説明

水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物

【課題】
表層が親水性で且つ耐水性等に優れた塗膜を形成するのに適する水性樹脂組成物及び水性塗料組成物を提供する
【解決手段】
重量平均分子量が1000〜50000のフッ素化樹脂(I)並びに該樹脂(I)以外のバインダー樹脂(II)を含有し、フッ素化樹脂(I)がフッ素含有重合性不飽和モノマー(a)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)及び該モノマー(b)以外の親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)を共重合成分として含有し、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)との合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものであることを特徴とする水性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表層が親水性で且つ耐水性等に優れた塗膜を形成するのに適する水性樹脂組成物及び該水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野において水性への転換がされている。一般に、水性塗料は親水性基や乳化剤等により、溶剤型塗料と比較して仕上がり性、耐水性等の性能が劣る傾向にある。しかしながら昨今の市場のニーズに伴い、仕上がり性や耐水性が良好であり、さらには耐汚染性といった高機能を発揮する塗膜を形成するような水性塗料の開発が望まれている。
【0003】
一般に耐汚染性を付与させる手法としては、塗膜を撥水性にする手法と親水性にする手法が知られており、塗料設計者は被塗物及びそれに対して付着しうる汚れ成分の種類や性質等に応じていずれかの手法を選択することができる。
【0004】
塗膜を撥水性にする樹脂として一般に、フッ素樹脂が知られている。例えば特許文献1には炭素数が6〜12のアルキル基を有するパーフルオロアルキルアクリレート、カルボキシル基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、ヒドロキシル基含有α,β−エチレン性不飽和単量体及びその他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体を界面活性剤を用いて水中に乳化分散させ、粒径を0.3μm以下の粒子にしてから重合することにより得られる含フッ素アクリル系重合体水性エマルジョンが記載されている。
【0005】
かかる含フッ素アクリル系共重合体水性エマルジョンは水の存在下でも安定に製造でき、該エマルジョンを含む組成物は撥水性を有する膜を形成できるものであるが、撥水性膜ゆえに疎水性の汚れが膜表面に付着しやすい傾向にあった。
【0006】
他方、塗膜表面を親水性にする方法として、塗料中にオルガノシリケートの変性縮合物を配合する方法が知られている(特許文献2参照)。該変性オルガノシリケートは、塗膜中で降雨水等の水分により加水分解され、シラノール基となって塗膜表層を親水化すると考えられている。この方法は降雨水等により付着した汚れ成分を洗い流す自浄作用を発揮することができる利点を有するものであるが、変性オルガノシリケートは水と反応するため、塗料形態を2液にしなければならず、使用直前に計量、混合する手間を要し、また塗膜表層を親水化するまでに時間がかかり、親水化発現までに汚れが付着する問題を有している。
【0007】
また、特許文献3にはフッ素化オレフィン系重合体、フッ素化(メタ)アクリレートと親水性構造単位含有エチレン性不飽和単量体及びその他のエチレン性不飽和単量体とを重合させて得られる共重合体、加水分解性シリル基を有する化合物を必須成分として含有してなり、さらに(メタ)アクリロイル基を含有する単量体の重合体を含んでなる被覆組成物が開示されている。
【0008】
該文献に記載の組成物によれば、フッ素化(メタ)アクリレートと親水性構造単位含有エチレン性不飽和単量体及びその他のエチレン性不飽和単量体とを重合させて得られる共重合体が、パーフルオロアルキル基と親水性構造の作用により、加水分解性シリル基を有する化合物と共に膜表面を親水性に改質でき、耐雨垂れ汚染性に優れた塗膜を形成できるものであるが、該共重合体は水及び水系塗料中の樹脂に対して相溶せず、また、加水分解性シリル基を有する化合物は水に対して反応するため水系塗料への適用は困難であるという問題点を有している。
【0009】
【特許文献1】特開平5−17538号公報
【特許文献2】WO99/05228号公報
【特許文献3】特開平10−36754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、塗膜表層を親水化でき、且つ耐水性等に優れた塗膜を形成するのに適する水性樹脂組成物及び水性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記した課題を鋭意検討した結果、フッ素含有重合性不飽和モノマー、酸基含有重合性不飽和モノマー及び親水性基含有重合性不飽和モノマーを共重合成分として含有するフッ素化樹脂において、酸基含有重合性不飽和モノマーと親水性基含有重合性不飽和モノマーを特定量重合させて得られる特定範囲の重量平均分子量を有する共重合体が水に対して溶解・分散可能であり、バインダーとなる水性樹脂に対しても相溶性が良好であることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、
1. 重量平均分子量が1000〜50000のフッ素化樹脂(I)並びに該樹脂(I)以外のバインダー樹脂(II)を含有し、フッ素化樹脂(I)がフッ素含有重合性不飽和モノマー(a)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)及び該モノマー(b)以外の親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)を共重合成分として含有し、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)の合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものであることを特徴とする水性樹脂組成物、
