説明

水中溶接装置

【課題】作業用開口部に溜まった水を完全に排出することができて、床面を含む任意の作業面の溶接が可能な水中溶接装置を提供する。
【解決手段】水中溶接装置に、作業用開口部11及び排水口12が開設されたチャンバー1と、チャンバー1内に収納された溶接トーチ2と、チャンバーを作業面に固定する吸着パッド8と、チャンバー1内に外部からガスを供給するガス供給ライン15a〜15hを備え、チャンバー1の外面の作業用開口部11を取り囲む位置に透水性及び弾力性を有するシールパッキン13を設ける。吸着パッド8によりチャンバー1を作業面に固定すると共にガス供給ライン15a〜15cを通してチャンバー1内に所要のガスを導入し、チャンバー1内の水を排水口12及びシールパッキン13を通して外部に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中溶接装置に係り、特に、原子力発電所及び使用済燃料貯蔵施設に設けられた金属板内張り式のプール、容器、機器等の保全箇所を補修溶接するに好適な水中溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば使用済燃料再処理施設には、使用済燃料を貯蔵するための金属板内張り式プールが設けられており、当該プールの内周面に張られた金属板(ライニング)の補修には、プール内の使用済燃料及び水を除くことなく、プール外からの遠隔操作で必要箇所を溶接により補修する水中溶接装置を用いる技術が従来知られている。
【0003】
この種の水中溶接装置としては、作業用開口部及び排水口が開設されたチャンバー(乾式ボックス)と、チャンバー内に収納された溶接トーチと、チャンバーを所要の作業面に固定する吸着パッド(吸盤)と、チャンバー内に外部からガスを供給するガス供給ラインと、チャンバー内に外部から電力及び制御信号を供給するケーブルと、チャンバーの外面の作業用開口部を取り囲む位置に設けられた非透水性のパッキンとを備え、パッキンを介してチャンバーを所要の作業面に固定し、かつガス供給ラインからチャンバー内にシールドガスや乾燥空気等の所要のガスを導入したとき、排水口を通してチャンバー内の水を外部に排出するもの(例えば、特許文献1参照。)が知られている。
【0004】
また、この種の水中溶接装置において、チャンバー内に被溶接物取付装置を更に備えたもの(例えば、特許文献2参照。)、及びチャンバー内に溶接トーチをX,Y,Z軸方向に移動させるための溶接トーチ移動機構を更に備えたもの(例えば、特許文献3参照。)も知られている。
【特許文献1】特開2004−154838号公報
【特許文献2】特開平11−138259号公報
【特許文献3】特開昭60−196264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非透水性のパッキンを備え、当該パッキンにてチャンバーの作業用開口部をシールした状態で、排水口を通してチャンバー内の水を外部に排出するタイプの水中溶接装置は、作業用開口部に溜まった水を排出することができないので、特許文献1〜3の例から明らかなように、作業用開口部の開設位置がチャンバーの側面にのみ制限され、金属板内張り式プールの床面などを溶接可能な水中溶接装置を提供することが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたもので、その課題とするところは、作業用開口部に溜まった水を完全に排出することができて、床面を含む任意の作業面の溶接が可能な水中溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、第1に、作業用開口部及び排水口が開設されたチャンバーと、当該チャンバー内に収納された溶接トーチと、前記チャンバーを水中の作業面に固定する吸着パッドと、前記チャンバー内に外部からガスを供給するガス供給ラインとを備えた水中溶接装置において、前記チャンバーの外面の前記作業用開口部を取り囲む位置に透水性及び弾力性を有するシールパッキンを設け、前記吸着パッドにより前記チャンバーを前記作業面に固定し、かつ前記ガス供給ラインから前記チャンバー内に所要のガスを導入したとき、前記チャンバー内に侵入した水を前記排水口及び前記シールパッキンを通して外部に排出するという構成にした。
