説明

水性ウレタン樹脂組成物、それを含むインク用バインダー、インクジェット印刷インク用バインダー及びインクジェット印刷用インク、ならびに、それを用いて印刷の施された印刷物

【課題】本発明が解決しようとする課題は、非常に高いレベルの耐擦過性と耐薬品性とを備えた印刷画像を形成でき、かつ、インクの乾燥性やインクの吐出安定性等の保存安定性に優れたインクの製造に使用可能な水性ウレタン樹脂組成物、ならびにそれを含むインク用バインダー、インクジェット印刷インク用バインダー及びインクジェット印刷用インクを提供することである。
【解決手段】本発明は、アニオン性基(a1)と、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを有するウレタン樹脂(A)及び水系媒体を含有することを特徴とする水性ウレタン樹脂組成物、ならびにそれを含むインク用バインダー、インクジェット印刷インク用バインダー及びインクジェット印刷用インクに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット印刷等に使用するインクのバインダーをはじめ、コーティング剤や接着剤等の様々な用途に使用可能な水性ウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成長が著しいインクジェット印刷関連業界では、インクジェットプリンターの高性能化やインクの改良等が飛躍的に進み、一般家庭でも容易に銀塩写真並みの高光沢で高精細な画像を得ることが可能となりつつある。
【0003】
なかでもインクについては、従来の染料インクから顔料インクへの移行や、溶剤系から水系への移行等の、高画質化や環境負荷低減を目的とした改良が急速に進められており、現在は、水系の顔料インクをベースとした開発が積極的に行われている。
【0004】
また、前記インクには、インクジェットプリンター等の高性能化に伴って、年々、様々な性能が要求されるようになっている。例えば、インク吐出性等の保存安定性を損なうことなく、印刷画像表面に摩擦等の外力が加わった場合に生じうる、顔料の欠落に起因した印刷画像の劣化等を防止可能なレベルの耐擦過性や、ガラスクリーナー等の洗浄剤が印刷画像表面に付着した場合であっても印刷画像のにじみや色落ちを引き起こさないレベルの耐薬品性が、近年強く求められている。
【0005】
前記耐擦過性等に優れたインクとしては、例えば、顔料、水性樹脂及び水性媒体を含むインクジェット記録用インクにおいて、前記水性樹脂が有機ジイソシアネートと、ポリオキシエチレン構造を有するジオールとを反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、前記ポリウレタン樹脂がカルボキシル基を有し、かつ特定の酸価、数平均分子量、及び特定量の前記ポリオキシエチレン構造を有するものであるインクジェット記録用インクが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
前記インクジェット記録用インクを用いて印刷して得られた画像は、例えば紙間の擦れ等に起因した顔料の脱落を防止できる等、ある程度の耐擦過性を有するものであった。
【0007】
しかし、インクジェット印刷物の使用分野が広範となるのに伴い、より一層の高いレベルの耐擦過性が求められるなかで、前記インクジェット記録用インクを用いて形成された印刷画像は、例えば極所的に強い外力が加わった場合等に、依然として顔料の脱落等に起因した印刷画像の色落ちや劣化や損傷を引き起こす場合があった。
【0008】
また、前記インクジェット記録用インクを用いて印刷して得られた画像は、その表面に、アルカリ性洗浄剤等が付着した際に、インクの浮きやにじみが発生する場合があった。
【0009】
一方、インクジェット印刷用インクには、プリンターの印刷速度の高速化に伴って、前記インク吐出安定性や耐擦過性等に加え、更にインクの速やかな乾燥性が求められつつある。インクの乾燥性とは、インクジェットプリンター等によって記録媒体上にインクが吐出された際、インク中に含まれる溶媒が記録媒体中へ速やかに浸透できる性質であって、印刷直後にその印刷画像表面を指等で軽くこすっても、印刷画像のにじみやインクの広がりを引き起こさない性質を指す。前記インクの乾燥性の改善は、使用する記録媒体の改良等も必要であるが、前記記録媒体だけでなくインク面からの改良も必須である。
【0010】
ここで、前記特許文献1記載のインクジェット記録用インクを用いて記録媒体上に印刷を施した場合、インク中に含まれる溶媒の、記録媒体中への浸透性はある程度良好であるものの、依然として、近年の高速印刷に対応可能なレベルの乾燥性を備えたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−1639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、非常に高いレベルの耐擦過性と耐薬品性とを備えた被膜を形成でき、乾燥性や保存安定性にも優れた水性ウレタン樹脂組成物を提供することである。
【0013】
また、本発明が解決しようとする課題は、非常に高いレベルの耐擦過性と耐薬品性とを備えた印刷画像を形成でき、かつ、インクの乾燥性やインクの吐出安定性等の保存安定性にも優れたインクの製造に使用可能な水性ウレタン樹脂組成物、ならびにそれを含むインク用バインダー、インクジェット印刷インク用バインダー、インクジェット印刷用インク及び印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、乾燥性を向上する方法として、水性ウレタン樹脂組成物の親水性を高めることを検討した。
【0015】
具体的には、ウレタン樹脂の製造に使用するポリオールとしてポリオキシエチレングリコール等のポリエーテルポリオールを使用し、主鎖中にエチレンオキサイド鎖を導入した水性ウレタン樹脂組成物を検討した。
【0016】
前記水性ウレタン樹脂組成物であれば、印刷画像や被膜等の乾燥性が若干、改善できたものの、未だ十分といえるものではなく、また、形成される被膜や印刷画像の耐擦過性や耐薬品性も実用レベルにあと一歩およぶものではなかった。
【0017】
そこで、本発明者等は、ウレタン樹脂の側鎖に前記ポリエチレンオキサイド鎖等を導入することによって、ウレタン樹脂の親水性をより一層高めることができ、その結果、乾燥性を向上できるのではないかと考え、検討を進めた。
【0018】
具体的には、ウレタン樹脂の製造に使用するポリオールとして、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するジオールを使用することを検討した。
【0019】
前記側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するウレタン樹脂組成物を用いることによって、乾燥性や耐擦過性、耐薬品性をある程度向上できることを見出したものの、要求レベルにはあと一歩及ぶものではなかった。
【0020】
そこで、ウレタン樹脂の親水化度をより一層高めるべく、前記ポリアルキレンオキサイド鎖の代わりに、従来知られるアニオン性基やカチオン性基を導入したウレタン樹脂含有の組成物を検討した。
【0021】
しかし前記組成物は、満足できるレベルの乾燥性を有するものではなく、また、耐擦過性や薬品性等も、前記ポリアルキレンオキサイド鎖を有するウレタン樹脂組成物を用いた場合と比較して低いレベルのものであった。
【0022】
ところが、ウレタン樹脂中の親水性基として、前記アニオン性基とポリアルキレンオキサイド鎖とを組み合わせ使用し、かつ前記ポリアルキレンオキサイド鎖をウレタン樹脂の側鎖に導入したところ、かかるウレタン樹脂組成物であれば、吐出安定性等の保存安定性を損なうことなく、非常に高いレベルの乾燥性と耐擦過性と耐薬品性とを両立できることを見出した。
【0023】
