説明

水性シリコーン被覆用組成物、この組成物による基材の被覆方法およびこの方法により製造した被覆された外科用針

【課題】有機溶媒担体を実質的に使用することなく縫合針のような基材の効果的な潤滑
に使用し得る、新規な水性シリコーン被覆用組成物を提供すること。
【解決手段】非反応性のポリジメチルシロキサン、反応性のシロキサン重合体および、上記のシロキサン類を水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分散剤の水溶液を含むシリコーン被覆用組成物。水性シリコーン被覆用組成物が水性シリコーン重合体、および上記のシロキサンを水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分散剤であることを特徴とする、水性シリコーン被覆用組成物を基材の表面に適用し、この表面上でシリコーンを硬化させる段階を含む、シリコーンによる基材の潤滑方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材、たとえば縫合針、皮下注射針または剃刀の刃に潤滑性を与え
るための水性シリコーン被覆剤組成物を指向するものである。本発明はまた、こ
の種の基材の水性シリコーン組成物による被覆方法および、これにより製造した
被覆された外科用針をも指向する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン組成物は種々の製品を被覆するために、したがってそれに潤滑性を
与えるために使用されている。先行技術は、メチルシロキサンとアミノアルキル
シロキサンとの共重合体による、細かな切断刃を有する物品の被覆を記載してい
る。この引用文献は、不活性溶媒担体、たとえばイソプロピルアルコール、トル
エンまたはベンゼンの使用を通ずる共重合体の適用を開示している。
【0003】
また、先行技術は3種の異なる反応性シロキサン重合体と非反応性の潤滑用シ
ロキサン重合体とを含むフィルム形成性組成物の使用をも開示しており、これは
基材、たとえば皮下注射針上に適用してその基材の潤滑性を増加させるために適
用される。これらの引用文献のフィルム形成性シロキサン組成物は不活性有機溶
媒担体、たとえばクロロフルオロカーボン(たとえばデュポン社(DuPont
Co.DE,USA)のフレオン(FreonR)の商標で知られる物質)を用
いて所望の基材に適用される。
【0004】
先行技術はさらに、アミノアルキルシロキサンと少なくとも1種の他の共重合
性のシロキサンとを含む硬化性のシリコーン組成物を外科用針に適用して製造し
た、被覆された外科用針をも記述している。ジメチルシクロシロキサンとジメト
キシシリルジメチルアミノエチルアミノプロピルシリコーン重合体との混合物が
、好ましいシリコーン組成物として開示されている。この引用文献は、シリコー
ン組成物を有機溶媒、たとえばヘキサン、トリクロロトリフルオロエタン、1,
1,1−トリクロロエタンまたは鉱物質溶媒中の溶液として外科用針に適用する
ことを示唆している。
【0005】
さらに、先行技術はシリコーンと溶媒とを含有するシリコーン溶液を針上に沈
積させることによる縫合針の被覆方法をも開示している。溶液の適用に続いて、
この溶液被覆された針を気体雰囲気に暴露して針の外表面の近傍にシリコーンの
層を形成させ、これに接着させる。残留する未接着シリコーンは、溶媒を用いて
針から除去する。この引用文献は、例示的なシリコーンとしてはポリジメチルシ
ロキサンを示唆しており、例示的な溶媒としてはアセトン、フレオンRクロロフ
ルオロカーボン、トリクロロエタンまたは塩化メチレンを挙げている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで種々の製品、たとえば縫合針および剃刀の刃に潤滑性を与えるために
使用されたシリコーン被覆用溶液は、不活性溶媒担体の存在を必要とする。
【0007】
しかし、これらの組成物の多くに使用されている有機フルオロカーボン溶媒は
大気のオゾン層に対して有害であることが知られており、その使用が世界的な協
定により排除されつつある。加えて、公知の被覆用組成物に使用されている他の
有機溶媒は毒性があるか、または環境的に有害である。公知のシリコーン被覆用
組成物に使用されている有機溶媒はまた、特にこれらの組成物の大きな百分率を
占めるので、これらの組成物の経費も増加させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、以下が提供される。
