説明

水平控え装置

【課題】入力される外力の方向にかかわらず、制震装置に入力される荷重の変化を小さく抑えて、十分な制震機能を発揮できる水平控え装置を提供すること。
【解決手段】水平控え装置1は、建物10と、建物10の建設に用いるタワークレーン20のポスト22との間に取り付けられ、タワークレーン20を水平方向に支持する。水平控え装置1は、ポスト22を囲むよう配置されたフレーム40と、フレーム40と建物10とを接続するステー材60と、フレーム40とポスト22との間に介装される摩擦ダンパー50とを備える。摩擦ダンパー50は、ポスト22と略正方形状のフレーム40の隅角部40Aとをそれぞれ接続し、当該摩擦ダンパー50の摺動方向とフレーム40の一辺のなす角度θが略45°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タワークレーンを支持するための水平控え装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高層の建物を建設する場合には、タワークレーンが多用される。タワークレーンは、地震や強風等の外力によって倒壊しないように、当該タワークレーンのポストが、建物の躯体にステー材によって連結されている。しかしながら、例えば、建物に免震構造が採用される場合などには、地震時に前記建物の変形量が非常に大きくなるため、ポストの弾性変形だけでは建物の変形に対応できないという問題がある。
【0003】
かかる問題を回避するために、例えば、特許文献1には、タワークレーンの水平控え装置に制震装置を取り付けた構成が提案されている。この構成では、図5に示すように、基端120Aがタワークレーン110のポスト112に連結され、互いに異なる方向へと延びる4本のステー材120と、各ステー材120の先端120Bと建物130の躯体との間に取り付けられ、ステー材120と略平行な方向に作動する摩擦ダンパー等の制震装置140とを備える水平控え装置100が用いられる。この水平控え装置100によれば、地震時に建物130が大きく変形し、この変形時の大きな荷重が制震装置140に入力されたとしても、制震装置140が作動して入力荷重を吸収することができる。
【特許文献1】特開2001−199680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した水平控え装置100では、4本のステー材120が互いに異なる方向へと延びるように配置されているため、各制震装置140の作動方向もそれぞれ異なっている。このため、地震等の外力の入力方向によって、各制震装置140に作用する力が大きく変化して、各制震装置140に作用する力が不均等となる場合がある。
【0005】
本発明の目的は、入力される外力の方向にかかわらず、制震装置に入力される荷重の変化を小さく抑えて、十分な制震機能を発揮できる水平控え装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、建物と、この建物の建設に用いるタワークレーンのポストとの間に取り付けられ、前記タワークレーンを水平方向に支持する水平控え装置であって、前記ポストを囲むよう配置されたフレームと、このフレームと前記建物とを接続するステー材と、前記フレームと前記ポストとの間に介装される制震装置とを備えることを特徴とする。ここで、前記制震装置としては、摩擦ダンパーや、オイルダンパー等を採用できる。
【0007】
本発明によれば、地震時の外力が建物に作用して建物が大きく振動し、この大きな振動がステー材からフレームへと伝達されたとしても、フレームとポストとの間に介装される制震装置が振動を吸収することにより、タワークレーンのポストの振動を十分に抑えることができる。この際、ポストを囲むようにフレームを配置し、このフレームとポストとの間に制震装置を介装する構成としたので、制震装置の配置の自由度が高まり、入力される外力の方向にかかわらず、制震装置に入力される荷重の変化が小さくなるように制震装置を配置することができる。
【0008】
ここで、前記フレームは、矩形状に形成され、前記制震装置は、前記ポストと前記矩形状のフレームにおける隅角部とをそれぞれ接続し、当該制震装置の作動方向と前記フレームの一辺とのなす角度が40〜50°の範囲としてもよい。この際、前記フレームは正方形状であり、前記角度は略45°であってもよい。このような構成によれば、フレームによって形成される水平面内において制震装置を略対称となる位置に配置しているため、外力の入力方向がどの方向であっても十分な制震機能を発揮できる。