説明

水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録方法及び画像形成方法

【課題】 従来の自己分散型顔料と塩を含有してなるインクを用いて形成した画像と比較して、耐ブリード性、文字品位、印字濃度がより優れた画像を形成することができる水性インクを提供すること。
【解決手段】 顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料、及び塩を含有することを特徴とする水性インク。(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性インクに関し、より詳しくは、インクジェット記録方式を用いた記録方法や記録装置、更には、インクジェット記録方法(画像形成方法又は記録方法)に好適な水性インク、それを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具(万年筆、サインペン、水性ボールペン等)用のインクやインクジェット用のインク等として、印字濃度が高く、堅牢性等に優れた印字物を与えることができる着色剤である顔料を含むインクが提案されている。
【0003】
特に近年は、オフィス等で一般に使用されているコピー用紙、レポート用紙、ノート、便箋、ボンド紙及び連続伝票用紙等の普通紙に対しても良好な記録を行うことを目的として、インクの組成及び物性等の多様な面から詳細な研究開発が為されている。
【0004】
上記で述べたような性質を有する顔料インクとして、例えば、カーボンブラックと分散剤とを含有してなる水性顔料インクの提案がある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
又、顔料としてカーボンブラックを用い、更に分散剤を含有してなるインクをインクジェット記録装置用のインクとして用いた場合に、インクの吐出が不安定となることや、十分な印字濃度を得られないこと等の技術課題を挙げ、そのような課題を解決し得るインクとして、分散剤を用いないでも顔料の分散が可能な、いわゆる自己分散型カーボンブラックを含有してなる水性顔料インクの提案がある(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
上記で述べたような水性顔料インクを黒色インクとして用い、他の色のインク(例えば、マゼンタインク、シアンインク、イエローインク、レッドインク、グリーンインク及びブルーインクから選ばれる少なくとも1つ)と組み合わせてカラー画像の印字を行う場合、次のような課題が生じる。即ち、記録媒体に形成されたブラックの画像とカラーの画像との境界において色が滲んだり、インクが不均一に混合されて画像の品位が低下したりする現象(以降「ブリード」と称する)が発生する。このブリードを抑制する、即ち、耐ブリード性を向上する手段として、インクに界面活性剤を添加することにより、インクの記録媒体への浸透性を向上させる提案や(例えば、特許文献4参照)、インクの溶剤として揮発性溶剤を主体として用いることにより、記録媒体に付与されたインクの乾燥速度を向上させる提案がある(例えば、特許文献5参照)。更には、自己分散型カーボンブラックと特定の塩を含有してなる黒色インクを用いることで、耐ブリード性を向上するだけでなく、文字品位及び印字濃度を向上する提案がある(例えば、特許文献6及び7参照)。
【特許文献1】特開昭61−283875号公報
【特許文献2】特開昭64−6074号公報
【特許文献3】特開平8−3498号公報
【特許文献4】特開昭55−65269号公報
【特許文献5】特開昭55−66976号公報
【特許文献6】特開2000−198955号公報
【特許文献7】特開2002−80763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記で述べたように、自己分散型カーボンブラックと塩を含有してなる水性インクを用いることで、耐ブリード性、文字品位、印字濃度といった画像特性は問題のないレベルに達している。
【0008】
本発明者らが、更に優れた品質の画像を提供するために、記録媒体で起きている現象等について詳細に検討を行った。その結果、自己分散型顔料の表面官能基の種類や構造等が、前述のような画像特性を向上させることに大きく関与することがわかった。記録媒体に付与されたインクに含有される自己分散型顔料は、水分の蒸発や拡散、インクの成分比率の変化等に伴って、その分散状態が不安定化し、凝集が引き起こされる。この際に、自己分散型顔料の表面官能基の種類や構造等を特定のものとすることより、従来の自己分散型顔料と塩を含有してなる水性インクを用いて得られる画像特性と比較して、耐ブリード性、文字品位、印字濃度等の画像特性を大きく向上できることがわかった。
【0009】
本発明者らが検討を行った結果、上記したように、自己分散型顔料の表面官能基の種類や構造等を特定のものとして、更に、該自己分散型顔料と共に用いる塩の種類を適切に選択することで、耐水性や水分蒸発時における分散安定性等の特性にも優れたインクとなることがわかった。
【0010】
従って、本発明の目的は、従来の自己分散型顔料と塩を含有してなるインクを用いて形成した画像と比較して、耐ブリード性、文字品位、印字濃度がより優れた画像を形成することができる水性インクを提供することにある。
【0011】
又、本発明の別の目的は、上記効果に加えて、耐水性が良好である画像を形成することができる水性インクを提供することにある。
【0012】
又、本発明の別の目的は、上記効果に加えて、水分蒸発時における分散安定性等のインク特性が良好である水性インクを提供することにある。
【0013】
又、本発明の別の目的は、上記構成の水性インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【0014】
又、本発明の別の目的は、普通紙に互いに異なる色の領域が隣接しているカラー画像記録を行った場合に、ブラックインクとカラーインクの領域の境界における混色(ブリード)を有効に抑制することができる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の水性インクは、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料、及び塩を含有することを特徴とする。(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録方法は、インクをインクジェット法で吐出する工程を有するインクジェット記録方法において、前記インクが、上記構成の水性インクであることを特徴とする。
【0016】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクカートリッジは、インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、上記構成の水性インクであることを特徴とする。
【0017】
又、本発明の別の実施態様にかかる記録ユニットは、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドを備えた記録ユニットにおいて、前記インクが、上記構成の水性インクであることを特徴とする。
【0018】
又、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録装置は、インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが、上記構成の水性インクであることを特徴とする。
【0019】
又、本発明の別の実施態様にかかる画像形成方法は、ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて普通紙にインクジェット記録方式で記録を行う画像形成方法において、ブラックインクに上記構成の水性インクを用い、且つ前記ブラックインクによって形成される画像と、カラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、前記画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする。
【0020】
