説明

水力発電装置の設置構造

【課題】水力発電装置を大型化しなくても効率良く多量の発電が得られ、またメンテナンスにも優れた経済的な水力発電装置の設置構造を提供する。
【解決手段】複数個の水力発電装置20、20・・・を並列に収納する発電装置収納枠体30と、発電装置収納枠体30の少なくとも下方部に一端が固定されたワイヤ52、52と、ワイヤ52、52の他端に固定された錨又は重し53と、発電装置収納枠体30の上方にワイヤ75、75を介して設けられた浮力体70とを備えている。発電装置収納枠体30は、上方が開放し、両側の側板34、34間を仕切板37、37・・・によって仕切って複数個の発電装置収納部38、38・・・を形成し、発電装置収納部38、38・・・の前方部及び後方部に流水入口側窓39、39・・・及び流水排出側窓を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海や河川の水流を利用して水力発電を得る水力発電装置の設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
海や河川に流れる水流のエネルギーで発電を行う場合、水力発電装置の設置場所が問題となる。流速の強い水面に水力発電装置を設置すると、水面は船等の水上交通の妨げになり、水力発電装置の設置が困難な場合が多い。また水底部に水力発電装置を設置すると、流速が遅かったり、埃が多く水力発電装置には不都合である。
【0003】
そこで、水上交通の妨げとならなく、ある程度の流速を有すると共に、埃の少ない海中又は水中に水力発電装置を設置するのが最適である。従来、海中に水力発電装置を設置したものとして、例えば特許文献1が挙げられる。また水力発電装置には種々のタイプのものが提案されているが、一例を挙げると特許文献2及び3等がある。
【0004】
特許文献1は図5及び図6に示す構造となっている。流速と流向が安定している海流に、流れに直面する導管Aと発電機Cを持つ浮体Bを、船首から係留索9と錨10によって所定の深さに係留させる。浮体Bは、その船首全面が取水口1とされ、水車6が装着される取水口1と船尾の排出口2とを結ぶ導管Aのほぼ中央の海流に垂直な断面は、取水口1の同断面積の数十分の一に圧縮した円形に形成されている。この結果、水車6の位置の海水の流速は取水口1の海流の流速の数十倍に加速されるために、海流エネルギーを活用して大容量の電力を得ることができる。これにより、導管Aに流れる海流エネルギーを水車6と発電機Cによって電気エネルギーに変換し、海底送電線7で陸地に送電する。
【0005】
浮体Bを水平に維持するには、前後左右及び上下に分割されたエアタンク3の船尾に近いエアタンク3の注水量を加減する。また船尾外側の上下左右に方向舵4を設け、船首の取水口1を海流に直面させることにより、浮体Bの姿勢を保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−259064号公報
【特許文献2】特開平5−39773号公報
【特許文献3】特開2007−177797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、浮体Bの姿勢を水平に維持させるために、複数個のエアタンク3の注水量を加減すると共に、方向舵4を設けている。しかしながら、浮体Bが小型の場合は、水流で浮体Bが回転及び上下左右に移動し易く、姿勢を水平に維持することは困難である。このため、浮体Bを大型にしなければならない。また発電器Cと浮体Bが一体となっているので、海流発電潜水船(水力発電装置)が大型になるばかりでなく、水力発電装置1台毎のコストが高くなり過ぎる問題があった。
【0008】
また水流に対してバランスを取るため、水の取入口に対して吹き流し状の形状にする必要がある。このため、水の流れ方向に対して非常に長いトンネル状の導管A(水路)となる。このような長いトンネル状の導管Aに対しては、水が殆ど流れ込まない。
【0009】
本発明の第1の課題は、水力発電装置を大型化しなくても効率良く多量の発電が得られと共に、経済的な水力発電装置の設置構造を提供することにある。
【0010】
本発明の第2の課題は、水路を短くした水力発電装置を水流に対して直角にバランスを取り複数個設置することができる水力発電装置の設置構造を提供することにある。
【0011】
