説明

水性樹脂組成物及びこれを用いた塗料

【課題】 屈曲性、耐水性、耐食性、耐薬品性に優れ、水性塗料組成物でありながら、溶剤系に匹敵するような優れた乾燥性を持つ水性樹脂組成物及びこの組成物を用いた水性塗料を提供する。
【解決手段】 (A)水及びエポキシエステル樹脂の存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸を含む重合性ビニルモノマー混合物を配合し、乳化剤としてエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤を用いて乳化重合させ、アミンを添加して得られるエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションと、(B)アミン官能基含有水性樹脂とを含有してなる水性樹脂組成物に、必要に応じ、顔料、消泡剤、顔料分散剤、可塑剤、有機溶媒、水溶性又は水分散性樹脂、金属乾燥剤、表面処理剤等を配合して塗料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料もしくは、接着剤等に有用である水性樹脂組成物、及びこれを用いた塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料には、通常、大量の有機溶剤を使用するため、塗装の際に大気中に有機溶剤が排出される。これらの有機溶剤は大気汚染の原因となっており、また、これらの有機溶剤が火災を引き起こす危険性も高い。近年、有機溶剤量を低減する努力が種々なされ、ハイソリッド塗料、粉体塗料、電子線・紫外線硬化塗料、水性塗料等がその目的のために開発されている。特に、危険性がなく、また、経済性の高い水を利用し、さらに、従来の塗装設備からの転用が容易であることから、水性塗料が注目を集めている。しかしながら、従来の水性塗料には、塗料の乾燥が遅く、また、耐水性及び耐食性が劣るという問題があった。
【0003】
これらの問題点を解決するために、例えば、水性アルキド樹脂塗料において、樹脂成分中にフェノール樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂等を含有させる方法やラジカル重合開始剤の存在下で重合性単量体を重合させる方法が試みられてきた。
このようにして改良された樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂と脂肪酸のエステルの存在下でビニル系単量体を重合させて得られた水希釈可能なビニル変性エポキシエステル樹脂がある。しかし、この水希釈可能なビニル変性エポキシエステル樹脂を用いた塗料には、耐水性は良好であるが、耐食性、塗料安定性が悪く、乾燥が遅いといった欠点があった(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照。)。また、アニオン系、ノニオン系の乳化剤を使用し、塗料安定性、水希釈性を改良する試みがなされているが、乳化剤が表面に局在化しやすくなるため耐水性が低下する(例えば、特許文献3を参照。)。エポキシエステルに多塩基酸又はそれらの酸無水物を反応させた後、アクリル変性して得られる樹脂を用いた塗料もあるが、その塗料は耐食性に優れるものの、塗料安定性、乾燥性が悪いとった欠点を持っていた(例えば、特許文献4を参照。)。
ところが、最近、水性化の需要が増えており現行の溶剤型のラインでも塗装できるような、乾燥性の早い塗料の要求が多くなってきている。しかし、ビニル変性エポキシ樹脂のエポキシ樹脂を高分子量化し、Tgを上げ乾燥性を上げようとすると、塗膜の柔軟性がなくなり基材との密着性が低下し耐食性、耐水性が低下する。また、造膜しにくくなるという問題を生じる。
さらに、エポキシ樹脂にアミンを変性し、アクリルを反応させ水性化した水分散型アクリル変性エポキシ樹脂では、耐食性、耐水性を低下させず乾燥性を向上させることができるが乾燥性は、不十分であった。また、オキサゾリン基の導入やオキサゾリン基含有水性ポリマーにより架橋させることも可能であるが、硬化温度は、80℃以上要であり、中和剤であるアミンを揮発性の高いアミンにしなければならない。アクリルエマルションをブレンドすることにより乾燥性は、向上するが、耐食性の低下や樹脂安定性に問題があった。
【0004】
さらに、アニオン性に安定化された乳化重合体と多官能アミンポリマーと揮発性塩基からなる組成物が提案されており(例えば、特許文献5を参照。)。この組成物では、揮発性塩基の揮発から多官能アミンが脱プロトン化し、カチオン性樹脂となり、アニオン性に安定化されていた乳化重合体が不安定になることにより乾燥性を向上させている。しかし、多官能アミンポリマーが入ることにより、耐水性に問題があった。また、アクリル系乳化重合体なので耐食性にも問題があった。
