説明

水中コンクリート橋脚の補強方法

【課題】 水中コンクリート橋脚の周囲に締切工を施工せずに実施することができ、しかも、阻害率の問題や、塗料の塗り替えに伴うランニングコスト増の問題を生じることなしに、既設の水中コンクリート橋脚を補強する方法を提供する。
【解決手段】 水中コンクリート橋脚1の外周に、水中作業により、連続繊維シート15を巻き付けて繊維補強層16を形成し、次いで、形成した繊維補強層16の外周を、外枠10で囲み、脱水後、硬化性樹脂を注入して硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に既設の水中コンクリート橋脚の耐力不足を補い、その強度を向上するための新規な補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
阪神淡路大震災以降、橋梁や橋脚の耐力不足が各地で指摘され、とくに橋脚についてはその外周をコンクリートや鉄板等で覆う補強が行われつつある。
しかし水中の、コンクリート製の橋脚の場合は、法規上の制限や、あるいは技術的、コスト的な種々の問題があるため、補強作業があまり進んでいないのが現状である。
例えばコンクリートによる補強は、補強コンクリート層の厚みがどうしても大きくなる(数十cm)ため、とくに河川の場合、河川流量の減少を考慮して、河川を監督する省庁や地方自治体等の河川管理者が、許可しない場合が多い。
【0003】
すなわち、河川管理者は、河川の流水阻害による破堤等の問題を生じないために、橋脚の河積阻害率を定めており、それを上回る補強は許さない。ところが、既設のコンクリート橋脚の多くは、既にその定められた阻害率ぎりぎりの構造寸法に建設されていて、さらにコンクリートによる補強をする余裕がない場合が多い。
このためコンクリートによる補強は、水中のほとんどのコンクリート橋脚には、法規上の制約があって採用することができない。
【0004】
一方、鉄板による補強は、コンクリートほどの厚みを必要としないため、阻害率の問題はさほど生じない。
しかし、鉄板の腐食を防止するため、その表面には防錆塗料と、それを保護する耐候性塗料とを塗り重ねる必要があるが、両塗料の塗膜はともに機械的、物理的な衝撃に弱いため、例えば洪水時の流木の衝突等によって簡単にはく離するおそれがある。また、耐候性塗料の塗膜だけでなく防錆塗料の塗膜まではく離した際にそれを補修せずに放置しておくと、鉄板が腐食して補強の強度が著しく低下するおそれがあるため、両塗料を定期的に、頻繁に塗り直す必要もある。その上、とくに水中での塗り替えは容易でなく、塗り替え作業のコストが高くつくという問題もある。
【0005】
このため、鉄製の橋脚のように塗料の塗り替えを必要としない分、ランニングコストを減少できるという、既設のコンクリート橋脚のメリットが生かされなくなってしまう。
したがって鉄板による補強も、水中のコンクリート橋脚ではほとんど採用されていないのが現状である。
そこで、阻害率の問題やランニングコスト増の問題を生じることなしに、既設の水中コンクリート橋脚を補強するための方法が検討された(例えば特許文献1参照)。
【0006】
この補強方法においては、まず、水中コンクリート橋脚の外周を囲むように、鉄板を用いて筒状に形成した補強鉄板層を設け、この補強鉄板層の外周面の全面に、高強度の連続繊維シートからなる繊維補強層を形成した後、その外周面に樹脂保護層を形成している。
この補強方法によれば、補強層全体の厚みを、コンクリート補強の場合よりも小さくできる上、補強用鉄板層の外周面の全面を、繊維補強層と樹脂保護層とで強固に保護しているため、塗料の塗り替え等によるランニングコストを省略することもできる。
【特許文献1】特開2003−96715号公報(請求項1、第0006欄〜第0009欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法を実施するためには、まず、補強する水中コンクリート橋脚の周囲に、作業者や作業用の機械が入れる大掛かりな締切工を施工したのち、この締切工内に作業者が入って補強鉄板層の施工作業を行わなければならず、工期が長くかかる、施工コストが高くつくといった問題がある。