2. 親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)における親水性基が、水酸基、アルコキシポリオキシアルキレン基、アミド基、及びモルホリノ基から選ばれる少なくとも1種の基である1項に記載の水性樹脂組成物、
3. フッ素化樹脂(I)が、フッ素含有重合性不飽和モノマー(a)1〜50質量%、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)1〜90質量%、該モノマー(b)以外の親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)1〜90質量%及びその他の重合性不飽和モノマー(d)0〜97質量%を共重合成分として含有し、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)の合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものである1項または2項に記載の水性樹脂組成物、
4. フッ素化樹脂(I)が、バインダー樹脂(II)に対して0を超えて且つ15質量%未満の範囲内で含有する1項ないし3項のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物、
5. 1項ないし4項のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物、
6. 形成塗膜表面の水接触角が70°以下である5項に記載の水性塗料組成物、
7. 被塗面に、6項に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性樹脂組成物によれば、塗膜形成時においてフッ素の表面移行性によりフッ素化樹脂が塗膜表層に移行し、該フッ素化樹脂中に含まれる親水性基等を塗膜表層に配向させるために親水性表面を形成することができる。また、該フッ素化樹脂は、水性樹脂組成物中に含まれるバインダー樹脂及び水と相溶性が良好であることから、該水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜は仕上がり性が良好であり、また、耐水性等の諸物性にも優れている。さらに該水性樹脂組成物は一液型としても貯蔵安定性が良好である利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
フッ素化樹脂(I)
本発明においてフッ素化樹脂(I)は、フッ素含有重合性不飽和モノマー(a)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)及び該モノマー(b)以外の親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)を共重合成分として含有し、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)の合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものであることを特徴とする。
【0014】
本発明において、上記フッ素含有重合性不飽和モノマー(a)は、本発明の水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜においてフッ素化樹脂(I)を表面配向させるために用いられるものであり、分子中にフッ素と重合性不飽和基を含有する化合物を挙げることができ、特に制限されるものではない。
【0015】
本明細書において、重合性不飽和基はビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基などを挙げることができる。
【0016】
かかるフッ素含有重合性不飽和モノマーの具体例としては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン等のフッ素含有−α−オレフィン類;トリフルオロメチルトリフルオロビニルエーテル、ペンタフルオロエチルトリフルオロビニルエーテル、ヘプタフルオロプロピルトリフルオロビニルエーテル等のパーフルオロアルキル・パーフルオロビニルエーテルおよび(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;下式で表わされるパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0017】
【化1】

【0018】
上記式において、Rは水素又はメチル基であり、Xは水素、塩素、臭素、分岐していてもよい炭化水素基、フルオロアルキル基であり、mは1〜5の整数であり、nは1〜12の整数であり、aは1以上の整数であり、bは0以上の整数であり、ここでa+b=2n+1を満たすものである。かかるパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては例えば、
