説明

水性外用組成物

【課題】 アルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物の粘度低下を長期にわたり抑制し、組成物が保有する高粘度化能を長期にわたり安定に保持させる方法、及び高粘度化能が安定に保持された水性外用組成物を提供することにある。
【解決手段】(A)アルギン酸またはその誘導体と(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上とを含有する水性外用組成物において、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させることによって、長期にわたり組成物の粘度低下を抑制し、高粘度化能を安定に保持することができる。また、(D)テルペン類をさらに含有させた場合、適用後の一時的な違和感、不快感や初期刺激が抑制され、官能特性がさらに向上した組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物において、組成物の粘度低下を長期にわたり抑制し、高粘度化能が安定に保持された水性外用組成物に関する。また本発明は、アルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物の高粘度化能を長期にわたり安定に保持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬効成分を含有する水性外用組成物では、適用部位において安定した滞留性を付与させることが、薬効成分の有効性を向上させる観点で重要である。このような観点から、水性外用組成物に対し、高分子系増粘剤等の粘稠化成分を配合することで、滞留性を向上させた製剤設計が種々行われている。
中でもアルギン酸またはその塩は、カルシウムイオンのような2価以上の陽イオン(多価陽イオン)と接触することで、はじめてゲル化(高粘度化)する(非特許文献1)。そのため製造時から適用時までは、2価以上の陽イオンとの接触をさければ低粘性を維持できる点において扱いやすく、この性質を利用した液状組成物に関する技術も開示されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
ところで、アルギン酸またはその塩は水溶液中で経時的に低分子化し、粘度が低下することが知られている。アルギン酸またはその塩を含有する水性外用組成物においては、組成物の粘度が経時的に低下し、製剤設計上、長期にわたり粘度を安定に保持できないという問題があった。また一方で、アルギン酸またはその塩が低分子化し、これを含有する水性外用組成物の粘度が経時的に低下することで、アルギン酸またはその塩が保有する高粘度化能が損なわれ、適用部位において安定したゲル化ができなくなり、ひいては所望の製剤特性を発揮できないという問題もあった。
【0004】
従って、かかる問題を解決するためには、アルギン酸またはその塩を含有する水性外用組成物の経時的な粘度低下を抑制することが重要となる。しかしながら、これを解決する方法、つまり、アルギン酸またはその塩を含有する水性外用組成物において、経時的な粘度低下を抑制し、長期にわたり粘度が安定に保持された組成物を得る方法については知られていない。
【0005】
【非特許文献1】Journal of Controlled Release 44(1997) 201-208
【特許文献1】特開2002−332248号公報
【特許文献2】特開2002−332249号公報
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、長期にわたり粘度が安定に保持されたアルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、アルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物に関し、長期にわたる粘度安定性について検討したところ、水性外用組成物中に非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩のいずれか1種以上を含有する場合、経時的に組成物の粘度低下が促されることがわかった。
また、アルギン酸またはその誘導体と非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩のいずれか1種以上を含有する水性外用組成物中に、さらにジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させることによって、アルギン酸またはその誘導体そのものの経時的な粘度低下と、組成物中に非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩のいずれか1種以上を含有することで促進される組成物の経時的な粘度低下が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、下記(1)〜(5)に掲げる組成物である:
(1)(A)アルギン酸またはその誘導体と、(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上と、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩とを含有することを特徴とする水性外用組成物。
(2)(A)アルギン酸またはその誘導体を0.001〜5.0w/v%で含有することを特徴とする(1)記載の水性外用組成物。
(3)(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上を、総量で0.001〜10.0w/v%で含有することを特徴とする(1)記載の水性外用組成物。
(4)(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を0.001〜0.1w/v%で含有することを特徴とする(1)記載の水性外用組成物。
(5)水性外用組成物が、眼科用組成物または耳鼻科用組成物である(1)〜(4)のいずれかに記載の水性外用組成物。
(6)さらに(C)テルペン類を含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の水性外用組成物。
(7)(C)テルペン類が、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、又はゲラニオールから選ばれる1種以上であることを特徴とする(6)記載の水性外用組成物。