【0008】
かかる構成によると、所要の作業面に設置されたチャンバー内に所要のガスを導入し、チャンバー内の圧力を外部の圧力より高くすることにより、チャンバー内に溜まった水を排水口及びシールパッキンが備えられた作業用開口部から外部に排出できるので、作業用開口部をチャンバーの底面に開設することが可能になり、床面を含む任意の作業面の溶接が可能な水中溶接装置とすることができる。
【0009】
本発明は第2に、前記第1の構成の水中溶接装置において、前記排水口を前記チャンバーの底板の四隅部分に開口するという構成にした。
【0010】
かかる構成によると、勾配を有する作業面にチャンバーを設置した場合にもチャンバー内に溜まった水を外部に排出しやすくなるので、水中溶接装置の汎用性をより高めることができる。
【0011】
本発明は第3に、前記第1の構成の水中溶接装置において、前記チャンバーに複数個の前記排水口を開設すると共に、これら複数個の排水口のうちの1個又は複数個に遮蔽プラグを着脱可能に取り付けるという構成にした。
【0012】
かかる構成によると、水中溶接装置の使用態様から見て不必要な排水口を適宜遮蔽プラグにて塞ぐことができるので、全ての排水口を開放状態にした場合よりもチャンバー内へのガスの導入量を減少することができ、溶接作業を低コストに行うことができる。
【0013】
本発明は第4に、前記第1の構成の水中溶接装置において、前記チャンバーのシールパッキン取付面に前記シールパッキンの厚さよりも薄いプレートを設け、前記吸着パッドにより前記チャンバーを前記作業面に固定したとき、前記プレートが前記作業面に当接し、前記シールパッキンの圧縮量を通水が可能な範囲に制限するという構成にした。
【0014】
かかる構成によると、吸着パッドを用いてチャンバーを所定の作業面に設置したときにもシールパッキンの通水性が確保されるので、チャンバー内に溜まった水の排出を確実に行うことができる。また、所要の厚みのプレートをチャンバーの外面に固着するだけでよいので、容易かつ安価に実施できる。
【0015】
本発明は第5に、前記第1の構成の水中溶接装置において、前記溶接トーチを互いに直交する3方向に移動可能な溶接トーチ移動機構を前記チャンバー内にさらに備え、前記溶接トーチ移動機構は、所要の溶接方向に沿って前記溶接トーチを移動すると共に、前記溶接トーチを溶接面に対して垂直方向に移動して、溶接トーチと溶接部との間に発生するアークのアーク長を一定に制御するという構成にした。
【0016】
かかる構成によると、溶接部に対する溶接トーチの姿勢を3次元的に変更できるので、溶接部の形状に関わりなく必要な溶接作業を迅速に実施できると共に、溶接中アークを安定に保持できるので、高品質の溶接を実施できる。
【0017】
本発明は第6に、前記第1の構成の水中溶接装置において、前記溶接トーチは、TIG溶接トーチ、MIG溶接トーチ、プラズマ溶接トーチ、レーザ溶接トーチのいずれかであるという構成にした。
【0018】
かかる構成によると、実施しようとする溶接作業の内容に応じて適宜の溶接トーチを使用することができるので、水中溶接装置を広範な用途に適用することができる。
【0019】
本発明は第7に、前記第1の構成の水中溶接装置において、前記チャンバー内に被溶接物取付装置を更に備え、当該被溶接物取付装置は、被溶接物を把持する被溶接物把持部と、当該被溶接物把持部にて把持された被溶接物を所要の補修部位に押し付ける被溶接物押付部とを有し、これら被溶接物把持部及び被溶接物押付部は、前記ガス供給ラインを通して外部から供給される空気圧にて駆動されるという構成にした。
【0020】
かかる構成によると、被溶接物取付装置により被溶接物を把持して補修箇所に押し付けることができるので、補修箇所に当て板を当ててその周囲を溶接する方式の補修作業に適用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の水中溶接装置は、チャンバーの外面の作業用開口部を取り囲む位置に透水性及び弾力性を有するシールパッキンを設け、吸着パッドによりチャンバーを作業面に固定し、かつガス供給ラインからチャンバー内に所要のガスを導入したとき、チャンバー内に侵入した水を排水口及びシールパッキンを通して外部に排出するので、作業用開口部をチャンバーの底面に開設することが可能になり、床面を含む任意の作業面の溶接を可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る水中溶接装置の実施形態を説明する。
