説明

水分散性油溶性色素結晶製剤

【課題】
蒲鉾、ゼリー、飲料などの食品に添加した場合に、耐熱性および耐光性に優れ、かつ、飲料等の水溶液に分散した後も、長期間にわたり、沈殿やリング等の発生しない、安定で水に分散可能な、微細化された油溶性色素結晶を含有する色素製剤を提供する。
【解決手段】
HLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステル、多価アルコール類および水の混合液中に油溶性色素の微細な結晶が分散されてなることを特徴とする色素製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に分散可能な微細化された油溶性色素結晶を含有する色素製剤に関する。さらに詳しくは蒲鉾、ゼリー、飲料などの食品に添加した場合に主に赤〜橙色を呈し、耐熱性および耐光性に優れ、かつ、飲料等の水溶液に分散した後も、長期間にわたり、沈殿やリング等の発生しない、安定な油溶性色素結晶製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品用の着色料としては、コチニール色素、各種アントシアニン系色素、クチナシ色素、紅コウジ色素等が知られている。しかしながら、これらの天然色素は食品のpHにより色調が変化したり、耐熱性、耐光性が悪いなどの欠点を有し、充分満足のできるものでなかった。
【0003】
そこで、カロチノイドなどの油溶性色素を結晶を微細化して水に分散させる方法が検討されてきた。例えば、結晶のカロチノイドをゼラチン等のハイドロコロイドの存在下で10μmに粉砕し、加熱した後、減圧下に放出し、放出時にハイドロコロイド水溶液と混合し、乾燥する水分散性カロチノイド粉末の製造方法(特許文献1参照)、カロチノイドを微細化した後に水性原料に分散させるか、または、水性原料にカロチノイドを分散させた後微細化して着色料を得る方法(特許文献2参照)、カロチノイドを微細化した後に水性原料に分散させるか、または、水性原料にカロチノイドを分散させた後微細化して得た着色料にて飲料を着色する方法(特許文献3参照)、ゼラチン、ペクチン等の親水性コロイドからなる水性相に10μm以下の疎水性天然色素を分散してなる水分散性配合物およびその製法(特許文献4参照)、ビートペクチン、チコリペクチンまたはキクイモペクチンの親水性コロイドからなる水性相に10μm以下の疎水性天然色素を分散してなる水分散性配合物およびその製法(特許文献5参照)、微細化されたカルミンで着色することを特徴とする経口組成物(特許文献6参照)などが知られている。
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO94/19411号パンフレット
【特許文献2】特開平7−90188号公報
【特許文献3】特開平9−84566号公報
【特許文献4】特許第3176934号公報
【特許文献5】特開2003−500035号公報
【特許文献6】特開2004−208595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような結晶分散性の色素製剤は、色素成分が溶解状態ではなく、結晶であるため耐光性、耐熱性に優れ、pHの影響を受けにくいという長所を有する。しかしながら、液状食品、特に飲料に添加した場合、色素が分離しやすく、沈殿やリングが発生しやすいという欠点を有していた。
【0006】
したがって、耐光性、耐熱性に優れ、かつ、pHによる色調変化が少なく、さらに、飲料等の液状食品に添加しても色素が分離しない安定な色素製剤の開発が強く要求されていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは上記のごとき欠点を解決するために鋭意研究を行った。その結果、油溶性色素の結晶をHLB9〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステル、水および多価アルコール類の混合液に分散した油溶性色素結晶製剤が、水溶液に分散した場合でも耐光性、耐熱性に優れ、かつ、pHによる色調変化が少なく、さらに、飲料等の液状食品に添加しても色素が分離しないことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして本発明によれば、次の成分(A)〜(E)を含有し、(A)油溶性色素結晶、(B)HLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、(C)HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステル、(D)水および(E)多価アルコール類、(B)、(C)、(D)および(E)の混合液中に(A)が分散されてなることを特徴とする色素製剤を提供するものである。
【0009】
本発明はまた、前記成分(E)がグリセリン、ソルビトールおよびプロピレングリコールから選ばれる1種または2種以上である前記の色素製剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明によれば前記の色素製剤全量に対する成分(A)の割合が1〜10重量%、成分(B)の割合が9〜15重量%、成分(C)の割合が1〜5重量%、成分(D)の割合が2〜6重量%である前記の色素製剤を提供するものである。
【0011】
本発明はまた、油溶性色素結晶の平均粒径が100〜400nmである前記いずれかに記載の色素製剤を提供するものである。
【0012】