即ち、本発明は、アニオン性基(a1)と、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを有するウレタン樹脂(A)及び水系媒体を含有することを特徴とする水性ウレタン樹脂組成物、及びそれを含むインクジェット印刷インク用バインダーに関するものである。
【0024】
また、本発明は、前記インクジェット印刷インク用バインダーと、顔料または染料とを含有してなるインクジェット印刷用インク、及び、それを用いて印刷の施された印刷物に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、保存安定性や乾燥性に優れ、かつ、耐擦過性や耐薬品性に優れた被膜を形成できることから、各種コーティング剤や接着剤に使用することができる。
【0026】
また、本発明の水性ウレタン樹脂組成物によれば、優れたインク吐出安定性や、形成される印刷画像の非常に優れた耐擦過性及び耐薬品性(特に耐アルカリ性)を損なうことなく、インクの乾燥性を格段に向上できることから、もっぱらインクのバインダーに使用することができ、とりわけインクジェット印刷用インクのバインダーに使用することが可能である。
【0027】
また、前記水性ウレタン樹脂組成物は、インクの乾燥性にも優れることから、例えば産業用ワイドフォーマットプリンター等のインク吐出量の多いプリンターを用いた場合であっても、その生産効率を低下させることなく、高鮮明で耐擦過性などに優れた印刷画像の形成に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、アニオン性基(a1)と、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを有するウレタン樹脂(A)、水系媒体(B)及び必要に応じてその他の成分を含有する水性ウレタン樹脂組成物である。
【0029】
前記ウレタン樹脂(A)は、前記アニオン性基(a1)及びポリアルキレンオキサイド鎖(a2)によって水系媒体(B)中に安定して溶解または分散することができる。そのため、本発明の水性ウレタン樹脂組成物であれば、それをインクジェット印刷用インクのバインダーに用いた場合であってもインク吐出ノズルを詰まらせにくい。
【0030】
本発明の水性ウレタン樹脂組成物としては、それをインクジェット印刷インク用バインダーに使用する場合に良好な保存安定性やインクの吐出安定性を維持する観点から、10〜350nmの範囲の平均粒子径を有する前記ウレタン樹脂(A)の粒子が、前記水系媒体(B)中に分散したものであることが好ましい。
【0031】
本発明では、ウレタン樹脂(A)としてアニオン性基(a1)とポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを組み合わせ有するものを使用することが必須である。ここで、前記ウレタン樹脂(A)の代わりに、上記いずれか一方の親水性基のみを有するウレタン樹脂を使用した場合、乾燥性と耐擦過性と耐薬品性とを両立することは困難である。
【0032】
また、本発明では、前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)が、主鎖を構成するウレタン樹脂の側鎖に存在するウレタン樹脂(A)を使用することが必須である。ここで、前記ウレタン樹脂(A)の代わりに前記ポリアルキレンオキサイド構造がウレタン樹脂の主鎖中に存在するウレタン樹脂を使用しても、満足できるレベルの乾燥性を奏することができず、また耐擦過性及び耐薬品性も実用上十分なレベルではない。
【0033】
また、前記ウレタン樹脂(A)の代わりにポリアルキレンオキサイド鎖(a2)がウレタン樹脂の末端に存在するウレタン樹脂を使用した場合も、やはり十分な乾燥性等を奏することはできない。
【0034】
前記ウレタン樹脂(A)としては、その酸価が20〜100となる範囲で前記アニオン性基(a1)を有することが、優れた耐擦過性や耐薬品性を付与するうえで好ましい。
【0035】
また、前記ウレタン樹脂(A)としては、前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)を、前記ウレタン樹脂(A)の全量に対して1〜60質量%有するものを使用することが、乾燥性と耐擦過性と耐薬品性とを両立するうえで好ましい。
【0036】
前記ウレタン樹脂(A)としては、前記アニオン性基(a1)と前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)との質量割合[(a1)/(a2)]が0.06〜30の範囲のものを使用することが、乾燥性と耐擦過性と耐薬品性とを両立するうえで好ましい。
【0037】
前記アニオン性基(a1)としては、例えばカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散安定性を維持するうえで好ましい。
【0038】
前記アニオン性基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンや、Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物等が挙げられる。
【0039】
また、前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)基、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を使用することができる。なかでもポリエチレンオキサイド鎖であることが、乾燥性を向上するうえで好ましく、前記エチレンオキサイド構造の繰り返し単位が5〜40であるポリエチレンオキサイド鎖を使用することが、乾燥性と耐擦過性と耐薬品性とを両立するうえで好ましい。
【0040】
また、本発明で使用するウレタン樹脂(A)としては、例えば3000〜150000の重量平均分子量を有するものを使用することが好ましく、15000〜50000の重量平均分子量を有するものを使用することが、インクジェット印刷用インクの良好な保存安定性とインク吐出安定性やインク乾燥性とともに、印字物における優れた耐擦過性及び耐薬品性を得るうえで好ましい。
【0041】
前記ウレタン樹脂(A)としては、ポリオール(B)とポリイソシアネート(C)とを反応させて得られるものを使用することができる。ここで、前記ポリオール(B)としては、ウレタン樹脂(A)にアニオン性基を導入する観点からアニオン性基含有ポリオール(b1)を使用することが好ましい。
【0042】
また、前記ポリオール(B)としては、ウレタン樹脂(A)の側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する観点から、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオール(b2)を使用することが好ましい。
【0043】
前記アニオン性基含有ポリオール(b1)としては、例えば2,2’−ジメチロールプロピオン酸、2,2’−ジメチロールブタン酸、2,2’−ジメチロール酪酸、2,2’−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基含有ポリオールや、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、5[4−スルホフェノキシ]イソフタル酸等のスルホン酸基含有ポリオールを使用することができる。また、前記親水性基含有ポリオールとしては、前記した低分子量の親水性基含有ポリオールと、例えばアジピン酸等の各種ポリカルボン酸とを反応させて得られる親水性基含有ポリエステルポリオール等を使用することもできる。
【0044】
前記アニオン性基含有ポリオール(b1)は、前記ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール(B)及びポリイソシアネート(C)の合計量に対して、0.5〜30質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0045】
