説明

水性エマルジョン重合体の製造方法

【課題】重合温度を適切に制御し、物性の安定した水性エマルジョン重合体を得ることを目的とする。
【解決手段】反応釜のジャケット部に供給される冷却水の量を、所定の方法で算出した弁開度を用いて調整することにより、乳化重合における温度を、所定の重合温度に対して、上下5%以内に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性エマルジョン重合体の製造方法、特に、反応釜のジャケット部に供給される冷却水量を調整することにより、重合温度を所定範囲内に調整した水性エマルジョン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水性エマルジョン重合体は、例えば特許文献1に示されるように、釜に水や乳化剤等を仕込み、昇温した後、単量体や触媒を滴下しながら乳化重合を行うことにより製造される。
【0003】
【特許文献1】特開2004−083649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記の製造方法を、実機で行う場合、実験室レベルでの重合に比べて、スケールが大きいため、重合反応において生じる反応熱の適切な除去が困難となりやすく、重合温度が大きくぶれてしまう場合がある。このため、製造される水性エマルジョン重合体の性状は、各バッチ毎に微妙に相違するおそれがある。
【0005】
そこで、この発明は、重合温度を適切に制御し、物性の安定した水性エマルジョン重合体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、重合温度をTp(℃)、前記単量体含有滴下液の温度をTa(℃)、前記初期昇温温度をTb(℃)、前記初期触媒含有液の温度をTc(℃)、及び前記触媒滴下液の温度をTd(℃)としたとき、前記重合温度(Tp)を基準としたときの、下記式(1)で示される前記単量体の発熱量(Qm)、下記式(2)で示される前記単量体含有滴下液による除熱量(Qa)、下記式(3)で示される初期昇温後の初期仕込み液による除熱量(Qb)、下記式(4)で示される前記初期触媒含有液による除熱量(Qc)、及び下記式(5)で示される前記触媒滴下液による除熱量(Qd)を用いて、前記重合温度を一定に保つために反応系から除熱すべき1℃あたりの反応系除熱分量(Q/T)を下記式(6)にしたがって求め、
・Qm(kcal)=Σ(Mn×qn) ……(1)
・Qa(kcal)=R1×(Tp−Ta) ……(2)
・Qb(kcal)=R2×(Tp−Tb) ……(3)
・Qc(kcal)=R3×(Tp−Tc) ……(4)
・Qd(kcal)=R4×(Tp−Td) ……(5)
・Q/T(kcal/℃)=(Qm−Qa−Qb−Qc−Qd)/(Tp−Ta)……(6)
(nは、整数を示す。Mnは、n番目の単量体の使用量(kg)を示し、qnは、n番目の単量体の重合熱(kcal/kg)を示す。R1は、前記単量体含有滴下液の液量(kg)を、R2は、初期仕込み液の液量(kg)を、R3は、初期触媒含有液の液量(kg)、及びR4は、触媒滴下液の液量(kg)を示す。)
次いで、所定時間当たりの冷却水の供給量(W)を、下記式(7)から求め、
・W(リットル/min)=X×(Q/T)1/2/Rt …(7)
(Rtは反応時間(min)を示し、Xは係数を示す。)
次に、前記制御弁の開放時間をS1(秒)、前記制御弁の閉止時間をS2(秒)としたとき、前記制御弁の開放時の弁開度OP(%)を下記式(8)で得られる値とすることにより、乳化重合における温度を前記の重合温度Tpに対して上下5%以内の温度に保持することを特徴とする。
・OP(%)=(W/P)×(S1/(S1+S2))×100 ……(8)
(Pは、ポンプの最大供給量(リットル/min)を示す。また、S1>0、S2>0である。)
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる製造方法は、反応系の総発熱量、及び系内に供給される助剤による除熱量を考慮した総除熱量から、供給する冷却水量を調整するので、反応釜の冷却過剰や冷却不足、加熱・冷却のタイミングずれによる変動の拡大(ハンチング)が生じるのを抑制でき、重合温度を安定化させることができる。