CH=CHCOCH、CH=CHCOCH、CH=CHCOCH、CH=CHCOCH11、CH=CHCOCH13、CH=CHCOCH15、CH=CHCOCH17、CH=CHCOCH19、CH=CHCOCH1021、CH=CHCOCH1123、CH=CHCOCH1225、CH=C(CH)COCH、CH=C(CH)COCH、CH=C(CH)COCH、CH=C(CH)COCH11、CH=C(CH)COCH13、CH=C(CH)COCH15、CH=C(CH)COCH17、CH=C(CH)COCH19、CH=C(CH)COCH1021、CH=C(CH)COCH1123、CH=C(CH)COCH1225、CH=CHCO、CH=CHCO、CH=CHCO、CH=CHCO11、CH=CHCO13、CH=CHCO15、CH=CHCO17、CH=CHCO19、CH=CHCO1021、CH=CHCO1123、CH=CHCO1225、CH=C(CH)CO、CH=C(CH)CO、CH=C(CH)CO、CH=C(CH)CO11、CH=C(CH)CO13、CH=C(CH)CO15、CH=C(CH)CO17、CH=C(CH)CO19、CH=C(CH)CO1021、CH=C(CH)CO1123、CH=C(CH)CO1225、CH=C(CH)COCHCFCHF、CH=C(CH)COCF(CF等が挙げられ、単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記フッ素含有重合性不飽和モノマー(a)は、後述のモノマー(b)及び(c)との相溶性の点から、1分子中のフッ素の数は5〜17程度の範囲内にあることが望ましい。
【0020】
酸基含有重合性不飽和モノマー(b)は、フッ素化樹脂(I)と水及び後述のバインダー樹脂(II)との相溶性、親和性を向上させる効果を有するものであり、その具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;モノ(アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和モノマーを挙げることができ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)は、本発明の水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜表面を親水性に改質させる効果を有するものであり、分子中に酸基以外の親水性基と重合性不飽和基を有する化合物である。親水性基の具体例としては水酸基、アミド基、モルホリノ基、アルコキシポリオキシアルキレン基、アミド基を挙げることができる。
【0022】
水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC〜Cヒドロキシアルキルエステル、アリルアルコール、上記C〜Cヒドロキシアルキルエステルのε−カプロラクトン変性体などの水酸基を有する(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;アリルアルコール、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、1、2−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1、3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オクチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等の水酸基含有アリル化合物等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0023】
アルコキシポリオキシアルキレン基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば下記式で表すことができる化合物を挙げることができる。
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、R1は炭素数が1〜24のアルキル基、pは2又は3の整数、qは2〜200の整数を示す)。
【0026】
アミド基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等を挙げることができ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
モルホリノ基含有重合性不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。
【0028】
本発明において、上記フッ素化樹脂(I)はモノマー(a)、(b)及び(c)以外のその他の重合性不飽和モノマー(d)を必要に応じて共重合していてもよく、その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレ−ト、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等縮合多環アルキル基含有(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル化合物;フマル酸エステル化合物;ブチルビニルエーテル 、シクロヘキシルビニルエーテル 、トリエチレングリコールジビニルエーテル 、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル 、ヒドロキシブチルビニルエーテル 、プロペニルエーテルプロピレンカーボネ−ト、ヒドロキシブチルビニルエーテルとイソシアネートとを反応させてなるビニルエーテル末端ウレタンオリゴマー等のビニルエーテル化合物;等を挙げることができ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
本発明においては上記モノマーの使用割合として、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)の合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものであることが必須であり、その合計量は60〜95質量%の範囲内であるとより好ましい。
【0030】
モノマー(b)とモノマー(c)の合計量の使用割合が30質量%以下であると、本発明の水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜表面の親水性が不十分となり、好ましくない。
【0031】
また、上記フッ素化樹脂(I)の製造において、モノマー(a)、(b)、(c)及び(d)の好適な使用割合としては、
モノマー(a)が、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%、
モノマー(b)が、1〜90質量%、好ましくは5〜40質量%、