また、前記ポリオール(B)に使用可能な側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオールとしては、例えば、ポリアルキレンオキサイド鎖の分子量が600〜3000程度であるポリオールを使用することが好ましく、600〜1000のポリオールを使用することがより好ましい。また、前記ポリアルキレンオキサイド鎖がポリエチレンオキサイド鎖であるポリオールを使用することが好ましい。
【0046】
前記側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオールとしては、例えばパーストープ社が商品名「Ymer N120」として市販しているものを使用することが特に好ましい。
【0047】
前記ポリオール(b2)が有するポリアルキレンオキサイド鎖は、例えばポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとの共重合体構造であってもよい。
【0048】
また、前記ポリアルキレンオキサイド鎖は、ポリエステルポリオールやポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の主鎖構造の側鎖存在するものであっても良い。
【0049】
前記ポリオール(b2)は、前記ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール(B)及びポリイソシアネート(C)の合計量に対して、1〜70質量%の範囲で使用することが、乾燥性を向上させるうえで好ましく、1〜50質量%がより好ましい。乾燥性をより一層向上させる場合には、10〜50質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0050】
また、前記ポリオール(B)としては、前記アニオン性基含有ポリオール(b1)及び側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオール(b2)の他に、被膜や印刷画像の耐擦過性や耐薬品性をより一層向上する観点から、脂肪族環式構造含有ポリオール(b3)を使用することが好ましい。
【0051】
前記脂肪族環式構造含有ポリオール(b3)としては、例えばシクロブタンジオール、シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシプロピルシクロヘキサノール、ジシクロヘキサンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、1,1’−ビシクロヘキシリデンジオール、シクロヘキサントリオール、水素添加ビスフェノ−ルA、1,3−アダマンタンジオール等の、概ね100〜500程度の低分子量の脂肪族環式構造含有ポリオールや、脂肪族環式構造含有ポリカーボネートポリオール、脂肪族環式構造含有ポリエステルポリオール、脂肪族環式構造含有ポリエーテルポリオールを1種または2種以上を併用して使用することができる。
【0052】
前記脂肪族環式構造含有ポリオール(b3)は、前記ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール(B)及びポリイソシアネート(C)の合計量に対して、0.5〜25質量%の範囲で使用することが、耐擦過性と耐薬品性を付与するうえで好ましく、1〜20質量%の範囲で使用することが、耐擦過性と耐薬品性と耐乾燥性とを両立するうえでより好ましい。
【0053】
また、前記ポリオール(B)としては、前記アニオン性基含有ポリオール(b1)や側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオール(b2)や前記脂肪族環式構造含有ポリオール(b3)の他に、必要に応じてその他のポリオールを併用することができる。
【0054】
前記その他のポリオールとしては、例えばポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエステルポリオール等を使用することができる。
【0055】
なかでも、前記ポリエーテルポリオールやポリカーボネートポリオールは、本発明の水性ウレタン樹脂組成物をインクジェット印刷インク用のバインダーに使用する場合に、インクの良好な保存安定性と吐出性とを付与できるため、前記アニオン性基含有ポリオール(b1)やポリオール(b2)と組み合わせ使用することが好ましい。
【0056】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば活性水素原子を2個以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤として、アルキレンオキサイドを付加重合させたものを使用することができる。
【0057】
前記開始剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等を使用することができる。
【0058】
また、前記アルキレンオキサイドとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン等を使用することができる。
【0059】
前記ポリエーテルポリオールとしては、優れた耐擦過性を有するインクジェットインク用バインダーを得る観点から、ポリテトラメチレングリコールやポリプロピレングリコール等を使用することが好ましい。
【0060】
前記ポリテトラメチレングリコールやポリプロピレングリコールとしては、500〜5000の数平均分子量を有するものを使用することが好ましく、500〜3500の数平均分子量を有するもの使用することが、より一層優れた保存安定性と、形成される被膜や印刷画像の耐擦過性を両立するうえでより好ましい。
【0061】
前記ポリテトラメチレングリコールやポリプロピレングリコールは、前記ウレタン樹脂(A)の製造に使用するポリオール(B)全体に対して30〜95質量%の範囲で使用することが、より一層優れた保存安定性と、形成される被膜や印刷画像の耐擦過性を両立するうえでより好ましい。
【0062】
また、前記その他のポリオールとして使用可能なポリカーボネートポリオールとしては、例えば炭酸エステルとポリオールとを反応させて得られるものや、ホスゲンとビスフェノールA等とを反応させて得られるものを使用することができる。
【0063】
前記炭酸エステルとしては、メチルカーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネート等を使用することできる。
【0064】
前記炭酸エステルと反応しうるポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールや、ポリヘキサメチレンアジペート等のポリエステルポリオール等を使用することができる。
【0065】
また、前記ポリエステルポリオールとしては、例えば低分子量のポリオールとポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるものや、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルや、これらの共重合ポリエステル等を使用することができる。
【0066】
前記低分子量のポリオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコ−ル等を使用することができる。
【0067】
また、前記ポリカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、及びこれらの無水物またはエステル形成性誘導体などを使用することができる。
【0068】
