説明

水中油型エマルション及びその製造方法

【課題】セラミド類を結晶化させることなく配合し、かつ使用感及び保存安定性に優れた水中油型エマルションを提供すること、及びセラミド類を結晶化させることなく、安定に配合し得る水中油型エマルションの製造方法を提供すること。
【解決手段】次の(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)成分:(A)総炭素数10〜30のカルボン酸及び/又はその塩、(B)塩基、(C)セラミド類、(D)水、(E)界面活性剤(但し、(A)成分に由来する界面活性剤を除く)を配合し、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が0〜2未満である水中油型エマルションである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミド類を含有し、界面活性剤の配合量が少なく、又は界面活性剤を使用しなくても保存安定性及び使用感に優れ、皮膚化粧料などの化粧料に好適な水中油型エマルション及び該水中油型エマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層に存在する角質層は、外部からの物質の進入・皮膚内部からの水分の蒸散を抑制すると同時に、自身が水分を保持することにより皮膚の柔軟性やなめらかな外観を保つ機能を持っている。角質層を構成する角質細胞の間隙には、角質細胞間脂質(以下、「角層ICL」と記載する。)と呼ばれる脂質が角質細胞のすきまを埋めるように存在している。
【0003】
この角層ICLの脂質組成の約50%はセラミドで、その他コレステロール、コレステロールエステル、脂肪酸等からなる。一般に角層ICL、特にセラミドが減少すると、荒れ肌、乾燥肌、老化肌等の好ましくない肌状態を引き起こすことが知られており、角質層機能の改善成分としてセラミドを外用で補うことにより、機能が低下した角質層状態を改善することができる(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、セラミドは、結晶性が高く、また融点が高いため、製剤中で安定化が難しいという問題がある。そこで、皮膚外用剤に安定に配合するためには、各種界面活性剤や多種、多量の油剤等との併用が避けられず、その結果、使用感の低下、製剤の性状が限定されることは避けられなかった。
【0005】
セラミド類のような融点が高い両親媒性固体脂を、水中油型(O/W)エマルション中に配合する場合、経時的にエマルションの分離、ゲル化、固体脂の結晶化などが起こり、安定に配合することが難しい。これを解決するために界面活性剤を用いた乳化技術が検討されているが、セラミドに対して多量の乳化剤の使用が必要であり、使用感がべたつく課題があった(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003-12486号公報
【特許文献2】特開平7-223934号公報
【非特許文献1】J. Invest. Dermatol., 84:282(1985)
【非特許文献2】J. Invest. Dermatol., 87:758(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、界面活性剤の含有量が少ないにもかかわらずセラミド類を結晶化することなく配合することができ、かつ保存安定性に優れた水中油型エマルションを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、セラミド類を含有するエマルションの製造過程において、ラメラ相を経由して得られる水中油型エマルションが、界面活性剤を使用することなく、又は界面活性剤の配合量が少量であっても、良好な乳化状態を保持し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、(A)総炭素数10〜30のカルボン酸及び/又はその塩、(B)塩基、(C)セラミド類、(D)水、及び(E)界面活性剤を配合し、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が2未満である水中油型エマルションを提供するものであり、また、上記(A)、(B)、(C)成分、必要に応じて添加される(E)成分、及び(D)成分の一部を混合し、ラメラ相を形成した後、残りの(D)成分及び(E)成分を加えることを特徴とする水中油型エマルションの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水中油型エマルションは、界面活性剤を使用することなく、又は界面活性剤の配合量が少量であっても、セラミド類を結晶化することなく配合することができ、保存安定性が良好である。また、これを化粧料として用いることにより、荒れ肌改善効果及び皮膚バリア性に優れ、さらにべたつき感が少ない使用感を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の(A)成分は、総炭素数10〜30のカルボン酸及び/又はその塩であり、好ましくはモノカルボン酸、ジカルボン酸又はこれらの混合物である。
