説明

水分散性樹脂組成物及びこれを含む塗料

【課題】安定性、耐候性及び耐汚染性に優れる水分散性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】不飽和単量体組成物に対して、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物と、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物と、末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物とが特定の割合で存在する下で、不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる水分散性樹脂組成物であって、この不飽和単量体組成物が、不飽和基を有するシランカップリング剤を0.1〜2質量%含むことを特徴とする水分散性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、耐汚染性及び安定性に優れる水分散性樹脂組成物及びこれを含む塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、建物、構造物の美観保護のため、低汚染型の塗料、被覆材が一般的に塗装されている。その中で満足されるようなものは、殆どがケイ素系化合物を含有する溶剤系無機塗料、有機無機ハイブリッド樹脂由来のものであった。これは、富田らが示したように(非特許文献1を参照)、それら塗料で一般的に使用されるアルコキシル基含有オリゴマーが塗膜形成時に塗膜表面に移行し、加水分解、シロキサン結合を形成すると同時に親水性のシラノール基を効率的に発生させることで塗膜表面に親油性の汚染物質がなじみ難くなったり、降雨によるセルフクリーニングによって低汚染機能に優れ、美観維持ができるからである。
【0003】
このように、低汚染性を発現させるために多量のアルコキシル基を必要とする低汚染型塗料に関しては、その官能基が水との反応性に富むことから水系樹脂を使用した塗料の設計は難しく、溶剤系樹脂を用いることが一般的であった。
【0004】
このような背景のもと、アルコキシル基をポリアルキレングリコールと一部反応させることで、水系塗料用の低汚染化剤として機能させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。この低汚染化剤を配合した塗料は、耐汚染性に優れているものの、経時安定性が悪いという問題がある。
【0005】
反応性シリル基を有しガラス転移温度が−20〜10℃である合成エマルジョンと片末端がOH基であるポリオキシアルキレン鎖を有し水酸基価が5〜150KOHmg/gであるポリシロキサン化合物とを含む塗料も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この塗料では、上記特許文献1の塗料の耐汚染性に加えて経時安定性に優れる結果が得られているが、耐候性に劣るという問題がある。
【0006】
一方で、水性樹脂エマルジョンに対してアルコキシル基含有ケイ素系化合物を導入する方法が種々提案されており、塗料の低汚染化の有力な手段として研究されている。
【0007】
例えば、特許文献3では、加水分解性シリル基を持ったケイ素系化合物と不飽和単量体とを乳化重合により共重合させて得られる樹脂が提案されている。特に不飽和基を有するケイ素系化合物を共重合する場合、1%程度の少量のケイ素系化合物を導入し、耐水性、耐候性などの耐久性を付与するには有効な手段であるが、低汚染化のために10%等多量のケイ素系化合物を導入しようとすると、内部架橋が進行し成膜性が損なわれたり、あるいは粒子間架橋が原因で安定性が損なわれる。そのため、実質、多量のケイ素系化合物を導入することが不可能であることから、上記低汚染化のための樹脂設計ができない。
【0008】
特許文献4では、低汚染化を目的として、アルコキシル基含有ケイ素系化合物の存在下、不飽和単量体を乳化重合して得られる高分子ラテックスと、ヒドラジン誘導体とからなる塗料が提案されている。しかしながら、低汚染化に関与するアルコキシル基の残存率が低く、またそのケイ素系化合物に少なくとも1つ以上のアルキル基を有するため、その疎水基が原因で十分に低汚染化することができない。
【0009】
特許文献5では、実施例において末端がOH基のポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物(ここでは非イオン性界面活性剤)の存在下でエチレン性不飽和単量体を乳化重合させると同時にシリケートを別添する操作を行っている。しかしながら、特許文献5は耐候性付与が目的で三官能アルキルシリケート化合物を使用しており、その疎水基が原因で十分に低汚染化することができない。
【0010】
また、特許文献6は、四官能シリケート縮合物および部分加水分解物を低汚染化剤として用いる方法を提案しており、セルフクリーニングを付与するには良策と思われる。しかしながら、耐候性および低汚染化が未だ十分とは言えない。
【0011】
更に、特許文献7では、乳化重合中に四官能のシリケート化合物、部分加水分解物及びシリコン成分とシロキサン結合を形成可能なシランカップリング剤を使用することで耐候性、耐汚染性を向上させることが提案されている。しかしながら、四官能のシリケート化合物を使用しているため、重合中にゲル化したり、経時で増粘するなど不安定になる。
【0012】
【非特許文献1】富田、「ケイ酸エステル含有塗膜の定量的評価を活用した表面親水化機構の解明とケイ酸エステルの設計」、色材協会誌、社団法人色材協会、2001年、第74巻、第9号、p.466〜471
【特許文献1】国際公開第99/05228号パンフレット
