説明

水処理プロセス及びその浄水装置

【課題】大量の汚水から有機酸を高速で除く水処理プロセスと、浄水装置を提供する。
【解決手段】水処理プロセスは、凝集剤を用いて汚水中の有機物を凝集する工程と、前記汚水を加熱する工程とを備える。浄水装置は、有機物を含む汚水に凝集剤を添加する機構と、前記汚水を加熱する機構とを備える。汚水はポンプ21により、配管22を通って、第一の混合槽23に投入される。次に配管30を通って酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が第一の混合槽に投入される。その後、濾過部39からの液を加熱槽91に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚水を浄化するための凝集剤を用いた水処理プロセス及びその浄水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油田採掘等で発生する汚水には原油に共存していた大量の有機酸(酢酸,吉草酸,ナフテン酸等)が含まれてくる。これら有機酸を含有した状態で海や河川に放流した場合、生態系に与える影響が大きいので、これら有機酸を除去した後放流する必要がある。ただ、発生する汚水の量は膨大であり、高速で且つ大量の処理技術が求められている。さらには、処理プロセスの低コスト化や浄水装置の小型化が求められている。
【0003】
水中に懸濁している汚濁微粒子の除去方法として、例えば図1に示す方法が知られている。
【0004】
ポリ塩化アルミニウム(通称PAC)、或いは硫酸鉄を加え、粒子径がおおよそ数十〜数百μmの小さな凝集物であるマイクロフロック1を形成する。その後、引き続きポリアクリルアミド等のポリマを添加することにより、水中の汚濁微粒子2がおおよそ数百〜数千μmの粒子径であるフロック3と呼ばれる大きな凝集物を形成する。この凝集物の含まれた汚水を濾過層に通して分離,除去したり、或いはフロック形成時に磁性粉4を入れておいてフロック形成後、磁気を利用して分離する。
【0005】
これらの方法はいずれも汚濁微粒子を高速で除去できるが、水中に溶解している有機酸の除去が困難である。例えば一部の有機酸には、カルボキシル基を有するものがあり、そのカルボキシル基はフリーではなく、アンモニウム塩構造、或いはナトリウム塩構造等になっているため、より水に溶解しやすくなっている。また、有機酸には、酢酸,吉草酸,ナフテン酸等があり、分子量の小さい酸(例えば、炭素数の少ないもの)から分子量の大きい酸(炭素数の大きいもの)まで様々である。
【0006】
一方、有機酸は活性炭やイオン交換樹脂等に吸着させる方法で除去するのが一般的である。また逆浸透膜を用いて除去することも考えられる。例えば特許文献1は、繊維状活性炭を含有している接触材を使って有機酸を吸着・除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−144839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方活性炭やイオン交換樹脂等に吸着させる場合、吸着量は活性炭やイオン交換樹脂の表面積で決まる。そのため粒子サイズは小さい方が表面積は大きくなる。しかし小さすぎると活性炭やイオン交換樹脂を保持できなくなるため、取り扱いが困難になる。また活性炭は有機酸以外の有機物も吸着するので、有機酸より先に油分が付着すると吸着効率はすぐに低下してしまう。
【0009】
逆浸透膜は膜の表面の細孔に有機酸に限らず汚濁物質が詰まると使えなくなるので大量の汚水を高速で処理することが困難であった。
【0010】
このように、いずれも高速で大量の汚水から有機酸を除くことは困難であった。
【0011】
本発明の目的は、大量の汚水から有機酸を高速で除くことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の特徴は、凝集剤を用いて汚水中の有機物を凝集する工程と、前記汚水を加熱する工程とを備える水処理プロセスである。
【0013】
本発明の別の特徴は、有機物を含む汚水に凝集剤を添加する機構と、前記汚水を加熱する機構とを備えることを特徴とする浄水装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大量の汚水から有機酸を高速で除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の汚濁微粒子を凝集物化する方法である。
【図2】フロック(凝集物)形成のスキームである。
【図3】GC分析結果である。
【図4】GC分析結果である。
【図5】浄水装置の模式図である。
【図6】浄水装置の模式図である。
【図7】浄水装置の模式図である。
【図8】浄水装置の模式図である。
【図9】浄水装置の模式図である。
【図10】浄水装置の模式図である。
【図11】浄水装置の模式図である。
【図12】浄水装置の模式図である。
【図13】浄水装置の模式図である。
【図14】油分抽出,浄水システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態の水処理プロセスにおいて、有機酸を除去する工程は2つある。即ち、凝集剤を用いて、有機物を凝集物として除去する工程と、汚水を加熱することによって、水中の有機物を揮発させて除去する工程である。本実施形態では、これら2つの工程を用いて、水中のほとんどすべての有機酸、具体的には高分子量の有機酸から低分子量の有機酸までを除去する。
【0018】