本発明の第3の課題は、メンテナンスにも優れた水力発電装置の設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1及び第2の課題を解決するための本発明の請求項1は、複数個の水力発電装置を並列に収納する発電装置収納枠体と、前記発電装置収納枠体の少なくとも下方部に一端が固定された第1のワイヤと、この第1のワイヤの他端に固定された錨又は重しと、前記発電装置収納枠体の上方に第2のワイヤを介して設けられた浮力体とを備えたことを特徴とする。
【0013】
上記第1及び第2の課題を解決するための本発明の請求項2は、前記発電装置収納枠体は、上方が開放し、両側の側板間を仕切板によって仕切って複数個の発電装置収納部を形成し、この発電装置収納部の前方部及び後方部に流水入口側窓及び流水排出側窓を形成したことを特徴とする。
【0014】
上記第1及び第2の課題を解決するための本発明の請求項3は、前記第1のワイヤは、一端が前記発電装置収納枠体の前方部下方の両側に固定され、他端が前記錨又は重しに固定された下方部のワイヤと、一端が前記発電装置収納枠体の前方部上方の両側に固定され、他端が前記のワイヤの途中に固定された上方部のワイヤとからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1によれば、発電装置収納枠体に複数個の水力発電装置を並列に収納するので、水力発電装置は小型でもよい。また水力発電装置が複数個収納された発電装置収納枠体は大型であるので、姿勢を水平に維持させることができる。また複数個の水力発電装置を収納するので、多量の発電を効率良く得ることができる。
【0016】
また発電装置収納枠体には上方に浮力体が設けられているので、発電装置収納枠体に複数個の水力発電装置を収納しても発電装置収納枠体は海中又は水中に設置することができる。また水の流れ方向の流体の圧力によって発電装置収納枠体が回転しようとするモーメントは、発電装置収納枠体に取付けた第1のワイヤによる張力によって防止され、水力発電装置の流水路入口がほぼ水平になるように調整される。また水の流れ方向による発電装置収納枠体の左右のふらつきは、浮力体の浮力によって防止され、発電装置収納枠体の左右のふらつき及び位置が安定する。
【0017】
また発電装置収納枠体に複数個の水力発電装置を並列に収納して使用するので、水路を短くした水力発電装置を水流に対して直角にバランスを取って発電装置収納枠体を設置することができる。また水力発電装置と発電機は一体でもよいが、発電装置収納枠体には複数個の発電装置収納部が設けられているので、水力発電装置より発電機を別体とし、発電装置収納部の幾つかを発電機の収納部とすることができる。このようにすると、水力発電装置の1台毎に発電機を設ける必要がなく経済的である。
【0018】
請求項2によれば、発電装置収納枠体の発電装置収納部の上方は開放しているので、例えば水力発電装置の上面に引っ掛け金具を取付けておくことにより、水力発電装置のメンテナンスが必要な時は、クレーンで吊り上げて海又は河川より地上に搬送してメンテナンスを行うことができ、容易にメンテナンスを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の水力発電装置の設置構造の一実施の形態を示す正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1の平面図である。
【図4】発電装置収納枠体を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)のD−D線断面図、(d)は側面図、(e)は(a)のE−E線断面図である。
【図5】従来の水力発電装置の設置構造を示す斜視図である。
【図6】図5の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水力発電装置の設置構造の一実施の形態を図1乃至図4により説明する。本実施の形態においては、図4に示す発電装置収納枠体30を用いる。発電装置収納枠体30は、複数個(実施の形態は6個)の水力発電装置20を上方より並列に収納できるようになっている。横長の底板31の前方部上及び後方部上には、水力発電装置20の下方部の前後方向を規制する下方部規正板32、33が固定されており、底板31の両側及び下方部規正板32、33上には、四隅が矩形形状に切り欠かれた側板34、34が固定されている。側板34、34の前方部上及び後方部上には、水力発電装置20の上方部の前後方向を規制する上方部規正板35、36が固定されている。底板31、側板34、34、下方部規正板32、33及び上方部規正板35、36により、上方は開放し、前方及び後方は横長の矩形形状に開放した構造に形成されている。側板34、34間は底板31上に固定された5個の仕切板37、37・・・で仕切られ、6個の発電装置収納部38、38・・・が形成されている。これにより、前方側に6個の流水入口側窓39、39・・・が形成され、後方側には流水入口側窓39、39・・・に対応して流水出口側窓40、40・・・が形成される。