モノマー(c)が、1〜90質量%、好ましくは25〜70質量%、
モノマー(d)が、0〜97質量%、好ましくは0〜70質量%であることができる。
【0032】
上記モノマーの共重合は従来公知の方法で行うことができ、例えば溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等によって製造できるが、フッ素化樹脂(I)を目的とする重量平均分子量に調整することが容易であることから、溶液重合法により行うことが望ましい。
【0033】
重合に用いられる重合開始剤としては、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、 tert−ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビス(2−メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4'−アゾビス(4−シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2−メチルプロピオネート)、アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。
【0034】
上記重合開始剤の好適な使用量としては、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマーに対して0.001〜15質量%、好ましくは0.2〜8質量%の範囲内であることが望ましい。
【0035】
溶液重合法を適用するにあたり、使用可能な有機溶剤としては、親水性であることが好ましく、その具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等のアルコール系有機溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル系有機溶剤;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル等のジエチレングリコールエーテル系有機溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のプロピレングリコールエーテル系有機溶剤;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のジプロピレングリコールエーテル系有機溶剤;3−メトキシブチルアセテート等のエステル系有機溶剤等が挙げられ、これらは単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。特に、エチレングリコールエーテル系有機溶剤及びプロピレングリコールエーテル系有機溶剤を使用すると水及びモノマー(a)、さらには製造されるフッ素化樹脂(I)ともに溶解可能であり、好適である。
【0036】
本発明において上記フッ素化樹脂(I)の重量平均分子量は1000〜50000であり、この範囲外では、水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜におけるフッ素化樹脂(I)の表面配向性が悪くなり、塗膜表面を親水化できず好ましくない。また、重量平均分子量のより好ましい範囲としては1000〜30000の範囲内である。
【0037】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0038】
また、上記フッ素化樹脂(I)としては酸価が10〜400mgKOH/g、好ましくは20〜350mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。フッ素化樹脂(I)の酸価を上記範囲に調整することにより、フッ素化樹脂(I)の水溶性を確保し、これを含む水性樹脂組成物の貯蔵安定性及び水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の親水化に効果がある。
【0039】
本明細書において酸価(mgKOH/g)は、試料1g(樹脂の場合は固形分)に含まれる酸基のモル量と同じモル量に相当する水酸化カリウムのmg数で表したものである。ここで水酸化カリウムの分子量は56.1とする。
【0040】
バインダー樹脂(II)
本発明においてバインダー樹脂(II)は、本発明の水性樹脂組成物の塗膜形成成分として用いられるものであり、上記フッ素化樹脂(I)以外の樹脂を制限なく使用することができる。特に上記バインダー樹脂(II)としては、重量平均分子量が50000を超えるものであることが望ましく、さらに100000以上の重量平均分子量を有するものであることが形成塗膜の耐水性等の塗膜物性の点から好ましい。
【0041】
上記バインダー樹脂(II)は水に溶解又は分散可能な樹脂が使用される。その樹脂種に特に限定はなく、具体的には、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を挙げることができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、これらの樹脂は、例えばウレタン変性アクリル樹脂のように変性されていてもよく、或いはグラフト重合されたものであってもよい。
【0042】
上記バインダー樹脂(II)は、分散粒子の形態である場合には、単層状又はコア・シェル型等の多層状であることができる。また、バインダー樹脂(II)は、フッ素化樹脂(I)との相溶性、水性樹脂組成物の貯蔵安定性等の観点から、親水性基としてアニオン性基、特にカルボキシル基を有する樹脂であることができ、この場合、該樹脂は中和されていてもよく、その際に使用し得る中和剤としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール等のアミン類やアンモニア等を例示することができ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0043】