また、前記その他のポリオールとしては、例えばN−メチル−ジエタノールアミン等の3級アミノ基含有ポリオールを含むカチオン性基含有ポリオールや、前記したようなエチレンオキサイド構造を主鎖に有するポリアルキレングリコール等のノニオン性基含有ポリオール等を使用することもできる。
【0069】
また、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際に使用するポリイソシアネート(C)としては、例えばフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネート等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。なかでも、脂肪族環式構造含有ジイソシアネートを使用することが、長期耐候性に優れる塗膜を形成できるため好ましい。
【0070】
また、本発明で使用する水系媒体としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル類;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム類、等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみが特に好ましい。
【0071】
次に、本発明の水性ウレタン樹脂組成物の製造方法について説明する。
はじめに、前記ウレタン樹脂(A)を製造する方法としては、例えば無溶剤下または有機溶剤の存在下で、前記ポリオール(B)及び前記ポリイソシアネート(C)を反応させることでウレタンプレポリマーを製造し、次いで、前記ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基等のアニオン性基を必要に応じて中和し、必要に応じて鎖伸長剤と反応させる方法が挙げられる。
【0072】
前記ポリオール(B)とポリイソシアネート(C)との反応は、例えば、前記ポリオール(B)が有する水酸基に対する、前記ポリイソシアネート(C)が有するイソシアネート基の当量割合が、0.8〜2.5の範囲で行うことが好ましく、0.9〜1.5の範囲で行うことがより好ましい。また、後述する鎖伸長剤を使用する場合には、前記当量割合が1.1〜1.5の範囲であることが好ましい。
【0073】
前記ウレタン樹脂(A)を製造する際に使用可能な有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を、単独で使用または2種以上を使用することができる。
【0074】
また、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際に使用できる鎖伸長剤としては、ポリアミンや、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0075】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン等の1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を含有するジアミン類;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類;ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン等のヒドラジン類;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジド類;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジッド−プロピル−カルバジン酸エステル、セミカルバジッド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等のセミカルバジド類を使用することができる。
【0076】
前記その他活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水等を、本発明のコーティング剤の保存安定性が低下しない範囲内で単独で使用または2種以上を併用することができる。
【0077】
前記鎖伸長剤は、ポリアミンが有するアミノ基と過剰のイソシアネート基との当量比が、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.3〜1.0(当量比)の範囲で使用することがより好ましい。
【0078】
また、本発明で使用するウレタン樹脂(A)は、ウレア結合を有していてもよい。ウレア結合は活性水素を持ったアミンとイソシアネートとの反応によってウレタン樹脂中に導入することができる。前記ウレア結合は、前記ウレタン樹脂(A)全体に対して0〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0079】
前記方法で製造したウレタン樹脂(A)を水性化し本発明の水性ウレタン樹脂組成物を製造する方法としては、たとえば、次のような方法が挙げられる。
【0080】
〔方法1〕ポリオール(B)とポリイソシアネート(C)とを反応させて得られたウレタンプレポリマーのアニオン性基の一部又は全てを中和等した後、水系媒体を投入して分散せしめ、その後に前記と同様の鎖伸長剤を用いて鎖伸長することによりウレタン樹脂(A)を分散させる方法。
【0081】
〔方法2〕ウレタンプレポリマーと前記と同様の鎖伸長剤とを、反応容器中に一括又は分割して仕込み、鎖伸長反応させることでウレタン樹脂(A)を製造し、次いで得られたポリウレタン樹脂中のアニオン性基の一部又は全てを中和等した後、水系媒体を投入して水分散せしめる方法。
【0082】
前記〔方法1〕〜〔方法2〕では、必要に応じて乳化剤を使用してもよい。また、水溶解や水分散の際には、必要に応じてホモジナイザー等の機械を使用しても良い。
【0083】
前記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン系乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン系乳化剤が挙げられる。なかでも本発明のコーティング剤の優れた保存安定性を維持する観点から、基本的にアニオン性又はノニオン性の乳化剤を使用することが好ましい。また、本発明のコーティング剤の混和安定性を維持可能な範囲であれば、例えばカチオン性の乳化剤と両性の乳化剤とを併用してもよい。
【0084】
また、本発明のバインダーを製造する際には、ウレタン樹脂(A)の水分散性を助ける助剤として、親水基含有化合物を使用してもよい。
【0085】
かかる親水基含有化合物としては、アニオン性基含有化合物、カチオン性基含有化合物、両性基含有化合物、又はノニオン性基含有化合物を用いることができるが、本発明のコーティング剤の優れた保存安定性を維持する観点から、ノニオン性基含有化合物を使用することが好ましい。
【0086】
前記ノニオン性基含有化合物としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつエチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、及びエチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物を使用することができる。
【0087】
例えば、エチレンオキシドの繰り返し単位を少なくとも30質量%以上含有し、ポリマー中に少なくとも1個以上の活性水素原子を含有する数平均分子量300〜20,000のポリオキシエチレングリコール又はポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシアルキレン共重合体グリコール又はそのモノアルキルエーテル等のノニオン基含有化合物又はこれらを共重合して得られるポリエステルポリエーテルポリオールなどの化合物を使用することが可能である。
【0088】