さらに本発明では(B)HLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、(D)水および(E)多価アルコール類の混合液中に、(C)HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステルに(A)油溶性色素結晶を分散したスラリーを投入した後、湿式粉砕器にて油溶性色素結晶の平均粒径が100〜400nmとなるよう粉砕することを特徴とする色素製剤の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明では成分(E)がグリセリン、ソルビトールおよびプロピレングリコールから選ばれる1種または2種以上である前記の色素製剤の製造方法が提供される。
【0014】
本発明ではまた、色素製剤全量に対する成分(A)の割合が1〜10重量%、成分(B)の割合が9〜15重量%、成分(C)の割合が1〜5重量%、成分(D)の割合が2〜6重量%である前記の色素製剤の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蒲鉾、ゼリー、飲料などの食品に添加した場合に赤〜橙色を呈し、耐熱性および耐光性に優れ、かつ、pHによる色調変化が少なく、さらに、飲料等の水溶液に分散した後も、長期間にわたり沈殿やリング等の発生しない、安定な油溶性色素結晶製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について更に詳細に述べる。
【0017】
本発明において使用することのできる成分(A)の油溶性色素としてはパプリカ色素、アナトー色素、トマト色素、マリーゴールド色素、デュナリエラカロチン、ニンジンカロチン、パーム油カロチン、β−カロチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、リコピンおよびクロロフィルなどの油溶性天然色素類を挙げることができ、特に好ましくはβ−カロチンおよびリコピンを例示することができる。これらの油溶性天然色素類は結晶状態のものを使用するが、油脂等に結晶を懸濁した状態のものであっても良い。これらの色素成分の配合量は、色素製剤全体の1〜10重量%程度を例示することができる。色素成分の配合量が1重量%未満では、色素製剤としての力価が弱く、10重量%を越えて配合すると微細化が困難、または凝集する等の現象が起こりやすく、充分分散されずに、沈殿してしまう可能性がある。
【0018】
本発明において乳化剤の選択は最も重要な要素である。乳化剤としては成分(B)としてHLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、および成分(C)としてHLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステルを組み合わせて使用することが必要である。この組み合わせは、単に高HLBの乳化剤と低HLBの乳化剤を組み合わせれば同等の効果が得られるというものではなく、高HLBの乳化剤としては(B)HLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、低HLBの乳化剤としては(C)HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステルである必要がある。高HLBの乳化剤と低HLBの乳化剤を組み合わせたとしても、これ以外の組み合わせでは、色素製剤中における色素結晶の分散状態が安定せず、色素結晶が凝集したり、色素製剤を飲料に添加した場合に沈殿やリングを生じ易くなる。
【0019】
本発明において使用することのできる成分(B)のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、HLB10〜15であることが必要である。また、グリセリンの平均重合度は6〜15が好ましく、8〜10がより好ましい。HLB10以下のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合には、均一で粒子径の小さな色素粒子を調製することが困難であり、また色素結晶の分散状態が不安定で飲料に添加する場合、沈殿、油分離などの分離現象を起こす傾向が強い。ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノパルミテート等が挙げられ、それらのなかで、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノパルミテートを特に好ましく例示することができる。本発明においては、これらのポリグリセリン脂肪酸エステルを、単独又は混合して用いることができる。
【0020】
本発明において使用することのできる(C)成分のHLB2〜6ソルビタン糖脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリベヘネート等が挙げられ、それらの中でソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレートを特に好ましく例示することができる。
【0021】
また、もう一つの(C)成分であるHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノミリステート、ジグリセリンモノオレエート等が挙げられ、それらの中で特にジグリセリンモノオレエートを特に好ましく例示できる。
【0022】
