説明

水性平版印刷インキおよび印刷物

【課題】印刷後は水で印刷機および版の洗浄が可能であり、地球環境、作業環境の改善が図ることができ、さらには高速印刷適性、汚れ耐性に優れた水性平版印刷インキの提供。
【解決手段】(a)顔料、(b)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂から選ばれる1種以上の水溶性樹脂または水分散性樹脂、(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物、(d)水溶性金属塩、および(e)水を含有し、コーンプレート型回転式粘度計により測定した25℃での、ずり速度120s−1の粘度が10〜200Pa・sである水性平版印刷インキにおいて、(d)水溶性金属塩が全量の0.1〜10重量%含有していることを特徴とする水性平版印刷インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規にして有用なる水性平版印刷インキならびに印刷物に関する。さらに詳しくは、水無し平版印刷に好適に用いられる印刷インキならびに印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、高速、大量、安価に印刷物を供給するシステムとして広範に用いられている。平版印刷は非画線部に湿し水を供給し、湿し水とインキ反発性を利用し画像部と非画像部を形成してなるシステムである。
【0003】
近年、湿し水に関わる作業、環境上の問題を解決する方法として、水なし平版印刷法が提案され、特に湿し水に代わってインキ反発性を示すことを目的として非画線部にシリコーンゴムを設けて印刷する水無し印刷方法が実用化されている。
【0004】
一般に平版インキは、顔料、インキ用樹脂、石油系溶剤および植物油を主成分として形成されている。石油系溶剤においても地球環境保全、労働環境保全の観点から、脱芳香族化が行われている。さらに昨今では、より一層環境保全を配慮した、揮発性の石油系溶剤を一切含有しないVOCフリータイプのインキへのニーズが高まっている。VOCとは、常温で揮発する化合物のことである。米国環境保護庁はVOC測定方法として、110℃1時間の加熱による加熱残分測定を提示しており、実使用に即した測定方法として用いられている。
【0005】
上記VOCフリータイプのインキとしては、金属ドライヤーを添加して酸化重合することにより印刷皮膜を形成する枚葉印刷インキではすでに実用化されているが、熱風乾燥機中で溶剤を蒸発することにより印刷皮膜を形成するオフ輪印刷インキでは、まだ実用化されていない。
【0006】
さらに、印刷後の平版インキの洗浄剤としては揮発性溶剤を含む洗浄剤を使用することが一般的である。洗浄剤においても環境的な観点から揮発性成分を含まないことが望ましい。特許文献1〜4には、水を媒体とし、水洗浄可能な水性印刷インキを使用した水性平版印刷について開示されており、水性印刷インキとして使用されているのはフレキソインキもしくはそれに類似した構成、物性のインキである。しかしながら、フレキソインキの物性では、高速印刷適性、着肉性において不十分なものがあった。
【特許文献1】特開平7−232485号公報
【特許文献2】特開平8−310101号公報
【特許文献3】特開平8−169188号公報
【特許文献4】特開2001−117218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決し、地汚れ耐性に優れた水性平版印刷インキならびに印刷物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、地汚れ耐性に優れ、さらに水洗浄可能な水性平版印刷インキを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(a)顔料、(b)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂から選ばれる1種以上の水溶性樹脂または水分散性樹脂、(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物、(d)水溶性金属塩、および(e)水を含有し、コーンプレート型回転式粘度計により測定した25℃での、ずり速度120s−1の粘度が10〜200Pa・sである水性平版印刷インキにおいて、(d)水溶性金属塩が全量の0.1〜10重量%含有していることを特徴とする水性平版印刷インキである。
【0010】
さらに、本発明は、上記の水性平版印刷インキにさらに、全量の1〜20重量%の植物油またはその脂肪酸エステルを含有させることを特徴とする水性平版印刷インキである。
【0011】
また、本発明は、上記の(b)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂から選ばれる1種以上の水溶性樹脂または水分散性樹脂において、カルボキシルキ基を有する水溶性樹脂または水分散性樹脂が、カルボジイミド化合物と反応してなる樹脂を含有することを特徴とする水性平版印刷インキである。
【0012】
また、本発明は、110℃1時間での加熱による有機化合物揮発分が1%以下である上記記載の水性平版印刷インキである。
【0013】