以上のように現行溶剤ラインでも使用できるような、塗料の乾燥が早く、また、屈曲性、耐水性、耐食性、耐薬品性及び耐食性にすぐれた塗料は、いまだないといった状況である。
【特許文献1】特公昭51−11128号公報
【特許文献2】特公平4−6726号公報
【特許文献3】特開昭54−30249号公報
【特許文献4】特許第3000487号公報
【特許文献5】特開平3−157463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、これらの課題を解決するものであり、エポキシエステル樹脂とエチレン性不飽和共重合モノマーとをグラフト乳化共重合させた特定のエポキシエステル変性アクリルエマルションとアミン官能基含有水性樹脂を使用することにより、屈曲性、耐水性、耐食性、耐薬品性に優れ、水性塗料組成物でありながら、溶剤系に匹敵するような優れた乾燥性を持つ水性樹脂組成物及びこの組成物を用いた水性塗料を提供するもので、上記特性が要求される防食塗料を始め、トラフィックペイント等に使用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、(A)水及びエポキシエステル樹脂の存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸を含む重合性ビニルモノマー混合物を配合し、乳化剤としてエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤を用いて乳化重合させ、アミンを添加して得られるエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションと、(B)アミン官能基含有水性樹脂とを含有してなる水性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、エポキシエステル樹脂が、脂肪酸及びエポキシ樹脂の合計量を100重量%として、脂肪酸30〜70重量%及びエポキシ樹脂70〜30重量%を付加縮合して得られる酸価30以下のエポキシエステル樹脂である上記の水性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、エポキシエステル変性ビニル重合体エマルションが、アミンを添加してpH8〜12に調整されたものである上記の水性樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)水及びエポキシエステル樹脂5〜60重量%の存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸を含む重合性ビニルモノマー混合物95〜40重量%を配合し、乳化剤としてエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤を用いて乳化重合し、アミンを添加して得られる酸価10〜50のエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションと、(B)アミン官能基含有水性樹脂とを含有してなる上記の水性樹脂組成物。
また、本発明は上記の水性樹脂組成物を含有してなる塗料に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水性樹脂組成物及び塗料は、塗膜の耐水性に優れるとともに耐食性、乾燥性に著しく優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられるエポキシエステル樹脂とは、脂肪酸とエポキシ樹脂を付加、縮合して得られるものである。この付加、縮合反応は、公知の方法に従って行うことが出来る。本発明に使用する脂肪酸類としては、通常、エチレン性不飽和二重結合を有する脂肪酸が好ましく、例えば、乾性油又は半乾性油から誘導される脂肪酸及び合成脂肪酸が用いられる。例えば桐油、大豆油、アマニ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、サフラワー油、綿実油等から得られる脂肪酸、合成により得られるバーサチック酸(シェルケミカル社製、商品名)等が上げられる。乾性油又は半乾性油から誘導される脂肪酸を使用するのが常温硬化性を付与できるので好ましいが、不乾性油から誘導されうる脂肪酸を使用しても良い。これらの脂肪酸は、一種又は二種以上使用される。脂肪酸の二重結合は、ドライヤ等による酸化重合性を持っており、また、ビニル重合体を変性する際のグラフト点にもなる。
【0009】