また、制御弁の閉止時間を設けるので、冷却水は断続的な流れとなる。このため、冷却水を連続的に流したときに生じる可能性のある、部分的な過度の冷却を抑制することができ、重合温度の安定化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施形態を説明する。
この発明にかかる水性エマルジョン重合体の製造方法は、反応釜に水、触媒、単量体、及び乳化剤等を仕込みながら重合反応を行う製造方法である。
【0009】
前記反応釜は、外套にジャケット部を有する。ここに冷却水を導入することにより、反応釜内部の冷却を行う。このジャケット部には、冷却水を送るための供給ポンプ、及び前記供給ポンプからの冷却水を前記ジャケット部に送ると共に、この冷却水の供給量を調整する制御弁を設けた供給配管が設けられる。そして、供給ポンプを駆動させることにより、冷却水が前記ジャケット部に送られる。この冷却水量は、供給ポンプの能力、制御弁の開放時間と閉止時間との比、制御弁の開放度(弁開度)によって決定される。
【0010】
前記の製造方法は、まず、前記の反応釜に、水、単量体、及び乳化剤から選ばれる少なくとも1種を有する初期仕込み液が仕込まれる。
【0011】
次いで、前記初期仕込み液を初期昇温温度(Tb(℃))に昇温する。そして、必要に応じて、初期触媒含有液を添加する。
【0012】
次に、滴下用の単量体を含有する単量体含有滴下液、及び滴下用の触媒を含有する触媒滴下液を、それぞれ別個に、連続的に前記反応釜に滴下する。そして、前記反応釜内の温度を、所定の重合温度(Tp(℃))に近づくように調整しながら、前記単量体の乳化重合を行う。
【0013】
なお、使用する前記単量体含有滴下液の温度をTa℃、前記初期触媒含有液の温度をTc℃、前記触媒滴下液の温度をTd℃とする。
【0014】
次に、前記した反応釜内の温度を、所定の重合温度(Tp(℃))に近づくように調整する方法について説明する。
まず、この重合反応で生じる発熱量(Qm(kcal))は、下記の式(1)で求められる。
・Qm(kcal)=Σ(Mn×qn) ……(1)
ここで、nは、整数を示す。また、Mnは、n番目の単量体の使用量(kg)を示し、qnは、n番目の単量体の重合熱(kcal/kg)を示す。
すなわち、前記式(1)は、重合反応に供される各単量体の重合熱(kcal/kg)と使用量とから単量体毎の発熱量を算出し、それらの値を合計することにより、発熱量(Qm(kcal))を算出したものである。
【0015】
次に、この発明にかかる製造方法で除去すべき熱は、上記の単量体の重合による発熱量(Qm)と、前記単量体含有滴下液による除熱量(Qa(kcal))、前記初期昇温後の初期仕込み液による除熱量(Qb(kcal))、前記初期触媒含有液による除熱量(Qc(kcal))、及び前記触媒滴下液による除熱量(Qd(kcal))の合計除熱量との差である。これらのQa、Qb、Qc、及びQdは、下記の式で求められる。
・Qa(kcal)=R1×(Tp−Ta) ……(2)
・Qb(kcal)=R2×(Tp−Tb) ……(3)
・Qc(kcal)=R3×(Tp−Tc) ……(4)
・Qd(kcal)=R4×(Tp−Td) ……(5)
なお、R1は、前記単量体含有滴下液の液量(kg)を、R2は、初期仕込み液の液量(kg)を、R3は、初期触媒含有液の液量(kg)を、及びR4は、触媒滴下液の液量(kg)を示す。
【0016】
前記のQaは、反応釜に滴下される滴下液の液量と、滴下液の温度と重合温度の差との積であり、前記滴下液の反応釜への滴下により、反応釜中の重合反応液が冷却される熱量を示す。また、前記のQbは、反応釜に初期に仕込まれた初期仕込み液の液量と、この初期仕込み液の初期昇温後の温度と重合温度の差との積であり、前記初期仕込み液の初期昇温温度と重合温度の差による熱の除却量を示したものである。さらに、前記Qcは、初期触媒含有液の添加により、反応釜中の反応液が冷却される熱量であり、前記Qdは、触媒滴下液の添加により、反応釜中の反応液が冷却される熱量である。
【0017】
