説明

水力発電装置

【課題】メンテナンスが容易でかつ上流側の水位の調整が可能であり、しかも、安定した発電量が得られる水力発電装置を提供する。
【解決手段】本発明の水力発電装置1は、水路を流れる水を堰き止めて貯留しつつ入水口8へと集水する集水板6と、入水口8から流入して垂直軸水車3の回転翼33先端に作用する水流の通水断面積を増減可能な可動式ゲート5とを具備し、可動式ゲート5を開閉して通水断面積を増減させることにより、上流側の水位とオリフィス孔の開口面積を可変させて流量を調整したり、垂直軸水車3への通水を遮断して回転翼33の動作を停止することができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の流れを利用して発電可能な水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から本発明者は、河川や人工的な水路などに設置して水の流れを利用して発電する特許文献1に記載の水力発電装置を開発し、現在、小河川や一級河川に設置しはじめている。
【0003】
この水力発電装置は、川の流れ等の小水力を利用して発電を行うため、効率的かつ低コストで水力発電が行える従来にない画期的なものであった。
【0004】
しかしながら、この水力発電装置を実際に設置してみると新たな要改善点も出てきた。その要改善点は主に次の2つである。
【0005】
その1つは、メンテナンスの問題である。この水力発電装置は、流れのある水路に設置することにより水力発電を行うため、一度設置をすると河川などの水が干上がらない限り水車は回転し続ける。自然的に発生している水の流れを利用して発電を行う点がこの水力発電装置のメリットであるが、性能を維持し続けるためには必ず定期的なメンテナンスは必要である。現時点ではまだメンテナンス時期が到来していないため、メンテナンスをした装置はないが、仮にメンテナンスを行うのであれば、水の流れを堰き止めるか、あるいはこの水力発電装置をクレーンなどで水路から引き上げて陸地で作業する必要があり、メンテナンスに手間がかかるという問題がある。
【0006】
もう1つは、水位変動の問題である。かんがい期、非かんがい期、あるいは雨期や乾期などにより水路自体の流量変動がある。この水力発電装置は、河川、農水路等の水の流れがある場所に設置するので、ある程度水の流れは堰き止められてしまい、上流側と下流側の水位の変動も生じる。また、発電量は上流側の水位に左右されるので、水量が多くなる雨期と水量が少なくなる乾期とでは発電量に差が生じてしまい、安定した発電ができないという問題が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−177797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、メンテナンスが容易でかつ上流側の水位の調整が可能であり、しかも、安定した発電量が得られる水力発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、流れのある水路に設置して発電を行う水力発電装置であって、前記水路の上流側に配置される入水口、下流側に配置される排水口、及び入水口から排水口に連通する流路を有するハウジングと、前記ハウジングの入水口の開口縁に設けられ、前記水路を流れる水を堰き止めて貯留しつつ前記入水口へと集水する集水板と、前記ハウジングの流路内に回転可能に支持された回転翼を有する垂直軸水車と、前記垂直軸水車の回転力を受けて発電する発電機と、前記入水口から流入して前記垂直軸水車の回転翼先端に作用する水流の通水断面積を増減可能な可動式ゲートと、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の水力発電装置において、前記可動式ゲートは、前記流路に直交する方向に開閉することにより通水断面積を増減する構造や、前記垂直軸水車の回転軸に取り付けられ、前記回転翼の外周に沿って開閉することにより通水断面積を増減する構造などが考えられる。
【0011】
また、本発明の水力発電装置において、前記ハウジング内に立設され、前記入水口の開口面積を徐々に減少させて前記流路内の水の流れを増速させる増速板が設けられているとよい。
【0012】
ここで、前記増速板は、垂直方向に引き上げ可能なスルースゲート、水平方向に開閉可能なスライドゲート、あるいは垂直軸を中心に回転可能な回転ゲートになっており、当該ゲートを開くことにより前記流路内の水を前記ハウジングに設けられた放流孔からハウジング外部に放流させるように構成されていてもよい。