初めに図2を用いて有機酸を凝集物に変化させる方法を説明する。ここでは酸性基としてカルボキシル基を有する水溶性高分子、カルボキシル基を有する有機酸で現しているが、酸性基がスルホン酸基の場合も同様である。また、三価の金属塩の例として、ここでは鉄の塩を示しているが、他の三価の金属(たとえばアルミニウム,ネオジム等)でも同様である。
【0019】
まず有機酸5を含む汚水にカルボキシル基を有する水溶性高分子6を添加する。これにより、汚水中に有機酸とカルボキシル基を有する水溶性高分子が共存する。この状態で鉄の塩7を加えると、鉄のイオンと有機酸のカルボキシル基、及び水溶性高分子のカルボキシル基がイオン結合する。こうして水に不溶の凝集物8が形成される。有機酸だけの場合は、鉄イオンと有機酸のカルボキシル基がイオン結合し、塩が形成するが、有機酸の分子量が数百程度であり、また生成した塩も平均分子量は数百〜数千程度であり、水に対してある程度溶解する。そのため、一部の塩しか沈殿しない。しかし、鉄イオンが水溶性高分子のカルボキシル基ともイオン結合することにより、その塩の分子量が数万になると、水に対して溶解しにくくなり塩のほとんどが沈殿する。また非常に大きな分子量を有する高分子の場合、鉄イオンと分子間で架橋するようにイオン結合する部分も出てくるので、より水に対して溶解しにくくなる。
【0020】
二価の金属塩を用いた場合は、架橋密度が低く、有機酸をイオン結合で捕捉した金属の一部しか凝集しないので、多くの有機酸を凝集させるには、金属は三価のものを用いることが望ましい。
【0021】
三価の金属塩と酸性基を有する水溶性高分子の添加順序は、三価の金属塩が後の方が有機酸除去率が高い傾向がある。これは後から酸性基を有する水溶性高分子を添加した場合、鉄イオンとイオン結合しないものが一部生じ、これが汚水中のTOC濃度を高めることがある。そのため、添加順序は先に酸性基を有する水溶性高分子を加えた後で三価の金属塩を加えるのが望ましい。
【0022】
また、三価の金属塩と酸性基を有する水溶性高分子を加える際はバルクでも効果はあるものの、汚水全体に広がるには時間がかかるので、水溶液の形で加えることが好ましい。特に酸性基を有する水溶性高分子が十分溶解しないうちに三価の金属塩を加えると、凝集が汚水中でも部分的にしか起こらず、有機酸除去が不十分になる懸念もあるので、この点からも水溶液の形で加えることが好ましい。
【0023】
金属塩の金属イオンは、有機酸のカルボキシル基、及び酸性基を有する水溶性高分子の酸性基とイオン結合するので、これらがほぼすべてイオン結合する量の金属塩を加えることが望ましい。この観点で考えると、加える金属塩の金属イオンのモル数をM、酸性基を有する水溶性高分子の酸性基のモル数をPA、汚水中の有機酸のモル数をMAとする時、下記不等式を満たすことが望ましい。
【0024】
3×M>MA+PA
従来の有機酸除去で最も一般的に用いられるイオン交換樹脂は粒子径が0.1〜2mm程度の樹脂粒子表面のアミノ基に有機酸がトラップさせる。粒子径が小さいほど粒子の表面積が大きくなるので多くの有機酸をトラップできる。しかし本実施形態の場合、加える凝集剤が水溶性のため、粒子径があたかも数オングストロームのイオン交換樹脂を用いたのと同じように高効率で有機酸をトラップできる。そのため従来のイオン交換樹脂を用いた場合に比べて同じ量だけ添加した場合の有機酸トラップ量は格段に大きくなる。
【0025】
次にこの凝集剤を用いた水処理プロセスについて述べる。本実施形態では、特にこの凝集剤を用いた新しいプロセスを提案する。
【0026】
有機酸を含む汚水(A)及び、凝集剤を用いて処理した水(B)をGC(Gas Chromatography)を用いて分析した。GC分析の結果を図3(A),(B)に示す。グラフ縦軸は、検出電圧であるが、検出された物質の量に比例する値である。即ち、検出電圧が高いほど検出された物質の量が多いことを意味する。横軸は、保持時間であり、一般には検出される物質の分子量と相関がある。即ち、保持時間が長い領域で検出される物質は、官能基によっても異なるが、一般には分子量が大きい(高分子量)物質であり、保持時間が短い領域で検出される物質は、分子量が比較的小さい(低分子量)物質である。また、今回は水中の有機成分をヘキサンで抽出し、その濃縮液でGC分析を実施しているために、GC分析結果では、ヘキサンによる出力がバックグラウンドとして検出される。
【0027】
図3(A)から、処理前の汚水(A)では、保持時間10分から保持時間25分くらいまで大きなピークが検出されている。このことは、汚水中に、分子量の小さい有機物から分子量の大きい有機物までが大量に含まれていることを意味する。一方、先の凝集剤を用いて処理した水(B)のGC分析結果(図3(B))では、検出されるピーク強度が大幅に低減していることがわかる。このことは、凝集剤によって水中の有機物がほぼ除去できたことを意味する。
【0028】
さらに詳細に検討するために、図4にヘキサンからのバックグラウンドを差し引いたGC分析結果を拡大して示した。水(B)の分析結果から、保持時間10から15分で僅かにピークの出現が見られる。また保持時間15分以上では、検出電圧はほぼゼロとなっている。このグラフから、本凝集剤では、分子量の大きな(保持時間が長い領域の)有機物はほぼ完全に除去できているが、分子量の小さな(保持時間が短い領域の)有機物が僅かに残存していることがわかる。
【0029】
次に、残存する低分子量の有機酸を除去するプロセスを説明する。この水処理プロセスは、凝集剤を用いて有機物を除去する工程と、汚水を加熱して有機物を除去する工程とを備える。汚水の温度が上がれば、どのように加熱してもよい。
【0030】
凝集剤処理後に水中に残存する低分子量の有機物は分子量が小さいため、一般的には揮発性が高い。従って、汚水を加熱することにより、このような低分子有機物を揮発させることによって除去することが可能となる。低分子有機物では、室温程度の温度でも一部は揮発しているが、少なくともその沸点近傍まで水を加熱することによって、水中から除去することが可能である。