具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ペンタデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸等が挙げられ、その他N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩等が好適に挙げられる。これらの中で、総炭素数14〜24のカルボン酸が好ましく、特に炭素数14〜22の直鎖脂肪酸が好ましい。より具体的な特に好ましい例としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。また(A)成分のカルボン酸は、単独で、又は二種以上を混合して用いることができる。
本発明の水中油型エマルション中における(A)成分の配合量は、0.0001〜10質量%の範囲が好ましく、さらには0.01〜5質量%の範囲がより好ましい。ここで(A)成分の質量は酸として計算し、以下同様である。
【0011】
次に、本発明の(B)成分は塩基である。塩基としては特に制限はなく、有機塩基であっても無機塩基であってもよいが、分子量30〜200の有機塩基がより好ましく、特に、塩基性アミノ酸類、アルカノールアミン類が好ましい。
塩基性アミノ酸類の具体例としては、L−アルギニン、リジン、ヒスチジン等が挙げられ、アルカノールアミン類の具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール、アミノエチルプロパンジオール、トリスヒドロキシメチルアミノエタン等が挙げられる。また、無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらのうち特に、L−アルギニン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオールが好ましい。これらは、単独、又は、2種以上を混合して用いることができる。
本発明の水中油型エマルション中における(B)成分の配合量は、0.00001〜5質量%の範囲が好ましく、さらには0.01〜3質量%の範囲がより好ましい。
また、(A)成分と(B)成分の配合量の比率((A)成分/(B)成分、モル比)は、ラメラ相を形成させるために、0.3〜5の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜2、さらには、ほぼ等モルであることが好ましい。
【0012】
次に、本発明の(C)成分はセラミド類であり、効能成分である。セラミド類は天然型、擬似型、及びこれらの混合物であってもよい。
天然型セラミド類は、下記一般式(I)で表される。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、R1はヒドロキシル基が置換していてもよい炭素数7〜19の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し;Zはメチレン基又はメチン基を示し;X1、X2、及びX3は各々独立して水素原子、ヒドロキシル基又はアセトキシ基を示し;X4は水素原子を示すが、隣接する酸素原子と一緒になってオキソ基を形成し(但し、Zがメチン基の時、X1とX2のいずれか一方が水素原子であり他方は存在しない。X4がオキソ基を形成する時は、X3は存在しない。);R2はヒドロキシメチル基又はアセトキシメチル基を示し;R3は水素原子を示すか、炭素数1〜4のアルキル基を示し;R4はヒドロキシル基が置換していてもよい炭素数5〜30の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基であるか、又は該アルキル基のω末端に、ヒドロキシル基が置換していてもよい炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の脂肪酸がエステル結合したものを示し、破線部は不飽和結合であってもよいことを示す。
【0015】
好ましくは、R1が炭素数7〜19の直鎖アルキル基、さらに好ましくは炭素数13〜15の直鎖アルキル基;R4が炭素数9〜27のヒドロキシ基が置換していてもよい直鎖アルキル基又はリノール酸がエステル結合した炭素数9〜27の直鎖アルキル基である化合物が挙げられる。また、X4は水素原子を示すか、酸素原子とともにオキソ基を形成するのが好ましい。特に、R4としては、トリコシル、1−ヒドロキシペンタデシル、1−ヒドロキシトリコシル、ヘプタデシル、1−ヒドロキシウンデシル、ω位にリノール酸がエステル結合したノナコシル基が好ましい。
【0016】
天然型セラミド類の具体的な例示として、スフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン又はスフィンガジエニンがアミド化されたセラミドType1〜7(例えば、J. Lipid Res., 24:759(1983)の図2、及びJ. Lipid.Res.,35:2069(1994)の図4記載のブタ及びひとのセラミド類)が挙げられる。さらに、これらのN−アルキル体(例えばN−メチル体)も含まれる。
