説明

水中距離測定用レーザー送受信システム、レーザースティック及び水中における距離測定方法

【課題】地球上のダイナミックな海底の挙動を測定する水中距離測定用レーザー送受信システムと、レーザースティックと、水中における距離測定方法とを提供する。
【解決手段】少なくとも二以上の送受信装置10を海底に間隔をあけて設置する。一つの送受信装置10が、海水を介して他の送受信装置10に対してレーザー光を照射する送信手段11と、他の送受信装置10から照射されたレーザー光を受信する受信手段12と、送信手段11におけるレーザー光の送信方向、受信手段12におけるレーザー光の受信方向の何れか一方又は双方を制御する制御手段13と、送信手段11、受信手段12の何れか又は双方を用いて他の送受信装置10とレーザー光を送受信して他の送受信装置10との距離を測定する距離測定手段14と、距離測定手段14により収集したデータを格納するデータ格納手段15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球上のダイナミックな海底面の挙動を測定することができる水中距離測定用レーザー送受信システムと、このシステムを構築するためのレーザースティック、並びに水中における距離測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
深海において複数点の間の距離を測定するために音波が用いられている(非特許文献1)。しかしながら、音波を用いて測定する方法では、第1に、海水密度変化や水温などの海水の物理パラメータによって音波の伝播特性が変化することから、距離を正確に測定するためには伝播路全体の物理パラメータを正確に計測する必要がある。第2に、海底付近では物体の音波散乱によってマルチパスフェージングが発生し、正確な計測ができない。第3に、海水による音波の減衰特性により短波長域の音波は利用することができないことから、分解能が高い距離測定を行うことができない。
【0003】
一方、本発明者らの研究により、海中で伝播損失が許容できる光源として、10W程度の出力強度で青色領域から緑色領域までの或る波長を有するレーザー光を発生する半導体レーザー光源を用いることができることが分かっている。青色レーザー光や緑色レーザー光は、沿岸表層域では20〜30m程度、深海では50〜100m以上の伝播が可能であることが判明している(非特許文献2)。
【0004】
ところで、水底の断層の変化や水平歪みを検知する光学式距離測定に関する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1の技術では、水底に横たわる活断層を横断するよう光源光送信局、複数の中継局及び受信局を間隔を隔てて一列に配置しておき、光源光送信局、複数の中継局及び受信局の各局間の伝播時間ΔTを求め、これら伝播時間ΔTから光源光送信局から受信局に伝送される総伝播時間Tsを求め、測定の都度求めた総伝播時間Tsを比較している。
【0005】
さらに、光源光送信局、中継局、受信局の各局には、重錘の頂点に取り付けた耐圧容器が配備され、その耐圧容器の下部に外装ケーブルが貫通されている。中継局は、前段の局からの光を受信すると、三角プリズムで直進光と分岐光とに分岐し、直進光は後段の局に送られ、分岐光は地上局に送出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−248847号公報(特に、フロント頁、図2、図5)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】田所敬一、他6名、「音響測距−GPSリンクによる海底地殻変動観測システムの開発」、地学雑誌、110(4)、521−528頁、2001年発行
【非特許文献2】Hiroshi Yoshida, et al, “Basic Study of Underwater Laser Propagation for High Speed Underwater Vehicle Communication”, MARELEC Conf. Proc., 7-9 July 2009, Stockholm, Sweden
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、各局が一列に並んだ状態でなければ、受信局の位置の変化を観測することができず、海底における位置の二次元的、三次元的な変化を観測することができない。
【0009】
そこで、本発明では、海底に設置される送受信装置の配列に制限がなく、地球上のダイナミックな海底面の挙動を測定することができる水中距離測定用レーザー送受信システムと、このシステム構築のためのレーザースティックと、水中における距離測定方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、複数の送受信装置が間隔をあけて海底に設置されて構築された水中距離測定用レーザー送受信システムであって、各送受信装置が、海水を介して他の送受信装置に対してレーザー光を送信する送信手段と、他の送受信装置から照射されたレーザー光を受信する受信手段と、送信手段におけるレーザー光の送信方向、受信手段におけるレーザー光の受信方向の何れか一方又は双方を制御する制御手段と、送信手段、受信手段の何れか又は双方を用いて他の送受信装置とレーザー光を送受信して他の送受信装置との距離を測定する距離測定手段と、距離測定手段により収集したデータを格納するデータ格納手段と、を有する。
【0011】
上記構成において、距離測定手段は、送信手段で送信したレーザー光に関する信号を他の送受信装置に向けて送信するか、他の送受信装置が送信手段からのレーザー光を受信することを契機として返送する信号を受信するか、の何れかにより他の送受信装置との間に関する距離に関するデータを収集する。
【0012】
上記構成において、複数の送受信装置のうち、一の送受信装置における受信手段が機能している際には、他の送受信装置における送信手段からのレーザー光を全方向から受信可能とする。
【0013】