【0031】
従って、積極的に有機物を揮発させるためには、加熱温度は、室温より高い温度(40℃以上)が望ましく、また水の沸点を考えると100℃未満が望ましい。さらに、オイルサンド排水などでは、排水温度そのものが60℃程度になる場合もあるので、積極的に低分子量有機物を除去するためには、60℃以上の加熱温度が望ましい。
【0032】
また設備の利用エネルギー効率向上を考えると、上記除去した低分子量有機物を回収し、再利用することが望ましい。例えば、回収した低分子量有機物を回収庫に貯蔵し、それを用いて燃焼させることにより、上記汚水加熱時の熱源を得る。このような低分子量有機物を回収、再利用することで、プロセスコストを低減することができる。
【0033】
以下、さらに本実施形態の水処理プロセスに関わる(1)凝集剤を用いた有機物除去と(2)汚水加熱による有機物除去について詳細を述べる。
【0034】
(1)凝集剤を用いた有機物除去
(A)凝集剤
(i)金属塩
金属塩の金属種としては、鉄,アルミニウム,ネオジム,ディスプロシウム等三価の金属が挙げられる。このうち、地球上に豊富に存在し安価で、入手しやすい点で鉄,アルミニウムが好ましい。また、より安価である点で鉄が望ましい。
【0035】
鉄の塩としては汚水のCOD濃度を高めないように、塩自身に炭素を含まない構造が望ましい。その観点で考えると酢酸鉄,プロピオン酸鉄等の有機酸の塩構造ではなく塩化鉄,硫酸鉄,硝酸鉄等の無機の塩の酸の塩が望ましい。
【0036】
アルミニウムの塩としてはポリ塩化アルミニウムが挙げられる。ポリ塩化アルミニウムは水酸化アルミニウムに塩酸を加えることにより合成される。構造は、[Al2(OH)nCl6-nmであり、1≦n≦5,m≦10である。
【0037】
これ以外の塩としては硫酸アルミニウムが挙げられる。
【0038】
ネオジム,ディスプロシウムといった希土類金属の場合は、水に対する溶解性が高い点で塩酸塩、或いは硫酸塩,硝酸塩が好ましい。
【0039】
(ii)酸性基を有する高分子
酸性基を有する高分子は酸性基としてカルボキシル基、あるいはスルホン酸基が考えられる。このうちカルボキシル基を有する高分子としては安価でかつ三価の金属イオンとイオン結合しやすい点でポリアクリル酸が最も好適である。このほかアミノ酸由来のポリアスパラギン酸,ポリグルタミン酸等も毒性が低いという特徴がある。
【0040】
アルギン酸はコンブ等海草の主成分の一種であり、原料が生物由来という点で環境負荷が小さい特徴を持つ。
スルホン酸基を有する高分子としてはポリビニルスルホン酸,ポリスチレンスルホン酸が挙げられる。これらスルホン酸基はカルボキシル基よりも酸性度が大きいため、金属イオンとのイオン結合を形成する割合が高く、安定な凝集物を得られる点で好ましい。
なお、カルボキシル基を有する高分子はおむつ,生理用品等、世の中で多々使われており、入手しやすく、且つ安価である点で、スルホン酸基を有する高分子より好適である。
【0041】
また、酸性基を有する高分子のうち水溶性が低い場合は酸性基をアンモニウム塩構造、或いはナトリウム塩構造,カリウム塩構造にすることで水に対する溶解性を向上させることが可能である。アンモニウム塩構造、或いはナトリウム塩構造,カリウム塩構造とした後、汚水に添加することで三価の金属イオンと効率良くイオン結合を形成することが可能である。
【0042】
ところで酸性基を有する高分子の平均分子量は低すぎると凝集物の架橋部位の数が少なくなるので凝集物の安定性が低くなる。また凝集物が粘度の高い液状になる傾向もある。こうなると濾過では凝集物の除去は困難になる。そこで酸性基を有する高分子の平均分子量は2,000以上が望ましい。
【0043】
なお、汚水の温度が40℃以上になると平均分子量が2,000の場合は凝集物が粘着性を有するようになる。オイルサンド排水の場合、温度が60℃程度まで高くなる場合もある。この場合は更に平均分子量を大きくすることで高温でも凝集物を固体化することが可能となる。具体的には平均分子量を5,000以上にすることで、汚水の温度が40℃でも凝集物を固体化が可能となる。よって酸性基を有する高分子の平均分子量は5,000以上がより好ましい。更に平均分子量を10,000以上にすることで、汚水の温度が60℃でも凝集物を固体化が可能となる。よって酸性基を有する高分子の平均分子量は10,000以上が更に好ましい。
【0044】
また分子量が大きくなりすぎると三価の金属イオンと架橋を形成途中で水に対して溶解性が低下し析出してしまう傾向がある。即ち汚水中にある有機酸と三価の金属イオンのイオン結合状態のもの全てとイオン結合による架橋を形成する前に汚水中に析出してしまう可能性があるということである。こうなると有機酸と三価の金属イオンのイオン結合状態の一部が汚水中に溶解した状態で残ってしまう。そのため酸性基を有する高分子の平均分子量は1,000,000以下であることが望ましい。
【0045】
なお、本実施形態において高分子の平均分子量は数平均分子量を示し、この値はGel permeation Chlomatography(ゲルパーメーションクロマトグラフィ)によって計測される。
【0046】
(iii)有機酸トラップ向上のための添加剤
有機酸の酸性基の酸性度が低い場合、三価の金属イオンとイオン結合を形成する割合が低下する。そこで、酸性基を有する高分子を添加する前に塩化ナトリウムや塩化カリウム等の無機塩を汚水に添加することにより三価の金属イオンとイオン結合する有機酸の割合が高まる。これは塩を添加して水中に溶解している有機物を析出させる塩析と類似の効果により、汚水中に溶解できる有機酸の許容割合が下がっていると推定している。
