説明

水性分散体および積層体

【課題】 塗膜の耐溶剤性、耐ブロッキング性、各種基材との密着性に優れたポリオレフィン樹脂含有水性分散体を提供する。
【解決手段】 酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、変性ナイロン樹脂(B)、および水性媒体を含有することを特徴とする水性分散体。(A)が不飽和カルボン酸成分で変性されており、(A)における不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1〜30質量%であることを特徴とする前記水性分散体。(B)がアルコキシアルキル化されたナイロン樹脂であることを特徴とする前記水性分散体。前記水性分散体から水性媒体を除去して得られる塗膜。この塗膜を設けてなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の耐溶剤性、耐ブロッキング性、各種基材、特に電機・電子機器へ多く使用されている金属材料やポリアミド樹脂などの基材との密着性に優れた水性分散体およびそれを用いた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂、中でも変性ポリオレフィン樹脂は、様々な材料に対する良好な熱接着性を有していることから、ヒートシール剤、ディレードタック剤、繊維処理剤、及び接着剤用バインダー等の幅広い用途に用いられている。これらの用途にポリオレフィン樹脂は、作業性や環境の観点から、水性分散体として利用されている。
【0003】
例えば、不飽和カルボン酸の含有量が20質量%程度のエチレン−アクリル酸共重合樹脂やエチレン−メタクリル酸共重合樹脂等のエチレン−不飽和カルボン酸共重合樹脂からなる酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体は従来から知られている。しかし、このような不飽和カルボン酸を20質量%程度含有する樹脂は極性が高いため、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)などの極性の低い材料に対する接着性やヒートシール性が不十分であった。
【0004】
一方、不飽和カルボン酸含有量がさらに低い酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体は、特許文献1〜3などに開示されている。しかし、これらの水性分散体は、乳化剤(界面活性剤)や保護コロイド等を用いて水性化されたものであった。
乳化剤や保護コロイド等は接着界面の状態に大きく影響を与える物質であり、これらを含有すると基材との密着性が低下してしまう。また、これらは親水性が高く、さらに可塑化能力も有しているため、形成される塗膜の耐水性、耐溶剤性が著しく低下してしまうという問題がある。さらに、乳化剤や保護コロイド等を含む塗膜は、それらがブリードアウトする恐れがあるために環境的、衛生的にも好ましくないだけでなく、接着性が経時的に変化する恐れがある。
【0005】
そこで、本願発明者らは界面活性剤等の不揮発性化合物を添加せずに変性ポリオレフィン樹脂を水性分散体とすることを特許文献4にて報告している。
【0006】
一方、水性分散体を基材に塗布した後の加工方法も多様化しており、基材への塗布後に、更に別のコーティング剤(多くは溶剤系)を塗布したり、巻き取ったりすることがある。
前者の場合には、水性分散体の塗膜には耐溶剤性が必要となる。溶剤系コーティング剤で使用される溶剤は、衛生面からトルエン等の芳香族系溶剤から、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどの溶剤へ置き換わっている。そこで、水性分散体の塗膜は、これらの溶剤に対する耐性が必要となる。
また、後者のように、水性分散体を基材に塗布した後に巻き取ったりする場合は、塗膜の耐ブロッキング性が必要となる。
【0007】
水性分散体に硬化剤を添加して、塗膜の耐溶剤性や耐ブロッキング性を改良することも可能であるが、硬化反応を十分進行させるために乾燥温度を高くする必要があったり、エージングを必要とする場合があるなど製造面に規制がかかる場合がある。さらには、水性分散体のポットライフの問題などが生じることもある。
【特許文献1】特開平9−296081号公報
【特許文献2】特開平7−19699号公報
【特許文献3】特開平9−296081号公報
【特許文献4】国際公開第02/055598号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記問題を解決し、塗膜の耐溶剤性、耐ブロッキング性、各種基材との密着性に優れたポリオレフィン樹脂含有水性分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂と変性ナイロン樹脂とを含む水性分散体から得られる塗膜が、耐溶剤性と、耐ブロッキング性と、各種基材との密着性とを満足することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、変性ナイロン樹脂(B)、および水性媒体を含有することを特徴とする水性分散体。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が不飽和カルボン酸成分で変性されており、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1〜30質量%であることを特徴とする(1)記載の水性分散体。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しており、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が1〜45質量%であることを特徴とする(1)または(2)記載の水性分散体。
(4)変性ナイロン樹脂(B)がアルコキシアルキル化されたナイロン樹脂であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の水性分散体。
(5)変性ナイロン樹脂(B)が不飽和カルボン酸成分を含有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の水性分散体。
(6)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と変性ナイロン樹脂(B)との質量比(A)/(B)が95/5〜10/90であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の水性分散体。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水性分散体から水性媒体を除去した塗膜。
(8)基材の少なくとも片面に(7)記載の塗膜を設けた積層体。