【0023】
図1は実施形態に係る水中溶接装置の使用状態の断面図、図2は吸着パッドを省略した実施形態に係るチャンバーの底面側から見た斜視図、図3は実施形態に係る溶接トーチ及び溶接トーチ移動機構の構成図、図4は実施形態に係る被溶接物取付装置の構成図、図5は実施形態に係る水中溶接装置のプール底面への設定状態を示す説明図である。
【0024】
図1に示すように、本例の水中溶接装置は、水中に気相状態を現出するためのチャンバー1を備えており、チャンバー1内には、溶接トーチ2と、溶接トーチ2を互いに直交する3方向に移動可能に保持する溶接トーチ移動機構3と、溶接トーチ2に溶接用のワイヤを供給するワイヤ供給ボックス4と、当て板などの被溶接物を保持して所要の補修部位に押し付ける被溶接物取付装置5と、チャンバー1内の状態を視覚的に監視するための監視カメラ6及びそれに付属する照明装置7とが収納されている。また、チャンバー1の外面には、チャンバー1を所要の作業面に固定するための吸着パッド8とその駆動アクチュエータ9とが取り付けられている。なお、図1の符号Aは使用済燃料を貯蔵するための金属板内張り式プール、符号Bは当該プールAの内周面に張られたライニングを示している。
【0025】
図1及び図2に示すように、チャンバー1はステンレス鋼板などの金属板をもって箱形に形成されており、底面の一部から側面の一部にわたる部分に作業用開口部11が開設されると共に、底面の四隅部分に排水口12が開設されている。また、チャンバー1の外面の作業用開口部11を取り囲む位置には、適度の透水性と弾力性とを有する材料からなるシールパッキン13が取り付けられると共に、それと同じ面には、シールパッキン13よりも厚みが小さい樹脂製のプレート14が取り付けられている。シールパッキン13は、透水性のスポンジ等をもって形成され、接着等によりチャンバー1の外面に取り付けられる。一方、プレート14は、ネジ止め等によってチャンバー1の外面に取り付けられる。
【0026】
さらに、このチャンバー1には、外部から所要のシールドガスや乾燥空気等のガスを供給するためのガス供給ライン15a〜15hと、電力及び制御信号を供給するためのケーブル17が接続されている。図1に表示のガス供給ライン15aはチャンバー1内にガスを供給するメインガスライン、ガス供給ライン15bはワイヤ供給ボックス4へのガスの供給ライン、ガス供給ライン15cは溶接トーチ2へのガスの供給ラインである。これらのライン及びケーブルとしては、水中で使用可能なものが使用される。
【0027】
溶接トーチ2としては、実施しようとする溶接作業の内容に応じて、TIG溶接トーチ、MIG溶接トーチ、プラズマ溶接トーチ又はレーザ溶接トーチなどを適宜備えることができる。溶接トーチ2には、図1に示すように、ワイヤ供給ボックス4から繰り出されたワイヤー4aを溶接部に供給するワイヤー供給口18と、溶接トーチ2の姿勢に応じてワイヤー4aの向きを変えるワイヤー回転軸19と、溶接位置の調整や溶接中の異常確認を行う溶接部監視カメラ20が付設されている。なお、溶接部監視カメラ20としては、溶接中に発する強い光を遮断して必要な監視を行えるようにするため、フィルターカバー付きの専用カメラが用いられる。また、溶接位置の調整を容易化するため、複数の溶接部監視カメラ20を備えることもできる。
【0028】
溶接トーチ移動機構3は、図3に示すように、溶接トーチ2をX方向(水平方向)に移送するX方向移送部21と、Y方向(垂直方向)に移送するY方向移送部22と、Z方向(紙面方向)に移送するZ方向移送部23とから構成されており、被溶接物取付装置5によって金属板内張り式プールAの補修部位に押し付けられた当て板等の被溶接物Cの外周とライニングBとを溶接するように溶接トーチ2を移動する。なお、溶接トーチ移動機構3には、溶接面に対する溶接トーチ2の傾斜角度を調整するための溶接トーチ回転部を備えることもできる。
【0029】