上記構成において、送信手段は青〜黄の波長を有するレーザー光を照射する。また、送信手段は間欠連続波レーザー光又はパルスレーザー光を照射する。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のレーザースティックは、下側から上側に向けて順に、尖底部、阻止部、電源を収容した錘部、支柱部、耐圧収容部を配置して構成され、阻止部は、この阻止部より上部が海底に埋設せず、尖底部を海底に埋設可能とし、耐圧収容部は、レーザー光の送信方向や受信方向を制御するための制御手段を収容しており、阻止部と錘部との接続、尖底部と阻止部との接続の何れか一方が外部信号により解除されて切り離し可能に接続されている。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明は、複数の送受信装置を海底に設置して送受信装置相互の距離を測定する、海中における距離測定方法であって、一の送受信装置が探索用レーザー光を送信し、他の送受信装置がその探索用レーザー光を受信してその受信方向と逆方向に探索用レーザー光を送信し、一の送受信装置が他の送受信装置から送信された探索用レーザー光を受信して一の送受信装置が他の送受信装置の方向を決定する、探索ステップと、一の送受信装置が探索ステップで決定した方向に向けて測距用レーザー光を送信し、他の送受信装置が測距用レーザー光を受信すると一の送受信装置に対して信号を返送して一の送受信装置と他の送受信装置との間の距離を測定する測距ステップと、を含む。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明は、複数の送受信装置を海底に設置して送受信装置相互の距離を測定する、海中における距離測定方法であって、一の送受信装置が探索用レーザー光を送信し、他の送受信装置がその探索用レーザー光を受信してその受信方向と逆方向に探索用レーザー光を送信し、一の送受信装置が他の送受信装置から送信された探索用レーザー光を受信して一の送受信装置が他の送受信装置の方向を決定する、探索ステップと、一の送受信装置が探索ステップで決定した方向に向けて測距用レーザー光を送信すると共にその測距用レーザー光の参照信号を他の送受信装置に対して送信し、他の送受信装置が測距用レーザー光と参照信号とを受信して一の送受信装置と他の送受信装置との間の距離を測定する測距ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二以上の送受信装置はそれぞれ光の送信方向や受信方向を制御することができるので、送受信装置、さらには、その送受信装置が搭載されているレーザースティックが任意の位置に配置されていても、また、時の経過により変位しても、送受信装置間、即ちレーザースティック間で距離測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る水中距離測定用レーザー送受信システムを模式的に示す概略図である。
【図2】図1に示す水中距離測定用レーザー送受信システムが海底に構築されている様子を模式的に示す図である。
【図3】レーザースティックの一例を模式的に示す図である。
【図4】図1における一組の送受信装置の機能ブロック図である。
【図5】本発明の実施形態に係る水中における距離測定方法に関する代表的なフロー図である。
【図6】本発明の実施形態に係る水中における距離測定方法に関し、図5とは異なるフロー図である。
【図7】本発明の実施形態に係る水中における距離測定方法に関し、図5及び図6とは異なるフロー図である。
【図8】レーザースティックの変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
〔水中距離測定用レーザー送受信システムの全体構成について〕
図1は本発明の実施形態に係る水中距離測定用レーザー送受信システム1を模式的に示す概略図である。図2は、図1に示す水中距離測定用レーザー送受信システム1が海底に構築されている様子を模式的に示す図である。本発明の実施形態に係る水中距離測定用レーザー送受信システム1は、海底に間隔を設けて設置される複数の送受信装置10と、これらの送受信装置10を接続する光ファイバーケーブル、メタルケーブルなどのケーブル20とで構築されている。各送受信装置10は後述するレーザースティックに搭載される。複数のレーザースティックのうち、一つがマスターレーザースティック110であり、残りがスレーブレーザースティック120である。なお、マスターレーザースティック110は複数でもよい。
【0021】
ここで、複数のレーザースティックは、図1に示すように、例えば一つのマスターレーザースティック110を中心としてスレーブレーザースティック120がケーブル20でスター型やカスケード型などの各種の接続形態によるネットワークで接続されている。スレーブレーザースティック120で測定された計測データがネットワークによりマスターレーザースティック110に集約される。マスターレーザースティック110は、集約されたデータを海上船舶又は深海機と音響通信等の無線通信により回収してもよいし、或いは光ファイバーケーブル2がマスターレーザースティック110と地上局3との間に別途敷設されており地上局3とマスターレーザースティック110との間で光通信を行い、地上局3がマスターレーザースティック110に集約されているデータを回収するようにしてもよい。ここで、マスターレーザースティック110は、レーザースティックのうち、自分以外の他のレーザースティックに格納されている計測データを集約し、かつ海上船舶、深海機、地上局3に対してその集約データをアップする機能を有するものを意味する。
【0022】
〔レーザースティックの構成について〕
各レーザースティック100は、何れも、レーザー光による距離測定及びレーザー光又は電気信号による情報送受を行える送受信装置10として、レーザー光による距離計測手段と、レーザー光又は電気信号による情報の送受信手段と、距離計測手段及び送受信手段を制御するための制御手段と、を備えている。
【0023】
図3はレーザースティックの一例を模式的に示す図である。レーザースティック100は、図3に示すように、下端をテーパー状に尖底した埋設部(「尖底部」とも呼ぶ)101と、埋設部101の上端に接続されてストッパーとなる埋設阻止部(「阻止部」とも呼ぶ)102と、埋設阻止部102の上端に接続され内部に電源を収容した錘部103と、錘部103から所定の高さを有する支柱部104と、支柱部104の上端に取り付けられる耐圧収容部105と、からなる。耐圧収容部105内には耐圧収容部105内の収容物を水平に保つジンバル部106が備えられている。
