説明

水処理系のための硝酸塩現場製造方法及び装置

電気式プラズマアーク装置及び方法により、装置の近傍で抽出される周囲空気のみを用いて窒素化合物が製造される。この窒素化合物は水処理系と接触して、硝酸塩を現場で生成する。水処理系に硝酸塩を導入することによって、それにより脱窒素微生物が、その硝酸塩を利用して、利用可能な炭素栄養分を求めての硫酸塩還元細菌(SRB)との競合に打ち勝つことによって、つまりSRBが硫化水素を産生するのを防止することによって、水処理系中に存在している硫化水素が除去され、また、その硫酸塩還元細菌による硫化水素産生も解消される。脱窒素微生物を含有している水処理系中に作出された硝酸イオンは、微生物増進油回収機序により、油回収を増進し得る。さらには、この電気式プラズマアーク装置及び方法は、硝酸塩の輸送と貯蔵、及び、天然ガス及び水の途切れない供給の必要性を含めて、従来の処理技術にかかる大きなコストを解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に油田応用に関連した、水可溶硝酸イオン(NO)を生じる、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO)の現場製造方法及び装置、並びに、硝酸イオンを水処理系と接触させるための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一次油回収は、一般的には、所与の地質構造又は貯留部が含有している50%未満を産出する。それゆえに、多くの地下油貯留が含まれている多孔岩層からの油回収を増進するために水注入が用いられる。油増進回収では、水からなる溶液を油貯留部に注入するために水処理系が用いられる。水処理系は、水性溶液を収集又は分配する装置もしくはある種の設備装着地上設備(例えば油・ガス井、油−水分離機、水貯蔵タンク、水処理タンク、パイプライン、及び注入井)、水処理設備、又は水輸送機器を包含し得る。この注入工程は、しかしながら、油・ガス貯留部のみならず水処理系さらには油・ガス回収工程関連機器を酸敗させる、硫化水素(HS)を産生することが知られている。
【0003】
硫化水素は、水処理系及び油・ガス貯留部中の可溶硫酸塩(SO)を硫化水素に変換する、硫酸塩還元細菌(SRB)によって産生される。この細菌は、油掘削の間中に生じ得るものであるが、掘削の前にも、元々存在し得るものであって、実際すべての油田工程の水性相中に存在していることが知られている。この細菌及びこの細菌が油田に及ぼす影響については、例えば、(特許文献1)によって詳述されている。
【0004】
この硫酸塩還元細菌(SRB)による油・ガス貯留部及び水処理系の硫化水素(HS)での汚染は、石油産業にとっての大きな工程上の問題及び出費となってきている。有害な量の硫化水素の存在は、深刻な健康及び安全のリスク、油を回収するのに用いられている機器の激しい腐食を引き起こし、そして、沈殿して回収機器及び油・ガス貯留部の詰まりを引き起こす硫化鉄粒子が生成することによってその油田の産出能力に著しいダメージを与え、それによって油量が減少し、回収される原油の商品価値を低下させ得る。それゆえに、硫化水素の生成を防止すること及び/又は油田適用で一旦硫化水素が産生された後の硫化水素を除去することに向けた徹底的な研究がなされてきた。
【0005】
冒された油・ガス貯留部及び水処理系を硝酸塩で処理するのは、存在しているHSを分解するのに、及び、さらなるHSが発生するのを防止するのに効果がある。例えば、硝酸塩及び硝酸塩化合物を、SRBを含有している系に加えると、その系中のSRBの量、つまりSRBによって産生される硫化水素の量を減少させることが知られている。この方法は、油田の水系中に存在しているThiobacillus denitrificans株や他の脱窒素微生物を利用するものである。例えば、水処理系に硝酸塩を導入することによって、それによりその硝酸塩を脱窒素微生物が利用し、硫化水素をSRBが産生するのを防止するいくつかの機序及び状態を作り出すことによって、その系中に存在している硫化水素が除去され、硫酸塩還元細菌による硫化水素の産生が防止される。
【0006】
この目的のための硝酸塩は、典型的には、アンモニアを酸化することによって製造されており、あるいは、従来のやり方によって採掘されており、そして得られる乾燥硝酸塩は、輸送され、ブレンドされて液体からなる溶液にされ、そして油田のごく近傍又は他の遠隔地に貯蔵されて使用に供される。乾燥硝酸塩化合物の製造及び移動のそのサプライチェーンを通しての物流チェーンには多くの安全と健康の問題があって、不必要に費用を要することが明らかになっており、他方では硝酸塩の品不足やユースポイントへの間欠的なサプライ、あるいはサプライが全くないという事態につながっている。現在では、硝酸塩は、(1)製造プラントから乾燥形態で供給され、(2)鉄道、トラック、及び海上輸送を含めた各種の手段によって輸送され、そして(3)必要とされるまで倉庫に貯蔵される。