乳化剤の配合量は、色素製剤全体を基準として(B)成分が9〜15重量%程度および(C)成分が1〜5重量%程度を例示できる。乳化剤の配合量がこの範囲外であった場合、引き続き行われる湿式粉砕の工程において、結晶の充分な微粉化が困難になり、均一な分散がなされない可能性がある。
【0023】
本発明で利用することのできる成分(E)の多価アルコール類としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、澱粉分解還元物、グルコース、ショ糖、マルトースなどの糖類及びこれらの二種以上の混合物を例示することができ、それらの中でグリセリン、ソルビトール、プロピレングリコールを特に好ましく例示することができる。成分(E)の配合量としては色素製剤全体に対し約60〜87重量%程度を例示することができる。
【0024】
また、本発明の色素製剤においては、製剤全体の流動性を高める目的、引き続き行う湿式粉砕における結晶の粉砕効率を高める目的、さらには、製剤の水への混和性を高める目的のため、成分(D)として水を含有させる必要がある。成分(D)の配合割合は、色素製剤全体に対して2〜6重量%を例示することができる。
【0025】
また、本発明の色素製剤には保存性を高める目的で乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸を添加することもできる。
【0026】
さらに、本発明の色素製剤にはビタミン類、香料等の機能性素材を加えることでさらなる機能性を付与することも可能である。
【0027】
ビタミン類としては、例えば、肝油、ビタミンA、ビタミンA油、ビタミンD3、ビタミンB2酪酸エステル、天然ビタミンE混合物などが挙げられる。また、香料の具体例としては、例えば、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、タンジェリン油、マンダリン油およびベルガモット油などのごとき公知の柑橘精油類;ペパ−ミント油、スペアミント油、シンナモン油などのごとき精油類;オールスパイス、アニスシード、バジル、ローレル、カルダモン、セロリ、クローブ、クミン、デイル、ガーリック、ジンジャー、メース、マスタード、オニオン、パプリカ、パセリ、ブラックペパー、ナッツメグ、サフラン、ローズマリー等のスパイス類の精油またはオレオレジン類;さらにリモネン、リナロール、ネロール、シトロネロール、ゲラニオール、シトラール、l−メントール、オイゲノール、シンナミックアルデヒド、アネトール、ペリラアルデヒド、バニリン、γ−ウンデカラクトン、l−カルボン、マルトール、フルフリルメルカプタン、プロピオン酸エチル、カプロン酸アリル、メチル−n−アミルケトン、ジアセチル、酢酸、酪酸等の公知の香料化合物;着香油(反応フレ−バ−);及びこれらの天然精油、オレオレジン及び香料化合物等を任意に組み合わせて混合した調合香料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
これらの機能性素材の配合量としては油脂材料を基準として0.001〜5重量%の範囲内を例示することができる。
【0029】
本発明の結晶分散組成物の調製法の好ましい一実施態様を例示すれば以下の通りである。まず前記した如き(B)、(D)および(E)それぞれの成分をあらかじめ混合した溶液を調整しておき、約80〜90℃にて加熱した後40〜50℃まで冷却する。混合液を例えばホモミキサー等にて攪拌しながら、そこに成分(C)に成分(A)である油溶性色素結晶を分散させたスラリーを投入する。
【0030】
引き続き湿式粉砕を行い、油溶性色素結晶の平均粒径を100〜400nmとなるまで粉砕する。結晶分散製剤においては、一般的に、結晶粒径が10μmを越える場合、色素の延びが悪いため、通常、結晶を10μm以下に粉砕することが行われている。しかしながら、結晶を分散した色素製剤の色調は、結晶の粒度および粒度分布により大きく異なってくることもまたよく知られているところである。例えば、β−カロチンの水分散液の色調は、結晶粒径が10μm(10000nm)より大きい場合は着色が充分でないが、着色効率を高めるため、結晶粒径を10μmより小さくしていくと、微細化につれ、深赤色〜赤色〜赤橙色〜橙色〜黄色へと変化していく。本発明においては、油溶性色素結晶の平均粒径を100nm〜400nmの範囲に設定することにより、安定な分散と、鮮やかな色調を有する結晶製剤を得ることができる。
【0031】
本発明における油溶性色素結晶を微細化する方法は、油溶性色素結晶の平均粒径が上述の範囲になるものであれば特に制限は無く、例えば従来より使用されている湿式粉砕器を使用することができる。湿式の粉砕機の例示としては、ビーズ型湿式粉砕器(OBミル、ウルトラアペックスミルなど);ローラミルのローラ転動ミル(ロッシェミルなど)、遠心ローラミル(レイモンドミルなど);高速回転ミルのターボミル型(ターボミルなど)、固定衝撃板型(ウェトコミルなど);媒体攪拌ミルの流通管式ミル(サンドグラインダー)、攪拌槽式ミル(アトライターなど);ジェットミルのジェット気流衝突型(マジャックパルペライザーなど)、衝突板型複合型(スーパーシングルトラックジェットミルなど);その他コロイドミルなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせるか、同じ機器で微細化処理を繰り返し行っても良い。
【0032】