【0017】
天然型セラミド類の市販のものとしては、Ceramide I、Ceramide III、Ceramide IIIA、Ceramide IIIB、Ceramide IIIC、Ceramide VI(以上、コスモファーム社製)、Ceramide TIC-001(高砂香料(株)製)、CERAMIDE II(Quest International社製)、DS-Ceramide VI、DS-CLA-Phytoceramide、C6-Phytoceramide、DS-ceramide Y3S(DOOSAN社製)、CERAMIDE2(セダーマ社製)が挙げられる。
【0018】
次に、擬似型セラミド類は、下記一般式(II)で表される。
【0019】
【化2】

【0020】
式中、R5は、ヒドロキシル基が置換していてもよい炭素数10〜22の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基を示し;X4は水素原子、アセチル基又はグリセリル基を示し;R6はヒドロキシル基又はアミノ基が置換していてもよい炭素数5〜22の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基であるか、又は該炭化水素基のω末端に、ヒドロキシル基が置換していてもよい炭素数8〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の脂肪酸がエステル結合したものを示し;R7は水素原子を示すか、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシ基又はアセトキシ基が置換していてもよい総炭素数1〜8のアルキル基を示す。R6としては、特にノニル、トリデシル、ペンタデシル、ω位にリノール酸がエステル結合したウンデシル基、ω位にリノール酸がエステル結合したペンタデシル基、ω位に、12−ヒドロキシステアリン酸がエステル結合したペンタデシル基、ω位にメチル分岐イソステアリン酸がアミド結合したウンデシル基が好ましい。R7のヒドロキシアルコキシ基又はアルコキシ基としては炭素数1〜8のものが好ましい。
【0021】
一般式(II)としては、R5がヘキサデシル基、X4が水素原子、R6がペンタデシル基、R7がヒドロキシエチル基のもの(N-ヘキサデシロキシヒドロキシプロピル)-N-ヒドロキシエチルヘキサデカナミド);R5がヘキサデシル基、X4が水素原子、R6がノニル基、R7がヒドロキシエチル基のもの(N-ヘキサデシロキシヒドロキシプロピル-N-ヒドロキシエチルデカナミド);又はR5がヘキサデシル基、X4がグリセリル基、R6がトリデシル基、R7が3−メトキシプロピル基(N−[2-(2,3-ジヒドロキシプロピルオキシ)-3-ヘキサデシルオキシプロピル]-N-3-メトキシプロピルテトラデカンアミド)の擬似型セラミド類が好ましく、一般式(II)のR5がヘキサデシル基、X4が水素原子、R6がペンタデシル基、R7がヒドロキシエチル基のもの(N-3-ヘキサデシロキシ-2-ヒドロキシプロピル-N-ヒドロキシエチルヘキサデカナミド)が特に好ましい。
また、成分(C)は2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の水中油型エマルション中における(C)成分の配合量は、0.0001〜15質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%の範囲である。
【0023】
本発明の(D)成分は水である。本発明において、(D)成分のエマルション中における配合量は、20〜99.9979質量%の範囲が好ましく、さらには、50〜99.997質量%が好ましく、特に60〜99質量%が好ましい。本発明の水中油型エマルション中の(D)成分の配合量が20質量%以上であるとべたつき感がなく、さっぱりした使用感が得られる。
【0024】
次に、本発明の(E)成分は界面活性剤(但し、(A)成分に由来する界面活性剤を除く)であり、必要に応じ配合される。界面活性剤としては、通常化粧料に用いられるものであれば特に限定されず、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、アルキルグリセリンエーテル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンコレステリルエーテル類、アルキルポリグルコシド類、ショ糖脂肪酸エステル類、アミンオキシド類、等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤の例としては、アルキルサルフェート類、アルキルアミドエーテルサルフェート類、アルキルスルホナート類、α―オレフィンスルホン酸類、アルキルアミドスルホナート類、アルキルアリールスルホナート類、アルキルホスフェート類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート類、アシルサルコシナート類、及びアシルタウリン塩類、等が挙げられる。