さらに、本発明は、下記(8)に掲げる方法である:
(8)(A)アルギン酸またはその誘導体と(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上とを含有する水性外用組成物に、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させ水性外用組成物の高粘度化能を保持する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、(A)アルギン酸またはその誘導体、(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上を含有する水性外用組成物に、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させることによって、製剤設計上、欠くことができない非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩のいずれか一種以上をアルギン酸またはその誘導体と併用した場合におこる組成物の経時的な粘度低下を抑制でき、長期にわたり組成物の高粘度化能を安定に保持させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書において「高粘度化」とは、本発明の水性外用組成物がカルシウムイオン等の多価陽イオンと接触した際に、組成物の粘度が接触前と比較して高くなることを言う。なお、生体内において多価陽イオンは、涙液、鼻汁、膣液、直腸粘膜液、耳漏、唾液、汗、漿液、滲出液等の生体局所の分泌液や血液等、生体から分泌あるいは産生される液状物質に含まれている。また、本明細書中「ゲル化」なる用語は、「高粘度化」と相互変換可能に用いられている。
本明細書において「高粘度化能」とは、本発明の水性外用組成物が多価陽イオンと接触した場合に、接触前に比べて粘度が増加する割合を意味する。またこの高粘度化能は、多価陽イオンと接触する前の組成物において、製造直後の粘度(初期粘度ともいう)及び経時変化を受けた後の粘度を指標として、両者の測定値の変化から評価できる。
本明細書において「高粘度化能の保持」とは、本発明における水性外用組成物が元来保有する高粘度化能が、共存成分の影響や経時変化によらず保持され、適用時において安定的に高粘度化されることを言う。従って、本発明において組成物の高粘度化能を保持する方法とは、組成物の初期粘度の低下を抑制する方法と同義である。
なお、本明細書中、特に言及しない限り、%はw/v%を意味するものとする。また、本明細書中でコンタクトレンズとは、ハード、酸素透過性ハード、ソフト等のあらゆるタイプのコンタクトレンズを包含する意味とする。
【0012】
本発明の水性外用組成物は、アルギン酸またはその誘導体にジフェンヒドラミンまたはその塩を併用することにより、組成物中でのアルギン酸またはその誘導体の経時的な低分子化を抑制し、長期にわたり安定な高粘度化能が保持されている。本発明においてアルギン酸またはその誘導体(以下、単にアルギン酸誘導体ともいう。)とは、アルギン酸、アルギン酸の塩、アルギン酸のエステル誘導体またはそれらの塩、アルギン酸のエーテル誘導体またはそれらの塩等が包含される。より具体的には、アルギン酸、アルギン酸のナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノール塩、アンモニウム塩などのアルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸エステル等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムが好ましい。
【0013】
なお、アルギン酸またはその誘導体は、天然物、合成品のいずれを使用してもよい。代表的な天然物としては、アメリカ西海岸のマクロシスティス、南米チリのレッソニア、北欧のアスコフィラム等があるが、原料の海藻の種類、産地はいずれでもよい。また、抽出方法については、アルカリ抽出法等があるが、特に規定されない。 また、アルギン酸のマンヌロン酸/グルロン酸比(M/G比)は特に規定されず、MリッチなものからGリッチなものまで広範なアルギン酸またはその誘導体が使用可能であるが、4.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.5以下である。
また、市販品も利用でき、市販品は例えばアルギン酸、アルギン酸ナトリウムおよびアルギン酸カリウムは、株式会社紀文フードケミファ、株式会社キミカ、富士化学工業株式会社などより供給されている。
【0014】
本発明の水性外用組成物中におけるアルギン酸またはその誘導体の含有量は、その種類、分子量、組成(M/G比)および組成物中に共存する成分の種類、組成物に付与する所望の粘度に応じて適宜設定することができるが、通常0.001〜5.0%、さらに好ましくは0.005〜5.0%、より好ましくは0.005〜1.0%、さらに好ましくは0.01〜0.5%である。なお、アルギン酸またはその誘導体の配合量が少なすぎると一般的に適用部位での高粘度化が起こりにくく、薬効成分の滞留性が低く、消失速度が速くなるおそれがある。また一方で、配合量が多すぎると、溶媒への分散が悪く製造が困難になり、また、適用時の官能特性が悪くなるおそれがある。
【0015】
本発明においてジフェンヒドラミンは公知の化合物であり、ジフェンヒドラミンの塩としては、薬学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、例えば、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩など)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩など)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩など)、有機スルホン酸塩(ラウリル硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩など)など]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩など)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリンなどの有機アミンとの塩など)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)、アルミニウムなどの金属との塩など]などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中で、塩酸塩が好ましい。本発明の水性外用組成物において、ジフェンヒドラミン又はその塩は、水和物の形態でも使用できる。