【0024】
埋設阻止部102と錘部103との接続、埋設部101と埋設阻止部102との接続の何れか一方は、外部信号により解除されて切り離し可能に接続されている。例えば、埋設部101と埋設阻止部102とは取り外し可能に接続されており、支柱部104などに装着されたトランスポンダ107が外部から接続解除信号を受けると、埋設部101と埋設阻止部102との接続が解除されて切り離され、埋設阻止部102より上部、すなわち、錘部103と支柱部104と耐圧収容部105とが一体として浮力により浮上する。これにより、ジンバル部106及び後述の電子光部品を収容した耐圧収容部105、電源その他の高価な部品を回収することができる。また、レーザースティック100全体がその長手方向に延びた棒状となっており、埋設部101の下端がテーパー状をなしている。これらにより、例えば、海上から船舶によって投下するとレーザースティック100が海底に突き刺さり易くなる。ジンバル部106は、その上に搭載される各種の光部品や電子部品を水平に保つための手段である。
【0025】
耐圧収容部105は、ジンバル部106上に送信手段11及び受信手段12などを搭載して収容している。送受信装置10のうちジンバル部106上に搭載される部品などは、送信手段11及び受信手段12のうち光学部品など水平方向を保つ必要がある部品に限定することで、ジンバル部106における駆動系を小型化することができる。耐圧収容部105はレーザー光を透過する光学ウインドウを備えている。耐圧収容部105の内部にはレーザー距離計測及び通信手段が収容されている。以下具体的に説明する。図4は一組の送受信装置の機能ブロック図である。送受信装置10は、それぞれ、送信手段11と、受信手段12と、制御手段13と、距離測定手段14と、データ格納手段15と、データ送受信手段16と、を備える。図4では、送受信装置10として二台の送受信装置10A,10Bを備える場合を示しているが、それ以上の台数であっても同様である。説明のため、一方の送受信装置10Aに含まれる各手段には、送信手段11Aのように各符号に「A」を付加し、他方の送受信装置10Bに含まれる各手段には送信手段11Bのように各符号に「B」を付加して両者を区別することとし、特に区別する必要がない場合にはA,Bを付加しないことにする。
【0026】
送信手段11は、海水を介して他の送受信装置10に対してレーザー光を送信する手段である。「送信」には照射、放射の何れも含まれ、「放射」には所定の方向に照射するがその照射方向をある範囲で時間的に走査する場合も含まれるものとする。送信手段11は、例えば、半導体レーザー発光素子と、所定の軸回りに回動可能な一又は複数のミラーなどの光学部品と、各ミラーを回動する駆動部と、を備えている。よって、送信手段11は、半導体レーザー発光素子からの光を複数の方向に分散して放射したり、半導体レーザー発光素子からの光をミラーで反射して所定の方向に照射したりすることができる。
【0027】
受信手段12は他の送受信装置10から送信されたレーザー光を受信する手段である。受信手段12は、例えば、光検出素子と、所定の軸回りに回動可能な一又は複数のミラーなど光学部品と、各ミラーを回動する駆動部と、を備えている。駆動部により各ミラーを回動することでレーザー光の進行方向を変えて検出感度が高くなるよう光検出素子に入射させてもよいし、また、各ミラーを必要に応じて回転させて複数の方向又は全方向から入射するレーザー光を光検出素子に入射させるようにしてもよい。
【0028】
送信手段11及び受信手段12には、さらに、半導体レーザー発光素子、光検出素子のほかに、半導体レーザー素子からのレーザー光の変調を行うとともに受光素子で受光したレーザー光の復調を行う変復調機能や、半導体レーザー素子から出力される光を掃引する掃引機能など、を有するよう各種の部品が配備されている。
【0029】
ここで、半導体レーザー発光素子は、青色〜黄色の範囲に含まれる任意の波長を有するレーザー光を発振する。この波長領域であれば、海水による減衰を少なくすることができるからである。また、送信手段11には半導体レーザー素子の後段に、レーザービームを少し広げて平行ビームとするビームエキスパンダーを備えておくことが好ましい。ビームエキスパンダーにより、ビーム径を広げて平行光線とすることで、海中に浮遊する所謂マリンスノーによりレーザー光が遮断されずに遠方まで伝播することができる。
【0030】
制御手段13は、送信手段11によりレーザー光を送信する方向の制御、受信手段12によりレーザー光を受信する方向の制御の何れか一方又は双方を行う。制御手段13は送信手段11に含まれる一又は複数の駆動部を制御することで、半導体レーザー発光素子からのレーザー光を所定の方向に向けて照射したり、又は一定の立体角に広げて放射したりする。制御手段13は受信手段12に含まれる一又は複数の駆動部を制御することで、例えばドーム型の光学ウインドウから入射したレーザー光の方向に光検出素子を向け、又は、任意の方向からドーム型の光学ウインドウに入射したレーザー光の進行方向を変えて光検出素子に入射させる。これにより、受信手段12は全方向からのレーザー光を受けることができる。
【0031】
距離測定手段14は、送信手段11、受信手段12の何れか又は双方を用いて他の送受信装置10とレーザー光を送受信して他の送受信装置10との距離を測定する手段である。
【0032】
一例として、一方の送受信装置10A内の距離測定手段14Aが送信手段11Aで送信したレーザー光に関する信号(例えば同期信号、分岐信号、参照信号など)を他方の送受信装置10Bに送信し、他方の送受信装置10Bにおける距離測定手段14Bがその信号を受信する場合を想定する。その場合には、距離測定手段14Aはその信号と受信手段12Bでの検出信号とに基づいて距離を測定する。
【0033】
一例として、一方の送受信装置10Aにおける送信手段11Aから他方の送受信装置10Bに向けてレーザー光を送信し、送信手段11Aからのレーザー光を受信することを契機として他方の送受信装置10Bが返送する信号として、例えば送信手段11Bから出力されたレーザー光を水中経由で受信手段12Aが受信する場合を想定する。その場合には、距離測定手段14Aは、送信手段11Aがレーザー光を送信したタイミングと受信手段12Aがレーザー光を受信したタイミングとに基づいて、距離を測定する。
