずれかに記載の回収方法。
6. 第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度を、30質量%以下又は40質量%以上に制御する上記5に記載の回収方法。
7. トリエチルアミン以外の有機化合物がジクロロメタンである上記1〜6のいずれかに記載の回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トリエチルアミンと水との共沸温度よりも沸点又は水との共沸温度が低い有機化合物とトリエチルアミンとの分離を安定して行うことにより、水中のトリエチルアミンを回収することができる。また、回収したトリエチルアミンはポリカーボネートの製造において触媒として再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水中のトリエチルアミンの回収方法において、対象となるトリエチルアミン含有水溶液は、トリエチルアミン1〜10000質量ppm及びトリエチルアミン以外の有機化合物(以下、単に「有機化合物」と称する場合がある。)1質量ppm〜10質量%含有しているトリエチルアミン含有水溶液であって、この有機化合物の沸点をa℃、トリエチルアミンと水との共沸温度をb℃、この有機化合物が水と共沸する場合の共沸温度をc℃としたとき、a<b又はc<bである関係を満たすトリエチルアミン含有水溶液である。
このような条件を満たす有機化合物としては、ジクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン、ペンタン、ヘキサン、メタノール及びアセトンなどの有機化合物が挙げられる。これらは、トルエチルアミン含有水溶液中に一種含まれていてもよく二種以上含まれていてもよい。本発明のトリエチルアミンの回収方法は、有機化合物がジクロロメタンである場合に、特に有用である。なお、上記有機化合物と水とは、この有機化合物が水に対して飽和又は不飽和である1液相を形成していてもよく、水に対する溶解度を超える量の有機化合物と水とで2液相を形成していてもよい。
上記トリエチルアミン含有水溶液としては、例えば、トリエチルアミン触媒を用いたポリカーボネート樹脂の製造において排出される水溶液、すなわち、触媒であるトリエチルアミンと溶媒であるジクロロメタンが溶解した水溶液がある。本発明の回収方法により回収されたトリエチルアミンは触媒として再利用することができる。
上記トリエチルアミン含有水溶液は、酸性下ではトリエチルアミンが酸と塩を形成するため、第1蒸留塔での分離が困難となる。従って、対象となるトリエチルアミン含有水溶液はpHを5以上、好ましくは6以上とすることが望ましい。また、上記ポリカーボネート樹脂の製造においては、アルカリ条件下において、原料のビスフェノールAが排出される水溶液に溶解し、COD(化学的酸素要求量)が上昇するため、pHを8以下、好ましくは7以下とすることが望ましい。
【0010】
本発明の水中のトリエチルアミンの回収方法について図1に示す工程概略図を参照して説明する。本発明の水中のトリエチルアミンの回収方法は、第1蒸留塔1において、トリエチルアミン含有水溶液Aから水を分離し、第1蒸留塔1の塔底からこの水Bを排出すると共に、第1蒸留塔1の塔頂からトリエチルアミンと有機化合物と水との混合物Cを得る第1蒸留工程と、この混合物Cを第2蒸留塔2に導入し、第2蒸留塔2において混合物Cを、有機化合物と、トリエチルアミンと水との混合物に分離し、第2蒸留塔2の塔底液中のトリエチルアミン濃度を、トリエチルアミンと水とが、図1において符号aで示す箇所において2液相を形成する濃度に制御しながら、第2蒸留塔2の塔頂部から上記有機化合物を主成分とする塔頂液Dを抜き出すと共に、第2蒸留塔2の塔底部からトリエチルアミンと水との混合物である塔底液Eを得る第2蒸留工程を含む。
上記第1蒸留工程において第1蒸留塔1の塔頂部から得られる混合物Cに含まれる水の割合は、通常50質量%以下である。また、上記第2蒸留工程で得られる上記有機化合物を主成分とする塔頂液Dは、この有機化合物が水と共沸する場合に水を含む。
【0011】
ここで、トリエチルアミン含有水溶液Aは、導入管3を経由して第1蒸留塔1に導入され、水蒸気導入管4から導入された水蒸気により蒸留される。その結果、第1蒸留塔1の塔底から、トリエチルアミン及び有機化合物のほとんどが除去された水Bが排出される。水Bにおけるトリエチルアミン濃度及び有機化合物濃度は、通常10質量ppm以下である。
例えばトリエチルアミン含有水溶液Aが、トリエチルアミン100質量ppm、ジクロロメタン(トリエチルアミン以外の有機化合物)1質量%を含有する排水である場合、第1蒸留塔1として理論段が3段のものを用い、第1蒸留塔1を大気圧下で運転する際に、第1蒸留塔1の塔頂を80℃以上の温度に制御して運転すれば、第1蒸留塔1の塔底の水Bにおけるトリエチルアミン濃度を1質量ppm以下、ジクロロメタン濃度を1質量ppm以下とすることができる。