さらに、本発明は、基材上に上記記載の印刷インキを印刷してなる印刷物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係わる、水性平版印刷インキは、水を媒体とし、特に地汚れ耐性に優れた水性平版印刷インキである。印刷後は水で洗浄が可能であり、地球環境、作業環境の改善が図られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明で用いられる(a)顔料としては、無機顔料および有機顔料を示すことができる。無機顔料としては黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉等が、有機顔料としては、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系、β−オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系、ピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、β−ナフトール系、β−オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系モノアゾ、アセト酢酸アリリド系ジスアゾ、ピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素または臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドン系、ジオキサジン系、スレン系(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系等)、イソインドリノン系、金属錯体系、キノフタロン系等の多環式顔料および複素環式顔料等の公知公用の各種顔料が使用可能である。
【0016】
本発明で使用できる(b)水溶性樹脂または水分散性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、水溶性または水分散性の樹脂であれば特に限定されるものではない。市販の樹脂も好適に使用することができる。顔料分散性、インキ保存安定性の点からアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂が望ましい。
【0017】
アクリル樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルから選ばれる1種以上の単量体を付加重合して得られる樹脂である。水酸基、エポキシ基、アミノ基等の官能基を分子中に含有する共単量体を用いることもできる。さらに酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル単量体を一部共重合することも可能である。水溶性または水分散性の樹脂を得るためには、アクリル酸、メタクリル酸等の酸基含有単量体を共重合した後に、塩基性化合物で中和することが必要である。酸価は30〜350がインキ保存安定性の点で好ましい。また、分子内にポリエチレンオキサイド基を含有する単量体の共重合により水溶化または水分散化することも可能である。重量平均分子量は5000〜100000が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0018】
スチレンアクリル樹脂とは、上記アクリル樹脂においてスチレンを単量体成分として含有する樹脂である。アクリル樹脂と同様に、水酸基、エポキシ基、アミノ基等の官能基を分子中に含有する共単量体を用いることもできる。さらに酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル単量体を一部共重合することも可能である。水溶性または水分散性の樹脂を得るためには、アクリル酸、メタクリル酸等の酸基含有単量体を共重合した後に、塩基性化合物で酸の一部または全部を中和すことが必要である。酸価は30〜350がインキ保存安定性の点で好ましい。また、分子内にポリエチレンオキサイド基を含有する単量体の共重合により水溶化または水分散化することも可能である。重量平均分子量は5000〜100000が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0019】
スチレンマレイン酸樹脂とは、スチレンと無水マレイン酸を共重合して得られる樹脂である。他の単量体を一部共重合することもできる。さらに、水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物で一部変性しても構わない。酸無水物基または変性後の酸基の一部または全部を塩基性化合物で中和することにより水溶性または水分散性樹脂を得ることができる。酸価は30〜450がインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量は5000〜100000が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
【0020】