【0016】
本発明の水性外用組成物におけるジフェンヒドラミンまたはその塩の含有量は、通常0.0001〜0.1%、好ましくは0.001〜0.07%、より好ましくは0.005〜0.05%、特に好ましくは0.01〜0.05%の範囲である。ジフェンヒドラミンまたはその塩の含有量が、この濃度範囲から著しく低濃度に外れると、本発明のアルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物に対し、高粘度化能の保持作用を十分に発揮できないおそれがある。一方で高濃度に外れると、安全性の観点から好ましくない。
【0017】
本発明において非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、POEともいう。)−ポリオキシプロピレン(以下、POPともいう。)ブロックコポリマー、POEソルビタン脂肪酸エステル類、POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油などが挙げられる。POE−POPブロックポコリマーとしては、ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188などのポロクサマー類、POEソルビタン脂肪酸エステル類としては、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80などのポリソルベート類などが挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの非イオン界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。例えば眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合、好適には、ポロクサマー407、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を用いる。
【0018】
本発明では、非イオン界面活性剤の存在による粘度低下が抑制されるので、水性外用組成物中に非イオン界面活性剤を含有することができ、例えば0.001%以上、さらには0.01%以上、特には0.05%以上含有できる。上限としては、非イオン界面活性剤の含有量が著しく高濃度であれば特に眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合は刺激が生じるおそれがあるため、通常5.0%以下、より好ましくは2.0%以下で含有することができる。
従って、本発明の水性外用組成物には、非イオン界面活性剤は、0.001〜5%、好ましくは0.01〜2.0%、さらに好ましくは0.05〜2.0%程度含有される。
【0019】
本発明においてホウ酸またはその塩とは、テトラホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ砂、メタホウ酸カリウムなどのホウ酸のアルカリ金属塩、ホウ酸のアルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩)、ホウ酸塩の水和物、ホウ酸及びホウ酸塩の組み合わせなどが挙げられる。本発明の水性外用組成物が眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合、好適にはホウ酸、ホウ砂、又はその組み合わせを用いる。
【0020】
本発明では、ホウ酸またはその塩の存在による粘度低下が抑制されるので、水性外用組成物中にホウ酸またはその塩を含有することができ、例えば0.001%以上、さらには0.01%以上、特には0.1%以上含有できる。上限としては、ホウ酸またはその塩の含有量が著しく高濃度であれば特に眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合は刺激が生じるおそれがあるため、通常5.0%以下、より好ましくは3.0%以下で含有することができる。
従って、本発明の水性外用組成物には、ホウ酸またはその塩は、0.001〜5.0%、好ましくは0.01〜5.0%、さらに好ましくは0.1〜3.0%程度含有される。
【0021】
本発明の水性外用組成物においてリン酸またはその塩としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどのリン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩)、リン酸塩の水和物、リン酸及びリン酸塩の組み合わせなどが挙げられる。本発明の水性外用組成物が眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合、好適にはリン酸水素ニナトリウム、リン酸ニ水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、又はこれらの組み合わせを用いる。
【0022】
本発明では、リン酸またはその塩の存在による粘度低下が抑制されるので、水性外用組成物中にリン酸またはその塩を含有することができ、例えば0.001%以上、さらには0.01%以上、特には0.1%以上含有できる。上限としては、リン酸またはその塩の含有量が著しく高濃度であれば特に眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合は刺激が生じるおそれがあるため、通常10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、特に好ましくは3.0%で含有することができる。
従って、本発明の水性外用組成物には、リン酸またはその塩は、0.001〜10.0%、好ましくは0.01〜5.0%、さらに好ましくは0.1〜3.0%程度含有される。
【0023】
本発明の水性外用組成物において、組成物が例えば点眼剤、点鼻剤などの感覚器官に適用される組成物の場合、アルギン酸またはその誘導体のもたらす高粘度化能が、涙液や鼻孔内分泌物の組成によっては、適用後一時的に、視界の滲みやゴロゴロ感が現れたり、鼻の通りが悪化した感覚に陥る場合がある。ここで本発明の水性外用組成物にさらにテルペン類を含有させると、このような適用後の一時的な違和感、不快感が抑制され、さらに優れた使用感、官能特性を有する組成物を得ることができる。
