説明

水性液のシュウ酸除去方法、これを用いた茶飲料の製造方法、茶抽出組成物及び茶飲料

【課題】簡便な水性液のシュウ酸除去方法を提供し、茶飲料等の製造に適用して、安心して茶由来機能成分の効能を享受できる茶系製品を提供する。
【解決手段】シュウ酸を含有する水性液を、酸性白土及び/又は活性白土を有する処理剤に接触させてシュウ酸を除去する。茶抽出成分を含有する水性液を用意し、シュウ酸除去方法によって茶抽出成分を含有する水性液からシュウ酸を除去した後に茶飲料を調製する。シュウ酸除去において処理剤のカルシウムが溶出し、カルシウム含有量が0.1質量%以上、シュウ酸含有量のカルシウム含有量に対する質量比が5.0以下の茶抽出組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液に含まれるシュウ酸を選択的且つ効率的に除去可能な水性液のシュウ酸除去方法、これを適用して保健上有用な機能性成分を保持しつつシュウ酸の含有量を低減した茶飲料を製造可能な茶飲料の製造方法、シュウ酸による健康上の問題を回避しつつ、カテキン等のポリフェノールの摂取量を増加してその機能性を好適に享受可能な茶抽出組成物及び茶飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
茶飲料は、茶葉に熱水又は冷水を投入して抽出することによって飲用に供され、近年、容器詰飲料製品として普及したことにより、従来に比べて飲用が容易になっている。また、緑茶には茶カテキンが含まれていることが知られており、茶カテキンが心臓病や癌の予防に有効であることが報告され、茶カテキンの保健効果が明らかになるにつれて、茶カテキンの含有量を高めた飲料なども市場に流通し、茶カテキンの積極的な摂取が浸透しつつある。紅茶や烏龍茶についても、テアフラビンなどのカテキン重合物やフラボノイド等のポリフェノール、テアニン等のアミノ酸類のような種々の機能性成分が含まれることが知られている。このようなことから、健康志向の高まりにより、茶類全般において飲料の摂取が浸透している。
【0003】
上述のような茶類の機能性成分による効果を発現させるために必要な一日当たりの茶飲料摂取量は、かなりの量となる。例えば、緑茶の飲用について、カテキン類による基礎代謝向上効果を利用して脂肪燃焼による肥満抑制を発現させるには、成人で一日当たり4杯から5杯以上の摂取が必要であると言われている。このような量での飲用を継続した場合、茶に含まれる他の成分による弊害が懸念される。このような成分の1つとして、例えばカフェインがあるが、カフェインについては、コーヒーを始めとするカフェイン含有飲料の脱カフェイン方法が研究され、脱カフェイン製品が市場にも提供されている。
【0004】
弊害が懸念される他の成分として、苦みやえぐみを呈する「あく」の成分として知られているシュウ酸がある。シュウ酸は、ほうれん草やナッツ類など様々な植物に含まれ、含有量は種類によって異なるが、茶葉にも含まれており、煎茶(乾葉)には概して1質量%前後のシュウ酸が含まれるとの報告もある。シュウ酸の過剰摂取によって懸念される弊害には、尿路結石があり、体内に取り込まれたシュウ酸がカルシウム等の金属と結合することによって難溶性塩が結晶化し沈着することによって起こる。又、カルシウムや鉄等のミネラルが体内へ吸収されるのを阻害されることも報告されている。このようなことから、茶飲料に含まれる機能性成分の効果を享受するには、茶飲料の摂取量を増加してもシュウ酸による弊害を生じない様に配慮することが望まれる。
【0005】
これに関し、下記特許文献1には、熱水処理を施すことによって、生茶葉のシュウ酸濃度が95質量%以下に低下することが開示されている。又、特許文献2には、緑茶抽出物の含水エタノール溶液を酸性白土及び活性炭で処理する方法が記載されている。一方、ルバーブ飲料に関する技術として、下記特許文献3では、ルバーブ抽出液に塩化カルシウムを添加することによってルバーブ抽出液からシュウ酸を除去する方法が教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−60957号公報
【特許文献2】特許第4102748号公報
【特許文献3】特許第3122928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1においては、シュウ酸の除去効率が低く、除去される割合は10%程度に過ぎない。これに比べて、上記特許文献2においては、シュウ酸を効率的に除去することが可能であるが、エタノールを使用するため、茶飲料や茶系加工製品を調製するにはエタノールの除去が不可欠である。又、活性炭を使用するため、その吸着力の強さによって茶の風味が減退し易いという問題もある。一方、上記特許文献3の方法では、カルシウムとの結合による不溶化によってシュウ酸が除去されるが、その代わりに塩素イオンが液中に溶出して酸性度が上がり、この文献の除去方法を茶飲料に適用した場合には、風味等への影響が懸念される。
【0008】