α−オレフィンマレイン酸樹脂とは、α−オレフィンと無水マレイン酸を共重合して得られる樹脂である。他の単量体を一部共重合することもできる。さらに、水酸基含有化合物やアミノ基含有化合物で一部変性しても構わない。酸無水物基または変性後の酸基の一部または全部を塩基性化合物で中和すことにより水溶性または水分散性樹脂を得ることができる。酸価は30〜450がインキ保存安定性の点で好ましい。重量平均分子量は5000〜100000が好ましい。この範囲外では、良好なインキ保存安定性、高速印刷適性が得られ難く好ましくない。
本発明で使用される(b)水溶性樹脂または水分散性樹脂は、カルボキシル基を有することが好適である。
【0021】
さらに、上記アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂は界面活性剤の存在下、乳化重合で得ることもできる。
【0022】
また、本発明で使用される(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物としては、分子中に水酸基もしくはアミノ基を含有するものであれば特に限定されるものではない。水酸基含有化合物の例としてはエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラチレングリコールモノメチル、テトラチレングリコールモノエチル、テトラエチレングリコールモノn−ブチル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、アセチレンジオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0023】
アミノ基含有化合物としては、モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、2−アミノ−1−ブタノール、4−アミノ−1−ブタノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン等が挙げられる。
【0024】
また、本発明で使用される(d)水溶性金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、燐酸ナトリウム(へキサメタ燐酸ナトリウム等のポリ燐酸ナトリウム)、燐酸カリウム、燐酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム等が例示される。これら水溶性金属塩はインキ中に添加することで、インキ凝集力が増大し、高粘度化することにより、良好な地汚れ耐性を発現できるものと思われる。また、これら水溶性金属塩は10〜50%の水溶液としてインキ、またはその原料であるワニス(インキ用ビヒクル)に添加するのが取り扱い上簡便であり好ましい。インキ中には固形分換算で全インキ中0.1〜10重量%添加するのが好適である。
【0025】
また、(e)水は全インキ中5〜50重量%添加使用される。
【0026】
植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油、パーム油、菜種油、胡麻油等が例示できる。また、植物油由来脂肪酸エステルとして、上記植物油由来の脂肪酸、すなわち、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等炭素数15〜20程度のアルキル主鎖を有する脂肪酸の、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等の炭素数1〜10程度のアルキルエステルが例示できる。
【0027】
これら植物油または植物油由来脂肪酸エステルは、水性樹脂との相溶性が良くないため、版面との接触によりインキ中から拡散するものと思われる。すなわちWFBLモデルにより、地汚れ耐性が格段に向上するものと考える。また植物油または植物油由来脂肪酸エステルはインキ中1〜20重量%含有されることが好ましい。この範囲以下ではその効果が認められにくく、これ以上であると、印刷機上での安定性を損なうことになる。
【0028】
さらに、使用する植物油または植物油由来脂肪酸エステルはヨウ素価が130以上の乾性油に分類されるものが望ましい。乾性油はその不飽和脂肪酸基の酸化重合による、硬化皮膜形成速度が速く、その皮膜強度も高い。そのため、インキ皮膜の耐水性、耐摩擦性を向上させることができる。ヨウ素価130以上の植物油としてはアマニ油、サフラワー油、桐油、脱水ヒマシ油等が例示でき、植物油由来脂肪酸エステルとしては、これら植物油由来のアルキルエステルが例示できる。
【0029】
さらに、使用する植物油または植物油由来脂肪酸エステルは、その脂肪酸基として、共役二重結合を有するリノレン酸、エレオステアリン酸等を20%以上含む場合が最も好適である。このような植物油または植物油由来脂肪酸エステルは、硬化皮膜形成速度、皮膜強度が特に高くなり易く好ましい。この植物油としてアマニ油、桐油等が例示でき、植物油由来脂肪酸エステルとしては、これら植物油由来のアルキルエステルが例示される。
【0030】
カルボジイミド化合物とは、分子内にカルボジイミド基(−N=C=N−)を少なくとも1つ有する化合物であり、例えば特開平05−287229号報に開示される化合物などを使用できる。これらカルボジイミド化合物は、水性樹脂中のカルボキシル基(−COOH)および塩基性化合物により中和されたカルボキシル基(−COO−X+, X:塩基性化合物)と常温または加温により反応し、架橋構造を形成する。そのため、カルボキシル基含有水性樹脂とカルボジイミド化合物とを反応させてなる水性樹脂は、その架橋構造により水性インキの凝集力を高め、高粘度化することにより良好な地汚れ耐性、インキ転移性、高速印刷適正を発現できるものと思われる。