【0047】
添加する無機塩は塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウム,塩化カルシウム等のアルカリ金属、及びアルカリ土類金属の塩酸塩,硫酸ナトリウム,硫酸カリウム,硫酸マグネシウム,硫酸カルシウム等のアルカリ金属、及びアルカリ土類金属の硫酸塩,硝酸ナトリウム,硝酸カリウム,硝酸マグネシウム,硝酸カルシウム等のアルカリ金属、及びアルカリ土類金属の硝酸塩、等が挙げられる。
【0048】
また、本実施形態の凝集剤は汚水の液性は弱酸性から中性のときが、有機酸を凝集除去する性能が高い。pHで言えば、5〜7が最適である。汚水の液性がこの範囲に入っていなくても、有機酸の除去は可能であるが、除去率が低下したり、加える金属塩の割合を増加させる必要がある。
【0049】
塩化鉄や硫酸アルミニウム等の金属塩を添加すると液性は酸性に傾く。また酸性基を有する水溶性高分子を加えても汚水のpHは酸性に傾く。さらに凝集物が水中で不溶物として安定なのはpHが2〜5であり、この範囲から外れると凝集物は水に溶解しやすくなってくる。よって酸性基を有する水溶性高分子や金属塩を加える前の汚水のpHは5〜7が最適である。
【0050】
(B)凝集方法
(i)凝集方法の概略
以下、凝集方法の概略について(a)〜(e)に述べる。有機酸を凝集物にする方法は前述の図2の通りである。なお、酸性基を図2ではカルボキシル基で説明しているが、スルホン酸基でも同様である。
(a)有機酸5を含む汚水にカルボキシル基を有する水溶性高分子6を添加する。
(b)汚水中に有機酸とカルボキシル基を有する水溶性高分子が共存した形になる。
(c)鉄の塩7を加える。
(d)鉄のイオンと有機酸のカルボキシル基、及び水溶性高分子のカルボキシル基がイオン結合する。
(e)水に不溶の凝集物8が形成される。
【0051】
(ii)有機酸除去の向上策
有機酸の除去率を高める方法は後で加える高分子を添加する前に汚水中に無機の塩を添加しておく方法が挙げられる。これは前述したように塩析に類似の効果により除去率が高まるものと推定される。加える無機の塩は自然界に豊富に存在する塩化ナトリウムが好適である。特に海底油田の汚水処理の場合は海水中の平均塩化ナトリウム濃度が約3%なので、そのレベルまでは添加しても環境に与える影響は軽微なので特に好適である。
【0052】
なお、無機の塩を添加してから高分子を添加する。これは高分子の添加後に無機の塩を加えてもこれ以上は凝集しないためである。
【0053】
また、前述のように酸性基を有する水溶性高分子や金属塩を加える前の汚水のpHは5〜7に制御しておくことによっても有機酸除去率は向上する。
【0054】
(iii)凝集物大型化
前述(ii)のように酸性基を有する高分子の溶液を添加する際はなるべく激しく攪拌する方が有機酸を凝集物に効率的にトラップできる。しかし、攪拌が激しすぎると凝集物のサイズが小さくなりすぎ、濾過層を通す際に詰まりやすくなるので、処理速度が低下する恐れもある。
【0055】
汚水中に砂,油滴等の縣濁物質が共存していると、凝集の際凝集物の中にこれが取り込まれ、凝集物の大型化が進むことが明らかになった。さらに比重の大きな砂が凝集物に取り込まれると比重がUPし沈降しやすくなるので濾過等で凝集物を除去する際好適であることもわかった。
【0056】
(iv)縣濁物質の除去
本実施形態の凝集剤は汚水中の有機酸除去を目的としているが、上記のように縣濁物質も一緒に除去できる。そのため、従来縣濁物質除去で一般的なポリ塩化アルミニウムとポリアクリルアミドを用いた凝集を行う必要が無いので、水の浄化プロセス負荷(コスト,処理時間)低減につながるメリットがある。
【0057】
(v)磁気分離の適用
凝集物形成時に、凝集物内に磁性粉、或いは鉄粉を含有させておくことで磁気分離による凝集物除去が可能になる。
【0058】
ただ金属塩を添加した後では凝集が起こってしまうため凝集物内に磁性粉、或いは鉄粉を入れることが困難なので、金属塩を添加する前か、磁性粉を金属塩と一緒に汚水に添加することで凝集物内に含有させることが可能になる。
【0059】
(2)汚水加熱による有機物除去
先に述べたように、高分子量の有機酸は、凝集剤を用いた工程で除去することが可能であるが、低分子量の有機酸が、一部水中に残存する。このような、低分子量の有機酸などは、一般的に揮発性が高い。従って、水中に、このような有機物を含んでいる場合には、水を加熱することによって、揮発過程を促進させ、水中から有機物を除去することが可能となる。
【0060】
なお、この加熱工程は、先の凝集剤を用いた工程より前の工程であってもよいし、後ろの工程であってもよい。ただし、凝集剤を用いた有機物除去の工程と、水を加熱して有機物を除去する工程は、異なる工程であり、同時に実施する工程ではない。
【0061】
加熱時の水の温度は、40℃から100℃の間が望ましい。積極的に有機物を揮発させるためには、加熱温度は、室温より高い温度(40℃以上)が望ましく、また水の沸点を考えると100℃未満が望ましい。さらに、オイルサンド排水などでは、排水温度そのものが60℃程度になる場合もあるので、オイルサンドから排出されるような排水に対して、積極的に低分子量有機物を除去するためには、60℃以上の加熱温度が望ましい。
【0062】
次に本実施形態の浄水装置について説明する。上記で述べた水処理プロセスを具体的に実現する装置である。
【0063】
1)浄水装置の形態1
本実施形態の浄水装置の基本構成について図5を使って説明する。
