説明

水性フレキソインキ廃液の処理方法

【課題】水性フレキソインキの廃液処理時に強酸や強塩基などの危険な薬剤を使用せず、また、処理廃液のpHの管理が不要であり、従って作業性が改善され効率的な水性フレキソインキの廃液処理方法を提供すること。
【解決手段】水性フレキソインキを構成している樹脂分を含む廃液に、pHが4〜5である処理剤水溶液を添加し、上記樹脂分を析出させ、さらに高分子凝集剤にて凝集塊を分離することを特徴とする水性フレキソインキの廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性フレキソインキ廃液の処理方法に関し、さらに詳しくは薬剤の取扱時の危険性が少なく、処理廃液のpH調整作業が不要な水性フレキソインキ廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機揮発成分を減少させるため、印刷インキの水性化が進められており、その結果、各種印刷において水性フレキソインキの使用量が増加している。このような水性フレキソインキは皮膜形成剤である水溶性樹脂などの水溶液中に顔料を分散させた構成である。
【0003】
上記水性フレキソインキの製造に際しては、顔料のビヒクル中への分散時、同一装置における水性フレキソインキの色替え時、その他多くの場合に分散機、攪拌機、分散槽、撹拌槽、計量装置、インキ容器、容器への充填装置などの種々の装置の洗浄が行なわれているが、これらの洗浄は水洗が可能であるという利点がある。また、上記水性フレキソインキを用いて印刷を行なう場合においても、各種印刷機および付属機器の洗浄も水洗が可能であるという利点がある。
【0004】
上記の如き水性フレキソインキは、多くの利点を有する一方で、インキ中の水溶性樹脂および顔料が洗浄廃液中に混入し、該廃液をそのまま放流できないことから、廃液中の水溶性樹脂および顔料を廃液から分離除去することが必要である。水性フレキソインキの廃液処理としては以下の如き方法が行なわれている。
【0005】
水性フレキソインキの廃液は、通常約1質量%程度の濃度でスチレン・アクリル酸系共重合体、アクリル酸系重合体、スチレン・マレイン酸系共重合体などの樹脂および顔料を含んでおり、そのpHは8前後のアルカリ性である。この廃液に塩酸や硫酸などの強酸を添加して廃液のpHを4前後とし、溶解している樹脂を不溶化析出させ、次いで苛性ソーダなどの強塩基で中和して廃液基準に適合するようにpHを約6にした後、高分子凝集剤の水溶液を加えて析出した樹脂を巨大なフロックに凝集させ、凝集物をフィルタープレスなどで分離し、濾液を放流する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の水性フレキソインキの廃液処理においては、強酸および強塩基を使用することから、その取扱に危険性がある。また、強酸、強塩基、凝集剤の添加時、凝集物の除去時、さらには放流時において常に廃液のpHを各種方法により確認せねばならないなどの煩雑性がある。
【0007】
従って本発明の目的は、水性フレキソインキの廃液処理時に強酸や強塩基などの危険な薬剤を使用せず、また、処理廃液のpHの管理が不要であり、従って作業性が改善され、効率的な水性フレキソインキの廃液処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、水性フレキソインキを構成している樹脂分を含む廃液に、pHが4〜5である処理剤水溶液を添加し、上記樹脂分を析出させ、さらに高分子凝集剤にて凝集塊を分離することを特徴とする水性フレキソインキの廃液の処理方法を提供する。
【0009】
上記本発明においては、前記廃液中の樹脂が、スチレン・アクリル酸系共重合体、アクリル酸系重合体、スチレン・マレイン酸系共重合体などの樹脂であり、該樹脂の濃度が0.1〜4質量%であること;前記処理剤水溶液の有効成分が、強カチオン性ジシアンジアミド重縮合物であり、該有効成分の濃度が10〜70質量%であること;および前記処理前の廃液のpHが、7〜9であり、処理後の廃液のpHが6〜8であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明によれば、水性フレキソインキの廃液処理時に強酸や強塩基などの危険な薬剤を使用せず、また、処理廃液のpHの管理が不要であり、従って作業性が改善され、効率的な水性フレキソインキの廃液処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明の方法が適用される廃液は、水性フレキソインキの廃液であり、該廃液は水性フレキソインキの製造場所および使用場所である印刷工場において多量に発生する。
【0012】
本発明でいう水性フレキソインキは次のように製造および使用されている。先ず、有機または無機顔料を、スチレン・アクリル共重合体酸、アクリル酸系重合体、スチレン・マレイン酸系共重合などの樹脂水溶液に混合し、必要な添加剤を加え、これをビーズミルに通すことで顔料を細分散し、顔料分散ベース(顔料分約40〜70質量%)とする。