【0024】
本発明の水性外用組成物に用いられるテルペン類としては、メントール(l-メントール、dl-メントールなど)、メントン、カンフル(d-カンフル、dl-カンフルなど)、ボルネオール(d-ボルネオール、dl-ボルネオールなど)、ゲラニオール、シネオール、シトラール、シトラネロール、リナロール、アネトール、リモネン、オイゲノール等が挙げられる。これらはd体、l体またはdl体のいずれでもよいが、初期刺激を緩和する観点からは、l-メントール、メントン、d-カンフル、dl-カンフル、d-ボルネオール、dl-ボルネオール、ゲラニオールを用いることが好ましい。これらのテルペン類は1種類または2種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0025】
また前記テルペン類は、精油に含有した状態で使用することもでき、好ましい精油は、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、ユーカリ油、ベルガモット油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油等である。これらの精油類は1種類または2種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0026】
本発明の水性外用組成物におけるテルペン類の配合量は、本発明の水性外用組成物が眼科用組成物、耳鼻科用組成物の場合、0.001〜0.1%であることが好ましい。特に好ましくは0.005〜0.1%である。テルペン類の配合量がこの濃度範囲より著しく高濃度に外れると、刺激が生じ、眼科用組成物、耳鼻科用組成物としての使用に適し難いおそれがあり、また一方で、著しく低くなると、視界の滲み等、適用後の一時的な違和感、不快感を緩和する効果を得難いおそれがある。
【0027】
本発明において、アルギン酸またはその誘導体を含有した水性外用組成物は、所望の高粘度化能を得るために適切な粘度に初期設定して設定粘度を長期的に安定に保持することができる。本発明の水性外用組成物が眼科用組成物の場合、その設定粘度は、眼粘膜に適用した時の高粘度化能や差し心地(使用感)、ドライアイなどの疾患の治療等に多大な影響を与えることから、適切な粘度を設計し、設計した粘度が長期的に安定に保持されることが重要となる。適切な粘度を設定する場合において、例えば眼科用組成物では20℃における粘度が1.2mPa・s以上に保持して設計することが好ましく、通常1.2〜100mPa・s、好ましくは、1.5〜50mPa・s程度に設計することができる。粘度が1.2mPa・s以下であれば、アルギン酸またはその誘導体の有用な効果を十分に発揮し難いおそれがあり、300mPa・s以上では、ねばつきが大きく製造工程の管理が難しくなるおそれがある。一方で点鼻剤などの耳鼻科用組成物では20℃における粘度が2mPa・s以上に保持して設計することが好ましく、通常2〜10万mPa・s、好ましくは、50〜1万mPa・s、特に好ましくは100〜5000mPa・s程度に設計することができる。
【0028】
本発明の水性外用組成物は、発明の効果を利用するものであればその使用用途は特定されず、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、雑品等の各種分野において利用することができる。例えば、点眼剤(ハードまたはソフトコンタクトレンズを装用中にも使用することができる点眼剤を含む、また、点眼薬ともいう。)、洗眼剤(ハードまたはソフトコンタクトレンズを装用中にも使用することができる洗眼剤を含む。)、眼軟膏剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(洗浄液、保存液、殺菌液、マルチパーパスソリューションなど)などの眼科用組成物、点鼻剤(点鼻薬ともいう)、点耳剤、鼻洗浄液(洗鼻剤、洗鼻薬、鼻洗浄剤ともいう)などの耳鼻科用組成物、口腔咽頭薬、口内炎治療薬、含嗽用薬などの口腔用組成物、傷薬などの皮膚外用組成物等が挙げられる。
【0029】
本発明の水性外用組成物にさらにテルペン類を含有させると、本発明の水性外用組成物を適用した際に感じる一時的な違和感、不快感が抑制され、さらに優れた使用感、官能特性を有する組成物が得られることから、より好ましい。
また一方で、本発明の水性外用組成物の高粘度化能が保持されていると、テルペン類を含有する水性外用組成物を適用した際に感じられる初期刺激も抑制することができる。
従って、このような効果を有する本発明の水性外用組成物は、とりわけ点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(洗浄液、保存液、殺菌液、マルチパーパスソリューションなど)などの眼科用組成物、点鼻剤、鼻洗浄剤(洗鼻剤)などの耳鼻科用組成物などの感覚器官粘膜に適用される組成物として特に有用である。なお、適用方法に関しては、滴下、塗布、噴霧又は噴射等、使用目的と対象によって適宜選択できる。
【0030】
本発明の水性外用組成物には、本発明の効果を妨げない限り、種々の成分(薬理活性成分や生理活性成分を含む)を組み合わせて含有してもよい。このような成分の種類は特に制限されず、例えば、充血除去成分、眼調節薬成分、抗炎症薬成分または収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌薬成分、殺菌薬成分、糖類、多糖類またはその誘導体、セルロース又はその誘導体又はそれらの塩、前述以外の水溶性高分子、局所麻酔薬成分、ステロイド成分などが例示できる。本発明において好適な成分としては、例えば、次のような成分が挙げられる。
【0031】
充血除去成分:例えば、α−アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリンなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0032】
眼筋調節薬成分:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン硫酸アトロピンなど。
【0033】
抗炎症薬成分または収斂薬成分:例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、イプシロン−アミノカプロン酸、インドメタシン、塩化リゾチーム、硝酸銀、プラノプロフェン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルリチン酸ニカリウム、ジクロフェナクナトリウム、ブロムフェナクナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、サリチル酸メチルなど。