(9)基材が金属材料またはポリアミド樹脂である(8)記載の積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、酸変性ポリオレフィン樹脂と変性ナイロン樹脂とを含む水性分散体(コーティング剤)から得られる塗膜は、耐溶剤性、耐ブロッキング性、各種基材との密着性、特にポリアミド樹脂との密着性などの性能が良好である。このような性能は、酸変性ポリオレフィン樹脂と変性ナイロン樹脂とをそれぞれ単独に使用した場合には認められないものであった。また、本発明の水性分散体は一液でありポットライフが長く長期にわたり安定した性能を発現する。
上述のように得られた塗膜は各種基材への密着性に優れており、かつシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチルに対する耐性に優れるため、溶剤系のオーバーコート剤を塗布する場合のプライマーとして好適である。特に、電気機器、モータ、発電機、相間絶縁等の絶縁塗膜、変圧器、電線の被覆、コンデンサーなどの誘電体塗膜、情報記録用ディスクなどの塗膜や、電子写真感光体の下地剤などへの適用が可能であり、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、変性ナイロン樹脂(B)、および水性媒体を含有する。
水性媒体とは、水を主成分とする媒体であり、後述する塩基性化合物や水溶性有機溶剤を含有していてもよい。水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
【0012】
本発明における酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、酸性基を有しているポリオレフィン樹脂であり、例えば不飽和カルボン酸成分(A1)によって変性されたものである。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中の(A1)の含有量は、通常、0.1〜30質量%である。不飽和カルボン酸は、金属材料やポリアミド樹脂との密着性向上やポリオレフィン樹脂を水性媒体中に微細かつ安定に分散または溶解させる(水性化)ために必要であり、この量は、樹脂の水性化のし易さ、基材との密着性等のバランスの点から、0.5〜22質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1〜10質量%がさらに好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。(A1)の含有量が30質量%を超えると耐水性やオレフィン基材との密着性が低下してしまう。(A1)の含有量が0.1質量%未満の場合、基材との密着性が低下したり、樹脂を水性媒体中に分散し難くなる。
【0013】
不飽和カルボン酸成分(A1)は、不飽和カルボン酸や、その無水物により導入され、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。また、(A1)成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0014】
(A1)成分の一部は塩基性化合物で中和されていることが水性分散体の分散安定性の点から好ましい。塩基性化合物としては水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの金属水酸化物でもよいが、塗膜の耐水性の点から揮発性の塩基性化合物が好ましく、その具体例としては、アンモニアまたは各種の有機アミン化合物、好ましくはアンモニアまたは常圧下での沸点が250℃以下である有機アミン化合物が挙げられる。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が悪化する場合がある。
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に導入されたカルボキシル基は、上記した塩基性化合物によって少なくとも一部が中和されていればよく、水性分散体の分散安定性の点から、中和度は30〜100%であることが好ましく、50〜100%がより好ましく、70〜100%がさらに好ましく、80〜100%が特に好ましい。カルボキシル基(酸無水物を含む)の一部が中和されていることでアニオンを生じ、アニオンの静電気的反発力によって樹脂微粒子間の凝集を防ぎ、水性分散体を安定化させることができる。
【0015】
なお、酸無水物を導入した場合には、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、特に塩基性化合物を含有する媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造をとる場合がある。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のエチレン系炭化水素成分(A2)としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜6のアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等の炭素数2〜4のアルケンがより好ましく、特にエチレン、プロピレンが好ましい。オレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材との密着性や耐水性、耐溶剤性等のポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまう。
【0017】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中には、各種基材との密着性を向上させる点から、(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)を含有していることが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中の(A3)成分の含有量は、1〜45質量%であることが好ましく、様々な基材との良好な密着性を持たせるために、この範囲は1〜35質量%であることがより好ましく、3〜30質量%であることがさらに好ましく、5〜25質量%であることが特に好ましく、10〜25質量%であることが最も好ましい。(A3)成分の含有量が1質量%未満では、基材との密着性が低下する恐れがある。一方、(A3)成分の含有量が45質量%を超えてもオレフィン由来の樹脂の性質が失われ、基材フィルムとの密着性が低下するおそれがある。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル成分(A3)としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材の接着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜またはメタクリル酸〜」を意味する。)
【0019】
