説明

水処理剤及び水処理方法

【課題】排水中に含まれるホウ素、フッ素の除去を行うための経済的かつ効果的な水処理剤及び水処理方法を提供する。
【解決手段】生石灰、消石灰と硫酸アルミニウムを含有し、さらに水処理剤に鉄化合物を含有してもよい水処理剤を用い、ホウ素、フッ素等の有害物質含有排水を水処理するにあたり、ホウ素含有排水の場合はpH9.0〜13.0に、フッ素含有排水の場合はpH5.0〜12.0に、ホウ素とフッ素の両方を含む排水の場合はpH9.0〜13.0にコントロールした後、生石灰は粉末として、あるいは20質量%以下のスラリーとして、排水に添加し、有害物質を凝集分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物イオン等の共存する排水、あるいはホウ素・フッ素の共存する排水中のホウ素、フッ素等の効率的除去を行うための水処理剤、及びこれらの水処理剤を用いた水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素・フッ素は、工業原料、下水、廃棄物等に含まれるとともに、自然界にも多く存在する。最近の環境省の調査では、製造事業場のうちホウ素化合物を使用する事業場は19%、フッ素化合物を使用する事業場は22%となっており、これらを用いる製造事業場は非常に多い。
【0003】
経済産業省、環境省が作成した平成18年度PRTR資料によると、公共水域への有害物質の排出量は、ホウ素及びその化合物、フッ化水素及びその水溶液塩、マンガン及びその化合物、亜鉛の水溶性化合物などの順となっている。また、公共水域に排出される対象化学物質合計排出量100,500t/年のうち、ホウ素及びその化合物は29%、さらにフッ素化合物及びその水溶塩は26%と上位の2種を占めている。従って、ホウ素、フッ素の新規で有効な排水処理技術を確立することは社会的に大いに意義がある。
【0004】
一方、ホウ素・フッ素等の排水規制については、平成11年に、WHO飲用水質ガイドラインや水道水水質基準等を参考に、環境基準が設定された。これを受けて、平成13年には新たなホウ素・フッ素等に関する排水基準として、ホウ素及びその化合物:10mg/L以下、フッ素及びその化合物:8mg/L以下の一律排水基準が設定された。
【0005】
しかしながら、実際の運用においては、経済的な処理方法が確立されていないため、技術的課題を有する業種については、3年の期限で暫定排水基準を設定し、さちに、26業種については、結果として平成19年7月まで暫定措置の延長がなされた。また、平成19年7月以降も、一部の業界においては暫定排水基準値の強化や暫定排水基準値のまま延長し運用が行われている。以上に述べた背景により、ホウ素フッ素の水処理を効率的に行う技術を確立することは、極めて社会的意義が大きいことである。
【0006】
石炭火力発電所における排煙脱硫排水等は、石炭由来のホウ素、フッ素、ヒ素、セレン、六価クロムなどを含有する。なかでもホウ素の濃度レベルは数十〜数百mg/Lとなっており、排出量は最も多い。一般的な排煙脱硫排水には塩化物イオンが2,000〜8,000mg/L、硫酸イオンが3,000〜8,000mg/L含まれる。また、フッ素イオンは10〜50mg/L含まれ、そのために以下に述べるように排水処理が困難となる。
【0007】
一方、最近では中国やインドの工業化に伴う石炭の消費量が増加し、これにより石炭価格の高騰が生じ、有害物質の含有量が多い石炭を使用する傾向となってきている。これにより、排煙脱硫排水に含まれるホウ素、フッ素、セレン等の濃度上昇は避けられず、これを効率的に、経済的に処理する技術の開発が求められている。
【0008】
ホウ素の排水処理を行う既存技術としては、例えば、特許文献1では塩化物イオンを多く含むホウ素の水処理方法としてイオン交換樹脂を用い、これを再生して用いる方法が記載されている。これは通常の凝集分離法では塩化物が多い排水のホウ素を処理する効率が悪いことによる。また、特許文献2では、カルシウム塩とアルミニウム塩を用いた多段処理によるホウ素水処理方法が開示されている。これは1回の凝集分離処理のみでは処理効率が悪いため、この改善を行うために考案された方法である。
【0009】