両性界面活性剤の例としては、アルキル酢酸ベタイン類、アルキルイミダゾリニウムベタイン類、アルキルアミドベタイン類、アルキルスルホベタイン類、等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシアルキレン化されていてもよい、第1級、第2級又は第3級脂肪族アミンの塩類、及び、第4級アンモニウム塩類、等が挙げられる。
これらの界面活性剤の中でも、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が好ましく、さらに好ましい例としては、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、及びポリグリセリン脂肪酸エステル類;アニオン性界面活性剤として、アルキルホスフェート類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート類、及びアシルタウリン塩類が挙げられる。また、(E)成分は、(A)成分として用いられるカルボン酸又はその塩を除いたものである。
【0025】
本発明において、(E)成分は、(C)成分や、後述する油性成分等の分散性を高めるため効果的であるが、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が0〜2未満であることを必須とする。該配合比率(質量比)が2未満であると、べたつき感がなく好ましい。以上の点から、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)は1以下がより好ましく、(E)成分の界面活性剤を配合しない場合も好ましい態様である。
【0026】
本発明の水中油型エマルションには、その他の成分として、多価アルコールを配合することができる。多価アルコールとしては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンメチルグルコシド等が挙げられる。これらは、保湿効果の向上、ラメラ相を形成する際の補助剤として0〜30質量%、好ましくは、1〜20質量%配合することが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の水中油型エマルションには、油性成分を配合することもできる。油性成分としては、一般に化粧料に使用される液状、半固体及び固体状の、合成及び天然由来の油性成分、例えば流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等の炭化水素油;イソノナン酸イソトリデシル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、モノイソステアリン酸モノミリスチン酸グリセリル等のエステル油;オリーブ油、大豆油等の植物油;ミツロウ、ラノリン等の動物性油;セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール;揮発性及び不揮発性のメチルポリシロキサン、メチルシクロポリシロキサン、変性シリコーン等のシリコーン油;パーフルオロポリエーテル等のフッ素油等を含むことができる。これらは、感触の向上の点から0〜30質量%、好ましくは1〜20質量%配合することが好ましい。
【0028】
上述の油性成分は水に分散した乳化組成物として、本発明の水中油型エマルションに添加することが好ましい。油性成分の一部、又は全部を乳化する乳化剤としては高分子乳化剤が好ましい。
高分子乳化剤としては、アクリル酸アルキル共重合体、アルキル変性ヒドロキシエチルセルロース、特開平11−12119号公報に記載の疎水基と親水基を有する多糖誘導体等が挙げられる。また、市販品としては以下のものが挙げられる。アクリル酸アルキル共重合体としてはアキュリン33等(ISP社);アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(架橋型を含む)としては、ペムレンTR−1、ペムレンTR−2、カーボポール1382、カーボポールETD2020等(以上、Noveon INC.)、アクペックHV−501ER(住友精化社);(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体の誘導体又はその塩として、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸アルキル共重合体にポリオキシエチレンアルキルエーテルがエステル結合したアクリル酸・メタクリル酸・アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル・メタクリル酸のポリオキシエチレンアルキルエーテルエステル共重合体(例えば、アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキルポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル共重合体(アキュリン22(ISP社))等、アルキル変性ヒドロキシエチルセルロースとして、Natrosol Plus 330CS, Polysurf 67(以上、Aqualon Group、Hercules Inc.に所属)等が挙げられる。