本発明に使用するエポキシ樹脂としては、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、例えば、ビスフェノールA型あるいは、Fタイプのエポキシ樹脂等の芳香族系エポキシ樹脂があり、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも、ジャパンエポキシレジン社商品名)、エポミックR140、(三井化学社商品名)、YD−011、YD−014、YD−017、YD−019等が挙げられる。また、グリシジル基を有する脂肪族系エポキシ化合物も使用でき、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトレメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール化合物のジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン、グリセリン等の脂肪族トリオール化合物のジ又はトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトール、ソルビトール、グリセリン二量体、多量体等の脂肪族ポリオール化合物のポリグリシジルエーテル、アジピン酸、テトラメチレンジカルボン酸等の脂肪族二塩基酸のジグリシジルエステル等がある。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100〜1000が好ましく、150〜500がより好ましい。これらのエポキシ樹脂は一種又は二種以上が使用される。
【0010】
エポキシエステル樹脂に重合性ビニルモノマー混合物と反応可能なエチレン性二重結合を更に導入するために、エチレン性不飽和二重結合を有する不飽和二塩基酸等の不飽和多塩基酸又はその誘導体を用いてもよい。例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、これらの低級アルキルエステル(例えば、炭素原子数1〜4のアルキル基を有するアルキルエステル)、これらの酸無水物などが挙げられる。。
【0011】
エチレン性不飽和二重結合を有する不飽和多塩基酸又はその誘導体の使用量は、全酸成分及びエポキシ樹脂成分の総量100重量部に対して、10重量部以下、例えば0.1〜10重量部が好ましく、7重量部以下、例えば1〜7重量部が好ましく、5重量部以下がより好ましい。10重量部を超えると樹脂に過剰に重合性ビニルモノマーがグラフト化するため、塗膜性能が低下する傾向にある。
【0012】
エポキシエステル樹脂に使用される脂肪酸とエポキシ樹脂の配合比は、乾燥性、耐食性の点から、脂肪酸とエポキシ樹脂の合計量を100重量%として、脂肪酸30〜70重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましく、エポキシ樹脂は70〜30重量%が好ましく、60〜40重量%がより好ましい。また得られるエポキシエステル樹脂の酸価は、耐水性の点から30以下が好ましく、10〜25がより好ましい。
【0013】
前記エポキシエステル樹脂は、上記エポキシ樹脂と脂肪酸及び必要に応じて用いられる不飽和多塩基酸を反応させて得られるが、反応方法は公知の方法により付加、縮合反応させる。例えば、エポキシ樹脂と脂肪酸及び必要に応じて用いられる不飽和多塩基酸の混合物を130〜250℃で5〜10時間加熱すればよい。また、この反応は、キシレン、トルエン等の有機溶媒中で行なってもよい。エポキシ樹脂と脂肪酸及び必要に応じて用いられる不飽和多塩基酸との反応は、同時に行なってもよいし、エポキシ樹脂と酸成分の一部を反応させた後、他の酸成分を反応させてもよい。例えば、エポキシ樹脂と脂肪酸を反応させたのち、不飽和多塩基酸を添加して反応させてもよい。
【0014】
水及びエポキシエステル樹脂の存在下に、重合性ビニルモノマー混合物を配合し、乳化剤を用いて乳化重合する。本発明において乳化重合に使用する乳化剤は、耐水性、耐食性の点からエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤である。このような乳化剤としては、たとえば、アントックスMS60(日本乳化剤製)、アデカリアソープSE10N(旭電化工業製)、エレミノールJS2、エレミノールRS30(三洋化成製)、HS10、20、1025(第一工業化学製)等のエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性乳化剤、アデカリアソープNE10,20,30、40(旭電化工業製)、RN10,20(第一工業化学製)等のノニオン系反応性乳化剤がある。これらの反応性乳化剤は、一種又は二種以上使用することが出来る。また、必要に応じて、エチレン性不飽和基を持たない通常の乳化剤と組み合わせて使用することもできる。これらの反応性乳化剤の使用量は、少ない方が耐水性、耐食性の点から好ましく、エポキシエステル変性ビニル重合体エマルションの樹脂固形分に対して0.5〜5重量%(有効成分)が適当である。
【0015】
