説明

水性剥離剤、その製造方法及び粘着テープ

【課題】
貯蔵安定性及び塗工性に優れ、しかも基材への密着性や、剥離性と重ね貼り性などのバランスに優れた水性剥離剤、その製造方法及び粘着テープを提供する。
【解決手段】
長鎖アルキル系剥離剤(A)とロジン系樹脂(B)を含む水性剥離剤組成物であって、長鎖アルキル系剥離剤(A)100重量部に対しロジン系樹脂(B)5〜100重量部が、乳化剤の存在下で、水系溶媒中に分散されていることを特徴とする水性剥離剤その製造方法及び粘着テープ。

【採用する図面】ナシ

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性剥離剤及びその製造方法に関する。詳しくは貯蔵安定性及び塗工性に優れ、しかも基材への密着性や、剥離性と重ね貼り性などのバランスに優れた水性剥離剤及びその製造方法に関する。さらには当該水性剥離剤を紙などの基材の背面処理層に塗布してなるマスキング用途に好適な粘着テープに関する。

【背景技術】
【0002】
粘着テープは、通常その粘着面の保護のため、ロール状に巻いて粘着面を基材背面(粘着面とは反対の面)に貼着することが行われている。この基材の背面には、使用時における剥離を容易にするため、剥離剤が塗布されている。上記剥離剤には長鎖アルキルグラフトポリマー等があり、従来は有機溶剤を溶媒としたいわゆる油性剥離剤として使用されてきたが、最近では環境および衛生上の問題や各種規制などにより、水を媒体としたいわゆる水性剥離剤が提案されている(特許文献1−4参照)。
たとえば、特許文献1には、重合度が300〜5000、鹸化度50モル%以上の酢酸ビニル(共)重合体(a)の水酸基1当量に対し、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、ケテン基、アルデヒド基及びエポキシ基からなる群より選ばれ、水酸基と反応する官能基を有し、アルキル基の炭素数が6〜30である長鎖アルキル化合物(b)を官能基換算で0.5当量以上の割合で反応させて得られる離型剤成分〔A〕と、高分子界面活性剤〔B〕とからなる離型剤組成物が、水に分散されていることを特徴とする水分散系離型剤が開示されている。さらに、特許文献4には、剥離性成分、乳化剤、及びオクタデシルビニルエーテル及び/又はエチレンビスオレイン酸アミドからなる堅牢性向上剤を含んでなる、ことを特徴とする水性剥離剤であって、剥離性成分が、重合度が300〜5000、鹸化度50モル%以上の酢酸ビニル(共)重合体の水酸基1当量に対し、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、ケテン基、アルデヒド基及びエポキシ基からなる群より選ばれ、水酸基と反応する官能基を有し、アルキル基の炭素数が6〜30である長鎖アルキル化合物を官能基換算で0.5当量以上の割合で反応させて得られるものであることを特徴とする水性剥離剤が開示されている。
しかし、これら水性剥離剤は、乳化時に乳化剤を多量に使用したり、乳化時に使用した溶剤が残存していたり、また乳化性が不充分であるなどの問題から、貯蔵安定性、塗工性、基材への密着性、剥離性などのバランスを充分満足できるものは存在しなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平9−324172号公報
【特許文献2】特開平11−172225号公報
【特許文献3】特開2000−191929号公報
【特許文献4】特開2001−172585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、貯蔵安定性及び塗工性に優れ、しかも基材への密着性や、剥離性と重ね貼り性などのバランスに優れた環境にやさしい水性剥離剤、その製造方法及びマスキング用途に好適な粘着テープを提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、長鎖アルキル系剥離剤と特定のロジン系樹脂の配合物を、乳化剤の存在下に乳化して得られる水性剥離剤が、前記目的を達成しうることを見出した。本発明はかかる新たな知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
本発明は、長鎖アルキル系剥離剤とロジン系樹脂の配合物を、乳化剤の存在下に乳化して得られる水性剥離剤、その製造方法、及び当該水性剥離剤を紙などの基材の背面処理層の剥離剤として用いた粘着テープ及びマスキング用途に使用される粘着テープに関する。