本発明の目的は、水中コンクリート橋脚の周囲に締切工を施工せずに実施することができ、しかも、阻害率の問題や、塗料の塗り替えに伴うランニングコスト増の問題を生じることなしに、既設の水中コンクリート橋脚を補強する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、水中コンクリート橋脚の外周に、水中作業により、連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成し、硬化性樹脂で固定することを特徴とする水中コンクリート橋脚の補強方法である。
請求項2記載の発明は、水中コンクリート橋脚の外周に、水中作業により、連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成し、次いで、形成した繊維補強層の外周を、型枠を兼ねる外枠で囲み、脱水後、硬化性樹脂を注入して含浸、硬化させることを特徴とする水中コンクリート橋脚の補強方法である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、水中作業により、水中コンクリート橋脚の外周に連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成し、硬化性樹脂で固定することができる。したがって、工期や施工コストの問題を生じる大掛かりな締切工を施工せずに、水中コンクリート橋脚を補強することができる。
また、請求項1記載の発明によれば、補強層全体の厚みを、コンクリート補強の場合よりも小さくできる上、水中コンクリート橋脚を、連続繊維シートの種類によっては鉄板並みの強度を発揮しうる繊維補強層と、この繊維補強層を強固に固定し得る硬化性樹脂の硬化物とによって強固に補強し、かつ保護することもできる。しかも、塗料の塗り替え等を必要とする補強用鉄板層を有しないため、塗り替えに伴うランニングコスト増の問題を生じることもない。
【0010】
また、請求項2記載の発明によれば、いずれも水中作業により、水中コンクリート橋脚の外周に連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成し、次いで、形成した繊維補強層の外周を、型枠を兼ねる外枠で囲み、脱水後、硬化性樹脂を注入して硬化させることができる。したがって、工期や施工コストの問題を生じる大掛かりな締切工を施工せずに、水中コンクリート橋脚を補強することができる。
【0011】
また、請求項2記載の発明によれば、補強層全体の厚みを、コンクリート補強の場合よりも小さくできる上、水中コンクリート橋脚を、連続繊維シートの種類によっては鉄板並みの強度を発揮しうる繊維補強層と、この繊維補強層を強固に固定し得る硬化性樹脂の硬化物と、両者を洪水時の流木の衝突等から保護する外枠とによって強固に補強し、かつ保護することもできる。しかも、塗料の塗り替え等を必要とする補強用鉄板層を有しないため、塗り替えに伴うランニングコスト増の問題を生じることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1〜図4は、本発明の補強方法の一実施例における、各工程を説明する図である。
図1において、施工対象である水中コンクリート橋脚1は、水底2より地中深くに埋設された図示しない基礎工から、鉛直方向上方へ向けて立設され、水面3から上方へ突出した上部において、図示しない橋梁を支持している。
この例の補強方法では、まず図1に示すように、水中コンクリート橋脚1の周囲の水底2を、浚渫船等によって予備浚渫して作業エリア4を確保し、次いで、水中コンクリート橋脚1を中心にして、深さ2m程度まで、勾配(約1:1)をつけてさらに浚渫して、水中コンクリート橋脚1の基部5を露出させた後、その周囲の水上に仮設足場(SEP)6を設置する。
【0013】
仮設足場6は、図1、2に示すように、水中コンクリート橋脚1の上流側および下流側に配置された2基の足場本体7と、両足場本体7を水上に支持する支柱(スパッド)8と、2基の足場本体7間を繋いで固定することで、水中コンクリート橋脚1の周囲を囲むように仮設足場6を設置するための渡り板9とを備えている。