特許文献3では硫酸アルミニウムと消石灰を用いた最適なホウ素水処理剤の調製方法などについて記載し、特許文献4ではカルシウム、アルミニウムイオンにより析出物を形成しホウ素を除去後、蒸留濃縮を組み合わせて行うホウ素の水処理方法について開示が行われている。また、文献5にはアルカリ土類金属とアルミニウム塩を加えて3工程に処理を分割し処理効率を高める方法などが提案されている。
【0010】
特許文献6においては、フッ素含有水をアルミニウム含有水と共に安定的に効率的に凝集処理を行う方法について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−198581号公報
【特許文献2】特開2003−236562号公報
【特許文献3】特開2007−301456号公報
【特許文献4】特開平7−323292号公報
【特許文献5】特開2005−262186号公報
【特許文献6】特開2007−160176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、これまでホウ素、フッ素の水処理方法として種々の関連技術が考案されてきたが、経済性の観点から、現在行われている処理方法は「硫酸バンド法」とよばれる消石灰と硫酸アルミニウムを用いた水処理方法とこれを多段処理やスラッジの返送プロセスなどと組合せることで効率化を図る方法が主流となっている。
【0013】
製造業における排水、廃棄物処分場の排水などには一般的に、塩化物イオンや硫酸イオンが高濃度で共存することが多い。しかしながら、前記の消石灰と硫酸アルミニウムによる水処理方法では、硫酸イオンによる阻害はほとんどないが、排水中に塩化物イオン等が含まれると、この影響で処理効果が大きく低下する問題点があった。また、ハイドロタルサイトなどの陰イオン吸着剤を用いる方法では、排水中に硫酸イオンや、塩化物イオンなどが共存する場合は、これらも吸着してしまうため、本来の優れた水処理効果を発揮することができない。従って、前記のように共存イオンが存在する排水処理では、現状では、ホウ素選択性が比較的高いイオン交換樹脂を用いる方法を行う以外にないが、この処理コストは非常に高価である。
【0014】
また、ホウ素とフッ素が共存する排水においては、フッ素の選択性がホウ素より大きいため、ホウ素を低濃度まで除去することが困難となる問題点がある。このように、共存イオンの伴う排水中のホウ素処理については、以上の理由により未だ経済的な処理技術が確立させるに至っていない。
【0015】
すなわち、本発明は、塩化物イオンが排水中に高濃度に含まれる排水やホウ素、フッ素の共存する排水においても、ホウ素、フッ素等の処理を行うための経済的かつ効果的な水処理剤及び水処理方法を提供することを目的とする。また、ホウ素、フッ素の排水処理は大企業のみならず、中小の様々な製造業やその他の産業でも課題となっており、シンプルで安価な処理装置を用いた水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の水処理剤は、硫酸アルミニウム及び生石灰より構成されることを特徴とする。
【0017】
また、上記において、消石灰を含有することを特徴とする。
【0018】
また、上記において、鉄化合物を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の水処理方法は、上記の本発明の水処理剤を排水に添加することを特徴とする。
【0020】
また、上記において、生石灰又は消石灰を粉末として排水に添加することを特徴とする。
【0021】
また、上記において、生石灰又は消石灰の含有量が20質量%以下のスラリーを排水に添加することを特徴とする。
【0022】
また、上記において、排水のpHを9.0〜13.0にコントロールし、ホウ素を含有する排水を処理することを特徴とする。
【0023】
さらに、上記において、排水のpHを5.0〜12.0にコントロールし、フッ素を含有する排水を処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水処理剤及び水処理方法は、最も安価なアルカリ原料である生石灰、消石灰と硫酸アルミニウム、鉄化合物を用いるものである。本発明の水処理剤、水処理方法は排水中の塩化物イオンや硫酸イオンによる処理効果への阻害は少ない。本発明の水処理剤を排水に添加し混合攪拌を行うことで、従来技術では処理が困難であった塩化物イオンを含む排水や、あるいはホウ素、フッ素が共存する排水中のホウ素、フッ素処理を効率的に、経済的に行うことができる。また、この水処理剤はリン酸の除去等にも好適に用いることができる。