すなわち、本発明は、長鎖アルキル系剥離剤(A)とロジン系樹脂(B)を含む水性剥離剤組成物であって、長鎖アルキル系剥離剤(A)100重量部に対しロジン系樹脂(B)5〜100重量部が、乳化剤の存在下で、水系溶媒中に分散されていることを特徴とする水性剥離剤である。
また本発明は、長鎖アルキル系剥離剤(A)を、重合度が300〜5000、鹸化度50モル%以上の酢酸ビニル(共)重合体の水酸基1当量に対し、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、ケテン基、アルデヒド基およびエポキシ基からなる群より選ばれ、水酸基と反応する官能基を有し、アルキル基の炭素数が6〜30である長鎖アルキル化合物を官能基換算で0.5当量以上の割合で反応させて得られるポリマーとすることができる。
さらに、本発明は、ロジン系樹脂(B)を、Tg(ガラス転移温度)が0℃以下のロジンエステルとすることが望ましい。
また本発明は、長鎖アルキル系剥離剤(A)100重量部に対しロジン系樹脂(B)5〜100重量部を配合した剥離剤組成物が、乳化剤の存在下で水系溶媒中に分散されている水性剥離剤100重量部(固形換算)に対し、セラックのアルカリ水溶液(C)を、5〜2000重量部(固形換算)配合されていることを特徴とする水性剥離剤である。
さらに、本発明は、セラックのアルカリ水溶液(C)が5〜40重量%のセラックを含み、アルカリがアンモニア水であることが好ましい。
また本発明は、長鎖アルキル系剥離剤(A)100重量部に対しロジン系樹脂(B)5〜100重量部を溶融混合後、常圧もしくは加圧下で乳化剤を練り込んでいき、次いで水を添加して転相させることを特徴とする水性剥離剤の製造方法である。
さらに、本発明の製造方法においては、このようにして得られた水性剥離剤100重量部(固形換算)に、セラックのアルカリ水溶液(C)を5〜2000重量部(固形換算)配合することができる。
また本発明は、本発明の水性剥離剤を、粘着剤層、基材層、背面処理層からなる粘着テープにおいて、背面処理層の剥離剤として用いることができる。
さらに、本発明の粘着テープでは、基材を紙とすることができ、典型的には、マスキング用途に使用することができる。

【発明の効果】
【0007】
本発明の水性剥離剤は、貯蔵安定性および塗工性に優れ、しかも当該水性剥離剤を背面処理層の剥離剤として用いた粘着テープは、基材への密着性や、剥離性と重ね貼りなどのバランスに優れた水性剥離剤であり、とくにセラック水溶液を混合した水性剥離剤は、基材への密着性や、剥離性と重ね貼りなどのバランスが高いレベルで優れるだけでなく、耐溶剤性にも優れるという特徴を有する。
また、本発明によれば、危険な溶剤類を含まず、天然物由来のロジンやセラックを用いていることから環境にも優しく、特に紙基材の場合は、マスキング用途に好適であるという特徴を有する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用する長鎖アルキル系剥離剤とは、ポリオールやポリアミン等の幹ポリマーに、長鎖アルキル基等の長鎖炭化水素基をグラフトさせたポリマーを云い既に特許文献1〜4にも提示したように公知の物質である。
本発明では、これらのポリマーのうち、重合度が300〜5000、鹸化度50モル%以上の酢酸ビニル(共)重合体の水酸基1当量に対し、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、ケテン基、アルデヒド基およびエポキシ基からなる群より選ばれ、水酸基と反応する官能基を有し、アルキル基の炭素数が6〜30である長鎖アルキル化合物を官能基換算で0.5当量以上の割合で反応させて得られるポリマーを用いるのが好ましい。
上記ポリマーの反応成分である酢酸ビニル(共)重合体には、酢酸ビニルの単独重合体もしくは酢酸ビニルとビニル化合物との共重合体があり、後者の例としては、酢酸ビニル−エチレン重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等が挙げられる。当該酢酸ビニル(共)重合体の重合度は、500〜3000、好ましくは800〜2500である。重合度が500より小さいと剥離性能が不充分であり、3000より大きいと剥離剤の水への分散性が悪くなるため好ましくない。また酢酸ビニル(共)重合体は酢酸ビニル部分を鹸化して用いるが、その鹸化度は50モル%以上であり、好ましくは60モル%以上である。鹸化度が50モル%より小さい場合は剥離性能が低下するため好ましくない。
【0009】