【0034】
一例として、一方の送受信装置10Aにおける送信手段11Aから他方の送受信装置10Bに向けてレーザー光を送信し、送信手段11Aからのレーザー光を受信することを契機として他方の送受信装置10Bが返送する信号として、電気信号やレーザー光をケーブル20を経由して受信手段12A又は距離測定手段14Aが受信する場合を想定する。その場合には、距離測定手段14Aは、送信手段11Aがレーザー光を送信したタイミングと受信手段12Aがレーザー光を受信したタイミング又は距離測定手段14Aが電気信号を受信したタイミングとに基づいて、距離を測定する。なお、距離測定手段14Aは、受信した信号としてのレーザー光を受信手段12Aに転送する手段であってもよく、この場合には受信した信号のレーザー光は受信手段12で検出される。
【0035】
データ格納手段15は、他の送受信装置10との間で距離に関する測定データを格納する手段である。データ送受信手段16は、データ格納手段15に含まれる計測データを他の送受信装置10に対して送信すると共に、他の送受信装置10から送信された計測データやその他の距離測定の際に必要となる制御データなどを送受信する。即ち、一方の送受信装置10Aにおけるデータ送受信手段16Aは、他方の送受信装置10Bにおけるデータ送受信手段16Bとの間で、計測データや制御データなどを送受信する。よって、マスターレーザースティック110に搭載されている送受信装置10には、他のスレーブレーザースティック120に搭載されている送受信装置10中のデータ格納手段15に格納されている計測データなどを集約することができる。さらに、マスターレーザースティック110に搭載されている送受信装置10におけるデータ送受信手段16は、そのデータ格納手段15に格納されている測定データを、例えば光ファイバーケーブル2を経由して地上局3に送信する手段でもある(図2参照)。
【0036】
ここで、図4に示す各手段は、前述したように電子部品、光部品や各種の駆動部品により構築されて耐圧収容部105に収容されている。また、図示を省略するが、レーザースティック100には、各種センサーなどが搭載されており、各種センサーには海中の物理的パラメータを測定するためのセンサーが含まれ、このセンサーが検出した物理的パラメータによりレーザー光の伝播速度を補正して正確な距離測定を行うことができる。前述のデータ格納手段15には、計測された結果である計測データのほか、計測に必要となる制御データが格納される。
【0037】
〔水中における距離測定方法について〕
本発明の実施形態に係る水中距離測定用レーザー送受信システム1は上記のように構成されており、これにより、水中においてレーザースティック間の距離測定を行うことができる。以下、水中における距離測定方法について説明する。
【0038】
複数のレーザースティックが海底に設置されており、図2に示すように、ある特定のレーザースティック(「マスターレーザースティック」と呼ぶ。)110に対して、残りのレーザースティック(「スレーブレーザースティック」と呼ぶ。)120がケーブル20で接続されているとする。海底へのレーザースティック100の設置手法としては、海面上の船舶から海底に向けて投下したり、深海探査機に一旦収容し、深海探査機が所定の位置に移動して所望の位置に設置したりする手法が考えられる。また、光ファイバー20でのネットワークの構築は、深海探査機等で行うことができる。
【0039】
水中における距離測定方法を説明する前提として、レーザー光による距離測定の原理について説明する。レーザースティック100が双方向にレーザー光を送受信可能に構成されている場合、最も単純な手法は、マスターレーザースティック110からスレーブレーザースティック120に時刻tTXに照射するとし、伝播時間をtとし、スレーブレーザースティック120が受信してマスターレーザースティック110に返信するまでの遅延時間をtとし、マスターレーザースティック110が受光する時刻をtRXとすると、
RX=tTX+2t+t
なる関係があるので、
δ=tRX−tTX=2t+t
となる。ここで、tは既知となるので、伝播時間tが求まる。よって、光の海中の伝播速度Cseaが正確に分かれば、マスターレーザースティック110とスレーブレーザースティック120との間の距離が求められる。ここで、可視光領域における光の誘電率は約1.8であるから、遅延時間tを無視し、時間分解能が0.1nsとすると、距離分解能は約2cmとなる。
【0040】
距離計測の手法としては、レーザー光に変調、例えば振幅変調をかけて位相差を検出して位相シフトφから距離dを求めることが考えられる。具体的に説明すると、レーザー光に変調をかけて、その変調波の基準位相φに対する位相φとのずれΔφで距離を求めることができる。例えば20MHzの周波数fで変調をかけると搬送波の波長λは、c/f≒15mであるから、位相角度検出感度を0.1°とすると、最小分解距離はλ・0.1°/360°となる。上記の数値設定では最小分解距離は約4.2mmとなり、数mmの精度で測距することができる。位相差Δφを計測すると、一方の送受信装置10と他方の送受信装置10との間の距離は
Δφ・λ/360°〔m〕=(φ−φ)・λ/360°〔m〕
から求めることができる。ここで、基準位相φはケーブル20内を伝播させて相手側に通知することができる。なお、以上の説明では、レーザー光の波長λは一定としたが、実際には、温度、圧力、伝導率などの海水の物理的パラメータの関数として表されるので、レーザースティック100に設けた各種センサーのデータにより二点間の距離データが補正される。また、この説明では、反射波が基本となるが、リピーター方式で計測ができるように、受信から再送信にかかる位相回転をキャリブレーションする必要がある。
【0041】
本発明における海中における距離測定方法は、探索ステップと距離測定ステップ(「測距ステップ」と呼ぶ場合もある。)とが含まれる。図5は本発明の実施形態に係る水中における距離測定方法に関する代表的なフロー図である。この図では、一方のレーザースティック100内の送受信装置10Aから他方のレーザースティック100内の送受信装置10Bとの間の距離測定を前提として示されているが、3本以上のレーザースティック100間における距離測定の場合であっても同様である。