【0034】
抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分:例えば、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト、イプロヘプチン、トラニラスト、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、ペミロラストカリウム、マレイン酸クロルフェニラミンなど。
【0035】
ビタミン類:例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アスコルビン酸、酢酸トコフェロールなど。
【0036】
アミノ酸類:例えば、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルタミン酸、クレアチニン、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム混合物、グルタミン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0037】
抗菌薬成分または殺菌薬成分:例えば、硫酸アミノデオキシカナマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸ゲンタマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸ストレプトマイシン、トブラマイシン、硫酸ミクロノマイシン、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロラムフェニコール、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフイソキサゾールジエタノールアミン、スルフイソキサゾールモノエタノールアミン、スルフイソメゾールナトリウム、スルフイソミジンナトリウム、塩酸テトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、スルベニシンナトリウム、塩酸セフメノキシム、ベンジルペニシリンカリウム、硫酸ベルベリン、塩化ベルベリン、ホウ酸、コリスチンメタスルホン酸ナトリウム、エリスロマイシン、ラクトビオン酸エリスロマイシン、キタサマイシン、スピラマイシン、硫酸フラジオマイシン、硫酸ポリミキシン、ジベカシン、アミカシン、硫酸アミカシン、アシクロビル、イオドデオキシサイチジン、イドクスウリジン、シクロサイチジン、シトシンアラビノシド、トリフルオロチミジン、ブロモデオキシウリジン、ポリビニルアルコールヨウ素、ヨウ素、アムホテリシンB、イソコナゾール、エコナゾール、クロトリマゾール、ナイスタチン、ピマリシン、フルオロシトシン、ミコナゾールなど。
【0038】
糖類:例えば単糖類、二糖類、具体的にはグルコース、トレハロースなど。
【0039】
多糖類又はその誘導体:例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムなど。
【0040】
セルロース又はその誘導体又はそれらの塩:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなど。
【0041】
前述以外の水溶性高分子:ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、デキストレン、ポリエチレングリコールなど。
【0042】
局所麻酔薬成分:例えば、塩酸オキシブプロカイン、塩酸コカイン、塩酸コルネカイン、塩酸ジブカイン、塩酸テトラカイン、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、塩酸ピペロカイン、塩酸プロカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸ヘキソチオカイン、リドカイン、塩酸リドカインなど。
【0043】
ステロイド成分:コルチゾール、デキサメタゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルオロメトロン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、メチルプレドニゾロン、メドリゾンヒドロキシメステロン(hydroxymesterone)及びそれらの塩(カプロン酸ヒドロコルチゾン、カプロン酸プレドニゾロン、酢酸コルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、デキサメタゾンメタスルホベンゾエートナトリウム、デキサメタゾン硫酸ナトリウム、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、トリアムシノロンアセトニド、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、メタスルホ安息香酸デキサメタゾンナトリウム、メチルプレドニゾロン)など。
【0044】
水性外用組成物中のこれらの成分の配合量は製剤の種類、活性成分の種類などに応じて適宜選択され、内服用、外皮用、粘膜用製剤などにおける各種成分の配合量は当該技術分野で既知である。例えば、製剤全体に対して0.0001〜30%、好ましくは、0.001〜10%程度の範囲から選択できる。
より具体的には,感覚器官粘膜に適用される水性外用組成物中のうち、眼科用に使用される場合、各成分の含有量は、例えば、以下の通りである。
【0045】
充血除去成分(血管収縮薬又は交感神経興奮薬):例えば、0.0001〜0.5%、好ましくは、0.0005〜0.3%、さらに好ましくは0.001〜0.1%。
眼筋調節薬成分:例えば、0.0001〜0.5%、好ましくは、0.0005〜0.1%、さらに好ましくは0.0005〜0.01%。
抗炎症薬成分または収斂薬成分:例えば、0.0001〜10%、好ましくは0.0001〜5%。
抗ヒスタミン薬成分または抗アレルギー薬成分:例えば、0.0001〜10%、好ましくは0.001〜5%。
ビタミン類:例えば、0.0001〜1%、好ましくは、0.0001〜0.5%。
アミノ酸類:例えば、0.0001〜10%、好ましくは0.001〜3%。
抗菌薬成分または殺菌薬成分:例えば、0.00001〜10%、好ましくは、0.0001〜10%。