【0007】
大量の乾燥硝酸塩又は溶液状態にある硝酸塩のブレンドの輸送及び貯蔵は、多くの安全及びコストの問題を生じる。一旦必要になると、硝酸塩は、ブレンド工場に輸送され、水とブレンドされて使用に適した製品にされそしてもう一度輸送されて、沖合や、元の硝酸塩製造場所からは遠く離れた遠隔の陸上場所にほとんどの場合位置している油・ガス製造工程に供給される。さらには、大量の硝酸塩が、現場で貯蔵されなければならない。
【0008】
従来の硝酸塩製造の方式は、Haberプロセスを用いており、製造の重要な一成分としての天然ガスの安定な供給源に依存している。製造プラントは、硝酸塩のコストに直接的な関係がある天然ガスの価格に依存している。新たなHaber型製造プラントは、建設するのに数億ドルと数年を必要とし、また信頼のおける天然ガスの供給源の近くに戦略的に位置していなければならない。輸送コスト、貯蔵コスト、及びブレンドコストも著しく増大してしまった。結果として、需要は増大し続けているので、硝酸塩価格は歴史的な高値にあり、時間と共に上昇し続けることが予測される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. R. Postgate, The Sulphate-Reducing Bacteria 2nd ed. (Cambridge University Press, 1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえに、水処理系又は水処理系によって供給されている油・ガス貯留部中で硫化水素が生成するのを防止するためには、及び/又は、そこに存在している硫化水素を除去するために、ニーズが、現場で硝酸塩を製造してそれを水処理系と接触させるための経済的且つ効果的な手段に対して存在している。さらには、油の回収で有効である(これは、結果として、HS汚染が、その油回収法で用いられている貯留部又は機器に悪影響を及ぼさないということ)、現場で硝酸塩を製造して硝酸塩を水処理系と接触させるための手段に対してニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらのニーズ及び他のニーズとの関連で、本発明は、窒素化合物を現場で製造して水処理系と接触させるシステムを提供する。この発明システムは、(A)(i)周囲空気を取り込む圧縮デバイス、及び(ii)その圧縮デバイスに接続され、その周囲空気中に存在している酸素及び窒素を処理・反応させて窒素化合物を生成させる電気式プラズマアーク反応器を具備している一体型システム、(B)その一体型システムを水処理系に相互接続している、窒素化合物を水処理系と接触させて硝酸塩を生成させるための送達デバイス、及び(C)その窒素化合物との組み合わせで水処理系から水を受け入れる油・ガス貯留部を含む。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、窒素化合物を設備のところで製造してその窒素化合物をその設備の近傍で水処理系と接触させる方法に関し、その方法は、周囲空気から酸素と窒素を取り込むステップ、その周囲空気中に存在している酸素及び窒素を電気式プラズマアーク反応器で処理・反応させて窒素化合物を生成させるステップ、その窒素化合物を水処理系と接触させて硝酸塩を生成させるステップ、及びその窒素化合物との組み合わせで水を油・ガス貯留部に送り出すステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による、現場で硝酸塩を製造して水処理系と接触させるシステムのブロック線図である。
【図2】本発明の一実施形態による、電気式プラズマアーク反応器のブロック線図である。
【図3】本発明の一実施形態による、送達デバイスのブロック線図である。
【図4】本発明の一実施形態による、現場で硝酸塩を製造するための方法を説明している、フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、SRBによる硫化水素発生を防除する必要性が存在しているところあるいは水処理系中の既発生硫化水素を除去する必要性が存在しているところであればどのようなところにでも用いられ得る。硫化水素は、油回収処理機器を腐食し、製造機器を詰まらせ、油・ガス貯留部を詰まらせる硫化鉄沈殿を生成することによってその機器の油回収能力に深刻なダメージを引き起こし得るものであり、これにより油量が減少し、これは製造される油の市場価値を低下させる。つまり、水処理適用では、パイプライン、タンク、さらには他の水取扱機器並びに設備中のHSの存在は制御されなければならない。水処理適用での硝酸塩及び硝酸塩溶液の添加は、既発生HSの除去のみならず、そのシステム中に存在し得るあるいは後で(例えば油田の掘削工程の間中に)加えられ得るSRBによるさらなるHSの発生防止のいずれにも効果がある。