ところで、前記初期仕込み液の初期昇温温度(Tb(℃))が重合温度(Tp(℃))と相違するのは、前記初期仕込み液に単量体が含有されている場合、触媒の初期仕込みによって、前記初期仕込み液の昇温が少なからずあり、所定の重合温度以上に反応釜内の温度が上昇するおそれがあり、これを抑制するためである。なお、この初期仕込み液に単量体が含まれる場合の当該単量体の重合による発熱は、前記Qmに包含される。
【0018】
次に、この発明にかかる製造方法において、前記重合温度(Tp(℃))を一定に保つために反応系から除熱すべき1℃当たりの反応系除熱分量(Q/T)は、前記のQm、Qa乃至Qdから、下記の式(6)を用いて求められる。
・Q/T(kcal/℃)=(Qm−Qa−Qb−Qc−Qd)/(Tp−Ta)……(6)
【0019】
次いで、前記反応釜のジャケット部には、前記反応系除熱分量(Q/T、以下「Qt」と記す。)を除去するため、冷却水が供給される。一方、前記Qtの値がマイナスの場合は、前記Qtに相当する熱量を補充するため、スチーム等の加熱源が供給される。なお、以下においては、冷却水を供給する形で記載する。そして、前記Qtの値がマイナスの場合は、スチーム等の加熱媒体が供給されるものと読み替える。
【0020】
水の比熱容量は、1cal/(g・℃)である(18℃において)。18℃以外の水温の場合は、比熱容量の値は変化するが、近似的に、水温にかかわらず、1cal/(g・℃)とした場合、前記反応系除熱分量(Qt)を除去するための冷却水の供給量(W(リットル/min))は、下記式(7)から求められる。
・W(リットル/min)=X×(Q/T)1/2/Rt …(7)
なお、Rtは反応時間(min)を示し、Xは係数を示す。また、水の密度は、水温にかかわらず、1g/mlとする。
【0021】
ここで、係数Xは、冷却水温度、重合温度、反応釜の特性等によって変化する係数である。この係数Xを、冷却水温度や重合温度等を用いて表現すると、下記の式(9)に示す形となる。
・X=Y×(Tk−Ta)/(Tp−Ta) …(9)
なお、Yは反応釜固有の係数であり、Tkは、反応釜固有の温度係数を示す。Tkは、その反応釜を用いて実験を繰り返して得ることができ、また、Yは、特定の乳化重合条件のもとでの個々の反応釜を用いた重合実験を行うことにより、得ることができる。
【0022】
前記冷却水を前記ジャケット部に供給する場合、冷却水を連続的に供給する方法と、冷却水を断続的に流す方法の何れかの方法を採用することができる。本願に係る発明においては、冷却水を断続的に流す方法を用いることが好ましい。これは、冷却水を連続的に流したときに生じる可能性のある、局部的な過度の冷却を抑制することができ、重合温度をより安定に保持することができるからである。
【0023】
前記冷却水を断続的に流す具体的な方法としては、前記供給配管に設けられた制御弁の開閉を行うことにより、行うことができる。また、前記冷却水の流量は、制御弁の開閉時間を調整する以外に、制御弁の開放度(弁開度)によっても調整することができる。そこで、前記制御弁の開閉を行うとき、制御弁の開放時間をS1(秒)、制御弁の閉止時間をS2(秒)としたとき、前記制御弁の開放時の弁開度(OP(%))は、下記式(8)によって求められる。
・OP(%)=(W/P)×(S1/(S1+S2))×100 ……(8)
なお、Pは、冷却水供給ポンプの最大供給量(リットル/min)を示す。また、前記冷却水を断続的に流すので、S1>0、S2>0となる。
【0024】
次に、この発明にかかる水性エマルジョン重合体の製造方法の具体例について説明する。
まず、前記のTk及びYは、それぞれ反応釜特有の温度係数及び固有の係数なので、目的の反応に使用する反応釜で何回か繰り返して実験を行い、Tk及びYを導き出す。
次に、使用する単量体の量、冷却水温度、重合温度、単量体含有滴下液の滴下時間等の、各種条件を定め、制御弁の開放時間及び閉止時間を設定し、前記の各式を用いて、弁開度を算出する。
【0025】
この算出された弁開度を用いて、乳化重合を行うと、発生した熱を余分に除去することがなくなるので、冷却水を使用するのみで重合温度を調整することができ、スチーム等の加熱媒体を使用する必要がなくなり、重合温度のぶれをなくすことができ、この重合温度を、Tpに対して、上下5%以内の温度、好ましくは、上下2%以内の温度に保持することが可能となる。