このため、従来のように性能の異なる複数種類の制震装置を用意する必要がなく、コストを低減できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水平控え装置によれば、入力される外力の方向にかかわらず、制震装置に入力される荷重の変化を小さく抑えて、十分な制震機能を発揮できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る水平控え装置を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る水平控え装置1が取り付けられたタワークレーン20を模式的に示す側面図であり、(A)は通常時を示し、(B)は地震等の外力が建物10に加わった場合を示している。図1に示すように、水平控え装置1は、例えば積層ゴム等の免震装置12が設けられた高層の建物10とタワークレーン20との間に設けられている。図1の(A)に示すように、建物10に対して外力が入力されていない場合には、タワークレーン20のポスト22は、建物10と略平行に延びる。一方、図1の(B)に示すように、地震等の大きな外力が建物10に入力された場合には、免震装置12の作用により、建物10における免震装置12よりも上階側が大きく振動(変形)するため、この大きな振動が水平控え装置1を介してポスト22に伝達されてポスト22が傾斜することになるが、後述の摩擦ダンパー50(図2)によりポスト22の傾斜が防止される。
【0011】
図2は、水平控え装置1を示す平面図である。図2に示すように、水平控え装置1は、タワークレーン20のポスト22の外周に取り付けられるポスト取付部材30と、ポスト22を囲むように配置された例えば正方形状のフレーム40と、フレーム40とポスト取付部材30とを接続する制震装置としての摩擦ダンパー50と、フレーム40と建物10の躯体14とを接合するステー材60とを備えている。
【0012】
ポスト取付部材30は、正方形状で例えば金属製の枠体である。摩擦ダンパー50は、ポスト取付部材30の各頂点30Aと、フレーム40の各隅角部40Aとの間にそれぞれ接続され、頂点30Aと隅角部40Aとを結ぶ直線に沿って摺動可能である。摩擦ダンパー50の摺動方向とフレーム40の一辺のなす角度θは、好ましくは30°〜60°、より好ましくは40°〜50°であり、本実施形態では略45°である。また、摩擦ダンパー50は、フレーム40によって形成される水平面内において、互いに直交するX軸,Y軸をそれぞれ対称軸として略対称となるように複数配置されている。ステー材60は、フレーム40の各頂点40Bと、建物10の免震装置12(図1)よりも上階側に取り付けられたブラケット16との間にピン接合等により接合される。
【0013】
以上のような水平控え装置1によれば、建物10の上階側に地震等の大きな外力が入力されると、建物10の上階側が大きく振動し、この大きな振動がステー材60を介してフレーム40に伝達される。このため、フレーム40に伝達された振動が摩擦ダンパー50によって減衰されてタワークレーン20のポスト22には伝達されず、これにより、ポスト22の振動を抑えることができる。
【0014】
次に、前記角度θを変動させた場合における、摩擦ダンパー50に作用する軸力の大きさについて概略的に検討する。
図3は、水平控え装置1のフレームが正方形状である場合を示す模式図である。図3に示すように、摩擦ダンパー50に対応する部材Sは、フレーム40の水平面内において、図中の上下左右に略対称となる位置に配置され、部材Sとフレーム40の一辺とのなす角度θ1は45°である。ここでは、フレーム40に対して、図中の矢印Aの方向、および矢印Bの方向に同じ大きさの荷重がそれぞれ作用した2つの場合について、部材Sへ作用する軸力の変動範囲について検討する。例えば、フレーム40に対して、矢印Aの方向に100トンの荷重が作用した場合には、各部材Sに対してそれぞれ図中上方向に25トンずつ作用するため、各部材Sに作用する軸力は25トン×√2=約35.3トンとなる。一方、矢印Bに示す方向に100トンの荷重が作用した場合には、部材S1,S2に対してのみ荷重が作用するため、各部材S1,S2に作用する軸力は50トンとなる。以上より、部材Sに作用する軸力は、最大で50トン、最小で約35.3トンとなり、最小/最大比は、35.3/50×100=70.6%となり、部材Sに作用する軸力は約30%の範囲で変動する。
【0015】
次に、フレームが長方形状である場合について同様の検討を行う。図4は、水平控え装置1のフレームが長方形状である場合を示す模式図である。図4に示すように、摩擦ダンパー50に対応する部材Tは、フレーム40の水平面内において、図中の上下方向の軸および左右方向の軸を対称軸として略対称となる位置に配置され、部材Tとフレーム40の一辺とのなす角度θ2は30°である。フレーム40に対して、図中の矢印Cの方向、矢印Dの方向、矢印Eの方向に同じ大きさの荷重が作用した3つの場合について、部材Tへ作用する軸力の変動範囲について検討する。例えば、フレーム40に対して、矢印Cの方向に100トンの荷重が作用した場合には、各部材Tに対してそれぞれ図中上方向に25トンずつ作用するため、各部材Tに作用する軸力は25トン×2=50トンとなる。また、矢印Dに示す、部材Tの軸方向に100トンの荷重が作用した場合には、部材T1,T2に対してのみ荷重が作用するため、各部材Tに作用する軸力は50トンとなる。また、フレーム40に対して、矢印Eの方向に100トンの荷重が作用した場合には、各部材Tに対してそれぞれ図中右方向に25トンずつ作用するため、各部材Tに作用する軸力は25トン×2/√3=28.9トンとなる。従って、部材Tに作用する軸力は、最大で50トン、最小で約28.9トンとなり、最小/最大比は、28.9/50×100=57.8%となり、部材Tに作用する軸力は約42%の範囲で変動する。