【0013】
また、前記集水板に開閉扉が設けられ、当該開閉扉を開くことにより前記水路の上流側の越流水を前記流路に通さずに下流側へと放流させるように構成されていてもよい。なお、前記垂直軸水車は、1軸の、あるいは対向配置された2軸のクロスフロー水車を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水力発電装置においては、特に、水路を流れる水を堰き止めて貯留しつつ入水口へと集水する集水板と、入水口から流入して垂直軸水車の回転翼先端に作用する水流の通水断面積を増減可能な可動式ゲートとを具備するようにした。このため、可動式ゲートを開閉して通水断面積を増減させることにより、上流側の水位とオリフィス孔の開口面積を調整することが可能になる。したがって、発電効率を下げずに流量調整機能を発揮することができ、水路の水位変動に左右されることなく、常に安定した水力発電を行えるという効果がある。また、可動式ゲートを完全に閉じることにより垂直軸水車への通水を遮断し、回転翼の動作を停止させることができるので、メンテナンス作業を容易に行えるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る水力発電装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のB−B断面図である。
【図3】図1の水力発電装置が備える垂直軸水車の構成を示す斜視図である。
【図4】図1の水力発電装置が備える垂直軸水車の構成を示す断面図である。
【図5】図1の水力発電装置の可動式ゲートの動作(開状態と閉状態)を示す平面図である。
【図6】図1の水力発電装置のオリフィス孔と垂直軸水車との関係を説明するための模式図である。
【図7】図2の水力発電装置を簡略図案化したものであり、流速、オリフィス孔の開口面積、有効水位差、流量の関係を説明するための図である。
【図8】図2の水力発電装置を簡略図案化したものであり、上流流量とオリフィス孔からの吐出流量と有効水位差の関係を説明する図である。
【図9】上流からの流量の変動が流速及び有効水位差の変動、発電量の変動の相関関係を説明する図である。
【図10】一般的な水路の水位について説明する図である。
【図11】上流からの流量Qa、上流水位Ha、オリフィス孔の開口面積がAの場合に、有効水位H、流速V、オリフィス孔からの吐出流量Qbであることを説明する図である。
【図12】水路が増水したとき及び減水したときの水力発電装置の状態を説明する図である。
【図13】減水時において、オリフィス孔の開口面積をA1からA2に変更した場合の上流水位の状態の変化を説明する図である。
【図14】増水時において、オリフィス孔の開口面積をA1からA2に変更した場合の上流水位の変化を説明する図である。
【図15】他の実施形態の集水板を使用して増水時に上流水位の調整をする際の説明図である。
【図16】本発明の他の実施形態を示すもので、1軸の垂直軸水車を使用した水力発電装置の平面図である。
【図17】本発明の他の実施形態を示すもので、(a)はギアと可動式ゲートの位置関係を示す平面図、(b)はC−C断面図である。
【図18】本発明の水力発電装置を幅の広い水路に設置した例を示す説明図である。
【図19】本発明の水力発電装置を幅の狭い水路に設置した例を示す説明図である。
【図20】本発明の水力発電装置を段差がなく幅の狭い水路に設置したときの集水板の機能を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図21】本発明の水力発電装置を段差のある幅の広い水路に設置したときの集水板の機能を示す説明図で、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図22】本発明の水力発電装置を幅がより広い水路に設置したときの集水板の変形例を示す説明図である。
【図23】本発明の水力発電装置における増速板の放流機能を説明する平面図である。
