説明

水平方向放射アンテナ

【課題】 小型で電力の漏洩を抑制することができる水平方向放射アンテナを提供する。
【解決手段】 基板2の裏面2Bには、裏面側接地導体板3を設ける。基板2の表面2Aには、コプレーナ線路5が接続された放射素子4を設けると共に、放射素子4よりも端部2C側に位置して無給電素子7を設ける。また、基板2の表面2Aには、表面側接地導体板8を設けると共に、表面側接地導体板8には、端部2C側が開口した切欠き部8Aを設ける。切欠き部8Aの周囲には、放射素子4および無給電素子7を取囲むコ字状枠部9を設ける。コ字状枠部9は、複数のビア10を用いて裏面側接地導体板3に電気的に接続すると共に、複数のビア10によって導電性の壁面11を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマイクロ波やミリ波等の高周波信号に用いて好適な水平方向放射アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術による水平方向放射アンテナとして、非特許文献1には、誘電体基板の表面に給電線路、不平衡−平衡変換器電極(以下、バラン電極という)、放射素子、無給電素子等が形成されると共に、誘電体基板の裏面に接地導体板が形成された構成が記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、誘電体基板の表面に給電用のマイクロストリップ線路と導電体カバーを設けると共に、誘電体基板の裏面に接地導体板を設けた構成が記載されている。この場合、マイクロストリップ線路の先端部は、誘電体基板の端部側に位置して接地導体板に電気的に接続されている。また、導電体カバーは、一端側が開口した箱状に形成され、マイクロストリップ線路の先端部を包囲すると共に、その周辺部は複数の導体ピンによって接地導体板と電気的に接続されている。そして、導電体カバーは、接地導体板の端縁と協働して誘電体基板と平行な方向に1/2波長の長さのスロットを構成している。
【0004】
さらに、特許文献2には、誘電体基板の表面に端部側が開口した切欠き部を有する接地電極を設けると共に、該接地電極の切欠き部内に給電電極を設けた構成が記載されている。この場合、給電電極の外周縁と接地電極の内周縁とによってスロット線路を形成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W.R.Deal, N.Kaneda, J.Sor, Y.Qian, and T.Itoh, "A New Quasi-Yagi Antenna for Planar Active Antenna Arrays", IEEE Trans. Microwave Theory Tech., June 2000, Vol.48, No.6, pp.910-918
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−204734号公報
【特許文献2】特開2007−311944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1によるアンテナでは、給電線路にバラン電極が形成されているのに加え、バラン電極が給電線路の延びる方向に対して直交した方向に広がる2つのU字形状電極によって構成されている。このため、バラン電極を形成するためのスペースを確保する必要があり、アンテナ全体が大きくなり易い傾向がある。
【0008】
また、特許文献1によるアンテナでは、誘電体基板とは別個に導電体カバーを設ける必要がある。このため、誘電体基板の厚さ方向に対してアンテナが大きくなるのに加え、構造が複雑化して製造コストが上昇するという問題がある。
【0009】
また、特許文献2によるアンテナでは、誘電体基板の表面に給電電極と接地電極とを設けるのに加え、誘電体基板の裏面にも接地電極を設ける構成としている。しかし、誘電体基板の内部には、電磁波の伝搬を阻害する構成が設けられていない。このため、表面側の接地電極と裏面側の接地電極との間に平行平板モードの電磁波が形成され、該電磁波が誘電体基板の内部を伝搬することによって、電力の漏れが生じるという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、小型で電力の漏洩を抑制することができる水平方向放射アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明による水平方向放射アンテナは、絶縁性材料からなる基板と、該基板の裏面側に設けられグランドに接続された裏面側接地導体板と、前記基板の表面側に設けられグランドに接続された表面側接地導体板と、前記基板の表面側に設けられ前記裏面側接地導体板と間隔をもって対向した細長い放射素子と、前記基板の表面側に設けられた導体パターンからなり該放射素子に接続された給電線路と、前記放射素子よりも前記基板の端部側に位置して前記基板に設けられ前記放射素子と並列に延びると共に前記裏面側接地導体板、表面側接地導体板および放射素子と絶縁された少なくとも1つの無給電素子とを備え、前記表面側接地導体板は、前記基板の厚さ方向に対して前記放射素子と同じ位置に配置され、前記表面側接地導体板と裏面側接地導体板との間には、前記放射素子から放射される高周波信号を反射可能な導電性の壁面を設ける構成としている。
【0012】
請求項2の発明では、前記表面側接地導体板は、前記基板の端部側が開口した状態で前記放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備えている。