【0042】
探索ステップ(STEP1)では、一方の送受信装置10A中における送信手段11Aが全方向に探索用レーザー光を放射し(STEP1−1)、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bが水中を伝播した探索用レーザー光を受信する(STEP1−2)。他方の送受信装置10Bにおける制御手段13Bが送信手段11Bによる探索用レーザー光の照射方向を制御し(STEP1−3)、送信手段11Bが一方の送受信装置10Aに向けて探索用レーザー光を照射する(STEP1−4)。すると、一方の送受信装置10Aの受信手段12Aが水中を伝播した探索用レーザー光を受信する(STEP1−5)。これにより、受信手段12Aが探索用レーザー光の受光方向を特定することで、他方の送受信装置10Bの存在方向が分かる。
【0043】
一方の送受信装置10Aからみた他方の送受信装置10Bの方向に関する情報は、必要に応じて、他方の送受信装置10Bにデータ送受信手段16A,16Bによりケーブル20で送受信され、送受信装置10A,10B間で情報が共有される(STEP2)。これに基づいて、次の距離測定ステップ(STEP3)において、一方の送信手段11Aのレーザー光照射方向、他方の受信手段12Bの受光方向が、それぞれ、制御手段13により制御可能となる。
【0044】
距離測定ステップ(STEP3)では、一方の送受信装置10Aにおける制御手段13Aは、送信手段11Aが他方の送受信装置10Bに測距用レーザー光を照射するように制御する(STEP3−1)。これと同時又は相前後して、他方の送受信装置10Bにおける制御手段13Bは、受信手段12Bが一方の送受信装置10Aからの測距用レーザー光を受信するように制御する(STEP3−2)。
【0045】
そして、送信手段11Aが、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bに対して測距用レーザー光を照射し(STEP3−3)、一方の送受信装置10Aと他方の送受信装置10Bとの間の距離を計測する。距離の計測手法としては、各種の方法を用いてもよい。
【0046】
例えば、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bが測距用レーザー光を受信し(STEP3−4)、他の送受信装置10Bにおける距離測定手段14Bがケーブル20を経由して一方の送受信装置10Aの距離測定手段14Aに対して測距用信号を返信し(STEP3−5)、距離測定手段14Aがその測距用信号を受信する(STEP3−6)。これにより、両者間の距離データを算出する(STEP3−7)。その際、センサーにより海水の温度、塩分濃度等の物理的パラメータの測定値に基づいて海水中のレーザー光の伝播速度を補正して、二点間の距離を測定する。
【0047】
このように算出された距離データは、データ格納手段15A,15Bに格納されると共に、ケーブル20を経由してそれぞれ相手の送受信装置10A,10Bに通信されて、測定データが共有される(STEP4)。
【0048】
図6は、本発明の実施形態に係る海中における距離測定方法に関し、図5とは異なるフロー図である。図6に示すように、二点間の距離の測定においては、レーザー光の伝播時間に基づいて行うのみならず、一方の送受信装置10Aから他方の送受信装置10Bに対して送信タイミングの信号又は参照信号を光ファイバーケーブルやメタルケーブル等のケーブル20で送信し、他方の送受信装置10Bが受信した測距用レーザー光と比較して位相差を測定し、その位相差に基づいて二点間の距離を測定してもよい。
【0049】
具体的には、測距ステップ(STEP13)において、図5の場合と同様、一方の送受信装置10Aにおける制御手段13Aは、送信手段11Aが他方の送受信装置10Bに測距用レーザー光を照射するように制御する(STEP13−1)。これと同時又は相前後して、他方の送受信装置10Bにおける制御手段13Bは、受信手段12Bが一方の送受信装置10Aからの測距用レーザー光を受信するように制御する(STEP13−2)。
【0050】
そして、送信手段11Aが、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bに対して測距用レーザー光を照射する(STEP13−3)と略同時に、一方の送受信装置10Aから他方の送受信装置10Bに対して参照信号を光ファイバーケーブルやメタルケーブル等のケーブル20で送信する(STEP13−4)。そして、他の送受信装置10Bにおいて、水中を伝播したレーザー光を受信手段12Bが受信し(STEP13−5)、その受信結果を受けた距離測定手段14Bがケーブル20を経由して送信された参照信号を受信して(STEP13−6)、距測距用レーザー光と参照信号とを相互に比較することで、二点間の距離データを算出する(STEP13−7)。
【0051】
このように算出された距離データは、図5の場合と同様、データ格納手段15A,15Bに格納されると共に、ケーブル20を経由して相手の送受信装置10A,10Bに通信されて、測定データが共有される(STEP4)。
【0052】
さらに、別の手法として、各送受信装置10には光学ミラーと光学ミラーの角度を調整する角度調整手段としての駆動部が設けられているので、探索ステップにおいて求められた方向に角度調整手段が光学ミラーを向けて、一方の送受信装置10Aから他方の送受信装置10Bに対して測距用レーザー光を照射する。すると、他方の送受信装置10B内の光学ミラーがそのレーザー光を反射するので、一方の送受信装置10Aがその反射した測距用レーザー光を受信する。そして、一方の送受信装置10Aが他方の送受信装置10Bに向けて測定用レーザー光を照射した時から測距用レーザー光の反射光を受信するまでの時間を求めて、二点間の距離を測定してもよい。その際、両者間で必要となるデータ等はケーブル20で送受信される。
【0053】