(項目1) 非反応性のポリジメチルシロキサン、反応性のシロキサン重合体および、上記のシロキサン類を水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分散剤の水溶液を含むシリコーン被覆用組成物。
(項目2) 水性シリコーン被覆用組成物が水性シリコーン重合体、および上記のシロキサンを水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分散剤であることを特徴とする、水性シリコーン被覆用組成物を基材の表面に適用し、この表面上でシリコーンを硬化させる段階を含む、シリコーンによる基材の潤滑方法。
(項目3) 上記の分散剤がプロピレングリコール、式中のnが約5ないし15の範囲である式:
【化3】

のオクチルフェノキシポリエトキシエタノール、およびこれらの混合物よりなるグループから選択したものであることを特徴とする、項目1記載の被覆用組成物またはそのシリコーン重合体が非反応性のポリジメチルシロキサンおよび/または反応性のシロキサンの重合体である項目2記載の方法。
(項目4) 項目2記載の方法により製造した潤滑された外科用針。
【0009】
有機溶媒担体を実質的に使用することなく縫合針のような基材の効果的な潤滑
に使用し得る、新規な水性シリコーン被覆用組成物を提供することが本発明の目
標である。
【0010】
水性シリコーン被覆用組成物を基材に適用し、その後、このシリコーンを基材
上で硬化させることによる基材の潤滑方法を提供することが、本発明のその他の
目標である。
【0011】
針を水性シリコーン被覆用組成物で被覆し、その上でシリコーンを硬化させる
方法により製造した、優れた潤滑性を有する縫合針を提供することも本発明の目
標である。
【0012】
本発明は、非反応性のポリジメチルシロキサン、反応性のシロキサン重合体お
よび、上記のシロキサン類を水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量
の少なくとも1種の分散剤の水溶液を含むシリコーン被覆用組成物に関するもの
である。シロキサンが水には容易に溶解しないことは周知されているが、本件発
明者らは、分散剤の使用を通じて水担体中に微細に分散させたシロキサンの混合
物が効果的な潤滑剤組成物である水基剤のシリコーン被覆用組成物を与えること
を見いだした。有意なことには、本発明記載の水性シリコーン被覆用組成物は実
質的に有機溶媒担体を含有していない。実質的に含有しないとは圧倒的に大部分
の担体が水であることを意味するが、少量の、すなわち組成物の全重量の約15
パーセントまでの有機溶媒は許容される。好ましくは、有機溶媒の最大量は組成
物の全重量の10パーセントである。
【0013】
水性シリコーン被覆用組成物の反応性シロキサン重合体がアミノアルキルシロ
キサンと少なくとも1種の他の共重合性のシロキサン、たとえばポリアルキルシ
ロキサンまたはシクロシロキサンとの混合物であることが好ましい。本発明記載
の水性シリコーン被覆用組成物は、好ましくはシクロシロキサンを含有する。さ
らに、本発明記載の好ましい被覆用組成物はポリエチレングリコールと分散剤と
してのオクチルフェノキシポリエトキシエタノールとの混合物を含有するであろ
う。
【0014】
本発明はさらに、そのポリエチレングリコールおよびオクチルフェノキシポリ
エトキシエタノールがシロキサンを水性担体全体を通じて分散させるのに効果的
な量、組成物中に存在する、基本的にアミノアルキルシロキサン、ジメチルシク
ロシロキサン、非反応性のポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、
オクチルフェノキシポリエトキシエタノールおよび水性担体よりなる水性シリコ
ーン被覆用組成物をも指向するものである。
【0015】
本発明の他の態様は、水性シリコーン被覆用組成物を基材の表面に適用し、そ
こでシリコーンを硬化させることによる基材の潤滑方法に関するものである。本
発明記載の潤滑方法に使用し得る水性シリコーン被覆用組成物は、少なくとも1
種のシロキサン重合体とそのシロキサンを組成物の水性担体の全体にわたって基
本的に分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分散剤とを持たなければな
らない。シロキサン重合体は重合性のシロキサンまたは非反応性のシロキサン、
たとえばポリジメチルシロキサンであってもよい。好ましくは重合性のシロキサ