又、本発明の別の実施態様にかかる水性インクは、顔料粒子の表面に−R−COOn−基が結合している自己分散型顔料、及び、Mを含有し(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)、更に、NO、CHCOO、CCOO、C(COO、C(COO及びSO2−からなる群から選ばれる少なくとも1種、及び、M(式中、Mはアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)、を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の自己分散型顔料と塩を含有してなるインクを用いて形成した画像と比較して、耐ブリード性、文字品位、印字濃度がより優れた画像を形成することができる水性インクを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、上記効果に加えて、耐水性が良好である画像を形成することができる水性インクを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、上記効果に加えて、水分蒸発時における分散安定性等のインク特性が良好である水性インクを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、上記構成の水性インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置を提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、普通紙に互いに異なる色の領域が隣接しているカラー画像記録を行った場合に、各色画像の境界部における混色(ブリード)を有効に抑制することができる画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
本発明にかかる水性インクは、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)を色材として用い、更に、塩を含有することを特徴とする。
【0024】
色材として、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料を用いることで、従来の自己分散型顔料を含有する水性インクと比較して、耐ブリード性、印字品位、印字濃度等がより向上する理由は、インク中における、自己分散型顔料と水溶性有機溶剤との相互作用が大きく関与していると推測される。即ち、色材として、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料を用いる場合、特に、顔料粒子の表面に前記−R−(COOM基がより高密度に結合している場合、以下のような現象が起きると考えられる。
【0025】
インク中において、顔料粒子の表面に結合している−R−(COOM基が存在することで立体障害等がより起こりやすくなるため、−R−(COOM基が結合した顔料粒子と、その近傍に存在する水溶性有機溶剤は、従来の自己分散型顔料とその近傍に存在する水溶性有機溶剤と比較して溶媒和しにくくなる。その結果、インクが記録媒体に付与された際に、インク中の水溶性有機溶剤と、顔料を含む固形分との分離(固液分離)が極めて速やかに引き起こされると考えられる。又、インクに含有される水溶性有機溶剤が顔料に対して溶媒和しにくい場合、インク中における溶媒和による顔料の分散安定性の効果が小さくなるため、記録媒体で起きる顔料同士の凝集がより顕著に起こると考えられる。
【0026】
更に、本発明者らが、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料のカウンターイオンや、前記自己分散型顔料と組み合わせてインクに含有させる塩について様々な検討を行った。その結果、前記自己分散型顔料と前記塩のうち、特定の組み合わせにおいて、上記で述べた、耐ブリード性、文字品位、印字濃度が向上するという優れた効果のみならず、耐水性及び水分蒸発時における分散安定性等のインク特性をも向上できることがわかった。特定の自己分散型顔料と特定の塩を組み合わせることで、前記したような効果が得られる明確な理由は定かではないが、顔料表面に結合している官能基や塩に関する分子構造、解離平衡定数、溶解性等に起因すると推測される。
【0027】
尚、本発明における溶媒和とは、顔料と水溶性有機溶剤の親和性を意味するものであり、顔料が水溶性有機溶剤に対する親和性を有する部位を、どの程度持つかに依存する。水溶性有機溶剤に対する親和性のある部位は、例えば、顔料粒子の表面において、イオン性基が結合していない部位が挙げられる。例えば、イオン性を有する基が高密度で顔料粒子表面に結合している場合、顔料粒子の表面において、水溶性有機溶剤に対する親和性のある部位が露出している面積は小さい。又、イオン性基がより高密度に顔料粒子表面を覆っている場合、イオン性基による立体障害の影響と、顔料の水溶性有機溶剤に対する親和性を有する部位の減少の影響、の相乗効果により、水溶性有機溶剤は顔料に対して溶媒和しにくくなると推測される。
【0028】
[水性インク]
以下、本発明の水性インクを構成する自己分散型顔料、塩、水性媒体、その他の成分について説明する。
【0029】
<自己分散型顔料>
本発明にかかる水性インクに用いられる色材は、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料である(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)。インク中における−R−(COOM基の形態は、その一部が解離した状態、若しくは完全に解離した状態の何れの形態であってもよい。
【0030】
とりわけ、ジアゾカップリング法により得られる、上記した、−R−(COOM基という構造を一部分に有する化合物を表面に結合している顔料を好適に用いることができる。勿論、本発明はこれに限られるものではない。これらの自己分散型顔料は単独では勿論のこと、2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0031】
尚、本発明におけるアルキレン基とは、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。又、本発明における芳香環とは、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0032】
又、より好ましい形態として、前記顔料粒子の表面に結合している−R−において、−(COOM)が結合している炭素原子に隣接する炭素原子が、−(COOM)を結合している場合や、上記nが2の場合や、上記RがCである場合等において、本発明の効果がより顕著に発揮される。尚、前記顔料粒子の表面に結合している−R−において、−(COOM)が結合している炭素原子に隣接する炭素原子が、−(COOM)を結合していることとは、下記構造式(1)のように、R中の隣り合う2つ以上の炭素原子が共に−(COOM)基を有することである。本発明においては、顔料粒子の表面に、下記構造式(1)で示される基が結合している自己分散型顔料を用いることが好ましい。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0033】
構造式(1)
【0034】
【化1】

【0035】
又、本発明にかかる水性インクにおいては、上記−R−(COOM基がより高密度に顔料粒子表面に結合している場合、例えば、顔料粒子表面におけるイオン性基密度が、2.00μmol/m以上である場合、上記で述べた溶媒和の程度に起因する固液分離がより促進され、本発明の効果がより顕著に得られるために、特に好ましい。尚、本発明においては、顔料粒子表面におけるイオン性基密度は、顔料の比表面積や、顔料粒子表面に結合している官能基の構造等により大きく影響を受けるため、上記範囲に限られるものではない。
【0036】
更に、本発明にかかる水性インクにおいては、前記Mがアンモニウムである場合、より優れた耐水性が得られるために、特に好ましい。これは、当該インクが記録媒体に付与されると、このアンモニウムが分解し、アンモニアが蒸発してカーボンブラック表面に結合しているイオン性基がH型(酸型)となり、親水性が低下することによるものと考えられる。ここで、Mがアンモニウムである自己分散型カーボンブラックは、以下の方法で得ることができる。例えば、Mがアルカリ金属である自己分散型カーボンブラックを用い、イオン交換法を行うことでMをアンモニウムに置換する方法や、酸を加えてH型とした後に、水酸化アンモニウムを添加してMをアンモニウムにする方法などが挙げられる。