上記別の手法において、一方の送受信装置10Aが照射する測距用レーザー光を一部分岐しておき、他方の送受信装置10Bからの反射光と分岐した光との相関関係から、二点間の距離を求めてもよい。
【0054】
さらに、別の手法として、一方の送受信装置10Aから他方の送受信装置10Bに対して、探索ステップにおいて求められた方向に向けて測距用レーザー光を照射し、他方の送受信装置10Bの受信手段12Bが測距用レーザー光を受信し、その測距用レーザー光をケーブル20としての光ファイバーケーブル中を伝送して一方の送受信装置10Aに送り返し、一方の送受信装置10Aの受信手段12Aが送り返されたレーザー光、すなわち、反射光を受ける。ここで、他方の送受信装置10Bの受信手段12Bから一方の送受信装置10Aの受信手段12Aまでの伝播路は温度、圧力、伝導率の物理的パラメータで補償すれば伝播特性が異ならないので、例えば一方の送受信装置10Aから照射されて他方の送受信装置10Bの受信手段12Bで受けられるまでの測距用レーザー光の伝播時間に基づいて、両者の間の距離を測定することができる。
【0055】
上記何れの手法においても、測距用レーザー光の伝播時間を計測して、両者間の距離を測定しているが、リファレンス信号として同じ測距用レーザー光を用いて、受信した測距用レーザー光との位相差を求めて、二点間の距離を測定することもできる。
【0056】
なお、図5及び図6に示す形態においては、探索ステップ(STEP1)では一方の送受信装置10Aにおける送信手段11Aが全方向に探索用レーザー光を放射し(STEP1−1)、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bが水中を伝播した探索用レーザー光を受信すると(STEP1−2)、他方の送受信装置10Bにおける制御手段13Bが、受光した探索用レーザー光の受信方向に一致するよう送信手段11Bによる探索用レーザー光の照射方向を制御し、送信手段11Bが一方の送受信装置10Aに向けて探索用レーザー光を送信する。つまり、一方の送受信装置10Aと他方の送受信装置10Bとの間では、探索用レーザー光は海水中を伝播しており、ケーブル20中を伝播していない。
【0057】
しかしながら、他方の送受信装置10Bが一方の送受信装置10Aの方向を判断するためには、レーザー光の海水中の伝播だけによらず、水中の伝播とケーブル20としての光ファイバー中の伝播との双方を用いてもよい。
【0058】
図7は、本発明の実施形態に係る海中における距離測定方法に関し、図5及び図6とは異なるフロー図である。図7に示す形態は、図5及び図6に示す形態とは探索ステップの点が異なっている。一方の送受信装置10Aにおける送信手段11Aが探索用レーザー光を放射し(STEP21−1)、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bが探索用レーザー光を受信する(STEP21−2)。その際、受信手段12Bがどの方向から探索用レーザー光を受信したか、すなわち受光方向を特定する。他方の送受信装置10Bでは、例えばデータ送受信手段16Bがその受光方向の情報を受光情報としてケーブル20としての光ファイバーケーブルを経由して、一方の送受信装置10Aに送信する(STEP21−3)。一方の送受信装置10Aではデータ送受信手段16Aが他方の送受信装置10Bから送られた受光情報を受信する(STEP21−4)。
【0059】
以上の手順により、一方の送受信装置10Aの制御手段13Aは送信手段11Aをどの方向に向けてレーザー光を照射すれば他方の送受信装置10Bに照射することができるか、についての情報を取得することができる。また他方の送受信装置10Bの制御手段13Bは受信手段12Aの受光素子等をどの方向に向けておくことで他の送受信装置10Bからのレーザー光を受けることができるか、についての情報を取得することができる。
【0060】
なお、STEP21−2に関して、他方の送受信装置10Bにおいて受信手段12Bがどの方向から探索用レーザー光を受信したか否かについての判断手法は種々考えられる。例えば、一方の送受信装置10Aが探索用レーザー光を放射する間に、制御手段13Bにより受信手段12Bにおける受光素子を一又は複数の軸回りに回動することで受光素子の受光感度を変化させ、探索用レーザー光の受光強度の高低を調べることで判断することができる。つまり、受信手段12Bにおける探索用レーザー光の受光強度が最も高いときの受光素子の向きが、他方の送受信装置10Bからみた一方の送受信装置10Aの向きに対応する。
【0061】
その後、距離測定ステップ(STEP23)に進み、一方の送受信装置10Aにおける制御手段13Aが、前述のSTEP21−4で受信した受光情報に基づいて、送信手段11Aに対して距測用レーザー光の照射方向を制御する(STEP23−1)。それと同時に又は相前後して、他方の送受信装置10Bにおける制御手段13Bが受信手段12Bに対し距測用レーザー光の受光方向を前述のSTEP21−2で特定した探索用レーザー光の受光方向と一致させる(STEP23−2)。
【0062】
その後、送信手段11Aが、他方の送受信装置10Bにおける受信手段12Bに対して測距用レーザー光を照射する(STEP23−3)と略同時に、一方の送受信装置10Aから他方の送受信装置10Bに対して参照信号を光ファイバーケーブルやメタルケーブル等のケーブル20で送信する(STEP23−4)。そして、他の送受信装置10Bにおいて、水中を伝播したレーザー光を受信手段12Bが受信し(STEP23−5)、その受信結果を受けた距離測定手段14Bがケーブル20を経由して送信された参照信号を受信して(STEP23−6)、距測距用レーザー光と参照信号とを相互に比較することで、二点間の距離データを算出する(STEP23−7)。
【0063】
このように算出された距離データは、図5の場合と同様、データ格納手段15A,15Bに格納されると共に、ケーブル20を経由して相手の送受信装置10A,10Bに通信されて、測定データが共有される(STEP4)。
【0064】
ここで、図7に示す形態の場合であっても、距離測定ステップ23は図5における距離測定ステップ3のようになされてもよいし、或いは前述した各種の他の方法によりなされてもよい。なお、図5、図6、図7において、探索用ステップは精度を得るまで繰り返し行って探索の目的が達成された段階で、STEP2又はSTEP23に移行することが好ましい。