上記ポリマーのもう一方の反応成分である長鎖アルキル化合物は、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、ケテン基、アルデヒド基およびエポキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有し、部分鹸化酢酸ビニル(共)重合体の水酸基と反応するものであり、アルキル基の炭素数は6〜30、好ましくは8〜28である。アルキル基の炭素数が6未満では剥離性能が低下し、30を超えると部分鹸化酢酸ビニル(共)重合体との反応性が低下するため好ましくない。長鎖アルキル化合物としては特に限定されないが、例えば、イソシアネート基を有するものとしては、オクチルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ドコサニルイソシアネート等が挙げられ、カルボキシル基を有するものとしては、オクタン酸、ドデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸等が挙げられ、酸ハライド基を有するものとしては、オクタノイルクロライド、ドデカノイルクロライド、ドコサノイルクロライド等が挙げられ、ケテン基を有するものとしては、オクチルケテンダイマー、ドデシルケテンダイマー、オクタデシルケテンダイマー、ドコサニルケテンダイマー等が挙げられ、アルデヒド基を有するものとしては、オクチルアルデヒド、ドデシルアルデヒド、オクタデシルアルデヒド、ドコサニルアルデヒド等が挙げられ、エポキシ基を有するものとしては、オクチルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、オクタデシルグリシジルエーテル、ドコサニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0010】
本発明の長鎖アルキル系剥離剤は、部分鹸化酢酸ビニル(共)重合体の水酸基1当量に対し、長鎖アルキル化合物が官能基換算で0.5当量以上の割合で反応させられたものである必要があり、好ましくは0.6当量以上である。0.5当量未満では、剥離性能が不充分であり好ましくない。
【0011】
本発明では、基材への密着性、造膜性、乳化性の向上などを目的に、長鎖アルキル系剥離剤の改質剤としてロジン系樹脂を配合してもよい。ロジン系樹脂としては、ガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジンの原料ロジン、または前記原料ロジンを不均化もしくは水素添加処理した安定化ロジンや重合ロジン、更には前記ロジン類の誘導体であるロジンエステル類、ロジンフェノール類が挙げられ、これらの1種を単独で、または2種以上を混合物として使用できる。ロジンエステル類とは、前記ロジン類とアルコール類とをエステル化反応させたもの、またロジンフェノール類とはロジン類にフェノール類を付加させ熱重合したもの、または次いでエステル化したものをいう。なお、前記エステル化に用いられるアルコール類は、特に制限はされず、メタノール、2−エチルヘキシルアルコールなどの1価アルコール類;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどの2価アルコール類またはこれらのモノアルキルエーテル類;グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類など各種公知のものを例示でき、これらの1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用できる。また、前記ロジン類にエチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド類を付加反応させて得られる化合物も、上記ロジンエステル類と同様に使用できる。
【0012】
これらロジン系樹脂の種類や軟化点は特に限定されず、各種目的に応じて200℃以下の高軟化点のものから液状のものまでを、適宜選択して使用できるが、乳化性や基材への密着性をより向上させる目的では、Tg(ガラス転移温度)が0℃以下のロジンエステルを用いることが好ましい。より詳しくは、ロジン類のジエチレングリコールエステル、ロジン類のトリエチレングリコールエステル、ロジン類の2エチルヘキシルアルコールエステルなどが好ましい。
【0013】
長鎖アルキル系剥離剤とロジン系樹脂の使用割合は、通常長鎖アルキル系剥離剤100重量部に対し、ロジン系樹脂を5〜100重量部程度とするのがよく、好ましくは10〜70重量部である。ロジン系樹脂が5重量部に満たない場合には、ロジン系樹脂を添加することによる改質がほとんど認められず、また100重量部を越える場合には剥離性能が低下する傾向にありいずれの場合も適当ではない。