【0013】
請求項3の発明では、前記給電線路は、前記基板の表面に設けられた前記導体パターンとしてのストリップ導体と、該ストリップ導体を挟んで幅方向両側に設けられた前記表面側接地導体板とからなるコプレーナ線路によって構成している。
【0014】
請求項4の発明では、前記壁面は、前記基板を貫通して設けられ前記表面側接地導体板と裏面側接地導体板とを電気的に接続する複数のビアによって構成している。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、放射素子と並列な状態で無給電素子を設けたから、無給電素子が誘導器の役割を果たす。このため、放射素子からみて無給電素子の方向に向けて指向性を持たせることができ、基板の端部側から基板と平行な水平方向に向けて電磁波を放射することができる。また、放射素子を接地導体板と対向した位置に設けるから、バラン電極を用いることなく放射素子に給電することができる。これに加えて、導体カバーを用いることなく電磁波を放射することができる。このため、バラン電極や導体カバーを用いた場合に比べて、アンテナ全体を小型化することができる。
【0016】
また、表面側接地導体板と裏面側接地導体板との間には導電性の壁面を設けたから、この壁面が反射器の役割を果たす。この結果、放射素子からみて無給電素子が配置された基板の端部側への放射特性を向上することができる。さらに、表面側接地導体板と裏面側接地導体板との間に設けられた壁面で高周波信号を反射することができるから、基板の内部への電力の漏洩を防止することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、表面側接地導体板は基板の端部側が開口した状態で放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備える構成としたから、表面側接地導体板と裏面側接地導体板との間の導電性の壁面も略コ字状に形成される。このため、コ字状枠部が開口した基板の端部側に向けて電磁波を放射することができるのに加え、コ字状枠部が開口した幅方向両端側への電磁波の広がりを抑制することができる。これにより、放射素子からみて無給電素子の方向への放射特性を向上することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、給電線路は高周波回路で用いられるコプレーナ線路によって構成したから、高周波回路とアンテナを容易に接続することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、表面側接地導体板と裏面側接地導体板とを電気的に接続する複数のビアを設けたから、これら複数のビアによって表面側接地導体板と裏面側接地導体板との間に導電性の壁面を形成することができる。このため、複数のビアからなる導電性の壁面によって、基板の内部に向かう電磁波を反射することができる。また、基板に導体パターンの形成やビア加工等を行うことによってアンテナを形成することができるから、量産工程に容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図2】図1中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図3】水平方向放射アンテナを図2中の矢示III−III方向からみた断面図である。
【図4】水平方向放射アンテナを図2中の矢示IV−IV方向からみた断面図である。
【図5】第2の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図6】図5中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【図7】第3の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図8】図7中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【図9】第4の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図10】第5の実施の形態によるアレーアンテナを示す平面図である。
【図11】第1の変形例による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図12】第2の変形例による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図13】図12中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図14】図12中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態による水平方向放射アンテナとして60GHz帯で使用するものを例に挙げて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1ないし図4は第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1を示している。この水平方向放射アンテナ1は、後述する基板2、裏面側接地導体板3、放射素子4、無給電素子7、表面側接地導体板8等によって構成されている。
【0023】