また、上記成分以外に他の成分を酸変性ポリオレフィン樹脂(A)全体の10質量%以下程度含有していてもよい。他の成分としては、1−オクテン、ノルボルネン類等の炭素数6を超えるアルケン類やジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0020】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、不飽和カルボン酸含有エチレン樹脂、不飽和カルボン酸含有プロピレン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−プロピレン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−ブテン樹脂、不飽和カルボン酸含有プロピレン−ブテン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−プロピレン−ブテン樹脂、不飽和カルボン酸含有エチレン−酢酸ビニル樹脂、およびさらに(メタ)アクリル酸エステル成分を含有する樹脂が挙げられる。
【0021】
本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが、通常0.001〜5000g/10分、好ましくは0.01〜1000g/10分、より好ましくは0.1〜500g/10分、さらに好ましくは1〜300g/10分、特に好ましくは1〜200g/10分のものを用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが0.001g/10分未満では、基材との密着性が低下したり、樹脂の水性化が困難になる。一方、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが5000g/10分を超えると、塗膜は硬くてもろくなり、基材との密着性が低下してしまう。
【0022】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は塩素化されていてもよく、その場合塩素化率は5〜50質量%が適当である。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を塩素化する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、塩素化させたい樹脂をクロロホルム等の塩素系溶剤に溶解させた後、紫外線を照射しながら、または、ラジカル発生剤の存在下で、ガス状の塩素を吹き込むことにより行うことができる。
【0023】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体としては市販のものを用いることができ、例えば、ユニチカ社製「アローベースシリーズ」、三井化学社製「ケミパールシリーズ」、住友精化「ザイクセンシリーズ」、東邦化学社製「ハイテックシリーズ」などが挙げられる。また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を公知の方法で水性分散体として使用することもできる。
【0024】
本発明において、変性ナイロン樹脂(B)を構成するナイロン樹脂の具体例としては、6−ナイロン、66−ナイロン、46−ナイロン、610−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、6/66/610/11/12共重合ナイロンなどが挙げられる。これら重合体または共重合体は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。中でも、各種性能のバランスから、6−ナイロン、66−ナイロン、46−ナイロン、12−ナイロンが好ましく、工業的に入手し易い点から、6−ナイロンがより好ましい。
【0025】
本発明において変性ナイロン樹脂(B)は、上記ナイロン樹脂を変性したものであればよいが、塗膜性能向上の点から、上記ナイロン樹脂がアルコキシアルキル化された樹脂であることが好ましい。アルコキシアルキル化は公知の方法で行うことができ、メトキシメチル化、エトキシメチル化、ブトキシメチル化を挙げることができ、これらが好ましい。これによってアルコールに可溶化することができ、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体と安定に混合することができる。
【0026】
変性ナイロン樹脂(B)を水性分散体とするためには、変性ナイロン樹脂(B)はさらに不飽和カルボン酸成分を含有することが好ましい。不飽和カルボン酸成分としては、前述の化合物を使用することができる。
不飽和カルボン酸成分の含有量は、通常、ポリアミド樹脂100質量部に対して1〜100質量部であり、5〜80質量部が好ましく、10〜60質量部がより好ましく、20〜60質量部がさらに好ましい。不飽和カルボン酸成分の量が1質量部未満では水性分散体として得ることが困難になり、100質量部以上では塗膜の耐水性が低下する。なお、不飽和カルボン酸成分の一部は前述した塩基性化合物で中和されていることが分散体の安定性の面から好ましい。
【0027】
変性ナイロン樹脂(B)としては市販のものを使用することができ、例えば、鉛市社製「FRシリーズ」、「EMシリーズ」を挙げることができる。
【0028】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と変性ナイロン樹脂(B)の質量比(A)/(B)は、塗膜の耐溶剤性、耐ブロッキング性、各種基材との密着性のバランスの点から、95/5〜10/90が好ましく、95/5〜25/75がより好ましく、95/5〜50/50がさらに好ましく、95/5〜60/40が特に好ましい。(A)の含有量が10質量%未満の場合は、塗膜の耐溶剤性、基材との密着性が低下する傾向にあり、逆に95質量%を超えると耐ブロッキング性は低下の傾向がある。
【0029】
本発明の水性分散体には、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、硬化剤を添加することができる。
硬化剤としては、自己架橋性を有する硬化剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができ、このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、アジリジン化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。また、これらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。硬化剤の中でも、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能向上の点から、イソシアネート化合物、エポキシ化合物が好ましく、イソシアネート化合物が特に好ましい。
硬化剤の添加量は、水性分散体中の樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜30質量部である。硬化剤の添加量が0.1質量部未満の場合は、塗膜性能の向上の程度が小さく、50質量部を超える場合は、水性分散体の液安定性や加工性等の塗膜性能が低下してしまう。