【0025】
前記、水処理剤に鉄化合物を混合して用いる場合は、排水中のホウ素、フッ素の処理に加え、セレン、ヒ素、六価クロム、鉛、カドミウム、水銀、銅、亜鉛、モリブデン、ニッケル、アンチモン等の有害イオンの除去を効率よく行うことが可能である。本発明では、このような特徴を生かしてフッ素やホウ素を併せて含む排煙脱硫排水や、フッ素と前記の有害物質等を共存する工場排水などの処理、地下水、土壌浸出水等の処理についても、確実に、効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の水処理剤、水処理方法について詳細に説明する。
【0027】
本発明の水処理剤は硫酸アルミニウムと安価なアルカリ原料である生石灰粉末とを用いる事を特徴とする。また、これに消石灰粉末を含有させても良く、さらに鉄化合物を含有させてもよい。
【0028】
本発明の水処理方法は前記水処理剤成分である生石灰、消石灰粉末を粉体のまま排水に添加する方法を特徴とする。あるいは、生石灰、消石灰粉末を濃度20質量%以下のスラリーとして排水に添加することを特徴とする。
【0029】
本発明の水処理剤及び水処理方法は、上記によりホウ素、フッ素を含有する排水を効率よく処理することができ、また、これは塩化物イオンを高濃度に含んでいても大きな阻害を受けることはない。また、ホウ素、フッ素が共存する排水中でも、ホウ素、フッ素の両者を低濃度まで効率よく処理することが可能である。
【0030】
本発明の水処理剤に鉄化合物を含有させる場合は、ホウ素、フッ素のほかにセレン、六価クロム、ヒ素、鉛、水銀、カドミウム、銅、亜鉛、モリブデン、ニッケル、アンチモンなどの処理も行うことができる。
【0031】
本発明の水処理剤には硫酸アルミニウムを用いるが、これは粉末状でも、液状でも良い。このほか、アルミニウム原料として、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、カリミョウバンなど、さらにはメタカオリン等のアルミニウム含有鉱物粉末などを硫酸アルミニウムと組み合わせて用いることが挙げることができるが、いずれもホウ素、フッ素を処理する場合の効率は低下する。
【0032】
本発明の水処理剤として用いる生石灰は天然鉱物である石灰石(炭酸カルシウム)を900℃以上で焼成し、粒度調整を行ったものである。また、この生石灰に水を加えて水和反応を生じさせたものが消石灰となる。
【0033】
生石灰の一般的な工業製品としては、最大粒径百mm〜数十μm粒径の製品があるが、本発明の水処理には粒径0.5mm以下の物を用いることが望ましい。また、経済性の許す限り、細かい粒径であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の水処理剤は消石灰を含有させて用いることができる。この消石灰の粒径につては粒径0.6mm以下のものを用いることが好ましい。
【0035】
前記のように、アルミニウム化合物、カルシウム化合物を組み合わせたホウ素、フッ素の水処理方法は従来から行われているが、これまでに生石灰を用いた技術は行われていない。これは生石灰が消石灰の前駆物質としてのみ認識されていること、水処理方法においては液状やスラリー化して排水に水処理剤を添加することが一般的であるが、これが困難であること、さらには生石灰は水と反応して強熱を発生するため保管管理が不良であると火災等の危険性がある物質であることなどが、原因であると思われる。
【0036】
しかしながら、本発明では、生石灰を利用することにより、以下に述べるように塩化物イオン共存下でも、ホウ素やフッ素を有効に処理することができることを見いだした。また、本水処理剤はフッ素イオン共存下でも低濃度までホウ素を処理することができる。これは、生石灰の活性が高いため、効率よくアルミン酸カルシウム化合物を形成するため、優れた水処理効果が生ずるものであると考えられる。また、本発明の水処理方法は、反応により生じる沈殿による固液分離のスピードも早く、水処理時間を短縮し、設備を小容量とすることができるなどの利点も挙げられる。
【0037】
本水処理剤においては、生石灰と消石灰を混合して使用することができる。これにより、保管時の危険性を低減することができる。実施に示すように生石灰原料の20〜30質量%を消石灰に置き換えても処理効果に大きな低下は生じず、塩化物イオンの共存する排水等の処理等に用いることができる。
