説明

水分流動性ポリマー膜

本発明は、改良された水分流動性及び安定した孔径を有するポリマー膜組成物に関する。水分流動性は、調節された構成の両親媒性ブロックコポリマーとブレンドしたマトリックスポリマーを使用して膜の親水性を向上させることによって改良される。好ましい膜は、フルオロポリマーマトリックスと、アクリル系の両親媒性ブロックコポリマーとを有するものである。両親媒性ブロックコポリマーを加えることは、水の濾過に使用する場合の精密濾過膜及び限外濾過膜において特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された水分流動性(water flux)及び安定した孔径を有するポリマー膜組成物に関する。水分流動性は、調節された構成の両親媒性ブロックコポリマーとブレンドしたマトリックスポリマーを使用して膜の親水性を向上させることによって改良される。好ましい膜は、フルオロポリマーマトリックスと、アクリル系の両親媒性ブロックコポリマーとを有するものである。両親媒性ブロックコポリマーを加えることは、水の濾過に使用する場合の精密濾過膜及び限外濾過膜において特に有用である。
【背景技術】
【0002】
全地球的規模で、人口の増加にともなう必要性に合わせて、真水の供給がますます必要となってきている。この必要性を満たすために、各種の膜技術が積極的に採用されている。精密濾過(MF)及び限外濾過(UF)は、飲用のための地表水の精製、逆浸透のための汽水及び海水の前処理、及び環境へ放出する前の(特に膜バイオリアクターにおける)廃水の処理に使用されている。
【0003】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、特に水精製に使用される酸化性物質及びハロゲンに対する優れた耐薬品性のために、MF膜及びUF膜には好適なポリマーである。PVDFは更に、ソリューションキャスティング(又はメルトキャスティング)によって多孔質膜とする方法には都合がよい。PVDFは、精密濾過(公称孔径>0.2μm)においては十分に実証されてはいるものの、より小さい孔径の膜では、水分流動性が低いために問題がある。純水についての規制がますます厳しくなっていくにつれて、ウイルス粒子を除去するために0.1μm未満の濾過をするための精密濾過膜が要望されるという動きがある。これは今や、限外濾過の範囲である。このより小さな孔径の領域で、PVDFを十分に働かせるためには、膜の水分流動性を改良する必要があるであろう。
【0004】
PVDFは極めて疎水性の高いポリマーであり、そのことが膜における水分流動性に対する抵抗を大きくしている。PVDF膜の親水性を向上させるためには、水分流動性を改良することが必須である。PVDF膜を後処理するための多くの方法が公表されている。これらの方法には、典型的には、親水性モノマー(たとえば、アクリル酸又はメタクリル酸ヒドロキシエチル)を用いて多孔質のPVDF膜を処理し、次いで重合させて親水性の表面処理をすることが含まれる。これらの方法は、米国特許第4618533号明細書(発明者:M.J.Steuck、公開日:1986年10月21日)、米国特許第4855163号明細書(発明者:I.B.Joffe,P.J.Degen,F.A.Baltusis、公開日1989年8月8日)、及びR.Revanurら、Macromolecules,2007,40,3624〜3620に記載がある。これらの重合は、典型的には、本質的に化学的又は放射線によって開始されるフリーラジカル重合である。
【0005】
その他の後処理方法としては、膜を親水性ポリマー(たとえば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール)の溶液に浸漬させて、一時的に親水性コーティングを付与するものが挙げられるが、これについては、米国特許第4203848号明細書(発明者:J.D.Grandine II,公開日:1980年5月20日)に記載がある。この方法は、単回使用や、バッチプロセス用途には適しているが、長い期間にわたって親水性を維持することはできないであろう。別な処理方法としては、PVDFの表面を(カセイ処理又は放射線処理のいずれかによって)化学的にエッチングし、それに続けて酸化処理をしてもしなくてもよいが、恒久的な親水性を作り出す方法が挙げられる。
【0006】
これらの後処理方法では、その膜の作製方法が複雑かつ高コストになる。それらでは、後処理の化学物質を除去するために、個別の洗浄及び乾燥工程を必要とする。これらの処理は更に、表面の官能性にのみ限定され、内部の細孔は疎水性のままで残る可能性がある。別な難点として、添加したモノマーが過剰に重合すると、細孔が閉塞したり孔径が小さくなったりする可能性もある。このことは、膜の(水分)流動性を低下させることになるであろう。最後に、放射線や表面グラフトプロセスが、PVDFのポリマー骨格に物理的な損傷を与えて、機械的性質を低下させるであろう。
【0007】
更に、毛細管状の中空繊維膜では、上述のようなプロセスによって後処理することが困難であり、また物理的損傷をもっと受けやすい。それでも、毛細管状の中空繊維膜は、その容積あたりのシステム性能が抜群であるために、水処理系として選択するには好ましいものである。PVDFの中空繊維膜の親水性を改良することは、未解決で残っている大きな技術的挑戦である。
【0008】
両親媒性ブロックコポリマーは周知である。ほとんどの両親媒性ポリマーは、水に可溶性のジブロックコポリマーである。これらのジブロックポリマーは、水溶液の増粘や粘弾性ゲルの形成など、多くの用途で使用されてきたが、これについてはたとえば、米国特許第6506837号明細書、米国特許第6437040号明細書、及び米国特許出願公開第2003/0162896号明細書に記載がある。
【0009】
商品名Pluronics商品として知られている、また別な両親媒性トリブロックコポリマーも、文献によく記載されている。これらのトリブロックコポリマーには、親水性の末端ブロックと疎水性の中間ブロック(又はその逆)を含むことができる。その親水性ブロックセグメントは、ポリエチレンオキシド(PEO)ホモポリマーに限定される。親水性の末端ブロックを含むトリブロックは、水に可溶性である。疎水性の末端ブロックを含むトリブロックは、水に不溶性である。
【0010】
両親媒性ジブロックポリマーは、米国特許第6111025号明細書に記載されているように、安定したフリーラジカル化学反応を使用して形成させてもよい。記載されているポリマーは、ジブロック構造に限定されており、更に、相当するブロックコポリマーを合成するためにTEMPOベースのニトロキシド誘導体を使用することも記載されている。このタイプのフリーラジカル重合制御剤[たとえばMacromolecules,1996,29,p.5245〜5254に記載されている、(2’,2’,6’,6’−テトラメチル−1’−ピペリジルオキシ−)メチルベンゼン]は、スチレン及びスチレン系誘導体の重合を制御できるだけであって、アクリル酸誘導体の制御された重合には適していない。米国特許第6767968号明細書には、リビングタイプまたセミリビングタイプのフリーラジカル重合を使用して、疎水性及び親水性両方のモノマー単位を有するランダムブロックを有するABAトリブロックコポリマーを形成させることが記載されている。
【0011】
Arkema社の特許出願の米国特許出願公開第2006/052545号明細書には、水吸収性があり、湿潤条件下での粘着性を与える、制御されたラジカル重合によって形成されたジブロックコポリマー粘着剤の記載がある。
【0012】
オイルベースの組成物中における添加剤及び増粘剤として使用するための両親媒性ブロックポリマーが、国際公開第05/056739号パンフレットに記載されている。米国特許出願公開第2008/0058475号明細書には、ヒドロゲルとして使用するための両親媒性トリブロックコポリマーの形成が記載されている。
【0013】
上述の参考文献のいずれにおいても、膜を改質するために両親媒性構造を使用するということについては、何の教示もない。
【0014】