【0015】
この目的のための硝酸塩は、典型的には、採掘されるか又はアンモニアを酸化することによって製造され、これを、従来のやり方で、乾燥形態で輸送し、混合して液体からなる溶液にし、油田のごく近傍又は他の遠隔場所に貯蔵して処理・使用に供される。硝酸塩及び硝酸塩溶液を輸送、ブレンド、及び貯蔵することに伴う付随の技術的な問題、安全の問題、及びコストの問題は、硝酸塩の現場製造を実現することによって回避される。現場で、すなわち、設備の近傍で、硝酸塩を製造するためには、多くの化学反応を行うための装置も同様にその設備の近傍に配置される。その装置は、少なくとも水、天然ガス及び周囲空気を必要とし、これらのすべては、その設備のところで有効な量で存在していなければならない。装置は、水、天然ガス及び空気を抽出し、化学反応器を用いて3つすべてを処理して、硝酸イオンを生成させる。典型的には、この化学反応器は、先に言及した、Haber化学プロセス、及び、これも当分野で周知の、Ostwaldプロセスの実行を必要とするだろう。このようにして製造された硝酸イオンは、この後、その設備のところに位置している水系、例えばパイプライン又はタンクと接触され得る。
【0016】
このシステムは、大量の硝酸塩の輸送及び貯蔵に関連するいくつかの問題は解決するものの、現場硝酸塩製造の実行は、それ自体の障害をもたらす。第一には、上述したシステムは、いくつかの原材料が使用するために存在していること及び利用可能であることを必要とする。すなわち、水及び天然ガスの供給が存在していなければならず、その水及び天然ガスを抽出する装置も存在していなければならないか又は設置されなければならない。第二には、獲得された供給入力を反応させて硝酸塩を得るのは、複雑なプロセスである。そのプロセスにはいくつかの段階があり、それぞれは、温度及び圧力を変化させることを必要とする。
【0017】
このHaber/Ostwaldプロセスに、原理上、代わるものが、電気式プラズマアークによって実行され得る、Birkeland−Eyde型プロセスである。電気式プラズマアーク中では、ガス分子がプラズマを横切って進むと、さまざまな不安定且つ高度反応性化学種のストリームからなっている高度イオン化ガスを生じる。一実施形態によれば、この電気式プラズマアークは、窒素と酸素を含有している、空気を、一酸化窒素に変換し(N+O→2NO)、これはこの後酸化されて二酸化窒素を生成する(2NO+O→2NO)。この二酸化窒素は、水に溶解されて、硝酸を生じ得る(3NO+HO→2HNO+NO)。このように、Haber/Ostwaldプロセスとは対照的に、この電気式アークプロセスへの供給入力は、空気と電気エネルギーのみである。
【0018】
Haber/Ostwaldプロセスは、例えば、合成肥料製造においては、歴史あるBirkeland−Eydeプロセスに代わるものとして用いられてきたものであるが、その理由は、従来の電気式プラズマアークは、Haber/Ostwaldプロセスに比較して、相当な量のエネルギーを必要としまた硝酸塩製造能力も低いからである。油井及び水処理適用では、すぐにある適用を、得られる肥料(例えば、硝酸塩)が見出すことができる場所における毎日の硝酸塩の必要性は比較的に低く、また、エネルギーの大供給源は、典型的には、油井又は水処理現場のところで利用可能である。この各要因の組み合わせが、硝酸塩の電気式プラズマアークプロセスでの現場製造の方を大いに好むのである。さらには、硫化水素防止及び油増進回収の適用では、より大きいエネルギー消費を受け入れることは、硝酸塩を船舶輸送及び貯蔵することあるいは水及び天然ガスの途切れない供給に依存することより経済的には好ましい。本発明による、電気式プラズマアークプロセスによる硝酸イオンの現場製造の実現は、そのような依存の必要性を無くする。
【0019】
上述したように、電気式プラズマアーク反応器を有するシステムは、周囲空気中に存在している窒素と酸素を反応させて、窒素化合物を生成するだろう。この窒素化合物を、水処理系中に存在している水と接触させると、先に論述したと同じようにして硝酸イオンが生成される。水処理系中の硝酸イオンの存在は、硫化水素生成を減少させまたそれを防止するが、油特異的適用では、油回収を増進する。さらには、このシステムは、硝酸塩の輸送及び貯蔵を含めた従来の技術にかかる大きなコスト、及び、天然ガス及び水の途切れない供給に対する必要性を解消する。
【0020】