【図24】本発明の水力発電装置における増速板の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明に係る水力発電装置の一実施形態を示す平面図である。ただし、各構成を見やすくするために、発電機4、プーリー32,42、ベルト43、駆動軸41については一部省略して図示している。図2は、図1のB−B断面図である。ただし、各構成を明確にするために、ギア54、可動式ゲート5、増速板7を省略して図示している。図3は、水力発電装置1が備える垂直軸水車3の構成を説明する断面図であるが、可動式ゲート5と垂直軸水車3の位置関係を明確にするために簡略化して図示している。図4は、水力発電装置1が備える垂直軸水車3の構成を説明するための斜視図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の水力発電装置1は、入水口8と、排水口9と、入水口8から排水口9に連通する流路25とを有するハウジング2を備え、流れのある水路の上流側に入水口8、下流側に排水口9が配置されるように設置して使用する。
【0019】
水力発電装置1は、図2に示すように、ハウジング2の流路25内に回転可能に支持された複数の回転翼33,33、…(以下単に「回転翼33」と表記する)を有する垂直軸水車3と、垂直軸水車3の回転力を受けて発電する発電機4と、入水口8から流入し、かつ、垂直軸水車3の回転翼33の先端に作用する水流の通水断面積Aを増減可能な可動式ゲート5と、水路に沈めて設置した際に、水路を流れる水を堰き止めて貯留しつつ、その貯留した水を入水口8へと集水する集水板6と、を具備している。
【0020】
ハウジング2は、天板21、底板22、2枚の側板23,23から構成され、上流側に開口した入水口8と下流側に開口した排水口9とを有している。天板21には、2つの円弧状に形成したスライド溝24が設けられており、このスライド溝24に案内されて、可動式ゲート5が、歯形部52(図3を参照)を挿入させた状態で、図中矢印方向に移動可能となるように構成されている。
【0021】
ハウジング2内には入水口8から排水口9に連通する流路25が形成されており、この流路25内には、対向配置された垂直軸水車3,3が収容されている。本実施形態の垂直軸水車3は回転軸31と複数の回転翼33を有するクロスフロー水車であり、天板21と底板22に形成された軸受26,26によって回転軸31が回転可能に支持されている(図4参照)。なお、本実施形態では垂直軸水車3,3にクロスフロー水車を使用しているが、垂直軸型の水車であれば他のものも適用可能である。
【0022】
発電機4は、回転軸31に取り付けられたプーリー32と自身の駆動軸41に取り付けられたプーリー42とがベルト43によって接続されており、垂直軸水車3の回転軸31が回転すると、その回転力がベルト43を介して駆動軸41に伝達されて発電を行うようになっている。この発電機4は、各垂直軸水車3、3に1個ずつ取り付けられている。
【0023】
可動式ゲート5は、2枚の扇形の門扉が軸を支点に回転する方式のセクターゲート(ラジアルゲート)である。このゲートは、垂直軸水車3の回転軸31に回転可能に支持されるとともに、回転軸31にベアリング53,53を介して取り付けられた扇形の本体部51と、本体部51に設けられた円弧状の歯形部52とからなる。歯形部52の上方部分の外周にはギア54と噛み合わせるための歯形が形成されている。
【0024】
集水板6は、入水口8の開口縁に一体又は別体として設けられており、水路を流れる上流側の水を堰き止めて貯留するためのものである。本発明の水力発電装置1においては、この集水板6により堰き止めた水を貯留しながら、貯留した水を入水口8からハウジング2の内部へと通水する。そのため、可動式ゲート5により調整された開口部分である通水断面積Aがオリフィス孔となり、このオリフィス孔の開口面積と、集水板6により集水され上流側に貯水された水の水位Hにより、垂直軸水車3に作用する流量が決定される。
【0025】
また、ハウジング2内には、図1に示すように対向配置された増速板7,7が設けられており、この増速板7,7によって入水口8の開口面積を徐々に減少させて流路25内の水の流れを増速させるようになっている。本実施形態の増速板7,7は、引き上げ式のスルースゲートで構成されており、垂直方向に引き上げることにより底板22との間に隙間ができ、この隙間から流路25内の水を放流することができる。
【0026】
次に、このように構成された水力発電装置1における可動式ゲート5の動作について図5を参照しながら説明する。図5は、水力発電装置1の動作を説明するための図であり、(a)は可動式ゲート5,5が開いた状態、(b)は可動式ゲート5,5が閉じた状態を示している。なお、可動式ゲート5,5の状態を明確にするために、増速板7,7やその他の構成については図示を省略している。
【0027】