この溶接トーチ移動機構3には、ライニングBと当て板(被溶接物)Cとの間のギャップを測定することにより、ライニングBに対する当て板Cの取り付け状態を確認する機能が備えられる。即ち、本例の溶接トーチ移動機構3は、溶接トーチ2の先端部がライニングBの表面又は当て板Cの表面に接触すると、それらが溶接電源のアースケーブルを介して電気的に導通される事象を利用してX方向移送部21、Y方向移送部22及びZ方向移送部23が自動停止するようになっており、溶接トーチ2の先端部をライニングBの表面に接触させたときの溶接トーチ2の(X,Y,Z)座標値と、溶接トーチ2の先端部を当て板Cの表面に接触させたときの溶接トーチ2の(X,Y,Z)座標値の差から、さらに当て板Cの板厚を差し引くことで、ライニングBと当て板Cとの間のギャップを測定できる。ギャップの算出は、溶接トーチ移動機構3に制御信号等を供給する制御・監視盤41(図6参照)により行うことができる。
【0030】
また、溶接トーチ2としてTIG溶接トーチを用いる場合、溶接トーチ移動機構3には、溶接時の電圧を一定に保つためのAVC(Ark Voltage Control)制御機能が備えられる。ここでAVC制御とは、アーク電圧フィードバック制御のことであり、アーク電圧が一定になるようにトーチ高さやワイヤ供給速度を制御して、アーク長を一定に制御するものである。通常、AVC制御機能は、X方向、Y方向、及びZ方向の各移送部の制御とは別に独立した専用の移送部を制御するようになっているが、本発明の水中溶接装置は、各方向移送部21,22,23の制御とAVC制御とを一体化させることにより、装置のコンパクト化を可能としている。
【0031】
ワイヤ供給ボックス4は、溶接作業の進行に応じて適量のワイヤーを自動的に溶接部に送り出すものである。このワイヤ供給ボックス4には前述のようにガスライン15bが接続されており、このガスライン15bを通じて供給されるシールドガスにより、ワイヤ供給ボックス4からワイヤー供給口18に至るワイヤー供給ライン内への水の侵入が防止される。
【0032】
被溶接物取付装置5は、図4に示すように、被溶接物Cを把持する被溶接物把持部31と、被溶接物Cを補修部位の壁面に押し付けるX方向被溶接物押付部32と、被溶接物Cを補修部位の床面に押し付けるY方向被溶接物押付部33と、被溶接物把持部31に把持された被溶接物Cをチャンバー1内からチャンバー1外に移送する被溶接物移送部34とから構成されている。これらの各部31〜34は、空気圧アクチュエータをもって構成されており、ガス供給ライン15d〜15gを通して供給される乾燥空気にて駆動される。
【0033】
監視カメラ6及び照明装置7は、補修部位の乾燥状態やライニングBの形状確認及び溶接ビードの異常確認などを行うものであって、必要数が必要な向きに備えられる。
【0034】
吸着パッド8及びその駆動アクチュエータ9は、図5に示すように、チャンバー1を作業面である金属板内張り式プールAの壁面及び床面に固定する位置に複数個づつ設定される。なお、作業面に対するチャンバー1の固定が確実に行える場合には、必ずしも各作業面に対して複数個づつ設定する必要はなく、1個づつ設定すれば足りる。これらの吸着パッド8及びその駆動アクチュエータ9は、図5に示すように、ガス供給ライン15hを通して供給される乾燥空気にて駆動される。
【0035】
以下、このように構成された水中溶接装置を用いたライニングBの溶接補修方法を、図6及び図7を用いて説明する。図6は金属板内張り式プールA内への水中溶接装置の設置状態を示す説明図、図7は溶接時における溶接トーチ2の状態を示す断面図である。
【0036】
金属板内張り式プールA内に吊り降ろされる以前において、本発明の水中溶接装置は、プール外に配置された制御・監視盤41とガス供給ライン15a〜15h及びケーブル17を介して接続される。また、制御・監視盤41には、電源42、シールドガス源43及び乾燥空気源44が接続される。さらに、被溶接物取付装置5の被溶接物把持部31には、所要の被溶接物(本例の場合には、断面形状がL字形の当て板)Cが把持され、この被溶接物Cは、被溶接物取付装置5を駆動することによりチャンバー1内に収納される。
【0037】
金属板内張り式プールA内への水中溶接装置の降下は、クレーンDを用いて行われる。制御・監視盤41は、水中溶接装置が水没する前に、ガス供給ライン15a〜15cを通じてチャンバー1内への乾燥空気の供給を開始し、チャンバー1内の圧力を外部の圧力より高くすることにより、水没時におけるチャンバー1内への水の流入を最小限とする。また、ワイヤー供給ボックス4に乾燥空気を供給することにより、ワイヤー供給ラインへの水の侵入を防止する。