ンの混合物を、本件方法に使用する水性シリコーン被覆用組成物に使用する。重
合性のシロキサンと非反応性のシロキサンとの混合物が最も好ましい。本件組成
物はスプレー、浸漬、ウィッキングのような方法で、または超音波噴霧法により
適用することができる。このようにして基材の表面に適用した組成物は、組成物
中に存在する反応性シロキサンの少なくとも若干を重合させて硬化させ、得られ
るシリコーン重合体を基材の表面に接着させることができる。
【0016】
本発明のその他の態様は、水性シリコーン被覆用組成物を外科用針に適用し、
そのシリコーンをその外科用針の上で硬化させて製造した、潤滑された外科用針
を指向するものである。実質的に有機溶媒担体を含有しない水性シリコーン被覆
用組成物で潤滑した外科用針は優れた潤滑性を示す。本発明記載の水性シリコー
ン組成物で被覆した外科用針の貫通性能および引抜き性能は通常の方法により、
すなわち有機溶媒担体を用いて被覆したものと同等である。その上、処理した外
科用針は未被覆針、またはエチコン社(EthiconInc.,N.J.,U
SA)から市販されているシリコーン被覆FS−2針のものを超える特に改良さ
れた性能を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明記載の水性シリコーン被覆用組成物は、非反応性のポリジメチルシロキ
サン、反応性のシロキサン重合体および少なくとも1種の分散剤を含む水溶液で
ある。本発明記載の組成物の好ましい反応性シロキサン重合体は少なくとも2種
の共重合性のシロキサン、たとえばポリアルキルシロキサンまたは、最も好まし
くはシクロシロキサンの混合物である。存在するシロキサンの全量は、全組成物
の重量を基準にして約0.5ないし20重量パーセント(本件明細書中では、以
後%w/wと表記する)である。これと異なる指示のない限り、本件明細書中で
述べる全ての重量百分率は水性組成物の全重量を基準にするものである。より特
定的には、通常は約0.1ないし2.0%w/wの非反応性のポリジメチルシロ
キサンと約0.5ないし10.0%w/wのアミノアルキルシロキサンとを組成
物中に使用する。付加的な共重合性のシロキサン、たとえばシクロシロキサンを
使用する場合には、これは好ましくは約0.5ないし7.0%w/wの量存在す
る。一般には、組成物中に存在するシリコーンの全量を調節して、可能なシリコ
ーンの最少量を使用して本件組成物を使用する特定の応用面に必要な潤滑度を与
えることが望ましい。
【0018】
本発明記載の組成物に使用し得るアミノアルキルシロキサンとポリアルキルシ
ロキサンとの適当な混合物は先行技術に記載されている。この混合物は、(a)
約5−20重量パーセントの式


2N(CH23SiYb(3-a-b)/2
式中、Rは6個を超えない数の炭素原子を含有する低級アルキル基であり;Yは
−OH基およびそのR’が3個を超えない数の炭素原子の低級アルキル基である
−OR’基よりなるグループから選択したものであり;Qは水素、−CH3およ
び−CH2CH2NH2よりなるグループから選択したものであり;aは0または
1の値を有し、bは0または1の値を有し、a+bの合計は0、1または2の値
を有する
のアミノアルキルシロキサンと、(b)約80ないし95重量パーセントの式
R”SiO(3-c)/2 II

CH3
式中、R”は−OH基および−CH3基よりなるグループから選択したものであ
り、cは1または2の値を有する
のメチル置換シロキサンとを含有する。
【0019】
好ましくは、1種または2種以上のシクロシロキサンを上記の混合物のメチル
置換シロキサン(b)に置き換えることができる。本件組成物中に使用し得るシ
クロシロキサンの例は先行技術に記載されている。
【0020】
本発明に使用するアミノアルキルシロキサンおよび付加的な共重合性シロキサ
ン、すなわちシクロシロキサンの特に好ましい供給源は、MDX−4−4159
流体(“MDX流体(MDXFluid)”)(ダウコーニング社(DowCo
rningCorporation,Michigan,USA)の商品名)で
ある。MDX流体は、ジメチルシクロシロキサンとジメトキシシリルジメチルア
ミノエチルアミノプロピルシリコーンの重合体とをストッダード溶媒(鉱物質溶
媒)とイソプロピルアルコールとの混合物に溶解させた50パーセントの活性溶
液である。本発明記載の被覆用組成物に使用するMDX流体の量は、好ましくは
約1.0ないし20%w/wの範囲の量である。360医学流体(360Med
icalFluid)(ダウコーニングの商品名)(360医学流体は非反応性