【0065】
さらに、本発明の海中における距離測定方法の実施形態について具体的に説明する。
【0066】
水中距離測定用レーザー送受信システム1においては、複数のレーザースティック100で構成され、例えばレーザースティック100のうち例えば一基がマスターレーザースティック110となり、残りのレーザースティック100がスレーブレーザースティック120となる。スレーブレーザースティック120は少なくとも一基あればよい。マスターレーザースティック110には、船舶や海底ステーション、海中ビークルなどと通信を行うための通信手段を有する。さらに、マスターレーザースティック110、スレーブレーザースティック120に対する電気を海底ステーションから供給してもよい。
【0067】
初期状態においては、各レーザースティック100のうち、マスターレーザースティック110が受光動作を行い、スレーブレーザースティック120が発光動作を行う。マスターレーザースティック110は全方向からの探索用レーザー光を受光することができる状態とする。スレーブレーザースティック120は探索用レーザーの送受信を行う、所謂探索状態となる。マスターレーザースティック110はスレーブレーザースティック120からの探索用レーザー光を受信すると、レーザー光の送受信方向を決定し、光到来方向へレーザーを送信する。スレーブレーザースティック120は、マスターレーザースティック110からレーザー光を受信すると、レーザー光の受信方向にマスターレーザースティックが存在すると認定する。なお、複数のスレーブレーザースティック120が設置されている場合には、スレーブレーザースティック120を海中に投入する際に番号を付与し、末尾のスレーブレーザースティック120から順番に探索を行う。
【0068】
次に、それぞれのレーザースティック100は距離測定を行う毎に、レーザースティック100間のレーザー通信により距離情報をマスターレーザースティック110に集約するとともに、自らのスレーブレーザースティック120内のデータ格納手段15に距離情報を記録して保持する。マスターレーザースティック110は、海底に設置されている状態であっても、音響通信や光通信などの通信手法によりデータをアップロードする。
【0069】
マスターレーザースティック110及び各スレーブレーザースティック120、すなわち、レーザースティック100の各々は、光ファイバーケーブルやメタルケーブルなどのケーブル20により相互に接続されており、各信号の同期信号やデータ伝送信号などを送受信することができる。また、レーザースティック100の各々について大体の位置が特定されている場合には、各スレーブレーザースティック120によるマスターレーザースティック110の探索を簡略化することができるとともに、探索精度も向上することができる。
【0070】
特に、各スレーブレーザースティック120がマスターレーザースティック110に対して相互に光ファイバーケーブルで接続されている。よって、各スレーブレーザースティック120によるマスターレーザースティック110の探索は探索用レーザー光を用いて行われ、マスターレーザースティック110と各スレーブレーザースティック120による距離計測は測距用レーザー光を用いて行われ、さらに、各スレーブレーザースティック120によるマスターレーザースティック110への距離情報を含めた計測データ、同期信号などの制御信号その他の情報は光ファイバーケーブルを用いて送受信される。このように、本発明の実施形態では、レーザー光を距離計測とデータ等の送受信の両方に用いており、海中に複数の測定点を設置することができ、レーザーの伝播距離が短いという欠点を克服することができる。
【0071】
以上の説明したように、レーザースティック100を海底における任意の位置に設置しても、また、海底の表層部が移動しても、距離測定の際に、事前にレーザー光の照射方向にレーザー光を受信する受信手段12を向けるようにしたので、ダイナミックな地球の海底変動を測定することができる。本発明によれば、測定時間が短いので、その測定の際における二点間の距離を求めることができ、海底表面が振動しながら変位するなど、従来観測できない現象や事実の発見に寄与する。つまり、海中での正確な距離測定が必要な代表的な応用例として、海底プレートの移動距離測定が挙げられる。太平洋側のプレートは、その場所にもよるが、年間数cm〜数十cmの範囲で移動していることが知られている。しかし、年間単位の平均的な移動距離しか測定することができず、ダイナミックなプレートの移動を的確に把握することもできる。
【0072】
さらにこの点について説明する。プレートの移動量を計測することを前提とすると、数km〜数十kmの範囲で距離の計測ができれば十分である。レーザー光を用いて例えば5kmの距離の変動について計測を行う場合には、レーザー発振装置を50m置きに設置すると仮定すると、100点の計測中継点が必要となる。レーザー光による距離測定を用いると精度が高いため、100点間の計測誤差を重ね合わせても大きな計測誤差は生じない。ところが、多点で距離測定を行うと、各点での計測データを何らかの通信手段により伝送して数箇所、好ましくは一箇所に集める必要が生じる。このデータ通信手段としても光ファイバーケーブルやレーザー光源を用いてもよい。
【0073】