【特許文献2】特開2002−105405号公報
【特許文献3】特開昭61−9463号公報
【特許文献4】特許第2925747号公報
【特許文献5】特開2002−121283号公報
【特許文献6】特許第3271567号公報
【特許文献7】特開2004−2885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、安定性、耐候性及び耐汚染性に優れる水分散性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明者らは水分散性樹脂組成物について鋭意検討を重ねた結果、不飽和基を有するシランカップリング剤を含む不飽和単量体組成物に対して、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物と、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物と、末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物とが特定の割合で存在する下で、不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる水分散性樹脂組成物が、安定性、耐候性及び耐汚染性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、不飽和単量体組成物(X)に対して、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)が0.1〜30質量%、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)が0.1〜30質量%及び末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物(C)が0.1〜5質量%存在する下で、不飽和単量体組成物(X)を乳化重合して得られる水分散性樹脂組成物であって、不飽和単量体組成物(X)が、不飽和基を有するシランカップリング剤を0.1〜2質量%含む水分散性樹脂組成物である。
1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)と4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)とは質量比で90:10〜25:75であることが好ましい。
また、不飽和基を有するシランカップリング剤を除いた不飽和単量体組成物(X)の理論ガラス転移温度は−20℃以上であることが好ましい。
更に、本発明は、上記水分散性樹脂組成物を含む塗料である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定性、耐候性及び耐汚染性に優れる水分散性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明による水分散性樹脂組成物は、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)と、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)と、末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物(C)との存在下で、不飽和基を有するシランカップリング剤を含む不飽和単量体組成物(X)を乳化重合することにより得られるものである。
【0018】
本発明において(A)成分として使用される1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物は、以下の一般式で表される。
(R−Si−(OR4−a
式中、Rは炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、アラキル基又はアリール基であり、aは1〜3の整数である。Rの炭素数が10を超えると反応性が低下する。Rの具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基などが挙げられる。尚、Rが2つ以上存在する場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。Rの炭素数が10を超えるとアルコキシル基の加水分解性や反応性が低下する。Rの具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、ベンジル基、フェニル基などが挙げられる。尚、Rが2つ以上存在する場合、Rは同一であっても異なっていてもよい。また、(A)成分として、上記アルキルアルコキシシラン化合物のアルコキシル基(OR)が加水分解されたもの、即ち、上記一般式においてRが水素原子である化合物を用いてもよい。Rが2つ以上存在するアルキルアルコキシシラン化合物の場合、その加水分解物は、すべてのRが水素原子であってもよいし一部が水素原子であってもよい。
【0019】
不飽和単量体(X)を乳化重合させる際に、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)は不飽和単量体(X)に対して0.1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%使用しなければならい。(A)成分が0.1質量%未満であると、得られる水分散性樹脂組成物の耐候性が不十分となり、30質量%を超えると耐汚染性が不十分となる。
【0020】
本発明において(B)成分として使用される4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物は、以下の一般式で表される。