【0037】
<顔料粒子>
本発明にかかる水性インクにおいて使用することのできる顔料粒子は特に限定されず、下記に挙げるようなものを何れも使用することができる。本発明の水性インクを、ブラックインクとして用いる場合は、顔料粒子としてカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0038】
カーボンブラックの具体例は、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。具体的には、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Vulcan)XC−72R(以上、キャボット製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)等の市販品を使用することができる。又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを何れも使用することができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を黒色顔料として用いてもよい。
【0039】
ブラックインク以外に使用される顔料粒子は、各種の有機顔料粒子が挙げられる。有機顔料粒子は、具体的には、例えば、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、インジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。勿論、これらに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
【0040】
又、本発明で使用することのできる有機顔料を、カラーインデックス(COLOUR INDEX)ナンバーにて示すと、下記のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185等
C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71等
C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272等
C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50等
C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64等
C.I.ピグメントグリーン:7、36等
C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等
本発明にかかる水性インクにおける、顔料の含有量(質量%)は、インク全質量に対して0.1質量%〜15質量%であることが好ましく、特には、1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0041】
<塩>
本発明にかかる水性インクは塩を含有することが必須である。インク中における塩の形態は、その一部が解離した状態、若しくは完全に解離した状態の何れの形態であってもよい。
【0042】
本発明にかかる水性インクに用いることができる塩の具体例は、例えば、(M)NO、CHCOO(M)、CCOO(M)、C(COO(M))、C(COO(M))、(MSO(式中、Mはアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)等が挙げられる。勿論、本発明の要件を満たす限り、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明にかかる水性インクにおける、塩の含有量は、本発明の効果が十分得られる範囲で含有されていれば良い。具体的には、塩の含有量(質量%)が、インク全質量に対して0.05質量%〜10.0質量%であることが好ましい。含有量が0.05質量%を下回る場合、本発明の効果が得られない場合があり、10.0質量%を上回る場合、インクの保存安定性等が得られない場合がある。
【0044】
又、本発明にかかる水性インクにおいては、上記Mがアンモニウムである場合、より優れた耐水性が得られるために、より好ましい。中でも特に、NHNO、C(COONH、C(COONH、(NHSO等は比較的短い時間で耐水性が発現するため、特に好ましい。
【0045】
又、本発明にかかる水性インクにおいては、塩が、C(COO(M))、C(COO(M))、(MSOである場合、インクに含まれる水分が蒸発した時における顔料の分散安定性がとりわけ優れているため、より好ましい。
【0046】
又、顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料において、例えば、nが2の場合には、該自己分散型顔料と組み合わせて用いる塩として2価の塩を使用する、即ち、顔料粒子表面の官能基の価数及び塩の価数が同じである場合、本発明の効果がより顕著に得られるため、特に好ましい。具体的には、顔料粒子表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料と、C(COO(M))、C(COO(M))、(MSOという塩の組み合わせ等が挙げられる。勿論、本発明はこれに限られるものではない。
【0047】
<水性媒体>
本発明にかかる水性インクに用いられる水性媒体は、水単独又は水と水溶性有機溶剤との混合溶媒である。前記水溶性有機溶媒は、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましい。又、水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。
【0048】
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記の水溶性有機溶剤は、単独又は混合物として使用しても良い。
【0049】
本発明にかかる水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、3質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。又、水性インク中の水の含有量は、インク全質量に対して、50質量%以上95質量%以下とすることが好ましい。
【0050】
<その他の成分>
本発明にかかる水性インクは、保湿性維持のために上記した成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性化合物をインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の保湿性化合物の含有量は、一般には、インク全質量に対して0.1質量%〜20.0質量%とすることが好ましく、3.0質量%〜10.0質量%とすることがより好ましい。
【0051】
更に、本発明にかかる水性インクには、所望の物性値を持つインクとするために上記成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等の種々の添加剤を含有させてもよく、更に、市販の水溶性染料などを添加することもできる。
【0052】
又、インクの表面張力の調整が必要とされる場合には、下記構造式(2)で示されるアセチレンアルコール等の界面活性剤や浸透性溶剤等を適宜インクに添加することが有効である。
【0053】
構造式(2)
【0054】
【化2】

【0055】
又、必要に応じてポリマー等をインクに添加することにより、耐擦過性や耐マーカー性を向上させることも可能である。とりわけイオン性基を有しないノニオン性ポリマーは、インクの信頼性に与える影響が少なく、好適に用いることが可能である。
【0056】
[カラーインク]