汚水はポンプ21により、配管22を通って、第一の混合槽23に投入される。この中の液体はオーバーヘッドスターラー24によって攪拌される。ここで、汚水の液性を確認する。この図では省略されているが液性を確認するためのpHセンサが第一の混合槽中に設けられている。
【0064】
ここで、汚水のpHが7を超える場合は、塩酸の水溶液のタンク25からポンプ26により、配管27を通って塩酸の水溶液が第一の混合槽に投入される。なお、塩酸の代わりに硫酸,硝酸等の他の無機の酸を用いても良い。
【0065】
ここで、汚水のpHが5未満の場合は、塩酸の水溶液ではなく水酸化ナトリウムの水溶液を加える。こうして液性を制御する。なお、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウム等の他のアルカリ金属の水酸化物を用いても良い。
【0066】
次に酸性基を有する水溶性高分子の水溶液のタンク28からポンプ29により、配管30を通って酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が第一の混合槽に投入される。
第一の混合槽内の汚水に酸性基を有する水溶性高分子の水溶液を混合させた後、第一の混合槽中の液をポンプ31を用いて、配管32を通して第二の混合槽33に投入する。この中の液体はオーバーヘッドスターラー34によって攪拌されている。
【0067】
次に三価の金属塩の水溶液のタンク35からポンプ36により、配管37を通って三価の金属塩の水溶液が第二の混合槽に投入される。
三価の金属塩の水溶液を投入すると第二の混合槽中で凝集物が生成する。凝集物が混ざった状態の液はバルブ38を開けることにより濾過部39に流れ込む。流れ込んだ液は濾過用の砂からなる濾過層40で濾過され、その後多孔質部材41により、再度濾過され有機酸が低減された水として出てくる。
【0068】
図5では濾過部を2セット有している装置を示している。始めに左側の濾過部で濾過処理を行い、濾過層が詰まり、濾過速度が低下した場合は、右側の濾過部で濾過処理を行うようにする。右側で濾過処理中に、左側の濾過部の濾過層を交換する等の処置をすることで、濾過処理を極力滞らないようにすることが可能となる。
【0069】
配管37の第二の混合槽に液を投入する部分の先端42はストレートではなく、扇状に広げたり、シャワーの口のように広げ、液がなるべく広範囲に第二の混合槽中に投入するようにすることが好ましい。これは投入に伴い、瞬時に凝集が始まるため、狭い面積に投入すると、投入した液が凝集物に内包され、更なる凝集物生成に生かされないためである。
【0070】
配管32、及び配管37の第二の混合槽に液を投入する部分の先端は、第二の混合槽の液面に接触しないよう、液の投入口は液面の上に設ける。これは第二の混合槽で生成する凝集物が配管等の先端に付着し、先端の穴を塞ぐ恐れがあるためである。
【0071】
さらに、濾過部39からの液を加熱槽91に投入する。加熱槽は、ヒーター92などを用いて、40℃から100℃の間で所定の温度になるように、加熱している。また、加熱槽の中の液体はオーバーヘッドスターラー93によって攪拌されている。
この加熱処理した水を取りだすことによって、低分子量から高分子量の有機物を除去した浄水を得ることができる。
【0072】
なお、ここで示した装置では、加熱槽という水を貯蔵する浴槽を用いているが、加熱工程部分については、パイプラインでもよい。パイプラインとすることで、水を貯蔵する必要がなく、装置の省スペース化などが期待できる。また、大量の浴槽を加熱することに比べて、パイプラインの径などを調整することにより、加熱することが容易となり、省エネルギー化に貢献できる。
【0073】
2)浄水装置の形態2
本実施形態の浄水装置のうち沈降槽を有するものの基本構成について図6を使って説明する。
この装置の構成は濾過部の代わりに、沈降槽43を持つ。この構成により凝集物を沈降槽下部に沈殿させ、上澄み液を次の加熱槽91に投入し、上記形態1と同様の処理により、低分子量から高分子量の有機物を除去した浄水を得ることができる。
【0074】
3)浄水装置の形態3
本実施形態の浄水装置のうち濾過部に濾過層の目詰まりを防止する機構を有するものの基本構成について図7を使って説明する。
【0075】
濾過処理を続けていくと、濾過層40は凝集物により表面が目詰まりを起こし、濾過速度が低下してくる。そこで図5の装置では濾過層の上面付近に表面に凹凸のあるディスク44を配置し、これをモーターで回転させる濾過層攪拌機構45を設けた。これにより濾過層の上部表面を削り、凝集物による目詰まりを解消することで、濾過を円滑に行うことが可能となる。ここで得られた液を次の加熱槽91に投入し、上記形態1と同様の処理により、低分子量から高分子量の有機物を除去した浄水を得ることができる。
【0076】
4)浄水装置の形態4
本実施形態の浄水装置のうち磁気分離方式を利用したものの基本構成について図8を使って説明する。
汚水はポンプ51により、配管52を通って、第一の混合槽53に投入される。この中の液体はオーバーヘッドスターラー54によって攪拌される。ここで、汚水の液性を確認する。この図では省略されているが液性を確認するためのpHセンサが第一の混合槽中に設けられている。
【0077】
ここで、汚水のpHが7を超える場合は、塩酸の水溶液のタンク55からポンプ56により、配管57を通って塩酸の水溶液が第一の混合槽に投入される。汚水のpHが5未満の場合は、塩酸の水溶液ではなく水酸化ナトリウムの水溶液を加える。こうして液性を制御する。
【0078】
次に酸性基を有する水溶性高分子の水溶液のタンク58からポンプ59により、配管60を通って酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が第一の混合槽に投入される。
【0079】