本発明の課題は、茶飲料等の製造に適用した場合にその品質や風味を減退させることなく、シュウ酸を効率的且つ安価に除去することが可能な、水性液のシュウ酸除去方法を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の課題は、高い品質と良好な風味を保持し、シュウ酸濃度が低い茶飲料を簡便且つ安価に調製可能な茶飲料の製造方法を提供することである。
【0010】
更に、本発明の他の課題は、機能性成分による効果を享受するために摂取量を増加させても健康上の弊害が懸念されないシュウ酸濃度の低い茶飲料及び茶抽出組成物を、高品質且つ良好な風味で提供することである。
【0011】
又、本発明の他の課題は、カテキン類等の機能性成分やカルシウムの含有量が高く、摂取量を増加させてもシュウ酸等による健康上の弊害が懸念されず、飲食品及び飲食品製造用素材として好適に利用できる茶抽出組成物を簡便且つ安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の酸性白土又は活性白土を用いた時に、効率的且つ選択的にシュウ酸を水性液から除去可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の一態様によれば、水性液のシュウ酸除去方法は、シュウ酸を含有する水性液を、酸性白土及び/又は活性白土を有する処理剤に接触させることを要旨とする。
【0014】
又、本発明の一態様によれば、茶飲料の製造方法は、上記の水性液のシュウ酸除去方法に従って、茶抽出成分を含有する水性液からシュウ酸を除去した後に、前記水性液を用いて茶飲料を調製することを要旨とする。シュウ酸の除去は、茶葉の成分抽出と実質的に同時並行で行うことも可能である。
【0015】
更に、本発明の一態様によれば、茶抽出組成物は、茶抽出成分を含有し、カルシウム含有量が0.1質量%以上で、シュウ酸含有量のカルシウム含有量に対する質量比が5.0以下である。
【0016】
上記茶抽出成分が緑茶由来成分であり、総カテキン含有量が10質量%以上で、シュウ酸含有量の総カテキン含有量に対する質量比が0.03以下である茶抽出組成物や、カフェイン含有量が2質量%以下である茶抽出組成物が好適に提供される。
【0017】
又、本発明の一態様によれば、茶飲料は、上記茶抽出組成物と水とを含有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機溶媒を含まない水性液においてシュウ酸除去ができ、水性液からシュウ酸を除去するために高価な設備や特殊な装置を使う必要がなく、カテキン等の茶由来機能成分及びカルシウムの含有量が高くシュウ酸濃度が低い茶抽出液を簡便に調製することができるので、安心して茶由来機能成分の効果を享受できる茶飲料又は茶抽出組成物が提供され、飲料原料や茶風味加工製品の原料として利用することができる。又、本発明に従って得られる茶成分水溶液を用いて、茶抽出物を含有する色素剤、フレーバー等の飲食品製造用素材を提供し、飲食品の調理等に利用することができるので、食品加工分野において、添加物、色素剤等の新規素材として茶抽出物の用途を更に開発することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
緑茶や紅茶などの種類による相違はあるが、茶葉は、概して、乾燥葉の0.5〜1.5質量%程度の割合でシュウ酸を含有しており、水や親水性有機溶剤を用いて抽出される茶抽出物には、1〜5質量%程度のシュウ酸が含まれる。従って、一般家庭で煎れる茶飲料及び市販される茶飲料製品の何れにしても、大量に摂取すれば、シュウ酸の過剰摂取による弊害が懸念されることになる。従って、茶飲料に含まれる機能性成分の有効性を享受することを目的として茶飲料の摂取量を増加するには、茶抽出物からシュウ酸を選択的且つ効率的に除去する必要がある。この際、好ましくない物質の混入や費用のかかる材料等の使用は避けることが望ましく、このような点を考慮しつつシュウ酸の除去に適した素材を模索したところ、特定の酸性白土が極めて優れていることが判明した。しかも、酸性白土を用いた処理を施す対象として、茶の水性抽出液を使用でき、シュウ酸を除去した後には、茶由来成分が残留する水性溶液が得られ、そのまま飲料製造に導入することが可能であるので、カテキン等の茶由来機能成分を高濃度で含有し、シュウ酸濃度が著しく低減した茶飲料及び茶抽出組成物を効率的に提供できる。
【0020】
以下、本発明のシュウ酸除去方法について詳細に説明する。尚、本願の記載において、「総カテキン」は、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、及び、これらのジアステレオ異性体であるガロカテキン(GC)、ガロカテキンガレート(GCg)、カテキン(C)及びカテキンガレート(Cg)の8種の化合物のHPLC分離分析による個別定量値の合計を示し、「カテキン類」は、前記総カテキンの構成化合物の単独物及び複数混合物を概括的に含む意味とする。