【0014】
また、乳化剤としては、一般に知られている各種のアニオン性、カチオン性、両性もしくはノニオン性の低分子または高分子乳化剤を使用できる。
【0015】
たとえば、低分子のアニオン性乳化剤としては、α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアラルキルエーテルのスルホコハク酸のハーフエステル塩、ロジン石鹸などがあげられ、カチオン性乳化剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩などがあげられる。また両性乳化剤としては、各種のアミノ酸型またはベタイン型のものがあげられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどがあげられる。更に高分子乳化剤としては、各種のアニオン性単量体、カチオン性単量体またはノニオン性単量体を共重合して得られるアニオン性、カチオン性、両性またはノニオン性の各種の共重合型乳化剤があげられる。
【0016】
本発明で使用する乳化剤の種類は、水性剥離剤の用途に応じて適宜選択すればよく、前記乳化剤の1種を単独でまたは2種以上を混合して使用できる。乳化剤の使用量は、通常長鎖アルキル系剥離剤およびロジン系樹脂の配合物100重量部に対し、固形分換算で1〜20重量部程度、好ましくは3〜15重量部である。乳化剤の使用量が1重量部より少ない場合には水性剥離剤の貯蔵安定性が悪くなり、また、20重量部より多い場合には耐水性や残存粘着力が低下するため好ましくない。
【0017】
本発明では、長鎖アルキル系剥離剤とロジン系樹脂の配合物を、水系溶媒中で乳化剤の存在下に乳化して水性剥離剤を製造する。乳化の方法は特に制限されず、公知の乳化方法である高圧乳化法、反転乳化法、超音波乳化法、溶剤乳化法などのいずれの方法を採用してもよいが、環境問題を考慮した場合、溶剤を使用しない無溶剤系反転乳化法を採用するのが好ましい。無溶剤系反転乳化法の場合は、長鎖アルキル系剥離剤とロジン系樹脂の配合物を軟化点以上で溶融し、常圧もしくは加圧下でこれに乳化剤を練り込んでいき、次いで水を添加して転相させて水性剥離剤を得ることができる。
【0018】
なお、本発明における水系溶媒とは、基本的に水からなり、水及び親水性の有機溶媒を使用することができ、溶媒の70重量%以上、さらには90重量%以上が水であることが好ましい。
本発明において用いられる親水性の有機溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。
【0019】
かくして得られた水性剥離剤の固形分濃度は特に限定されないが、通常10〜70重量%程度となるように適宜に調整して保存され、使用時には必要に応じて水で希釈して用いる。また、得られた水性剥離剤の平均粒子径は、通常0.2〜2μm程度であり、大部分は1μm以下の粒子として均一に分散している。なお、平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−2000」((株)島津製作所製)を用いて測定した値である。また、該水性剥離剤は白色ないし乳白色の外観を呈し、3〜9程度のpH値を有する。
【0020】
本発明では、前記水性剥離剤にセラックのアルカリ水溶液(C)を配合することができる。セラック(シェラック)とは、インド、タイ、中国南部において主に生産され、豆科、桑科等の灌木に寄生するラックカイガラムシの分泌物から得られる樹脂状物質を精製したものであり、その精製の程度により各種グレードがあり、精製セラック、脱色セラック、白色セラック等と呼ばれている。本発明に用いるセラックは、これら何れのセラックを用いても良く、特定のグレードに限定されるものではない。
本発明では、セラックをアルカリ水溶液(C)として水性剥離剤に配合する。アルカリの種類は、水に溶けてアルカリ性を呈するものであれば特に限定されないが、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、エタノールアミン、モルホリン、ホウ砂などが挙げられ、これらの中で、乾燥性や耐水性に優れる点で、アンモニア水を用いるのが好ましい。セラックのアルカリ水溶液の調製方法は、特に限定されないが、例えば、セラックの酸価当量以上のアンモニアを水に分散させ、ここにセラックを攪拌しながら添加し、更に加熱しながら攪拌溶解させることで、セラックのアルカリ水溶液(C)を得ることができる。