図5(a)に示すように、可動式ゲート5,5が全開状態の場合、このときの通水断面積、すなわちオリフィス孔の開口面積はAである。以下、通水断面積Aをオリフィス孔とし、このオリフィス孔の開口面積の状態をAに数字を付記して表示することとする。
【0028】
この状態から、図5(b)に示す閉状態に変更するためには、2つのギア54,54を図5(a)に示す矢印方向に回転させればよい。すると、この回転に連動してギア54,54に噛み合わされた歯形部52,52がスライド溝5内で垂直軸水車3,3の外周に沿って中央部へと移動し、最後まで移動すると歯形部52,52の内側先端どうしが近接する。この状態が閉状態であり、この状態にすると、オリフィス孔の開口面積が略ゼロになり、垂直軸水車3,3への通水が遮断され、回転翼33の回転動作を停止させることができる。この状態で垂直軸水車3,3のメンテナンス作業を行えば、水力発電装置1をクレーンなどにより陸に引き上げたりする必要がなくなるので、メンテナンス作業が容易に行えるようになる。メンテナンス作業が終了したら、ギア54,54を図5(a)に示す矢印と反対方向に回転させれば、可動式ゲート5,5を垂直軸水車3,3の外周に沿って外側(側板23,23側)方向へと移動させることができる。なお、可動式ゲート5の形態はこれに限らず、流路25に直交する方向に移動して開閉し、その開閉によって通水断面積を増減する構造であってもよい。
【0029】
本発明の水力発電装置1においては、上述したように可動式ゲート5,5を使用してオリフィス孔の開口面積を調整することができる。オリフィスの原理によれば、このオリフィス孔の開口面積が小さくなれば垂直軸水車3,3へ通水する流量が減少し、その結果、垂直軸水車3,3の回転力が低下することとなりそうであるが、本発明においてはそうはならない。その原理を図6に基づいて説明する。
【0030】
図6は、水力発電装置1のオリフィス孔と垂直軸水車3,3との関係を説明するための模式図である。図6(a)はオリフィス孔の開口面積がA1、図6(b)はオリフィス孔の開口面積がA2であることを表している。
【0031】
図6(a)の状態では、垂直軸水車3,3に通水される水はオリフィス孔の開口面積A1の開口部を通過する。この通過した水流のうち水流aを両垂直軸水車3,3間の中心に導く回転翼は図6(a)に記載の回転翼33aである。他方、両垂直軸水車3,3の回転に最も寄与する回転翼は同図の33bである。つまり、垂直軸水車3,3の回転力を左右するのは、この回転翼33bの先端に直接衝突する水の流量である。
【0032】
これに対して、図6(b)の状態、すなわち可動式ゲート5,5を閉方向に移動させオリフィス孔の開口面積をA1よりも小さいA2とした場合には、この開口面積A2の開口部を水流が通過する。この場合においても、オリフィス孔の開口面積が小さくなってはいるが、回転翼33bの先端に直接流水する水の量にはほとんど変化はない。このように、本発明の水力発電装置1においては、オリフィス孔の開口面積を小さくしたとしても、垂直軸水車3,3の回転力にそれほど影響しないようにすることができる。これにより、上流側の水位を調整しながら安定した水力発電が行えるのであるが、その理由について図7〜図15を参照しながら以下に説明する。
【0033】
図10を除く図7〜図15は、いずれも、図2を簡略図案化したものである。集水板6により上流側の水を貯水し、その貯水した上流側の水位とオリフィス孔から流水する流量及び流速の関係を表している。
【0034】
図7を例にとって説明すると、上流からの流量をQ1、有効水位差H1、オリフィス孔から吐出される水流の流速V1、オリフィス孔の開口面積をA1、重力加速度gとすると、流速V1は、次式で表される。
【0035】

【0036】
なお、ここでは、ベナコントラクタによる断面収縮は除外して考えている。
仮に、オリフィス孔から吐出される流量が流量Q1であったならば、この流量Q1は次式で表される。
【0037】

【0038】
したがって、図7に示すように、上流からの流量とオリフィス孔からの吐出流量とがともにQ1であったならば、オリフィス孔の開口面積を調整することにより、有効水位の調整が可能となる。
一方、上流からの流量に変化が生じた場合には、オリフィス孔の開口面積を調整することにより、有効水位差を一定とすることができる。
【0039】
ところで、水路における水力発電において重要なのは、最大発電を求める場合には、上流からの流量とオリフィス孔から吐出される流量を同一流量にする必要があるということである。例えば、図8に示すように、仮に、上流からの流量Q1、Q3がオリフィス孔から吐出される流量Q2、Q4より少ない場合には、有効水位差H1、H2は減少する。一方、Q1、Q3の方が多ければ、有効水位差H1、H2は増加する。