のポリジメチルシロキサンよりなるものである)の乳濁液である365医学規格
乳濁液(365Medical−GradeEmulsion)(ダウコーニン
グの商品名)が本件被覆用組成物に使用する非反応性ポリジメチルシロキサンの
特に好ましい供給源である。365医学規格乳濁液は特に、約35%のポリジメ
チルシロキサン、1%のプロピレングリコール、2%のオクチルフェノキシポリ
エトキシエタノールおよび1%の一ラウリン酸ソルビタンを水中に含有する。3
65医学規格乳濁液は好ましくは水性シリコーン被覆用組成物中に約0.5ない
し15%w/wの範囲の量存在する。
【0021】
本発明記載の被覆用組成物に必要な分散剤は、水性混合物または担体の全体に
わたってシロキサンを基本的に分散させる。懸濁液の形状の水性混合物の全体に
わたってシロキサンの基本的に均一な分散を促進する、乳化剤を含むいかなる分
散剤も本発明記載の水性組成物に使用することができる。一般的な型のアニオン
性の、カチオン性の、または非イオン性の乳化剤のいかなるものも、本発明にお
ける分散剤として使用することができる。これらの分散剤には、アニオン性の界
面活性剤、たとえば脂肪酸またはアルカンスルホン酸の塩、およびポリエーテル
基、糖誘導体またはプロピレングリコールを基剤とする非イオン性のものが含ま
れる。これらの分散剤または分散剤の混合物は、本件水性混合物中でシロキサン
の均一な分散を得るのに効果的な量使用しなければならない。
【0022】
好ましくは、上記の分散剤はプロピレングリコールとオクチルフェノキシポリ
エトキシエタノール、たとえばGAF社(GAFCo.,N.J.(またはN.
Y.),USA)の商品名であるイゲパール(IGEPALR)CO−630と
の混合物である。このオクチルフェノキシポリエトキシエタノール分散剤は、式
中のnが約5ないし15の範囲である式:
【0023】
【化4】

【0024】
により表される。最も好ましい分散剤イゲパールRCO−630は、そのnが9
ないし10であるオクチルフェノキシポリエトキシエタノールである。
【0025】
最も好ましくは、プロピレングリコールは0.5ないし2.0%w/wの範囲
の量存在し、イゲパールRCO−630も0.5ないし2.0%w/wの範囲の
量存在する。
【0026】
本件被覆用組成物は、シロキサンと分散剤とを水性担体中に分散させて製造す
る。好ましくは、この水性担体は全組成物の約65ないし97重量パーセントで
あろう。この組成物は、各成分を水溶液中にシロキサンの均一な分散が得られる
ようないかなる手法で混合しても製造することができるが、分散剤をシロキサン
と混合し、ついで、このシロキサン/分散剤混合物を脱イオン水で希釈して水性
シリコーン被覆用組成物を得る手法が好ましい。本件被覆用組成物のpHは、必
要に応じて、シロキサンの分散または最終的な重合を妨害しないいずれかの酸ま
たは塩基を添加して調節することができる。
【0027】
基剤を潤滑する本発明記載の方法は、水性シリコーン被覆用組成物をその基材
に適用し、シリコーンを基材上で硬化させる段階を含む。少なくとも1種のシロ
キサン重合体とそのシロキサンを水性担体の全体にわたって分散させるのに効果
的な量存在する少なくとも1種の分散剤を有するいかなる水性シリコーン組成物
も、本件方法に使用することができる。この方法に使用する水性組成物中に存在
するシロキサンは、反応性の重合性シロキサンであっても非反応性のシロキサン
であってもよい。好ましくは、本件水性組成物はMDX流体中に見られるものと
同様の重合性シロキサンの混合物を含有するであろう。他方、本件水性組成物は
非反応性のシロキサン、たとえば365医学規格乳濁液に含有されている非反応
性のポリジメチルシロキサンのみを含有していてもよいが、本発明記載の潤滑方
法に使用する最も好ましい水性シリコーン組成物は上記の新規な水性シリコーン
被覆用組成物である。
【0028】
本件水性シリコーン被覆用組成物は、たとえばスプレー、浸漬、ウィッキング
(wicking)によるか、または超音波噴霧により基材に適用することがで
きる。処理する基材を水性シリコーン組成物で十分に被覆するいかなる型の適用
も、この方法に使用することができる。
【0029】
処理した基材上に最終的に存在するシリコーン重合体の量は、本件水性シリコ
ーン被覆用組成物を基材に適用する時間を変えて制御することができる。たとえ
ば本件水性組成物を超音波噴霧により適用するならば、基材の潤滑性は噴霧雰囲