【0026】
ところで、前記乳化重合に供される単量体は、ラジカル重合反応で重合に供されるビニル系単量体であれば特に限定されない。このような単量体としては、アクリル酸2−エチルヘキシル(78.69kcal/kg)、アクリル酸(256.73kcal/kg)、アクリロニトリル(325.98kcal/kg)、アクリル酸ブチル(117.03kcal/kg)、アクリル酸エチル(155.81kcal/kg)、アクリル酸メチル(226.51kcal/kg)、メタクリル酸(183.53kcal/kg)、メタクリル酸メチル(128.79kcal/kg)、スチレンモノマー(160.33kcal/kg)、酢酸ビニル(233.59kcal/kg)、メタクリル酸n−ブチル(95.07kcal/kg)、ジメチルアクリルアミド(85.99kcal/kg)等があげられる。なお、単量体の後に記載された括弧内の数字は、当該単量体の重合熱を示す。
【0027】
前記の各乳化重合に用いられる乳化剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性の乳化剤があげられる。前記アニオン性乳化剤しては、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル燐酸エステル塩、アルキルエーテル燐酸エステル等があげられる。
【0028】
前記ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヒドロキシエチルセルロース等があげられる。
【0029】
前記カチオン性乳化剤としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等があげられる。
両イオン性のものとして、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等があげられる。
【0030】
前記乳化重合に供される触媒としては、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤や過硫酸塩系開始剤等の重合開始剤があげられる。この過酸化物系開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素等があげられる。
【0031】
前記アゾ系開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸、アゾビス−2−アミジノプロパン塩酸塩等があげられる。
前記過硫酸塩系開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等があげられる。
【0032】
前記乳化重合における重合温度は、特に限定されないが、一般的に、40〜90℃の範囲で行われることが多い。また、前記乳化重合における反応時間は、使用する単量体の種類や量によるが、一般に2〜5時間、好ましくは3〜4時間である。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を用いてさらに詳細に説明する。なお、下記実施例及び比較例における測定方法について説明する。
【0034】
(実施例1)
[初期仕込み液]
下記の各成分を、所定量ずつ混合し、初期仕込み液663.6kgを得た。
・乳化剤…N−200(三洋化成工業(株)製:ノニオン乳化剤)…3.6kg
・水(脱イオン水)…660kg
【0035】
[単量体含有滴下液]
下記の各成分を、所定量ずつ混合し、単量体含有滴下液2020kgを得た。
・アクリル酸(重合熱:256.73kcal/kg、三菱化学(株)製)…45kg
・アクリル酸ブチル(重合熱:117.03kcal/kg、三菱化学(株)製)…600kg
・アクリル酸エチル(重合熱:155.81kcal/kg、三菱化学(株)製)…60kg
・スチレンモノマー(重合熱:160.33kcal/kg、三菱化学(株)製)…180kg
・メタクリル酸メチル(重合熱:128.79kcal/kg、三菱レイヨン(株)製)…324kg