本発明にかかる画像形成方法は、ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて普通紙に記録を行う画像形成方法であって、ブラックインクに、上記で説明した構成を有する水性インクを用い、且つ、前記ブラックインクによって形成される画像と、カラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、前記画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする。ここで、ブラックインクのみに本発明の水性インクを用いた場合に用いられるカラーインクについて説明する。本発明にかかる画像形成方法においては、従来公知のインクジェット記録用のカラーインクを何れも使用することができる。
【0057】
カラーインクの色材は、水溶性染料が挙げられ、特に、可溶化基としてアニオン性基を有する水溶性染料を用いることが好ましい。本発明において用いるカラーインクの色は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジから適宜に選択して使用できる。
【0058】
本発明で使用されるアニオン性基を有する水溶性染料は、カラーインデックス(COLOUR INDEX)に記載されている水溶性の酸性染料、直接染料、反応性染料であれば特に限定はない。又、カラーインデックスに記載のない染料であっても使用可能である。特に、アニオン性基、例えばスルホン酸基を有するものが好適に用いられる。これらの染料は、インク中に1質量%〜10質量%、好ましくは1質量%〜5質量%の範囲で用いる。
【0059】
具体的な染料は、下記のものが挙げられる。
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、98、100、110等
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、230等
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226等
C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等
C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、94、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、117、127、138、158、161等
カラーインクの色材は、上記の水溶性染料以外に、下記の1〜3のものを挙げることができる。これらの色材は、記録媒体に付与された場合に、優れた耐水性を発揮するものが多いので、好ましい。
1.可溶化基として、カルボキシル基を持つ染料
2.油溶性染料
3.顔料
油溶性染料は、カラーインデックスに記載されているものであれば特に限定はない。又、カラーインデックスに記載のない新規の染料であっても、特に制限はない。具体的には、下記のものが挙げられる。これらの染料は、インク中に1質量%〜10質量%、更には、1質量%〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
C.I.ソルベントイエロー:1、49、62、74、79、82、83、89、90、120、121、151、153、154等
C.I.ソルベントレッド:25、31、86、92、97、118、132、160、186、187、219等
C.I.ソルベントブルー:33、38、42、45、53、65、67、70、104、114、115、135等
カラーインクの色材として顔料を用いる場合、顔料の含有量は、インク全質量に対して1質量%〜20質量%、更には2質量%〜12質量%とすることが好ましい。本発明において使用することのできる顔料は、下記のものが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限られるものではない。又、本発明のために新たに製造された顔料も勿論使用することが可能である。
C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、13、16、74、83、128等
C.I.ピグメントレッド:5、7、l2、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、ll2、l22等
C.I.ピグメントブルー:1、2、3、l5:3、l6、22等
C.I.バットブルー:4、6等
又、カラーインクの色材として顔料を使用する場合に、顔料をインク中に分散させるための分散剤は、水溶性樹脂であれば特に限定はないが、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましく、更には、3,000〜15,000の範囲のものが好ましい。このような分散剤は、具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。又、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂の含有量は、インク全質量に対して0.1〜5質量%の範囲とすることが好ましい。
【0060】
カラーインクに用いられる水性媒体は、水、或いは水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。水は種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用することが好ましい。
【0061】
水溶性有機溶剤の具体例は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが特に好ましい。
【0062】
カラーインク中における水溶性有機溶剤の含有量は、インク全質量に対して3質量%〜50質量%、更には3質量%〜40質量%とすることが好ましい。又、カラーインク中における水の含有量は、インク全質量に対して、10質量%〜90質量%、更には30質量%〜80質量%の範囲とすることが好ましい。
【0063】
又、本発明で使用されるカラーインクには、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を適宜に添加することができる。
【0064】
<インクの物性>
上記で説明したような構成成分からなる、本発明で使用するブラック及びカラーインクは、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有することが好ましい。インクジェット記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インクの特性が、例えば、その粘度が1mPa・s〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、更には、粘度が1mPa・s〜5mPa・s、表面張力が25mN/m〜50mN/mとすることが好ましい。又、ブラックインクとカラーインクとを併用する場合には、ブラックインクの表面張力よりもカラーインクの表面張力が低いことが更に好ましい。具体的には、ブラックインクの表面張力が35mN/m〜50mN/m、カラーインクの表面張力が25mN/m〜35mN/mであることが好ましい。
【0065】
又、インクの記録媒体への浸透性を表す尺度として、ブリストウ法によって求められるKa値がある。即ち、インクの浸透性を1m当たりのインク量Vで表すと、インク滴を吐出してから所定時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(ml/m=μm)は、下記に示すブリストウの式(式(1))によって示される。
【0066】
【数1】

【0067】
記録媒体に付与された直後のインクは、そのほとんどが記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体表面の粗さの部分)に吸収され、記録媒体の内部(深さ方向)へはほとんど浸透していない。この間の時間がコンタクトタイム(tw)であり、コンタクトタイムに記録媒体の凹凸部に吸収されたインク量がVrである。そして、インクが記録媒体に付与された後に、コンタクトタイムを超えると、該コンタクトタイムを超えた時間、即ち、(t−tw)の1/2乗べきに比例するインク量が記録媒体の内部(深さ方向)へ浸透し、浸透量が増加する。Kaは、この増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を取る。尚、Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)等を用いてすることが可能である。