本発明の装置及び方法は、HS低減及び油田適用に限定されるものではない。つまり、本発明は、ごみ埋立地、冷却塔水、石炭スラリーパイプライン、さらには水を含有している又は水相を有している他のタンク、パイプライン又は機器中の硫化水素を防除するのに採用され得る。本発明の装置及び方法は、ピットで、水収納ポンドで、あるいは水注入システム(ここでは水が地下に入れられる)で用いられ得る。さらに、この発明アプローチは、鉱山工業における適用に(例えば、金属の回収(バイオブリーチング)及び酸性鉱山排水の解消)、下水等の廃水システムを処理するのに、船舶輸送におけるHS汚染バラスト水を処理するのに、さらにはさまざまな他の環境関連適用に適している。
【0021】
(装置)
図1に示すように、本発明の一実施形態によれば、システムが、窒素化合物を現場で製造して硝酸塩を水処理系20中に生成させる。水処理系20は、水溶液を収集又は分配する装置又は機器が装着された地上設備、例えば油・ガス井、油−水分離機、水貯蔵タンク、パイプライン、及び注入井を包含し得る。一実施形態によれば、水処理系20中に存在している水の供給源は、海水、回収製造水、又は帯水層水であり得る。一実施形態によれば、水処理系20は、SRB、及び/又は脱窒素微生物、さらには硫化物酸化微生物を、窒素化合物が水処理系20と接触される前から含有している。さらなる実施形態では、水処理系20は、元々、脱窒素微生物のための炭素源栄養分を含んでいる。
【0022】
図1に示す、一体型システム10は、周囲空気(窒素と酸素)を取り込むための圧縮デバイス30を具備している。一実施形態によれば、一体型システム10は、必要に応じて、いくつかある水処理系20のうちの1つから他の1つへと容易に輸送され得るように、比較的に小さい。例えば、一体型システム10は、通常のオフィスデスクのサイズ(およそ5フィート×2フィート×3フィート)であり得る。もう1つの実施形態によれば、一体型システム10のサイズは、それによって動作されることになる水処理系20のサイズ及び硝酸塩必要量を受け入れるために、増大又は縮小され得る。さらには、一体型システム10は、一体型システム10をいくつかある各場所に容易に輸送することを可能にするホイール及び/又はスキッドを有し得る。
【0023】
一体型システム10は、周囲空気からの酸素と窒素を反応させて窒素化合物を生成させるための電気式プラズマアーク反応器40を包含している。電気式プラズマアークプロセスは、窒素と酸素を反応・処理して一酸化窒素(NO)又は二酸化窒素(NO)等の窒素化合物が得られるものならいずれのプロセスであっても良い。図2に示すように、一実施形態によれば、電気式プラズマアーク反応器40は、電極41、チャンバー42及びポート43、44を具備している。ポート44は、チャンバー42に空気(窒素と酸素)を供給する。好ましくは、電気式プラズマアーク反応器40には外部電力供給源が高電圧電流を供給する。電極41は、受け取った電流をチャンバー42に放電し、これが高電圧アーク放電を引き起こす。このアーク放電が、効果的に、窒素及び酸素分子を分裂させて、窒素酸化物(NO、NO)を生成させる。電気式プラズマアーク反応器40は、その新しく生成した窒素酸化物をポート43から放出する。
【0024】
反応器40に接続された、送達デバイス50が、生成した窒素化合物を水処理系20と接触させる。一実施形態によれば、また、図3に図説されているように、送達デバイス50には、反応器40によって生成された窒素化合物を導水管52を通って水処理系20にポンプ送りするためのポンプ51が含まれている。
【0025】
水処理系20は、貯留部60に供給する。貯留部60は、硫化水素防除及び/又は油増進回収が必要とされているところならどのような構造又は環境であっても良い。好ましくは、貯留部60は、油・ガス貯留部である。一実施形態によれば、貯留部60は、ごみ埋立地、下水設備あるいは他の地上又は地下水貯蔵設備であり得る。
【0026】
圧縮デバイス30、反応器70及び送達デバイス50にはコントローラー70が動作可能に接続されている。コントローラー70は、硝酸塩製造の速度及び量をコントロールする。コントローラー70には水処理系20中の硝酸塩の濃度をモニターするためのセンサー80が動作可能に接続されている。
【0027】
(運転)
一体型システム10のごく近傍で窒素化合物を水処理系20と接触させることによる硝酸塩の現場製造方法を次に説明する。好ましくは、可搬式一体型システム10は、処理を必要としている水処理系20のごく近傍に配置される。一実施形態によれば、また、図4に示すように、一体型システム10に属する圧縮デバイス30が周囲空気を取り込んで、電気式プラズマアーク反応器40に酸素と窒素を供給する。
【0028】