【0031】
カルボキシル基含有水性樹脂とカルボジイミド化合物とはカルボジイミド基/カルボキシル基=0.02〜0.8の範囲で反応させるのが望ましい。この範囲以下ではその効果が得られ難く、これ以上であるとインキ粘度が増大しすぎ、流動性が大きく劣化し好ましくない。また、この反応は必要に応じて有機溶媒、もしくは水存在下で行うことができる。カルボキシル基含有水性樹脂を、その水性化前に有機溶媒存在下でカルボジイミド化合物と反応させ、後に残カルボキシル基を塩基性化合物で中和、水性化することも可能で有り、またカルボキシル基含有水性樹脂を塩基性化合物で中和した後、水存在下でカルボジイミド化合物と反応させることも可能である。反応温度は25℃〜250℃が好ましい。
【0032】
次に、本発明における印刷インキとしての使用形態について説明する。本発明における印刷インキは、通常平版印刷インキ、例えば枚葉インキ、ヒートセット輪転インキ、コールドセット輪転インキ等の形態において使用される。一般的には、
(a)顔料 5〜30重量%
(b)水溶性樹脂または水分散性樹脂 10〜40重量%
(c)水酸基含有化合物またはアミノ基含有化合物 1〜40重量%
(d)水溶性金属塩 0.1〜10重量%
(e)水 5〜50重量%
(f)その他添加剤 0〜40重量%
からなる組成にて使用される。
【0033】
VOC(揮発性有機化合物)フリータイプのインキとして使用する際には、上記組成において、VOC成分を0重量%とすればよい。VOCとは、常温で揮発する有機化合物のことである。米国環境保護庁はVOC測定方法として、110℃1時間の加熱による加熱残分測定を提示しており、実使用に即した測定方法として広く用いられている。オフ輪印刷機乾燥機中での紙面温度にも適応しており、合理的な判定方法と考えられる。
【0034】
樹脂は、必要に応じて塩基性化合物を添加して水に溶解または分散させた樹脂ワニスの形態で使用するのが取り扱い上簡便であって好ましい。
【0035】
本発明の印刷インキは、5℃から100℃の間で、顔料、樹脂またはワニス等の印刷インキ成分を、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサー、ペイントシェーカー等の練肉、混合、調整機を用いて製造される。
【0036】
印刷インキの25℃での表面張力は40dyncm−1以上であることが好ましい。粘度は、コーンプレート型回転式粘度計により測定された25℃、ずり速度120s−1の粘度が10〜200Pa・sであることが好ましい。上記範囲以外では高速印刷適性、着肉性の面で不十分になり易く好ましくない。
【0037】
さらに、本発明の印刷インキには、必要に応じてその他の添加剤を使用することが可能である。例えば、耐摩擦剤、ブロッキング防止剤、スベリ剤、スリキズ防止剤としては、カルナバワックス、木ロウ、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、およびシリコーン化合物等の合成ワックスを例示することができる。
【実施例】
【0038】
次に具体例をもって、本発明を詳細に説明する。尚、例中、部は重量部、%は重量%を表す。
【0039】
インキの粘度はハーケ(HAAKE)社製コーンプレート回転型粘度計ロトビスコ1(RotoVisco1)にて25℃、ずり速度120s−1での値を測定した。
【0040】
(樹脂製造例1)
イソプロピルアルコール200部を、攪拌機、還流冷却管、温度計付きフラスコに仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸90部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30部、シクロヘキシルメタクリレート180部、パーブチルO(日本油脂(株)製過酸化物、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。反応終了後、N−モノエタノールアミン69部、イオン交換水481部を添加し、イソプロピルアルコールを留去後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整した。その後、カルボジライトV−02(日清紡(株)社製カルボジイミド化合物)184部を添加し、90℃2時間反応させ、水性樹脂ワニス(A1)を得た。
【0041】
(樹脂製造例2)
樹脂製造例1と同様の装置に、イソプロピルアルコール200部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸60部、n−ブチルアクリレート30部、スチレン210部、パーブチルO 9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。反応終了後、トリエタノールアミン99部、イオン交換水342部を添加し、イソプロピルアルコールを留去後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整した。その後、カルボジライトV−04(日清紡(株)社製カルボジイミド化合物)70部を添加し、90℃2時間反応させ、水性樹脂ワニス(A2)を得た。