【0030】
本発明の水性分散体には、さらに他の重合体の水性分散体、粘着付与成分等を添加することができる。
他の重合体の水性分散体としては、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができる。これらは、2種以上を混合して使用してもよい。
粘着付与成分としては、ロジン類、テルペン類、石油樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂から選ばれる少なくとも1種の成分を用いることができる。ロジン類としては、重合ロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、及びこれらのグリセリンエステル、ペンタエリスリトールエステル、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、エチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステル、トリエチレングリコールエステルなどが挙げられる。テルペン類としては、低重合テルペン系、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、テルペンフェノール系、芳香族変性テルペン系、水素添加テルペンなど挙げられる。石油樹脂としては、炭素数5個の石油留分を重合した石油樹脂、炭素数9個の石油留分を重合した石油樹脂、及びこれらを水素添加した石油樹脂、マレイン酸変性、フタル酸変性した石油樹脂などが挙げられる。
【0031】
本発明において、水性分散体における樹脂含有率は、成膜条件、目的とする樹脂層の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、水性分散体の粘性を適度に保ち、かつ良好なプライマー層形成能を発現させる点で、1〜50質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましく、5〜45質量%がさらに好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0032】
水性分散体中の界面活性剤の使用量は、少ないほど塗膜の耐水性、耐溶剤性、基材との密着性が向上し、また衛生面での問題も生じないことから、水性分散体中の酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して10質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。なお、「界面活性剤を実質的に含有しない」とは、界面活性剤を製造時(樹脂の分散時)に用いず、得られる水性分散体が結果的に界面活性剤を含有しないことを意味する。
【0033】
本発明において界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性(非イオン性)界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、反応性界面活性剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、乳化剤類も含まれる。例えば、アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸およびその塩、アルキルベンゼンスルホン酸およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体等やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン誘導体等が挙げられ、両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。反応性界面活性剤としては、アルキルプロペニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩、アリルジアルキルフェノールポリエチレンオキサイド付加物やこれらの硫酸エステル塩等の反応性2重結合を有する化合物が挙げられる。これらを使用する場合には、塗膜からのブリードアウトをできるだけ避ける観点から、分子量が5000以上のものを用いることが好ましく、10000以上のものがより好ましく、15000以上のものがさらに好ましい。
【0034】
本発明の水性分散体には、使用目的に応じて顔料または染料を添加してもよい。使用する顔料または染料は特に限定されるものではなく、一般的に使用されているものを適宜選択すれば良い。顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、硫化カドミウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、黄鉛、酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、ジアゾ系、縮合アゾ系、チオインジゴ系、インダンスロン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ベンゾイミダゾール系、ペリレン系、ペリノン系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラピリジン系、ジオキサジン系などの有機顔料が挙げられる。また、染料としては直接染料や反応染料、酸性染料、カチオン染料、バット染料、媒染染料などが挙げられる。上記の顔料または染料は単独もしくは2種類以上が含有されていても差し支えない。
【0035】
さらに、本発明の水性分散体には、必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤等の各種薬剤を添加することも可能である。また、水性分散体の保存安定性を損なわない範囲で上記以外の有機もしくは無機の化合物を添加することも可能である。
【0036】
本発明の水性分散体は、塗膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂塗膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間は、基材の特性や架橋剤の種類、配合量等により適宜選択されるものであり、特に限定されず、例えば、加熱温度50〜250℃程度の範囲で使用できる。また、架橋反応を進行させるために20℃〜60℃程度でエージング処理を行ってもよい。
【0037】
本発明の水性分散体は、各種材料に対する良好な密着性を有することから、前記のようにして水性分散体から水性媒体を除去することにより、良好な塗膜を形成することができる。得られた塗膜は様々な基材に対する密着性が良好であり、塗膜の耐溶剤性、耐ブロッキング性も良好であることから各種基材のプライマーとしての使用が好適である。