【0068】
更に、本発明者らの検討によれば、形成された記録画像の品質をより一層向上させる観点からは、インクにおけるKa値が1.5(ml/m/msec1/2)未満となるように調整することが好ましく、更には、Ka値が0.2(ml/m/msec1/2)以上1.5(ml/m/msec1/2)未満となるように調整することが好ましい。即ち、インクのKa値が1.5(ml/m/msec1/2)未満となるように構成すれば、インクが記録媒体へと浸透していく過程の早い段階で固液分離が起こり、高品質な画像を形成することが可能となる。
【0069】
尚、本発明におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙(例えば、キヤノン製の、電子写真方式を用いた複写機やページプリンタ(レーザビームプリンタ)やインクジェット記録方式を用いたプリンタ用として用いられるPB紙や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等)を記録媒体として用いて測定した値である。又、測定環境は、通常のオフィス等の環境、例えば、温度20℃〜25℃、湿度40%〜60%を想定している。
【0070】
上記で説明したような物性をインクに持たせるために、本発明にかかる水性インクは、水溶性有機溶剤として、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、チオジグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソプロピルアルコール及びアセチレンアルコールを含有するものとすることが特に好ましい。
【0071】
[画像形成方法]
以下、本発明にかかる画像形成方法について具体例を挙げて説明する。本発明にかかる画像形成方法は、ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて普通紙にインクジェット記録方式で記録を行う画像形成方法において、ブラックインクに上記で説明した構成を有する水性インクを用い、且つ、前記ブラックインクによって形成される画像と、上記で説明した構成を有するカラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、前記画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする。以下に、本発明にかかる画像形成方法について詳細に説明する。
【0072】
図8は、本発明にかかる画像形成方法を実施する際に使用する記録ヘッドの一例である。該記録ヘッドは、図8に示したように、ブラックインクを吐出するための吐出口列(Bk)と、カラーインクであるシアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の3色のインクをそれぞれ吐出するための吐出口列とを備えている。
【0073】
本発明の画像形成方法では、フルカラーの画像を形成する場合には、ブラックインクを吐出させるためのブラックインク用吐出口列と、カラーインクを吐出させるためのカラーインク用吐出口列が副走査方向にずれて配置した記録ヘッドを用いることが好ましい。具体的には、例えば、図8に示した記録ヘッドを用いて画像形成を行う際には、ブラックのみの画像を形成する場合には、ブラックインク用の吐出口列全域を使用し、ブラックの画像とカラーの画像が混在したフルカラーの画像の形成を行う場合には、ブラックインクは、ブラックインク用吐出口列のa部分、C、M及びYのカラーインクは、カラーインク用吐出口列のb部分、を用いて画像を形成することが好ましい。以下、ブラックの画像とカラーの画像が混在した画像の形成を行う場合について、更に詳細に説明する。
【0074】
図8は、本発明に用いることができる記録ヘッドの一例である。記録ヘッドは、ブラックインクを吐出するための吐出口列(Bk)と、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の3色のカラーインクをそれぞれ吐出するための吐出口列とを備えている。まず、ブラックインク用吐出口列のa部分を用いて、プリントヘッドを図の横方向(主走査方向)に走査することで、ブラックの画像を1パス印字で記録媒体上に形成する。次に、図の縦方向(副走査方向)に距離aだけ記録媒体の搬送を行い、次のプリントヘッドにおける主走査の往方向の過程で、カラーインク用吐出口列のb部分を用いて、先程のブラックインク用吐出口列のa部分で形成された画像領域にカラーの画像を1パス印字で記録媒体上に形成する。このとき、ブラックインク用吐出口列のa部分は、次の領域に画像を形成している。この繰り返しにより、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。
【0075】
図9は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図9においても、図8の場合と同様に、ブラックインクは、ブラックインク用吐出口列のa部分、C、M及びYのカラーインクは、カラーインク用吐出口列の全領域にあたるb部分を使用し、上記と同様にして、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。
【0076】
図10は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図10においても、図8の場合と同様に、ブラックインクは、ブラックインク用吐出口列のa部分、C、M及びYのカラーインクは、カラーインク用吐出口列の全領域にあたるb部分を使用し、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。ここで、図10に示される記録ヘッドにおいては、ブラックインク用吐出口列のa部分とカラーインク用吐出口列のb部分との間に、1回分の紙送り量a’分だけ距離が置かれている。このため、かかる構成の記録ヘッドにおいては、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成されるまでの間に、往復で1回の走査分の時間差が余分に生じることになる。従って、図10に示される記録ヘッドにおいては、図9に示される記録ヘッドの構成よりも、ブラックの画像及びカラーの画像の間におけるブリーディングの抑制に対して、より有利な構成となる。
【0077】
図11は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図11に示される記録ヘッドのように、副走査方向に順に、ブラックインク用吐出口列及びカラーインク用吐出口列が一列に配置された記録ヘッドを用いた場合は、紙送りに応じて、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成される。
【0078】
図12は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図12に示される記録ヘッドでは、主走査の往方向と復方向とで、カラーインクの打ち込み順序が等しくなるように、カラーインク用吐出口列が、シアンインク(C1、C2)、マゼンタインク(M1、M2)、イエローインク(Y1、Y2)についてそれぞれ2列ずつ、主走査方向に対称に設けられている。この結果、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成において、双方向印字が可能となる。この場合には、先ず、ブラックインク用吐出口列のa部分を用いてブラックの画像が形成され、次に、副走査方向に距離aだけ記録媒体の搬送を行い、次のプリントヘッドにおける主走査の復方向の過程で、カラーインク用吐出口列のb部分を用いて、先程のブラックインク用吐出口列のa部分で形成された画像領域にカラーの画像を1パス印字で記録媒体上に形成する。このとき、ブラックインク用吐出口列のa部分は、次の領域に画像を形成している。この繰り返しにより、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。