気を通じて基材を多回通過させて増加させることができる。同様に、スプレー中
には適用時間を、また、浸漬の場合には暴露時間を延長して潤滑性の増加を達成
することができる。適用時間は、使用する適用の型および処理される基材に必要
な潤滑性の度合いに応じて変化するであろう。一般には、より大きな潤滑性が必
要であれば被覆を厚くする。
【0030】
被覆用組成物に使用した反応性シロキサンの硬化は、当該技術で周知されてい
る通常の方法により達成される。たとえば炉中の、または無線周波数の適用によ
る熱硬化が有用な硬化方法である。被覆用組成物中のシロキサンの少なくとも若
干の重合が得られるいかなる硬化方法も適用可能である。炉硬化の場合には、組
成物の正確な配合に応じて、被覆された基材を約80ないし200℃の範囲の温
度で約0.5ないし6時間の範囲の時間加熱することが好ましい。硬化の温度お
よび時間を最適化して組成物中に存在する反応性シロキサンの重合、重合したシ
リコーンの基材への接着、および水性担体の除去を達成する。
【0031】
本件潤滑方法は、金属またはプラスチックのような乾燥潤滑を必要とするいか
なる基材にも使用することができる。スプレーまたは噴霧が浸漬のような方法以
上に縫合保持強度を改良することが見いだされているので、特にこれらの適用方
法により適用する場合に、外科用針の潤滑に特に有用であることが見いだされて
いる。本発明記載の方法により潤滑した外科用針は、動物組織中の多回通過適用
において、有機溶媒担体中のシロキサンを使用する先行の被覆技術と比較して同
様の潤滑度を示す。
【0032】
本発明はまた、水性シリコーン被覆用組成物を外科用針に適用し、そのシリコ
ーンを針上で硬化させる方法により製造した潤滑された外科用針をも指向する。
好ましくは、潤滑された外科用針は上記の新規な水性シリコーン被覆用組成物、
すなわち非反応性のポリジメチルシロキサン、反応性のシロキサン重合体、およ
びこれらのシロキサンを水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少
なくとも1種の分散剤を含む水溶液を用いて製造する。本件新規水溶液被覆用組
成物は最も好ましくは、得られる潤滑された縫合針が強調された縫合保持強度を
示すように、スプレーまたは噴霧により適用する。本発明記載の潤滑された外科
用針は、有機溶媒担体中のシリコーンで潤滑された先行技術の針と同等の、被覆
されていない針および市販のシリコーン被覆針(エチコン社のFS−2)より優
れた貫通性能と引抜き性能とを示す。
【0033】
上記のように、本発明記載の外科用針の潤滑性は水性シリコーン被覆用組成物
の適用度を変えて、または被覆用組成物のシリコーン濃度を変えて増加させるこ
とができる。たとえば、全量約1.0ないし1.5%w/wの範囲のシリコーン
を含有する水性シリコーン被覆用組成物で潤滑された心臓血管外科用針を製造す
ることが好ましい。他方、大形の外科用針は、好ましくは全量約10.0ないし
15.0%w/wの範囲のシリコーンを含有する水性シリコーン被覆用組成物で
被覆する。
【0034】
以下の実施例は本発明のある種の好ましい具体例の説明として意図されたもの
であって、本発明の限定は意図されていない。以下の実施例においては、全ての
量は全組成物に対する重量パーセントで表してある。
【実施例】
【0035】
実施例I
以下の水性シリコーン組成物を製造した:
組成 量
365医学規格乳濁液+ 2.41
MDX4−4159流体++ 10.84
プロピレングリコール 1.20
イゲパールCO−630 1.20
水 84.35
100.00
+365医学規格乳濁液−35%のポリジメチルシロキサン、1%のプロピレン
グリコール、2%のオクチルフェノキシポリエトキシエタノールおよび水中1%
の一ラウリン酸ソルビタン。
【0036】
++MDX4−4159流体−ストッダード溶媒(鉱物質溶媒)とイソプパノー
ルとの混合物中の50%のジメチルシクロシロキサンジメトキシシリルジメチル
アミノエチルアミノプロピルシリコーン重合体。
【0037】
プロピレングリコール(2g)とイゲパールCO−630(2g)とをMDX
4−4159流体(18g)に添加した。この混合物に、撹拌しながら365医
学規格乳濁液(4g)を添加し、続いて水(140g)を添加して均一な乳濁液
を形成させた。この水性シリコーン含有被覆用組成物は、約6.3重量%のシリ
コーンを含有していた。
【0038】
比較例II
360医学流体とMDX4−4159流体とをトリクロロトリフルオロエタン
