説明

水性インク

【課題】普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高く、かつ分散安定性の良好な水性インクを提供する。
【解決手段】自己分散顔料と水とを含有し、表面張力が34mN/m以下である水性インクであって、該自己分散顔料は8.0以下のpKaを複数有し、該複数のpKaの中で最も値が小さいpKaをpKa、該複数のpKaの中で最も値が大きいpKaをpKaとしたときに、pKaとpKaとが式(1)の関係を満たし、該水性インクのpHが式(2)を満たすことを特徴とする水性インク。
式(1)2.0≦pKa2−pKa1
式(2)pKa2−1.5≦pH≦pKa2+0.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式等で記録媒体に付与される水性インクには、普通紙への高い浸透性が求められている。また、普通紙で得られる記録画像が高い画像濃度を有することが求められている。
【0003】
このような要求に対して、特許文献1には、色材としてホスホン酸型の自己分散顔料を用い、表面張力が34mN/m以下の超浸透型の水性インクが記載されている。かかる水性インクは、色材とインク中で併用される有機カルボン酸のアンモニウム塩等との相乗効果によって、インクが普通紙に着弾した後の固液分離を良好に行うものである。これにより、インクの普通紙への浸透性を高くしながらも、色材を普通紙の表層に留めて記録画像の画像濃度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/014242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の水性インクは、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度の点では良好であるものの、インクの分散安定性との両立という点でさらなる改良の余地があった。
【0006】
従って、本発明は、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高く、かつ分散安定性の良好な水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、自己分散顔料と水とを含有し、表面張力が34mN/m以下である水性インクであって、該自己分散顔料は8.0以下のpKaを複数有し、該複数のpKaの中で最も値が小さいpKaをpKa、該複数のpKaの中で最も値が大きいpKaをpKaとしたときに、pKaとpKaとが下記式(1)の関係を満たし、該水性インクのpHが下記式(2)を満たすことを特徴とする水性インクである。
式(1) 2.0≦pKa−pKa
式(2) pKa−1.5≦pH≦pKa+0.5である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性インクは、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高く、かつ分散安定性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】自己分散顔料の解離状態を表す図である。
【図2】水性インクの普通紙での固液分離の状態を表す図である。
【図3】記録ドットの形成方法の一例を示す図である。
【図4】記録ヘッドの一例を示す図である。
【図5】インクジェット記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、水性インク中の色材として自己分散顔料を用いる場合について検討を行った。自己分散顔料に結合している親水性基の解離状態は、インクのpHに応じて変化する。そこで、特定の自己分散顔料を有するインクのpHを調整することにより、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高く、かつ分散安定性の良好なインクの作製が可能になることを見出した。
【0011】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0012】
<水性インク>
本発明の水性インクは、色材として自己分散顔料を用いる。自己分散顔料を用いることで、例えば樹脂分散方式の顔料を用いた場合と比較して、記録媒体への付与後にスムーズに固液分離し、顔料自体が普通紙に深く浸透しにくくなり、画像濃度が非常に高くなる。
【0013】
自己分散顔料は、基本的には分散剤を必須とせず、親水性基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合し、水溶性化した顔料である。水溶性化する前の顔料としては、例えばWO2009/014242号公報に列挙されているような、従来公知の様々な顔料を用いることができる。このような顔料を原料とした自己分散顔料に導入する親水性基は、顔料の表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を顔料表面と親水性基との間に介在させて顔料表面に間接的に結合させてもよい。
【0014】
表面に直接あるいは他の原子団を介して親水性基が結合した自己分散顔料は、特定のpHの下で親水性基中の解離基のプロトンが解離する。これにより、樹脂や界面活性剤等の分散剤を使用しなくとも、インク中で安定に分散する。
【0015】
本発明の自己分散顔料は、8.0以下のpKaを複数有する。さらに、該複数のpKaの中で最も値が小さいpKaをpKa、該複数のpKaの中で最も値が大きいpKaをpKaとしたときに、pKaとpKaとが下記式(1)の関係を満たすようにする。
式(1) 2.0≦pKa−pKa
【0016】
さらに、かかる自己分散顔料を含有する水性インクのpHを調整することで、普通紙への浸透性及び得られる記録画像の画像濃度が高く、かつ分散安定性の良好な水性インクとすることができる。
【0017】