【0079】
図12に示されるような双方向印字に対応した記録ヘッドにおいても、図10において説明した記録ヘッドと同様に、ブラックインク用吐出口列のa部分とカラーインク用吐出口列のb部分との間に、1回分の紙送り量a’分だけ距離が置かれた配置とし(図13参照)、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成されるまでの間に、往復で1回の走査分の時間差を設け、ブラックの画像及びカラーの画像の間におけるブリーディングの抑制に対して、より有利な構成としてもよい。
【0080】
以上、本発明にかかる画像形成方法について説明した。勿論、本発明にかかる画像形成方法用いることができる記録ヘッドの形態は、図8〜図13に限定されるものではない。又、パス数は使用する記録装置によって異なるため、1パス印字に限られるものではない。
【0081】
普通紙上に、ブラック部位とカラー部位とが混在した画像を形成する場合において、本発明にかかる水性インクをブラックインクとして用いる構成とすれば、上記で述べたように、紙面上でブラックインクを構成している色材の凝集若しくは分散破壊が、他のインクと比べて比較的早く進行すると考えられる。本発明における画像形成方法では、本発明にかかる水性インクをブラックインクとして用い、且つカラーインクによる画像形成をブラックインクによる画像形成後に行うことで、より好ましくは、ブラックインクを付与する走査を行った後に、少なくとも1走査以上、間をおいた後にカラーインクを付与する走査を行うことで、ブラックインクとカラーインクとが接触しても紙面上でのブラックインクとカラーインクの間の混色滲みが起こらず、耐ブリード性に優れる画像形成が可能となる。即ち、ブラックインクとカラーインクの各色インクによる画像形成を時間差をもって行うことのみで、複数回の走査で印字を完成する印字時間を要するマルチパス印字を行う方法や、ブラックインクとカラーインクとで回復系を別々にするといった機器の大型化を招く方法を必要とすることなく、上記の優れた効果が得られる。
【0082】
[インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置]
次に、本発明に好適なインクジェット記録装置の一例について以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図1及び図2に示す。図1は、インク流路に沿った記録ヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。記録ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0083】
発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1及び17−2、HfB2、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性のよい材料で形成される基板20より構成される。
【0084】
上記記録ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0085】
図3には、図1に示した記録ヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0086】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、図示した例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0087】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0088】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0089】
51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録の進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0090】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングのときの位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0091】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部はインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0092】
本発明で使用されるインクジェット記録装置は、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料はポリウレタンを用いることが好ましい。又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0093】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例について説明する。力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図7に示す。
【0094】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を支持固定するための基板84とから構成されている。
【0095】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属に電鋳やプレス加工による穴あけ等を行うことにより吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様なインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【実施例】
【0096】
次に、実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0097】
[顔料分散液の調製]
(顔料分散液Aの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノ−1,2−ベンゼンジカルボン酸1.5gを加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックAを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックAに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONa)基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックAが水中に分散された状態の顔料分散液Aを得た。
【0098】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックAのイオン性基密度を測定したところ、3.1μmol/mであった。この際に用いたイオン性基密度の測定方法は、上記で調製した顔料分散体A中のナトリウムイオン濃度をイオンメーター(東亜DKK製)を用いて測定し、その値から自己分散型カーボンブラックAのイオン性基密度に換算した。
【0099】
(顔料分散液Bの調製)
上記で得られた顔料分散液Aに対して、イオン交換法によりナトリウムイオンをアンモニウムイオンに置換して、自己分散型カーボンブラックBを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックBに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONH基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックBが水中に分散された状態の顔料分散液Bを得た。
【0100】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックBのイオン性基密度は、3.1μmol/mであった。
【0101】