以上の方法で得られたウレタン樹脂(A)と水系媒体とを含む水性ウレタン樹脂組成物は、形成する被膜や印刷物の耐擦過性及び耐薬品性を向上させることができ、また、本発明の水性ウレタン樹脂組成物をインク用バインダーに使用した場合には、インクの乾燥性とインクの吐出安定性をも向上できることから、好ましくは印刷インクのバインダー、より好ましくはインクジェット印刷用インクのバインダーに好適に使用することができる。
【0089】
前記水性ウレタン樹脂組成物中における前記ウレタン樹脂(A)の割合は、保存安定性や取り扱い性の観点から1〜40質量%の範囲であることが好ましい。とりわけ、前記水性ウレタン樹脂組成物をインクのバインダーに使用する場合には、インクの保存安定性や吐出安定性や、取り扱い性の観点から、15〜35質量%の範囲であることがより好ましい。
【0090】
次に、本発明のインク用バインダーについて説明する。
本発明の水性ウレタン樹脂組成物は、インクジェット印刷用インクをはじめ様々な印刷形式に対応したインクのバインダーに使用することができる。なかでも、インクの保存安定性や吐出安定性に優れることから、インクジェット印刷用インクのバインダーに使用することが好ましい。
【0091】
本発明のインクジェット印刷用インクは、前記インクジェット印刷インク用バインダーの他に、顔料や染料、その他必要に応じて各種の添加剤を含有するものである。
【0092】
前記顔料としては、公知慣用の無機顔料や有機顔料を使用することができる。
前記無機顔料としては、例えば酸化チタン、アンチモンレッド、ベンガラ、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等を使用することができる。
【0093】
前記有機顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、アゾ系顔料等の有機顔料を使用することができる。
【0094】
これらの顔料は2種類以上のものを併用することができる。また、これらの顔料が表面処理されており,水系媒体に対して自己分散能を有しているものであっても良い。
【0095】
また、前記染料としては、例えばモノアゾ・ジスアゾ等のアゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノイミン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、フタロシアニン染料、トリアリルメタン系等を使用することができる。
【0096】
また、前記添加剤としては、例えば高分子分散剤や粘度調整剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤をはじめ、従来のインクジェット印刷用インクのバインダーに使用されていたアクリル樹脂等を使用することができる。
【0097】
前記高分子分散剤としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂等を使用することができ、それらはランダム型、ブロック型、グラフト型のいずれのものも使用することができる。前記高分子分散剤を使用する際には、高分子分散剤を中和するために酸または塩基を併用しても良い。
【0098】
前記インクジェット印刷用インクは、例えば以下の製造方法によって調製することができる。
【0099】
(1)前記顔料または染料と前記水系媒体と前記インクジェットインク用バインダーと必要に応じて前記添加剤とを、各種の分散装置を用いて一括して混合しインクを調製する方法。
【0100】
(2)前記顔料または染料と前記水系媒体と必要に応じて前記添加物とを、各種の分散装置を用いて混合することで顔料または染料の水系分散体からなるインク前駆体を調製し、次いで、前記顔料または染料の水系分散体からなるインク前駆体と前記インクジェットインク用バインダーと、必要に応じて水系媒体と添加物とを、各種の分散装置を用いて混合しインクを調製する方法。
【0101】
上記(2)に記載したインクの製造方法で使用可能な顔料を含むインク前駆体は、例えば以下の方法によって調製することができる。
(i)顔料及び高分子分散剤等の添加剤を2本ロールやミキサー等を用いて予備混練して得られた混練物と、水系媒体とを各種の分散装置を用いて混合することによって顔料を含む水系分散体からなるインク前駆体を調製する方法。
(ii)顔料と高分子分散剤を各種の分散装置を用いて混合した後、前記高分子分散剤の溶解性をコントロールすることによって該高分子分散剤を前記顔料の表面に堆積させ、更に分散装置を用いてそれらを混合することで顔料を含む水系分散体からなるインク前駆体を調製する方法。
(iii)顔料と前記添加物とを各種の分散装置を用いて混合し、次いで前記混合物と樹脂エマルジョンとを分散装置を用いて混合することによって顔料を含む水系分散体からなるインク前駆体を調製する方法。
【0102】
前記インクジェット印刷用インクの製造に使用可能な分散装置としては、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザーなどを、単独または、2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0103】
前記方法で得られたインクジェット印刷用インク中には、概ね250nm以上の粒子径を有する粗大粒子が存在する場合がある。前記粗大粒子は、プリンターノズルの詰まり等を引き起こし、インク吐出特性を劣化させる場合があるため、前記顔料の水系分散体の調製後、またはインクの調製後に遠心分離又は濾過処理等の方法によって、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0104】
前記で得たインクジェット印刷用インクは、200nm以下の体積平均粒子径を有するものを使用することが好ましく、特に写真画質のようにより一層高光沢の画像を形成する場合には、80〜120nmの範囲であることがより好ましい。
【0105】
また、前記インクジェット印刷用インクは、インクジェット印刷用インク全体に対して、前記ウレタン樹脂(A)を0.1〜10質量%含有することが、該インクによって形成される印刷画像の速乾性と耐久性とを両立するうえで好ましく、更に水系媒体を50〜95質量%、顔料を0.5〜15質量%含有することが好ましい。
【0106】
前記方法で得られた本発明のインクジェット印刷用インクは、もっぱらインクジェットプリンターを用いたインクジェット印刷に使用することができ、例えば紙やプラスチックフィルム、金属フィルムまたはシート等の基材に対するインクジェット印刷に使用することができる。インクジェットの方式は特に限定するものではないが、連続噴射型(荷電制御型、スプレー型など)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式など)などの公知の方式を適用することができる。
【0107】
本発明のインクジェット印刷用インクを用いて印刷された印刷物は、優れた耐擦過性を有することから顔料等の欠落に起因した印刷画像の劣化等を引き起こしにくく、かつ高発色濃度の画像を有するものであるから、例えばインクジェット印刷による写真印刷や、インクジェット印刷による高速印刷によって得られた印刷物など様々な用途に使用することができる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例と比較例により、一層、具体的に説明する。
【0109】