基板2は、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のうち例えばX軸方向およびY軸方向に対して平行に広がる平板状に形成されている。この基板2は、幅方向となるY軸方向に対して例えば数mm程度の幅寸法を有し、長さ方向となるX軸方向に対して例えば数mm程度の長さ寸法を有すると共に、厚さ方向となるZ軸方向に対して例えば数百μm程度の厚さ寸法を有している。
【0024】
また、基板2は、例えば比誘電率が4程度の絶縁性の樹脂材料を用いて形成されている。このとき、基板2の厚さ寸法は、例えば700μm程度に設定されている。なお、基板2は、樹脂材料に限らず、絶縁性のセラミックス材料を用いて形成してもよい。
【0025】
裏面側接地導体板3は、例えば銅、銀等の導電性の金属薄膜によって形成され、グランドに接続されている。この裏面側接地導体板3は、基板2の裏面2Bに位置して基板2の略全面を覆っている。
【0026】
放射素子4は、例えば裏面側接地導体板3と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、裏面側接地導体板3と間隔をもって対向している。具体的には、放射素子4は、基板2の表面2Aに配置されている。この放射素子4と裏面側接地導体板3との間には、基板2が挟まれている。このため、放射素子4は、裏面側接地導体板3と絶縁された状態で、裏面側接地導体板3と対面している。
【0027】
また、放射素子4は、図2に示すように、X軸方向に数百μm程度の長さ寸法L1(例えば、L1=450μm)を有すると共に、Y軸方向に数百μm〜数mm程度の幅寸法L2(例えば、L2=1450μm)を有している。この放射素子4のY軸方向の幅寸法L2は、長さ寸法L1よりも大きい値になると共に、電気長で例えば使用する高周波信号の半波長となる値に設定されている。
【0028】
さらに、放射素子4には、Y軸方向の途中位置に後述のコプレーナ線路5が接続されている。そして、図4に示すように、コプレーナ線路5からの給電によって、放射素子4にはY軸方向に向けて電流Iが流れる。このとき、放射素子4のうちY軸方向の両端側と裏面側接地導体板3との間には、電界Eが形成される。
【0029】
コプレーナ線路5は、図1および図2に示すように、放射素子4に対する給電を行う給電線路を構成している。具体的には、コプレーナ線路5は、基板2の表面2Aに設けられた導体パターンとしてのストリップ導体6と、ストリップ導体6を挟んで幅方向(Y軸方向)の両側に設けられた後述の表面側接地導体板8とによって構成されている。そして、ストリップ導体6は、例えば裏面側接地導体板3と同様の導電性金属材料からなり、X軸方向に延びる細長い帯状に形成されている。また、ストリップ導体6の先端は、放射素子4のうちY軸方向の中心位置と端部位置との間の途中位置に接続されている。具体的には、ストリップ導体6の先端は、Y軸方向の中心位置から例えば550μmオフセットした位置に接続されている。
【0030】
無給電素子7は、例えば放射素子4と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子4からみてX軸方向の先端側となる基板2の端部2C側に配置されている。この無給電素子7は、放射素子4との間に隙間が形成されると共に、放射素子4と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子4と並列に配置されている。そして、無給電素子7は、放射素子4、裏面側接地導体板3および後述の表面側接地導体板8と絶縁されている。
【0031】
また、無給電素子7は、X軸方向に数百μm程度の長さ寸法L3(例えば、L3=450μm)を有すると共に、Y軸方向に数百μm〜数mm程度の幅寸法L4(例えば、L4=1150μm)を有している。この無給電素子7のY軸方向の幅寸法L4は、長さ寸法L3よりも大きい値に設定されると共に、放射素子4のY軸方向の幅寸法L2よりも小さい値に設定されている。
【0032】
なお、無給電素子7および放射素子4の大小関係やこれらの具体的な形状、大きさ等は、上述のものに限らず、水平方向放射アンテナ1の使用周波数帯、放射パターン、基板2の比誘電率等に応じて適宜設定されるものである。そして、無給電素子7は、放射素子4と電磁界係合を生じ、誘導器として機能する。
【0033】
表面側接地導体板8は、基板2の表面2Aに設けられ、裏面側接地導体板3と対面している。この表面側接地導体板8は、例えば導電性の金属薄膜によって形成され、後述する複数のビア10によって裏面側接地導体板3に電気的に接続されている。このため、表面側接地導体板8は、裏面側接地導体板3と同様にグランドに接続されている。
【0034】
また、表面側接地導体板8には、基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略四角形状の切欠き部8Aが形成されている。水平方向放射アンテナ1を平面視したときには、放射素子4および無給電素子7は、切欠き部8Aの内部に配置される。そして、切欠き部8Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子4および無給電素子7を取囲むコ字状枠部9が形成されている。このコ字状枠部9は、切欠き部8Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部9Aと、切欠き部8Aの奥部側に位置して2つの腕部9Aの間を幅方向(Y軸方向)に延びる幅方向延伸部9Bとによって構成されている。このとき、幅方向延伸部9Bは、基板2の端部2CよりもX軸方向の基端側に位置すると共に、Y軸方向の途中部位がコプレーナ線路5によって切断されている。