(顔料分散液Cの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態でp−アミノ安息香酸1.55gを加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックCを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックCに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−COONa基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックCが水中に分散された状態の顔料分散液Cを得た。
【0102】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックCのイオン性基密度を、自己分散型カーボンブラックAと同様の方法で測定したところ、2.6μmol/mであった。
【0103】
(顔料分散液Dの調製)
上記で得られた顔料分散液Cに対して、イオン交換法によりナトリウムイオンをアンモニウムイオンに置換して、自己分散型カーボンブラックDを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックDに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−COONH基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックDが水中に分散された状態の顔料分散液Dを得た。
【0104】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックDのイオン性基密度は、2.6μmol/mであった。
【0105】
[インクの調製]
下記表1に記載した成分を混合し、十分に撹拌して溶解或いは分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過を行い、実施例1〜8及び参考例1〜3のインクを調製した。
【0106】
【表1】

【0107】
[評価]
上記で得られたインクを用いて、下記の評価を行った。
【0108】
尚、印字物の作製には、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させる、オンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)を改造したものを用いた。プリンタドライバは、デフォルトモードを選択した。デフォルトモードの設定条件は下記の通りである。
・用紙の種類:普通紙
・印刷品質:標準
・色調整:自動
【0109】
(印字濃度)
実施例1〜8及び参考例1〜3の各インクを用いて、インク1ドット当たりの吐出量を30ng±10%以内に設定し、下記の5種の記録媒体に、2cm×2cmのベタ部を含む文字を印字した印字物を作製した。印字物を1日保存した後のベタ部の印字濃度を測定した。印字濃度の測定には、反射濃度計(商品名:マクベスRD−918;マクベス製)を用いた。
・PPC用紙オフィスプランナー(キヤノン製)
・PPC用紙GF−500(キヤノン製)
・PPC用紙4024(ゼロックス製)
・PPC用紙プローバーボンド(フォックスリバー製)
・キヤノン用PPC用紙(ノイジドラ製)
印字濃度の評価基準は下記の通りである。評価結果を表2に示す。
A:5種の記録媒体における印字濃度の平均が、1.45以上である。
B:5種の記録媒体における印字濃度の平均が、1.40以上1.45未満である。
C:5種の記録媒体における印字濃度の平均が、1.40未満である。
【0110】
(文字品位)
実施例1〜8及び参考例1〜3の各インクを用いて、数種類のフォントサイズの文字を印字した印字物を作製し、文字の滲み具合を目視により確認した。尚、印字物の作製には、オフィスプランナー(キヤノン製)を用いた。文字品位の評価基準は下記の通りである。評価結果を表2に示す。
A:文字の滲みがほとんど目立たない。
B:文字の滲みが多少あるが、実際の使用上問題のないレベルである。
C:文字の滲みが目立つ。
【0111】
(耐ブリード性)
耐ブリード性の評価を行うに当たり、カラーインク(シアン、マゼンタ、イエローの3色)を調製した。下記に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過を行い、各カラーインクを調製した。尚、下記のカラーインクの組成における、アセチレノールE−100(川研ファインケミカル製)は、上記構造式(2)で示されるアセチレンアルコール系界面活性剤である。
【0112】
(シアンインク)
DBL(ダイレクトブルー)199 3.5部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
アセチレノールE−100 1.0部
純水 80.5部
(マゼンタインク)
AR(アシッドレッド)289 2.5部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
アセチレノールE−100 1.0部
純水 81.5部
(イエローインク)
DY(ダイレクトイエロー)86 2.5部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
アセチレノールE−100 1.0部
純水 81.5部
【0113】
実施例1〜8及び参考例1〜3の各ブラックインク、及び上記で得られたカラーインクを用いて、図12又は図13に示す構成の記録ヘッドを有するように改造したインクジェット記録装置により、ブラックとカラー各色(イエロー、マゼンタ、シアン)のベタ部を隣接して印字した印字物を作製した。得られた印字物のブラックとカラー各色の境界部におけるブリードの程度を目視により観察した。尚、印字物の作製には、オフィスプランナー(キヤノン製)を用いた。耐ブリード性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表2に示す。
AA:ブリードを視認できない。
A :ブリードがほとんど目立たない。
B :ブリードしているが、実際の使用上問題のないレベルである。
C :色の境界線がはっきりしないほどブリードしている。
【0114】
【表2】

【0115】
表2より、印字濃度及び耐ブリード性は、実施例1〜8のインクを用いた場合、参考例1〜3のインクを用いた場合と比較して明らかに向上していることがわかる。又、耐ブリード性は、何れの実施例においても、図13に示す構成の記録ヘッドを用いた場合、図12に示す構成の記録ヘッドを用いた場合と比較して良好であることがわかる。又、文字品位は、実施例1〜8及び参考例1〜3共に遜色ないレベルであることがわかる。
【0116】
(耐水性)
実施例1〜8の各インクを用いて、ベタ部を含む文字を印字した印字物を作製した。印字から所定の時間が経過した後に、印字部分を流水にさらした際の地汚れの状態を目視により評価した。尚、印字物の作製には、下記の5種の記録媒体を用いた。
・PPC用紙オフィスプランナー(キヤノン製)
・PPC用紙GF−500(キヤノン製)
・PPC用紙4024(ゼロックス製)
・PPC用紙プローバーボンド(フォックスリバー製)
・キヤノン用PPC用紙(ノイジドラ製)
耐水性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示す。
AA:5種の記録媒体共に、印字後1時間以内で地汚れが目立たなくなる。
A :5種の記録媒体共に印字後1日以内で地汚れが目立たなくなる。
B :印字後1日以上経過した後にも地汚れが目立つ紙がある。
【0117】
(分散安定性:水分蒸発時における顔料の分散安定性)
実施例1〜8の各インクをそれぞれ開放系の容器に入れて、温度60℃で水分等を蒸発させ、一定量、例えば初期の質量の60%になるまで各インクを濃縮した。これは、より厳しい条件で分散安定性を評価することで、本発明にかかるインクが分散安定性に優れることを示すためである。そして濃縮したインクの粘度や顔料凝集物の生成度合いから、水分蒸発時における顔料の分散安定性を評価した。水分蒸発時における顔料の分散安定性の評価基準は下記の通りである。評価結果を表3に示す。
AA:放置前後でインクの粘度の変化及び顔料凝集物の生成が少ない。