本発明において、上記バインダー樹脂(II)は、フッ素化樹脂(I)との相溶性や形成塗膜の耐候性等の点からアクリル系樹脂であることができる。
【0044】
かかるアクリル系樹脂としては重合性不飽和モノマーを共重合成分とするものであり、該重合性不飽和モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状の炭化水素基を有する直鎖又は分岐状(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族化合物;アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖含有(メタ)アクリレート;アリルアルコール等の水酸基含有アリル化合物等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクロレイン、ホルミルスチロール、炭素数4〜7のビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトンなど)、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシアリルエステル、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアナート基含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;エポキシ基含有重合性不飽和モノマー又は水酸基含有重合性不飽和モノマーと不飽和脂肪酸との反応生成物、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の酸化硬化性基含有重合性不飽和モノマー等が挙げられ、これらは単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
上記モノマーの重合方法としては、従来公知の方法で行うことができ、例えば溶液重合法、塊状重合法、乳化重合法等によって製造できるが、乳化重合法により行うことが塗膜物性及び最終的に得られる組成物の有機溶剤の含有量を少なくでき、望ましい。
【0046】
上記バインダー樹脂(II)の乳化重合において使用される乳化剤としては、従来公知の乳化剤を使用することができ、適用可能な乳化剤の例としては、例えばアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、両イオン性乳化剤などを挙げることができる。
【0047】
アニオン性乳化剤としては、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ジアンモニウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸カルシウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;脂肪酸ナトリウム類、オレイン酸カリウム等の脂肪族カルボン酸塩;ポリオキシアルキレン単位含有硫酸エステル塩(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩;等);ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム等のナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩等;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、モノアルキルサクシネートスルホン酸ジナトリウム等のアルキルサクシネートスルホン酸塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0048】
ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン単位含有エーテル化合物(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル化合物;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル化合物;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル等のポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル化合物;等);ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシアルキレンアルキルエステル化合物;ポリオキシエチレンアルキルアミン等のポリオキシアルキレンアルキルアミン化合物;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のソルビタン化合物;等が挙げられ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0049】
両イオン性界面活性剤としては、ジメチルアルキルベタイン類、ジメチルアルキルラウリルベタイン類、アルキルグリシン類等を挙げることができる。
【0050】
上記乳化剤としては、重合性不飽和基とアニオン性基又はノニオン性基を分子中に含有する反応性乳化剤なども使用可能である。
【0051】
上記乳化剤の使用量としては、全重合性不飽和モノマーに対して0.5〜6質量%、好ましくは1〜4質量%の範囲内とすることができる。
【0052】
本発明においては、上記バインダー樹脂(II)が、カルボニル基含有水性樹脂である場合において、さらにヒドラジン誘導体を含ませることにより、水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜が常温乾燥の条件でも架橋し、耐水性等の諸物性に優れた塗膜を形成させることができ、望ましい。
【0053】