【0040】
水路の場合には、通年一定の水量というケースは少なく特に農業用水はかんがい期、非かんがい期の水量は約2〜5倍に変動するのが普通である。そして、この水量の変動が、オリフィス孔から吐出される水流の流速V及び有効水位差Hに影響を及ぼす。
【0041】
上流からの流量の変動が流速V及び有効水位差Hの変動、そして発電量W=QgHへの変動の相関関係を図9を参照して説明する。
【0042】
通常時の発電量W1は、W1=Q5×g×H3となる。一方、上流からの流量が減少すると、オリフィス孔の開口面積を調整できないとすると、H4及びV4の減少が起こる。
【0043】
ここで、一般的な水路の水位について図10を参照して説明する。本来の水路機能は、計画水量に対する水路断面形状や水路勾配が決定される。一般的に、計画する水路の目的及び条件を設定し、その条件を満たす水路断面を設計する。設計する目的水路の計画流量(最大、最小)、この計画水量(最大値)の水深Hcを満たす。一般的には、HbはHaの8割水深としている。これは水理公式のマニング式及びクッター式により水路断面、水路勾配を決定していく。その際には、一般的には水路の流速速度は平均流速1.2m/sec〜1.5m/sec程度としている。同時に、この水路流速は下流にいくに従って早くなるように設計するのが常識である。この水路の機能を維持しつつ発電設備の併用が水路発電の重要な必須条件となる。
【0044】
このことは何を意味するかについて、図11を参照して説明する。この図11は、上流からの流量Qa、上流水位Ha、オリフィス孔の開口面積がAの場合に、有効水位H、流速V、オリフィス孔からの吐出流量Qbであることを図案化したものである。上流水位であるHaは、その水路機能を維持する最優先事項である。この水位が最大許容水深Hbを越えてはならず、必要に応じて発電量を増加させる場合には、上流水路の嵩上げが必要になる。
【0045】
次に、オリフィス孔の開口面積を調整しなかった時の水力発電装置の増水時及び減水時の状態について、図12を参照して説明する。増水時においては、上流水位はHeとなるがHbを越える流量+Qcは集水板6を越流してしまい発電には使われないこととなる。したがって、増水時の上流水位HeはHbを越えてはいけないこととなる。一方、減水時においては、上流水位Heは減少し、その結果、有効水位差Hも減少する。従って、発電量がQaの減少とHの減少の二重の減少により水力発電装置の発電効率を下げ、発電量自体の全体量を減少させる不利な状態となる。
【0046】
このような減水時及び増水時において、本発明の水力発電装置ではオリフィス孔の開口面積を調整することにより上流水位の位置を変更可能なことを図13及び図14を参照して説明する。まずは、図13に示すように減水時において、オリフィス孔の開口面積をA1からA2に変更した場合、理論発電量はそれぞれW1=Qa×g×H1、W2=Qa×g×H2となり、当然、W1<W2の発電量が得られる。ここで、W2の発電量を得るのを可能にするのが、オリフィス孔の開口面積をA1からA2に変更できるからである。すなわち、この場合には、水路機能の維持可能な水位まで水面を上昇させるように、オリフィス孔からの吐出流量を少なくすればよい。すなわち、オリフィス孔の開口面積を小さくするように可動式ゲート5を閉方向に移動させればよい。H2を保てるオリフィス孔の開口面積A2であれば、W2の発電量が得られる。
【0047】
同様に、増水時の越流している流量+Qcを発電に使用できるようにオリフィス孔の開口面積を拡大できれば、発電量がアップする。この場合には、越流している流量+Qcが越流しないような水位になるように、オリフィス孔からの吐出流量を多くすればよい。すなわち、オリフィス孔の開口面積を大きくするように可動式ゲート5を開方向に移動させればよい。この場合の発電量は、W3=Qa×g×H3、W4=(Qa+Qc)×g×H4である。このようにすれば、上流水位の越流も起こさず、最大発電量の向上に繋がる。
【0048】
このように本発明の水力発電装置においては、可動式ゲートを開閉することによってオリフィス孔の開口面積を調整することができるので、水力発電の効率を下げずに発電量の増大と、流量調整機能を発揮することができる。さらに、可動式ゲートを完全に閉じることにより垂直軸水車へと流れる水を止水することができるので、メンテナンス作業も容易に行える。