本発明では、水性剥離剤にセラックのアルカリ水溶液(C)を配合する場合、その配合量は、水性剥離剤100重量部(固形換算)に対し、セラックのアルカリ水溶液(C)を5〜2000重量部(固形換算)配合することができる。配合量が5重量部(固形換算)未満ではセラックのアルカリ水溶液を添加する効果が見られず、2000重量部(固形換算)を超えると剥離力が低下するため好ましくない。
本発明の水性剥離剤は、本発明の目的を逸脱しない範囲で各種公知のポリマーエマルションや樹脂エマルション、ゴム系ラテックスなどの水性製品を配合して使用することも可能である。またこれらのほかに、必要に応じて、濡れ性向上剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、耐水化剤、造膜助剤、防腐剤等の各種公知の添加剤を適宜含有してもよい。
【0021】
本発明の水性剥離剤は、粘着テープの背面(粘着面とは反対の面)に剥離性を付与するために使用され、水性剥離剤を基材背面に塗布し加熱乾燥させることで、剥離層を設けることができる。上記基材には、和紙、クラフト紙、上質紙、クレープ紙等の紙類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等のプラスチックフィルム類、不織布、布等の布類などが挙げられ、特に限定されるものではない。これらの中で、マスキング用途には和紙やクレープ紙などの紙基材が一般に使用されており、紙基材には、基材強度の向上や、粘着剤や剥離剤の染み込みを抑えたり基材との密着を向上させたりする目的で、各種含浸剤やアンカー剤(アンダーコート剤)、背面処理剤などの層を設けられたものがより好適に用いられる。含浸剤などの種類や形態は特に限定されず、例えばアクリル系共重合体やスチレン−ブタジエンゴムのエマルションなどが挙げられる。
【0022】
水性剥離剤の塗布方法は、特に限定されるものではないが、例えばロールコーター、グラビアコーター、メイヤーバーコーター、リップコーターなどの一般的な塗布装置を用いて基材背面に塗布し、加熱・乾燥炉を通して水を揮散させる方法が挙げられる。乾燥炉の種類も特に限定されず、例えばドラムドライヤー乾燥機、エアジェット乾燥機、フローティング乾燥機などが挙げられる。
【0023】
以下に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。尚、各例中、部及び%は重量基準である。
【0024】
(製造例1)
<長鎖アルキル系剥離剤(A)の製造>
攪拌機、冷却器、滴下ロート、温度計を備えた反応容器中で、ポリビニルアルコール(重合度1100、鹸化度98モル%)10gを、脱水したキシレン50g中に分散させ、還流温度で、オクタデシルイソシアネート67gと触媒(ジラウリン酸ジブチル錫)0.01gを加えて2時間反応させた。その後40℃まで冷却し、反応溶液を1000gのメタノール中に注いで得た白色沈殿物を、メタノール、次いでヘキサンで洗浄し、乾燥させて長鎖アルキル系剥離剤(A−1)を得た。
【0025】
(製造例2)
<セラックのアルカリ水溶液(C)の調整>
攪拌機、冷却器、温度計を備えた容器中で、水583gに25%アンモニア水17gを添加してアルカリ水を調整し、その中にセラック(商品名『パールN-811』、岐阜セラック製造所製)200gを攪拌しながらゆっくり投入し、更に攪拌を行いながら60〜70℃に加温し、セラック樹脂が完全に溶解するまでに120分間攪拌を続け、固形分25%のセラック水溶液(C−1)を得た。
【実施例1】
【0026】
攪拌機、冷却器、温度計を備えた反応容器に、製造例1で得た長鎖アルキル系剥離剤(A−1)140gと、ロジン系樹脂としてTgが−28℃の不均化ロジンの2エチルヘキシルアルコールエステル60gを入れ、120℃で攪拌しながら1時間溶融混合後90℃まで冷却し、乳化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=13)20gと熱水25gを加えて80℃で90分間混練を行った。ついで熱水195gを加えて10分間強攪拌することにより、固形分50%、平均粒子径0.5μmの水性剥離剤(a)を得た。
【実施例2】
【0027】
実施例1において、長鎖アルキル系剥離剤(A−1)160g、ロジン系樹脂としてTgが−18℃のロジンのトリエチレングリコールエステル40gを用いた以外は実施例1と同様にして、固形分50%、平均粒子径0.6μmの水性剥離剤(b)を得た。
【実施例3】
【0028】
(ロジン系樹脂約5部の例)
実施例1において、長鎖アルキル系剥離剤(A−1)190g、ロジン系樹脂としてTgが−18℃のロジンのトリエチレングリコールエステル10gを用いた以外は実施例1と同様にして、固形分50%、平均粒子径0.7μmの水性剥離剤(c)を得た。