[実施例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000)123.8質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸14.1質量部、Ymer N120(パーストープ社)16.0質量部及びイソホロンジイソシアネート 40.4質量部を、有機溶剤としてのメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0110】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.2質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.8質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0111】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0112】
[実施例2]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000)74.5質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸14.2質量部、Ymer N120(パーストープ社)61.4質量部及びイソホロンジイソシアネート44.3質量部を、有機溶剤としてメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0113】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.3質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.6質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0114】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0115】
[実施例3]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000)112.4質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸14.2質量部、Ymer N120(パーストープ社)17.7質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール10.6質量部及びイソホロンジイソシアネート39.6質量部を、有機溶剤としてメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0116】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.6質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.3質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0117】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0118】
[実施例4]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「エクセノール2020」旭硝子株式会社製のポリプロピレングリコール、数平均分子量2000)112.4質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸14.2質量部、Ymer N120(パーストープ社)17.7質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール10.6質量部及びイソホロンジイソシアネート39.6質量部を、有機溶剤としてメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0119】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.6質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.3質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0120】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0121】
[実施例5]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリカーボネートポリオール(「エタナコールUH−200」宇部興産株式会社製のジエチルカーボネートと1,6−ヘキサンジオールとの共重合カーボネートジオール、数平均分子量約2000)112.4質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸14.2質量部、Ymer N120(パーストープ社)17.7質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール10.6質量部及びイソホロンジイソシアネート39.6質量部を、有機溶剤としてメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0122】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.6質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.3質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0123】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0124】
[実施例6]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000)82.6質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸13.9質量部、Ymer N120(パーストープ社)16.0質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール46.4質量部及びイソホロンジイソシアネート35.5質量部を、有機溶剤としてメチルエチルケトン64.8質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0125】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール3.1質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン38.9質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0126】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.2質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.9質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0127】
[比較例1]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG1000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量1000)141.0質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸14.2質量部、及びイソホロンジイソシアネート39.1質量部を、有機溶剤としてのメチルエチルケトン64.7質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン39.9質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0128】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール1.1質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン40.8質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0129】