【0038】
本発明の水性分散体が塗布される基材としては、紙、合成紙、各種熱可塑性樹脂のフィルムや成形体、ガラス、金属材料(アルミ箔、銅箔など)、プラスチック等が挙げられ、特に限定されないが、本発明の水性分散体は、比較的低温の条件で熱処理でも基材に対する優れた密着性が得られるため、耐熱性の比較的低い基材、例えば、融点が180℃以下の熱可塑性樹脂(PP、PE、ポリアミド等)へ適用できる。中でも、基材としては、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、金属材料、ポリアミド樹脂成形体が好ましい。
【0039】
基材としての熱可塑性樹脂フィルムは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、製法も限定されるものではない。熱可塑性樹脂フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常5〜500μmの範囲のものを用いる。
【0040】
熱可塑性樹脂フィルムは、フィラーを含有していてもよい。フィラーとしては、無機系のものが好ましく、炭酸カルシウム、クレイ、シリカ、けいそう土、タルク、酸化チタン、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、アルミナ等を挙げることができる。
【0041】
本発明の水性分散体から水性媒体を除去してなる塗膜は、前述した基材に設けることが好ましい。塗膜層の厚みは、特に限定されないが、0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜20μmであることがより好ましく、0.1〜10μmであることがさらに好ましく、0.1〜7μmであることが特に好ましい。厚みが0.01μm未満ではプライマーとしての効果が小さく、30μmを超えると乾燥時間が長くなる。
【0042】
さらに上記プライマー層を介して、さらに別の塗剤を塗布、乾燥することで積層体とすることができる。この塗剤は溶剤系でも水系でも差し支えない。また、本発明の塗膜を接着層として別の基材を貼りあわせて積層体としてもよい。
【0043】
本発明の水性分散体から得られる塗膜は、各種基材への密着性に優れており、かつシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチルに対する耐性に優れるため、溶剤系のオーバーコート剤を塗布する場合のプライマーとして好適である。特に、電気機器、モータ、発電機、相間絶縁等の絶縁塗膜、変圧器、電線の被覆、コンデンサーなどの誘電体塗膜、情報記録用ディスクなどの塗膜などへの適用が可能であり、産業上の利用価値は極めて高い。
【実施例】
【0044】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
なお、各種の特性については以下の方法によって測定または評価した。
1.酸変性ポリオレフィン樹脂の特性
(1)構成
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。酸変性ポリオレフィン樹脂は、オルトジクロロベンゼン(d)を溶媒とし、120℃で測定した。
(2)メルトフローレート(MFR)
JIS 6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0046】
2.水性分散体の特性
(1)固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
(2)ポットライフ
水性分散体を室温および40℃で90日放置したときの外観を、次の3段階で評価した。
○:外観に変化なし、または加熱で低粘度化(塗工可能)
×:固化、凝集や沈殿物の発生、加熱しても低粘度化しない(塗工不可)
【0047】
3.材料特性
以下の評価においては、熱可塑性樹脂フィルムとして、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製エンブレットPET12、厚み12μm、以下、PET)、2軸延伸ナイロン6フィルム(ユニチカ社製エンブレム、厚み15μm、以下、Ny)、延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製、厚み50μm、以下、PP)、未延伸ポリエチレンフィルム(タマポリ社製、厚み40μm、以下、PE)を用いた。金属材料としてはアルミ箔を用いた。
【0048】
(1)塗膜の耐水性
アルミ箔に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で1分間、乾燥させた。得られた積層体は1日放置後、60℃の温水に24時間浸漬し、風乾燥後の塗膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし
△:塗膜がくもる
×:塗膜が完全に溶解、または剥離
【0049】
(2)塗膜の耐溶剤性
アルミ箔に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で1分間、乾燥させた。得られた積層体は1日放置後、40℃のシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、酢酸エチルにそれぞれ24時間浸漬し、風乾燥後の塗膜の状態を目視で評価した。
○:変化なし
△:塗膜がくもる、または一部に溶解の痕跡あり
×:塗膜が完全に溶解、または剥離
【0050】
(3)耐ブロッキング性
アルミ箔に本発明の水性分散体を乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、120℃で1分間、乾燥させた。得られた積層体を室温で1日放置後、コート面に2軸延伸PETフィルムの非コロナ処理面を重ね合わせた状態で、0.02MPaの負荷をかけ、40℃、65%RHの雰囲気下で24時間放置後、その耐ブロッキング性を次の3段階で評価した。
○:フィルムを軽く持ち上げる程度で剥離する。
△:フィルムを引っ張ることで剥離する(塗膜の凝集破壊はない)。
×:フィルムを引っ張っても剥離しない、または塗膜の凝集破壊が認められる。
【0051】
(4)基材/塗膜層の密着性
各種基材に水性分散体を乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、90℃で3分間、乾燥させた。得られた積層体は室温で1日放置後、表面にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を目視で評価した。
○:全く剥がれなし
△:一部、剥がれた
×:全て剥がれた
【0052】
(5)クロスカット・テープ剥離試験による密着性