自己分散顔料が複数のpKaを有する場合、以下の2つの態様がある。1つは、自己分散顔料が1種類の親水性基を有し、この1種類の親水性基が複数のpKaを有している態様である。もう1つは、自己分散顔料が2種類以上の親水性基を有し、各親水性基が互いに異なるpKaを有している態様である。前者の親水性基としては、例えば以下のような親水性基が挙げられる。即ち、−PO(M)、−Ph(COOM)、(但し、式中のPhはフェニル基を、Mは、それぞれ独立して水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムから選ばれる1種を表す。nは2又は3を表す。)である。尚、ホスホン酸のpKaは7.20及び2.15である。フタル酸のpKaは5.41及び2.95である。1,2,3−ベンゼントリカルボン酸のpKaは5.87、4.20、2.80である。これらを親水性基として顔料表面に導入した場合は、単体の場合との相違があるため実測する必要があるが、顔料のpKaは導入された親水性基のpKaから推測可能である。親水性基中の「M」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては、例えばメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム。モノヒドロキシメチル(エチル)アミン、ジヒドロキシメチル(エチル)アミン、トリヒドロキシメチル(エチル)アミン等が挙げられる。後者の親水性基の組み合わせとしては、例えば以下のような親水性基の組み合わせが挙げられる。メタンスルホン酸のPKaは−1.2、酢酸のpKaは4.76、ベンゼンスルホン酸のpKaは−2.5、安息香酸のpKaは4.2である。これらの親水性基のうち、pKaが2以上離れている親水性基の組み合わせとしては、例えばベンゼンスルホン酸と安息香酸との組み合わせが挙げられる。これらの親水性基のpKaを参考にして、自己分散顔料に導入する親水性基を決定する。
【0018】
図1に、自己分散顔料が1種類の親水性基を有し、この1種類の親水性基が複数のpKaを有する場合の親水性基の状態を示す。図1では、親水性基中、解離基XがpKaを有し、解離基YがpKaを有する。インク中の自己分散顔料の親水性基は、インクのpHに応じて図1に示す状態1〜3のいずれかの状態で存在すると考えられる。顔料が状態1、即ち解離基X、解離基Yともにプロトン化している状態では、顔料はインク中で安定して分散することができずに凝集し、沈降する。
【0019】
一方、状態3、即ち解離基X、解離基Yともに解離した状態では、顔料はインク中で非常に安定して分散することができる。しかし、顔料の分散安定性が高いため、インクが記録媒体に着弾した際に、顔料の凝集及び析出が速やかに起こりづらい。そのため顔料は普通紙深部に浸透して定着し、画像濃度が低下する。図2(a)にその模式図を示す。特に表面張力が34mN/m以下であるような超浸透型の水性インクの場合、普通紙中への浸透速度が速いため、この現象がより顕著に現れ、画像濃度は大きく低下する。即ち、セルロース繊維5に着弾した水性インク4は、速やかに顔料6とインク7とに固液分離せず、顔料6が普通紙深部へと浸透して定着する。
【0020】
これらに対し、解離基Xのみが解離し、解離基Yがプロトン化している状態2では、以下のような特徴を示す。まず、解離基Xが解離しているため、インク中では顔料は安定に分散可能である。さらに、解離基Yがプロトン化されているため、普通紙への着弾後速やかに固液分離が生じ、次いで顔料の凝集及び析出が進行して、普通紙表層に定着する。この結果、得られる記録画像の画像濃度が高濃度となる。この状態の模式図を図2(b)に示す。セルロース繊維5に着弾した水性インク4は、速やかに顔料6とインク7とに固液分離し、顔料6は普通紙表層に定着する。
【0021】
以上のように、本発明者らは、図1の状態2及び3の自己分散顔料がある一定の割合で混在することにより、分散安定性と高記録濃度の両立が可能となることを見出した。このような状態にするため、本発明においては、水性インクのpHは、下記式(2)を満たすように調整する。
式(2) pKa−1.5≦pH≦pKa+0.5
【0022】
水性インクのpHがpKa−1.5より低くなると、インク中の顔料は状態1の顔料が支配的になり、インクとしての分散安定性が不足し、凝集、沈降が発生する場合がある。また、水性インクのpHがpKa+0.5を超えると、インク中の顔料は図1に示す状態3の顔料が支配的になり、画像濃度が低下する傾向となる。また、水性インクのpHをpKa−1.5に調整した際に分散安定性を確保するには、水性インクpHがpKaよりも充分に高い必要がある。そのため、2.0≦pKa−pKaとする必要がある。さらに、分散安定性と記録濃度の両立のためには、インクpHは中性または酸性であることが好ましい。そのため、本発明におけるpKaは8.0以下である必要がある。
【0023】
上述のように、上記親水性基と顔料の間には、他の原子団を介在させてもよい。介在させる他の原子団の具体例としては、例えば、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換のナフチレン基等が挙げられる。フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0024】
本発明の自己分散顔料の平均粒子径は、液中での動的光散乱法により求められた平均粒子径で、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは75nm以上である。また、好ましくは145nm以下であり、より好ましくは140nm以下、さらに好ましくは130nm以下である。具体的な平均粒子径の測定方法としては、レーザ光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)やナノトラックUPA−EX150(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定できる。
【0025】
以上の自己分散顔料のインク中への添加量は、インク全量に対して好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。また、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、さらに好ましくは8.0質量%以下である。
【0026】
インクpHの調整方法としては特に限定されるものではなく、酸性側へ調整する場合は、例えば酢酸、プロピオン酸、フタル酸、及び安息香酸等の有機カルボン酸類、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、及びベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類、リン酸、硫酸、塩酸、及び硝酸等の無機酸、又はこれらの混合物を用いることができる。アルカリ性側へ調整する場合は、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、ジヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリエタノールアンモニウム等の有機アンモニウム、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0027】