Si−(OR
式中、Rは炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、アラキル基又はアリール基である。Rの炭素数が10を超えると、その電子供与性が高いためアルコキシル基の加水分解性が低下する。Rの具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、ベンジル基、フェニル基などが挙げられる。尚、Rは同一であっても異なっていてもよい。また、(B)成分として、上記アルコキシシラン化合物のアルコキシル基(OR)が加水分解されたもの、即ち、上記一般式においてRのすべて又は一部が水素原子である化合物を用いてもよい。
【0021】
不飽和単量体(X)を乳化重合させる際に、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)は不飽和単量体(X)に対して0.1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%使用しなければならない。(B)成分が0.1質量%未満であると、得られる水分散性樹脂組成物の耐汚染性が不十分となり、30質量%を超えると重合安定性及び経時安定性が不十分となる。
【0022】
本発明において、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)と4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)との質量比は、90:10〜25:75であることが好ましく、60:40〜40:60であることが更に好ましい。(A)成分が過剰であると、得られる水分散性樹脂組成物の耐汚染性が低下することがあり、一方、(B)成分が過剰であると、得られる水分散性樹脂組成物の重合安定性及び経時安定性が低下することがある。
【0023】
本発明において(C)成分として使用されるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物は、末端がOH基であることを必須とする。具体的にはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロックポリマーなどのポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテルなどのポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステアレートなどのポリオキシエチレン脂肪酸エステル、2重結合を有するラジカル重合可能なポリアルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリレートなども使用することができる。
【0024】
不飽和単量体(X)を乳化重合させる際に、末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物(C)は不飽和単量体(X)に対して0.1〜5質量%、好ましくは1〜3質量%使用しなければならない。(C)成分が0.1質量%未満であると、得られる水分散性樹脂組成物の安定性、耐汚染性が不十分となり、5質量%を超えると安定性、耐候性、耐汚染性が不十分となる。
【0025】
本発明において使用される不飽和単量体組成物(X)中に含まれる不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、少なくとも1個の重合可能な(メタ)アクロイル基を有するものを挙げることができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、1〜18個の炭素数の直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)クリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等)が挙げられる。また、芳香族ビニル化合物(スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン等)、複素環式ビニル化合物(ビニルピロリドン等)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、ポリアルキレンレングリコール(メタ)アクリレート(エチレングリコール(メタ)アクリレート、ブチレングリコール(メタ)アクリレート等)、アルキルアミノ(メタ)アクリレート(N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等)、ビニルエステル化合物(蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチツク酸ビニル(商品名)等)、モノオレフィン化合物(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)、共役ジオレフィン化合物(ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等)、α,β−不飽和モノ又はジカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等)、カルボキシル基含有ビニル化合物(フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シュウ酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、アミンイミド基含有ビニル化合物(1,1,1−トリメチルアミンメタクリルイミドなど)、シアン化ビニル化合物(