・水…480kg
・乳化剤ES−70(三洋化成工業(株)製:アニオン性乳化剤)…12kg
・乳化剤EN−200(三洋化成工業(株)製:ノニオン性乳化剤)…8.4kg
単量体として、前記のものを使用したので、発熱量Qmは、159399kcalとなる。
【0036】
[触媒滴下液]
下記の各成分を、所定量ずつ混合し、触媒滴下液62.4kgを得た。
・触媒…APS((株)ADEKA製:過硫酸アンモニウム)…2.4kg
・水(脱イオン水)…60kg
【0037】
[初期触媒含有液]
下記の各成分を、所定量ずつ混合し、初期触媒含有液2.4kgを得た。
・触媒…APS(上記と同様)…1.2kg
・水(脱イオン水)…1.2kg
【0038】
[その他の条件]
・冷却水ポンプ最大供給量(P):300リットル/min
・単量体含有滴下液温度(Ta):20℃
・初期昇温温度(Tb):70℃
・初期触媒含有液温度(Tc):10℃
・触媒滴下液温度(Td):10℃
・重合温度(Tp):75℃
・重合時間(Rt):4時間
・制御弁の開放時間(S1):30秒
・制御弁の閉止時間(S2):10秒
・係数Tk:75
・係数Y:12.33
・係数X:(9)式にて、上記Tk,Yを代入、Tp=75℃、Ta=20℃なので、X=Y=12.33
【0039】
以上から、Qa、Qb、Qc、Qd、Q/T、W、及びOPは、次の値となった。
・除熱量(Qa):94017kcal
・除熱量(Qb):3318kcal
・除熱量(Qc):156kcal
・除熱量(Qd):4056kcal
・1℃当たりの反応系除熱量(Q/T):1051.85kcal/℃
・冷却水の供給量(W):100リットル/min
・弁開度(OP):25%
【0040】
[乳化重合]
反応釜として、外套にジャケット部を有し、このジャケット部に、冷却水を送るための供給ポンプ、及び供給ポンプからの冷却水を前記ジャケット部に送ると共に、冷却水の供給量を調整する制御弁を設けた供給配管が設けられた2.5mの反応槽を用いた。
まず、前記初期仕込み液を反応釜に仕込み、30rpmで撹拌しながら、初期昇温温度(Tb(℃))に昇温した。次いで、前記初期触媒含有液を添加した。
続いて、撹拌状態を保持しながら、単量体含有滴下液及び触媒滴下液の滴下液をそれぞれ滴下し始め、重合を開始した。そして、重量時間終了時に、この単量体含有滴下液及び触媒滴下液の滴下を終了するようにした。
前記初期昇温温度(Tb(℃))への昇温の段階から、熟成終了までの間、制御弁開放時間(S1(秒))、制御弁閉止時間(S2(秒))、及び弁開度(%)を前記した値として、前記ジャケット部に冷却水を流した。
その後、反応釜内温度を80℃に昇温し、2.5時間熟成させ、冷却して、水性エマルジョン重合体を得た。
昇温開始から熟成終了までの間の温度変化及びジャケット温度の変化を、図1に示す。
その結果、重合温度の振れは、75℃±1.5℃(変動幅±2%)となった。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、制御弁開放時間(S1(秒))、制御弁閉止時間(S2(秒))、及び弁開度(%)を採用せず、単量体含有滴下液及び触媒滴下液の滴下終了までは、重合温度(Tp(℃))を上回ると、冷却水の弁開度100%(全開)とし、重合温度(Tp(℃))を下回ると、ジャケットへ蒸気を通じて、重合温度を所定温度に戻すようにした。また、熟成の期間は、制御弁を5〜10%程度開け、熟成温度(80℃)付近を保持するようにし、4時間の熟成を行った。
昇温開始から熟成終了までの間の温度変化及びジャケット温度の変化を、図2に示す。
その結果、重合温度の振れは、75℃±4.5℃(変動幅±6%)と、大きく変化が生じた。
【0042】
(得られた水性エマルジョン重合体の評価)
実施例1と比較例1で得られた水性エマルジョン重合体について、以下の物性・評価を行い、対比を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
[粘度]
JIS K 6833に規定の方法に準拠し、BM型粘度計を用いて、25℃、12rpmで測定した。
[粒子径]