であるフレオンTRRに溶解させて、非反応性のシリコーン被覆用組成物を製造
した。得られた有機担体基剤の被覆用組成物は7.5%のシリコーンを含有して
いた。
【0039】
実施例III
実施例Iで製造した水性シリコーン被覆用組成物(水溶液#1)を被覆用ブー
ス中でスプレーして一群のT−12針(シュルズル社(SulzleInc.,
N.Y.,USA)に適用した。比較例IIの7.5%シリコーン/フレオンR
溶液(溶液#2)を、同様にしてT−12針の第2の組に適用した。双方のグル
ープの針を炉中で同時に、約125℃で約2時間硬化させた。これらの針の貫通
性能および引抜き性能を評価し、その結果は下の表1に概括してある。これらの
結果は、本発明記載の水性シリコーン被覆用組成物で潤滑した針が、有機溶液担
体を含有する先行技術の被覆用組成物で被覆した針との比較で引抜き性能におい
て優れており、貫通力においてほぼ同等に効率的であることを示している。
【0040】
表1
被覆の評価(T−12針)
引抜き力、グラム 引抜き比 貫通力、グラム
針 溶液 平均値 S.D. 範囲 平均値 S.D. 範囲
T-12 #2 90.0 10.0 68-112 1.30 152.8 17.5 120−172
T-12 #1 83.7 6.4 68-96 1.26 145.3 15.2 120−172
引抜き力は5本の針、針ごとに2.4mmのゴム中の10回の貫通を基礎に置く
平均値である。貫通力は5本の針、針ごとに2.4mmのゴム中の3回の貫通を
基礎に置く平均値である。
【0041】
全ての針は非結合、かつ未滅菌のものである。
【0042】
S.D.−標準偏差
実施例IV
非結合CE−4針(シュルズル社)を4個のグループに分割した。第1のグル
ープは比較例IIのシリコーン−フレオンR溶液#2で被覆した。第2のグルー
プは超音波噴霧した実施例Iの溶液#1の流れの下を1回通過させて被覆した。
第3のグループは噴霧した溶液#1に2回暴露した。水性組成物の超音波噴霧は
ソニック・アンド・マテリアルズ社(SonicAndMaterialsCo
mpany,Connecticut,USA)の超音波噴霧装置の使用を通じ
て達成した。第4のグループの針は被覆しないままに放置した。被覆した針は全
て、約125℃で約2時間硬化させた。被覆した針の3種のグループ、被覆しな
い針のグループおよび市販の針(エチコン社のFS−2)のグループを貫通力お
よび引抜き力の試験にかけた。これらの試験の結果は、下の表2および3に概括
してある。
【0043】
表2
鋭利さの評価
貫通力、グラム
針 被覆用溶液/条件 平均値 S.D. 範囲
CE-4 #2 180.0 26.5 90−220
CE-4 非被覆 261.0 48.3 170−340
CE-4 #1/1回通過 194.3 56.4 140−390
CE-4 #1/2回通過 173.0 34.7 110−250
CE-2 −−−−− 399.0 120.3 180−590
平均値は10本の針、針ごとに厚いウサギの皮を3回通過させた値を基礎に置い
ている。
【0044】
FS−2針を除く全ての針が非結合のものである。
【0045】
S.D.−標準偏差
表3
引抜きの評価
貫通力、グラム
針 被覆用溶液/条件 平均値 S.D. 範囲 貫通比
CE-4 #2 64.4 16.3 90−220 1.91
CE-4 非被覆 392.2 118.2 170−340 1.04
CE-4 #1/1回通過 157.4 69.8 140−390 3.76
CE-4 #1/2回通過 112.0 37.0 110−250 3.15
FS-2 −−−−− 192.3 162.3 180−590 5.57
平均値は5本の針、針ごとに2.4mmのゴムを10回通過させた値を基礎に置
いている。
【0046】
FS−2針を除く全ての針が非結合のものである。
【0047】
S.D.−標準偏差
これらのデータは、水性シリコーン被覆用組成物で被覆した針が被覆していな
い針またはエチコン針と比較して優れた貫通性能と引抜き性能とを有することを
示している。これらのデータはまた、本発明記載の水性シリコーン被覆用組成物
で被覆した針が貫通力においてはシリコーン−フレオンR組成物で被覆した針と
同等であるが、引抜き性能においては後者の針と同様には効率的でないことをも
示している。しかし、これらのデータはまた、噴霧された水性シリコーン被覆用
組成物を通ずる針の多回通過がこれらの針の潤滑性を増加させることをも示して
いる。
【0048】
被覆した針と被覆していない針とのそれぞれから選択した針に関して走査電子