本発明に使用する重合性ビニルモノマー混合物は、エチレン性不飽和カルボン酸を必須成分として含有する。エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸等のα,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸は、エポキシエステル変性ビニル重合体エマルションの樹脂固形分の酸価が10〜60になるように配合することが好ましく、20〜50になるように配合することがより好ましい。ここで酸価が10未満では、塗料の安定性が不十分となることがあり、60を超えると塗膜の耐水性、耐食性が劣ることがある。また、本発明に使用するエチレン性不飽和カルボン酸以外の重合性ビニルモノマーとしては、メタクリル酸又はアクリル酸のエステル、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル等がある。
例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、ヒドロキシアルキルエステルとしては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。また、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ポリエチレングリコールモノアクリレート又はメタクリレートの燐酸エステル等も使用できる。これらは、要求される特性に応じて適宜選択し、単独で又は2種類以上組み合わせて使用される。
【0016】
エポキシエステル変性ビニル重合体エマルションの製造において用いられるエポキシエステル樹脂の量は、エポキシエステル樹脂と重合性ビニルモノマー混合物の合計量を100重量%としたとき、5〜60重量%(重合性ビニルモノマー混合物95〜40重量%)であることが好ましく、10〜60重量%であることがより好ましい。エポキシエステル樹脂の量が5重量%未満では、常温硬化性、耐食性が劣ることがあり、60重量%を超えると乳化重合時の安定性が劣ることがある。エポキシエステル変性アクリルエマルションは、公知の乳化重合により製造することができる。また、ホモジナイザー等により強制的に、乳化剤を含んだエポキシエステル樹脂を水に分散させた後、乳化重合することも有用である。分子量制御のため四塩化炭素、メルカプタン類等の連鎖移動剤も使用できる。また、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド及び/又はアルカリ金属塩等のフリーラジカル開始剤を使用できる。その使用量は、全モノマー100重量部に対して0.05〜30重量部とすることが好ましい。
【0017】
乳化重合に用いられる水の量は、全モノマー100重量部に対して、50〜500重量部とすることが好ましく、100〜300重量部とすることがより好ましい。また、乳化重合は、10〜90℃で、30分〜5時間行なうことが好ましい。
また、エポキシエステル樹脂の合成及び乳化重合は、いずれも、窒素ガス等の不活性雰囲気で行なうことが好ましい。
【0018】
乳化重合後のエマルションは、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミンを用いて中和され、安定性のよいエマルション樹脂とされる。アミン使用量は、中和前のエマルションが有するカルボキシル基量を中和する量より多く添加し、カルボキシル基1当量に対し、2.5〜6当量とすることが好ましく、3〜5当量とするのがさらに好ましい。中和により得られるエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションのpHは、8〜12とすることが好ましく、10〜11とすることがより好ましい。
有機溶媒を用いずに、水を用いる乳化重合を行なうことにより、有機溶剤量の低減という効果がある。
【0019】
このようにして得られたエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションには、水と共に、ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、3−メチル−3−メトキシブタノール、イソプロパノール、ブタノール等の有機溶媒を併用することができる。
【0020】
本発明で使用されるアミン官能基含有水性樹脂は、第三級アミノ基を有するモノマーを含有するポリマが使用される。本明細書中、水性樹脂とは、水を媒体とする樹脂で、水溶性でも水分散性樹脂でもどちらでもよい。アミン官能基含有水性樹脂は、中性、アルカリ性、酸性の水性媒体中で溶液重合により得ることができる。アミノ官能基含有水性樹脂のアミノ基含有モノマー量は、40重量%以上が好ましく、単独でも、他のビニルモノマーと共重合させて使用することもできる。他のビニルモノマーを併用する場合、アミノ基含有モノマー量は、ビニルモノマー100重量部に対して40〜100重量部とすることが好ましく、60〜100重量部とすることがより好ましい。