本発明の水性インクは、水性インクのpH以下のpKaを有する有機酸または無機酸、もしくはこれらの塩を含有していることが好ましい。これにより、得られる記録画像の画像濃度を高めることができる。この理由は以下のように考えられる。有機酸、無機酸、またはこれらの塩(以下有機酸等とする)を含有させたインクは、インクが普通紙へ打ち込まれた後、自己分散顔料と有機酸等が相乗的に作用し、自己分散顔料と水性媒体との間で固液分離を顕著に発生させる。この結果、顔料が普通紙表層に定着し、画像濃度が高くなる。また、インクが普通紙へ到着してから定着するまでの時間が短くなるため、にじみを抑制することができ、小文字印刷時の文字品位が向上する。さらに、普通紙表面に点在するサイズ剤を隠蔽する力が強くなり、所謂ベタ記録部の白抜け現象を防ぐ効果が認められる。この効果は、水性インク中で有機酸等が解離している必要がある。そのため、添加する有機酸等のpKaが水性インクのpHより低いことが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フタル酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、タルトロン酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸等の有機カルボン酸等が挙げられる。中でも酢酸、フタル酸、安息香酸が好ましい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。有機酸等が塩の形の場合、塩となる対イオンとしては、自己分散顔料の対イオンの場合と同様に、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウム等が利用できる。対イオンとしてのアルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては、次のものが挙げられる。例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、ジヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリエタノールアンモニウム等である。中でもアンモニウムが特に好ましい。
【0028】
上記有機酸等のインク中への添加量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上である。また、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
【0029】
本発明の水性インクは、水を含有するものである。インク中の水の含有量は、インク全質量に対して、30質量%以上であることが好ましい。また、95質量%以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の水性インクは、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有することが好ましい。さらに紙種によっては、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物と0.37以上の水溶性化合物を併有することが好ましい。この場合、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上含有する形態とすると、より好ましい態様となる場合がある。
【0031】
【数1】

【0032】
式中の水分活性値とは、
水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)
で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON社製)を用いて、各水溶性化合物の20%水溶液を25℃で測定したものである。ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性化合物の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
【0033】
本発明者らは、インクに含有される水溶性化合物の親水性、あるいは疎水性の程度が、自己分散顔料と水性媒体との固液分離の推進、さらに、各種インク性能に及ぼす影響が大きいものと着眼した。このことから、式(A)に示す親疎水度係数という係数を定義した。水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性化合物の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、あるいは疎水性の程度の相対比較が可能である。また水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。水溶性化合物の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示す。ただし、本発明の水溶性化合物は、これらにのみ限定されるものではない。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明者らは、親疎水度係数の異なる水溶性化合物がインク中に含まれた場合の、水溶性化合物と各種インク性能との関係を検討した結果、以下の知見を得た。2色間のブリーディングや文字の太りといった小文字の印字特性は、本発明の自己分散顔料を含有したインクの場合、親疎水度係数が0.26以上の親水的傾向の小さい水溶性化合物を用いると、極めて良好となった。中でもグリコール構造における親水基に置換された炭素数以上に、親水基に置換されていない炭素数を有するグリコール構造の類は、特に好ましいものであった。これらの水溶性化合物は、インクが紙に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料の固液分離を強力に推進する役割があるためと考えられる。また、この中でも、特に式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物として、トリメチロールプロパンが特に好ましい。また0.37以上の水溶性化合物としては炭素数4〜7の炭化水素のグリコール構造を有するものが好ましく、中でも、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールが特に好ましい。また親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上用いる際、親疎水度係数が、0.1以上の差があることが好ましい。
【0036】
水溶性化合物のインク中での含有量は、合計で好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上、さらに好ましくは7.0質量%以上である。また、好ましくは40.0質量%以下、より好ましくは35.0質量%以下、さらに好ましくは30.0質量%以下である。
【0037】
本発明の水性インクは、よりバランスのよい吐出安定性を得るために、インク中に界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤の中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、好ましくはインク中に0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。