上記方法によって得られる本願発明の微細化された固体状態の油溶性結晶色素を用いた着色料は、食品等に添加した場合は色の伸びがよく、鮮やかな色調をしており、飲料等に添加しても沈殿やリングが発生せず、従来よりも少ない添加量で食品を着色することが可能な着色料を提供することができる。
【0033】
本発明により着色することができる食品としては、特に制限するものではないが、例えば清涼飲料(果汁入りを含む)、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツ飲料、粉末飲料、乳飲料、乳酸菌飲料等の飲料類;ゼリー、ババロア、ヨーグルトおよびカスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、等のデザート類;蒲鉾、魚肉すり身、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、鯨ベーコン等の水産練り製品;ハム、ソーセージ、焼き豚等の畜肉加工品;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類;リキュールなどのアルコール飲料;コーヒー飲料;紅茶飲料等の茶飲料類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);ラムネ菓子などの錠菓;マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類又はその糖衣;ボンボン、バターボール、マーブル、ドロップ、タフィ等ハードキャンディー類;キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等のソフトキャンディー類;ハードビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の焼き菓子類;浅漬け、醤油漬け、塩漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、糠漬け、酢漬け、芥子漬、もろみ漬け、梅漬け、福神漬、しば漬、生姜漬、朝鮮漬、梅酢漬け等の漬物類;セパレートドレッシング、乳化ドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃、梅肉等の果実加工品類;チーズ等の酪農製品類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種総菜及び麩、田麩等の種々の加工食品を挙げることができる。また医薬品としては、一例として各種錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ剤、うがい薬、糖衣錠等、医薬部外品としては、一例として歯磨き剤、口中清涼剤、口臭予防剤等、飼料としては、一例としてキャットフードやドッグフード等の各種ペットフード、観賞魚用若しくは養殖魚の餌等を挙げることができる。また、石鹸やシャンプー等の日用品の着色にも使用することができるが、好ましくは食品であり、特に飲料、ゼリーおよび練り製品(カニ蒲鉾等)である。
【0034】
またこれらの製品に配合できる本発明の着色料の割合は、製品の種類や目的によって異なり、一概に規定できないが、製品100重量%中、通常0.01〜20重量%好ましくは、0.05〜5重量%の範囲から適宜選択調整することができる。上記経口組成物の着色方法は、各製品の処方において、本願発明の着色料を経口組成物原材料の一つとして用いる他は、公知の製法に基づき製造・着色することができる。
【0035】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0036】
実施例1(低HLBの乳化剤としてソルビタンモノオレエートを使用した例)
水相部としてグリセリン800gにデカグリセリンモノオレエート(HLB12)100gおよび精製水30gを加え、80〜90℃で15分間加熱殺菌後50℃に冷却した。別に、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに抽出トコフェロール2gおよびβ−カロチン結晶(クラレ社製)50gを懸濁して油相部とし、これを先に調整した水相部に加え、TK−デスパーサー(プライミクス(株)社製)を用いて5000rpm、5分間混合した。引き続き、ウルトラアペックスミル(寿工業(株)社製)を用いて下記の条件において微細化処理を45回繰り返し、β−カロチン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品1)。得られた色素製剤に含まれるβ−カロチンの平均粒径は202nm、粒径分布はシャープであり、色調は橙黄色、分散状態は良好であった。
<粉砕条件>
ミル :ウルトラアペックスミル
周速 :10m/s
ビーズ充填率 :85%
ジルコニアビーズ粒径:φ0.2mm
<分析条件>
平均粒径 :動的光散乱粒度分布計ELS−800(大塚電子)
粒径の分布状態 :光学顕微鏡観察
色調 :目視
分散状態 :光学顕微鏡観察
【0037】
実施例2(低HLBの乳化剤としてジグリセリンモノオレエートを使用した例)
実施例1においてソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gをジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)20gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、β−カロチン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品2)。得られた色素製剤に含まれるβ−カロチンの平均粒径は220nm、粒径分布はシャープであり、色調は橙黄色、分散状態は良好であった。