【0035】
ビア10は、基板2を貫通した内径が数十〜数百μm程度の貫通孔に例えば銅、銀等の導電性金属材料を設けることによって柱状の導体として形成されている。また、ビア10は、Z軸方向に延びて、その両端が裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8にそれぞれ接続されている。このとき、隣合う2つのビア10の間隔寸法は、電気長で例えば使用する高周波信号の1/4波長よりも小さい値に設定されている。そして、複数のビア10は、切欠き部8Aを取囲んでコ字状枠部9の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア10は、表面側接地導体板8と裏面側接地導体板3との間の導電性の壁面11を形成している。
【0036】
そして、複数のビア10は、裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8の電位を安定させると共に、切欠き部8Aから基板2の内部に向かう高周波信号を反射する反射器として機能する。このため、ビア10は、高周波信号が基板2の内部に漏洩するのを抑制している。
【0037】
本実施の形態による水平方向放射アンテナ1は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0038】
まず、コプレーナ線路5から放射素子4に向けて給電を行うと、放射素子4には、Y軸方向に向けて電流Iが流れる。これにより、水平方向放射アンテナ1は、放射素子4の長さ寸法L2に応じた高周波信号を送信または受信する。
【0039】
このとき、放射素子4と並列な状態で無給電素子7を設けたから、放射素子4および無給電素子7は互いに電磁界結合し、無給電素子7にもY軸方向に向けて電流Iが流れる。このため、無給電素子7は誘導器として機能し、放射素子4からみて無給電素子7の方向に向けて指向性を持たせることができ、基板2の端部2C側から基板2と平行な水平方向に向けて電磁波を放射することができる。
【0040】
また、本実施の形態では、裏面側接地導体板3と対向した位置に放射素子4を設けたから、裏面側接地導体板3がある状態での放射となる。このため、非特許文献1に記載されたバラン電極が必要なく、水平方向放射アンテナ1は、給電方向(X軸方向)に対する長さ寸法を数mm程度(例えば2mm程度)短縮することができ、小型化を図ることができる。
【0041】
また、特許文献1のアンテナでは、導体カバーを用いるため、構造が立体的になっている。これに対し、本実施の形態による水平方向放射アンテナ1は、基板2に平面状に形成できる構造であるため、構造が簡単である。
【0042】
また、裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8との間を複数のビア10で接続し、これら複数のビア10によって導電性の壁面11を形成したから、この壁面11が反射器の役割を果たす。この結果、放射素子4からみて無給電素子7が配置された基板2の端部2C側への放射特性を向上することができる。さらに、裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8との間の壁面11で電磁波を反射することができるから、基板2の内部への電力の漏洩を防止することができる。
【0043】
また、表面側接地導体板8は基板2の端部2C側が開口した状態で放射素子4および無給電素子7を略コ字状に取囲むコ字状枠部9を備える構成としたから、裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8との間の導電性の壁面11も略コ字状に形成される。このため、コ字状枠部9が開口した基板2の端部2C側に向けて電磁波を放射することができるのに加え、コ字状枠部9が開口した幅方向(Y軸方向)の両端側への放射パターンの広がりを抑制することができる。これにより、放射素子4からみて無給電素子7の方向への放射特性を向上することができる。
【0044】
また、高周波回路で用いられるコプレーナ線路5を用いて放射素子4に給電する構成としたから、高周波回路とアンテナ1を容易に接続することができる。
【0045】
次に、図5および図6は本発明の第2の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、厚さ方向に対して無給電素子と放射素子とを異なる位置に配置する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0046】
第2の実施の形態による水平方向放射アンテナ21は、多層基板22、裏面側接地導体板3、放射素子4、無給電素子25、表面側接地導体板8等によって構成されている。
【0047】
多層基板22は、第1の実施の形態による基板2と同様に、例えばX軸方向およびY軸方向に対して平行に広がる平板状に形成されている。この多層基板22は、幅方向となるY軸方向に対して例えば数mm程度の幅寸法を有し、長さ方向となるX軸方向に対して例えば数mm程度の長さ寸法を有すると共に、厚さ方向となるZ軸方向に対して例えば数百μm程度の厚さ寸法を有している。
【0048】
また、多層基板22は、裏面22B側から表面22A側に向けてZ軸方向に積層した2層の絶縁層23,24を有している。各絶縁層23,24は、例えば比誘電率が4程度の絶縁性の樹脂材料を用いて薄い層状に形成されている。このとき、多層基板22の厚さ寸法は、例えば700μm程度に設定されている。なお、多層基板22の絶縁層23,24は、樹脂材料に限らず、絶縁性のセラミックス材料を用いて形成してもよい。