アミン官能基含有水性樹脂に使用されるアミノ基含有モノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミド、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸のハーフアミド、α,β−不飽和カルボン酸のジアルキルアミノアルキルエステル、アルキルアミノアルキルエステル、アミノアルキルエステル、アミノアルコキシアルキルエステル等が好ましい。
【0021】
α,β−不飽和カルボン酸のジアルキルアミノアルキルエステル、アルキルアミノアルキルエステル、アミノアルキルエステル、アミノアルコキシアルキルエステルとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、β−アミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(モノ−n−ブチル)アミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリロキシエトキシエチルアミン等、及び、それら種々の混合物が挙げられる。ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートがもっとも好ましい。
【0022】
アミン官能基含有水性樹脂の合成は、中性、アルカリ性又は酸性の水性媒体中で、前述したアミン基含有モノマーの溶液重合により行なう。本発明において使用できるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジブチルーパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の油溶性タイプなどが挙げられる。さらに必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L−アスコルビン酸、硫酸第一鉄等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。また、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム等のキレート化剤を使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全モノマー100重量部に対して通常は、0.01〜10重量部とすればよいが、好ましくは0.1〜5重量部である。重合は、通常、10〜90℃の温度で行なわれる。
【0023】
アミン官能基含有水性樹脂の使用量は、エポキシエステル変性アクリルエマルション樹脂固形分に対し、0.1〜20重量%とするのが好ましく、1〜15重量%とするのがより好ましく、5〜10重量%とするのが更に好ましい。0.1%未満では、初期乾燥性が不十分となることがあり、20重量%を超えるとより水溶性になり、耐水性が低下することがある。
【0024】
得られた水性樹脂組成物は、そのまま水性塗料として使用することができるが、必要に応じ、顔料、消泡剤、顔料分散剤、可塑剤、有機溶媒、水溶性又は水分散性樹脂、金属乾燥剤、表面処理剤等を配合して水性塗料やそれ以外の塗料としてもよい。
顔料としては、例えば、チタン白、カーボンブラック、酸化亜鉛(防錆顔料)、タルク(体質顔料)、リン酸亜鉛(防錆顔料)等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、BYK−022(ビックケミー(株)商品名)等が挙げられる。
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル等が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、前記したものが挙げられる。
水溶性又は水分散性樹脂としては、例えば、変性アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0025】
金属乾燥剤(金属ドライヤ)としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛等が挙げられる。
表面処理剤としては、例えば、BYK−301(ビックケミー(株)商品名)等のシリコン系スリップレベリング剤等が挙げられる。
なお、得られた水性樹脂組成物に、前記変性アミノ樹脂やエポキシ樹脂を配合し、焼付用塗料として使用することができる。
また、前記脂肪酸変性エポキシエステルに使用される脂肪酸として前記乾性油又は半乾性油の脂肪酸を用い、さらに、前記水性塗料用樹脂組成物に金属乾燥剤を添加し、常温硬化型塗料として使用することができる。
【0026】