なお、本発明において、高分子乳化剤の含有量は水中油型エマルション全量を基準として0〜30質量%、好ましくは、0.05〜5質量%、の範囲で添加されることが好ましい。
【0029】
また、本発明の水中油型エマルションを化粧料として使用する場合には、上記(A)〜(D)成分又は(A)〜(E)成分に加えて、通常化粧料に添加される種々の成分を配合することができる。
例えば、薬効成分、抗酸化剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤、香料等などを配合することができる。
本発明の水中油型エマルションは、皮膚化粧料として使用することが好ましく、化粧水、乳液、保湿美容液、クリーム等として好適に使用し得る。
【0030】
次に、上記(A)〜(D)成分及び必要に応じて更に(E)成分を配合し、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が0〜2未満である水中油型エマルションの製造方法について詳細に説明する。
本発明の水中油型エマルションの製造方法は、製造過程で(A)、(B)、(C)成分、必要に応じて添加される(E)成分、及び(D)成分の一部成分を混合し、ラメラ相を形成した後、残りの(D)成分及び必要に応じて(E)成分を加えることを特徴とする。
本発明においては、主に(A)成分、(B)成分、(D)成分でラメラ相を形成し、該相の(A)成分の分子間に(C)成分が並んだ状態をとると考えられる。従って、(C)成分が含有されてもラメラ相が維持され、(E)界面活性剤が少量配合、又は、配合しなくても、安定に(C)セラミド類を配合することができる。
より具体的には、(A)、(B)、(C)、及び(D)成分の一部、又は(A)、(B)、(C)成分、(D)成分の一部成分、及び必要に応じて添加される(E)成分によって、ラメラ相が形成される。(A)〜(D)成分を混合する順序は、ラメラ相を形成する組成であれば、特に限定されず(A)、(B)及び(D)成分の一部で形成したラメラ相に(C)成分を添加した後、(D)成分の残量を添加してもよいし、(A)及び(C)成分に、(B)成分を溶解した(D)成分を添加してもよい。また、(A)、(B)及び(C)成分に(D)成分を添加してもよい。より好ましくは、(A)、(B)及び(D)成分の一部で形成したラメラ相に、(C)成分を添加し、その後(D)成分の残量を添加する方法が好ましい。なお、(D)成分の残量を加える際に、(D)成分中に上記高分子乳化剤を用いて油性成分を乳化させ、該乳化物を本発明の水中油型エマルションに添加することは好ましい態様である。また、必要に応じて、(A)〜(E)成分及び該乳化物は50〜90℃まで加温し、混合することが出来る。
(A)、(B)及び(D)成分の質量比に関しては、((A)成分+(B)成分)/最初に一部混合する(D)成分の質量比が0.005〜32の範囲が好適であり、さらには0.005〜2.3の範囲が好ましく、0.01〜1の範囲が特に好ましい。
また、ここでラメラ相を形成するに際しては、(A)成分、(B)成分及び(D)成分のラメラ相中の含有量は、(A)成分0.3〜70質量%、(B)成分0.2〜30質量%、及び(D)成分3〜99.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0031】
(A)、(B)及び(C)成分の質量比に関しては、(C)成分/{(A)成分+(B)成分}の配合比率(質量比)が0.001〜10であることが好ましく、さらに0.1〜4の範囲であることが好ましい。
なお、ラメラ構造は偏光顕微鏡による観察、又は小角X線散乱のいずれかの測定により確認される。
【0032】
上記のようにして得た(A)〜(D)成分、及び必要に応じて添加された(E)成分からなるラメラ相に、その後さらに(D)成分が添加され、転相されて、水中油型エマルションが得られる。該方法により得られた水中油型エマルションは、界面活性剤を使用することなく、又は界面活性剤の配合量が少ないにもかかわらず、セラミド類を結晶化させることなく、安定に配合することができ、界面活性剤の配合量が少ないため、化粧料として使用した場合には、使用感にも優れる。
【実施例】
【0033】
評価方法
(1)ラメラ相経由の有無
水中油型エマルションの製造過程で、ラメラ相を経由しているか否か、偏光顕微鏡観察により行った。
○:ラメラ相を形成していた
×:ラメラ相を形成していなかった
(2)使用感
専門評価者5名が、実施例及び比較例で製造した化粧料を洗顔後の顔に塗布して、以下の4段階で判定し、その平均点で評価した。
4:べたつかない
3:あまりべたつかない
2:少しべたつく
1:べたつく
(3)保存安定性
実施例及び比較例で製造した化粧料を、室温で2週間放置し、結晶の析出の有無を光学顕微鏡により観察し、以下の基準で評価した。
○:結晶の析出無し
×:結晶の析出有り
【0034】
実施例1
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(C)成分、ポリオール類、(E)成分のPOE(60)硬化ヒマシ油、及び、油性成分を85℃で加熱溶解し、これに85℃で(B)成分を溶解した(D)成分10質量%(水中油型エマルション全量基準)を添加し、攪拌・混合し、ラメラ相を製造した。ラメラ相の形成は偏光顕微鏡により確認した。