顕微鏡法(SEM)を実行した。SEM分析は、フレオンR−シリコーン組成物
で被覆した針の表面が最大量のシリコーンを含有することを示した。水性シリコ
ーン被覆用組成物で2回被覆した針は、より少ないが検出可能な量のシリコーン
を有していた。他方、水性組成物で1回被覆したのみの針はSEMによっては被
覆していない針と実際に識別可能ではなかった。このSEMデータは、針の貫通
特性を改良するには極めて少量のシリコーンが必要であるに過ぎないが、一方で
は、引抜き性能を改良するにはより多量のシリコーンが必要であることを示して
いると考えられる。
【0049】
実施例V
以下の水性シリコーン組成物を製造することができる:
組成 量
365医学規格乳濁液 3.56
MDX4−4159流体 12.50
プロピレングリコール 1.25
イゲパールCO−630 1.25
脱イオン水 81.44
100.00
MDX4−4159流体(20.0g)をプロピレングリコール(2g)およ
びイゲパールCO−630(2g)と混合する。この混合物に365医学規格乳
濁液(5.7g)を添加する。ついで、このシロキサン/乳化剤混合物を脱イオ
ン水(130.3g)と混和し、磁気撹拌機を用いて水性担体中のシロキサンの
微細な乳濁液が得られるまで混合する。この水性シリコーン含有被覆用組成物は
7.5重量%のシリコーンを含有している。
【0050】
本発明の他の変法および改良は当業者には明らかであろう。本発明は、請求項
に示したものを除いて限定されるものではない。
【0051】
本発明の主なる特徴および態様は以下のとおりである。
【0052】
1.非反応性のポリジメチルシロキサン、反応性のシロキサン重合体および、上
記のシロキサン類を水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なく
とも1種の分散剤の水溶液を含むシリコーン被覆用組成物。
【0053】
2.上記の反応性のシロキサン重合体が少なくとも1種の共重合可能なシロキサ
ンを含むことを特徴とする1記載の被覆用組成物。
【0054】
3.上記の被覆用組成物中の上記のシリコーンが組成物の約0.5ないし20重
量パーセントの範囲であり、かつ/または上記の水性混合物が全組成物の約65
ないし約97重量パーセントの範囲の量の水を含有することを特徴とする1記載
の被覆用組成物。
【0055】
4.水性シリコーン被覆用組成物が水性シリコーン重合体、および上記のシロキ
サンを水溶液の全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分
散剤であることを特徴とする、水性シリコーン被覆用組成物を基材の表面に適用
し、この表面上でシリコーンを硬化させる段階を含む、シリコーンによる基材の
潤滑方法。
【0056】
5.上記のシリコーン重合体が非反応性のポリジメチルシロキサンおよび/また
は反応性のシロキサンの重合体であることを特徴とする4記載の方法。
【0057】
6.上記の分散剤がプロピレングリコール、式中のnが約5ないし15の範囲で
ある式:
【0058】
【化5】

【0059】
のオクチルフェノキシポリエトキシエタノール、およびこれらの混合物よりなる
グループから選択したものであることを特徴とする1もしくは2記載の被覆用組
成物または5記載の方法。
【0060】
7.上記の硬化段階を約80ないし200℃の範囲の温度で約0.5ないし6時
間実施することを特徴とする6記載の方法。
【0061】
8.上記の基材が外科用針であることを特徴とする4記載の方法。
【0062】
9.上記の水性シリコーン被覆用組成物をスプレーまたは超音波噴霧により適用
することを特徴とする8記載の方法。
【0063】
10.上記の水性シリコーン組成物中の上記のシリコーンが組成物の約0.5な
いし20重量パーセントの範囲であることを特徴とする4記載の方法。
【0064】
11.4記載の方法により製造した潤滑された外科用針。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリジメチルシロキサン、アミノアルキルシロキサンおよび共重合性シロキサンを含む水性混合物、ならびに該シロキサンを該水性混合物全体にわたって分散させるのに効果的な量の少なくとも1種の分散剤を含むシリコーン被覆用組成物で被覆された外科用針であって、該共重合性シロキサンが、ポリアルキルシロキサン、シクロシロキサンおよびこれらの混合物からなる群より選択され、そして、ここで、該水性混合物が、該組成物全体の少なくとも0.5重量%の量の該シロキサンおよび該組成物全体の少なくとも65重量%の量の水を含有する、外科用針。