かかるヒドラジン誘導体としては、例えば、ヒドラジン、ヒドラジン水和物;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどの飽和脂肪族ジカルボン酸のジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸のジヒドラジド;フタル酸、テレフタル酸又はイソフタル酸のジヒドラジド;ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジド又はテトラヒドラジド;ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド;エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジン又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させてなるポリヒドラジド等;炭酸ジヒドラジド、ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート及びそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジンや上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド;該ポリイソシアネート化合物とポリエーテルポリオール類やポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド;該多官能セミカルバジドと水系多官能セミカルバジドとの混合物;ビスアセチルジヒドラゾン等が好適に使用できる。以上に述べた化合物は、それぞれ単独で使用することができ又は2種もしくはそれ以上組み合わせて使用してもよい。
【0054】
上記ヒドラジン誘導体の配合量としては、バインダー樹脂(II)中のカルボニル基1モルに対し、一般に、ヒドラジン誘導体に含まれるヒドラジド基が0.01〜2モル、好ましくは0.1〜1.5モルの範囲内となるような割合とすることができる。
【0055】
本発明の水性樹脂組成物は、形成塗膜表層の親水性及び耐水性のバランスからフッ素化樹脂(I)が、バインダー樹脂(II)に対して0を超えて且つ15質量%未満、好ましくは0.01〜8質量%の範囲内で含有することが望ましい。
【0056】
本発明はまた、上記の水性樹脂組成物を含んでなる水性塗料組成物を提供するものである。
【0057】
上記水性塗料組成物は、顔料、中和剤、増粘剤、界面活性剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、造膜助剤等の塗料用添加剤を必要に応じて配合することができる。
【0058】
本発明において上記水性塗料組成物により形成される塗膜は膜表層に親水性基が偏析しているため表面親水性を示すものであり、具体的には形成塗膜表面の水接触角が70°以下、特に40°以下であることができる。この際における膜裏面の水接触角は表面の水接触角より高い値を示すことができ、例えば、裏面接触角から表面接触角を引いた値が10°以上、特に20°以上を示すことができる。
【0059】
本明細書において、接触角は、20℃雰囲気にて試験片に脱イオン水をマイクロシリンジを用いて1滴(約15μl)滴下し、1分後の水滴の接触角を「コンタクトアングルメータCA−X150型」(商品名、協和化学(株)製)にて測定したものとする。
【0060】
上記本発明の水性塗料組成物は、新しい基材面や旧塗膜面に適用することができ、該基材としては、特に制限されるものではなく、例えば、コンクリート、モルタル、スレート板、PC板、ALC板、セメント珪酸カルシウム板、コンクリートブロック、木材、石材等の無機基材;プラスチック等の有機基材;鉄、アルミニウム等の金属などが挙げられ、また、旧塗膜としては、これら基材上に設けられたアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、アルキド樹脂などの塗膜が挙げられる。これらの被塗面には、水性又は溶剤型の下塗り材を塗布してもよく、必要に応じて、該下塗り材を塗布した後、上記水性塗料組成物を上塗り材として塗布することができる。
【0061】
本発明の水性塗料組成物は、従来公知の手法で塗装することができ、乾燥方法としては、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本明細書では、40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ここで「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0063】
アクリル樹脂溶液の製造
製造例1
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた四ツ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル70部を仕込み、撹拌しながら110℃まで昇温した後、四つ口フラスコ内液の温度を110℃に保ったまま下記表1に示す単量体、溶媒及び重合開始剤の混合物を滴下ポンプを利用して3時間かけて一定速度で滴下した。滴下終了後1.5時間110℃に保ち、その後、追加の重合開始剤0.5部をプロピレングリコールモノメチルエーテル10部に溶解させた開始剤溶液を1.5時間かけて一定速度で滴下し、さらに3時間110℃に保ち、撹拌を続けアクリル樹脂溶液(F1)を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は約4,200であった。また、不揮発分含有率は43%、酸価は78mgKOH/gであった。
【0064】
【表1】

【0065】
(注1)「ブレンマーPME−400」:商品名、日本油脂社製、オキシエチレン基の平均個数が9のメトキシポリオキシエチレン基含有メタクリレート
製造例2〜11
配合組成を表1に示す以外は製造例1と同様に行い、各アクリル樹脂溶液(F2)〜(F11)を得た。得られた樹脂溶液の性状値も併せて表1に示した。
【0066】
エマルション樹脂の製造
製造例12
2リットルの4つ口フラスコに脱イオン水312部、「Newcol 707SF」(日本乳化剤社製、乳化剤、固形分30%)2.3部を加え、窒素置換後、80℃に保持した。下記組成のプレエマルジョンを4つ口フラスコに滴下する直前に0.7部の過硫酸アンモニウムを加え、該プレエマルジョンを3時間にわたって滴下した。