【0038】
また、本発明の水性インクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、浸透剤等を添加することができる。
【0039】
本発明に使用するインクの表面張力は、34mN/m以下である。このインクの表面張力は、33mN/m以下であることがより好ましく、32mN/m以下であることがさらに好ましい。また、27mN/m以上であることが好ましく、28mN/m以上であることがより好ましく、29mN/m以上であることがさらに好ましい。インクの表面張力をこの範囲に制御することで、高いインク吸収性が実現でき、本発明の水性インクの効果が最大限に発揮される。
【0040】
インクジェット専用紙である光沢紙やマット紙は、普通紙と異なり、多孔質のインク受容層が紙表面に形成されているため、インクの表面張力の影響をほとんど受けずに、速やかにインクの浸透が進行する。しかし、普通紙は、撥水効果のあるサイズ剤が内添及び/または外添されているため、インクの浸透が阻害される場合が多い。即ち、普通紙は、インクにより速やかに表面を濡らすことができるかどうかの指標である臨界表面張力が、インクジェット専用紙よりも低い。インクの表面張力が34mN/mより高い場合は、普通紙の臨界表面張力より高いこととなるので、インクが紙に着弾しても、すぐには濡れず速やかに浸透を開始することはない。また、インクの表面張力が高い場合は、紙との濡れ性を多少向上させて、インクと紙との接触角を低減させても、高速には定着しにくい。さらに、定着性が劣化する傾向にある。インクの表面張力34mN/m以下の場合は、ポア吸収が主体となり、34mN/mより高いとファイバー吸収が主体となる。これら2タイプの吸収によるインクの紙への吸収速度は、ポア吸収の方が圧倒的に速い。そこで本発明では、ポア吸収が主体となるインクとすることによって、高速定着を実現している。ポア吸収が主体となるインクは、異色の2種類のインクを隣接させて記録した場合のブリーディングを抑制する点でも有利である。これは、紙表面で2種類のインクが同時に滞留することが抑制されるためである。また、高い画像濃度を得る点でも有利である。
【0041】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、インクジェット方式により1回に付与するインクを、0.5pl以上、6.0pl以下の定量とするインクジェット画像形成方法である。好ましくは1.0pl以上であり、より好ましくは1.5pl以上である。また、好ましくは5.0pl以下であり、より好ましくは4.5pl以下である。0.5pl未満の場合は、画像の定着性、耐水性に劣る場合があるので好ましくない。6.0plを越えると、2ポイント(1ポイント≒0.35mm)から5ポイント程度の小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれる場合がある。
【0042】
インクの吐出体積は、インクの裏抜けに大きく影響することから、両面印刷への適用の点でも重要である。普通紙には、一般的に、0.5μmから5.0μmを中心として、0.1μmから100μmの大きさの細孔が分布している。尚、本発明において普通紙とは、プリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙や、ボンド紙等のことを言う。普通紙への水性インクの浸透現象としては、普通紙のセルロース繊維自身にインクが直接吸収されて浸透するファイバー吸収と、セルロース繊維間に形成される細孔(ポア)に吸収されて浸透するポア吸収に大きく分けられる。本発明で用いられるインクはポア吸収が主体となるインクである。このため、本発明で用いられるインクが普通紙に付与され、普通紙表面に存在する10μm程度以上の大きめな細孔にインクの一部が接触すると、Lucas−Washburnの式にしたがって、インクは大きめな細孔に集中して吸収され、浸透する。結果、この部分は特に深くインクが浸透することになるので、普通紙での高発色の発現において極めて不利となる。一方、インクが小さくなるほど、一滴のインク当りの大きめな細孔への接触確率は低くなるので、大きめな細孔へ集中して吸収されにくい。さらに、たとえ大きめな細孔への接触しても、インクが小さければ、深く浸透するインクは少量で済むことになる。この結果、普通紙上で得られる画像は高発色となる。
【0043】
本発明において定量のインクとは、記録ヘッドを構成するノズルの構造を各ノズル間で異ならせず、付与する駆動エネルギーを変化させる設定をしていない状態で吐出されたインクを意味する。即ち、このような状態であれば、装置の製造誤差等による僅かな吐出のばらつきがあっても、付与されるインクは定量である。付与されるインクを定量とすることにより、インクの浸透深さが安定し、記録画像の画像濃度が高く、画像の均一性が良好となる。逆に、付与されるインクの量を変化させることを前提としたシステム等によると、インクは定量ではなく、異なった体積のインクが混在するため、インクの浸透深さのばらつきが大きくなる。特に記録画像の高デューティー部では、浸透深さのばらつきのため、記録画像の画像濃度が低い箇所が存在する等、画像の均一性が良好でなくなる。
【0044】
インクの定量化に適した付与方式としては、インクの付与を熱エネルギーの作用により行なうサーマルインクジェット方式が、吐出のメカニズムの点で好ましい。即ち、サーマルインクジェット方式は、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像は高濃度で、均一性が良好となる。さらに、サーマルインクジェット方式は、圧電素子を用いてインクを付与する方式に比べて多ノズル化と高密度化に適しており、高速記録にも好適である。
【0045】
デューティーを算出する部分は、最小で50μm×50μmである。80%デューティー以上の部分を有する画像とは、デューティーを算出する部分のマトリクス中の格子のうち、80%以上の格子にインクが付与されて形成される部分を有する画像である。格子の大きさは、基本マトリクスの解像度によって決定される。例えば、基本マトリクスの解像度が1200dpi×1200dpiの場合、1つの格子の大きさは、1/1200inch×1/1200inchである。
【0046】
基本マトリクス中の80%デューティー以上となる部分を有する画像とは、基本マトリクス中に1色のインクで80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これらの少なくとも1色により、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。一方、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有していない画像は、着弾したインク間の重なりが比較的少なく、印字プロセスの工夫をしなくとも、文字のつぶれやブリーディング等の問題が生じない場合も多い。