【0038】
クレーンDを操作してチャンバー1をライニングBの補修が必要な箇所に位置付けた後、ガス供給ライン15hを通じて吸着パッド8及びその駆動アクチュエータ9を駆動し、チャンバー1を所要の補修部位に固定する。吸着パッド8及びその駆動アクチュエータ9を駆動することによりシールパッキン13が圧縮され、プレート14の外面がライニングBの表面に当接される。したがって、この状態においても、シールパッキン13の透水性が確保される。
【0039】
チャンバー1内に侵入した水は、チャンバー1内に導入される乾燥空気の圧力により、排水口12から外部に排出されると共に、作業用開口部11の周囲に設けられたシールパッキン13を透過して外部に排出される。なお、チャンバー1内に侵入した水を排出しきれない場合には、溶接トーチ2を水滴の残存部に向けてガス供給ライン15cから供給された乾燥空気をスポット的に噴射することにより、水滴を、作業用開口部11又は排水口12から排出する。これにより、チャンバー1内及び作業用開口部11に臨む作業面を乾燥することができ、金属板内張り式プールAの床面の溶接補修が可能になる。
【0040】
乾燥終了後、ガス供給ライン15d〜15gを通じて被溶接物取付装置5を構成する被溶接物把持部31、X方向被溶接物押付部32と、Y方向被溶接物押付部33及び被溶接物移送部34を駆動し、図3に示すようにライニングBの補修部位(本例の場合、金属板内張り式プールAの床面と壁面との間の角部)に当て板Cを押し付ける。次いで、図7に示すように、溶接トーチ2の先端部をライニングBの表面及び当て板Cの表面にそれぞれ接触し、ライニングBと当て板Cとの間のギャップを測定する。そして、ギャップが適正である場合には、ガス供給ライン15a〜15cを通じてチャンバー1内に供給されるガスをシールドガス(不活性ガス)に切り換え、溶接トーチ2及び溶接トーチ移動機構3を駆動して、3点以上にわたってライニングBに対する当て板Cの仮付溶接を実施する。
【0041】
なお、チャンバー1内及び補修部位の乾燥状態、補修部位に対するライニングBの取付状態は、チャンバー1内に備えられた監視カメラ6を通して制御・監視盤41により監視することができ、仮付溶接状態は、溶接トーチ2に取り付けられた溶接部監視カメラ20を通して制御・監視盤41により監視することができる。
【0042】
仮付溶接が終了したら、ガス供給ライン15dを通して被溶接物取付装置5の被溶接物把持部31に乾燥空気を供給し、当て板Cを開放する。次いで、ガス供給ライン15e〜15gを通して被溶接物取付装置5のX方向被溶接物押付部32、Y方向被溶接物押付部33及び被溶接物移送部34に乾燥空気を供給し、被溶接物取付装置5をチャンバー1内に設定された所要の収納位置へ移動する。この状態において、溶接部監視カメラ20を通して当て板Cが問題なくライニングBの補修部位に仮付溶接されていることを再度確認すると共に、被溶接物取付装置5を駆動して当て板CとライニングBとの間のギャップ量を再度測定する。
【0043】
仮付溶接の状態及びギャップ量が適正であると確認された場合には、溶接部監視カメラ20を通して溶接部の開先面を確認する。しかる後に、操作員が制御・監視盤41を操作することにより、溶接卜一チ2に溶接するための動きを記憶させる教示作業を実施する。溶接動作の教示は、溶接部監視カメラ20を通して溶接位置を確認しながら行われる。まず、溶接開始位置に溶接トーチ部2を移動して開始点の教示を行い、この開始位置から溶接トーチ2を所要の溶接線に沿って移動し、溶接通過点を教示していく。最後に、溶接トーチ2を所要の溶接終点に移動し、終点の教示を行う。なお、通過点は、必ずしも1箇所ということではなく、例えば複雑な形状を溶接する場合などは、より詳細な溶接動作の教示を実施することが可能である。
【0044】
溶接トーチ2に溶接終点まで溶接動作の教示が終了したら、溶接開始位置に溶接トーチ2を移動した後、溶接アークを発生させないで連続動作の確認を実施する。連続動作の確認後、再度溶接開始位置に溶接トーチ2を移動し、当て板CとライニングBとの初層溶接を実施する。初層溶接終了後は、溶接部監視カメラ20を通して初層溶接ビードの外観観察を実施する。初層溶接は、当て板Cの各辺を順番に溶接することにより行う。