塗料化する方法としては、例えば、ペイントシェーカー法、ロールミル法、サンドミル法、ディスパーザー法、ニーダー法、高速インペラーミル法等の公知の方法を使用することができる。
得られた水性塗料は、通常の塗装方法に従って塗装に供することができ、塗装に際しては、例えば、浸漬法、刷毛塗り法、スプレー塗装法、ロール塗装法、フローコーター塗装法、シボリ(又はシゴキ)塗装法、ナイフコーター塗装法等の公知の塗装法を用いることができる。
塗装後は、自然乾燥又は乾燥機による強制乾燥により塗膜を乾燥させ、硬化させることができる。
本発明の製造法により得られた水性樹脂組成物は、得られる塗膜が耐食性に優れ、木材、紙、繊維、プラスチック、セラミック、鉄、非鉄金属、ガラス、コンクリート等の塗装用塗料に利用できる。
【0027】
以上、説明した本発明の水性樹脂組成物は、塗料に利用できる。塗料として例えば酸化架橋による常温乾燥型塗料や、ラッカー塗料等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例及びその比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[製造例]
エポキシエステル変性ビニル重合体エマルション製造例
撹拌機、還流冷却器、不活性ガス導入管、及び温度計を付けたガラス製フラスコ中に、不活性ガスを導入しながら、エピコート828、417g、脱水ひまし油脂肪酸63g、アマニ油脂肪酸501g、ジメチルエタノールアミン1gを仕込み、220℃ で5時間反応させた後、120℃に温度を下げ、マレイン酸20gを仕込み1時間反応させて酸価10のエポキシエステル樹脂(A−1)を得た。
次に、上記エポキシエステル樹脂200g、アントックスMS60 40g、水1465gを加えホモジナイザーに5分間かけて乳化させ、上記製造例と同様のフラスコに移し、80℃に昇温し、過硫酸アンモニウム2.5gを添加した。これとは別にスチレン、450g、n−ブチルアクリレート80g、2−エチルヘキシルアクリレート40g、メタクリル酸40gからなる混合液を滴下ロートに仕込み、1時間かけて滴下した後、2時間保温し、冷却し、アンモニアで中和し、さらに過剰のアンモニアを加え、pH10とした。加熱残分40重量%、酸価(固形分)28のエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションを得た。
【0029】
アミン官能基含有水性樹脂製造例
撹拌機、還流冷却器、不活性ガス導入管、及び温度計を付けたガラス製フラスコ中に、不活性ガスを導入しながら、脱イオン水295g、及び酢酸8.5gを仕込み、硫酸第一鉄0.15%の水溶液1.2gとエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムの1%水溶液1.0gを混合し、フラスコに仕込んだ。その後、100gのジメチルアミノエチルアクリレートとt−ブチルハイドロパーオキサイド2.1gを混合し、脱イオン水25g、酢酸0.2g、ロンガリット1.2gの混合物とともに2時間にわたり滴下した。滴下終了後、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.25g、ロンガリット0.1gを加え、75℃で1時間保温した。最終生成物は、固形分28.5%、粘度 500mPa・s、pH8.0であった。
【0030】
[実施例1]
上記製造例で得られたエポキシエステル変性ビニル重合体エマルション及びアミン官能基含有水性樹脂を表1に示す配合で混合して水性樹脂組成物を調製した。表1中、エポキシエステル樹脂、各種重合性ビニルモノマー及びアミン官能基含有水性樹脂の量は、各々、固形分の重量部で表した。また、後述の塗料配合にて塗料を調製し、塗膜の評価試験を行なった。その結果を表2に示す。
【0031】
[実施例2〜6及び比較例1及び2]
実施例2〜6は、エポキシエステル変性ビニル重合体エマルションの合成における重合性モノマーの使用量及び/又はアミン官能基含有水性樹脂の配合量を表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして水性樹脂組成物を調製した。比較例1は、エポキシエステル樹脂を用いずにその他の重合性モノマーのみ表1に示す量で用いた以外は、実施例1と同様にして水性樹脂組成物を調製した。比較例2は、アミン官能基含有水性樹脂を用いない以外は実施例1と同様にして水性樹脂組成物を調製した。実施例1と同様にして塗膜の評価試験を行ない、その結果を表2に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
評価
(塗料配合) 重量部
カーボン(三菱化成(株)製商品名:MA−100) 7.5
LFボウセイP−W−2(防錆顔料、菊池色素(株)製) 10.0
亜鉛華1号(防錆顔料、堺化学(株)製) 10.0
LMS200(体質顔料、富士タルク(株)製) 123.0