特殊なグラフトをさせたPVDFポリマーが、膜用途で試みられたことがある。グラフト反応を実施して、制御されたラジカル重合プロセス(ATRP)によって、バルクのポリマー表面上に親水性基を与えた。このグラフト方法は、国際公開第02/22712A2号パンフレット(発明者:A.M.Mayes,J.F.Hester,P.Banerjee,及びA.Akthakul,公開日:2002年3月21日)に記載されている。次いで、このグラフト化ポリマーに転相プロセスを使用した二次加工をして、多孔質膜とすることができる。他の処理法と同様に、このアプローチ方法も、重合後にいくつもの変換工程を有する多段プロセスであるために、顕著にコストアップとなる。バルクのPVDFポリマーを化学的に改質すると、架橋が起きる可能性があり、それが、溶液の性質、究極的には膜の多孔度に影響する可能性がある。したがって、親水性膜を作製するためにPVDFを直接的に改質しようとすると、極めてコスト高であり、また潜在的に信頼のおけない手段である。
【0015】
Mayes及び共同研究者は、親水性を改良するためにアクリル系ランダムコポリマーとPVDFとをブレンドすることを報告した(Macromolecules,1999,32,1643)。これらのアクリル系コポリマーには、ポリエチレングリコールメタクリレートのような親水性モノマー基を含んでいた。ランダムコポリマーなので、微細構造及び組成を制御するのが、制御されたラジカル重合の場合よりも困難である。高度に分岐状の構造が表面を分離させる(segregate)傾向があるという理論に基づいた動力学を根拠として、これらの親水性の「櫛状(comb)」ポリマーが表面を分離させ、膜表面に集中させるために特別に設計されたということが主張されている。このことが表面の親水性を改良するのに有効ではあるものの、膜の細孔の内部を均質に親水性とするのに、この処理がどれほど有効であるかについては、疑問がある。表面濃度が高いほど、リーチングによる添加剤の損失も促進される可能性がある、すなわち、疎水性の主鎖が、ポリマーマトリックスと効果的に絡み合うことができない。更に、フリーラジカルプロセスで形成されたポリマーが不均質な構造を有しているために、その効果に限度がある可能性がある。主鎖及びグラフト部分両方の構成及び化学的組成を制御することが、ブロックコポリマーに比較して、はるかに達成困難であるのは、周知の事実である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第4618533号明細書
【特許文献2】米国特許第4855163号明細書
【特許文献3】米国特許第4203848号明細書
【特許文献4】米国特許第6506837号明細書
【特許文献5】米国特許第6437040号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0162896号明細書
【特許文献7】米国特許第6111025号明細書
【特許文献8】米国特許第6767968号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2006/052545号明細書
【特許文献10】国際公開第05/056739号パンフレット
【特許文献11】米国特許出願公開第2008/0058475号明細書
【特許文献12】国際公開第02/22712A2号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】R.Revanurら、Macromolecules,2007,40,3624〜3620
【非特許文献2】Mayesら、Macromolecules,1999,32,1643
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来からのフリーラジカル重合では、ポリマーセグメントの制御及び物性の調節を、意のままに設計することは不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
驚くべきことには、ポリマー膜中で疎水性ポリマーマトリックスに対して調節された構成の両親媒性ブロックコポリマーを添加すると、極めて小さい孔径であっても、安定した孔径と高い(水分)流動性が得られるということが今や見出された。本明細書に記載のブロックコポリマーのブレンド物は、均質かつ安定した親水性を付与するために特に設計されたものである。フルオロポリマーマトリックスはアクリル系両親媒性ブロックコポリマーと共に安定したブレンド物を形成し、それは容易にキャストして、高い水分流動性を有する膜とすることができる。従来からの親水性添加剤とは異なり、意のままに設計したブロックコポリマーは、長期間水で洗われても浸出することはない。両親媒性ブロックコポリマーを加えることは、水の濾過に使用する場合の精密濾過膜及び限外濾過膜において特に有用である。
【0020】
本発明は、以下のものを含むポリマー膜に関する:
a)99〜20重量%の疎水性マトリックスポリマー、及び
b)1〜80重量%の、少なくとも一つの親水性ブロックと少なくとも一つの疎水性ブロックとを有し、前記ポリマーマトリックスと相溶性がある両親媒性ブロックコポリマー。
【0021】
本発明は更に、それによって疎水性マトリックスと両親媒性ブロックコポリマーとの均質なブレンド物(intimate blend)が形成される方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、調節された構成の両親媒性ブロックコポリマーとブレンドされた疎水性ポリマーマトリックスを含むバルク又は溶液から形成されるポリマー膜に関する。
【0023】
本明細書で使用するとき、「ブロックコポリマー」という用語は、ジブロック、トリブロック、又はマルチブロックであってもよい、真のブロックポリマーか、分岐状のブロックコポリマー、別名直鎖状のスターポリマー;櫛状のブロックコポリマー;及びグラジエントポリマーのいずれをも意味している。ブロックコポリマーのセグメントの一つ又は複数が、グラフトコポリマーを含んでいてもよい。グラジエントポリマーは、直鎖状のポリマーであって、その組成が、場合によってはランダムからブロック様の構造の範囲でポリマー鎖に沿って次第に変化してゆくものである。ブロックコポリマーのそれぞれのブロックは、それ自体が、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ランダムターポリマー、ランダムテトラポリマー、グラフトコポリマー、又はグラジエントポリマーであってよい。
【0024】
本明細書で使用するとき、「両親媒性」という用語は、そのコポリマーの少なくとも一つのブロックが親水性であり、少なくとも一つのブロックが疎水性であることを意味している。
【0025】
本明細書で使用するとき、「親水性」又は「親水性ポリマー」という用語は、そのポリマーブロックセグメントが、水溶性であるか、水分散性であるか、又は一般的に水を吸収及び/又は透過することが可能であるということを意味している。その親水性のブロックは、親水性のホモポリマーであっても、1種又は複数の親水性モノマーを含むランダムコポリマーであっても、あるいは1種又は複数の親水性モノマーと1種又は複数の疎水性モノマーとを含むランダムコポリマーであってもよい。親水性ブロックポリマーを形成させるのに有用なエチレン性不飽和モノマーとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:アクリル酸、メタクリル酸、並びにメタクリル酸及びアクリル酸の塩、エステル、無水物及びアミド;ジカルボン酸無水物;アクリル酸カルボキシエチル;アクリレートの親水性誘導体;スチレンの親水性誘導体;並びにアクリルアミド。特に有用なモノマーとしては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:無水マレイン酸、マレイン酸、置換された無水マレイン酸、無水マレイン酸のモノエステル、無水イタコン酸、イタコン酸、置換された無水イタコン酸、イタコン酸のモノエステル、フマル酸、無水フマル酸、フマル酸、置換された無水フマル酸、フマル酸のモノエステル、クロトン酸及びその誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、n−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、スチレンスルホン酸、アクリルアミド2−メチル2−プロパンスルホネート、ビニルピロリドン、アクリル酸2−カルボキシエチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコール−メチルエーテル−アクリレート、ポリエチレングリコール−メチルエーテルメタクリレート。本発明においては、酸モノマーの塩及びアミンの四級化物もまた考えられるし、親水性ポリマーセグメントが、中和されるか、又は部分的に中和された形態で存在していてもよい。本発明の好適な親水性モノマーとしては、以下のものが挙げられる:アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸及びメタクリル酸の塩、アクリル酸メトキシエチル、ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドン、アクリル酸2−カルボキシエチル、ポリエチレングリコールアクリレート(PEGA)、ポリエチレングリコール−メチルエーテルアクリレート(MPEGA)、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、ポリエチレングリコール−メチルエーテル−メタクリレート(MPEGMA)、アクリルアミド2−メチル2−プロパンスルホネート、スチレンスルホン酸、並びにイタコン酸。