【0049】
そして、多層基板22の表面22Aには、放射素子4および表面側接地導体板8が設けられている。また、多層基板22の裏面22Bには、裏面側接地導体板3が設けられている。さらに、多層基板22には厚さ方向に貫通した複数のビア10が設けられている。このビア10は、裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8とを電気的に接続すると共に、裏面側接地導体板3と表面側接地導体板8との間に導電性の壁面11を形成している。
【0050】
無給電素子25は、第1の実施の形態による無給電素子7とほぼ同様に形成されている。このため、無給電素子25は、例えば放射素子4と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子4からみて多層基板22の端部22C側に配置されている。また、無給電素子25は、放射素子4と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子4と並列に配置されている。
【0051】
但し、無給電素子25は、絶縁層23,24の間に位置して多層基板22の内部に設けられている。この点で、無給電素子25は、多層基板22の表面22Aに設けられた第1の実施の形態による無給電素子7とは異なる。そして、無給電素子25は、放射素子4、裏面側接地導体板3および表面側接地導体板8と絶縁されている。また、無給電素子25は、放射素子4と一緒に、水平方向放射アンテナ1を平面視したときには、切欠き部8Aの内部に配置されている。
【0052】
かくして、第2の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態では、厚さ方向に対して放射素子4と異なる位置に無給電素子25を配置したから、例えば厚さ方向に対する無給電素子25の位置に応じて、水平方向放射アンテナ21の指向性を厚さ方向に対して調整することができる。
【0053】
なお、第2の実施の形態では、無給電素子25は、放射素子4よりも多層基板2の裏面2B側に設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば無給電素子は、放射素子よりも多層基板の表面側に設ける構成としてもよい。この場合、例えば放射素子を覆う絶縁層を設けると共に、この絶縁層の表面に無給電素子を設ける構成とすればよい。
【0054】
次に、図7および図8は本発明の第3の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、複数の無給電素子を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0055】
第3の実施の形態による水平方向放射アンテナ31は、基板2、裏面側接地導体板3、放射素子4、無給電素子32,33、表面側接地導体板34等によって構成されている。
【0056】
第1の無給電素子32は、第1の実施の形態による無給電素子7とほぼ同様に形成されている。このため、第1の無給電素子32は、例えば導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子4からみて基板2の端部2C側に配置されている。また、第1の無給電素子32は、放射素子4との間に隙間が形成されると共に、放射素子4と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子4と並列に配置されている。そして、第1の無給電素子32は、放射素子4、裏面側接地導体板3および表面側接地導体板34と絶縁されている。
【0057】
第2の無給電素子33は、第1の無給電素子32とほぼ同様に形成されている。このため、第2の無給電素子33は、例えば導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、第1の無給電素子32よりも基板2の端部2C側に配置されている。また、第2の無給電素子33は、第1の無給電素子32との間に隙間が形成されると共に、第1の無給電素子32と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子4および第1の無給電素子32と並列に配置されている。そして、第2の無給電素子33は、放射素子4、裏面側接地導体板3、表面側接地導体板34および第1の無給電素子32と絶縁されている。
【0058】
表面側接地導体板34は、第1の実施の形態による表面側接地導体板8とほぼ同様に形成されている。このため、表面側接地導体板34は、基板2の表面2Aに設けられ、裏面側接地導体板3と対面している。この表面側接地導体板34は、複数のビア10によって裏面側接地導体板3に電気的に接続されている。このため、表面側接地導体板34は、裏面側接地導体板3と同様にグランドに接続されている。
【0059】
また、表面側接地導体板34には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略四角形状の切欠き部34Aが形成されている。水平方向放射アンテナ31を平面視したときには、放射素子4および第1,第2の無給電素子32,33は、切欠き部34Aの内部に配置される。そして、切欠き部34Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子4および第1,第2の無給電素子32,33を取囲むコ字状枠部35が形成されている。このコ字状枠部35は、切欠き部34Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部35Aと、切欠き部34Aの奥部側に位置して2つの腕部35Aの間を幅方向に延びる幅方向延伸部35Bとによって構成されている。