【0047】
本発明の基本マトリクスは、記録装置等により自由に設定できる。基本マトリクスの解像度としては、600dpi以上が好ましく、1200dpi以上がより好ましい。また、4800dpi以下が好ましい。解像度は、この範囲内にあれば、縦と横が同一であっても異なっていてもよい。
【0048】
本発明の水性インクは、分割しないでインクを付与するシングルパス方式の印字を行っても高い濃度の記録画像を得ることが可能である。しかし、インク分割して付与する分割付与方式で画像を形成すれば、水性インクの特性と記録方法とが相乗的に作用し、さらに高い濃度の記録画像を得ることが可能となる。この場合には、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成をする際に、インクの付与を2回以上の分割回数に分割することが好ましい。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量は、0.7μl/cm以下、好ましくは0.6μl/cm以下、より好ましくは0.5μl/cm以下である。このような記録方法を行うことで高い画像濃度を得ることができ、さらに裏抜けや文字のつぶれ、ブリーディングを抑制することが可能となる。
【0049】
本発明において、同一色のインクの付与を2回以上の分割回数に分割して記録する際に、基本マトリクスへのインクの付与開始から付与終了までの時間は、1msec以上、200msec以下であることが好ましい。この条件で印字することにより、発色性及び小文字の文字品位の向上が顕著にみられる。これは、複数回に分割して印字する際に、基本マトリクスへ最初にインクが付与されてから、最後にインクが付与されるまでに、一定の時間を空けることが好ましいことを示している。この理由は以下のように考えられる。即ち、最初のインク滴が普通紙に十分に定着する前に最後のインク滴が着弾すると、各インク滴同士が結合し、大きな液滴を形成する(ビーディング)。その大きな液滴が普通紙上の大きめな細孔から深く浸透してしまうので発色性が低下する。また、その大きなインク滴は普通紙の中で繊維の方向に沿って横方向にも広がるため文字のシャープさが失われてしまう。本発明では、インクの付与を複数回に分割して記録し、基本マトリクスへの同一色のインクの付与開始から終了までの時間を1msec以上、200msec以下に設定する。これにより、インク滴が記録媒体に着弾してから固液分離するまでの十分な時間をとることができ、画像濃度及び文字品位が向上すると考えられる。
【0050】
また、同一色のインクの付与を3回以上の分割回数に分割して記録する場合、それぞれの回の付与時間差を1msec以上空けることが好ましい。この条件で記録することで、各インク滴同士が結合して生じる画像濃度の低下及び文字品位の劣化が軽減される。基本マトリクスへの同一色のインクの付与開始から付与終了までの時間を200msecより長い時間に設定しても、発色性向上効果が少ないため、本発明では高速印刷を達成するために、上限を200msecとしている。基本マトリクスへの同一インクの付与開始から終了までの時間の下限は1msecであるが、好ましくは3msec以上、より好ましくは6msec以上、さらに好ましくは10msec以上である。基本マトリクスへの同一色のインクの付与開始から付与終了までの時間をこのように設定することにより、本発明で使用するインクの効果を最大に引き出すことができる。即ち、高い画像濃度且つ高品質な画像を得ることが可能で、高速でのインクジェット記録が実現する。
【0051】
インクの付与を2回以上の分割回数に分割する手法としては、シリアル型とライン型に大別される。シリアル型を例にすると、例えばベタ印字を2分割で印字する場合、記録媒体に対して記録ヘッドが2回通過(2パス)する事となる。分割付与に際して、1回当りの付与量は等量のインクを付与する事が多いが、本発明はこれに限るものではない。2パスで印字する際に、1パス目に記録媒体に対し50%相当のインクを、2パス目に残部の記録媒体部位に残りの50%相当のインクを付与し100%ベタ印字をする場合のドットの着弾位置の配列例を図3に示した。図3において、第1のインク、第2のインクは、それぞれ定量である。
【0052】
以上のシリアル型の分割付与方法に加えて、本発明では記録媒体に対して記録ヘッドが1回通過する1パスで図3と同様の位置へのドットを2分割して印字するライン型にも対応している。例えば、1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様として、図4に例示した記録ヘッドを用いる例が挙げられる。カラーのヘッド構成例を述べると、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出する態様となる。この例は、ブラックインクを2ノズル列に分割して、実質的に1パスで付与する場合のヘッドの構成例である。同様にしてヘッドのノズル列数やインクの搭載数の構成を変えることで、様々なインクを被記録ディアに対して記録ヘッドが1回通過する1パスで2回以上の分割回数に分割印字する事が可能である。つまり分割しないでインクを付与するシングルパス方式と同じ時間内に2回以上の分割回数に分割付与することが可能になる。
【0053】
<インクジェット記録装置>
次に、本発明に好適なインクジェット記録装置を説明する。本発明に好適な装置としては、0.5pl以上6pl以下の定量のインクをインクジェット方式で付与する記録ヘッドを搭載したものである。本願発明のインクジェット記録装置の記録ヘッドは、インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドであることが好ましい。このような記録ヘッドは、圧電素子を用いてインクを吐出させる記録ヘッドに比べてノズルの高密度化に適している。さらに、インクを定量とすることに優れているので、インクの浸透深さのばらつきを抑え、記録画像の均一性を良好とする点で優れている。
【0054】
インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドの代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書、米国特許第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行なうものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。これらの中ではオンデマンド型のものが有利である。すなわち、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号が印加される。この印加によって、電気熱変換体に熱エネルギーが発生させ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応したインク内の気泡を形成することができる。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるのでインクが定量であり、応答性にも優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