次いで、該ラメラ相に、85℃で(E)成分のN−メチルラウロイルタウリンナトリウム、その他成分を溶解した残りの(D)成分を添加して、転相し、その後、25℃まで冷却して、水中油型エマルションを得た。なお、第1表で用いる数字は質量%表示である。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0035】
実施例2
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(B)成分、ポリオール類、及び(D)成分30質量%(水中油型エマルション全量基準)を85℃で加熱攪拌・混合し、ラメラ相を形成させておき、該ラメラ相に、(C)成分、及び油性成分を85℃で加熱溶解して加え、攪拌・混合してラメラ相を製造した。ラメラ相の形成は偏光顕微鏡により確認した。これに、85℃でその他成分を残りの(D)成分に加熱溶解した水相を添加して、転相し、25℃まで冷却し水中油型エマルションを得た。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0036】
実施例3
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(C)成分、ポリオール類、及び、油性成分を85℃で加熱溶解し、これに85℃で(B)成分を溶解した(D)成分30質量%(水中油型エマルション全量基準)を添加し、攪拌・混合し、ラメラ相を製造した。ラメラ相の形成は偏光顕微鏡により確認した。
次いで、該ラメラ相に、85℃でその他成分を溶解した残りの(D)成分を添加して、転相し、その後、25℃まで冷却して、水中油型エマルションを得た。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0037】
実施例4〜6
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(B)成分、ポリオール類、(D)成分30質量%(水中油型エマルション全量基準)、及び、(E)成分のPOE(60)硬化ヒマシ油を85℃で加熱し、攪拌・混合し、ラメラ相を形成させておき、該ラメラ相に、(C)成分及び油性成分を85℃で加熱溶解して加え、攪拌・混合してラメラ相を製造した。ラメラ相の形成は偏光顕微鏡により確認した。これに、85℃で(E)成分のN−メチルラウロイルタウリンナトリウム、その他成分を残りの(D)成分に加熱溶解した水相を添加して、転相し、25℃まで冷却し水中油型エマルションを得た。
【0038】
実施例7
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(C)成分、ポリオール類、及び、油性成分を85℃で加熱溶解し、これに85℃で(B)成分を溶解した(D)成分10質量%(水中油型エマルション全量基準)を添加し、攪拌・混合し、ラメラ相を製造した。ラメラ相の形成は偏光顕微鏡により確認した。
次いで、該ラメラ相に、85℃でその他成分を溶解した残りの(D)成分を添加して、転相し、その後、25℃まで冷却して、水中油型エマルションを得た。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0039】
実施例8
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(C)成分、油性成分中のコレステロール及びイソステアリン酸コレステリル、ポリオール類を90℃で加熱溶解し、これに90℃で(B)成分を溶解した(D)成分21.5質量%(水中油型エマルション全量基準)をゆっくりと添加し、5分間攪拌し、その後ホモミキサーで攪拌した(回転数7000rpm)。その後25℃まで冷却してセラミド乳化物を得た。
次いで、90℃でアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、その他成分のうちのカルボキシビニルポリマー及びパラオキシ安息香酸メチルを溶解した(D)成分の一部と、90℃でその他成分中の水酸化ナトリウムを溶解した(D)成分の残部を混合し、同温度で攪拌後、油性成分中のスクワラン及びジメチルポリシロキサンを加え、ホモミキサーで攪拌した(回転数7000rpm)。その後25℃まで冷却して乳化物を得た。該乳化物を上記セラミド乳化物に加えて、本発明の水中油型エマルションを得た。評価結果を第1表に示す。
【0040】
比較例1
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(C)成分、(E)成分のPOE(60)硬化ヒマシ油、ポリオール類、及び、油性成分を85℃で加熱溶解し、これに85℃で(E)成分のN−メチルラウロイルタウリンナトリウム、その他成分を溶解した(D)成分を添加し、攪拌・混合し、その後、25℃まで冷却して、水中油型エマルションを得た。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0041】