【0021】
図1乃至図3に示すように、発電装置収納枠体30の前方部下方の側方及び前方部上方の側方には、ワイヤ取付け具50、50及び51、51が固定され、ワイヤ取付け具50、50には、前方部下方用ワイヤ52、52の一端が固定され、前方部下方用ワイヤ52、52の他端は錨又は重し53、53に固定されたワイヤ巻取り機54、54に取付けられている。前方部下方用ワイヤ52、52の途中にはワイヤ取付け具55、55が固定されており、ワイヤ取付け具51、51と55、55には前方部上方用ワイヤ56、56が固定されている。ここで、錨又は重し53、53を海底又は河川底に設置し、発電装置収納枠体30の発電装置収納部38、38・・・に水力発電装置20を収納した状態においては、前方部上方用ワイヤ56、56は、発電装置収納枠体30の前面部がほぼ垂直、即ち水力発電装置20の流水路入口が水平になる長さに形成されている。
【0022】
発電装置収納枠体30の後方部下方の側方には、ワイヤ取付け具60、60が固定され、ワイヤ取付け具60、60には後方部下方用ワイヤ61、61の一端が固定され、後方部下方用ワイヤ61、61の他端は錨又は重し62、62に固定されている。
【0023】
発電装置収納枠体30の上方には、浮力体70が配設される。浮力体70は空気又はガスが入れられた浮力タンク71、71の内側部の上下が連結板72、72で固定されている。勿論、浮力タンク71、71及び連結板72、72の部分を全て浮力タンクとしても良いことは言うまでもない。ここで、浮力タンク71、71は、発電装置収納枠体30の発電装置収納部38、38、38・・・に水力発電装置20を収納し、発電装置収納枠体30を海中又は水中に投入した場合、海底又は河川底に沈まない浮力を有するようになっている。
【0024】
浮力タンク71、71の前方部下方の側方及び後方部下方の側方には、ワイヤ取付け具73、73及び74、74が固定されている。ワイヤ取付け具73、73には、前方部下方用ワイヤ75、75の一端が固定され、前方部下方用ワイヤ75、75の他端は発電装置収納枠体30に固定されたワイヤ取付け具51、51に固定されている。発電装置収納枠体30の後方部上方の側方には、ワイヤ取付け具76、76が固定されており、前記ワイヤ取付け具74、74には、後方部上方用ワイヤ77、77の一端が固定され、後方部上方用ワイヤ77、77の他端はワイヤ取付け具76、76に固定されている。
【0025】
次に作用について説明する。発電装置収納枠体30の上方より水力発電装置20の流水路入口が流水入口側窓39、39・・に向くようにして水力発電装置20を発電装置収納部38、38・・・に収納する。そして、比較的岸壁に近くて浅い海や河川において、発電装置収納枠体30の流水入口側窓39、39・・・が水の流れ方向Fに向くように、錨又は重し53、53及び59、59を海底又は河川底に設置する。そこで、ワイヤ巻取り機54、54でワイヤ52、52を巻き取るか又は緩めて前方部下方用ワイヤ52、52の長さを調節し、発電装置収納枠体30を海上又は水上交通に支障の無い深さの場所で、水流の最も早い場所に設置する。
【0026】
このように、発電装置収納枠体30に複数個の水力発電装置20を並列に収納するので、水力発電装置20は小型でもよい。また水力発電装置20が複数個収納された発電装置収納枠体30は大型であるので、姿勢を水平に維持させることができる。また複数個の水力発電装置20を収納するので、多量の発電を効率良く得ることができる。
【0027】
また発電装置収納枠体30に複数個の水力発電装置20を並列に収納して使用するので、水路を短くした水力発電装置20を水流に対して直角にバランスを取って発電装置収納枠体30を設置することができる。また水力発電装置20と発電機は一体でもよいが、発電装置収納枠体30には複数個の発電装置収納部38、38・・・が設けられているので、水力発電装置20より発電機を別体とし、発電装置収納部38、38・・・の幾つかを発電機の収納部とすることができる。このようにすると、水力発電装置20の1台毎に発電機を設ける必要がなく経済的である。
【0028】