この仮設足場6は、まず、支柱8を取り外した2基の足場本体7を、それぞれタグボート等で、水中コンクリート橋脚1の上流側および下流側まで曳航し、位置決め後、支柱8を水底2まで下ろして、この支柱8によって足場本体7を水面3より上方にリフトアップすることで、その際に生じる反力によって支柱8の先端を水底2から地中に埋設して固定した後、2基の足場本体7間に渡り板9を固定して設置される。
【0014】
次に、必要に応じてダイバーらによる水中作業によって、水中コンクリート橋脚1の外周面に付着した汚れを除去する等の清浄化を行い、また、表面に局部的な欠損等がある場合は水中パテ等を用いて局部補修をした後、図3に示すように、先に露出させておいた水中コンクリート橋脚1の基部5に、図4、5に示す外枠10の底面を構成する止水リング11を設置する。
【0015】
止水リング11は、H型鋼や硬質樹脂等で形成され、2つ以上に分割可能に形成されたリング状の本体12と、この本体12と水中コンクリート橋脚1の基部5との間に挟まれると共に、分割された本体12間にも挟まれることによって、これらの部材間を止水するための、ゴム等で形成されたパッキン14と、上記基部5の外周の複数個所に固定され、リング状の本体12を載置するためのアングル部材13とを備えている。
【0016】
止水リング11は、本体12を2つ以上に分割したものを、リング内に基部5を、また基部5との間および分割した本体12間にパッキン14を挟んで、再びリング状に合わせて、図示していないが、ボルトで締めてアングル部材13上に載置した後、その外周にワイヤーロープ等を巻きつけて締め付けたり、ボルトで締め付けたりしながら位置合わせすることで、図3の位置に設置される。なお、アングル部材13の代わりに水中コンクリート等で下端を形成してもよい。
【0017】
止水リング11は、外枠10の底部を閉じることで、後述する、外枠10内を脱水する際、および外枠10内に硬化性樹脂を注入する際に、これらの圧に耐えるパッキングとして機能する。また、止水リング11は、図3に示すように、水中コンクリート橋脚1の外周に連続繊維シート15をらせん状に巻き付ける際に、その下端部を固定する固定部としても機能する。つまり、前記のように止水リング11の本体12を、その外周にワイヤーロープ等を巻きつけて締め付けたり、ボルトで締め付けたりしながら位置合わせして、図3の位置に設置する際に、パッキン14と、水中コンクリート橋脚1の外周面との間に、連続繊維シート15の下端部を挟むことによって、その下端部を固定することができる。ただし、シート下端部は水中硬化パテで基部5に接着して固定してもよい。
【0018】
さらに、止水リング11は、上記連続繊維シート15を、図示しない自動の巻立機を用いて水中コンクリート橋脚1の外周にらせん状に巻き付ける際に、巻立機の軸受としても機能する。すなわち、連続繊維シート15をらせん状に巻き付ける際に、巻立機を、スリップを生じることなく、確実に、水中コンクリート橋脚1の外周を回転させながら上昇させるための位置決めを、上記止水リング11にて行うことができる。なお、連続繊維シート15は、手作業によって巻きつけてもよい。
【0019】
次に、上記巻立機等を使用して、または手作業にて、ダイバーらによる水中作業によって、図3に示すように、水中コンクリート橋脚1の外周に連続繊維シート15を巻き付けて繊維補強層16を形成する。詳しくは、巻き付けた連続繊維シート15の両側部が互いにオーバーラップまたは接するように巻き付けのピッチを調整しつつ、連続繊維シート15を、水中コンクリート橋脚1の外周面にらせん状に巻き付けることにより、繊維補強層16が形成される。
【0020】
連続繊維シート15としては、例えばアラミド繊維、炭素繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ガラス繊維、およびパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等の高強度の連続繊維からなるシート(織布、不織布等)があげられ、中でもアラミド繊維の連続繊維シートが好適に使用される。