【実施例4】
【0029】
(ロジン系樹脂約100部の例)
実施例1において、長鎖アルキル系剥離剤(A−1)100g、ロジン系樹脂としてTgが−18℃のロジンのトリエチレングリコールエステル100gを用いた以外は実施例1と同様にして、固形分50%、平均粒子径0.4μmの水性剥離剤(d)を得た。
【実施例5】
【0030】
(セラックアルカリ水溶液併用の例、固形比約100/6)
実施例1で得た水性剥離剤(a)100gに、製造例2で得られたセラック水溶液(C−1)12gを攪拌混合し、目的の水系剥離剤(e)を得た。
【実施例6】
【0031】
(セラックアルカリ水溶液併用の例、固形比約100/30)
実施例1で得た水性剥離剤(a)100gに、製造例2で得られたセラック水溶液(C−1)60gを攪拌混合し、目的の水系剥離剤(f)を得た。
【実施例7】
【0032】
(セラックアルカリ水溶液併用の例、固形比約100/600)
実施例1で得た水性剥離剤(a)10gに、製造例2で得られたセラック水溶液(C−1)120gを攪拌混合し、目的の水系剥離剤(g)を得た。
【実施例8】
【0033】
(セラックアルカリ水溶液併用の例、固形比約100/2000)
実施例1で得た水性剥離剤(a)4gに、製造例2で得られたセラック水溶液(C−1)160gを攪拌混合し、目的の水系剥離剤(h)を得た。
【0034】
(比較例1)
(ロジン系樹脂未使用の例)
実施例1において、ロジン系樹脂を用いずに長鎖アルキル系剥離剤(A−1)200gのみを用いた以外は実施例1と同様にして、固形分50%、平均粒子径2.1μmの水性剥離剤(i)を得た。
【0035】
(比較例2)
(ロジン系樹脂過剰の例)
実施例1において、長鎖アルキル系剥離(A−1)80g、ロジン系樹脂としてTgが−18℃のロジンのトリエチレングリコールエステル120gを用いた以外は実施例1と同様にして、固形分50%、平均粒子径0.4μmの水性剥離剤(j)を得た。
【0036】
(比較例3)
(ロジン系樹脂の代わりにケロシンを使用した例)
実施例1において、長鎖アルキル系剥離(A−1)160g、ロジン系樹脂の代わりにケロシン40gを用いた以外は実施例1と同様にして、固形分50%、平均粒子径0.4μmの水性剥離剤(k)を得た。
【0037】
(比較例4)
(セラックアルカリ水溶液過剰併用、固形比約100/3000の例)
実施例1で得た水性剥離剤(a)2gに、製造例2で得られたセラック水溶液(C−1)120gを攪拌混合し、目的の水系剥離剤(l)を得た。
【0038】
水性剥離剤の性能評価
実施例1〜8および比較例1〜4で得られた水性剥離剤(a〜l)を、固形分が3重量%になるように水で希釈し、以下の性能評価方法にて各種試験を行った。
(1)貯蔵安定性
上記水性剥離剤(a〜l)の3%水溶液をガラス瓶に入れて蓋をし、40℃で24時間静置後、沈殿などの外観変化を目視にて観察し、以下の評価基準により安定性を評価した。評価結果を表1または表2に示した。
○:沈殿、凝集などの発生が見られない
△:沈殿、凝集などの発生が僅かに見られる
×:沈殿、凝集などの発生が見られる
(2)剥離力
上記水性剥離剤(a〜l)の3%水溶液を、和紙に#3のワイヤーバーコーターで塗布し、120℃循風乾燥機で60秒間乾燥させ、剥離シートを作製した。この剥離処理面に、幅40mmのシーリング用ゴム系粘着テープ(商品名『No.3303HG』、カモ井加工紙株式会社製)を圧着ローラーで貼合し、試験片を作製した。次いで23℃、65%RHで24時間放置後、剥離速度300mm/minで180°剥離試験を行い、剥離力を測定した。評価結果を表1または表2に示した。
(3)残存粘着力(基材への密着性)
上記剥離力の試験で作製した試験片の粘着テープを剥離剤塗布面から剥離し、当該粘着テープをステンレス板に圧着ロールで貼り付けて、23℃、65%RHで24時間放置後、上記剥離力の試験と同様に剥離速度300mm/minで180°剥離試験を行い、この剥離力を残存粘着力とした。評価結果を表1または表2に示した。なお、剥離処理面に貼合していない粘着テープをステンレス板に圧着し同様に剥離試験を行ったところ、剥離強度は172N/mであり、残存粘着力がこの値に近いほど、剥離剤成分の粘着剤面への移行が少なく、基材への密着も良好であることを示す。
(4)重ね貼り性(90°定荷重保持力)
上記剥離力の試験で作製した剥離シートの剥離処理面に、幅15mmのシーリング用ゴム系粘着テープ(商品名『No.3303HG』、カモ井加工紙株式会社製)を圧着ローラーで貼合し、テープの端に20gの重りをつけて90°定荷重保持力を測定した。結果は、23℃で1時間後に剥がれた長さで表すが、剥がれた長さが短いほど、重ね貼り性が良好といえる。測定結果を表1または表2に示す。