図4のステップ120に示すように、電気式プラズマアーク反応器40が、周囲空気中の窒素と酸素を処理・反応させて、一酸化窒素イオン(NO)をもたらす。周囲空気は圧縮され、電気入力と一緒に電気式プラズマアーク反応器40のチャンバー42の一方の端部に注入されて、空気の旋回渦を生み出し、これが、2000℃を超える高温プラズマアークを生成する。この反応を推進するためには、石炭及びガス火力発電所、あるいは風力、太陽光、又は水力(水)のような再生可能供給源を含めた、いずれの電気入力供給源も用いられ得る。そのような温度では空気中の窒素と酸素は反応して、一酸化窒素を生成する(N+O+熱→2NO)。プラズマアークパイプ壁に隣接のより低温の空気がプラズマアークをそのパイプの軸に沿って取り囲み、二酸化窒素の生成を促進する(2NO+O→2NO)。
【0029】
図4のステップ130に示すように、電気式プラズマアーク反応器40によって生成された窒素化合物は、送達デバイス50を経て水処理系20と接触される。生成した一酸化窒素及び二酸化窒素化合物が水処理系20に導入されると、これらの化合物は可溶化して、硝酸塩を生成する(3NO+HO→2HNO+NO)。これらの窒素化合物は、バッチ式又は連続式で水処理系20に加えられ得る。本発明の一実施形態によれば、水処理系20は、窒素化合物と1回接触される。代替の実施形態では、水処理系20は、窒素化合物で繰り返し処理される。処理方法の選択は、処理されるシステム次第である。つまり、単一の油井が処理される場合は、硝酸塩及び亜硝酸塩の単一バッチ注入が最も得策であり得る。水処理系全体が処理される場合は、しかしながら、連続プロセスがベストであり得る。
【0030】
コントローラー70及びセンサー80が、水系中の硝酸塩の濃度を制御・モニターする(ステップ140)。一体型システム10が用いられているその用途(例えば、HS低減、油増進回収)が、コントローラー70及びセンサー80がどのように動作するかを決めるものである。コントローラー70及びセンサー80の動作は、自動化されたものであり得る。さらには、コントローラー70及びセンサー80は、遠隔モニターされるように配置されたものであり得る。自動化及び遠隔モニターは、安全対策の向上を促進する。次にHS低減及び油増進回収についての考慮すべき事柄を以下に述べる。
【0031】
(硫化水素低減)
本発明の1つの態様によるHS低減においては、重要な考慮すべき事柄としては、通常はSRBと一緒に水処理系20中に存在している脱窒素微生物の増殖を促進するのに十分な硝酸塩が生成されていることである。脱窒素微生物が存在していないか又は適切な量で存在していない場合は、しかしながら、それは、硝酸塩とともに水処理系20に加えられ得る。脱窒菌は当分野には知られており、THE PROKARYOTES: A HANDBOOK ON HABITATS, ISOLATION, AND IDENTIFICATION OF BACTERIA, Volumes 1-4 (Springer-Verlag, 1981)に説明されている。この細菌は、硝酸塩又は亜硝酸塩を最終電子受容体として利用するものである、すなわち、この細菌は、動物が酸素で呼吸するようにそれを呼吸することによってエネルギーを得ている。この細菌の一部のものはその硝酸塩(NO)をNO、NO、及びNに変換し、他のものはそれをNHに変換する。脱窒菌は、SRBが利用しているのと同じ炭素/エネルギー源で増殖し得るものであって、熱力学的並びに生理学的考察から、脱窒素細菌は、その炭素/エネルギー源に向かっての非常に優れた競合者である、つまりSRBが増殖して硫化物を生成するためにSRBがそれを利用することをさせないのである。既存硫化水素を破壊し、またSRBの硫化物産生能力を遮断する他の増殖の状態及び機序もこの脱窒素細菌によって確立される。この分野に知識ある者なら、上述した原理を用いて、容易に、生成されるべき硝酸塩の適切な量を決定することができ、それにより既発生硫化水素を除去すること及びSRBがさらなる硫化水素を産生するのを防止することができる。
【0032】
(油増進回収)
本発明のもう1つの実施形態によれば、コントローラー70が、油増進回収(「微生物作用増進油回収」とも呼ばれる)を実行するために油貯留部に水からなる溶液をフィードしている水処理系20中に製造される硝酸塩の濃度を決定している。硝酸塩によって刺激された脱窒素微生物は作用因子として作用し、微生物増進油回収法の間中、水方向転換(water diversion)、バイオポリマー、バイオソルベント、バイオサーファクタント、バイオガス等のような代謝産物及び機序をもたらすだろう。すなわち、脱窒素細菌及びそのような細菌の産物が、高透水性層中で起こっている水方向転換(これは、水を、より低透水性層の方に選択的に方向転換されるように誘導して、油の増進追い出しを引き起こすものである)を含めた上記した機序により、油の解放を引き起こすのである。
【0033】