【0026】
親水性ブロックの数平均分子量は、1kg/mol〜160kg/mol、好ましくは3kg/mol〜100kg/mol、最も好ましくは5〜60kg/molの範囲である。
【0027】
その疎水性ブロックコポリマーセグメントは、疎水性ホモポリマー、1種若しくは複数の疎水性モノマーを含むランダムコポリマー、又は1種若しくは複数の疎水性モノマーと1種若しくは複数の親水性モノマーとを含むランダムコポリマーである。疎水性ブロックは、膜の(1種又は複数の)マトリックスポリマーとの相溶性の観点から選択する。本明細書で使用するとき、「疎水性」及び「疎水性ポリマー」という用語は、そのポリマーブロックセグメントが水に不溶性であるか、非分散性であることを意味している。疎水性の(一つ又は複数の)ポリマーブロックを形成させるのに有用なエチレン性不飽和モノマーの例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:スチレン、スチレンの疎水性誘導体、共役ジエン、アクリル酸のC1〜30直鎖状、環状、又は分岐状のアルキル及びアリールエステル、メタクリル酸のC1〜30直鎖状、環状、又は分岐状のアルキル及びアリールエステル、オレフィン、フッ素含有モノマー、並びにケイ素含有モノマー。疎水性モノマーの具体例としては以下のものが挙げられる:スチレン;アルファメチルスチレン、メタクリル酸ラウリル(又はその他のアクリル酸長鎖アルキル若しくはメタクリル酸長鎖アルキル、たとえば、C6〜C30アルキルエステル、アクリル酸2−エチルヘキシル及びメタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル及びメタクリル酸オクチル、アクリル酸デシル及びメタクリル酸デシルなど)、アクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロアルキル及びメタクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロアルキルで、次の一般式のもの、CF3(CF2nCH2OCOC(R)=CH2(式中、Rは水素又はメチルであり、nは典型的には2〜20である)、アクリル酸ヘキサフルオロブチル、アクリル酸トリイソプロピルシリル、アクリル酸及びメタクリル酸のポリジメチルシロキサンエステル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、ブタジエン、イソプレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸tert−ブチル、及びメタクリル酸t−ブチル。好適なモノマーとしては以下のものが挙げられる:スチレン、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、次の一般式CF3(CF2nCH2OCOC(R)=CH2(式中、Rは水素又はメチルであり、nは典型的には6〜18である)のアクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロアルキルとメタクリル酸1,1−ジヒドロペルフルオロアルキルとの混合物、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、並びにメタクリル酸メチル。
【0028】
それぞれの末端ブロックの数平均分子量は、0.5kg/mol〜120kg/mol、好ましくは5kg/mol〜80kg/molの範囲である。
【0029】
本発明のブロックコポリマーは、制御されたラジカル重合プロセスによって形成させる。それらのプロセスでは一般的に、典型的なフリーラジカル開始剤を化合物と組み合わせて重合プロセスを制御し、特定の組成で、特定の構成で、制御された分子量と狭い分子量範囲とを有するポリマーを製造する。使用されるそれらのフリーラジカル開始剤は当業者には公知のものであって、加熱によって分解してフリーラジカルを発生する、ペルオキシ化合物、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド及びアゾ化合物などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。一つの好ましい実施形態においては、その重合開始剤に更に重合制御剤が含まれていてもよい。制御されたラジカル重合(CRP、controlled radical polymerization)プロセスによって作製したブロックコポリマーは、そのブロック構造を意のままに設計して、ブレンド物の安定性、マトリックスの相溶性、及び親水性の向上の最適化を可能とする。
【0030】
本発明のブロックコポリマーは、制御されたラジカル重合(CRP)によって形成されたものであるのが好ましい。それらは、統計的分布、又はモノマーの間での反応速度の違いのいずれかに関連する、ある種のモノマーのいくつかのブロックを含む可能性があるランダムコポリマーとは異なっている。これらのランダム重合においては、ポリマーの構成、分子量、又は多分散性について実質的には何の制御も存在せず、また個々のポリマー鎖の相対的な組成も不均質である。
【0031】
たとえばニトロキシド媒介重合のようなCRP法を使用してコポリマーセグメントを合成した場合、それは多くの場合、グラジエントコポリマー又はプロファイルド(所定のプロファイルを有する)コポリマーと呼ばれる。このタイプのコポリマーは、従来からのフリーラジカルプロセスによって得られたコポリマーとは異なっている。そのコポリマーの性質は、モノマーの組成、使用した重合制御剤、及び重合条件に依存するであろう。たとえば、モノマー混合物を従来からのフリーラジカル重合によって重合させると、統計に基づいたコポリマーが生成するが、その理由は、モノマー混合物の組成が、成長する鎖の寿命(ほぼ1秒)の間一定に留まっているからである。更に、反応の過程でフリーラジカルの発生が一定であるために、それらの鎖の組成は、不均質になるであろう。制御されたラジカル重合の際には、重合工程の過程を通して鎖が活性を保ち(すなわち、成長する鎖の寿命の間を通して、モノマー混合物が一定でない)、そのために、鎖の組成が均一であり、それは反応時間に対応したモノマー混合物に依存する。好ましい実施形態においては、本発明の親水性コポリマーセグメントがプロファイルド、又はグラジエントブロックコポリマーである。
【0032】
制御されたラジカル重合法の例は当業者には自明のことであろうが、たとえば、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆付加開裂連鎖移動重合(RAFT)、ニトロキシド媒介重合(NMP)、ホウ素媒介重合、及び触媒連鎖移動重合(CCT)などが挙げられるが、これらに限定され訳ではない。これらのタイプの重合法の説明と比較は次の文献に記載されている:ACS Symposium Series768、『Controlled/Living Radical Polymerization:Progress in ATRP,NMP,and RAFT』(Krzystof Matyjaszewski編、American Chemical Society,Washington,D.C.,2000)。
【0033】