また連続繊維シートとしては、その厚みの基準となる1枚の目付重量が100〜2000g/m2程度のシートが好ましい。目付重量が100g/m2未満では、1枚の連続繊維シートによる補強効果が小さい。このため十分な補強効果を得るべく、連続繊維シートを重ねる枚数が多くなるため、その分だけ補強作業が煩雑になるおそれがある。また、目付重量が2000g/m2を超える場合は、1枚の連続繊維シートの重量が重すぎる。このため、通常は垂直面かそれに近い角度を持った傾斜面である水中コンクリート橋脚1の外周面に、連続繊維シート15を安定に巻き付けるのが容易でなくなるおそれがある。なお、実際に使用する目付重量は、この範囲から、定められた補強計算式で算出する。
【0021】
連続繊維シート15の幅は、特に限定されないものの、巻き付けの作業のしやすさ等を考慮すると、5〜100cm程度であるのが好ましい。
次に、形成した繊維補強層16の外周を、ダイバーらによる水中作業によって、図4に示すように、型枠を兼ねる外枠10で囲む。
外枠10は、図5に示す内径Dが、水中コンクリート橋脚1の外周に連続繊維シート15を巻き付けて形成した繊維補強層16の外径とほぼ一致するか、もしくは僅かに大きい筒状に形成される。また、外枠10は、軸方向に沿って筒を2つ以上に分割した形状を有する一組の本体17と、この一組の本体17同士の合わせ面に挟まれる、止水のためのゴムパッキング18とで形成される。
【0022】
それぞれの本体17の、筒の周方向の両端部の外側面には、ゴムパッキング18を挟む合わせ面を形成すべく、筒の軸方向に沿う一対のフランジ19が形成されている。フランジ19には、ゴムパッキング18を挟んだ状態で、図4に示すように固定用のボルト20とナット21とを用いて一組の本体17を互いに固定すべく、ボルト20が挿通される複数の通孔22が形成されている。ボルト20およびナット21は、防錆の意味でプラスチック製のものが好ましい。
【0023】
本体17の、筒の軸方向の両端部の外側面には、それぞれ軸方向と直交方向に沿う一対のフランジ23が形成されている。フランジ23は、水中コンクリート橋脚1の長さに合わせて、外枠10を、筒の軸方向に複数本、接続する接続部として機能する。フランジ23には、図示しない固定用のボルトとナットとを用いて2本の外枠10を互いに接続すべく、ボルトが挿通される複数の通孔24が配列されている。接続に際しては、外枠10内の水密を維持するため、フランジ23間に、ゴムパッキングを挟むようにする。
【0024】
本体17の外側面の、一対のフランジ19間には、筒の周方向に沿って等間隔で、筒の軸方向に沿う複数の補強板25が、それぞれが筒の外方へ向けて放射状に配置されている。また上記外側面の、一対のフランジ23間には、筒の軸方向に沿って等間隔で、両フランジ23と平行に、複数の補強板26が配置されている。さらに、本体17の、下端近傍と中間部の外側面には、それぞれ筒の内外を繋ぐ配管接続部27が設けられている。なお図では、配管接続部27を縦方向に2個所、記載しているが、外枠10内に硬化性樹脂を均等に注入することを考慮すると、配管接続部27は、筒の周方向にも2個所以上の複数個、できれば等間隔に配置するのが好ましい。特に、周方向と縦方向にそれぞれ2個所以上の複数個、配管接続部27を設ければ、外枠10内に硬化性樹脂を均等に、かつ確実に注入できてさらに好ましい。
【0025】
上記各部は、繊維強化プラスチックや、あるいは防錆処理鋼板等で形成される。
繊維補強層16の外周を、外枠10で囲むためには、分割した一組の本体17の間に、繊維補強層16を形成した水中コンクリート橋脚1を挟むとともに、フランジ19間にゴムパッキング18を挟んだ状態で、通孔22にボルト20を挿通してナット21で締め付ける。そして、組み立てた外枠10を止水リング11上に載置して、外枠10の底面を構成する。また、配管接続部27には、外枠10内を脱水すべく乾燥空気を送り込んだり、脱水後に硬化性樹脂を注入したりするための、図示しない配管を接続しておく。