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、アミド基もしくは置換アミド基含有α,β−エチレン性不飽和化合物((メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等)、カルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ダイアセトンアクリレート、アセトニトリルアクリレート等)、スルホン酸基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(スルホン酸アリル、p−スチレンスルホン酸ナトリウム等)、エチレン性不飽和基含有紫外線吸収剤(2−(2‘−ヒドロキシ−5’−メタアクロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなど)、エチレン性不飽和基含有光安定剤(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートなど)等の公知の重合性ビニル化合物も使用することができる。
【0026】
また、必要に応じて、乳化重合の際に架橋性モノマーを併用してもよい。このような架橋性モノマーとして、エポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等)、多官能ビニル化合物(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等)等を導入し、それ自身同士の架橋をさせるか、活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物成分と組み合わせて架橋させる、もしくは、カルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(特にケト基含有のものに限る)を導入し、ポリヒドラジン化合物(特に2つ以上のヒドラジド基を有する化合物;シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等)などが挙げられる。
【0027】
耐候性及び耐汚染性を向上させる観点から、不飽和単量体組成物(不飽和基を有するシランカップリング剤を除く)の理論ガラス転移温度(以下、Tgと略すことがある)は−20℃以上であることが好ましく、0℃〜60℃であることが更に好ましい。なお、本発明において理論ガラス転移温度(絶対温度)は、下式から算出した値とする。
1/Tg=W1/T1+W2/T2+・・・Wn/Tn
式中のW1、W2・・・Wnは各不飽和単量体の質量%(=(各不飽和単量体の配合量/全不飽和単量体の質量)×100)であり、T1、T2・・・Tnは、各不飽和単量体の単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。ここで、各不飽和単量体の単独重合体のガラス転移温度は、Polymer Hand Book(Second Edition, J. Brandrup・E. H. Immergut 編)による値である。
【0028】
また、本発明において使用される不飽和単量体組成物(X)には、0.1〜2質量%、好ましくは0.2〜1質量%の不飽和基を有するシランカップリング剤が含まれることを必須としている。不飽和単量体組成物(X)が不飽和基を有するシランカップリング剤が0.1質量%未満であると、得られる水分散性樹脂組成物の耐候性及び耐汚染性が不十分であり、2質量%を超えると重合安定性及び経時安定性が不十分となる。
このような不飽和基を有するシランカップリング剤の例としては、加水分解性アルコキシル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)が挙げられる。
【0029】
本発明による水分散性樹脂組成物は、乳化重合によって製造することができる。したがって、乳化重合に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤等を適宜使用してもよい。このような界面活性剤は、乳化重合時の不飽和単量体の乳化安定性付与のための後添加など使用方法について特に制限されることはない。具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤、セシルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルピリジニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤、ラウリルベダイン等の両性界面活性剤、反応性界面活性剤等が挙げられ、1種単独で使用してもよいし2種以上を混合して使用してもよい。
【0030】
また、乳化重合において使用される重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジ塩酸塩等の水溶性アゾ系開始剤、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物類、過酸化水素等が挙げられる。これらの重合開始剤は1種単独で使用してもよいし2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
そして、場合に応じて、乳化重合において、これら重合開始剤と共に還元剤を使用できる。このような還元剤としては、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物等が挙げられる。
【0032】