原理的には、選択したモノマーに適合するならば、いかなるリビング重合法又は制御された重合法も、ブロックコポリマーを作るのに利用することができる。一つの好ましい制御されたラジカル重合法は、ニトロキシド媒介CRPである。ニトロキシド媒介CRPが好ましいが、その理由は、調節された構成のコポリマーを調製する際に、アクリル系誘導体、特に酸官能性のアクリル系誘導体の使用を含めて、広く各種のモノマーを使用できるようになるからである。本発明のニトロキシド媒介CRPマルチブロック両親媒性コポリマーの合成は、米国特許出願公開第2008/0058475号明細書に見られるが、その出願を参考として引用し本明細書に組み入れる。
【0034】
本発明の両親媒性ブロックコポリマーは、一般的には、10kg/mol〜400kg/molの範囲の分子量(Mw)を有している。
【0035】
本発明の両親媒性コポリマーには、中和可能なモノマー単位を含むことができ、いくつかの場合においては、それらのモノマー単位を予め中和しておくことができる。本明細書で使用するとき、「中和」という用語は、その両親媒性コポリマーの親水性のブロックが、完全に(fully)又は部分的に塩の形になっているということを意味している。中和は、重合の過程のどの時点でも、あるいは重合後プロセスとしてたとえば、配合、ブレンド、又はフィルム、物品若しくは部品の製作の過程で実施することができる。中和可能なモノマー単位が存在することによって、膜の内部にpH依存性を付与することが可能となる。
【0036】
本発明の有用な特徴は、制御重合プロセスを使用して、構造−物性挙動を設計する固有の能力である。このことによって、ブロックの組成、Mw、及び構成を意のままに設計して次の目的を達成することが可能となる:ブレンド性及び加工性の向上(ポリマーと使用するプロセス溶媒とを相溶させる)、加工後の永続性を促進させるマトリックス相溶化の向上(疎水性ブロックが膜のマトリックスと絡み合っている)、及び溶融ブレンド又は溶媒ブレンドプロセスの粘度の制御、など。たとえば、親水性ブロックにpH依存性を付与するために、このセグメントの中にアクリル酸を共重合させることができる。親水性グラフトコポリマーのマトリックス安定性を改良するために、マトリックス混和性の疎水性ブロックセグメントを添加して、疎水性のAブロックと親水性のBブロックグラフトコポリマーとのA−Bジブロックコポリマーを形成させることもできる。
【0037】
本発明の好ましいブロックコポリマーは、親水性セグメントと、少なくとも一つのポリフッ化ビニリデン相溶性若しくは混和性セグメントとを有するもの、たとえば、主として(メタ)アクリル系モノマー単位を含む親水性の第二のブロックに結合された、主としてポリメチルメタクリレート(PMMA)の疎水性ブロックを有するジブロックのものである。PMMA(疎水性)と親水性ブロックとの間の相分離が、本発明の基本をなす部分である。この特異的な相分離によって、(PMMAブロックとPVDFとの相溶性のある混合による)安定した添加構造と親水性ブロックの効果的な利用とが可能となるが、その理由は、その親水性ブロックがPVDFマトリックスから分離して、膜の細孔壁の上に局在化するからであろう。このことが、親水性の内部表面を生成させ、より高い水分流動性を促すことになるであろう。これらの両親媒性ブロックは更に、より均質な孔径を形成させる可能性もあるし、またこれらの物質に固有の相分離のサイズのスケールの小ささのために、より小さい孔径の形成に役立つ可能性もある。これらのタイプのブロックコポリマーは、ジブロック(一つはPMMAブロック、もう一つは親水性ブロック)、又はトリブロック(PMMA−親水性ブロック−PMMA;若しくは親水性ブロック−PMMA−親水性ブロック)のいずれか、又は、他のユニークなブロック構造、たとえば、スターブロックコポリマー、及び櫛状ブロックポリマー(これらに限定される訳ではない)の組合せとすることもできる。
【0038】
本発明において有用な両親媒性ブロックコポリマーのその他の例としては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:PMMA−PAMPS、PMMA−PMAA、PMMA−PAA、PMMA−PDMA、PMMA−PMEA、PMMA−PSSA、PMMA−PPEGA、PMMA−PMPEGMA、PMMA−PPEGMA、及びPMMA−PVP、ここで、AMPSはアクリルアミド2−メチル2−プロパンスルホネートであり、MAAはメタクリル酸であり、AAはアクリル酸であり、DMAはジメチルアクリルアミドであり、MEAはアクリル酸メトキシエチルであり、SSAはスチレンスルホン酸であり、PEGAはポリエチレングリコールアクリレートであり、MPEGMAはポリエチレングリコール−メチルエーテル−メタクリレートであり、PEGMAはポリエチレングリコールメタクリレートであり、そしてVPはビニルピロリドンである。それぞれの場合において、親水性ブロックには、上述の親水性モノマーの混合物を含むこともできるし、あるいは、本発明の親水性モノマーと疎水性モノマーとの混合物を含むこともできる。
【0039】
膜のマトリックスポリマーは、以下の各種の疎水性ポリマーとすることができるが、これらに限定される訳ではない:PVDF、PVDF−co−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ECTFE、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィン、ポリスチレン(及びスチレン誘導体)、ポリアミド、ポリスルホン、及びポリエーテルスルホン。それぞれの場合において、相当するマトリックス可溶性のブロックを調節して、マトリックスとの相溶化が確実で、加工後の恒久性を促進させることができる。フルオロポリマーが好ましい。本発明において有用なフルオロポリマーとしては、1種又は複数のフルオロモノマーを少なくとも50モル%含むものが挙げられる。
【0040】
本発明を実施するのに有用なフルオロモノマーとしては、たとえば、フッ化ビニリデン(VF2)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブチレン、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、ペンタフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロプロペン、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アリルエーテル、非フッ素化アリルエーテル、フッ素化ジオキソール、及びそれらの組合せなどが挙げられる。
【0041】
本発明の方法によって作製される特に好ましいコポリマーは、VDFと、HFP、TFE又はCTFEとのコポリマーであって、約50〜約99重量%のVDF、より好ましくは約70〜約99重量%のVDFを含むものである。
【0042】
特に好ましいターポリマーは、VDFとHFPとTFEとのターポリマー、VDFとトリフルオロエテンとTFEとのターポリマーである。特に好ましいターポリマーは、少なくとも10重量%のVDFを含み、他のコモノマーは、いろいろな割合で含まれていてよいが、ただし、それらを合わせて、ターポリマーの最高90重量%までを構成している。
【0043】
ブロックコポリマーは、その疎水性ポリマーマトリックス樹脂に別途に加えてもよいし、あるいは、溶解させる前にマトリックスポリマーに予備コンパウンディングしておいてもよい。
【0044】
膜は、一般的には、溶媒の中にマトリックスモノマー及び両親媒性コポリマーを溶解又は分散させることによって形成させる。99〜20、好ましくは99〜40、より好ましくは90〜70重量%の疎水性マトリックスポリマーを、1〜80、1〜60、好ましくは5〜40重量%の両親媒性ブロックコポリマーとブレンドする。有用な溶媒としては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチル尿素、リン酸トリエチル、アセトン、及びテトラヒドロフラン、又はそれらの混合物。溶解プロセスは、オーバーヘッド撹拌機を取り付けた加熱したフラスコの中で実施してもよいし、あるいはローラー上に置いた密閉ジャーの中で実施してもよい。ジャーの中で溶解させる場合、完全に溶解させるには溶液を通常50℃にまで加熱する必要がある。
【0045】
親水性を向上させるために、ポリマー/ブロックコポリマー溶液に少量の親水性添加剤を添加してもよい。有用な添加剤としては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、プロピレングリコール(PG)、ポリアクリル酸(PAA)、及びポリメタクリル酸(PMA)。