JIS K5400 8.5.2に準じて評価した。ガラス繊維を30質量%含有したナイロン6樹脂(ユニチカ社製A1030BRT)の射出成形体の表面に、水性分散体を乾燥後の塗膜の厚みが2μmになるようにマイヤーバーを用いてコートした後、90℃で3分間、乾燥させた。得られた積層体は室温で1日放置後、評価した。積層体表面をクロスカットし、1mm×1mm×100個の碁盤目部分にセロハンテープ(ニチバン社製TF−12)を貼り付け、テープを一気に剥がし、剥離せずに残っている数で評価した。「n/100」は、試験後に100個の碁盤目中のn個が剥離せず残っていることを示す。
【0053】
4.原料
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は市販のものを使用した。以下の水性分散体の製造において使用した酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の組成を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1の製造)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂〔ボンダインHX−8290、アルケマ社製〕、60.0gのイソプロパノール(和光純薬社製)、2.2gのトリエチルアミン(和光純薬社製)および177.8gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1を得た。
【0056】
(酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2の製造)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂〔ボンダインTX−8030、アルケマ社製〕、90.0gのイソプロパノール(和光純薬社製)、2.2gのトリエチルアミン(和光純薬社製)および147.8gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を120℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−2を得た。
【0057】
実施例1
変性ナイロン(B)の水性分散体としては、FR−700E(鉛市社製、メトキシメチル化6−ナイロン樹脂、アニオン性、固形分20質量%)(以下、FR700Eとする)を用いた。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体E−1とFR700Eとを、固形分質量比E−1/FR700Eが75/25になるように配合し、室温で5分間、混合攪拌し、水性分散体W−1を得た。W−1を用いて各種性能評価を行った。
【0058】
実施例2〜5
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1とFR700Eとを、固形分質量比E−1/FR700Eが90/10(実施例2)、50/50(実施例3)、35/65(実施例4)、20/80(実施例5)、になるに配合し実施例1と同様の方法でW−2〜W−5を得た。W−2〜W−5を用いて各種性能評価を行った。
【0059】
実施例6、7
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1に変えてE−2を用いた。固形分質量比E−2/FR700Eが80/20(実施例6)、60/40(実施例7)になるに配合し実施例1と同様の方法でW−6、W−7を得た。W−6、W−7を用いて各種性能評価を行った。
【0060】
実施例8
実施例1で作製したW−1を用い、各評価における塗膜厚みを0.3μmとした以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0061】
比較例1〜2
それぞれ単独の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E−1(比較例1)、E−2(比較例2)を用いて各種性能評価を行った。
【0062】
比較例3
変性ナイロン(B)の水性分散体FR700Eを単独で用い、各種性能評価を行った。
【0063】
実施例1〜8、比較例1〜3の結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1〜8で示すように酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と変性ナイロン樹脂(B)とを含有する水性接着剤は、塗膜の耐水性、耐溶剤性、耐ブロッキング性、および各種基材との密着性が良好であった。特筆すべきは、比較例1〜3との比較から、(A)、(B)それぞれ単独では全ての性能を満足できなかったものが(A)と(B)の両者を含有することで(好ましくは特定の割合で含有する)、全ての性能を満足できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、変性ナイロン樹脂(B)、および水性媒体を含有することを特徴とする水性分散体。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が不飽和カルボン酸成分で変性されており、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の水性分散体。
【請求項3】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が(メタ)アクリル酸エステル成分を含有しており、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が1〜45質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の水性分散体。
【請求項4】
変性ナイロン樹脂(B)がアルコキシアルキル化されたナイロン樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項5】
変性ナイロン樹脂(B)が不飽和カルボン酸成分を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項6】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と変性ナイロン樹脂(B)との質量比(A)/(B)が95/5〜10/90であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水性分散体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の水性分散体から水性媒体を除去した塗膜。
【請求項8】
基材の少なくとも片面に請求項7記載の塗膜を設けた積層体。
【請求項9】
基材が金属材料またはポリアミド樹脂である請求項8記載の積層体。




【公開番号】特開2009−286918(P2009−286918A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141814(P2008−141814)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】