【0038】
実施例3
水相部としてグリセリン780gにデカグリセリンモノオレエート(HLB12)120gおよび精製水30gを加え、80〜90℃で15分間加熱殺菌後50℃に冷却した。別に、デカグリセリンペンタオレエート(HLB3.5)20gおよびジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)20gに抽出トコフェロール2gおよびβ−カロチン結晶(クラレ社製)50gを懸濁して油相部とし、これを先に調整した水相部に加え、TK−デスパーサー(プライミクス(株)社製)を用いて5000rpm、5分間混合した。引き続き、ウルトラアペックスミル(寿工業社製)を用いて下記の条件において微細化処理を45回繰り返し、β−カロチン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品3)。得られた色素製剤に含まれるβ−カロチンの平均粒径は166nm、粒径分布はシャープであり、色調は橙黄色、分散状態は良好であった。
【0039】
比較例1(低HLBの乳化剤としてデカグリセリンペンタオレエートを使用した例)
実施例1においてソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gをデカグリセリンペンタオレエート(HLB3.5)20gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、β−カロチン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(比較品1)。得られた色素製剤に含まれるβ−カロチンの平均粒径は264nm、粒径分布はブロードであり、色調は橙色、分散状態は凝集気味であった。
【0040】
比較例2(低HLBの乳化剤としてテトラグリセリンペンタオレエートを使用した例)
実施例1においてソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gをテトラグリセリンペンタオレエート(HLB3.0)20gに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、β−カロチン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(比較品2)。得られた色素製剤に含まれるβ−カロチンの平均粒径は275nm、粒径分布はブロードであり、色調は橙色、分散状態は凝集気味であった。
【0041】
比較例3(実施例2において水を多く使用した例)
実施例2においてグリセリン800gを730gに、水30gを100gに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、β−カロチン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(比較品3)。得られた色素製剤に含まれるβ−カロチンの平均粒径は220nm、粒径分布はシャープであり、色調は橙黄色であり、分散状態は凝集気味であった。
【0042】
実施例1〜3、比較例1〜3の配合処方および製剤の物性、評価を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示したとおり、低HLBの乳化剤としてソルビタンモノオレエートを使用した本発明品1およびジグリセリンモノオレエートを使用した本発明品2では、結晶が微細となり、粒度分布はシャープで、凝集も起こらなかった。しかしながら、低HLBの乳化剤としてテトラグリセリンペンタオレエートを使用した比較品1およびデカグリセリンペンタオレエートを使用した比較品2は本発明品1、2とほぼ同程度のHLBの乳化剤を使用しているにもかかわらず、結晶の粉砕がうまく行われず、粒径の分布がブロードとなったり(比較品1、2)、粉砕された結晶が凝集したり(比較品2)して安定な色素製剤が得られなかった。
【0045】
また、低HLBのの乳化剤としてテトラグリセリンペンタオレエートの他にさらにジグリセリンモノオレエートを使用した本発明品3も結晶が微細となり、粒度分布はシャープで、凝集も起こらなかった。
【0046】
一方、低HLBの乳化剤としてジグリセリンモノオレエートを使用しても、水の使用量が多い比較品3は結晶が凝集気味となり、安定な色素製剤が得られなかった。
【0047】
実施例4(飲料への着色試験)
ブリックス4.5゜、pH3.5の飲料基材(グラニュー糖:45g/L、クエン酸:1.5g/L、クエン酸ナトリウム:0.5g/L、ビタミンC:0.2g/L、混合液の比重1.0182)1Lに本発明品1〜3または比較品1〜3のいずれか1品をそれぞれ2g添加し、98℃、30秒間加熱殺菌した後、88℃まで冷却し、500mlのペットボトルにホットパックし飲料試料とした。飲料試料は5℃および50℃にて静置保存し、飲料の外観を観察した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示した通り、本発明品1〜3を添加した飲料は3ヶ月の保存でもネックリングの発生は認められなかったが、比較品1〜3を添加した飲料は1ヶ月保存で明瞭なネックリングを、3ヶ月の保存で著しいネックリングを生じた。これらは、色素製剤の段階で凝集気味であった色素結晶または粒径の大きい結晶が飲料の保存中に析出したことによると推定される。