それゆえに、水処理系20中の脱窒菌の増殖は、存在している硫化水素を除去し、及び、さらなる硫化水素が生成するのを防止するだけでなく、「微生物作用増進油回収法」に用いられ得る水処理系20ももたらす。硫化水素が地下層に入っていかないように、硝酸塩は、油回収ステップの前か又はその間中に水処理系20中に生成される。水処理系20は、その後、それ自体公知である、油増進回収法に用いられ得る。例えば、硝酸塩処理水処理系20は、地下含油層に注入して、状態、機序、及び、前記したバイオサーファクタント、バイオソルベント、バイオポリマー、及びバイオガスが包含されるバイオプロダクト(いずれも油製造の増分に役立つことが知られている)をもたらす微生物の作用と代謝によってその層から油を追い出すのに用いられる。硫化水素が低減され又は全くない脱窒菌含有水処理系20は、硫化鉄沈殿の詰まり効果が除去されているので、また、典型的には油回収工程の出費を増大させて最終的には油田の早期放棄に至らしめる製造機器腐食、破壊的状態も少ないので、油回収でより効果がある。
【0034】
それゆえに、本発明は、油増進回収で用いられるための、水処理系20に適している。本発明は、地下層中に存在している硫化水素の量を低減させるものであり、これは、油酸敗、詰まり、及び腐食を防止する。乾燥硝酸塩が製造されることはないので、また、反応器製造イオンも直ちに水によって可溶化されて硝酸塩になるので、乾燥硝酸塩の製造及び輸送に関連する健康と安全の問題は解消される。現場硝酸塩作出は、HS汚染を防除するのに、及び、油製造を増進するのに必要とされる硝酸塩の安定な、途切れない、そして低コストの供給を確実なものにするだろう。
【0035】
現場硝酸塩製造の特定の適用は、油・ガス田用途に向けられているが、同じ現場硝酸塩製造は、硫化物問題が起こったか又は起こっており、それが、生物起源硫化物産生から生じる工程の腐食や健康と安全の問題に至っている、他の水性状況にも用いられ得る。例えば、現場への硝酸塩の輸送及び貯蔵が、危険であるか、多大の費用を要するか、環境的に受け入れられないか、あるいは現実的でない下水処理事業所やごみ埋立地である。空気と、風、水、又は太陽光のようなクリーンな、再生可能エネルギー源によっても現場で作出され得る電気入力のみを必要とする硝酸塩の現場作出が存在しているということは、硝酸塩に対するニーズは存在しているが現場外製造・輸送チェーンからの硝酸塩の送達については現実的でない、あるいは経済的でない孤立した又は遠隔の場所に対しては、そのような装置を、きわめて適したものにしている。電気式プラズマアークプロセスでの現場硝酸塩製造のそのようなさらなる用途は、現場肥料供給源のようなさまざまな農業用地での適用を含み得ると考える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素化合物を現場で製造し、水処理系と接触させるシステムであって、以下:
(A)(i)周囲空気を取り込む圧縮デバイス、及び(ii)圧縮デバイスに接続され、周囲空気中に存在している酸素及び窒素を処理・反応させて窒素化合物を生成させる電気式プラズマアーク反応器から構成される一体型システム;
(B)一体型システムを水処理系に相互接続している、窒素化合物を水処理系と接触させて硝酸塩を生成させるための送達デバイス;及び
(C)窒素化合物との組み合わせで水処理系から水を受け入れる油・ガス貯留部;
を含む、前記システム。
【請求項2】
圧縮デバイス、電気式プラズマアーク反応器及び送達デバイスのそれぞれに動作可能に接続され、窒素化合物の製造の速度及び量をコントロールできるように構成されているコントローラーをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
窒素化合物が、一酸化窒素NO又は二酸化窒素NOのうちの少なくとも1種である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
水処理系が、パイプライン、タンク、井戸、水処理設備、又は水輸送機器のうちの1つ又はそれ以上を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
送達デバイスが、(i)一体型システムから水処理系まで延びている導水管、及び(ii)導水管を通って窒素化合物を水処理系まで移動させるためのポンプをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
水処理系中の硝酸塩の濃度をモニターするためのセンサーをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
一体型システムを輸送するためのスキッド又はホイールをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
一体型システムのサイズが、水処理系の硝酸塩要求に対応するように修正される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