【0038】
本発明の水処理において、優れた水処理効果を得るためには、生石灰を粉末のまま排水に添加する方法が好ましい。また、濃度20質量%以下のスラリーとして添加することができる。これに対して消石灰を用いる従来の水処理法においては30%程度のスラリーとして使用する方法が一般的である。
【0039】
本発明の水処理剤を構成するもう1種の原料である硫酸アルミニウムは含水粉末品あるいは液状品であるため、生石灰とは事前に混合せず別々に排水に添加を行わねばなない。添加する手順は硫酸アルミニウムを排水中に溶解させてから生石灰等を添加する方法が好ましいが、ほぼ同時に添加しても効果が低下することはない。なお、硫酸アルミニウムには、無水の粉末もあるが、これは水に溶解しにくいため好ましくない。
【0040】
本発明の水処理剤を用いて、全体処理時間を30分程度でホウ素の水処理を行う場合には、排水のpHや共存イオン、本水処理剤添加量にもよるが、通常の場合は硫酸アルミニウム:生石灰の重量比を概ね1:2〜1:8の範囲に調整することが好ましい。また、これはAl:Caのモル比が、1:5〜1:22の範囲となり、これまでの先行技術で検討されてきた組成のバランスとはかなり異なるものとなる。
【0041】
また、フッ素の処理を行うときは、前記より硫酸アルミニウム添加割合を増加させ、前記のpH範囲となるように配合を行う。
【0042】
本発明の水処理剤には、さらに鉄化合物を加えて用いることができる。鉄化合物としては硫化鉄鉱粉末、硫酸鉄(II、III)、塩化鉄(II、III)、水酸化鉄(II、III)、酸化鉄(II、III)、四三酸化鉄、鉄粉などが挙げられる。
【0043】
硫化鉄鉱としては二硫化鉄、黄鉄鉱、白鉄鉱、磁硫鉄鉱を用いることができ、これらは、水処理剤の反応活性を高めるため、1.0mm以下、好ましくは0.2mm以下に粉砕して使用することが好ましい。また、硫化鉄の純度は高いほど水処理効果は高く、80%以上の純度をもつものが好ましい。
【0044】
硫化鉄鉱粉末を加えることで、ホウ素、フッ素の処理に加えて、排水中の鉛、水銀、カドミウム、亜鉛、銅やその他の重金属類、六価クロム、セレン、ヒ素、アンチモンなどの水処理を行うことができる。また、石炭火力発電所の排煙脱硫排水中のホウ素、フッ素とともにセレン、水銀などの有害イオンの除去を行うことができる。また、排煙脱硫排水と同種の排水として石炭火力発電所等における貯炭場の排水、石炭灰埋め立て処分場の浸出水等が挙げられる。
【0045】
硫化鉄鉱の硫黄成分はヒ素、セレンなどと交換する性質をもち、この性質により、これらの成分を除去することができる。また、硫酸アルミニウム由来の硫酸イオンは、硫化鉄鉱表面に作用し、硫化鉄鉱の酸化分解を促進する機能をもっており、これにより比較的短時間に優れた水処理効果を得ることができる。
【0046】
また、本発明の水処理剤に硫酸鉄(II、III)、塩化鉄(II、III)、水酸化鉄(II、III)、酸化鉄(II、III)、四三酸化鉄、鉄粉などの鉄化合物を加えることにより、ホウ素、フッ素の処理に加えて、ヒ素、六価クロム、セレン、アンチモンなどの処理をホウ素、フッ素の処理と同時に行うことができる。
【0047】
上記の各物質の処理方法においては、特にヒ素を処理する場合はpH10以下とし、また、セレン、アンチモンの処理を行うためにはpHを10以上とする事が好ましい。
【0048】
上記の鉄化合物は排水中に粉末として添加しても良いが、液体またはスラリーとして添加することが好ましい。
【0049】
本発明の水処理剤には、pH調整剤、副原料として、さらアルカリ、アルカリ土類金属元素含有原料を含有させることができる。アルカリ、アルカリ土類金属元素含有原料としては、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、消石灰、焼石膏、石灰石粉末、軽焼マグネシウム、硫酸マグネシウム、焼成ドロマイトからなる群のうち少なくとも1種を用いることができる。
【0050】
また、本発明の水処理剤においては、ポリアクリル酸系等の高分子凝集剤を組み合わせて用いてもよい。高分子凝集剤の併用により、ホウ素除去率を数パーセント向上させることができ、また水処理効果の安定性を高めることができる。
【0051】