【0046】
好ましい実施形態においては、膜の配合物には追加の添加剤を含まず、ブロックコポリマーとPVDF樹脂のみである。この方法は、実施例9〜18において説明する。この好ましい方法では、余分な細孔形成性添加剤の添加を回避したが、それによって原料費が下がり、配合の複雑さが低減される。膜の形成において(典型的には添加される)親水性添加剤を使用せずに作製した膜は、アクリル系ブロックコポリマーとPVDF樹脂との単純なブレンド物の場合に、PEGのような添加剤を含むより複雑な配合物に比較して、顕著により高い水透過性を示す。これらは単純なブレンド物であるので、配合がより容易となり、また予めブレンドしておいたPVDFとアクリル系ブロックコポリマー樹脂との「単一」成分要素の実施可能性を示す。それらによって、添加剤の存在によるボイドの生成の可能性、及び添加剤が洗い出されることによる物性の損失の可能性も回避される。次いで、そのポリマーの分散体を当業者公知の加工法によってキャストする。これらの配合物は、当業者公知の加工法によって中空繊維膜に加工することも可能である。本発明の膜は、変性しない膜よりも高い水分流動性と、よい低い接触角(より高い親水性)とを示した。これらのブロックコポリマーブレンド物は更に、従来からのランダムコポリマーアクリル系樹脂から作製したブレンド物よりも、高い水分流動性も示した。更に、従来からのポリマーは、時間の経過と共に洗い流される傾向があり、そのために使用している内に(水分)流動性が低下した。両親媒性ブロックコポリマーは、高い(水分)流動性を維持したが、これは、それがその細孔表面になんらかの耐久性を有していることを示唆している。このことは、そのブロック構造が、親水性の改質に関して優れた性能を付与していることを示している。
【0047】
本発明のまた別な態様は、2段の、すなわちシード化したエマルションプロセスを使用して、ブロックコポリマーと疎水性ポリマーとの密接なブレンド物を形成するための方法である。この方法においては、次いでブロックコポリマーを、予め形成しておいた疎水性ポリマーのラテックス(シードラテックスとも呼ばれる)の上で重合させて、疎水性ポリマー及びブロックコポリマーを含む「ハイブリッド」ラテックス粒子を得る。実際のところ、この方法においては、シードラテックスとしていかなるポリマーラテックスを使用してもよい。当業者には自明のことであるが、これらのハイブリッドラテックス粒子は、特定の成分組成に応じて、各種の粒子モルホロジーを有していてもよく、そしてコア−シェル又は相互貫入ネットワークモルホロジーを含んでいてもよい。疎水性シードポリマーの上で重合させた親水性ブロックコポリマーの場合、好適なモルホロジーはコア−シェルであって、そこでは、ブロックコポリマーの親水性ブロックが粒子−水の界面に存在し、疎水性ブロックが疎水性シードポリマー相の近傍にあるか、又はそれと絡み合っている。
【0048】
疎水性ポリマーのシードラテックスは、従来からのフリーラジカル乳化重合法によって形成させることができる。ブロックコポリマーは、各種の制御されたラジカル乳化重合プロセスで形成させるが、ニトロキシド媒介重合が好ましい。ブロックコポリマーは、フリーラジカル開始剤と重合制御剤との組合せ、より好ましくはフリーラジカル開始剤と重合制御剤のアダクト、たとえばBlocBuilder(登録商標)重合制御剤(Arkema社から入手可能)を使用して形成させてもよい。そのフリーラジカル開始剤、又は重合開始剤/重合制御剤アダクトからの開始剤断片は、本質的に親水性(水溶性)であっても、疎水性(油溶性)であってもよい。後者の場合には、重合開始剤と重合制御剤を加えたもの、又は重合開始剤/重合制御剤アダクトは、疎水性のシードポリマー粒子の中に直接入り込み、そこで制御重合が起きる。前者の場合には、これらの化学種が、主として水相の中にある。マクロ重合開始剤、すなわちさらなる制御されたラジカル重合へ進むことができる予め形成しておいたオリゴマー又はポリマーを使用して、ブロックコポリマーの生成を開始させてもよい。好ましくは重合開始剤/重合制御剤の組合せ又はアダクトが、最も好ましくはマクロ重合開始剤が、本質的に親水性であって、水に可溶性である。一つの好ましい実施形態においては、BlocBuilder(登録商標)重合制御剤は、水溶性の状態である。
【0049】
本発明のこの態様の方法の記述を一般的に表現すると、以下のようになる。従来からのフリーラジカル重合によって作製した疎水性ポリマーのシードラテックスを、次のブロックコポリマーの第一段階のモノマー又はモノマー混合物の一部を用いて、膨潤させる。水溶性の重合開始剤/重合制御剤アダクト又はマクロ重合開始剤を添加し、そのラテックスを不活性化させて、制御重合を行わせるのに適した温度にまで加熱する。適切な時間を置いて、モノマーを重合させて、その疎水性ポリマーシード粒子の内部に今や存在している「リビング」ポリマー鎖末端が、そのシード粒子から抜け出すのを防止するのに十分な大きさの分子量になるような転化率にする。この方法において、その疎水性シードポリマー粒子が、ブロックコポリマー重合のための重合の座となっており、疎水性ポリマーシード粒子数と粒径分布の両方が維持されるので、その最終的な粒径が(質量保存則によって)予測可能である。モノマー又はモノマーの混合物を更に添加すると、この第一段のポリマー若しくはコポリマーの分子量が増大するか、又は次の段階若しくはブロックが始まるかのいずれかとなる。ブロックコポリマーの生成が完了したら、残存しているモノマーは、従来からのフリーラジカル法によって、ポリマーに完全に転換させる、すなわち「チェース(chase)」させることができる。
【0050】
本発明の更にまた別な態様は、当業者に公知の方法すなわち、スプレードライ法、コアグレーション法、凍結乾燥法などにより、これらの成分のラテックスブレンド物を共単離することによって、ブロックコポリマーと疎水性ポリマーとのブレンド物を形成させる方法である。
【0051】
ブロックコポリマーが本質的に両親媒性であるのが好ましいが、全て非親水性ブロックで構成することも可能である。両親媒性ブロックコポリマーを形成させた場合では、先に説明したように、疎水性ポリマーと両親媒性ブロックコポリマーとのブレンド物を、改良された水分流動性と安定した孔径を有する膜として利用することができる。これらの材料は、ポリマー電解質膜として使用することも可能であろうが、その場合、その親水性の部分が相分離して、膜のマトリックスを貫通する連続の導電性チャンネルを形成することになるであろう。ポリマー組成を意のままに設計することで、複合材料の物性を意のままにすることが可能となる。
【0052】
更に、形成されたハイブリッドラテックスを使用して、親水性に変性したポリマーコーティングを作製することもできるであろう。これらの変性したコーティングは、改良された濡れ性を有するであろうし、潤滑性コーティング、自己清浄性建築用コーティング、防汚性コーティング、防曇性コーティング、ペイント及びその他の表面処理のための粘着促進性コーティング、及びそのようなその他のコーティングとして使用可能であろうことは、当業者には自明なことであろう。
【0053】
概要:
制御された構造の両親媒性ブロックコポリマーを、以下の一般的プロトコールを用いて合成した。モノマー対重合開始剤の濃度([M]/[I])を操作することによって、目標の分子量を狙った。したがって、目標の分子量は、[M]/[I]比を設定することによって達成することが可能であって、次いで重合を実施して、目標の分子量に達するのに必要な所望の転化率とした。モノマーの転化率は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析か、又は真空下で未反応のモノマーをフラッシュ蒸発させることによってモニターするのが好都合である。重合実施例は、ニート又は溶液中で実施した。使用した典型的な溶媒としては、ジオキサン、n−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、tert−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、トルエン、エチルベンゼン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エタノール、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、及びメチルエチルケトンが挙げられる。重合は周囲圧力で実施するか、又は100psiまでの窒素圧の下で実施した。重合は、剪断能力有り及び剪断能力無しの両方の標準的な重合容器の中で実施したが、十分な混合能力がある方が好ましかった。