第一の混合槽内の汚水に酸性基を有する水溶性高分子の水溶液を混合させた後、第一の混合槽中の液をポンプ61を用いて、配管62を通して第二の混合槽63に投入する。この中の液体はオーバーヘッドスターラー64によって攪拌されている。
【0080】
次に三価の金属塩の水溶液のタンク65からポンプ66により、配管67を通って第二の高分子水溶液が第二の混合槽に投入される。金属塩の水溶液を投入すると第二の混合槽中で凝集物が生成する。
【0081】
ところで金属塩の水溶液のタンク内は金属塩の水溶液と鉄粉などの磁性粉を混合するためのオーバーヘッドスターラー68(タンク内にある羽根等は図示していない)を設ける。なお、金属塩の水溶液と磁性粉は第二の混合槽に別々に入れることも可能であるが、凝集物に含有する磁性粉の単位堆積あたりの密度に偏りが生じる傾向があるので、本装置のようにあらかじめ混合後に第二の混合槽へ投入する方法が望ましい。或いはあらかじめ第一の混合槽で混合しても同様の効果が得られる。
【0082】
生成した凝集物には磁性粉が混ざった状態である。この凝集物は表面がメッシュ状で磁気を帯びているドラム69に付着する。ドラムはこの図では時計回りに回転し、表面に付着した凝集物はスクレイパー70によってドラムのメッシュから剥がされる。剥がされた凝集物は下面がメッシュ状になった凝集物集積容器71に集められる。集められたばかりの凝集物はかなりの水分を含んでいるので、凝集物集積容器下面のメッシュから排水される。
【0083】
一方、ドラムのメッシュを通り抜けた水はメッシュにより凝集物が除かれた状態になっている。この水は低減された水としてドラムの中心部分にある配管72を通って出てくる。
ここで得られた液を次の加熱槽91に投入し、上記形態1と同様の処理により、低分子量から高分子量の有機物を除去した浄水を得ることができる。
【0084】
配管67の第二の混合槽に液を投入する部分の先端73はストレートではなく、扇状に広げたり、シャワーの口のように広げ、液がなるべく広範囲に第二の混合槽中に投入するようにすることが好ましい。これは投入に伴い、瞬時に凝集が始まるため、狭い面積に投入すると、投入した液が凝集物に内包され、更なる凝集物生成に生かされないためである。
【0085】
配管62、及び配管67の第二の混合槽に液を投入する部分の先端は、第二の混合槽の液面に接触しないよう、液の投入口は液面の上に設ける。これは第二の混合槽で生成する凝集物が配管等の先端に付着し、先端の穴を塞ぐ恐れがあるためである。
【0086】
この装置では磁気分離するためのドラムを設けず、凝集物を沈降後、濾過する機構を設けても良い。凝集物は磁性粉を含有しているため、比重が大きくなり、沈みやすくなる。そこで、大半の凝集物を第二の混合槽の下に沈め、上澄みを濾過することにより、磁気分離を行わなくても水の浄化が可能となる。
【0087】
5)浄水装置の形態5
本実施形態の浄水装置のうち磁気分離方式でドラムを2個備えたものの基本構成について図9を使って説明する。
この装置は表面がメッシュのドラム69上に凝集物を集めた後、ドラム内部から少量の水を吹き出し、これにより凝集物をドラムのメッシュ上から剥がし、ドラム74の方に飛ばし、ドラム74の表面に付着させる。このドラムの表面はメッシュではなく金属板である。
【0088】
凝集物を剥がす際、メッシュ表面をスクレイパーで擦るが、この時メッシュにスクレイパーが引っかかり、メッシュを破損することがある。
【0089】
しかし、本装置ではスクレイパーで凝集物を剥がす際、接触するのはメッシュに比べて丈夫な金属板であるため、スクレイパーによる破損を起こしにくいため好適である。
【0090】
6)浄水装置の形態6
本実施形態の浄水装置のうち磁気分離方式で凝集物除去槽75を別に設けたものの基本構成について図10を使って説明する。
これは第二の混合槽で形成した凝集物を、同じ槽中で磁気分離するのではなく、別の槽(凝集物除去槽)に移し、そこで磁気分離を行うものである。凝集物除去槽に入れる処理水の量はバルブ76で制御する。
【0091】
この構成にすることで、磁気分離前にかなりの割合の凝集物が第二の混合槽中に残り、磁気分離で除去する凝集物の量が少なくなる。そのため、ドラムのメッシュが詰まりにくくなり、メッシュへのメンテナンスの軽減が図れるため、好適である。
【0092】
7)浄水装置の形態7
本実施形態の浄水装置のうち磁気分離方式でドラムが1個で且つ凝集物除去槽77を別に設けたものの基本構成について図11を使って説明する。
これは凝集物除去槽の底とドラムの距離を小さくすることで、凝集物をドラムにほぼ完全に付着させる。こうしてドラム1個で浄化を行う。ドラムに付着した凝集物はスクレイパーで取り除く。この方式はドラムが1個で浄化できるため凝集物除去槽、ひいては装置の省スペース化が図れるため、好適である。
【0093】
8)浄水装置の形態8
以上で示した浄水装置では、加熱槽が、凝集剤を用いる工程の後に配置される装置であった。しかし、加熱槽は、凝集剤を用いる工程の前に配置されてもよく、その基本構成について、図12を使って説明する。なお、加熱槽を、凝集剤を用いる工程の前に配置する構成は、先の形態2から形態7に示した装置においても同様に適用することができる。
【0094】
汚水はポンプ94により、配管95を通って、加熱槽91に投入される。この中の液体はオーバーヘッドスターラー93によって攪拌されている。この加熱処理した水は、さらにポンプ21により、配管22を通って、第一の混合槽23に投入される。この中の液体はオーバーヘッドスターラー24によって攪拌される。ここで、汚水の液性を確認する。この図では省略されているが液性を確認するためのpHセンサが第一の混合槽中に設けられている。
【0095】
