説明

水中のリン酸イオンの超高感度測定システム

【課題】特殊な分析装置や器具を使用しないで、リンの濃度を高感度にかつ適用範囲広く測定する方法を提供する。
【解決手段】モリブデンブルー法にて発色させた試料に四級アンモニウム塩を添加しイオン会合体を形成させる。これを高速液体クロマトグラフィーのカラムに供給してイオン会合体を捕捉濃縮する。さらに、カラム内からイオン会合体を分離溶出させUV可視光吸光光度計またはICP−MS等の通常の分析装置で定量する。これらの操作をオンライン化させることによって課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の微量なリンの濃度を測定する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンは藻類増殖の制限因子であるが、富栄養化した水域においては従来の測定方法では検出できない程度に低濃度であってもその影響を及ぼす。富栄養化の制御においては特にリンの動態を把握することが必要である。
【0003】
また、半導体製造などの精密機械工業、超純水の製造、遺伝子や酵素を取り扱う生化学的分野において、使用する薬品は超高純度が要求され、それらに含まれる超微量なリンの含有量が正確に保障される必要があるが現行の分析方法ではこれが非常に困難である。
【0004】
生体内の多くの酵素、ホルモン、神経・細胞間伝達物質は、リン酸化されることで機能を発揮し、ビスリン酸は骨粗しょう症、骨派ジェット病などのカルシウム性疾患、AIDSのような免疫疾患のメカニズムの解明や治療に有効であるといわれている。しかし、生体内のビスリン酸の濃度は通常の測定法の感度を下回っている。
【0005】
以上のことから、高感度で適用範囲が広く、操作が簡便で確実でしかも迅速性に富んでいる、安価で実用性の高い分析法が求められている。
【0006】
現在用いられている水中のリン濃度の分析法は、FIA、ICP−MS、蛍光分析法等がある。FIAは高価な機器を必要とし、検出限界が試料1リットル当たりリン1μg程度であり、高感度とはいえない。ICP−MSも機器が高価な上ランニングコストも高額で、さらに検出限界は数μgである。また、NOH+イオンの干渉を大きく受けるため精密な測定が行えない。蛍光分析法は感度が不十分な上測定に必須な蛍光試薬が高価で不安定なこと、定量範囲が狭いことから測定の信頼性や汎用性がない。
【0007】
上記述べた従来のリンの分析法は、縮合リン酸や有機リン酸化合物等のいわゆる酸により加水分解させるなどしてオルトリン酸に変えてから定量する方法がほとんどである。(たとえば非特許文献1、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】日本化学会:第4版 実験化学講座15 分析 (平成3年丸善、P193−194)
【非特許文献2】日本分析化学会:分析化学便覧 (平成3年丸善、p275−278)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、特殊な分析装置や器具を使用しないで、リンの濃度を高感度にかつ適用範囲広く測定する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、四級アンモニウム塩と陰イオン性もしくは疎水性化学種のイオン会合体をカラムにて補足・濃縮し、有機溶媒を移動相として分離溶出させることにより定量する、リンの分析法である。請求項1の発明により、リン酸をオルトリン酸に変化させずに定量することが可能となる。
【0010】
請求項2の発明は、上記イオン会合体を形成する際に一般的な試薬を用いるモリブデンブルー法により試料を発色し、四級アンモニウム塩を添加することによってイオン会合体を形成させる方法である。
【0011】
請求項3の発明は、高速液体クロマトグラフィーのカラムによる捕捉濃縮および分離溶出と、UV可視吸光光度計又はICP−MSを検出器に使用することを特徴とする、請求項1に記載の分析法、およびこれらをオンライン化した装置である。
【0012】
請求項2および請求項3の発明により特殊な装置や試薬を用いることなく試料をカラムにより捕捉濃縮、分離溶出が可能となる。また、既存の装置から要素を組み合わせることも可能で、これらをオンライン構成することにより、操作が簡便で確実でしかも迅速性に富む、安価な測定システムとしての装置となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通常の分析に使用する汎用の測定器を用い、特殊な装置や器具、試薬を一切用いず、環境水中の試料を人の手によって希釈あるいは濃縮操作を行わずに、理論上環境中のリン濃度範囲をほぼ全てカバーできる測定方法となる。
【実施例】
【0014】
本発明について、図面に基づき実施の実態を説明する。以下、四級アンモニウム塩としてドデシルトリメチルアンモニウムプロミド(以下「DTMA」)−メタノール溶液を例に取り、形成したイオン会合体をホスホアンチモニルモリブデンブルー(以下「PAMB」)−DTMA会合体としているが、本発明はこの例に限定されるものではない。また、検出にUV可視光分光高度計を用いたが、同様にこの例に限定されるものではない。特に、ICP−MS等の質量分析器で計測した場合は、本実施例よりもさらに高感度な測定が可能である。
【0015】
標準的な方法であるモリブデンブルー法によりリン酸イオンを発色させた。その後、検水量50mLに対して1.5mLの0.1w/v%DTMA−エタノール溶液を添加し、氷水中で15分間超音波照射して疎水性のPAMB−DTMAイオン会合体を生成させた。この処理液5mLを図1に示す装置のポンプ1を用いて50mmのODSカラムに捕捉させた。試料供給流速は2.0mL/分とし、残留試薬は超純粋7mLを供給して洗浄した。抽出はポンプ2を用いて35%-CH3CNを用い、流速1.0mL/分とした。抽出液はUV可視光分光光度計(波長=872nm)を用い吸光度測定を行い、ピーク面積から定量を行った。検量線は0−33μg−P/Lまでの広い濃度範囲で直線性を示し、相関係数は0.9999であった。また検出限界は30ng−P/Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】水中のリン酸イオンの超高感度測定システムの概念図
【符号の説明】
【0017】
1・・・ポンプ1
2・・・ポンプ2
3・・・サンプルインジェクター
4・・・カラム
5・・・六方弁
6・・・検出器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
四級アンモニウム塩と、陰イオン性又は疎水性化学種のイオン会合体をカラムにて捕捉濃縮し、有機溶媒を移動相として分離溶出させることにより定量する、リンの分析法。
【請求項2】
リン酸イオンを測定する通常の方法であるモリブデンブルー法により試料を発色させ、四級アンモニウム塩を添加させることを特徴とする、請求項1に記載の会合体の生成方法。
【請求項3】
高速液体クロマトグラフィーのカラムによる捕捉濃縮および分離溶出と、UV可視吸光光度計又はICP−MSを検出器に使用することを特徴とする、請求項1に記載の分析法、およびこれらをオンライン化した装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−218615(P2007−218615A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36616(P2006−36616)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】