【0060】
また、複数のビア10は、切欠き部34Aを取囲んでコ字状枠部35の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア10は、表面側接地導体板34と裏面側接地導体板3との間に導電性の壁面11を形成している。
【0061】
かくして、第3の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態では、放射素子4よりも基板2の端部2C側には第1,第2の無給電素子32,33を設けたから、第1,第2の無給電素子32,33の配置、形状、大きさ等に応じて水平方向放射アンテナ31の指向性を調整することができる。
【0062】
なお、前記第3の実施の形態では、2個の無給電素子32,33を設ける構成としたが、3個以上の無給電素子を設ける構成としてもよい。
【0063】
次に、図9は本発明の第4の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、コ字状枠部を形成する切欠き部を、基板の端部側に向けて広がる台形状に形成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0064】
第4の実施の形態による水平方向放射アンテナ41は、基板2、裏面側接地導体板3、放射素子4、無給電素子7、表面側接地導体板42等によって構成されている。
【0065】
表面側接地導体板42は、第1の実施の形態による表面側接地導体板8とほぼ同様に形成されている。このため、表面側接地導体板42は、基板2の表面2Aに設けられ、裏面側接地導体板3と対面している。この表面側接地導体板42は、複数のビア10によって裏面側接地導体板3に電気的に接続されている。このため、表面側接地導体板42は、裏面側接地導体板3と同様にグランドに接続されている。
【0066】
また、表面側接地導体板42には、基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略台形状の切欠き部42Aが形成されている。この切欠き部42Aは、基板2の中央側に位置する底部に比べて、基板2の端部2C側に位置する開口部の方がY軸方向の幅寸法が大きくなっている。即ち、切欠き部42Aは、基板2の端部2C側に向かうに従ってテーパ状に拡開している。
【0067】
また、水平方向放射アンテナ41を平面視したときには、放射素子4および無給電素子7は、切欠き部42Aの内部に配置される。そして、切欠き部42Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子4および無給電素子7を取囲むコ字状枠部43が形成されている。このコ字状枠部43は、切欠き部42Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部43Aと、切欠き部42Aの奥部側に位置して2つの腕部43Aの間を幅方向に延びる幅方向延伸部43Bとによって構成されている。このとき、2つの腕部43A間の離間寸法は、基板2の端部2C側に向かうに従って徐々に大きくなっている。
【0068】
また、複数のビア10は、切欠き部42Aを取囲んでコ字状枠部43の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア10は、表面側接地導体板42と裏面側接地導体板3との間に導電性の壁面11を形成している。
【0069】
かくして、第4の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第4の実施の形態では、コ字状枠部43を形成する切欠き部42Aを台形状に形成したから、切欠き部42Aの形状に応じてY軸方向に対する放射パターンの広がり特性を調整することができる。
【0070】
次に、図10は本発明の第5の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、2個の水平方向放射アンテナを幅方向に並べて配置し、アレーアンテナを構成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0071】
第5の実施の形態によるアレーアンテナ51は、第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1をY軸方向に2個並べることによって形成されている。このとき、2個の水平方向放射アンテナ1には、放射素子4に対してコプレーナ線路5を通じて給電を行う。これら2個のコプレーナ線路5への給電の位相は、相互に変化可能にする。これにより、2個のコプレーナ線路5への給電の位相に応じて、電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0072】
かくして、第5の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第5の実施の形態では、水平方向放射アンテナ1をY軸方向に2個並べてアレーアンテナ51を構成したから、2個のコプレーナ線路5への給電の位相を変えることで、電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0073】