本発明の水処理剤は、前記の原料を用いたいわゆる凝集分離法タイプの水処理方法である。凝集分離法を用いた水処理方法は、通常、下のプロセスにより行われる。また、最近の設備では沈殿プロセスの替わりに膜分離プロセスを組み合わせることが行われている。膜分離方式を組み合わせる場合にはプラント設置面積を大きく減少できるメリットがある。
【0052】
(1)[反応プロセス]水処理剤を排水に添加し、均一に混合し化学反応を生じさせる反応プロセス。ここでは、回転速度100rpm〜300rpm程度で攪拌を行う。必要な場合はここでpH調整剤を添加する。
【0053】
(2)[凝集プロセス]排水中にコロイドを形成し、これにホウ素、フッ素を固定する凝集プロセス。この段階では通常の硫酸アルミニウムを用いる方法では生じたコロイドのフロックを壊さないよう30〜50rpmの緩速で攪拌を行う。
【0054】
(3)[沈殿プロセス(固液分離プロセス)]排水の攪拌を静止しコロイドを沈下させ、固液分離を行う沈殿プロセス。有害イオンはコロイドに固定されているため、この作用により排水中から分離される。沈殿はこの後、脱水機などで処理される。
【0055】
(4)[pH調整プロセス]ここでは排水基準に適合するよう排水のpHを調整する。
【0056】
本発明の水処理方法において、優れた水処理効果を得るためには、(1)のプロセスにおいて生石灰、消石灰を粉末のまま排水に添加することが好ましい。また、生石灰、消石灰を20%以下、好ましくは15%以下のスラリーとして排水に添加することもできる。
【0057】
生石灰を水中に添加すると発熱し水温が大きく上昇する。例えば、粒度が粒径0.5mm以下の生石灰粉末を水に対して30質量%添加した場合には、約60℃の温度上昇が生じ、夏期には沸点近くの温度となり、実際の処理に適用するためには様々な問題が生ずると思われる。このため、本発明では20質量%以下、好ましくは15質量%以下のスラリーとして排水に添加することが好ましい。
【0058】
また、塩化物イオン等が共存する排水を処理する場合では、生石灰等をスラリーとして使用する方法においては、スラリーを調製後、可能な限り速やかに排水に添加することが好ましい。この一例として、塩化物イオン5000mg/L、ホウ素濃度500mg/Lの水処理に於いて、生石灰粉末を10質量%スラリーとして排水に添加した試験結果では、スラリー調製直後に排水に添加した場合は。粉末として添加する場合とホウ素処理能力は同一であるが、5分後に添加した場合は9%、30分後に添加した場合は46%ホウ素除去効率が低下する結果を得た。
【0059】
また、本発明において硫酸アルミニウムは通常の水処理方法で行われているように、液状で添加してもよいし、また粉末として排水に添加をしてもよい。
【0060】
次に、本発明の水処理剤を用いた水処理においては、(2)の凝集プロセスにおける攪拌速度を前記の2〜3倍以上の回転速度である80rpm以上とすることが好ましく、100rpm以上で行うことがより好ましい。この理由は明らかになっていないが、本発明の水処理法においては、比較的密度の高い沈殿物が形成され、前記の攪拌速度では、固形分がうまく攪拌されないためだと思われる。
【0061】
本発明の水処理剤を用いて、ホウ素を含む水処理を行う場合は、排水のpHを9.0〜13.0の範囲にコントロールすることが好ましく、特にホウ素の濃度が高い場合は10.5〜12.5の範囲とすることがより好ましい。これはホウ素がpHと共に形態が変化することに起因しており、効率よく処理を行うためには前記の高アルカリとすることが好ましい。
【0062】
次に本発明の水処理剤を用いて、フッ素を含む水処理を行う場合は排水のpHを5.0〜12.0の範囲とすることが好ましく、特にフッ素の濃度が高い場合は5.0〜9.0の範囲とすることがより好ましい。
【0063】
ホウ素、フッ素の両者を含む排水は、それぞれの濃度にもよるがpH9.0〜12.0の範囲とすることが好ましい。また、どちらか、あるいは双方の濃度が高い場合は、先にpHを5.0〜9.0として最初のプロセスで先ずフッ素を処理し、次のステップで生石灰を追加しpH10.0〜12.5にまで上昇させ、ホウ素を処理する2プロセスを組み合わせて処理を行う方法などに適用することができる。
【0064】
このpHのコントロールは、苛性ソーダや硫酸を用いても可能であるが、本発明の水処理剤の原料である硫酸アルミニウムと生石灰の添加量のバランスをコントロールするだけで、以下の実施例のように非常に効率よく処理を行うことができるため、この方法によることが好ましい。