浮力タンク71、71には前方部下方用ワイヤ75、75及び後方部下方用ワイヤ77、77を介して浮力体70が取付けられているので、発電装置収納枠体30に複数個の水力発電装置20を収納しても発電装置収納枠体30は海中又は水中に設置することができる。また水の流れ方向Fの流体の圧力によって発電装置収納枠体30が矢印G方向(図2参照)に回転しようとするモーメントは、発電装置収納枠体30に取付けた前方部下方用ワイヤ52、52と前方部上方中間用ワイヤ56、56による張力によって防止され、水力発電装置20の流水路入口がほぼ水平になるように調整される。また水の流れ方向Fによる発電装置収納枠体30の左右のふらつきH(図1参照)は、浮力体70の浮力によって防止され、発電装置収納枠体30の左右のふらつき及び位置が安定する。
【0029】
なお、後方部下方用ワイヤ61、61及び錨又は重し62、62は特に設けなくても良いが、後方部下方用ワイヤ61、61及び錨又は重し62、62を設けると、発電装置収納枠体30の後方部の左右のふらつき及び位置が安定する。また浮力体70を前方部下方用ワイヤ75、75及び後方部下方用ワイヤ77、77を介して発電装置収納枠体30に取付けたが、いずれか一方のワイヤ75、75又は77、77のみでもよい。また水上交通の妨げとならない海や河川においては、浮力体70は海面又は河川面に位置するように前方部下方用ワイヤ75、75及び後方部上方用ワイヤ77、77の長さを設定してもよく、また海中又は河川中に位置するように設けても良いことは言うまでもない。勿論、水上交通の妨げとなる海や河川においては、浮力体70は海中又は河川中に位置するように前方部下方用ワイヤ75、75及び後方部上方用ワイヤ77、77の長さに設定する必要があることは言うまでもない。
【0030】
発電装置収納枠体30の発電装置収納部38、38・・・の上方は開放しているので、例えば水力発電装置20の上面に引っ掛け金具を取付けておくことにより、水力発電装置20のメンテナンスが必要な時は、クレーンで吊り上げて海又は河川より地上に搬送してメンテナンスを行うことができ、容易にメンテナンスを行うことができる。
【符号の説明】
【0031】
20 水力発電装置
30 発電装置収納枠体
31 底板
32、33 下方部規正板
34 側板
35、36 上方部規正板
37 仕切板
38 発電装置収納部
39 流水入口側窓
40 流水出口側窓
45、46 浮力タンク
50、51 ワイヤ取付け具
52 前方部下方用ワイヤ
53 錨又は重し
54 ワイヤ巻取り機
55 ワイヤ取付け具
56 前方部上方中間用ワイヤ
61 後方部下方用ワイヤ
62 錨又は重し
70 浮力体
71 浮力タンク
75 前方部下方用ワイヤ
77 後方部下方用ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の水力発電装置を並列に収納する発電装置収納枠体と、前記発電装置収納枠体の少なくとも下方部に一端が固定された第1のワイヤと、この第1のワイヤの他端に固定された錨又は重しと、前記発電装置収納枠体の上方に第2のワイヤを介して設けられた浮力体とを備えたことを特徴とする水力発電装置の設置構造。
【請求項2】
前記発電装置収納枠体は、上方が開放し、両側の側板間を仕切板によって仕切って複数個の発電装置収納部を形成し、この発電装置収納部の前方部及び後方部に流水入口側窓及び流水排出側窓を形成したことを特徴とする請求項1記載の水力発電装置の設置構造。
【請求項3】
前記第1のワイヤは、一端が前記発電装置収納枠体の前方部下方の両側に固定され、他端が前記錨又は重しに固定された下方部のワイヤと、一端が前記発電装置収納枠体の前方部上方の両側に固定され、他端が前記のワイヤの途中に固定された上方部のワイヤとからなることを特徴とする請求項1又は2記載の水力発電装置の設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32940(P2011−32940A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180256(P2009−180256)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【特許番号】特許第4422789号(P4422789)
【特許公報発行日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(598030238)日本システム企画株式会社 (16)
【Fターム(参考)】