脱イオン水 338部
ダイアセトンアクリルアミド 32部
アクリル酸 3.2部
スチレン 97部
メチルメタクリレート 260部
2−エチルヘキシルアクリレート 100部
n−ブチルアクリレート 150部
「Newcol 707SF」 62部
過硫酸アンモニウム 1.2部
滴下終了後30分より、30分間かけて0.7部の過硫酸アンモニウムを7部の脱イオン水に溶かした溶液を滴下し、さらに2時間80℃に保持し、その後約40〜60℃に降温した後、アンモニア水でpHを8〜9に調整し、固形分51.2%のエマルション(A)を得た。このエマルションの重量平均分子量は、10万以上であり、また、平均粒子径をコールター社の「コールターN4モデル」による準弾性光散乱法を用いて測定したところ、0.16μmであった。
【0067】
水性塗料組成物の製造
実施例1
上記製造例12で得たエマルションA200部に対して、製造例1で得たアクリル樹脂溶液(F1)2部をディスパーを用いて攪拌添加し、さらにアジピン酸ジヒドラジド3部と、「テキサノール」(イーストマンコダック社製、商品名、2,2,4−トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)10部を混合攪拌し水性塗料組成物1を得た。
【0068】
実施例2〜11および比較例1〜5
上記実施例1において、配合組成を表2に記載の通りとする以外は上記実施例1と同様に行い、各水性塗料組成物を得た。
【0069】
【表2】

【0070】
評価試験
上記実施例1〜11及び比較例1〜5で得られた水性塗料組成物を用いて下記評価試験(1)〜(3)を行い、結果を表2に示した。尚評価に使用する試験板は、各水性塗料組成物をガラス板に乾燥膜厚が60μmとなるようにドクターブレードを用いて塗装し、20℃で1週間乾燥させることにより得た。
【0071】
(1)貯蔵安定性
各水性塗料組成物80mlを内容量100mlのガラス製広口ビンに入れて密栓し、50℃の恒温槽中に1ケ月間保存した後、状態変化を保存前と比較することにより評価した。
〇:全く変化なし、
△:若干粘度が上昇し、沈降物が若干認められるが実用レベル、
×:粘度が上昇し、分離が著しい。
(2)接触角
表面接触角:各試験板の表面に脱イオン水を1滴(約15μl)滴下し、水滴の接触角を「コンタクトアングルメータCA−X150型」(商品名、協和化学(株)製)にて測定した。
裏面接触角:各試験板から塗膜を剥離し塗膜の裏面側(ガラス側)に脱イオン水を同様に滴下し、水滴の接触角を「コンタクトアングルメータCA−X150型」(商品名、協和化学(株)製)にて測定した。水接触角が低いほど親水性である。
(3)耐水性
各試験板を上水に20℃で7日間浸漬した後、塗面状態を観察し、下記基準にて評価した。
◎:非常に良好、
○:良好、
△:一部ブリスター発生、
×:全面にブリスター発生、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が1000〜50000のフッ素化樹脂(I)並びに該樹脂(I)以外のバインダー樹脂(II)を含有し、フッ素化樹脂(I)がフッ素含有重合性不飽和モノマー(a)、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)及び該モノマー(b)以外の親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)を共重合成分として含有し、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)の合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものであることを特徴とする水性樹脂組成物。
【請求項2】
親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)における親水性基が、水酸基、アルコキシポリオキシアルキレン基、アミド基、及びモルホリノ基から選ばれる少なくとも1種の基である請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
フッ素化樹脂(I)が、フッ素含有重合性不飽和モノマー(a)1〜50質量%、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)1〜90質量%、該モノマー(b)以外の親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)1〜90質量%及びその他の重合性不飽和モノマー(d)0〜97質量%を共重合成分として含有し、酸基含有重合性不飽和モノマー(b)と親水性基含有重合性不飽和モノマー(c)の合計量が、フッ素化樹脂(I)の製造に使用される全重合性不飽和モノマー中30質量%を超えるものである請求項1または2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
フッ素化樹脂(I)が、バインダー樹脂(II)に対して0を超えて且つ15質量%未満の範囲内で含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水性樹脂組成物を含む水性塗料組成物。
【請求項6】
形成塗膜表面の水接触角が70°以下である請求項5に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
被塗面に、請求項6に記載の水性塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。

【公開番号】特開2007−238737(P2007−238737A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62193(P2006−62193)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】