本発明の実施形態は上述に限らず、各種変更して実施することができる。例えば、各レーザースティックに、レーザー光を照射してその反射光をモニタリングする機能、いわゆる対地計測機能を搭載し、レーザースティックそれ自身の振動を検知することもできる。図8は、本発明の実施形態に係るレーザースティックの変形例を模式的に示す図である。なお、図3と同一又は対応する要素には同一の符号を付してある。図8に示すように、阻止部102の上端には、電源を有する錘部103A、支柱部104、耐圧収容部105がこの順に接続されている。変形例では、錘部103Aに耐圧収容部105内の送信手段及び受信手段とは別に、補助送信手段及び補助受信手段とを設けて、図8に示すように、錘部103Aに一又は複数の照射受光部103Bを設ける。これにより、照射受光部103B内の補助送信手段から海底に向けてレーザー光を照射し、その反射光を照射受光部103B内の補助受信手段で受光する。照射されたレーザー光に対する反射光の強度、時間変化、位相変化の少なくとも何れかを検出することで、レーザースティック100A自らの振動を検知し、或いは海水の物理的パラメータの計測を行うことができる。検知結果や計測データを用いて、レーザースティック間の距離データの正確性や、海水パラメータとしての温度、導電率、圧力などの補正の有効性などを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明におけるレーザースティックの各々を海底に三次元的に設置しても、各レーザースティック相互の方向を探索することができるため、海底が三次元的に移動するような場合であってもダイナミックな海底の移動をモニタリングすることができる。よって、本発明による海中距離測定システムを地上局とケーブルで接続して逐次海底の移動をモニタリングして検知し、その検知した結果を海底地震の予知や津波の発生の予知に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1:水中距離測定用レーザー送受信システム
2:光ファイバーケーブル
3:地上局
10:送受信装置
11,11A,11B:送信手段
12,12A,12B:受信手段
13,13A,13B:制御手段
14,14A,14B:距離計測手段
15,15A,15B:データ格納手段
16,16A,16B:データ送受信手段
20:ケーブル
100,100A:レーザースティック
101:埋設部(尖底部)
102:埋設阻止部(阻止部)
103,103A:錘部
103B:照射受光部
104:支柱部
105:耐圧収容部
106: ジンバル部
107:トランスポンダ
110:マスターレーザースティック
120:スレーブレーザースティック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送受信装置が間隔をあけて海底に設置されて構築された水中距離測定用レーザー送受信システムであって、
各送受信装置が、
海水を介して他の送受信装置に対してレーザー光を送信する送信手段と、
上記他の送受信装置から照射されたレーザー光を受信する受信手段と、
上記送信手段におけるレーザー光の送信方向、上記受信手段におけるレーザー光の受信方向の何れか一方又は双方を制御する制御手段と、
上記送信手段、上記受信手段の何れか又は双方を用いて上記他の送受信装置とレーザー光を送受信して上記他の送受信装置との距離を測定する距離測定手段と、
上記距離測定手段により収集したデータを格納するデータ格納手段と、
を有する、
水中距離測定用レーザー送受信システム。
【請求項2】
前記距離測定手段は、前記送信手段で送信したレーザー光に関する信号を前記他の送受信装置に向けて送信するか、前記他の送受信装置が前記送信手段からのレーザー光を受信することを契機として返送する信号を受信するかの何れかにより、前記他の送受信装置との間に関する距離に関するデータを収集する、請求項1に記載の水中距離測定用レーザー送受信システム。
【請求項3】
前記複数の送受信装置のうち、一の送受信装置における受信手段が機能している際には、他の送受信装置における送信手段からのレーザー光を全方向から受信可能とする、請求項1に記載の水中距離測定用レーザー送受信システム。
【請求項4】
前記送信手段は青〜黄の波長を有するレーザー光を照射する、請求項1に記載の水中距離測定用レーザー送受信システム。
【請求項5】
前記送信手段は間欠連続波レーザー光又はパルスレーザー光を照射する、請求項1に記載の水中距離測定用レーザー送受信システム。
【請求項6】
下側から上側に向けて順に、尖底部、阻止部、電源を収容した錘部、支柱部、耐圧収容部を配置して構成され、
上記阻止部は、該阻止部より上部が海底に埋設せず、上記尖底部を海底に埋設可能とし、
上記耐圧収容部は、レーザー光の送信方向や受信方向を制御するための制御手段を収容しており、
上記阻止部と上記錘部との接続、上記尖底部と上記阻止部との接続の何れか一方が外部信号により解除されて切り離し可能に接続されている、レーザースティック。
【請求項7】
複数の送受信装置を海底に設置して送受信装置間の距離を測定する、海中における距離測定方法であって、
一の送受信装置が探索用レーザー光を送信し、他の送受信装置がその探索用レーザー光を受信してその受信方向と逆方向に探索用レーザー光を送信し、上記一の送受信装置が上記他の送受信装置から送信された探索用レーザー光を受信して、上記一の送受信装置が上記他の送受信装置の方向を決定する、探索ステップと、
上記一の送受信装置が上記探索ステップで決定した方向に向けて測距用レーザー光を送信し、上記他の送受信装置が測距用レーザー光を受信すると上記一の送受信装置に対して信号を返送して、上記一の送受信装置と上記他の送受信装置との間の距離を測定する測距ステップと、
を含む、海中における距離測定方法。
【請求項8】
複数の送受信装置を海底に設置して送受信装置間の距離を測定する、海中における距離測定方法であって、
一の送受信装置が探索用レーザー光を送信し、他の送受信装置がその探索用レーザー光を受信してその受信方向と逆方向に探索用レーザー光を送信し、上記一の送受信装置が上記他の送受信装置から送信された探索用レーザー光を受信して、上記一の送受信装置が上記他の送受信装置の方向を決定する、探索ステップと、
上記一の送受信装置が上記探索ステップで決定した方向に向けて測距用レーザー光を送信すると共にその測距用レーザー光の参照信号を上記他の送受信装置に対して送信し、上記他の送受信装置が測距用レーザー光と参照信号とを受信して上記一の送受信装置と上記他の送受信装置との間の距離を測定する測距ステップと、
を含む、海中における距離測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196955(P2011−196955A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67087(P2010−67087)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【出願人】(394025094)三菱電機特機システム株式会社 (24)
【Fターム(参考)】