【0050】
実施例5(蒲鉾への塗布試験)
冷凍すけそうすり身100重量部、食塩2.5重量部、L−グルタミン酸ナトリウム1.5重量部、グリシン1重量部、キサンタンガム0.1重量部、調味料(エビ、カニ用)1.5重量部、香料(エビ、カニ用)4重量部、馬鈴薯澱粉7重量部、卵白10重量部および氷水50重量部(合計177.6重量部)を混練し整形したすり身に、本発明品または比較品2重量部を塗布(またはフィルム塗布後転写)方式で着色し、95℃、40分間蒸し、カニ風味蒲鉾を作った。
【0051】
カニ風味蒲鉾を5000luxの蛍光灯下、3日間、照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較した。色相、耐熱・耐光性および色素の内部浸透を肉眼で観察し、結果を表3に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
色相:着色した蒲鉾の色相を肉眼で観察した。
耐光性:蛍光灯(5000lux)下で3日間照射した後、肉眼比較により色素の残存率(%)を求めた。
色素の内部浸透:冷所7日間保存後の肉眼判定0〜5(数字が大きくなるほど浸透の度合いが大きい)。
白地への色移行:蒲鉾の色すり身部と白地部を切断し両者を合わせ真空包装後、85℃、1時間ボイル加熱する。しかる後、開封して白地への移行色相および度合(0〜5;数字が大きくなるほど移行の度合いが大きい)を肉眼で判定した。
【0054】
表3に示したとおり、色素製剤を蒲鉾に塗布し、蛍光灯照射3日間保存した後において、本発明品は色素の残存率、蒲鉾への色素の内部浸透、白地への色素の移行のいずれについても良好な結果であった。
【0055】
一方、比較品は色素の残存率は低く、蒲鉾への色素の内部浸透が認められ、白地への色素の移行も認められた。この原因としては明らかではないが、低HLBの乳化剤としてテトラグリセリンペンタオレエートやデカグリセリンペンタオレエートを使用した場合、微細化された結晶の一部が溶解していることが推定される。
【0056】
実施例6
水相部としてグリセリン835gにデカグリセリンモノオレエート(HLB12)100gおよび精製水25gを加え、80〜90℃で15分間加熱殺菌後50℃に冷却した。別に、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに抽出トコフェロール2gおよびリコペン結晶(長谷川香料社製)20gを懸濁して油相部とし、これを先に調整した水相部に加え、TK−デスパーサー(プライミクス(株)社製)を用いて5000rpm、5分間混合した。引き続き、ウルトラアペックスミル(寿工業(株)社製)を用いて下記の条件において微細化処理を5回繰り返し、リコペン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品4)。得られた色素製剤に含まれるリコペンの平均粒径は261nm、色調は赤色、粒径分布はシャープであり、分散状態は良好であった。
【0057】
実施例7
実施例6において、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに代えて、ジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)20gを使用する以外は、実施例5と同様に操作を行い、リコペン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品5)。得られた色素製剤に含まれるリコペンの平均粒径は256nm、色調は赤色、粒径分布はシャープであり、分散状態は良好であった。
【0058】
実施例8
実施例6において、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに代えて、ジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)15gを使用し、グリセリン835gを805gとし、水25gを60gとした以外は実施例5と同様に操作を行い、リコペン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品6)。得られた色素製剤に含まれるリコペンの平均粒径は247nm、色調は橙黄色、粒径分布はシャープであり、分散状態は良好であった。
【0059】
実施例9
実施例6において、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに代えて、ジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)30gを使用し、グリセリン835gを790gとし、水25gを60gとした以外は実施例6と同様に操作を行い、リコペン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(本発明品7)。得られた色素製剤に含まれるリコペンの平均粒径は357nm、色調は赤色、粒径分布はシャープであり、分散状態は良好であった。
【0060】
比較例4
実施例6において、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに代えて、ジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)8gを使用し、グリセリン835gを847gとした以外は実施例6と同様に操作を行い、リコペン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(比較品4)。得られた色素製剤に含まれるリコペンの平均粒径は215nm、色調は橙黄色、粒径分布はブロードであり、分散状態は凝集気味であった。