【0012】
第1蒸留塔1の塔頂から得られた混合物Cは、導入管5を経由して第2蒸留塔2に導入され、有機化合物と、トリエチルアミンと水との混合物に分離される。例えば、混合物Cが、トリエチルアミン14質量%とジクロロメタン69質量%を含む混合物であり、第2蒸留塔2が理論段15段のものである場合、第2蒸留塔2の7段目に混合物Cを導入し、大気圧下で、還流比5、第2蒸留塔2の8段目を50℃に制御すれば、塔底液Eの組成は、トリエチルアミン44質量%及び水56質量%となる。この場合、第2蒸留塔2の塔頂から、ジクロロメタン98.5質量%と水1.5質量%からなる塔頂液Dを得る。
混合物Cから分離された有機化合物を主成分とする塔頂液Dを第2蒸留塔2の塔頂から抜き出す際に、第2蒸留塔2の塔底液E中のトリエチルアミン濃度を、トリエチルアミンと水とが2液相を形成する濃度に制御することが必要である。例えば第2蒸留塔2内の圧力が大気圧である場合、上記2液相を形成するトリエチルアミン濃度は、通常1.5〜98.4質量%(残りは水)程度、好ましくは5.0〜95.0質量%である。
図2は、大気圧下における、トリエチルアミン濃度と、トリエチルアミンと水との混合物の沸点との関係を示すグラフである。塔底液E中のトリエチルアミン濃度が1.5〜98.4質量%の範囲であると、図2に示すように、トリエチルアミンと水との混合物の沸点が共沸温度において一定となるため、フィード組成の変動等に対して安定運転をすることができる。上述したようにトリエチルアミン濃度が1.5〜98.4質量%の範囲にあると、トリエチルアミン濃度のわずかな変動では上記沸点が変動しないからである。ここで、安定運転とは、蒸留塔内のいずれの位置で温度を測定した場合にも、±1℃以内の変動で運転できる状態をいう。
【0013】
トリエチルアミン相と水相とはトリエチルアミン濃度が30〜40質量%の間で相転位することが知られている。塔底液の連続相が変化するとリボイラーが不安定になるため、塔底液E中のトリエチルアミン濃度を30質量%以下又は40質量%以上にすると、さらに安定した運転が可能になる。このような観点から、第2蒸留塔内の圧力が大気圧である場合、好ましいトリエチルアミン濃度は、1.5〜30質量%又は40〜98.4質量%であり、より好ましくは5〜30質量%又は40〜95質量%である。
第2蒸留塔2の塔底液E中のトリエチルアミン濃度は、以下の方法により制御することができる。
(1)第2蒸留塔2塔底液Eの一部を第1蒸留塔1にリサイクルする。
(2)第2蒸留塔2の塔底液Eを液液分離し、得られた油相の一部を第1蒸留塔1又は第2蒸留塔2にリサイクルする。この場合、液液分離により得られた水相は第1蒸留塔1にリサイクルしてもよい。
(3)第1蒸留塔1の塔頂留分を液液分離して、油相と水相を得、得られた油相を第2蒸留塔2に導入し、次いで、第2蒸留塔2の塔底液E中のトリエチルアミン濃度に見合うように上記水相の一部又は純水を第2蒸留塔2に導入する。この場合、上記水相は第1蒸留塔1にリサイクルしてもよい。
【0014】
第2蒸留塔2の塔底液E中のトリエチルアミン濃度を制御方法(1)又は(2)により制御する場合、下式により、トリエチルアミン含有水溶液A中のトリエチルアミン流量に対して、第2蒸留塔2の塔底液Eの抜き出し流量を決めればよい。
塔底トリエチルアミン濃度[質量%]={トリエチルアミン含有水溶液A中のトリエチルアミン流量[kg/h]/第2蒸留塔2の塔底液Eの抜出し流量[kg/h]}×100
トリエチルアミン含有水溶液Aがポリカーボネートの製造において生じた排水である場合、回収した塔底液Eに含まれるトリエチルアミンは、ポリカーボネートの製造において触媒として再利用することができる。
【実施例】
【0015】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
図1に示す工程に従って排水を蒸留した。ジクロロメタン1.4質量%、トリエチルアミン100質量ppm及び水からなるpH=6.8の排水を、8段のオルダーショーカラムを有する第1蒸留塔の1段目に流量992g/hで供給し、さらに、後述する第2蒸留塔の塔底液を流量8g/hで第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目に供給した。そして、還流せずに大気圧下で、第1蒸留塔の塔頂温度を83℃になるように連続蒸留した。第1蒸留塔の塔底から、塔底温度101℃でジクロロメタン0.1質量ppmとトリエチルアミン0.3質量ppmを含む水を流量978g/hで得た。また、第1蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン61.4質量%、トリエチルアミン20.1質量%及び水18.5質量%の混合物である塔頂液を流量22g/hで得た。