【0055】
図5は、本発明に係るインクジェット記録装置の一実施態様の概略を示す正面図である。キャリッジ20には、インクジェット方式の複数の記録ヘッド211〜215が搭載されている。また、記録ヘッド211〜215にはインクを吐出するためのインク吐出口が複数配列されている。1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様では、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出するための本発明の記録ヘッド例である。インクカートリッジ221〜225は、記録ヘッド211〜215、及びこれらにインクと供給するためのインクタンクとから構成されている。40は、濃度センサである。濃度センサ40は反射型の濃度センサであり、キャリッジ20の側面に設置された状態で、記録媒体に記録されたテストパターンの濃度を検出できる構成となっている。記録ヘッド211〜215への制御信号等は、フレキシブルケーブル23を介して転送される。普通紙等のセルロース繊維の露呈した記録媒体24は、不図示の搬送ローラを経て排紙ローラ25に挟持され、搬送モータ26の駆動に伴い矢印方向(副走査方向)に搬送される。ガイドシャフト27、及びリニアエンコーダ28により、キャリッジ20は案内支持されている。キャリッジ20は、キャリッジモータ30の駆動により、駆動ベルト29を介して、ガイドシャフト27に沿って主走査方向に往復運動される。記録ヘッド211〜215のインク吐出口の内部(液路)には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する発熱素子(電気・熱エネルギ変換体)が設けられている。リニアエンコーダ28の読みとりタイミングに伴い、上記発熱素子を記録信号に基づいて駆動し、記録媒体上にインク滴を吐出し、付着させることで画像を形成する。記録領域外に配置されたキャリッジ20のホームポジションには、キャップ部311〜315を持つ回復ユニット32が設置されている。記録を行なわないときには、キャリッジ20をホームポジションに移動させて、記録ヘッド211〜215のインク吐出口面をそれぞれが対応するキャップ311〜315によって密閉する。これにより、インク溶剤の蒸発に起因するインクの固着あるいは塵埃等の異物の付着等による目詰まりを防止することができる。また、キャップ部のキャッピング機能は、記録頻度の低いインク吐出口の吐出不良や目詰まりを解消するために利用される。具体的には、キャップ部は、インク吐出口から離れた状態にあるキャップ部へインクを吐出させる吐出不良防止のための空吐出に利用される。更に、キャップ部は、キャップした状態で不図示のポンプによりインク吐出口からインクを吸引して吐出不良を起こした吐出口の吐出回復に利用される。インク受け部33は、記録ヘッド211〜215が記録動作直前に上部を通過する時に、予備的に吐出されたインク滴を受容する役割を果たす。また、キャップ部に隣接した位置に不図示のブレード、拭き部材を配置することにより、記録ヘッド211〜215のインク吐出口形成面をクリーニングすることが可能でとなっている。以上説明したように、記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは、記録動作を一層安定にできるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段等がある。また、記録とは別の吐出を行なう予備吐出モードを備えることも安定した記録を行なうために有効である。
【0056】
加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いてもよい。さらに、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
【0057】
図4は、記録ヘッド211〜215の構成図である。図において、記録ヘッド211〜215の記録走査方向は、図の矢印で示した方向とする。各記録ヘッド211〜215には、記録走査方向と略直行する方向に配列した複数のノズルの吐出口が配備されている。記録ヘッドは、図の記録走査方向へ移動走査しながら、各吐出口より所定のタイミングでインク滴を吐出する。これにより、記録媒体には、ノズルの配列密度に応じた記録解像度で画像が形成される。この際、記録ヘッドは、記録走査方向のどちらの方向で記録動作を行ってもよい。また、往復のどちらで記録動作を行ってもよい。
【0058】
また、以上の実施形態は記録ヘッドを走査して記録を行なうシリアルタイプの記録装置であるが、記録媒体の幅に対応した長さを有する記録ヘッドを用いたフルラインタイプの記録装置であっても良い。フルラインタイプの記録ヘッドとしては、シリアルタイプの記録ヘッドを千鳥状や並列に配列させて、長尺化し、目的の長さとする構成がある。あるいは、当初より長尺化したノズル列を有するように、一体的に形成された1個の記録ヘッドとした構成でもよい。
【0059】
上記のシリアルタイプやラインタイプの記録装置は、独立化あるいは一体的に形成された4色インク(Y、M、C、K)を用いて、ブラックインクのみを2分割付与するためにブラックインク211ノズルと215ノズルそれぞれに設けた5吐出口列(またはノズル列)構成のヘッドを搭載した例である。また4吐出口列数(またはノズル列数)を用いて分割回数を2〜12程度にする際の好適な態様として、4色インク(Y,M,C,K)の少なくとも1種については、同色のインクを複数の吐出口列(またはノズル列)に重複して搭載する形式も好ましい。例えば、4吐出口列数(またはノズル列)のヘッドを2個ないし3個重ねてつなげた8吐出口列(またはノズル列)構成や12吐出口列(またはノズル列)構成等も挙げられる。
【0060】
本発明のインクジェット記録装置は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を2以上の分割回数に分割して行なう。また、分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm以下とする。本発明のインクジェット記録装置は、かかる分割付与を行なうための制御機構を有する。この制御機構により、インクジェット記録ヘッドの動作と、普通紙の紙送り動作のタイミングを制御し、かかる分割付与を行なう。
【実施例】
【0061】