糖類:例えば、0.0001〜5%、好ましくは0.001〜5%、さらに好ましくは0.01〜2%。
多糖類又はその誘導体:例えば、0.0001〜2%、好ましくは0.01〜2%、さらに好ましくは0.01〜1%。
セルロース又はその誘導体又はそれらの塩:例えば、0.001〜5%、好ましくは0.01〜1%。
前述以外の水溶性高分子:例えば、0.001〜10%、好ましくは0.001〜5%、さらに好ましくは0.01〜3%。
局所麻酔薬成分:例えば、0.001〜1%、好ましくは0.01〜1%。
ステロイド成分:例えば、0.001〜1%、好ましくは0.01〜1%。
【0046】
また、本発明の水性外用組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な成分や添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して含有させてもよい。それらの成分または添加物として、例えば、半固形剤や液剤などの調製に一般的に使用される担体(水、水性溶媒、水性または油性基剤など)、増粘剤、糖類、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、pH調整剤、等張化剤、キレート剤、緩衝剤などの各種添加剤を挙げることができる。
【0047】
以下に本発明の水性外用組成物に使用される代表的な成分を例示するが、これらに限定されない。
【0048】
増粘剤:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストラン、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウムなど。
【0049】
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。
これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0050】
界面活性剤:アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型両性界面活性剤;アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどの陽イオン界面活性剤など。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0051】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化セチルピリジニウム、アクリノール、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニドなど)、グローキル(ローディア社製 商品名)、アクリノール、など。
【0052】
pH調整剤:例えば、塩酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなど。
【0053】
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコールなど。
【0054】
キレート剤:例えば、アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸など。
【0055】
緩衝剤:アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤など。具体的には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなど。
【0056】
安定剤:シクロデキストリン、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウムなど。
【0057】
溶解剤、基剤:オクチルドデカノール、オリーブ油、ゴマ油、酸化チタン、臭化カリウム、ダイズ油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パラフィン、ヒマシ油、プラスチベース、ラッカセイ油、ラノリン、ワセリンなど。
【0058】
増粘剤:例えば、0.0005〜50%、好ましくは、0.001〜10%
界面活性剤:例えば、0.0001〜10%、好ましくは、0.005〜5%
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、0.00001〜5%、好ましくは、0.0001〜2%
pH調整剤:例えば、0.00001〜5%、好ましくは、0.0001〜2%
等張化剤:例えば、0.001〜10%、好ましくは、0.01〜5%
キレート剤:例えば、0.00001〜5%、好ましくは、0.0001〜2%
緩衝剤:例えば、0.001〜10%、好ましくは、0.01〜5%
【0059】
本発明の水性外用組成物は、必要に応じて、生体に許容される範囲内のpHおよび/または浸透圧に調節される。許容されるpHは、例えば眼科用組成物の場合、通常pH4.9〜9.0、好ましくは4.5〜8.5、特に好ましくは4.5〜8.0である。浸透圧は、100〜1200mOsm、好ましくは100〜600mOsm、特に好ましくは150〜400mOsm程度であり、生理食塩液に対する浸透圧比は、通常0.3〜4.2、好ましくは0.3〜2.1、特に好ましくは0.5〜1.4程度である。pHや浸透圧の調節は、既述のpH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0060】
本発明の水性外用組成物は、公知の方法により製造できる。半固形剤、液剤は、基剤と各成分とを混合し、調製できる。さらに、必要により、ろ過滅菌処理工程や、容器への充填工程等を加えることができる。
【0061】
また、本発明は、(A)アルギン酸またはその誘導体、(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上を含有する水性外用組成物に、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させることにより、長期にわたり組成物の粘度低下を抑制し、組成物が保有する高粘度化能を安定に保持する方法である。さらに、テルペン類を含有させることにより、適用後の一時的な違和感、不快感や初期刺激が抑制され、さらに優れた使用感、官能特性を有する組成物を得る方法である。なお、含有するアルギン酸またはその誘導体、非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、リン酸またはその塩、ジフェンヒドラミンまたはその塩及びテルペン類の種類、これらの使用量等は、本発明の水性外用組成物に関する前述の記載に従って行うことができる。