【0061】
比較例5
実施例6において、ソルビタンモノオレエート(HLB4.3)20gに代えて、ジグリセリンモノオレエート(HLB5.5)60gを使用し、グリセリン835gを760gとし、水25gを60gとした以外は実施例5と同様に操作を行い、リコペン結晶を粉砕分散した液状の色素製剤を得た(比較品5)。得られた色素製剤に含まれるリコペンの平均粒径は465nm、色調は赤色、粒径分布はシャープであり、分散状態は凝集気味であった。
【0062】
実施例6〜9、比較例4〜5の配合処方および製剤の物性、評価を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4に示した通り、色素結晶としてリコペンを使用した場合も低HLBの乳化剤としてソルビタンモノオレエートを使用した本発明品4およびジグリセリンモノオレエートを使用した本発明品5〜7では、結晶が微細となり、粒度分布はシャープで、凝集も起こらなかった。
【0065】
また、ジグリセリンモノオレエートの使用量について検討を行ったところ、色素製剤全体に対する使用量が1.5%(本発明品6)、2%(本発明品5)、3%(本発明品7)の場合は安定な色素製剤が得られたが、0.8%(比較品4)および6%(比較品5)では凝集気味となり、安定な色素製剤が得られなかった。
【0066】
実施例10(飲料への着色試験)
実施例4と同様の処方により、本発明品4〜7、比較品4、5を使用して飲料を試作した。飲料試料は5℃および50℃にて静置保存し、飲料の外観を観察した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
表5に示した通り、本発明品4〜7を添加した飲料は3ヶ月の保存でもネックリングの発生は認められなかったが、比較品4〜5を添加した飲料は1ヶ月保存で明瞭なネックリングを、3ヶ月の保存で著しいネックリングを生じた。これらは、実施例4と同様、色素製剤の段階で凝集気味であった色素結晶または粒径の大きい結晶が飲料の保存中に析出したことによると推定される。
【0069】
実施例11(蒲鉾への塗布試験)
実施例5と同様の処方により本発明品4〜7、比較品4、5を使用してカニ風味蒲鉾を作った。実施例5と同様に、カニ風味蒲鉾を5000luxの蛍光灯下、3日間、照射して耐光性を、また、35℃の恒温器で7日間保持し耐熱性を肉眼比較した。色相、耐熱・耐光性および色素の内部浸透を肉眼で観察し、結果を表5に示した。なお、判定基準は実施例5と同様である。
【0070】
【表6】

【0071】
表6に示したとおり、色素製剤を蒲鉾に塗布し、蛍光灯照射3日間保存した後において本発明品は比較品と比べ色素の残存率、蒲鉾への色素の内部浸透、白地への色素の移行のいずれにおいても良好な結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(E)を含有し、
(A)油溶性色素結晶、
(B)HLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、
(C)HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステル、
(D)水および
(E)多価アルコール類、
(B)、(C)、(D)および(E)の混合液中に(A)が分散されてなることを特徴とする色素製剤。
【請求項2】
成分(E)がグリセリン、ソルビトールおよびプロピレングリコールから選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載の色素製剤。
【請求項3】
色素製剤全量に対する成分(A)の割合が1〜10重量%、成分(B)の割合が9〜15重量%、成分(C)の割合が1〜5重量%、成分(D)の割合が2〜6重量%である請求項1または請求項2に記載の色素製剤。
【請求項4】
油溶性色素結晶の平均粒径が100〜400nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素製剤。
【請求項5】
(B)HLB10〜15のポリグリセリン脂肪酸エステル、(D)水および(E)多価アルコール類の混合液中に、(C)HLB2〜6のソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはHLB2〜6のジグリセリン脂肪酸エステルに(A)油溶性色素結晶を分散したスラリーを投入した後、湿式粉砕器にて油溶性色素結晶の平均粒径が100〜400nmとなるよう粉砕することを特徴とする色素製剤の製造方法。
【請求項6】
成分(E)がグリセリン、ソルビトールおよびプロピレングリコールから選ばれる1種または2種以上である請求項5に記載の色素製剤の製造方法。
【請求項7】
色素製剤全量に対する成分(A)の割合が1〜10重量%、成分(B)の割合が9〜15重量%、成分(C)の割合が1〜5重量%、成分(D)の割合が2〜6重量%である請求項5または請求項6に記載の色素製剤の製造方法。

【公開番号】特開2008−63476(P2008−63476A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243817(P2006−243817)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】