【0054】
一般的な手順としては、特定の両親媒性ブロックコポリマー組成物を、所望の最終的なブロック組成に応じて、各種の従来からのモノマー添加及びポリマー単離プロトコールによって調製するが、これについては以下で一般的に説明するし、また当業者には自明である。
【0055】
たとえば、純粋なブロックコポリマーを調製するには、第一のブロックの合成が完了してから、沈殿法によるか又は残存モノマーを蒸発させることによって、純粋な第一のブロックを単離し、それに続けて、第一のものとは異なる第二のモノマー組成物を添加する。次いで、この第二のモノマー組成物を重合させて、純粋なブロックコポリマーを作製する。
【0056】
プロファイルドブロックコポリマーは、2種以上のモノマーの混合物を重合させることによって合成した。この混合物は、たとえば、残存している第一のモノマーを蒸発させるより前に、最初の重合媒体に第二のモノマーを添加することによって得ることができるか、又は複数のモノマーの混合物を第一のブロックとして重合させることができるか、又は単離された純粋な第一のブロックに複数のモノマーの混合物を添加することもできる。
【0057】
ブロックコポリマー/ホモポリマーブレンド物は、公知のチェーシング法(chasing technique)によって調製した。たとえば、単一モノマー又はモノマー混合物を、所望の転化率(100%未満)になるまで重合させることによって、第一のブロックを合成する。次いでニトロキシドが安定である温度にまでその反応混合物を冷却し、その時点で、第二の開始剤源たとえば有機過酸化物を添加して、残存している第一のブロックモノマーの重合を実施させる。チェーシング工程が完了したら、第二のブロックモノマー(単一又は複数)を添加することが可能であり、温度を上昇させて、ニトロキシド末端基の活性化を可能とすると、次いでそれがブロックコポリマーの形成につながる。すると、その複合物質には、チェースされたホモポリマー(性質としては第一のブロックに類似)とブロックコポリマーとの両方を含むこととなるであろう。チェーシング工程は、第二のブロックを用いて再び実施することもできるし、あるいは第一のブロックチェースに代えて実施することもできる。
【0058】
上述の様にして本発明のコポリマーを合成することを、以下に列記する、相当する特定のポリマー実施例により更に説明するが、これらの実施例に限定される訳ではない。本発明の他のコポリマーも類似の方法で調製することができるが、これは当業者には自明なことであろう。
【0059】
以下の実施例で、本発明の実施の要点を示す。特に断らない限り、分子量は重量平均分子量であり、パーセントは重量%である。
【実施例】
【0060】
実施例1
両親媒性ジブロックコポリマーを調製するために、175g(0.40mol)のメトキシ末端のポリエチレングリコールメタクリレート(商品名MPEG(350)MA)、429g(5.0mol)のアクリル酸メチル(MA)、及び25g(0.29mol)のMAAを50gの酢酸ブチルの中に秤り込んだ。19.14g(50.2mmol)の商品名BLOCBUILDERを添加し、その混合物を加熱して105℃とした。105℃で3時間モノマーを反応させておくと、MAが61%の転化率、MAA及びMPEGMAいずれもが95%の転化率に達した。ポリマーと溶媒の混合物を、真空下60〜70℃でストリッピングさせて、残存しているMAのほとんどを除去した。第二のブロックを作製するために、359gのMMAを、70.0gの第一のブロック、3.9gのMA、16gの酢酸ブチル、121.76gのアセトンの混合物に添加した。転化率が55%に達するまで105℃で2時間反応させることによってPMMAブロックが生成したが、それにより、PMA/MPEGMA/MAA−ブロック−PMMAブロックコポリマーが得られた。得られたポリマーの半量を、真空下130℃で3時間かけて乾燥させた。
【0061】
実施例2
両親媒性ジブロックコポリマーを調製するために、600グラムのアクリル酸メチル(MA)、16.3gのBLOCBUILDERを共に秤り込み、その混合物を窒素で10分間バブリングさせた。次いでその混合物を加熱して100℃にすると、70%の転化率に達し、リビングPMAの第一ブロックが形成された。追加のMA及びスチレンスルホン酸ナトリウム(SSNa)を用いて以下の方法により、そのリビングPMAの鎖伸長を行わせた:80.0グラムのPMA溶液(70%ポリ、30%MA)、30.0グラムのMA、200gのエタノール、50.0グラムのSSNa、0.1gの遊離ニトロキシド及び215gの脱イオン水を1Lのステンレス鋼製反応器に秤り込み、その不均一系に窒素を10分間バブリングさせた。その混合物を、100℃で2時間、次いで115℃で更に2時間加熱すると、MAは75%の転化率、SSNaは完全な転化に達した。
【0062】
実施例3
中和されたブロックコポリマーを調製するために、216gの実施例1からのポリマーを、212gのさらなるアセトンに溶解させた。この溶液に、3.425gの20%NaOH(水溶液)を添加した。得られた溶液を、真空下130℃で3時間かけて乾燥させた。
【0063】
実施例4
リビング性の、水溶性第一のブロックを調製するために、10.4g(46.3mmol)のスチレンスルホン酸ナトリウム水和物、3.823g(10.0mmol)のBLOCBUILDER、0.15g(0.43mmol)の(過剰ニトロキシド)、0.429g(10.7mmol)のNaOH、80.84gの脱イオン水、及び13.1g(101mmol)のアクリル酸メトキシエチル(MEA)を混合した。その均一系混合物を、90〜95℃で3時間加熱すると、MEAが68%の転化率に達した。
【0064】
シード化したアクリル系エマルションを調製するために、7.8gの商品名KYNAR AQUATECシードポリマーラテックス(固形分41.2%)(Arkema Inc.)を使用した。5.05gの脱イオン水、3.617gのMMA、1.015gの先に述べた第一のブロック溶液を添加し、100℃で3時間加熱すると、MMAが40%の転化率に達した。粒径分布が狭く、粒径が段階的に成長していることから明らかなように、コロイドの安定性は維持された。
【0065】
実施例5
PVDF樹脂(15.0g、平均Mw約400,000〜500,000)を、3.0gのアクリル系コポリマー[PMMA(ブロックMw約50,000)−ブロック−PMA/MPEGMA/AA(ブロックMw約3000、MPEGMA約40%、PMA約50%、AA約10%)]、N−メチルピロリドン(NMP)溶媒(67.0g)、及びポリエチレングリコール(10.0gの400MW、5.0gの1000MW)と混合した。この混合物を65℃で2時間撹拌して、全部の成分を完全に溶解させた。その溶液を一夜静置して、気泡を完全に消失させた。次いでこの溶液を用いて、膜にキャストした。
【0066】
膜はポリプロピレンシートの上にキャストしたが、ドローダウンスクエアを使用し、ギャップクリアランスを15ミル又は10ミルのいずれかとした。次いで、そのキャストした膜を、少量(約200ppm)のノニオン性界面活性剤を含む水の非溶媒浴の中に(室温で)浸漬させた。その膜溶液は、約2分の間に転相によって固体の膜に転換した。次いでその固体膜を、キャリヤーから剥がし、45℃の水浴に移し、30分間浸漬させた。次いでその膜を、フレッシュな脱イオン水の中に更に30分間浸漬させ、その後でイソプロパノール中に30分間浸漬させた。次いで、膜を風乾させた。空気乾燥後、オーブン中165゜Fで1時間の最終的な乾燥サイクルに膜をかけた。
【0067】
この膜キャスティング法の一つの変形においては、膜を高湿度(>80%)に1分又は2分間暴露させてから、非溶媒浴の中に浸漬させた。その後の膜の形成及び洗浄の手順は、高湿度暴露をさせなかった場合と同じであった。
【0068】
乾燥させた膜を、(水分透過させた前後のなんらかの変化をモニターするために)毛管流ポロメーター法、水透過試験法、及びバブルポイント細孔径法により分析した。バブルポイント法は、多孔質物質の特性解析に関わる当業者には周知であって、次の文献に記載がある:Jacobs & Koros,J.Membrane Science,124(1997),149。
【0069】
実施例6