【実施例】
【0062】
以下に、試験例及び実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
粘度の測定方法
粘度測定方法は円すい一平板形回転粘度計を用いる方法(第十四改正日本薬局法に記載の、一般試験法、45.粘度測定法、第2法回転粘度計法、「(3)円すい−平板形回転粘度計」の項に記載の方法)に従った。具体的には、市販の円すい−平板形回転粘度計と適宜選択されたロータとを用いて測定した。
なお、粘度の測定においては、市販の粘度計、例えば、E型粘度計[トキメック(TOKIMEC)製、東機産業(日本)から販売]、シンクローレクトリックPC 型(ブルックフィールド、米)、フェランティシャーリー(フェランティ、英)、ロートビスコR (ハーケ、独)、IGK ハイシャーレオメーター(石田技研、日本)、島津レオメーターR (島津製作所、日本)、ワイセンベルグレオゴニオメーター(サンガモ、英)、メカニカルスペクトロメーター(レオメトリックス、米)等を利用できる。そして、これらの市販の粘度計とローターを適宜選択し、披検試料測定毎にJIS Z 8809により規定されている石油系の炭化水素油(ニュートン流体)を校正用標準液として適宜調整することにより、20℃における粘度を測定することができる。
【0063】
具体的には、図1に示すように、円すい1と平円板2との間の角度αの隙間に試料を入れ、円すい1又は平円板2を一定の角速度ω若しくはトルクTで回転させ、定常状態に達したときの平円板2又は円すい1が受けるトルク若しくは角速度を測定し、試料の粘度ηを次式により算出することによって粘度を測定した。
η =100×(3α/2πR)・(T /ω)
η :試料の粘度(mPa・s)(Pa・s =10 mPa・s )
α :平円板2と円すい1がなす角度(rad)
π :円周率
R :円すい1の半径(cm)
T :平円板2又は円すい1面に作用するトルク(10−7N・m)
ω :角速度(rad/s)
【0064】
本試験における各比較例、各実施例の粘度は、E型粘度計の1種であるTVE−20L形粘度計コーンプレートタイプ(トキメック(TOKIMEC)製、東機産業(日本))を用いて、以下の測定条件の下で測定を行った。
測定条件:
TVE−20L形粘度計コーンプレートタイプに付属の標準コーンロータ(図1における円すい1に相当)(α=1°34′、半径(R)=2.4cm)をフルスケール・トルク67.37×10-6 Nmのスプリングを介してモータで回転させる。測定時、粘度計は回転軸が水平面に対して垂直になるように設置する。
被検試料1mLをコーンロータの所定の位置(プレート、図1における平円板2に相当)に載置し、温度が20.0℃になるまで放置する。次いで、装置を被検試料の粘度に応じた回転数で回転させ、4分後に、表示された粘度を読み取り、測定値とする。高精度の測定結果を得るために、被検試料測定前に、JIS Z 8809 により規定されている石油系の炭化水素油(ニュートン流体)を校正用標準液として用い、測定値が標準液の粘度に一致するように調整する。なお、TVE−20L形粘度計コーンプレートタイプ以外の市販の機種を用い、上記と同様にコーンロータを選択して実施し、適宜校正することにより、同等の結果を得ることもできる。
使用ローター:標準ローター(1°34′、R=24mm)
回転数 :100rpm
試料量 :1ml
測定温度 :20.0℃
時間 :4分間
【0065】
試験例1 粘度安定性試験
試験には表1に示す各実施例及び比較例の処方の製剤を試験製剤として用いた。これらの試験製剤の調製は、以下に示す方法に従った。具体的には実施例1の調製方法を示す。0.10gのアルギン酸(株式会社キミカ製「キミカアシッド」(商品名)を使用)を0.35gのホウ砂と共に50mLの精製水中にて撹拌溶解し、アルギン酸が溶解後、1.8gのホウ酸、0.01gの塩酸ジフェンヒドラミン、0.50gのポリソルベート80を加えて溶解した。この調製液に対し、0.1M塩酸と0.1M水酸化ナトリウムを加えpH7.0に調整し、更に精製水を加えて全量を100mLとした。実施例1に準じて、他の実施例及び比較例の試験製剤を調製した。なお、比較例3、実施例4のアルギン酸ナトリウムに関しては、M/G比が1.1の株式会社紀文フードケミファ製「ダックアルギン」(商品名)を使用した。
【0066】
上記の方法で調製した各試験製剤について、製造直後における粘度を測定した。その後、各試験製剤を透明ガラス瓶に10mLづつ充填し密栓して、60℃の恒温槽(ナガノ科学機械製作所製 CH20−11M)内にて14日間保管した。14日間保管後に再度粘度を測定し、熱処理前後における各試験製剤の粘度測定値から、以下の数式1に従い、粘度残存率(%)を算出した。結果は、表1に示す。
【数式1】
【0067】

【0068】
【表1】

【0069】
試験の結果、アルギン酸またはその誘導体を含有する各試験製剤のうち、非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩からなる群から選択される1種以上を含有する比較例2〜4の処方の試験製剤については、これらを含有しない比較例1との比較において、経時的な粘度の低下の促進が見られた。一方で、さらに塩酸ジフェンヒドラミンを含有させた実施例1〜5の処方の各試験製剤については、経時的な粘度の低下が抑制されていることが確認できた。
以上から、アルギン酸またはその誘導体を含有する水性外用組成物にジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させることで、非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩から選択されるいずれか1種以上をアルギン酸またはその誘導体と併用した場合においても、組成物の経時的な粘度低下を抑制できるといえる。
【0070】
試験例2 使用試験
試験には表2に示す各実施例及び比較例の処方の製剤を試験製剤として用いた。