3−メチル−3−メトキシブタノール 16.0
サーフィノール104(顔料分散剤、日信化学工業(株)製) 3.5
BYK022(消泡剤、BYKケミー(株)製) 0.3
水性樹脂組成物(固形分) 100.0
DICNATE3111(金属ドライヤ、大日本インキ化学(株)製) 4.5
【0034】
ペイントシェーカーにより分散した塗料をシンナーでイワタカップ16秒に粘度調整し未処理鋼板にエアスプレーにより乾燥膜厚30μmになるように未処理鋼板(日本テストパネル(株)製、商品名:SPCC−SD板、厚さ:0.8mm)に塗装し、20℃で5日乾燥後に塗膜の評価試験(JIS K 5400に準拠)を行なった。
【0035】
【表2】

【0036】
(評価方法)
(1)鉛筆硬さ
JIS K 5400の鉛筆ひっかき試験法に従い、塗膜の破れが認められない鉛筆の硬度記号で結果を示した。
(2)乾燥性
5℃、20℃で塗装後、指触により硬化時間(単位:分)を判定(JIS K 5625)。
(3)基材との密着性(碁盤目)
カッターで1mm角の碁盤目を100切り、セロテープ(登録商標)にて剥離後、残存する塗膜のます目を表記した。
【0037】
(4)耐水スポット
試験版にスポイトでイオン交換水を滴下していき、跡がなくなるまでの時間(単位:分)
(5)屈曲性
塗膜版を3φで折り曲げ、折り曲げ部のひび割れ等の有無を確認した。良好とは、ひび割れ等の異変がないことを示す。
【0038】
(6)耐水性
試験板を20℃のイオン交換水に7日浸漬させ、塗膜表面の白化、フクレ、二次付着のの有無を目視で判定した。白化の評価の○は、白化のないことを、△はやや白化したことを示す。フクレの良好は、フクレのないことを示す。二次付着の100/100は、1m×1mに100個のマス目をつくり、テープ剥離したのちに剥離がないことを示す。
を示す。
(7)ソルトスプレイ(耐食性)
JIS K 5400の耐塩水噴霧試験に従い、試験板にカット部を形成させ、480時間塩水噴霧した後のカット部からの錆量を測定し、また、目視により、フクレ及びフクレ幅を観察した。錆量の○は錆の発生していないことを、×は全面に錆が発生したことを、△は一部に錆が発生したことを示す。
【0039】
実施例1〜6に見られるように、本発明の水性樹脂組成物は、屈曲性、耐水性、耐食性、耐薬品性、乾燥性等に優れる。比較例1は、エポキシエステル樹脂を使用しなかった場合であるが、耐食性が劣る。比較例2は、アミン官能基含有水性樹脂を使用しなかった場合であるが、乾燥性が著しく悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水及びエポキシエステル樹脂の存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸を含む重合性ビニルモノマー混合物を配合し、乳化剤としてエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤を用いて乳化重合させ、アミンを添加して得られるエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションと、(B)アミン官能基含有水性樹脂とを含有してなる水性樹脂組成物。
【請求項2】
エポキシエステル樹脂が、脂肪酸及びエポキシ樹脂の合計量を100重量%として、脂肪酸30〜70重量%及びエポキシ樹脂70〜30重量%を付加縮合して得られる酸価30以下のエポキシエステル樹脂である請求項1記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシエステル変性ビニル重合体エマルションが、アミンを添加してpH8〜12に調整されたものである請求項1又は2記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)水及びエポキシエステル樹脂5〜60重量%の存在下に、エチレン性不飽和カルボン酸を含む重合性ビニルモノマー混合物95〜40重量%を配合し、乳化剤としてエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤を用いて乳化重合し、アミンを添加して得られる酸価10〜50のエポキシエステル変性ビニル重合体エマルションと、(B)アミン官能基含有水性樹脂とを含有してなる請求項1〜3いずれかに記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の水性樹脂組成物を含有してなる塗料。

【公開番号】特開2006−89560(P2006−89560A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275140(P2004−275140)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】