A :放置前後でインクの粘度の変化又は顔料凝集物の生成があるが、実際の使用上問題のないレベルである。
B :放置前後でインクの粘度の変化が大きい、又は、顔料凝集物の生成がある。
【0118】
【表3】

【0119】
表3より、耐水性は、実施例2〜8のインクを用いた場合は、実際の使用上問題のないレベルであることがわかる。中でも特に、実施例5〜8のインクを用いた場合は、印字してから比較的短い時間で良好な耐水性が発現した。又、水分蒸発時における顔料の分散安定性は、実施例6〜8のインクを用いた場合、実際の使用上問題のないレベルであることがわかる。中でも特に、実施例7及び8のインクを用いた場合、水分蒸発時における顔料の分散安定性が特に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】インクジェット記録装置ヘッドの縦断面図である。
【図2】インクジェット記録装置ヘッドの縦横面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図5】インクカートリッジの縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図8】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図9】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図10】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図11】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図12】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【図13】本発明に用いる記録ヘッドの一例である。
【符号の説明】
【0121】
13 記録ヘッド
14 インクノズル
15 発熱素子基板
16 保護層
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
21 インク
22 吐出オリフィス(微細孔)
23 メニスカス
24 インク滴
25 記録媒体
26 マルチノズル
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
40 インク袋
42 栓
44 インク吸収体
45 インクカートリッジ
51 紙給部
52 紙送りローラー
53 排紙ローラー
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
68 モーター
69 ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基板
85 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子の表面に−R−(COOM基が結合している自己分散型顔料、及び塩を含有することを特徴とする水性インク。
(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)
【請求項2】
前記−R−における、−(COOM)が結合している炭素原子に隣接する炭素原子が、−(COOM)を結合してなる請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記nが、2である請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記Rが、Cである請求項1〜3の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項5】
前記Mが、アンモニウムである請求項1〜4の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項6】
前記塩が、(M)NO、CHCOO(M)、CCOO(M)、C(COO(M))、C(COO(M))及び(MSOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5の何れか1項に記載の水性インク。(式中、Mはアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)
【請求項7】
前記Mが、アンモニウムである請求項6に記載の水性インク。
【請求項8】
前記塩が、NHNO、C(COONH、C(COONH及び(NHSOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項9】
前記塩が、C(COO(M))、C(COO(M))及び(MSOからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項10】
前記水性インクが、インクジェット用である請求項1〜9の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項11】
インクをインクジェット法で吐出する工程を有するインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1〜10の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項12】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、請求項1〜10の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項13】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドを備えた記録ユニットにおいて、前記インクが、請求項1〜10の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項14】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが、請求項1〜10の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項15】
ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて普通紙にインクジェット記録方式で記録を行う画像形成方法において、ブラックインクに請求項1〜10の何れか1項に記載の水性インクを用い、且つ前記ブラックインクによって形成される画像と、カラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、前記画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする画像形成方法。
【請求項16】
ブラックインクを付与する走査を行った後、少なくとも1走査分、間を空けた後にカラーインクを付与する走査を行う請求項15に記載の画像形成方法。
【請求項17】
ブラックインクを吐出させるための吐出口列と、カラーインクを吐出させるための吐出口列が副走査方向にずれて配置されている記録ヘッドを用いてインクの付与を行う請求項15又は16に記載の画像形成方法。
【請求項18】
顔料粒子の表面に−R−COOn−基が結合している自己分散型顔料、及び、Mを含有し(式中、Rはアルキレン基又は芳香環であり、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムであり、nは2以上の整数である。)、更に、NO、CHCOO、CCOO、C(COO、C(COO及びSO2−からなる群から選ばれる少なくとも1種、及び、M(式中、Mはアルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムである。)、を含有することを特徴とする水性インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−89735(P2006−89735A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244276(P2005−244276)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】