第2蒸留塔として30段のオルダーショーカラムを有するものを用い、第1蒸留塔の塔頂液を流量300g/hで第2蒸留塔における30段のオルダーショーカラムの14段目に供給し、還流比=5、大気圧下の条件で16段目の温度が43.0℃になるように連続蒸留した。
この連続蒸留により、第2蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン98.5質量%、トリエチルアミン0.1質量ppm及び水1.5質量%を含む塔頂液を、流量187g/hで抜き出した。また、第2蒸留塔の塔底から、ジクロロメタン200質量ppm、トリエチルアミン53.0質量%及び水約47質量%を含む塔底液を、流量113g/hで抜き出した。なお、この際の第2蒸留塔の塔頂部の温度は35℃であり、塔底部の温度は77℃であった。また、第2蒸留塔の塔底液の一部を、8g/hの流量で第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目にリサイクルさせた。
第2蒸留塔の塔底部を観察したところ、トリエチルアミンと水とが2液相を形成していた。第2蒸留塔のオルダーショーカラムの16段の温度は43.0℃±0.5℃であり、安定運転がされていたことがわかる。
【0016】
実施例2
実施例1と同様の第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目に、実施例1と同様の排水を流量995g/hで供給し、さらに、ジクロロメタン50質量ppmとトリエチルアミン33質量%を含む第2蒸留塔の塔底液の一部を、流量5g/hで第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目に供給した。そして、還流せずに大気圧下で、第1蒸留塔の塔頂が83℃になるように連続蒸留した。第1蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン72.4質量%、トリエチルアミン8.7質量%及び水18.9質量%の混合物である塔頂液を流量19g/hで得た。また、第1蒸留塔の塔底から、塔底温度101℃でジクロロメタン0.1質量ppmとトリエチルアミン0.1質量ppmを含む水を流量981g/hで得た。
第2蒸留塔として30段のオルダーショーカラムを有するものを用い、第1蒸留塔の塔頂液を流量300g/hにて、第2蒸留塔における30段のオルダーショーカラムの14段目に供給し、還流比=5、大気圧下の条件で16段目の温度が41.0℃になるように連続蒸留した。
この連続蒸留により、第2蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン98.5質量%、トリエチルアミン0.1質量ppm未満及び水1.5質量%を含む塔頂液を、流量221g/hで抜き出した。また、第2蒸留塔の塔底から、ジクロロメタン50質量ppm、トリエチルアミン32.9質量%及び水67.1質量%を含む塔底液を、流量79g/hで抜き出した。なお、この際の第2蒸留塔の塔頂部の温度は35℃であり、塔底部の温度は77℃であった。
第2蒸留塔の塔底部を観察したところ、トリエチルアミンと水とが2液相を形成していた。第2蒸留塔のオルダーショーカラムの16段の温度は41.0℃±1.0℃であり、安定運転がされていたことがわかる。
【0017】
実施例3
実施例1において、第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目に、実施例1と同様の排水を流量984g/hで供給し、さらに、ジクロロメタン200質量ppmとトリエチルアミン68質量%を含む第2蒸留塔の塔底液の一部を、流量16g/hで第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目に供給した。そして、還流せずに大気圧下で、第1蒸留塔の塔頂が83℃になるように連続蒸留した。第1蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン44.9質量%、トリエチルアミン37.0質量%及び水18.1質量%の混合物である塔頂液を流量30g/hで得た。また、第1蒸留塔の塔底から、塔底温度101℃でジクロロメタン0.1質量ppmとトリエチルアミン0.7質量ppmを含む水を流量970g/hで得た。
第2蒸留塔として30段のオルダーショーカラムを有するものを用い、第1蒸留塔の塔頂液を流量300g/hにて、第2蒸留塔における30段のオルダーショーカラムの14段目に供給し、還流比=5、大気圧下の条件で16段目の温度が67.0℃になるように連続蒸留した。