【0049】
なお、増水量が多く、オリフィス孔の開口面積を拡大しただけでは越流を止められない場合もある。そのような場合には、図15に示したように集水板6に集水板流量調整開口部を設け、越流している水をこの開口部から下流側へと放流するような形態を採用することもできる。また、集水板6に開閉扉(図示略)を設けておき、水路の水位変動に応じて開閉扉の開き具合を調節し、水路の上流側の越流水を流路に通さずに下流側へと放流させるように構成されていてもよい。
【0050】
上述した水力発電装置1では2軸の垂直軸水車3,3を採用したが、図16に示すような構造の1軸の垂直軸水車3を採用することもできる。この図16には、1軸の垂直軸水車3を採用した水力発電装置1において、可動式ゲート5の開状態と閉状態をそれぞれ図示しているが、前記水力発電装置1の構成と同じ機能、構成については同一の符号を付している。なお、構成、動作に関しては前記とほぼ同様であるので詳細な説明を省略する。
【0051】
可動式ゲート5の開閉構造はこれに限定されるものではなく、例えば図17のようにギアを下流側に配置する構造であってもよい。
【0052】
この水力発電装置1において、可動式ゲート5は、前記実施形態と異なり本体51の上板55を半円形状にし、その周囲に歯形を形成している。そして、図17(a)に示すように、この上板55の一部と本体とが結合している。上板55の歯形部分はギア54と噛み合わされ、ギア54を回転させると、上板55が連動して回転し、前記実施形態と同様に、可動式ゲート5が開閉することとなる。
【0053】
ギア54を回転させる方法として、本実施形態では、ハンドル57を使用する。すなわち、ギア54の回転軸56の上端にハンドル57の先端を嵌合し、ハンドル57の把持部58を回転操作することによりギア54を回転させるように構成している。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限らず、発明の要旨を変更しない範囲内で以下のような各種の実施形態が考えられる。
【0055】
例えば、水力発電装置1を設置する水路の状況に適応させて、集水板6の形態を変形することができる。図18に示すように、この水力発電装置1を幅の広い水路に設置する場合には、集水板6の両端部を固定金具61で水路の両壁に固定する。この場合、集水板6は、水路に流れる水を堰き止めて貯水する手段としてだけでなく、ハウジング2を水路に連結、固定する手段としても機能する。
【0056】
これに対して、図19に示すように、この水力発電装置1を幅の狭い水路に設置する場合には、ハウジング2の両端部を直接、固定金具61で水路の両壁に固定する。この場合、ハウジング2の前面板27が固定手段としての機能と集水板6としての機能を兼ねることになる。
【0057】
また、図20に示すように、段差がなく幅の狭い水路に設置した場合、集水板6は、水路に流れる水を堰き止めて貯水しつつ、上流側の水位を上昇させて水路内に落差を作り出す。これにより、落差によって生じる位置エネルギーをハウジング2内の垂直軸水車3に作用させる機能が発揮される。
【0058】
また、図21のような段差のある幅の広い水路の場合には、段差部分の下流側にハウジング2を設置すれば、段差部分を流れ落ちる水の落差を利用して、より大きなエネルギーを垂直軸水車3に作用させることができる。
【0059】
さらに、幅がより広い水路に設置する場合には、図22に示すように水路の段差部分に取水ボックス62を設置して、この取水ボックス62の取水口62aに集水板6を取り付けて、排水口62bに水力発電装置1のハウジング2を取り付ければよい。この場合、集水板6は、水路の流れに対して直交する方向に向けた集水板6Aとするか、又は水路の流れに対して所定角度で傾いた方向に向けた集水板6Bとする。これにより、集水板6は、上流側の水位を上昇させて落差を作り出すだけでなく、上流を流れる水を中央の取水ボックス62へと集める機能を果たすことになる。
【0060】
また、本発明の水力発電装置1において必須の構成ではないが、追加の機能として、以下のように増速板7に放流機能を持たせてもよい。
【0061】
すなわち、図23に示す水力発電装置1では、増速板7が引き上げ式のスルースゲートで構成されており、ハウジング2の両側の側板23,23に水が通り抜ける放流孔28,28が開設されている。これにより、図のように可動式ゲート5,5を閉じた状態で増速板7,7を垂直方向に引き上げることによって、流路25内部の水が底板22との間の隙間から放流孔28を通り抜けてハウジング2の外部へと放流するようなっている。したがって、この水力発電装置1を水路に設置したままであっても、水路の水の流れを止めることなく、ハウジング2内部の垂直軸水車3や発電機4等の部品のメンテナンス作業を行うことができる。