【0065】
なお、本発明の水処理方法においては、水処理を多段に分割したり、処理水を循環して繰り返して行う方法やスラッジを返送し繰り返し水処理剤として利用する方法など、公知の水処理方法と組み合わせて実施することができる。
【0066】
本発明の水処理はこれまで述べてきたように、いわゆる凝集分離法に分類され、一般的にはシックナーやろ過処理により処理水と沈殿物を固液分離する方法を用いるが、前記の膜分離方式の処理等に適用することも可能である。
【0067】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものでなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
【0068】
以下、具体例に基づき、さらに詳細に説明する。
【実施例】
【0069】
[模擬排水のホウ素水処理試験]
ホウ酸試薬、塩酸(濃度35〜36%)、水酸化ナトリウムを用いてホウ素濃度B:500mg/L、塩化物イオン濃度0〜10,000mg/Lの模擬排水を調整した。これに、表1に示す水処理剤を添加し、以下に記載する方法でホウ素水処理試験を実施した。
【0070】
【表1】

【0071】
(試験方法)
(1)試薬で調整したホウ素濃度500mg/Lの模擬排水を500mlビーカーに200ml分取し、所定配合の水処理剤を添加し、ホウ素等の水処理能力を評価する。
【0072】
(2)マグネティックスターラーを用いて回転速度300rpmで攪拌しながら2〜3種の水処理剤原料を粉末として同時に添加する。この時を試験開始とし、5分間溶液を撹拌する。ただし、実施例6においては、純水に生石灰粉末を10質量%投入しマグネティックスターラーで30秒攪拌してスラリーを調製し、調製後すぐに模擬排水に添加した。
【0073】
(3)上記の作業の後、ジャーテスターにビーカーをセットし、回転速度を実施例1〜8においては100rpmに設定、比較例1〜5においては30rpmに設定し、さらに15分間撹拌を行う。その後、10分間溶液を静置し、沈殿を沈降させ固液分離を行う。(全体処理時間30分)
(4)吸引ろ過装置にろ紙(5C)をセットし、溶液を真空ろ過する。(pH測定)
(5)ろ液を使用し、ICPを用いてホウ素濃度を測定する。また、排水中に含有する場合はセレン濃度をICPにて測定、フッ素濃度をガラス電極で測定する。
【0074】
この試験結果は表2のとおりであった。
【0075】
【表2】

【0076】
本発明の水処理剤のホウ素処理結果を実施例1〜6に示した。本発明の水処理剤は、塩化物イオンが存在しないときは、下記の比較例1のいわゆる硫酸バンド法とよばれる方法よりも処理性能が低いが、塩化物イオン濃度が10,000mg/Lまで増加しても処理性能は全く低下をしない。また、生石灰の一部を消石灰と置き換えた実施例5では、処理効果が20%程度低下するが、比較例に比べて大きな処理性能を有する。さらにスラリーとして生石灰を添加した実施例6の試験結果では、ホウ素除去性能に低下は認められない。また、スラリーを調製したときの水温上昇は24℃であった。
【0077】
一方、比較例1〜4に示した一般的手法である消石灰と硫酸アルミニウムを用いた試験結果は、塩化物イオンが存在しないときは処理効果が高く、水処理剤単位重量あたりのホウ素除去量は、17.5mg/kgと良好な処理性を示す。しかし、塩化物イオンの増加により処理性能が大きく低下し、10,000mg/L濃度では、ホウ素除去能力は本発明の水処理剤の1/3以下となる。
【0078】
ここで、生石灰は上田石灰製造株式会社製、粒度−0.5mm、組成(CaO:94.8%、SiO:0.7%、Al:0.3%、Fe:0.1%、MgO:0.9%、ig.loss:2.7%)、また、消石灰は上田石灰製造株式会社製、工業用特号、粒度−0.6mm、組成(CaO72.5質量%以上)のものを使用した。硫酸アルミニウムとしては、東信化学株式会社製、硫酸アルミニウム16水和物(Al:16.0%)を使用した。また、塩酸は関東化学株式会社製の濃度35〜36%試薬を用いた。
【0079】
[窯業における排水処理]
ここでは、ホウ素濃度95.1mg/L、フッ素濃度31.8mg/Lの窯業における排水の処理を検討する。排水中の両成分を一律排水基準値以下まで処理することが、水処理の目的である。(ホウ素:10mg/L以下、フッ素:8mg/L)この排水に以下の水処理剤を粉末として添加し、前記の方法で水処理試験を行った。