ここで、汚水のpHが7を超える場合は、塩酸の水溶液のタンク25からポンプ26により、配管27を通って塩酸の水溶液が第一の混合槽に投入される。なお、塩酸の代わりに硫酸,硝酸等の他の無機の酸を用いても良い。
【0096】
次に酸性基を有する水溶性高分子の水溶液のタンク28からポンプ29により、配管30を通って酸性基を有する水溶性高分子の水溶液が第一の混合槽に投入される。
【0097】
第一の混合槽内の汚水に酸性基を有する水溶性高分子の水溶液を混合させた後、第一の混合槽中の液をポンプ31を用いて、配管32を通して第二の混合槽33に投入する。この中の液体はオーバーヘッドスターラー34によって攪拌されている。
【0098】
次に三価の金属塩の水溶液のタンク35からポンプ36により、配管37を通って三価の金属塩の水溶液が第二の混合槽に投入される。
【0099】
三価の金属塩の水溶液を投入すると第二の混合槽中で凝集物が生成する。凝集物が混ざった状態の液はバルブ38を開けることにより濾過部39に流れ込む。流れ込んだ液は濾過用の砂からなる濾過層40で濾過され、その後多孔質部材41により、再度濾過され有機酸が低減された水として出てくる。
【0100】
9)浄水装置の形態9
以上で示した浄水装置では、さらに加熱工程によって回収した低分子量有機物を燃料として再利用することで、加熱工程の熱源として利用する。この有機物回収及び熱源利用の過程を図13を用いて説明する。
【0101】
加熱工程で揮発してくる低分子量有機物101を、配管102から回収し、その回収過程で冷却(冷却設備103)したものを貯蔵庫104に保管する。この貯蔵した有機物を燃焼させるなどして、ここで発生した熱を加熱槽の熱源として利用する。これにより、資源を再利用し、低コストな浄水装置を得ることができる。
【0102】
10)浄水装置の形態10
本実施形態の油分回収,浄水システムの基本構成について図14を使って説明する。
油分抽出プラント81ではオイルサンドに水蒸気を吹き込み、油分を砂から分離する。水蒸気を吹き込むと、油分が加熱され、粘土が低下し水蒸気由来の熱水と混合された油濁水として、砂から分かれる。油濁水は放置することにより比重の違いで油分と水分に分離するので、上層の油分(通称ビチュメン)を回収することにより油分抽出は終了する。抽出された油分は、製油工程で沸点の違いにより、ガソリン,重油,アスファルト等に分離し、各種産業で使われる。
【0103】
ところで油分抽出プラントから排出された油分の混合した汚水は配管82を通って浄水装置83に送られる。ここで油分,有機酸等を除去されることで浄化された処理水は配管84を通って、水蒸気発生装置85に送られる。処理水はこの装置で加熱されて水蒸気となり、配管86を通って油分抽出プラントに送られる。この水蒸気が再びオイルサンドから油分を抽出する工程に用いられる。
【0104】
水蒸気発生装置で水蒸気を製造するため処理水を加熱する工程では浄水装置からベルトコンベア87によって凝集物を運搬する。凝集物は油分や有機酸,酸性基を有する水溶性高分子を含んでおり、処理水を加熱する工程で燃料の一部として燃やすことにより、廃棄物を削減できる効果がある。
【0105】
本実施形態の実施例を以下に示す。なお、本発明は、これら実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0106】
有機酸としてナフテン酸が220ppm溶解している試験水1リットル(ナフテン酸としては1mmol)を準備する。この水を今後「模擬汚水」とする。この模擬汚水のpHは6.9であった。
【0107】
ところで、ナフテン酸は環状炭化水素のカルボン酸の総称であり、環のサイズ,分岐のアルキル鎖の有無などにより分子量は異なる。本実施形態の実験では、これらの混合物を入手し、平均分子量を測定後使用した。測定によると平均分子量は220であった。また、ナフテン酸を水に溶解するため、ナフテン酸を予めアンモニウム塩構造にして加えた。
【0108】
上記模擬汚水を攪拌中、酸性基を有する高分子としてカルボキシル基を有するポリアクリル酸(平均分子量は250,000)の5重量%水溶液1.44g(酸性基であるカルボキシル基の数としては1mmol)を加える。
【0109】
更に三価の金属の塩として塩化鉄(III)の10重量%水溶液1.62g(鉄イオンの数としては1mmol)を加えると凝集物が析出する。この凝集物を濾取し、濾過液をさらに95℃に加熱することによって浄化水を得た。この浄化水をGCで定量したところ、ナフテン酸濃度は1ppm以下に低下した。なお、加熱前の水を分析した結果では、ナフテン酸濃度は10ppmであった。
【0110】
本実施形態のプロセスにより水に溶解しているナフテン酸(分子量の小さいナフテン酸から分子量の大きなナフテン酸まで)の除去が可能であることを確認した。
【0111】
本実施例では、水処理量が1リットルと少量であるが、大量の水においても同様の処理が可能であり、同様の効果が期待できる。
【実施例2】
【0112】
塩化鉄(III)の10重量%水溶液の代わりに、10重量%硫酸鉄水溶液2g(鉄イオンの数としては1mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。浄化水をGC分析で定量したところ、ナフテン酸濃度は1ppm以下に低下した。
【実施例3】
【0113】
塩化鉄(III)の10重量%水溶液の代わりに、10重量%ポリ塩化アルミニウム水溶液1.06g(アルミニウムイオンの数としては1mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。浄化水をGC分析で定量したところ、ナフテン酸濃度は1ppm以下に低下した。
【実施例4】
【0114】