【0062】
また、増速板7の変形例として、図24に示すような形態を採用することもできる。この増速板7は、回転式の開閉扉71を備えた回転ゲートであり、増速板7の中央に開閉扉71が設けられており、この開閉扉71は垂直軸72を中心に図の矢印方向に回転可能に支持されている。この構造の場合にも、可動式ゲート5,5を閉じた状態で、増速板7の開閉扉71を回転させて開いた状態にすれば、流路5内部の水を放流孔28からハウジング2の外部へと放流させることができる。なお、放流機能を有する増速板7の形態についてはこれに限らず、水平方向に開閉可能な片開き、又は両開きのスライドゲート(図示略)を採用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…水力発電装置
2…ハウジング
21…天板
22…底板
23…側板
24…スライド溝
25…流路
26…軸受
27…前面板
28…放流孔
3…垂直軸水車
31…回転軸
32…プーリー
33…回転翼
4…発電機
41…駆動軸
42…プーリー
43…ベルト
5…可動式ゲート
51…本体
52…歯形部
53…ベアリング
54…ギア
55…上板
56…回転軸
57…ハンドル
58…把持部
6…集水板
61…固定金具
62…取水ボックス
7…増速板
71…開閉扉
72…垂直軸
8…入水口
9…排水口
A…オリフィス孔(通水断面積)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れのある水路に設置して発電を行う水力発電装置であって、
前記水路の上流側に配置される入水口、下流側に配置される排水口、及び入水口から排水口に連通する流路を有するハウジングと、
前記ハウジングの入水口の開口縁に設けられ、前記水路を流れる水を堰き止めて貯留しつつ前記入水口へと集水する集水板と、
前記ハウジングの流路内に回転可能に支持された回転翼を有する垂直軸水車と、
前記垂直軸水車の回転力を受けて発電する発電機と、
前記入水口から流入して前記垂直軸水車の回転翼先端に作用する水流の通水断面積を増減可能な可動式ゲートと、
を備えたことを特徴とする水力発電装置。
【請求項2】
前記可動式ゲートは、前記流路に直交する方向に開閉することにより通水断面積を増減する構成か、又は前記垂直軸水車の回転軸に取り付けられ、前記回転翼の外周に沿って開閉することにより通水断面積を増減する構成であることを特徴とする請求項1に記載の水力発電装置。
【請求項3】
前記ハウジング内に立設され、前記入水口の開口面積を徐々に減少させて前記流路内の水の流れを増速させる増速板が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水力発電装置。
【請求項4】
前記増速板は、垂直方向に引き上げ可能なスルースゲート、水平方向に開閉可能なスライドゲート、あるいは垂直軸を中心に回転可能な回転ゲートになっており、当該ゲートを開くことにより前記流路内の水を前記ハウジングに設けられた放流孔からハウジング外部に放流可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の水力発電装置。
【請求項5】
前記集水板に開閉扉が設けられ、当該開閉扉を開くことにより前記水路の上流側の越流水を前記流路に通さずに下流側へと放流可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水力発電装置。
【請求項6】
前記垂直軸水車は、1軸の、あるいは対向配置された2軸のクロスフロー水車であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−241602(P2012−241602A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111809(P2011−111809)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【特許番号】特許第4817471号(P4817471)
【特許公報発行日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(511121805)
【Fターム(参考)】