次いで、前記ウレタン樹脂の有機溶剤溶液に50質量%水酸化カリウム水溶液を11.4質量部加えることで前記ウレタン樹脂が有するカルボキシル基の一部または全部を中和し、さらに水859.8質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分20質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0130】
[比較例2]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、ポリエーテルポリオール(「PTMG2000」三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000)81.5質量部、Ymer N120(パーストープ社)49.3質量部及びイソホロンジイソシアネート19.1質量部を、有機溶剤としてメチルエチルケトン50.0質量部の存在下で4時間反応させ、希釈溶剤としてメチルエチルケトン30.8質量部を追加し、更に反応を継続した。
【0131】
前記反応によって生成された反応物の重量平均分子量が20000から50000の範囲に達した時点で、メタノール0.6質量部投入することで反応を終了し、更に希釈溶剤としてメチルエチルケトン31.8質量部を追加することでウレタン樹脂の有機溶剤溶液を得た。
【0132】
次いで、水645.9質量部を加え十分に攪拌し、更に約1時間のエージング後、脱溶剤することによって不揮発分15質量%の水性ウレタン樹脂組成物を得た。
【0133】
[重量平均分子量の測定方法]
前記ウレタン樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC法)により測定した。具体的には、前記ウレタン樹脂(A)を、ガラス板上に3milアプリケーターで塗工し、常温で1時間乾燥して半乾きの塗膜を作成した。得られた塗膜をガラス板から剥し、0.4gをテトラヒドロフラン100gに溶解して測定試料とした。
【0134】
測定装置としては、東ソー(株)製高速液体クロマトグラフHLC−8220型を用いた。カラムは、東ソー(株)製カラムTSK−GEL(HXL−H、G5000HXL、G4000HXL、G3000HXL、G2000HXL)を組み合わせて使用した。
【0135】
標準試料として昭和電工(株)製及び東洋曹達(株)製の標準ポリスチレン(分子量:448万、425万、288万、275万、185万、86万、45万、41.1万、35.5万、19万、16万、9.64万、5万、3.79万、1.98万、1.96万、5570、4000、2980、2030、500)を用いて検量線を作成した。
【0136】
溶離液、及び試料溶解液としてテトラヒドロフランを用い、流量1mL/min、試料注入量500μL、試料濃度0.4%としてRI検出器を用いて重量平均分子量を測定した。
【0137】
調製例1(キナクリドン系顔料の水系分散体)
ビニル重合体(スチレン/アクリル酸/メタクリル酸=77/10/13(質量比)であり、重量平均分子量が11000、酸価156mgKOH/g)を1500g、キナクリドン系顔料(クロモフタールジェットマジェンタDMQ、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を4630g、フタルイミドメチル化3,10−ジクロロキナクリドン(1分子あたりの平均フタルイミドメチル基数が1.4)を380g、ジエチレングリコールを2600g、及び34質量%水酸化カリウム水溶液688gを、容量50LのプラネタリーミキサーPLM−V−50V(株式会社井上製作所製)に仕込み、ジャケットを加温し、内容物温度が60℃になるまで低速(自転回転数:21回転/分,公転回転数:14回転/分)で混練を行い、内容物温度が60℃に達した後、高速(自転回転数:35回転/分,公転回転数:24回転/分)に切り替え、4時間、混練を継続した。
【0138】
前記混練物に、2時間で総量8000gの60℃に加温したイオン交換水を加え、不揮発分が37.9質量%の着色樹脂組成物を得た。
【0139】
前記方法で得た着色樹脂組成物の12kgに、ジエチレングリコール744gと、イオン交換水7380gとを少量ずつ添加しながら分散撹拌機で撹拌し、水系顔料分散液の前駆体(分散処理前の水系顔料分散液)を得た。
【0140】
次いで、この水系顔料分散液前駆体の18kgを、ビーズミル(浅田鉄工(株)製ナノミルNM−G2L、ビーズφ;0.3mmのジルコニアビーズ、ビーズ充填量;85%、冷却水温度;10℃、回転数;2660回転/分(ディスク周速:12.5m/sec)、送液量;200g/10秒)を用いて処理し、前記ビーズミルの通過液を13000G×10分の遠心処理した後、有効孔径0.5μmのフィルターにより濾過処理を行うことによってキナクリドン系顔料の水系顔料分散液を得た。この水系顔料分散体中のキナクリドン系顔料濃度は14.9質量%であった。
【0141】
[インクジェット印刷用インクの調製例]
インクジェット印刷用インクの全量に対してキナクリドン系顔料の濃度が4質量%で、かつウレタン樹脂の濃度が1質量%となるよう、前記実施例1〜6及び比較例1〜2で得た水性ウレタン樹脂組成物と、調製例1で得たキナクリドン系顔料と、2−ピロリジノンと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、グリセリンと、界面活性剤(サーフィノール440、エアープロダクツ社製)とイオン交換水とを、下記配合割合にしたがって混合、攪拌することによって、インクジェット印刷用インクを調製した。
【0142】
(インクジェット顔料インクの配合割合)
・調製例1で得たキナクリドン系顔料水系分散体(顔料濃度14.9質量%);26.8g
・2−ピロリジノン;8.0g
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル;8.0g
・グリセリン;3.0g
・界面活性剤(サーフィノール440、エアープロダクツ社製);0.5g
・イオン交換水;48.7g
・前記実施例1〜6または比較例1〜2で得た水性ウレタン樹脂組成物;5.0g
【0143】
〔インクの保存安定性の評価〕
前記で得たインクジェット印刷用インクの粘度と、該インク中の分散粒子の粒子径に基づいて評価した。前記粘度測定は東機産業(株)製のVISCOMETER TV−22を使用し、前記粒子径の測定は、日機装(株)社製のマイクロトラック UPA EX150を使用した。
【0144】
次に、前記インクをスクリュー管等のガラス容器に密栓し、70℃の恒温器で4週間の加熱試験を行った後の、前記インクの粘度と、該インク中の分散粒子の粒子径を、前記と同様の方法で測定した。
【0145】
前記加熱試験前のインクの粘度及び粒子径に対する、加熱試験後の粘度及び粒子径の変化を、それぞれ下記式に基づいて算出し、顔料インクの保存安定性を評価した。
【0146】
(式I)
[(加熱試験後のインク中の分散粒子の粒子径)/(加熱試験前のインク中の分散粒子の粒子径)]×100
【0147】
[判定基準]
○: 粒子径の変化の割合が、5%未満
△: 粒子径の変化の割合が、5%以上10%未満
×: 粒子径の変化の割合が、10%以上
【0148】
(式II)
[(加熱試験後のインクの粘度)/(加熱試験前のインクの粘度)]×100
【0149】
[判定基準]
○: 粘度の変化の割合が、2%未満
△: 粘度の変化の割合が、2%以上5%未満
×: 粘度の変化の割合が、5%以上
【0150】
〔インクの吐出安定性の評価〕