実施例5と同様にして、以下の成分を合わせて、ブレンドした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約20,000)−ブロック−PMA/MPEGMA(ブロックMw約20,000、MPEGMA約50%、PMA約50%)]、水2.0g、PEG(6.0gの400Mw、3.0gの1000Mw)、NMP(71.0g)。実施例5に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0070】
実施例7
実施例5の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約50,000)−ブロック−PMA/MPEGMA(ブロックMw約20,000、MPEGMA約35%、PMA約65%)]、水2.0g、PEG(6.0gの400Mw、3.0gの1000Mw)、NMP(71.0g)。実施例5に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0071】
実施例8
実施例5の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約50,000)−ブロック−PMA/MPEGMA(ブロックMw約40,000、MPEGMA約35%、PMA約65%)]、水2.0g、PEG(6.0gの400Mw、3.0gの1000Mw)、NMP(71.0g)。実施例5に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0072】
実施例9
実施例5の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした::PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのトリブロックコポリマー[(PMMA末端ブロック、それぞれMw約10,000のブロック)−ブロック−PMA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約80,000、MPEGMA約30%、PMA約65%、MAA約5%)]、水2.0g、PEG(6.0gの400Mw、3.0gの1000Mw)、NMP(71.0g)。実施例5に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0073】
実施例10
実施例5の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした::PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのトリブロックコポリマー[(PMMA末端ブロック、それぞれMw約10,000のブロック)−ブロック−PMA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約80,000、MPEGMA約30%、MA約65%、MAA約5%、NaOHにより10%を中和)]、水2.0g、PEG(6.0gの400Mw、3.0gの1000Mw)、NMP(71.0g)。実施例5に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0074】
比較例11(比較用)
制御の実験として使用できるように、ランダムコポリマーアクリル系樹脂を、実施例5に記載の方法を使用してPVDF樹脂とブレンドし、このブレンド物から膜をキャストした。PVDF樹脂(15.0g、平均Mw約400〜500K)を、酸官能性を含むPMMAアクリル系コポリマー樹脂(3.0g)及びアルキル−アクリレートコモノマー(全Mw約60〜100K、酸含量1〜8%、アクリル系コモノマー含量2〜10%)、水(2.0g)、ポリエチレングリコール(6.0gの400Mw、3.0gの1000Mw)、及びNMP(71.0g)とブレンドした。
【0075】
比較例12
PVDF樹脂(15.0g、平均Mw約400〜500K)を、ポリエチレングリコール(6.0gの40Mw、3.0gの1000Mw)、水(2.0g)、及びNMP(74.0g)と混合し、実施例5の記載に従ってキャスティングして、純PVDF膜を調製した。
【0076】
実施例13
単純化させた配合で、これらのブロックコポリマーのすばらしい実用性を示す。PVDF樹脂(15.0g、平均Mw約400〜500K)を、ジメチルアセトアミド(DMAC)82.0gの中で、ブロックコポリマー樹脂[PMMA(ブロックMw約10,000)−ブロック−PMA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約40,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA約5%)]とブレンドした。この混合物を65℃で2時間撹拌して、全部の成分を完全に溶解させた。その溶液を一夜静置して、気泡を完全に消失させた。次いでこの溶液を用いて、膜にキャストした。
【0077】
膜はポリプロピレンシートの上にキャストしたが、ドローダウンスクエアを使用し、ギャップクリアランスを15ミル又は10ミルのいずれかとした。そのキャストした膜を加湿雰囲気(>80%RH)に1分間暴露させてから、少量(約200ppm)のノニオン性界面活性剤を含む水の非溶媒浴の中に(45℃で)浸漬させた。その膜溶液は、約2分の間に転相によって固体の膜に転換した。次いでその固体膜を、キャリヤーから剥がし、45℃の水浴に移し、30分間浸漬させた。次いでその膜を、フレッシュな脱イオン水の中に更に30分間浸漬させ、その後でイソプロパノール中に30分間浸漬させた。次いで、膜を風乾させた。空気乾燥後、オーブン中165゜Fで1時間の最終的な乾燥サイクルに膜をかけた。そのようにして調製した膜は、極めて良好な水透過性を有していた。
【0078】
実施例14
実施例13に類似の方法で、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約10,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約40,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA約5%]、及びN−メチルピロリドン(82.0g)。この溶液を使用して、ポリプロピレンシートの上に膜(10〜15ミル、湿潤時厚み)をキャストしたが、高湿度暴露は行わなかった。これらの膜は、ノニオン性界面活性剤(約200ppm)を含む室温の水浴の中で急冷させた。
【0079】
実施例15
実施例13の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約25,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約40,000;MA約60%、MPEGMA約35%、MAA約5%]、及びDMAC(82.0g)。実施例13に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0080】
実施例16
実施例13の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約35,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約40,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA約5%]、及びDMAC(82.0g)。実施例13に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0081】
実施例17
実施例13の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約40,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約10,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA約5%]、及びDMAC(82.0g)。実施例13に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0082】
実施例18