(5)剥離性能バランス
上記、剥離力、残存粘着力、重ね貼り性を総合的に判断して、マスキング用途への適正を以下の判断基準により評価した。判定結果を表1または表2に示す。
○:性能バランスが良好であり、マスキング用途に最適である
△:性能バランスがほぼ良好であり、マスキング用途に適している
×:性能バランスが悪く、マスキング用途に適さない
(6)安全性
上記水性剥離剤(a〜l)の製造時から塗工時における臭気や火災等の危険性、身体や環境への影響を勘案し、その安全性を以下の基準により総合的に判断した。判定結果を表1または表2に示す。
○:危険な溶剤類を含まず、安全性に問題無し
×:危険な溶剤類を含むため、安全性に問題あり
(7)耐溶剤性
上記剥離力の試験で作製した剥離シートの剥離剤塗布面に、トルエンを数滴落とし、その浸透度合いを目視にて確認し、以下の評価基準により耐溶剤性を評価した。判定結果を表1または表2に示す。
○:トルエンをはじいてなかなか浸透せず、耐溶剤性が認められる
△:徐々に浸透が見られ、やや耐溶剤性が認められる
×:直ちに裏面まで浸透し、耐溶剤性が認められない

【0039】
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水性剥離剤は、粘着テープに用いる剥離剤として有用であるばかりか、危険な溶剤類を含まず、天然由来の樹脂を多く含むため、テープとして紙基材を用い、粘着剤として天然系のものを用いれば、環境に優しい粘着テープを製造することができ、産業上の利用価値が高いものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長鎖アルキル系剥離剤(A)とロジン系樹脂(B)を含む水性剥離剤組成物であって、長鎖アルキル系剥離剤(A)100重量部に対しロジン系樹脂(B)5〜100重量部が、乳化剤の存在下で、水系溶媒中に分散されていることを特徴とする水性剥離剤。
【請求項2】
長鎖アルキル系剥離剤(A)が、重合度が300〜5000、鹸化度50モル%以上の酢酸ビニル(共)重合体の水酸基1当量に対し、イソシアネート基、カルボキシル基、酸ハライド基、ケテン基、アルデヒド基及びエポキシ基からなる群より選ばれ、水酸基と反応する官能基を有し、アルキル基の炭素数が6〜30である長鎖アルキル化合物を官能基換算で0.5当量以上の割合で反応させて得られるポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の水性剥離剤。
【請求項3】
ロジン系樹脂(B)が、Tg(ガラス転移温度)が0℃以下のロジンエステルである請求項1又は請求項2に記載の水性剥離剤。
【請求項4】
請求項1に記載した水性剥離剤100重量部(固形換算)に対し、セラックのアルカリ水溶液(C)が、5〜2000重量部(固形換算)配合されていることを特徴とする水性剥離剤。
【請求項5】
セラックのアルカリ水溶液(C)が5〜40重量%のセラックを含み、アルカリがアンモニア水である請求項4に記載した水性剥離剤。
【請求項6】
長鎖アルキル系剥離剤(A)100重量部に対しロジン系樹脂(B)5〜100重量部を溶融混合後、常圧もしくは加圧下で乳化剤を練り込んでいき、次いで水を添加して転相させることを特徴とする水性剥離剤の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載した製造方法により得られた水性剥離剤100重量部(固形換算)に、セラックのアルカリ水溶液(C)を5〜2000重量部(固形換算)配合することを特徴とする水性剥離剤の製造方法。
【請求項8】
粘着剤層、基材層、背面処理層からなる粘着テープにおいて、背面処理層の剥離剤として、請求項1ないし請求項5のいずれかひとつの水性剥離剤が用いられることを特徴とする粘着テープ。
【請求項9】
基材が紙であることを特徴とする請求項8に記載の粘着テープ
【請求項10】
マスキング用途に使用されることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の粘着テープ


【公開番号】特開2007−204687(P2007−204687A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27609(P2006−27609)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(591189258)カモ井加工紙株式会社 (16)
【Fターム(参考)】