更にまた、乳化重合においては、必要に応じて連鎖移動剤を使用できるが、耐候性などの物性上問題とならないように使用量を検討すべきで、その用途仕様に応じてコントロールする範囲内で使用できる。このような連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、2−メルカプトエタノール、β−メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
【0033】
この乳化重合は、通常、約5〜約100℃、好ましくは約50〜90℃の温度条件下で行われる。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量及び反応温度等に応じて適宜調整すればよい。
【0034】
得られた水分散性樹脂組成物は、1種又はそれ以上の酸もしくは塩基の添加によって、その系のpHを4〜10(特に、シリコン成分の安定性を考慮すると5〜8)に中和することが好ましい。pHを上記範囲にすることでエマルジョンの表面電荷を高くし、安定性を付与することができる。使用する一般的な酸としては、酢酸、乳酸、塩酸、燐酸、硫酸などが挙げられる。また、使用する一般的な塩基としては、トリエチルアミン、アンモニア、ジエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール等のアミン化合物、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。
【0035】
本発明による塗料は、上記水分散性樹脂組成物を含むものである。本発明の塗料には、公知の添加剤、例えば、増粘剤、消泡剤、顔料、分散剤、光安定剤、紫外線吸収剤、防腐剤、造膜助剤などを適宜配合することができる。本発明による塗料は、建築塗料、サイジングボード用塗料、モルタル被覆材などの様々なコーティング剤として使用することができる。また、紙、繊維、金属など被覆できるものであれば制限なく使用することが可能であり、その手法に関しても限定されない。更に、本発明の塗料には、必要に応じて、シリコン成分の硬化促進剤として、有機・無機アミン類、無機・有機酸類、燐酸エステル類、有機錫化合物、有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物なども添加してもよい。添加する手法に制限はなく、水分散性樹脂組成物を調製する際(乳化重合時)に添加してもよいし、乳化重合後に添加してもよいし、あるいは両方で添加してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。また、実施例及び比較例における物性の評価は、以下に示す方法により行った。
【0037】
(1)水分散性樹脂組成物の性状
(i)不揮発分
予め質量が測定された水分散性樹脂組成物を105℃、1時間乾燥させ、揮発残分の質量を測定した。初期の質量と揮発残分の質量とから不揮発分の質量%を計算した。
(ii)粘度
BM型粘度計を用いて23℃、60rpmにおける粘度を測定した。
(iii)pH
pHメーターを用いて測定した。
(iv)最低造膜温度(以下、MFTと略記することがある)
熱勾配式最低造膜温度測定装置にて測定した。
【0038】
(2)高温安定性
水分散性樹脂組成物をマヨネーズ瓶に入れ、60℃の条件下で7日間静置した後の粘度、MFTを測定し、粘度変化が20%以内でMFT変化が10%以内を○、それらを超えて変化したものを×とした。
【0039】
(3)耐候性及び耐汚染性の評価
(i)グロス塗料の調製
脱イオン水 82.6質量部、増粘剤としてナトロゾール250HR(ハーキュレース製) 0.8質量部、中和剤としてアンモニア水 0.2質量部、防腐剤としてアモルデンFS−14D(大和化学工業製) 1.1質量部、分散剤としてポイズ521(花王製) 4.2質量部、消泡剤としてSNデフォーマー371(サンノプコ製) 1.1質量部、酸化チタンとしてタイペークCR−97(石原産業製) 210質量部を容器中でホモディスパーを用いて約2000rpmで撹拌しながら上記順に仕込み、更に約2000rpmで1時間撹拌した。その後、120メッシュのテフロン(登録商標)メッシュで濾過し、合計300質量部、固形分濃度70質量%(酸化チタンを固形分として計算)のミルベースを得た。
別容器に、前記ミルベース 300質量部、水分散性樹脂組成物 600質量部(不揮発分50質量%の場合。不揮発分が50質量%以外の場合には、水分散性樹脂組成物の不揮発分に応じて、同量の樹脂が含まれるように添加量を設定した。)、造膜助剤としてCS−12(チッソ製) 54質量部、粘性調整剤としてアデカノールUH−420(旭電化工業製) 1質量部を仕込み、ホモディスパーを用いて約2000rpmで10分間撹拌した。その後、150メッシュのテフロン(登録商標)メッシュで濾過し、固形分濃度53.4質量%、顔料濃度15.5体積%(比重を酸化チタン;4.2、水分散性樹脂組成物;1.1として計算した)のグロス塗料 955質量部を得た。
【0040】
(ii)塗板の調製
上記グロス塗料に水を添加して約800mPa・s(BH型粘度計、20rpm、23℃)の粘度に調整した。この塗料を、シーラー処理が予め施されたフレキ板にスプレーを用いて150g/m×2回吹きした後、23℃、65%RHで1週間養生し塗板を得た。上記操作を繰り返して塗板を合計で2枚作製した。
【0041】
(iii)耐候性の評価
上記塗板のうちの1枚をメタリングウエザーメーター(スガ試験機)で試験し、500hr照射後の光沢保持率を測定した。メタリングウエザーメーターの条件は、ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度1.55kW/m、照射2時間→照射+降雨2分(3サイクル)→結露2時間(雰囲気30℃、95%RH、塗板25℃)の8時間サイクル試験とした。
【0042】
(iv)耐汚染性の評価