比較例2
第1表に示す成分のうち、(A)成分、(C)成分、ポリオール類、及び、油性成分を85℃で加熱溶解し、これに85℃で(E)成分のN−メチルラウロイルタウリンナトリウム、その他成分を溶解した(D)成分を添加し、攪拌・混合し、その後、25℃まで冷却して、水中油型エマルションを得た。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0042】
比較例3及び比較例4
第1表に示す成分のうち、(C)成分、(E)成分のPOE(60)硬化ヒマシ油、ポリオール類、及び、油性成分を85℃で加熱溶解し、これに85℃で(E)成分のN−メチルラウロイルタウリンナトリウム、その他成分を溶解した(D)成分を添加し、攪拌・混合し、その後、25℃まで冷却して、水中油型エマルションを得た。上記方法で評価した結果を第1表に示す。
【0043】
比較例1、2では(B)成分を用いていないため、また、比較例3では(A)成分及び(B)成分を用いていないため、製造過程でラメラ相を経由しなかった。比較例4はラメラ相を経由したが、界面活性剤の配合量が多いため、使用感にべたつきが確認された。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の水中油型エマルションは、界面活性剤を使用することなく、又は界面活性剤の配合量が少ないにもかかわらず、セラミド類を結晶化させずに配合することができ、かつ保存安定性に優れるものである。セラミド類が十分量安定に配合されているため、化粧料として用いた場合に、皮膚のバリア機能を向上させ、優れた皮膚保湿効果及び保護効果が得られる。また、界面活性剤の配合量が抑制されているため使用感に優れる。従って、化粧水、乳液、保湿美容液、保湿クリーム等として好適に使用し得る。
また、本発明の水中油型エマルションの製造方法によれば、界面活性剤を使用しなくても、又は極く少量の界面活性剤を使用するのみでセラミド類を結晶化させずに配合することができ、しかも感触の優れた水中油型エマルションを製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)成分:
(A)総炭素数10〜30のカルボン酸及び/又はその塩、
(B)塩基、
(C)セラミド類、
(D)水、
(E)界面活性剤(但し、(A)成分に由来する界面活性剤を除く)、
を配合し、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が0〜2未満である水中油型エマルション。
【請求項2】
(A)成分が総炭素数14〜24のモノカルボン酸及び/又はその塩である請求項1に記載の水中油型エマルション。
【請求項3】
(B)塩基が分子量30〜200の有機塩基である請求項1又は2に記載の水中油型エマルション。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の水中油型エマルションを含有する化粧料。
【請求項5】
(A)総炭素数10〜30のカルボン酸及び/又はその塩、(B)塩基、(C)セラミド類、(D)水、及び必要に応じ(E)界面活性剤を配合し、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が2未満であるエマルションの製造方法であって、(A)、(B)、(C)成分、必要に応じて添加される(E)成分、及び(D)成分の一部を混合し、ラメラ相を形成した後、残りの(D)成分及び必要に応じて(E)成分を加えることを特徴とする水中油型エマルションの製造方法。
【請求項6】
下記(1)及び(2)の質量比で混合してラメラ相を形成する請求項5に記載の水中油型エマルションの製造方法((A)成分の質量は酸として換算する)。
(1){(A)成分+(B)成分}/最初に一部混合する(D)成分の配合比率(質量比)が0.005〜32である。
(2)(C)成分/{(A)成分+(B)成分}の配合比率(質量比)が0.001〜10である。
【請求項7】
(A)総炭素数10〜30のカルボン酸及び/又はその塩、(B)塩基、(C)セラミド類、(D)水、及び必要に応じ(E)界面活性剤を配合し、(E)成分/(C)成分の配合比率(質量比)が2未満であるエマルションの製造方法であって、(A)、(B)及び(D)成分を下記(1)の質量比で混合してラメラ相を形成し、次いで該ラメラ相に、(C)成分を下記(2)の質量比で添加してラメラ相を維持し、その後さらに残りの(D)成分及び必要に応じ(E)成分を加える水中油型エマルションの製造方法((A)成分の質量は酸として換算する)。
(1){(A)成分+(B)成分}/(D)成分の配合比率(質量比)が0.005〜32である。
(2)(C)成分/{(A)成分+(B)成分}の配合比率(質量比)が0.001〜10である。


【公開番号】特開2006−312622(P2006−312622A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103265(P2006−103265)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】