圧縮デバイス、電気式プラズマアーク反応器及び送達デバイスが、自動化されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
窒素化合物を設備のところで製造し、その窒素化合物をその設備の近傍で水処理系と接触させる方法であって、以下のステップ:
(A)周囲空気から酸素及び窒素を取り込むステップ;
(B)周囲空気中に存在している酸素及び窒素を電気式プラズマアーク反応器で処理・反応させて窒素化合物を生成させるステップ;
(C)窒素化合物を水処理系と接触させて硝酸塩を生成させるステップ;及び
(D)窒素化合物との組み合わせで水を油・ガス貯留部に送るステップ;
を含む、前記方法。
【請求項11】
窒素化合物が、一酸化窒素NO又は二酸化窒素NOのうちの少なくとも1種である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
水処理系中の硝酸イオン(NO)の濃度をモニターするステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
窒素化合物を水処理系と接触させて、その水処理系中に、硫化水素を防除し油回収を増進するのに十分な濃度の硝酸イオンの生成を引き起こすステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
水処理系が、硫酸塩還元細菌を含有している、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
水処理系が、脱窒素微生物及び硫化物酸化微生物を含有している、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
水処理系に脱窒素微生物を、水処理系に窒素化合物が加えられる前に、加えられると同時に、又は加えられた後に加えるステップをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
水処理系が、窒素化合物と1回接触する、バッチ法である請求項10に記載の方法。
【請求項18】
水処理系が、窒素化合物で繰り返し処理される、連続法である請求項10に記載の方法。
【請求項19】
水処理系が、脱窒素微生物のための炭素源栄養分を元々含んでいる、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
脱窒素微生物のための炭素源栄養分が、水処理系に、窒素化合物が水処理系に加えられる前に、加えられると同時に、又は加えられた後に加えられる、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
窒素化合物を現場で製造して水処理系と接触させるシステムであって、以下:
(A)(i)周囲空気を取り込む圧縮デバイス、及び(ii)その圧縮デバイスに接続され、周囲空気中に存在している酸素及び窒素を処理・反応させて窒素化合物を生成させる電気式プラズマアーク反応器から構成される一体型システム;
(B)一体型システムを水処理系に相互接続している、窒素化合物を水処理系と接触させて硝酸塩を生成させるための送達デバイス;及び
(C)窒素化合物との組み合わせで水処理系から水を受け入れるごみ埋立地;
を含む、前記システム。
【請求項22】
窒素化合物を現場で製造し、水処理系と接触させるシステムであって、以下:
(A)(i)周囲空気を取り込む圧縮デバイス、及び(ii)その圧縮デバイスに接続され、周囲空気中に存在している酸素及び窒素を処理・反応させて窒素化合物を生成させる電気式プラズマアーク反応器から構成される一体型システム;
(B)一体型システムを水処理系に相互接続している、窒素化合物を水処理系と接触させて硝酸塩を生成させるための送達デバイス;及び
(C)窒素化合物との組み合わせで水処理系から水を受け入れる地下用水供給部;
を含む、前記システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2012−522915(P2012−522915A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503407(P2012−503407)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/062316
【国際公開番号】WO2010/114580
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(510305701)ニトラ−ジェン エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】