【0016】
このように、本実施形態では、タワークレーン20ポスト22の周囲にフレーム40を設け、フレーム40とポスト22との間に摩擦ダンパー50を介装する構成とすることにより、フレーム40の水平面内において摩擦ダンパー50をX軸およびY軸を対称軸として略対称となるように配置することができ、かかる配置により、上述したように摩擦ダンパー50に作用する軸力の変動範囲を小さくすることができる。このため、前記外力の入力方向がどの方向であっても十分な制震機能を発揮できる。また、性能の異なる複数種類の摩擦ダンパー50を用意する必要がなく、水平控え装置1のコストを低減できる。
【0017】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態では、制震装置として摩擦ダンパー50を採用したが、オイルダンパー等の他の制震装置を採用してもよい。また、ポスト取付部材30とフレーム40との間に、4台の摩擦ダンパー50を配置したが、その台数は特に限定されない。また、フレーム40を矩形状としたが、これに限らず、矩形状以外の多角形状や、円形状としてもよく、その形状は特に限定されない。また、建物10の外側に配置したタワークレーン20に対して水平控え装置1を取り付けたが、これに限らず、建物10の内側に組み込まれたタワークレーンに対して水平控え装置1を取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る水平控え装置が取り付けられたタワークレーンを模式的に示す側面図であり、(A)は通常時を示し、(B)は地震等の外力が建物に加わった場合を示している。
【図2】前記水平控え装置を示す平面図である。
【図3】前記水平控え装置のフレームが正方形状である場合を示す模式図である。
【図4】前記水平控え装置のフレームが長方形状である場合を示す模式図である。
【図5】従来の水平控え装置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0019】
1,100 水平控え装置
10,130 建物
12 免震装置
14 躯体
16 ブラケット
20,110 タワークレーン
22,112 ポスト
30 ポスト取付部材
30A 頂点
40 フレーム
40A 隅角部
40B 頂点
50 摩擦ダンパー(制震装置)
60,120 ステー材
140 制震装置
θ(θ1,θ2) 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物と、この建物の建設に用いるタワークレーンのポストとの間に取り付けられ、前記タワークレーンを水平方向に支持する水平控え装置であって、
前記ポストを囲むよう配置されたフレームと、
このフレームと前記建物とを接続するステー材と、
前記フレームと前記ポストとの間に介装される制震装置とを備えることを特徴とする水平控え装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水平控え装置において、
前記フレームは、矩形状に形成され、
前記制震装置は、前記ポストと前記矩形状のフレームの4つの隅角部とをそれぞれ接続し、当該制震装置の作動方向と前記フレームの一辺とのなす角度が40〜50°の範囲であることを特徴とする水平控え装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水平控え装置において、
前記フレームは正方形状であり、前記角度は略45°であることを特徴とする水平控え装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の水平控え装置において、
前記制震装置は、摩擦ダンパーまたはオイルダンパーであることを特徴とする水平控え装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−16101(P2006−16101A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193079(P2004−193079)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】