【0026】
また、1つの外枠10の、軸方向の長さが、水中コンクリート橋脚1の、補強すべき領域の長さに満たないときは、先に設置した外枠10の上端に、同様の作業によって組み立てた別の外枠10を接続する作業を繰り返すことによって、2つ以上の外枠10を接続する。すなわち、前記のように、フランジ23間に、ゴムパッキングを挟んだ状態で、通孔24にボルトを挿通してナットで締め付ける作業を繰り返すことによって、2つ以上の外枠10を接続する。
【0027】
また、外枠10の上端部側にも止水リング11を設けて、外枠10の蓋体とするのが好ましい。その場合には、外枠10の上端部側にも配管接続部を設けるとともに、配管を接続して、乾燥空気や余剰の硬化性樹脂の排出口として利用する。排出口としての配管接続部は、硬化性樹脂の注入時に空気のスムースな排出を図るために、筒の周方向に複数個、できれば等間隔に配置するのが好ましい。
【0028】
そして、仮設足場6の上に設けたエアコンプレッサー等から、一番下の外枠10の、下端部側の配管接続部27に接続した配管を通して、外枠10内に乾燥空気を圧入して、繊維補強層16を脱水、乾燥させた後、同じ配管を通して、外枠10内に硬化性樹脂を注入して硬化させると、その硬化物によって、水中コンクリート橋脚1と、繊維補強層16と、外枠10とが接着されることで一体化して、水中コンクリート橋脚1を強固に補強し、かつ保護することができる。なお、乾燥空気を圧入して排水する際には、上端部側の配管接続部から吸気するのが好ましい。
【0029】
硬化性樹脂としては、補強効果を阻害する気泡を生じないために、揮発成分を含まない、無溶剤型の硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂、硬化性アクリル樹脂およびビニールエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂を用いるのが好ましい。中でも、完全脱水が困難な外枠10の内部において良好に硬化する湿潤硬化性に優れる上、接着性にも優れたエポキシ樹脂が、硬化性樹脂として最も好適に使用される。なお、硬化性樹脂としては、繊維補強層16内に、隙間を生じることなく十分に含浸させるために、長時間に渡って流動性を維持するべく、硬化時間の長いものを用いるのが好ましく、特に硬化時間が24時間以上の硬化性樹脂を用いるのが好ましい。
【0030】
硬化性樹脂の注入後、ダイバーらによる水中作業によって、配管接続部27から配管を外すとともに、配管接続部27を塞ぎ、次いで浚渫船等によって、露出させた水中コンクリート橋脚1の基部5を、止水リング11や、最下部の外枠10の下部とともに埋め戻し、さらに仮設足場6を撤去すれば、水中コンクリート橋脚1の補強が完了する。外枠10は、必要に応じて取り除いてもよいし、化粧外板を取り付けてもよい。
【0031】
上記補強方法によれば、いずれも水中作業によって、水中コンクリート橋脚1の外周に連続補強層16を形成し、外枠10で囲み、脱水後、硬化性樹脂を注入して硬化させることができる。したがって、大掛かりな締切工を施工せずに、短期間で、しかも低コストで、水中コンクリート橋脚1を補強することができる。また、この方法によれば、補強層全体の厚みを小さくして阻害率の問題を解消しつつ、なおかつ、水中コンクリート橋脚1を、より強固に補強し、保護することができる。しかも、塗料の塗り替えに伴うランニングコスト増の問題も解消することができる。また、型枠内に樹脂を注入するため、接着剤による河川汚染を極力防ぐことができ、環境上好ましい。
【実施例】
【0032】
実施例1
(水中コンクリート橋脚のモデルの作製)
型枠内にコンクリートを打設して、外径3m、高さ2mの円柱状で、かつ呼び強度が30N/mm2である、水中コンクリート橋脚1のモデルとしての、コンクリート柱を作製した。そして、このコンクリート柱に、円柱の軸方向に予備載荷を加えて、約0.2mmのクラックを発生させた状態で、水中に配置した。
(繊維補強層の形成)