この連続蒸留により、第2蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン98.5質量%、トリエチルアミン8質量ppm及び水1.5質量%を含む塔頂液を、流量137g/hで抜き出した。また、第2蒸留塔の塔底から、ジクロロメタン200質量ppm、トリエチルアミン68.1質量%及び水31.9質量%を含む塔底液を、流量163g/hで抜き出した。なお、この際の第2蒸留塔の塔頂部の温度は35℃であり、塔底部の温度は77℃であった。
第2蒸留塔の塔底部を観察したところ、トリエチルアミンと水とが2液相を形成していた。第2蒸留塔のオルダーショーカラムの16段の温度は67.0℃±0.5℃であり、安定運転がされていたことがわかる。
【0018】
比較例1
実施例1と同様の第1蒸留塔のオルダーショーカラムの1段目に、実施例1と同様の排水を流量1000g/hで供給した。そして、還流せずに大気圧下で、第1蒸留塔の塔頂が83℃になるように連続蒸留した。第1蒸留塔の塔頂から、ジクロロメタン57.6質量%、トリエチルアミン0.4質量%及び水42.0質量%の混合物である塔頂液を流量24g/hで得た。また、第1蒸留塔の塔底から、ジクロロメタン0.1質量ppmとトリエチルアミン0.1質量ppmを含む水を流量976g/hで得た。
第2蒸留塔として30段のオルダーショーカラムを有するものを用い、第1蒸留塔の塔頂液を流量300g/hにて、第2蒸留塔における30段のオルダーショーカラムの14段目に供給し、還流比=5、大気圧下の条件で16段目の温度が41.0℃になるように連続蒸留した。
この際、上記16段目の温度は41.0±9.0℃(38.0℃〜50.0℃)で変動を繰り返し、安定運転を行うことができなかった。また、第2蒸留塔の塔頂液はジクロロメタン98.5質量%、トリエチルアミン1〜30質量ppmと変動し、塔底液はジクロロメタン0.1〜20質量ppm、トリエチルアミン0.2〜2.7質量%と変動し、安定しなかった。また、塔底液は1液相であった。
上記実施例1〜3及び比較例1についてまとめて表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
応用例1
6質量%の水酸化ナトリウム水溶液にビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールA濃度14.5質量%の水溶液を調製した。この水溶液を40L/h、分子量調節剤としてp−t−ブチルフェノール25質量%のジクロロメタン溶液を0.35L/h、及び溶媒であるジクロロメタンを18.5L/hの流量で、20℃の冷却槽に浸した内径6mm、長さ30mの管型反応器に導入し、これにホスゲンを3.8kg/hの流量で吹き込んだ。出口の反応液を、静置分離槽にて分離し、ジクロロメタン側にポリカーボネートオリゴマーを得た。このオリゴマーの性状を測定したところ、蒸気圧浸透圧計で測定した数平均分子量が820であり、クロロフォーメート基濃度が0.72mol/Lであった。
ポリカーボネートオリゴマーを20L/h、6質量%の水酸化ナトリウム水溶液にビスフェノールAを溶解し14.5質量%の濃度に調製した水溶液を11.5L/h、触媒として実施例1の第2蒸留塔の塔底液を用いてトリエチルアミン濃度を4質量%に調製した水溶液を0.04L/h、アルカリ水溶液として25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を0.8L/h、及び有機溶剤としてジクロロメタンを13L/hの流量で、内容積0.3L、43φと48φのタービン翼を有するT.K.パイプラインホモミキサー2SL型(特殊機化工業(株)製)に供給し、3000rpmの回転数で重合を行った。
【0021】
パイプラインホモミキサーの出口の反応混合物は、合一槽としてのポットを介してポンプにて流量50L/hで、上記パイプラインホモミキサーの入口にリサイクルした。パイプラインホモミキサー出口の反応混合物の一部をサンプリングして、エマルジョンの相を確認したところ、水/油型となっており、また形成されている分散層の平均液滴径は38μmであった。また配管容積から平均滞留時間を計算したところ、18分であった。さらに供給した原料と等量の反応混合物を滞留時間5分間の最終反応槽としてのポットに受けた後、オーバーフローさせて取り出し、反応終了物として水相を分離した後、pHを1.5に調製した塩酸水溶液及び純水を用いてポリマー液の洗浄を繰り返した。得られた清澄なポリマー溶液から、溶媒であるジクロロメタンを蒸発させつつ粉砕することにより、白色のポリカーボネート粉末を得た。
得られたポリカーボネート粉末について粘度平均分子量を測定したところ、29800であった。また、ポリマー中に残存するクロロフォーメート基に由来する塩素量を測定したところ1質量ppm未満であり、末端の残OH基量は0.5質量%であり、得られたポリカーボネート粉末は品質に優れたものであることがわかる。
【0022】
応用例2