【請求項2】
前記共重合性シロキサンがシクロシロキサンである、請求項1に記載の被覆用組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の被覆用組成物であって、ここで、前記分散剤が、以下:プロピレングリコール、式:
【化1】

のオクチルフェノキシポリエトキシエタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択され、ここで、nは、5〜15の範囲である、被覆用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の被覆用組成物であって、ここで、該シリコーン被覆用組成物中の前記シリコーンが、該組成物の0.5重量%〜20重量%の範囲である、被覆用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の被覆用組成物であって、ここで、前記水性混合物が、該組成物全体の65重量%〜97重量%の範囲の量の水を含む、被覆用組成物。
【請求項6】
請求項3に記載の被覆用組成物であって、ここで、前記プロピレングリコールが、0.5%w/w〜2.0%w/wの範囲の量であり、そして前記オクチルフェノキシポリエトキシエタノールが、0.5%w/w〜2.0%w/wの範囲の量である、被覆用組成物。
【請求項7】
水性シリコーン被覆用組成物で被覆された外科用針であって、該組成物は、該組成物全体の0.5重量%〜10.0重量%のアミノアルキルシロキサン、該組成物全体の0.5重量%〜7.0重量%のジメチルシクロシロキサン、該組成物全体の0.1重量%〜2.0重量%のジメチルポリシロキサン、ポリエチレングリコール、オクチルフェノキシポリエトキシエタノールおよび水性担体を含み、ここで、該ポリエチレンおよびオクチルフェノキシポリエトキシエタノールが、該シロキサンを該水性担体全体にわたって分散させるのに効果的な量で、該組成物中に存在し、そしてここで、該水性担体が、該組成物全体の65重量%〜97重量%の範囲の量の水を含む、外科用針。
【請求項8】
シリコーンを用いて針を潤滑させるための方法によって調製された潤滑された外科用針であって、該方法は、該基材の表面に、水性シリコーン被覆用組成物を適用する工程、および該表面上のシリコーンを硬化させる工程、を包含し、ここで、該水性シリコーン被覆用組成物は、ポリジメチルシロキサン、アミノアルキルシロキサン、および共重合性シロキサンの水性混合物であり、該共重合性シロキサンは、ポリアルキルシロキサン、シクロシロキサン、およびこれらの混合物からなる群より選択され、ここで、該水性混合物は、該組成物全体の少なくとも0.5重量%の量のシロキサンを含み、そして、ここで、該水性混合物は、該組成物全体の少なくとも65重量%の量の水を含む、潤滑された外科用針。
【請求項9】
請求項8に記載の潤滑された外科用針であって、ここで、前記分散剤が、以下:プロピレングリコール、式:
【化2】

のオクチルフェノキシポリエトキシエタノールおよびこれらの混合物からなる群より選択され、ここで、nは、5〜15の範囲である、潤滑された外科用針。
【請求項10】
請求項9に記載の潤滑された外科用針であって、ここで、前記硬化させる工程が、80℃〜200℃の範囲の温度で、0.5時間〜6時間にわたり実施される、潤滑された外科用針。
【請求項11】
前記基材が、外科用針である、請求項8に記載の潤滑された外科用針。
【請求項12】
前記水性シリコーン被覆用組成物が、スプレーまたは超音波噴霧により適用される、請求項11に記載の潤滑された外科用針。
【請求項13】
前記水性シリコーン組成物中の前記シリコーンが、該組成物全体の0.5重量%〜20重量%の範囲である、請求項8に記載の潤滑された外科用針。

【公開番号】特開2006−312046(P2006−312046A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128027(P2006−128027)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【分割の表示】特願平6−119752の分割
【原出願日】平成6年5月10日(1994.5.10)
【出願人】(300044528)シャーウッド・サービシーズ・アクチェンゲゼルシャフト (87)
【氏名又は名称原語表記】SHERWOOD SERVICES AG
【Fターム(参考)】