【0013】
上記顔料分散ベースをスチレン・アクリル酸系共重合体、アクリル酸系重合体、スチレン・マレイン酸系共重合体などの樹脂水溶液またはこれらの樹脂エマルジョンにて約2倍程度に希釈し、さらに少量の耐摩剤、消泡剤などの添加剤を加えインキベースとする。
【0014】
上記インキベースには紅、赤、橙、黄、草、藍、紫、白、墨などの十数種類の色相の顔料を使用したものがあり、要求された色相となるように種々の比率で混合することにより製造されたものである。
【0015】
以上のように製造された水性フレキソインキは、段ボールケースの印刷に主に用いられる。この印刷は、フレキシブルな凸版を使用することからフレキソ印刷方式と呼ばれ、表面に小さなピラミッド状または半球状の凹みがつけられたアニロックスロールから、一定膜厚のインキを凸版上に供給しながら高速印刷される。インキが非常に速乾性のインキである場合には、該インキを皮張りを防止するためリザーブタンクとインキング装置の間で絶えず循環されている。
【0016】
また、このインキは水性インキであるため水による希釈が可能であり、使用された版、循環装置、アニロックスロールは通常水で洗浄されている。段ボールケース印刷に際し、指定された色相への色換えが一日に何十回となく行なわれることにより多量の洗浄廃液が発生するのである。
【0017】
上記水性フレキソインキの製造および使用時に発生する洗浄廃液は、前記樹脂分を固形分で0.1〜4質量%、主に約1質量%程度を含有しており、そのpHは7〜9である。
【0018】
本発明では上記廃液のpHを従来技術の如く強酸で調整することなく、pHが4〜5に調整された処理剤水溶液を添加し、空気を吹き込むことにより、均一に混合する。この混合によって廃液中の樹脂が析出する。さらに高分子凝集剤を加えることで、巨大なフロックを形成して廃液から分離する。この時点での廃液のpHは6〜8になる。
【0019】
上記本発明で溶解している樹脂を析出させるために使用する処理剤水溶液としては、従来染料廃液の脱色剤として使用されている強カチオン性のジシアンジアミド系化合物の水溶液が好ましく使用される。ジシアンジアミド系化合物として、特に好ましい化合物は、ジシアンジアミド1〜2モルとホルムアルデヒド1〜2モルとの重縮合生成物、ジシアンジアミド1〜2モルとポリエチレンポリアミン1〜2モルとの重縮合反応物、ジシアンジアミド1〜2モルとジエチレントリアミン1〜2モルとホルムアルデヒド1〜2モルとの重縮合反応物などが挙げられる。
【0020】
これらの強カチオン性のジシアンジアミド系化合物は、例えば、有機凝結剤として知られているセンカフロックZシリーズ(Z−08C、130C、150C)として、センカ(株)から市販されているものや、タキフロックCL−550K(多木化学(株)製)や、カヤフロックLC−1512(カヤフロック(株)製)などが有用である。
【0021】
上記強カチオン性のジシアンジアミド系化合物を水に溶解し、約10〜70質量%の濃度の水溶液とし、該水溶液はpHが4〜5となり、本発明で使用する処理剤水溶液とする。
【0022】
上記処理剤水溶液は、前記水性フレキソインキの廃液100質量部あたり約0.05〜1.0質量部の割合で添加する。処理剤水溶液を添加後空気を吹き込み均一に混合することによって、廃液中に溶解している樹脂が析出する。上記処理剤の添加量は廃液中の樹脂が析出し始めるまでの量とすることが好ましい。
【0023】
さらに高分子凝集剤を加えることで巨大なフロックを形成する。ここで使用する高分子凝集剤としては、従来から排水処理等に使用されているアニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性の各種高分子凝集剤が使用可能である。具体的には、例えば、タキフロックA−104(多木化学(株)製)、センカフロックS−3020A(センカ(株)製)、カヤフロックA−195(カヤフロック(株)製)などが挙げられる。
高分子凝集剤の使用量は、前記水性フレキソインキの廃液100質量部あたり、凝集剤の0.1質量%水溶液で約0.1〜5.0質量部の割合であることが好ましい。
【0024】
高分子凝集剤により凝集したフロックをフィルタープレスなどの適当な手段で分離することにより、処理された廃液中の樹脂は殆ど除去され、処理廃液のpHは約6.5〜7.5程度になっているので、そのまま放流することができる。
【実施例】
【0025】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