なお、前記第5の実施の形態では、2個の水平方向放射アンテナ1を用いてアレーアンテナ51を構成したが、3個以上の水平方向放射アンテナを用いてアレーアンテナを構成してもよい。また、前記第5の実施の形態では、第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1を用いる構成としたが、第2ないし第4の実施の形態による水平方向放射アンテナ21,31,41を用いる構成としてもよい。
【0074】
また、前記各実施の形態では、表面側接地導体板8,34,42には放射素子4および無給電素子7,25,32,33を取囲むコ字状枠部9,35,43を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図11に示す第1の変形例のように、Y軸方向に対して一様な表面側接地導体板62をもった水平方向放射アンテナ61を形成してもよい。この場合、表面側接地導体板62は、基板2の端部2CよりもX軸方向の基端側に位置して、放射素子4および無給電素子7とは対向せずに、コプレーナ線路5側に配置されている。また、表面側接地導体板62と裏面側接地導体板3との間には、複数のビア10がY軸方向に並んで設けられている。そして、これら複数のビア10は、表面側接地導体板62と裏面側接地導体板3との間に導電性の壁面11を形成している。
【0075】
また、前記各実施の形態では、表面側接地導体板8,34,42と裏面側接地導体板3との間を複数のビア10を用いて電気的に接続し、これら複数のビア10によって導電性の壁面11を形成する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図12ないし図14に示す第2の変形例による水平方向放射アンテナ71のように、基板2と同じ厚さ寸法をもった接続導体板72を基板2に埋め込み、該接続導体板72によって表面側接地導体板8と裏面側接地導体板3との間を接続する構成としてもよい。この場合、接続導体板72も表面側接地導体板8のコ字状枠部9とほぼ同様の形状をなすと共に、接続導体板72の端面によって表面接地導体板8と裏面側接地導体板3との間に導電性の壁面73を形成するものである。なお、表面側接地導体板8と接続導体板72とは一体化して形成してもよい。
【0076】
また、前記各実施の形態では、給電線路としてコプレーナ線路5を用いた場合を例に挙げて説明したが、例えばストリップ線路等を用いる構成としてもよい。
【0077】
また、前記各実施の形態では、60GHz帯のミリ波に用いる水平方向放射アンテナを例に挙げて説明したが、他の周波数帯のミリ波やマイクロ波等に用いる水平方向放射アンテナに適用してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1,21,31,41,61,71 水平方向放射アンテナ
2 基板
2C 端部
3 裏面側接地導体板
4 放射素子
5 コプレーナ線路
6 ストリップ導体(導体パターン)
7,25,32,33 無給電素子
8,34,42,62 表面側接地導体板
8A,34A,42A 切欠き部
9,35,43 コ字状枠部
10 ビア
11,73 壁面
22 多層基板
51 アレーアンテナ
72 接続導体板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料からなる基板と、該基板の裏面側に設けられグランドに接続された裏面側接地導体板と、前記基板の表面側に設けられグランドに接続された表面側接地導体板と、前記基板の表面側に設けられ前記裏面側接地導体板と間隔をもって対向した細長い放射素子と、前記基板の表面側に設けられた導体パターンからなり該放射素子に接続された給電線路と、前記放射素子よりも前記基板の端部側に位置して前記基板に設けられ前記放射素子と並列に延びると共に前記裏面側接地導体板、表面側接地導体板および放射素子と絶縁された少なくとも1つの無給電素子とを備え、
前記表面側接地導体板は、前記基板の厚さ方向に対して前記放射素子と同じ位置に配置され、
前記表面側接地導体板と裏面側接地導体板との間には、前記放射素子から放射される高周波信号を反射可能な導電性の壁面を設ける構成とした水平方向放射アンテナ。
【請求項2】
前記表面側接地導体板は、前記基板の端部側が開口した状態で前記放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備えてなる請求項1に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項3】
前記給電線路は、前記基板の表面に設けられた前記導体パターンとしてのストリップ導体と、該ストリップ導体を挟んで幅方向両側に設けられた前記表面側接地導体板とからなるコプレーナ線路によって構成してなる請求項1または2に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項4】
前記壁面は、前記基板を貫通して設けられ前記表面側接地導体板と裏面側接地導体板とを電気的に接続する複数のビアによって構成してなる請求項1,2または3に記載の水平方向放射アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−191318(P2012−191318A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51496(P2011−51496)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】