【0045】
当て板CとライニングBの溶接は、例えば初層溶接で溶接ビードに貫通欠陥等の溶接欠陥が生じることも想定されるので、当て板CとライニングBの溶接は、1つの辺につき必ず2回以上溶接を実施することにしている。そのため、初層溶接にて当て板Cの各辺の溶接が終了したら、引き続いて初層溶接以降の積層溶接を実施する。積層溶接も、上述の初層溶接と同様の手順で行われる。積層溶接後は、溶接部監視カメラ20を通して各溶接実施ごとに溶接ビードの外観確認を実施する。
【0046】
積層溶接終了後は、ガス供給ライン15hを通じて駆動アクチュエータ9に乾燥空気を供給し、駆動アクチュエータ9を元に位置に戻す。これにより、作業用開口部11及び排水口12から水が侵入するので、監視カメラ6にてチャンバー1内への水の流入を確認する。次いで、ガス供給ライン15hを通じて吸着パッド8に乾燥空気を供給し、吸着パット8の負圧を解除して、ライニングBからチャンバー1を取り外し、クレーンDにて金属板内張り式プールA外に引き上げる。
【0047】
本例の水中溶接装置は、チャンバー1の底面から側面にわたる部分に作業用開口部11を開設すると共に、チャンバー1の底面に排水口12を開設したので、壁面と床面とを同時に補修することができる。また、作業用開口部11の周囲に透水性のシールパッキン13を設けたので、所要の作業面に設置されたチャンバー1内にガスを導入し、チャンバー1内の圧力を外部の圧力より高くすることにより、チャンバー1内に溜まった水を作業用開口部11から外部に排出することができ、作業用開口部11をチャンバー1の底面に開設することが可能になって、床面を含む任意の作業面の溶接が可能となる。また、チャンバー1の底板の四隅部分に排水口12を開口したので、勾配を有する作業面にチャンバーを設置した場合にもチャンバー1内に溜まった水を外部に排出しやすくすることができる。また、チャンバー1のシールパッキン取付面にシールパッキン13の厚さよりも薄いプレート14を設け、チャンバー1を作業面に固定したときのシールパッキン13の圧縮量を制限するようにしたので、溶接作業時におけるシールパッキンの透水性を確保することができ、チャンバー1内に溜まった水の排出を確実に行うことができる。また、チャンバー1内に溶接トーチ2を互いに直交する3方向に移動可能な溶接トーチ移動機構3を備えたので、必要な溶接作業を迅速かつ高品質に実施できる。さらに、本例の水中溶接装置は、チャンバー1内に被溶接物取付装置5を備えたので、補修箇所に当て板を当ててその周囲を溶接する方式の補修作業に適用することができる。
【0048】
なお、前記実施形態においては、チャンバー1の底面の四隅部分に合計4個の排水口12を開設したが、排水口12の開設数及び開設位置についてはこれに限定されるものではなく、必要箇所の必要数の排水口12を開設することができる。
【0049】
チャンバー1に複数の排水口12を開設する場合には、水中溶接装置の使用態様から見て不必要な排水口12を適宜遮蔽プラグにて塞ぐという構成にすることができる。このようにすると、全ての排水口12を開放状態にしてガスを導入する場合よりもチャンバー1内へのガスの導入量を減少することができるので、消費ガス量を節約できると共に溶接作業を迅速化できて、溶接作業に要するコストを低減することができる。
【0050】
また、前記実施形態においては、チャンバー1の底面から側面にわたる部分に作業用開口部11が開設された水中溶接装置を用いて、プールAの壁面と床面との補修を行ったが、図8に示すように、同様の水中溶接装置を用いて、プールAの壁面とこれに続く他の壁面との補修を行うこともできる。この場合には、チャンバー1内の水抜きをより良好なものにするため、図8に示すように、作業時にプールAの床面と対向する面に排水口12を開設することが望ましい。
【0051】
さらに、前記実施形態においては、チャンバー1の底面から側面にわたる部分に作業用開口部11が開設された水中溶接装置を用いたが、図9に示すように、チャンバー1の底面(特定の1面)にのみ作業用開口部11を開設することもできる。この場合には、図9に示すように、プールAの壁面又は床面など、一の作業面のみが補修可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態に係る水中溶接装置の使用状態の断面図である。