塩化鉄(III)の10重量%水溶液の代わりに、10重量%硫酸アルミニウム水溶液1.71g(アルミニウムイオンの数としては1mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。浄化水をGC分析で定量したところ、ナフテン酸濃度は1ppm以下に低下した。
【0115】
以上実施例2から実施例4において、鉄やアルミニウム等の三価の金属の塩酸塩、あるいは硫酸塩といった金属塩を用いることにより、ナフテン酸を除去可能であることが示された。
【実施例5】
【0116】
ポリアクリル酸の5重量%水溶液1.44gの代わりに、ポリメタクリル酸の5重量%水溶液1.72g(酸性基であるカルボキシル基の数としては1mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。浄化水をGC分析で定量したところ、ナフテン酸濃度は1ppm以下に低下した。
【実施例6】
【0117】
ポリアクリル酸の5重量%水溶液1.44gの代わりに、ポリスチレンスルホン酸の10重量%水溶液1.84g(スルホン酸基の数としては1mmol)を用いて、実施例1と同様の操作を行った。浄化水をGC分析で定量したところ、ナフテン酸濃度は5ppm以下に低下した。
【0118】
酸性基を有する高分子としてスルホン酸基などを有する水溶性高分子を用いても水に溶解している有機酸を除去できることが確かめられた。
【実施例7】
【0119】
実施例1において塩化鉄の水溶液にフェライト系の磁性粉を100mg添加した後、模擬汚水に添加した。凝集物が生成後、模擬汚水内に永久磁石を入れ、30秒後に引き上げると、凝集物の約90%が磁石表面に付着した。残りは試験水を入れた容器の表面にこびり付いていた。
【0120】
凝集物を除いた模擬汚水中のナフテン酸の濃度は10ppmであった。さらにこの水を95℃に加熱することによって浄化水を得た、この浄化水をGC分析で定量したところ、ナフテン酸濃度は1ppm以下であった。
【0121】
以上より、磁性粉、及び磁石を用いることにより、濾過を行わなくとも、試験水中から有機酸を除去できることが確認された。
【0122】
なお塩化鉄の水溶液を加える前、具体的には酸性基を有する高分子の水溶液に磁性粉を混合させても同様の結果であった。
【符号の説明】
【0123】
1 マイクロフロック
2 汚濁微粒子
3 フロック
4 磁性粉
5 有機酸
6 カルボキシル基を有する水溶性高分子
7 鉄の塩
8 凝集物
21,26,29,31,36,51,56,59,61,66,94 ポンプ
22,27,30,32,37,52,57,60,62,67,72,82,84,86,95 配管
23,53 第一の混合槽
24,34,54,64,68,93 オーバーヘッドスターラー
25,55 塩酸の水溶液のタンク
28,58 酸性基を有する水溶性高分子の水溶液のタンク
33,63 第二の混合槽
35 三価の金属塩の水溶液のタンク
38,76 バルブ
39 濾過部
40 濾過層
41 多孔質部材
42,73 第二の混合槽に液を投入する部分の先端
43 沈降槽
44 表面に凹凸のあるディスク
45 濾過層攪拌機構
65 金属塩の水溶液のタンク
69,74 ドラム
70 スクレイパー
71 凝集物集積容器
75,77 凝集物除去槽
81 油分抽出プラント
83 浄水装置
85 水蒸気発生装置
87 ベルトコンベア
91 加熱槽
92 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤を用いて汚水中の有機物を凝集する工程と、
前記汚水を加熱する工程とを備えることを特徴とする水処理プロセス。
【請求項2】
前記汚水を加熱する工程の後に、前記汚水を加熱する工程によって揮発した前記有機物を回収する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の水処理プロセス。
【請求項3】
前記回収した有機物を、前記汚水を加熱する工程の燃料に用いることを特徴とする請求項2に記載の水処理プロセス。
【請求項4】
前記凝集剤は、酸性基を有する高分子と三価の金属塩とを含むことを特徴とする請求項1に記載の水処理プロセス。
【請求項5】
前記酸性基を有する高分子は、カルボキシル基であることを特徴とする請求項4に記載の水処理プロセス。
【請求項6】
前記汚水を加熱する工程は、前記水を40℃以上100℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載の水処理プロセス。
【請求項7】
前記汚水を加熱する工程は、前記水を60℃以上100℃以下とすることを特徴とする請求項1に記載の水処理プロセス。
【請求項8】
前記有機物を凝集する工程は、磁性粉を加える工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の水処理プロセス。
【請求項9】
有機物を含む汚水に凝集剤を添加する機構と、
前記汚水を加熱する機構とを備えることを特徴とする浄水装置。
【請求項10】
前記凝集剤は、酸性基を有する高分子と三価の金属塩とを含むことを特徴とする請求項9に記載の浄水装置。
【請求項11】
磁性粉を加える機構を備えることを特徴とする請求項9に記載の浄水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−10084(P2013−10084A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145156(P2011−145156)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】