粒子径測定器(大塚電子(株)製:ELS−8000)を用い、散乱強度が8000−12000となるように、試料をイオン水で希釈し、測定した。
【0044】
[釜付着状態]
重合反応終了後、反応釜の内部に、水性エマルジョンが、どの程度付着しているか、目視で観察した。また、その際、どの程度(釜内面積に対する割合)を推定した。
[ろ過性]
ポリエチレン製(幅210mm×長さ1000mm)のろ布を用いて、自然ろ過を行い、単位時間当たりのろ過量(kg/分)を用いてろ過性を評価した。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1の温度及び弁開度の変化を示すグラフ
【図2】比較例1の温度及び弁開度の変化を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にジャケット部、このジャケット部に冷却水を送るための供給ポンプ、及び前記供給ポンプからの冷却水を前記ジャケット部に送ると共に、この冷却水の供給量を調整する制御弁を設けた供給配管を設けた反応釜を用い、
この反応釜に、水、単量体、及び乳化剤から選ばれる少なくとも1種を有する初期仕込み液を仕込み、
次いで、前記初期仕込み液を初期昇温温度に昇温後、必要に応じて、初期触媒含有液を添加し、
次に、滴下用の単量体を含有する単量体含有滴下液、及び滴下用の触媒を含有する触媒滴下液を連続的に前記反応釜に滴下し、前記反応釜内の温度を、所定の重合温度に近づくように調整しながら、前記単量体の乳化重合を行う、水性エマルジョン重合体の製造方法において、
前記所定の重合温度をTp(℃)、前記単量体含有滴下液の温度をTa(℃)、前記初期昇温温度をTb(℃)、前記初期触媒含有液の温度をTc(℃)、及び前記触媒滴下液の温度をTd(℃)としたとき、前記重合温度(Tp)を基準としたときの、下記式(1)で示される前記単量体の発熱量(Qm)、下記式(2)で示される前記単量体含有滴下液による除熱量(Qa)、下記式(3)で示される初期昇温後の初期仕込み液による除熱量(Qb)、下記式(4)で示される前記初期触媒含有液による除熱量(Qc)、及び下記式(5)で示される前記触媒滴下液による除熱量(Qd)を用いて、前記重合温度を一定に保つために反応系から除熱すべき1℃あたりの反応系除熱分量(Q/T)を下記式(6)にしたがって求め、
・Qm(kcal)=Σ(Mn×qn) ……(1)
・Qa(kcal)=R1×(Tp−Ta) ……(2)
・Qb(kcal)=R2×(Tp−Tb) ……(3)
・Qc(kcal)=R3×(Tp−Tc) ……(4)
・Qd(kcal)=R4×(Tp−Td) ……(5)
・Q/T(kcal/℃)=(Qm−Qa−Qb−Qc−Qd)/(Tp−Ta)……(6)
(nは、整数を示す。Mnは、n番目の単量体の使用量(kg)を示し、qnは、n番目の単量体の重合熱(kcal/kg)を示す。R1は、前記単量体含有滴下液の液量(kg)を、R2は、初期仕込み液の液量(kg)を、R3は、初期触媒含有液の液量(kg)、及びR4は、触媒滴下液の液量(kg)を示す。)
次いで、所定時間当たりの冷却水の供給量(W)を、下記式(7)から求め、
・W(リットル/min)=X×(Q/T)1/2/Rt …(7)
(Rtは反応時間(min)を示し、Xは係数を示す。)
次に、前記制御弁の開放時間をS1(秒)、前記制御弁の閉止時間をS2(秒)としたとき、前記制御弁の開放時の弁開度OP(%)を下記式(8)で得られる値とすることにより、乳化重合における温度を前記の重合温度Tpに対して上下5%以内の温度に保持することを特徴とする水性エマルジョン重合体の製造方法。
・OP(%)=(W/P)×(S1/(S1+S2))×100 ……(8)
(Pは、ポンプの最大供給量(リットル/min)を示す。また、S1>0、S2>0である。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24309(P2010−24309A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185762(P2008−185762)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】