実施例13の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gの中和済みブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約40,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA−Na(ブロックMw約10,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA−Na約5%]、及びDMAC(82.0g)。実施例13に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0083】
実施例19
実施例13の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gのブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約10,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA(ブロックMw約10,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA約5%]、及びDMAC。実施例13に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0084】
実施例20
実施例13の方法を使用して、次の成分をブレンドしてから、キャストして膜にした:PVDF(15.0g、平均Mw400〜500K)、3.0gの中和済みブロックコポリマー[PMMA(ブロックMw約10,000)−ブロック−P−MA/MPEGMA/MAA−Na(ブロックMw約10,000、MA約60%、MPEGMA約35%、MAA−Na約5%]、及びDMAC。実施例13に記載の方法に従って、この溶液を用いて膜をキャストした。
【0085】
比較例21
実施例14におけるキャスティング改質法に従って、ランダムコポリマーアクリル系樹脂を、PVDF樹脂とブレンドし、膜をキャストして、ブロックコポリマーのブレンド膜と比較した。PVDF樹脂(15.0g、平均Mw約400〜500K)を、酸官能性を含むPMMAアクリル系コポリマー樹脂(3.0g)、及びアルキル−アクリレートコモノマー(全Mw約60〜100K、酸含量1〜8%、アクリル系コモノマー含量2〜10%)、並びにNMP(82.0g)とブレンドした。
【0086】
比較例22(PVDF対照)
実施例14におけるキャスティング改質法に従って、(他の添加剤を加えずに)PVDF樹脂のみを使用して対照膜を調製し、膜をキャストした。PVDF樹脂(15.0g、平均Mw約400〜500K)をNMP(85.0g)の中に溶解させ、この配合物から膜をキャストした。
【0087】
上述の実施例においては、ブロックコポリマーの添加剤は、PVDF樹脂、溶媒、及びその他各種の添加剤(たとえば、ポリエチレングリコール)に個別に添加した。本発明のまた別な実施形態においては、ブロックコポリマーを、公知のコンパウンディング方法(たとえば、溶融押出し法)を用いて、PVDF樹脂と事前にブレンドしておくことも可能である。これらの事前コンパウンディング原料は、最終的な膜の究極的な物性を意のままに設計する目的で、各種のブレンド比で作製しておくことができる。単一のブレンド製品とした方が、取扱い易く、また最終ユーザーのところでさらなる成分を在庫しておく必要もなくなる。
【0088】
以下のデータは、水透過性データ、並びにバブルポイント細孔径を示す。このデータは、純PVDF対照物又は従来からのアクリル系コポリマー樹脂を用いて作製したブレンド物に比較して、限外濾過に好適な堅固なバブルポイントを維持しながらも、いずれの水分流動性も改良している点でアクリル系ブロックコポリマーブレンド物が優秀であるという傾向を明らかに示している。限外濾過の場合、0.2μm未満のバブルポイントを有しているのが望ましい。そして、ブロックコポリマー膜すべてが、0.2μm未満のBPDを有していた。
【0089】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー膜であって、
a)99〜20重量%の疎水性マトリックスポリマー、及び
b)1〜80重量%の、少なくとも一つの親水性ブロックと少なくとも一つの疎水性ブロックとを有し、前記ポリマーマトリックスと相溶性がある両親媒性ブロックコポリマー、
を含むポリマー膜。
【請求項2】
前記ブロックコポリマーが、ジ−、トリ−、又はマルチ−ブロックコポリマーである、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項3】
前記ブロックコポリマーが、制御されたラジカル重合で得られるコポリマーである、請求項2に記載のポリマー膜。
【請求項4】
前記両親媒性ブロックコポリマーが、残存ニトロキシド末端基を含む、請求項3に記載のポリマー膜。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーが、グラジエントコポリマーである少なくとも一つのセグメントを含む、請求項2に記載のポリマー膜。
【請求項6】
前記ブロックコポリマーが水溶性である、請求項2に記載のポリマー膜。
【請求項7】
前記ブロックコポリマーが非水溶性である、請求項2に記載のポリマー膜。
【請求項8】
前記マトリックスポリマーが、フルオロポリマーを含む、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項9】
前記フルオロポリマーが、ポリフッ化ビニリデンホモポリマーであるか、又は少なくとも50モル%のフッ化ビニリデンモノマー単位を含むポリビニリデンコポリマーである、請求項8に記載のポリマー膜。
【請求項10】
0.3μm未満の最大孔径を有する、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項11】
99〜40重量%の疎水性マトリックスポリマーと、1〜60重量%の両親媒性ブロックコポリマーとを含む、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項12】
90〜70重量%の疎水性マトリックスポリマーと、10〜30重量%の両親媒性ブロックコポリマーとを含む、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項13】
親水性添加剤を更に含む、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項14】
前記両親媒性ブロックコポリマーが、部分的又は完全に中和されている、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項15】
前記親水性及び疎水性ブロックがアクリル系ポリマーを含む、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項16】
前記疎水性マトリックスポリマー及び両親媒性ブロックコポリマーが、均質なブレンド物を形成している、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項17】
前記均質なブレンド物が、相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)であるか又はコア−シェルモルホロジーである、請求項16に記載のポリマー膜。
【請求項18】
前記膜が、ポリマー電解質膜である、請求項16に記載のポリマー膜。
【請求項19】
請求項16に記載の均質なブレンド物を形成させるための方法であって、
前記疎水性マトリックスポリマーのラテックスをシードポリマーとして使用し、そして前記両親媒性ブロックコポリマーを、前記シードポリマーの存在下に重合させる、
方法。
【請求項20】
請求項19に記載のハイブリッドラテックスを含む、親水性−変性ポリマーコーティング。

【公表番号】特表2012−506772(P2012−506772A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534593(P2011−534593)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/US2009/060098
【国際公開番号】WO2010/051150
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
【Fターム(参考)】