上記塗板の残りの1枚を屋外に3ヶ月間暴露し、暴露前後の色差(ΔE)を測定した(兵庫県たつの市、南向き45°)。
【0043】
<実施例1>
撹拌機、温度計、環流凝縮機を備えた重合装置中に、脱イオン水 200質量部、(C)成分としてのエマルゲン147(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王製)5質量部を入れ、窒素置換を十分に行った後、昇温した。内温を75℃に保ちながら、(A)成分としてのメチルトリメトキシシラン(以下、MTMSと略記することがある) 100質量部、(B)成分としてのテトラエトキシシラン(以下、TEOSと略記することがある) 75質量部を加え、30分間保持した。さらに、脱イオン水 450質量部と、アクアロンKH−10(アニオン性反応性界面活性剤、第一工業製薬製) 10質量部と、(X)成分としてのメチルメタクリレート 207質量部、シクロヘキシルメタクリレート 100質量部及び2−エチルヘキシルアクリレート 193質量部と、不飽和基を有するシランカップリング剤としてのγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(以下、γ−MPTMSと略記することがある) 2質量部と、メタクリル酸 10質量部とをホモミキサーにて予め混合乳化したものを用意し、この乳化物の5質量%を先の重合装置内に加えた。次いで、過硫酸カリウム 0.5質量部、脱イオン水 3質量部を加えて重合を開始し、80℃で15分反応させた。さらに、先の乳化物の残り95質量%と、2.5%過硫酸カリウム水溶液 40質量部とを内温80℃に保ちながら4時間掛けて滴下した。さらに、80℃で2時間反応させ、その後室温(25℃)に冷却した。最後にアンモニア水でpH6に調整し、実施例1の水分散性樹脂組成物を得た。尚、使用した不飽和単量体の理論Tgは10℃である。得られた水分散性樹脂組成物の性状は、不揮発分43.8質量%、粘度(BM型粘度計、60rpm、23℃)80mPa・s、pH6.0、MFT45℃であった。
【0044】
<実施例2>
エマルゲン147の代わりに、PEG#200(ポリエチレングリコール、日本油脂製)を用いる以外は、実施例1の操作に準じて実施例2の水分散性樹脂組成物を得た。
【0045】
<実施例3>
メチルトリメトキシシラン100質量部の代わりに、メチルトリメトキシシラン 50質量部とジメチルジメトキシシラン 50質量部とを用いる以外は、実施例1の操作に準じて実施例3の水分散性樹脂組成物を得た。
【0046】
<比較例1〜8>
(A)〜(C)成分及びシランカップリング剤を表1に示される配合に変える以外は、実施例1の操作に準じて比較例1〜8の水分散性樹脂組成物をそれぞれ得た。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1〜3及び比較例1〜8で得られた水分散性樹脂組成物の性状、高温安定性、耐候性および耐汚染性の評価結果を表2に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から分かるように、加水分解性アルコキシル基を2あるいは3個持つアルキルアルコキシシラン化合物(MTMS、DMDMS)と、加水分解性アルコキシル基を4個持つアルコキシシラン化合物(TEOS)と、末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリエチレングリコール)との存在下で、不飽和基を有するシランカップリング剤(γ−MPTMS)を一部含む不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる実施例1〜3の水分散性樹脂組成物は、比較例1〜8の水分散性樹脂組成物と比べて、高温安定性、耐候性及び耐汚染性が優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和単量体組成物(X)に対して、1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)が0.1〜30質量%、4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)が0.1〜30質量%及び末端がOH基であるポリアルキレングリコール鎖を有する非イオン性化合物(C)が0.1〜5質量%存在する下で不飽和単量体組成物(X)を乳化重合して得られる水分散性樹脂組成物であって、
不飽和単量体組成物(X)が、不飽和基を有するシランカップリング剤を0.1〜2質量%含むことを特徴とする水分散性樹脂組成物。
【請求項2】
前記1〜3個の加水分解性アルコキシル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(A)と前記4個の加水分解性アルコキシル基を有するアルコキシシラン化合物もしくはその加水分解物(B)とが質量比で90:10〜25:75であることを特徴とする請求項1に記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和基を有するシランカップリング剤を除いた前記不飽和単量体組成物(X)の理論ガラス転移温度が−20℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水分散性樹脂組成物を含むことを特徴とする塗料。

【公開番号】特開2008−120904(P2008−120904A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305352(P2006−305352)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】