【0042】
(樹脂製造例3)
樹脂製造例1と同様の装置に、イソプロピルアルコール200部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸90部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30部、シクロヘキシルメタクリレート180部、パーブチルO(日本油脂(株)製過酸化物、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。反応終了後、N−モノエタノールアミン76部、イオン交換水481部を添加し、イソプロピルアルコールを留去後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水性樹脂ワニス(A3)を得た。
【0043】
(樹脂製造例4)
樹脂製造例1と同様の装置に、イソプロピルアルコール200部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら90℃に昇温加熱し、アクリル酸60部、n−ブチルアクリレート30部、スチレン210部、パーブチルO 9部を3時間かけて滴下した。滴下終了後、90℃2時間反応させ、パーブチルO 1.5部を添加し、さらに90℃2時間反応させた。反応終了後、トリエタノールアミン124部、イオン交換水342部を添加し、イソプロピルアルコールを留去後、樹脂分が35%になるようにイオン交換水で調整し、水性樹脂ワニス(A4)を得た。
【0044】
〔実施例1〕
リオノールブルーFG7330(東洋インキ製造(株)製)20部、樹脂製造例1で得られた水性樹脂ワニス(A1)50部、50%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液1.25部、大豆油6部、ジエチレングリコール20部、イオン交換水2.75部の混合物をレッドデビル型ペイントコンディショナーで30分間混練し、粘度64Pa・sの水性平版印刷インキを作成した。
【0045】
〔表1実施例2〜8、表2比較例1〜4〕
表1、表2に示した配合比率にて、実施例1と同様に水性平版印刷インキを作成した。実施例2および比較例2のインキはVOC成分を0重量%とした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(オフ輪印刷試験評価)
実施例1〜8および比較例1〜2の各水性平版インキを使用して、三菱BT2−800NEOオフ輪印刷機(三菱重工(株)製)にて、300rpmで用紙をNPIコート紙66.5kg(日本製紙(株)製)、印刷版TAP(東レ(株)製)で、2万枚の印刷試験を行い、印刷物の地汚れの状態を比較した。地汚れは、印刷物目視により評価した。結果を表1、2の下部に示した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、水を媒体とし、揮発性溶剤を含有しないことを特徴とする水性平版印刷インキを提供することであり、本発明の水性平版印刷インキは、優れた高速印刷適性、地汚れ耐性を有する。さらには、印刷後に、水で印刷機および版の洗浄が可能で、地球環境、作業環境の改善が図られるものであり、その工業的価値は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)顔料、(b)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂から選ばれる1種以上の水溶性樹脂または水分散性樹脂、(c)水酸基含有化合物および/またはアミノ基含有化合物、(d)水溶性金属塩、および(e)水を含有し、コーンプレート型回転式粘度計により測定した25℃での、ずり速度120s−1の粘度が10〜200Pa・sである水性平版印刷インキにおいて、(d)水溶性金属塩が全量の0.1〜10重量%含有していることを特徴とする水性平版印刷インキ。
【請求項2】
請求項1記載の水性平版印刷インキにさらに、全量の1〜20重量%の植物油またはその脂肪酸エステルを含有させることを特徴とする水性平版印刷インキ。
【請求項3】
請求項1記載の(b)アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、α−オレフィンマレイン酸樹脂から選ばれる1種以上の水溶性樹脂または水分散性樹脂において、カルボキシルキ基を有する水溶性樹脂または水分散性樹脂が、カルボジイミド化合物と反応してなる樹脂を含有することを特徴とする請求項1ないし2いずれか記載の水性平版印刷インキ。
【請求項4】
110℃1時間での加熱による有機化合物揮発分が1%以下である請求項1ないし3いずれか記載の水性平版印刷インキ。
【請求項5】
基材上に請求項1ないし4いずれか記載の水性平版印刷インキを印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2009−13344(P2009−13344A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178736(P2007−178736)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】