重合触媒として実施例1の第2蒸留塔の塔底液の替わりに実施例2の第2蒸留塔の塔底液を用いた以外は、応用例1と同様にしてポリカーボネート粉末を得た。得られたポリカーボネート粉末は白色であり、粘度平均分子量を測定したところ、29500であった。また、ポリマー中に残存するクロロフォーメート基に由来する塩素量を測定したところ1質量ppm未満であり、末端の残OH基量は0.5質量%であり、得られたポリカーボネート粉末は品質に優れたものであることがわかる。
【0023】
応用例3
重合触媒として実施例1の第2蒸留塔の塔底液の替わりに実施例3の第2蒸留塔の塔底液を用いた以外は、応用例1と同様にしてポリカーボネート粉末を得た。得られたポリカーボネート粉末は白色であり、粘度平均分子量を測定したところ、29400であった。またポリマー中に残存するクロロフォーメート基に由来する塩素量を測定したところ1ppm以下であり、末端の残OH基量は0.5質量%であり、得られたポリカーボネート粉末は品質に優れたものであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
製造プラント等から排出されるトリエチルアミン含有水溶液から回収したトリエチルアミンは、ポリカーボネートの製造において触媒として再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の水中のトリエチルアミンの回収方法を示す工程概略図である。
【図2】大気圧下における、トリエチルアミン濃度と、トリエチルアミンと水との混合物の沸点との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 第1蒸留塔
2 第2蒸留塔
3 導入管
4 水蒸気導入管
5 導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリエチルアミン1〜10000質量ppm及びトリエチルアミン以外の有機化合物1質量ppm〜10質量%を含有するトリエチルアミン含有水溶液であって、該有機化合物の沸点をa℃、トリエチルアミンと水との共沸温度をb℃、該有機化合物と水とが共沸する場合の共沸温度をc℃としたときに、a<b又はc<bを満たすトリエチルアミン含有水溶液を第1蒸留塔に導入し、該第1蒸留塔において上記トリエチルアミン含有水溶液から水を分離し、該第1蒸留塔の塔底から該水を排出すると共に、該第1蒸留塔の塔頂からトリエチルアミンと有機化合物と水との混合物を得る第1蒸留工程と、該混合物を第2蒸留塔に導入し、該第2蒸留塔において上記混合物を、有機化合物と、トリエチルアミンと水との混合物に分離し、該第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度を、トリエチルアミンと水とが2液相を形成する濃度に制御しながら、該第2蒸留塔の塔頂部から上記有機化合物を主成分とする塔頂液を抜き出すと共に、該第2蒸留塔の塔底部からトリエチルアミンと水との混合物を得る第2蒸留工程を含むことを特徴とする水中のトリエチルアミンの回収方法。
【請求項2】
第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度の制御が、第2蒸留塔の塔底液の一部を第1蒸留塔にリサイクルすることにより行われる請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度の制御が、第2蒸留塔の塔底液を液液分離し、得られた油相の一部を第1蒸留塔又は第2蒸留塔にリサイクルすることにより行われる請求項1記載の回収方法。
【請求項4】
第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度の制御が、第1蒸留塔の塔頂留分を液液分離して油相と水相を得、得られた油相を第2蒸留塔に導入し、次いで、第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度に見合うように上記水相の一部又は純水を第2蒸留塔に導入することにより行われる請求項1記載の回収方法。
【請求項5】
第2蒸留塔の大気圧下での運転において、塔底液中のトリエチルアミン濃度を、1.5〜98.4質量%に制御する請求項1〜4のいずれかに記載の回収方法。
【請求項6】
第2蒸留塔の塔底液中のトリエチルアミン濃度を、30質量%以下又は40質量%以上に制御する請求項5に記載の回収方法。
【請求項7】
トリエチルアミン以外の有機化合物がジクロロメタンである請求項1〜6のいずれかに記載の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−283272(P2007−283272A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116481(P2006−116481)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】