【図2】吸着パッドを省略した実施形態に係るチャンバーの底面側から見た斜視図である。
【図3】実施形態に係る溶接トーチ及び溶接トーチ移動機構の構成図である。
【図4】実施形態に係る被溶接物取付装置の構成図である。
【図5】実施形態に係る水中溶接装置のプール底面への設定状態を示す説明図である。
【図6】金属板内張り式プール内への水中溶接装置の設置状態を示す説明図である。
【図7】溶接時における溶接トーチ2の状態を示す断面図である。
【図8】他の実施形態に係る水中溶接装置の説明図である。
【図9】さらに他の実施形態に係る水中溶接装置の説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 チャンバー
2 溶接トーチ
3 溶接トーチ移動機構
4 ワイヤ供給ボックス
5 被溶接物取付装置
6 監視カメラ
7 照明装置
8 吸着パッド
9 駆動アクチュエータ
11 作業用開口部
12 排水口
13 シールパッキン
14 プレート
15a〜15h ガス供給ライン
17 ケーブル
A 金属板内張り式プール
B ライニング
C 被溶接物(当て板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業用開口部及び排水口が開設されたチャンバーと、当該チャンバー内に収納された溶接トーチと、前記チャンバーを水中の作業面に固定する吸着パッドと、前記チャンバー内に外部からガスを供給するガス供給ラインとを備えた水中溶接装置において、
前記チャンバーの外面の前記作業用開口部を取り囲む位置に透水性及び弾力性を有するシールパッキンを設け、前記吸着パッドにより前記チャンバーを前記作業面に固定し、かつ前記ガス供給ラインから前記チャンバー内に所要のガスを導入したとき、前記チャンバー内に侵入した水を前記排水口及び前記シールパッキンを通して外部に排出することを特徴とする水中溶接装置。
【請求項2】
前記排水口を前記チャンバーの底板の四隅部分に開口したことを特徴とする請求項1に記載の水中溶接装置。
【請求項3】
前記チャンバーに複数個の前記排水口を開設すると共に、これら複数個の排水口のうちの1個又は複数個に遮蔽プラグを着脱可能に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の水中溶接装置。
【請求項4】
前記チャンバーのシールパッキン取付面に前記シールパッキンの厚さよりも薄いプレートを設け、前記吸着パッドにより前記チャンバーを前記作業面に固定したとき、前記プレートが前記作業面に当接し、前記シールパッキンの圧縮量を通水が可能な範囲に制限することを特徴とする請求項1に記載の水中溶接装置。
【請求項5】
前記溶接トーチを互いに直交する3方向に移動させる溶接トーチ移動機構を前記チャンバー内に更に備え、前記溶接トーチ移動機構は、所要の溶接方向に沿って前記溶接トーチを移動すると共に、前記溶接トーチを溶接面に対して垂直方向に移動して、溶接トーチと溶接部との間に発生するアークのアーク長を一定に制御することを特徴とする請求項1に記載の水中溶接装置。
【請求項6】
前記溶接トーチは、TIG溶接トーチ、MIG溶接トーチ、プラズマ溶接トーチ、レーザ溶接トーチのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の水中溶接装置。
【請求項7】
前記チャンバー内に被溶接物取付装置を更に備え、当該被溶接物取付装置は、被溶接物を把持する被溶接物把持部と、当該被溶接物把持部にて把持された被溶接物を所要の補修部位に押し付ける被溶接物押付部とを有し、これら被溶接物把持部及び被溶接物押付部は、前記ガス供給ラインを通して外部から供給される空気圧にて駆動されることを特徴とする請求項1に記載の水中溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−188650(P2008−188650A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26983(P2007−26983)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】