各実施例及び比較例の試験製剤の調製は、以下に示す方法に従った。具体的には実施例6の調製方法を示す。0.10gのアルギン酸(株式会社キミカ製「キミカアシッド」(商品名)を使用)を0.35gのホウ砂と共に50mLの精製水中にて撹拌溶解し、アルギン酸の溶解後、1.8gのホウ酸、0.025gの塩酸ジフェンヒドラミンを加えて溶解した(調製液A)。0.50gのポリソルベート80と、0.01gのl−メントール、0.001gのd−ボルネオールを撹拌溶解しつつ精製水10mLを加えて溶解した(調製液B)。調製液Bを調製液Aに加え、0.1M塩酸と0.1M水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、更に精製水を加えて全量を100mLとした。実施例6に準じて、他の実施例及び比較例の試験製剤を調製した。なお、前記試験例1と同様に、比較例3、実施例7のアルギン酸ナトリウムに関しては、M/G比が0.8の株式会社紀文フードケミファ製「ダックアルギン」(商品名)を使用した。
【0071】
上記の方法で調製した各試験製剤について、製造直後における粘度を測定した。その後、各試験製剤を透明ガラス瓶に10mLづつ充填し密栓して、60℃の恒温槽(ナガノ科学機械製作所製 CH20−11M)内にて14日間保管した。14日間保管後に再度粘度を測定し、熱処理前後における各試験製剤の粘度測定値から、前記数式1に従い、粘度残存率(%)を算出した。
製造直後および熱処理後の各試験製剤を濾過滅菌し、点眼容器、点鼻用噴霧容器に充填したものを用いて使用試験(点眼試験、点鼻試験)を行った。
使用試験のうち点眼試験は、10名の被験者に対し、各実施例、比較例の処方の試験製剤を1回2滴、1日2回点眼し、視界の滲み、ゴロゴロ感の有無、初期刺激の有無を以下の基準に従い評価した。点鼻試験は同様に10名の被験者に対し、各実施例、比較例の処方の試験製剤を鼻腔内に1回に1噴霧、1日2回噴霧し、鼻の通りに対する違和感の有無、初期刺激の有無を以下の基準に従い評価した。被験者の評価結果から、平均点を求め、平均1.9点以上を◎、1.5点以上〜1.9点未満を○、1.5点未満を×として表中に記載した。
点眼試験
視界の滲みの有無
2点 視界の滲みを感じない
1点 視界の滲みをやや感じる
0点 視界の滲みを感じる
ゴロゴロ感の有無
2点 ゴロゴロ感を感じない
1点 ゴロゴロ感をやや感じる
0点 ゴロゴロ感を感じる
初期刺激の有無
2点 初期刺激を感じない
1点 初期刺激をやや感じる
0点 初期刺激を感じる
点鼻試験
違和感の有無
2点 鼻の通りに違和感がない
1点 鼻の通りにやや違和感がある
0点 鼻の通りに違和感がある
初期刺激の有無
2点 初期刺激を感じない
1点 初期刺激をやや感じる
0点 初期刺激を感じる
【0072】
【表2】

【0073】
試験の結果、テルペン類を含有し、塩酸ジフェンヒドラミンを含有しない比較例5の処方の試験製剤では、製造直後においてはテルペン類に由来すると見られる初期刺激が緩和されたものの、60℃で14日間保管して、粘度低下が起こった同処方の試験製剤においては、初期刺激は緩和されなかった。
また、実施例1の処方の試験製剤では、製造直後および60℃で14日間保管した試験製剤において、試験製剤を適用後に視野の滲み、ゴロゴロ感、鼻の通りの悪化などの一時的な違和感、不快感が現れたことから、試験製剤の粘度低下が抑制され、ゲル化能が高く維持されていることがわかった。これに対し、 実施例1の処方の試験製剤に、さらにテルペン類を含有させた実施例6〜10(ただし、実施例7についてはアルギン酸またはその誘導体としてアルギン酸ナトリウムを配合)の処方の試験製剤では、実施例1と同様、経時的な粘度低下が抑制され、またテルペン類に由来すると見られる初期刺激が緩和されるのに加え、試験製剤を適用後の一時的な違和感、不快感も抑制されることが確認できた。
以上から、アルギン酸またはその誘導体と非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩から選択されるいずれか1種以上と塩酸ジフェンヒドラミンとを含有する水性外用組成物に対し、テルペン類をさらに含有させることで、経時的な粘度低下を抑制するとともに、適用後の一時的な違和感、不快感や初期刺激も抑制され、さらに優れた使用感、官能特性を有する組成物が得られることが確認できた。
また、60℃で14日間保管した試験製剤においてもテルペン類による初期刺激が緩和されていることから、アルギン酸またはその誘導体と非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、もしくはリン酸またはその塩から選択される1種以上と塩酸ジフェンヒドラミンとを含有する水性外用組成物において、長期にわたり高粘度化能が安定に保持されていることも確認できた。
【0074】
下記表3、表4に示す処方の配合成分を精製水に溶解させ全量を100mLとし、滅菌濾過して、点眼剤(または点眼薬)、点鼻剤(または点鼻薬)を調製した。これらの実施例はいずれも経時的な粘度低下が抑制されていた。
【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】試験例において用いた円すい一平板形回転粘度計による測定の方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルギン酸またはその誘導体と、(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上と、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩とを含有することを特徴とする水性外用組成物。
【請求項2】
(A)アルギン酸またはその誘導体を総量で0.001〜5.0w/v%、(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上を総量で0.001〜10.0w/v%、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を0.001〜0.1w/v%含有することを特徴とする請求項1記載の水性外用組成物。
【請求項3】
水性外用組成物が、眼科用組成物又は耳鼻科用組成物である請求項1または2記載の水性外用組成物。
【請求項4】
(A)アルギン酸またはその誘導体と、(B)非イオン界面活性剤、ホウ酸またはその塩、及びリン酸またはその塩よりなる群から選択される1種以上とを含有する水性外用組成物に、(C)ジフェンヒドラミンまたはその塩を含有させ、水性外用組成物の高粘度化能を保持する方法。




【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−206481(P2006−206481A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19577(P2005−19577)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】