本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の記載で「部」或いは「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、水性インクの表面張力は、CBVP−Z(協和界面科学製)で測定した。自己分散顔料の平均粒子径は、ナノトラックUPA−150EX(日機装製)で測定した。
【0062】
本実施例においては、自己分散顔料として、下記の方法で製造した自己分散顔料Aと、市販の自己分散顔料分散液(商品名;CAB−O−JET400、キャボット社製)が含有する自己分散顔料Bとを用いた。
【0063】
<自己分散顔料Aの製造>
比表面積が220m/gでDBP吸油量が105ml/100gのカーボンブラック100gと、4−アミノフタル酸45.1gとを水720gによく混合した後、これに硝酸16.2gを滴下して70℃で攪拌した。10分後、50gの水に10.7gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、さらに1時間攪拌した。得られたスラリーを濾紙(商品名:東洋濾紙No.2;アドバンティス社製)で濾過し、濾取した顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた。以上の方法により顔料Aを得た。続いて、イオン交換水中に顔料Aを濃度が10%となるように添加後、アンモニア水溶液にてpH7.5とした。さらにプレフィルター及び1μmフィルターを併用して濾過し、カーボンブラックの表面に化学式(1)で表される親水性基を導入した自己分散顔料Aを含有する自己分散顔料分散液を得た。
【0064】
【化1】

【0065】
自己分散顔料Aを含有する自己分散顔料分散液と、自己分散顔料Bを含有するCAB−O−JET400とを、798MPT Titrino(Metrohm社製)を用いて中和滴定を行い、pKa測定を行った。具体的には、自己分散顔料Aを含有する自己分散顔料分散液及びCAB−O−JET400に、水酸化カリウムを添加してpH10に調整した後、0.1Mの塩酸を用いて中和滴定を行った。この結果、自己分散顔料Aは、pH2.9(pKa)及び5.9(pKa)に酸解離定数(pKa)を示した。一方、自己分散顔料Bは、pH2.5(pKa)及び6.1(pKa)に酸解離定数(pKa)を示した。
【0066】
次に本発明の実施例及び比較例の水性インクの調整方法を示す。水はイオン交換水を用いた。
【0067】
<水性インク1の調整>
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して、水性インク1を得た。表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。インクのpHは酢酸により5.6に調整した。
・自己分散顔料B:5部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・水:残部
【0068】
<水性インク2の調整>
インクのpHを酢酸により6.6にした以外は水性インク1と同様な処理をして水性インク2を得た。表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0069】
<水性インク3の調整>
インクのpHを塩酸により5.6にした以外は水性インク1と同様な処理をして水性インク3を得た。表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0070】
<水性インク4の調整>
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して、水性インク4を得た。表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。インクのpHは塩酸により5.6に調整した。
・自己分散顔料B:5部
・安息香酸アンモニウム:0.7部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・水:残部
【0071】
<水性インク5の調整>
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して、水性インク5を得た。表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。インクのpHは塩酸により5.6に調整した。
・自己分散顔料B:5部
・硫酸ナトリウム:0.36部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・水:残部
【0072】
<水性インク6の調整>
pH調整剤を投入しなかった以外は水性インク1と同様な処理をして水性インク6を得た。インクのpHは8.2、表面張力は30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0073】
<水性インク7の調整>
インクのpHを酢酸により4.5に調整した以外は水性インク1と同様な処理をして水性インク7を得た。表面張力は30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0074】
<水性インク8の調整>
以下の全構成成分を合計100部とし、2時間混合後、2.5μmのフィルターを用いてろ過して、水性インク5を得た。表面張力は、30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。インクのpHは塩酸により5.6に調整した。
・自己分散顔料A:5部
・安息香酸アンモニウム:0.7部
・トリメチロールプロパン(親疎水度係数 0.31):15部
・1,2−ヘキサンジオール(親疎水度係数 0.97):5部
・イソプロピルアルコール:1部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物
(商品名:オルフィンE1010、日信化学工業製、HLB値10以上):1部
・水:残部
【0075】
<水性インク9の調整>
pH調整剤を投入しなかった以外は水性インク8と同様な処理をして、水性インク9を得た。インクのpHは7.0、表面張力は30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0076】
<水性インク10の調整>
インクのpHを塩酸により4.0に調整した以外は水性インク8と同様な処理をして、水性インク10を得た。インクのpHは7.0、表面張力は30.0mN/m、自己分散顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0077】
<評価>
<実施例1〜6、比較例1〜4>
分散安定性及び画像濃度について、以下の評価を行った。
【0078】
(分散安定性)