前記のインクジェット印刷用インクを黒色インクカートリッジに充填したPhotosmart D5360(ヒューレットパッカード社製)にて、診断ページを印刷しノズルの状態を確認した。1ページあたり18cm×25cmの領域の印字濃度設定100%のベタ印刷を連続で20ページ実施した後、再度診断ページを印刷しノズルの状態を確認した。連続ベタ印刷の前後でのノズルの状態変化をインク吐出安定性として評価した。評価基準を以下に記す。
【0151】
[判定基準]
○:ノズルの状態に変化がなく、吐出異常が発生していないもの
△:ノズルへの若干のインクの付着が確認されたものの、インクの吐出方向の異常は発生していないもの
×:インクの不吐出が発生するもの
【0152】
〔耐薬品性(耐アルカリ性)の評価〕
写真印刷用紙(光沢)[HPアドバンスフォト用紙 ヒューレットパッカード社製]の印刷面に、市販のサーマルジェット方式インクジュットプリンター(Photosmart D5360;ヒューレットパッカード社製)を用い、前記インクジェット印刷用インクを黒色インクカートリッジに充填し、印字濃度設定100%のベタ印刷を行うことで評価用印刷物を得た。
【0153】
前記評価用印刷物を常温下で10分間乾燥した後、印刷面に、0.5質量%水酸化カリウム水溶液を、一般的な霧吹きを用いて1回噴射し、10秒後に印刷面を指で擦過し、該印刷面の表面状態を目視で評価した。評価基準を以下に記す。
【0154】
[判定基準]
A: 印刷表面に剥がれは全くなく、脱色もみられなかった。
B: 印刷表面に剥がれは全くないが、実用上問題ないレベルのごく僅かな脱色がみられた。
C: 印刷表面に若干の剥がれが発生し、若干の脱色もみられた。
D: 印刷表面に著しい剥がれが発生し、脱色もみられた。
【0155】
〔耐擦過性の評価〕
写真印刷用紙(光沢)[HPアドバンスフォト用紙 ヒューレットパッカード社製]の印刷面に、市販のサーマルジェット方式インクジュットプリンター(Photosmart D5360;ヒューレットパッカード社製)を用い、前記インクジェット印刷用インクを黒色インクカートリッジに充填し、印字濃度設定100%のベタ印刷を行うことで評価用印刷物を得た。
【0156】
前記印刷物を常温下で3分間乾燥した後、印刷面を爪で擦過し、該印刷面の色等のこすれ具合を目視で評価した。評価基準を以下に記す。
【0157】
[判定基準]
A: 印刷表面に傷は全くなく、色材の剥離等もみられなかった。
B: 印刷表面に実用上問題ないレベルの僅かな傷が発生したものの、色材の剥離等はみられなかった。
C: 印刷表面に傷が発生したものの、色材の剥離等はみられなかった。
D: 印刷表面に著しい傷が発生し、色材の剥離等もみられた。
【0158】
〔インクの乾燥性の評価〕
アート紙(王子製紙(株)製、OKトップコート+)の表面に前記インクジェット印刷用インクを黒色インクカートリッジに充填したPhotosmart D5360(ヒューレットパッカード社製)にて、診断ページを印刷した。
【0159】
前記印刷終了から20秒経過後の印刷面に、一般的なPPC用紙(複合機用普通紙)を重ね、指で押し付け、前記PPC用紙を剥がした際に、該PPC用紙へのインクの付着量によってインクの乾燥性を評価した。
A: 印刷面への接触面積に対してインクの付着量が0%
B: 印刷面への接触面積に対してインクの付着量が0%を超えて3%以下
C: 印刷面への接触面積に対してインクの付着量が3%を超えて5%以下
D: 印刷面への接触面積に対してインクの付着量が5%を超え10%以下
E: 印刷面への接触面積に対してインクの付着量が10%超え
【0160】
〔光沢の評価〕
インクジェット印刷専用紙である写真用紙(光沢)[HPアドバンスフォト用紙 ヒューレットパッカード社製]の印刷面に、市販のサーマルジェット方式インクジュットプリンター(Photosmart D5360;ヒューレットパッカード社製)を用い、前記インクジェット印刷用インクを黒色インクカートリッジに充填し、印字濃度設定100%のベタ印刷を行った。
【0161】
前記で得た印刷物を24時間室温に放置した後、該印刷物の任意の3箇所の光沢を、マイクロヘイズプラス(株式会社 東洋精機製作所製)を用いて20度の光沢を測定し、その平均値を算出した。
【0162】
【表1】

【0163】
【表2】

【0164】
表1及び2中の略号を以下に説明する。
「DMPA」;2,2―ジメチロールプロピオン酸
「YmerN120」;パーストープ社製の側鎖にポリエチレンオキサイド鎖を有するポリオール(分子量800)
「CHDM」;1,4−シクロヘキサンジメタノール
「PTMG」;三菱化学株式会社製のポリテトラメチレングリコール、数平均分子量2000
「PPG」;「エクセノール2020」旭硝子株式会社製のポリプロピレングリコール、数平均分子量2000
「PC」;「エタナコールUH−200」宇部興産株式会社製のジエチルカーボネートと1,6−ヘキサンジオールとの共重合カーボネートジオール、数平均分子量約2000
「IPDI」;イソホロンジイソシアネート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基(a1)と、側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖(a2)とを有するウレタン樹脂(A)及び水系媒体を含有することを特徴とする水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂(A)が、前記ウレタン樹脂(A)の全量に対して前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)を1〜60質量%有するものである、請求項1に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)がポリエチレンオキサイド鎖である、請求項1に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂(A)が、アニオン性基含有ポリオール(b1)と側鎖にポリアルキレンオキサイド鎖を有するポリオール(b2)とを含むポリオール(B)、及び、ポリイソシアネート(C)を反応させて得られるものである、請求項1に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記アニオン性基(a1)と前記ポリアルキレンオキサイド鎖(a2)との質量割合[(a1)/(a2)]が0.06〜30である、請求項1に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリオール(B)が更に脂肪族環式構造含有ポリオール(b3)を含むものである、請求項4に記載の水性ウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性ウレタン樹脂組成物からなるインク用バインダー。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性ウレタン樹脂組成物からなるインクジェット印刷インク用バインダー。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェット印刷インク用バインダーと、顔料または染料とを含有するインクジェット印刷用インク。
【請求項10】
前記インクジェット印刷用インクが、前記インクジェット印刷用インクの全量に対して、前記ウレタン樹脂(A)を0.1〜10質量%含有するものである、請求項9に記載のインクジェット印刷用インク。
【請求項11】
請求項9に記載のインクジェット印刷用インクによって印刷の施された印刷物。

【公開番号】特開2011−140560(P2011−140560A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1929(P2010−1929)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】