水性フレキソインキの廃液の樹脂濃度は、通常約1質量%であるので、実験的には水性フレキソインキを希釈して樹脂濃度1質量%の水溶液を標準廃液とした。該標準廃液100g(pH=7.71)に対して処理剤水溶液(商品名:タキフロックCL−550K、多木化学(株)製、固形分56質量%)を0.3g加えて空気を吹き込むと、水に溶解していた樹脂が析出し、樹脂が懸濁状態となる。このときの廃液のpHは7.51へと若干下がっただけであった。最後に高分子凝集剤(商品名:タキフロックA−104、多木化学(株)製、固形分0.1質量%)を1.3g投入し、フロックを形成させた後濾過してフロックを水から分離した。フロックを分離した水は殆ど有機物を含んでいなかった。この方法では強酸も強アルカリも使用する必要もなく、各段階でのpHの調整も不要であった。
【0026】
実施例2
水性フレキソインキの廃液の樹脂濃度は、通常約1質量%であるので、実験的には水性フレキソインキを希釈して樹脂濃度1質量%の水溶液を標準廃液とした。該標準廃液100g(pH=7.71)に対して処理剤水溶液(商品名:センカフロックZ−150C、センカ(株)製、固形分60質量%)を0.23gを加えて空気を吹き込むと、水に溶解していた樹脂が析出し、樹脂が懸濁状態となる。このときの廃液のpHは7.40へと若干下がっただけであった。最後に高分子凝集剤(商品名:センカフロックS−3020A、センカ(株)製、固形分0.1質量%)を0.76g投入し、フロックを形成させた後濾過してフロックを水から分離した。フロックを分離した水は殆ど有機物を含んでいなかった。この方法では強酸も強アルカリも使用する必要もなく、各段階でのpHの調整も不要であった。
【0027】
実施例3
水性フレキソインキの廃液の樹脂濃度は、通常約1質量%であるので、実験的には水性フレキソインキを希釈して樹脂濃度1質量%の水溶液を標準廃液とした。該標準廃液100g(pH=7.71)に対して処理剤水溶液(商品名:カヤフロックLC−1512、カヤフロック(株)製、固形分58質量%)を0.27gを加えて空気を吹き込むと、水に溶解していた樹脂が析出し、樹脂が懸濁状態となる。このときの廃液のpHは7.38へと若干下がっただけであった。最後に高分子凝集剤(商品名:カヤフロックA−195、カヤフロック(株)製、固形分0.1質量%)を1.0g投入し、フロックを形成させた後濾過してフロックを水から分離した。フロックを分離した水は殆ど有機物を含んでいなかった。この方法では強酸も強アルカリも使用する必要もなく、各段階でのpHの調整も不要であった。
【0028】
比較例1
実施例1と同じ標準廃液100g(pH=7.71)に塩化第二鉄水溶液(固形分38質量%、pH=0.5)0.2gを加え、pH≒3とする。これにより、水に溶解していた樹脂が析出し、樹脂の懸濁状態となる。続いて8質量%苛性ソーダ水溶液(pH=14)を0.4g加え、pH≒6とする。最後に高分子凝集剤溶液(商品名:タキフロックN−100TS、多木化学(株)製、固形分1質量%)を0.4g投入し、フロックを形成させた後濾過してフロックを水から分離した。フロックを分離した水のpHは6.31であり、殆ど有機物を含んでいなかった。この方法では強酸(塩化第二鉄水溶液)と強アルカリ(苛性ソーダ)の使用が必須であり、各段階でのpHの調整も必須であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上記本発明によれば、水性フレキソインキの廃液処理時に強酸や強塩基などの危険な薬剤を使用せず、また、処理廃液のpHの管理が不要であり、従って作業性が改善され、効率的な水性フレキソインキの廃液処理方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性フレキソインキを構成している樹脂分を含む廃液に、pHが4〜5である処理剤水溶液を添加し、上記樹脂分を析出させ、さらに高分子凝集剤にて凝集塊を分離することを特徴とする水性フレキソインキの廃液の処理方法。
【請求項2】
前記廃液中の樹脂が、スチレン・アクリル酸系共重合体、アクリル酸系重合体、スチレン・マレイン酸系共重合体などの樹脂であり、該樹脂の濃度が0.1〜4質量%である請求項1に記載の廃液の処理方法。
【請求項3】
前記処理剤水溶液の有効成分が、強カチオン性ジシアンジアミド重縮合物であり、該有効成分の濃度が10〜70質量%である請求項1に記載の廃液の処理方法。
【請求項4】
前記処理前の廃液のpHが、7〜9であり、処理後の廃液のpHが6〜8である請求項1に記載の廃液の処理方法。

【公開番号】特開2007−14934(P2007−14934A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202317(P2005−202317)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(394011318)合同インキ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】