水性インク1〜10を用いて、以下に示す条件で水性インクの分散安定性を評価した。評価方法としてはインクを攪拌した後、静置し、30分後のインクの状態を目視により以下の基準で判定した。
A;顔料の凝集沈降は観察されなかった。
B;顔料の凝集沈降が観察された。
【0079】
(画像濃度)
水性インク1〜6、8、9を用いて、以下に示す条件で記録画像を形成した。
・インクジェット記録装置;F930(キヤノン製。記録ヘッド;6吐出口列、各512ノズル。インク量4.0pl(定量)、解像度最高1200dpi(横)×1200dpi (縦))
・記録媒体;PPC用紙SW−101(キヤノン製)及びPPC用紙Xerox4200 (ゼロックス製)。
・画像形成方法(1回付与);一種類毎にインクをプリンタのブラックインクヘッド部に搭載して、100%デューティーのベタ画像を分割付与せずに印刷した。1回あたりのインク付与量は、1.0μl/cmとした。
・画像形成方法(分割付与);2分割付与で印字する際は、特に記載の無い限り、一種類毎にインクをプリンタのブラックインクヘッド部とシアンインクヘッド部に搭載して、100%デューティーのベタ画像を印刷した。このときのブラックインクヘッド部とシアンインクヘッド部から吐出されるインクの時間差は12msecであった。1回あたりのインク付与量(各ヘッド部からの吐出量)は、0.5μl/cmの等量で、2回の合計付与量は、1.0μl/cmとした。
【0080】
形成した画像の画像濃度を、濃度計(マクベスRD915:マクベス社製)にて測定した。自己分散顔料Bを用いた水性インク1〜7の測定結果を表2に、自己分散顔料Aを用いた水性インク8〜10の測定結果を表3に示す。尚、表2中の画像濃度は、インク6を用いた比較例1の各記録媒体へシングルパス(1回付与)で画像形成を行った際の記録画像の画像濃度を1.00とした際の相対値である。表3中の画像濃度は、インク9を用いた比較例3の各記録媒体へシングルパスで画像形成を行った際の記録画像の画像濃度を1.00とした際の相対値である。尚、比較例1において、シングルパスでSW−101に画像形成を行った場合の画像濃度の絶対値は1.20、Xerox4200に画像形成を行った場合の画像濃度の絶対値は1.08であった。比較例3において、シングルパスでSW−101に画像形成を行った場合の画像濃度の絶対値は1.21、Xerox4200に画像形成を行った場合の画像濃度の絶対値は1.18であった。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
表2及び表3に示す通り、インクpHをpKa+0.5より大きい8.2に調整した比較例1の水性インク6及び、インクpHをpKa+0.5より大きい7.0に調整した比較例3の水性インク9は、画像濃度が低くなった。一方、インクpHをpKa−1.5より低い4.5に調整した比較例2の水性インク7及び、インクpHをpKa−1.5より低い4.0に調整した比較例4の水性インク10は、顔料の凝集沈降が観察された。これは、水性インクのpHがpKa−1.5より低いため、図1に示す状態1の顔料が支配的になったためであると考えられる。
【0084】
また、表2及び表3に示す通り、水性インクのpHをpKa−1.5以上、pKa+0.5以下に調整することにより、記録画像の画像濃度の大幅な向上が確認された。これは、水性インクのpHをpKa−1.5以上、pKa+0.5以下に調整することにより、図1に示す状態2及び3の顔料が好適に混在し、普通紙着弾時の固液分離が速やかに進行し、顔料が普通紙表層に定着したためであると考えられる。また、表2の実施例1と2の比較でわかるように、水性インクのpHが低い方がより高い画像濃度を示した。実施例1の水性インクのpHはpKa(本実施例においては6.1)−0.5に調整されており、図1に示す状態2及び3の顔料の比率が約4:1になる。これに対し、実施例2のインクのpHはpKa(本実施例においては6.1)+0.5に調整されており、図1に示す状態2及び3の比率が約1:4になる。図1に示す状態2の顔料は、普通紙着弾時に速やかに固液分離が進行し、普通紙表層に顔料が定着するが、状態3の顔料は固液分離が阻害され、顔料は普通紙深部に定着する。実施例2のインクは、状態3の顔料の比率が高くなったため、実施例1のインクよりも画像濃度が低くなったものと考えられる。
【0085】
さらに、表2及び表3に示す通り、水性インクの構成及びpH、pH調整剤種、紙種を固定して、画像形成方法の違いを比較すると、分割付与の方がシングルパスよりも高い画像濃度を示す結果となった、この結果より、より高い画像濃度を求めるような場合においては、画像形成方法として分割付与を行うことがより好ましいことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散顔料と水とを含有し、表面張力が34mN/m以下である水性インクであって、
該自己分散顔料は8.0以下のpKaを複数有し、該複数のpKaの中で最も値が小さいpKaをpKa、該複数のpKaの中で最も値が大きいpKaをpKaとしたときに、pKaとpKaとが下記式(1)の関係を満たし、
該水性インクのpHが下記式(2)を満たすことを特徴とする水性インク。
式(1) 2.0≦pKa−pKa
式(2) pKa−1.5≦pH≦pKa+0.5
【請求項2】
下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有する請求項1に記載の水性インク。
【数1】

【請求項3】
前記水性インクのpH以下のpKaを有する有機酸または無機酸、もしくはこれらの塩を含有する請求項1または2に記載の水性インク。
【請求項4】
インクジェット画像形成方法であって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性インクを、インクジェット方式により、0.5pl以上、6.0pl以下の定量で普通紙へ付与することで画像を形成することを特徴とするインクジェット画像形成方法。
【請求項5】
前記画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成をする際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割し、且つ分割されたそれぞれの回のインクの付与量が0.7μl/cm以下である請求項4に記載のインクジェット画像形成方法。
【請求項6】
前記インクの付与を熱エネルギーの作用により行なう請求項4または5に記載のインクジェット画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−46924(P2011−46924A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130296(P2010−130296)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】