パラ系アラミド繊維製の連続繊維シート〔ファイベックス社製のAK−40〕を、水中に配置したコンクリート柱の外周面と、オーバーラップなしで、らせん状に巻き付けて繊維補強層を形成した。
(外枠設置)
厚み2mmのガラス繊維強化ポリエステル樹脂板を組み立てて形成した外枠を用いて、形成した繊維補強層の外周を囲んだ。外枠の上端部と下端部は、水中用エポキシパテでシールした。また外枠の下端部側と上端部側には、それぞれ筒の周方向の3箇所に、配管接続部を等間隔に配置し、下端部側の配管接続部には配管を接続した。
(脱水および硬化性樹脂の注入)
下端部側の配管接続部に接続した配管を通して、乾燥空気を、外枠内に連続して吹き込み、それによって生じた余剰の空気を、外枠内から、上端部側の配管接続部を通して外部に放出する操作を約一日間、行って外枠内を脱水処理した。
【0033】
次いで、下端部側の配管接続部に接続した配管を通して、無溶剤型の液状エポキシ樹脂〔SRIハイブリッド(株)製の商品名グリップボッドGB30AQ〕を、上端部側の配管接続部から溢れ出すまで、外枠内に注入した。注入量は、繊維補強層への含浸量で表して約2kg/m2であった。
(耐震性試験)
エポキシ樹脂を十分に硬化させた後、コンクリート柱の軸方向に10tの圧力を加えた状態で、応答曲線を計測しながら、コンクリート柱の上端に、30tの加振機を用いて、阪神淡路大震災の波形の振動を加えて耐震性を評価した。
【0034】
そうしたところ、実施例のコンクリート柱は、応答曲線の変化が小さく、耐震性を有することが確認された。
比較のため、同寸法、同強度に形成し、円柱の軸方向に予備載荷を加えて約0.2mmのクラックを発生させた後、上記の補強をしなかったコンクリート柱について、同様に耐震性を評価したところ、試験中に倒壊してしまった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の補強方法の一実施例のうち、第1工程として、水中コンクリート橋脚の基部を浚渫して仮設足場を設置した状態を示す、鉛直方向の断面図である。
【図2】図1の状態の、水平方向の断面図である。
【図3】第2工程として、水中コンクリート橋脚の外周に連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成する作業中の状態を示す、鉛直方向の拡大断面図である。
【図4】第3工程として、形成した繊維補強層の外周を、型枠を兼ねる外枠で囲んだ状態を示す、鉛直方向の拡大断面図である。
【図5】図4で使用する外枠の斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 水中コンクリート橋脚
10 外枠
15 連続繊維シート
16 繊維補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中コンクリート橋脚の外周に、水中作業により、連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成し、硬化性樹脂で固定することを特徴とする水中コンクリート橋脚の補強方法。
【請求項2】
水中コンクリート橋脚の外周に、水中作業により、連続繊維シートを巻き付けて繊維補強層を形成し、次いで、形成した繊維補強層の外周を、型枠を兼ねる外枠で囲み、脱水後、硬化性樹脂を注入して含浸、硬化させることを特徴とする水中コンクリート橋脚の補強方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−9336(P2006−9336A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186054(P2004−186054)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【出願人】(504244140)東洋技研コンサルタント株式会社 (1)
【出願人】(390002185)大成ロテック株式会社 (90)
【出願人】(595132441)▲蔦▼井株式会社 (10)
【出願人】(504243729)弘栄貿易株式会社 (1)
【Fターム(参考)】