【0080】
この排水中に含まれる共存イオンなどの情報は次のとおりであった。
【0081】
排水の組成等:Ca:31mg/L、Na:180mg/L、Al:11.3mg/L、Cl:117mg/L、pH:9.9
(実施例7)この排水に表1に記載した水処理剤を1.5質量%添加した。この結果は表3のとおりとなった。
【0082】
(比較例5)この排水に表1に記載した水処理剤を2.0質量%添加した。この結果は表3のとおりとなった。両方の処理において、溶液のpHは、原料の配合を変え、ほぼ同一の条件に調整した。
【0083】
【表3】

【0084】
従来から行われている硫酸アルミニウム、消石灰による凝集沈殿方法では、フッ素共存の排水ではホウ素を低濃度まで低下させることは困難であると言われているが、本発明の水処理剤は、添加量1.5質量%で両成分が排水基準以下となり、ホウ素も低濃度まで除去されている。また、水処理剤単位重量あたりの除去量は、比較例に比べてホウ素処理で1.4倍、フッ素処理では2.0倍となっている。
【0085】
[排煙脱硫排水の処理]
ここでは、排煙脱硫排水の処理例を示す。石炭火力発電所から採取した脱硫排水にホウ酸試薬を添加し、ホウ素濃度をおよそ500mg/Lに調整を行った。調整後の排水の特性は以下のとおりであった。この排水に表1、実施例6に示した水処理剤を1.7質量%添加して、前記と同様の方法で水処理試験を実施した。この結果を表3に示す。
【0086】
(排煙脱硫排水の特性)
・排水組成等:Ca:1210mg/l、Cl:3850mg/L、SO4:2510mg/L等、pH7.5
・有害イオン濃度:ホウ素濃度491mg/L(原水:185mg/L)、フッ素16.4mg/L、全セレン:0.55mg/L
表3、実施例8の結果に示すとおり本発明の水処理剤により、高濃度のホウ素を含有する排水を、全成分とも海域への排水基準以下まで極めて良好に処理することができた。また、この処理におけるホウ素の除去能力は20mg/gと極めて高い水準となった。(排水基準(海域):ホウ素:230mg/L、フッ素:15mg/L、全セレン:0.30mg/L)
ここで使用した二硫化鉄粉(黄鉄鉱粉)は、中国製粉砕品であり粒度100メッシュ以下、組成はFe:48.7質量%、S:45.9質量%、SiO:4.1質量%の高純度なものである。また、生石灰、硫酸アルミニウムは前記と同じものを使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸アルミニウム及び生石灰より構成されることを特徴とする水処理剤。
【請求項2】
消石灰を含有することを特徴とする請求項1記載の水処理剤。
【請求項3】
鉄化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の水処理剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の水処理剤を排水に添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項5】
生石灰又は消石灰を粉末として排水に添加することを特徴とする請求項4記載の水処理方法。
【請求項6】
生石灰又は消石灰の含有量が20質量%以下のスラリーを排水に添加することを特徴とする請求項4記載の水処理方法。
【請求項7】
排水のpHを9.0〜13.0にコントロールし、ホウ素を含有する排水を処理することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の水処理方法。
【請求項8】
排水のpHを5.0〜12.0にコントロールし、フッ素を含有する排水を処理することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の水処理方法。

【公開番号】特開2011−101830(P2011−101830A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256791(P2009−256791)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(505462714)株式会社AZMEC (3)
【Fターム(参考)】