【0021】
本発明のシュウ酸除去方法は、シュウ酸及び他の成分を含有する水性溶液を処理剤に接触させてシュウ酸を処理剤に吸着させ、他の成分が残留する水性溶液を回収することによって水性溶液からシュウ酸を選択的に除去する。処理剤として特定の酸性白土及び/又は活性白土を使用することによってシュウ酸の除去効率が格段に向上する。尚、酸性白土及び活性白土は、カフェインに対しても吸着性を示すので、シュウ酸の除去と共にカフェインも減少する。
【0022】
酸性白土は、モンモリロナイト[(Na,Ca)0.33(Al,Mg)2Si4O10(OH)2 nH2O]を主成分とし、層間陽イオンは水素イオンである層状珪酸塩鉱物である。SiO2/AlO2成分比は6〜10程度であり、Al分子が天然に脱離した膠状の過剰珪酸を含むことによって吸着能及び触媒能を有すると考えられている。活性白土は、酸性白土又はベントナイト(組成比が異なるモンモリロナイト系鉱物)を硫酸等の鉱酸で処理して活性化した人工処理鉱物で、モンモリロナイト結晶内に含まれるAl,Mg等が溶出することによって、更に過剰珪酸が生成し細孔が形成されるため、原料の酸性白土よりSiO2/AlO2成分比が高く、比表面積が大きい。活性白土は、弱酸性触媒としての機能を有することや、カロテノイド、クロロフィル等の有機物質を吸着することが報告されている。一般に、酸性白土の比表面積は50〜200m2/g程度で、活性白土の比表面積はこれより大きく、鉱酸処理の程度によって150〜400m2/g程度となる。また、酸性白土のCaO(酸化カルシウム)含有率は概して0.8〜2.5質量%程度で、活性白土のCaO含有率はこれより小さく、酸処理の程度によって0〜1.5質量%程度となる。
【0023】
本発明において用いる処理剤は、酸性白土及び/又は活性白土を有し、特に、比表面積が比較的小さく、CaO含有率が高い酸性白土及び/又は活性白土が適しており、天然又は人工処理物の何れでも良い。層状珪酸塩鉱物である酸性白土及び活性白土は、比表面積が小さいものは細孔形成度つまり多孔性が低いことを意味する。比表面積及びCaO含有率が本発明の処理にどの様に影響するかは明らかではないが、以下のようなことが考えられる。酸性白土及び活性白土は、水に分散するとpH4.5〜5.5程度の弱酸性を示し、塩基性のカフェインに対しては吸着作用し易く、有機酸等の酸性成分に対する吸着性は低いが、シュウ酸に対しては特異的な吸着作用を示し、この作用は、モンモリロナイトに含まれるカルシウムによるシュウ酸カルシウムの沈析作用に起因する。又、酸性白土及び活性白土は、本来、有機化合物に対する吸着性を示し、細孔が多いと有機化合物が細孔内に捕獲され易いが、多孔性の低い構造では有機化合物の捕獲は抑制される。この際、少ない比表面積での接触においてシュウ酸に対する作用が顕在化するには、カルシウムの存在確率の高さによって接触頻度が高まることが重要となる。このようなことから、比表面積が小さく、CaO含有率が高い酸性白土及び活性白土においては、シュウ酸に対して効率的に吸着作用を示すと共に、それ以外の茶由来成分に対する吸着性が抑制されると考えられる。
【0024】
酸性白土及び活性白土の比表面積及びCaO含有率は、その産地及び活性化処理程度によって異なる。本発明の処理剤に適した活性白土について具体的に記載すると、比表面積(N2ガス吸着法)は、300m2/g以下、好ましくは40〜150m2/g、より好ましくは40〜100m2/gであり、CaO含有率は、0.4質量%以上、好ましくは1.0質量%以上であり、このような範囲の活性白土が好適に使用される。酸性白土は天然物であることから、不純物等に起因すると推測されるばらつきがあるが、概ね上記範囲に含まれる。上記範囲には、表面積が概して小さい酸性白土の方が該当し易く、CaO含有率が高い特定の酸性白土(例えば、中国華南省産酸性白土等)が本発明の処理剤に適する一例として挙げられるが、活性白土についても、活性化の処理程度を制限することによって適正な比表面積の活性白土が得られ、CaO含有率が高い酸性白土やベントナイトから好適な活性白土を調製することが可能である。従って、本発明の処理剤について天然物又は人工処理物の如何は問わず、酸性白土又は活性白土を単独で用いたり、産地等が異なる複数種の酸性白土及び/又は活性白土を組み合わせて用いても良い。特に、酸性白土の場合は、比表面積70m2/g以下、CaO含有率1.5質量%以上のもの、活性白土の場合は、比表面積150m2/g以下、CaO含有率0.8質量%以上のものが、極めて優れたシュウ酸除去能を発揮する。
【0025】
上述に基づいて、好適な酸性白土及び/又は活性白土についてCaO含有率/表面積の比率を求めると、20μg/m2程度以上、好ましくは100μg/m2程度以上、より好ましくは150〜400μg/m2程度となる。
【0026】
上述のような酸性白土及び/又は活性白土を処理剤として水性液を接触させることによって、水性液に含まれるシュウ酸が吸着され、処理剤を分離することによってシュウ酸濃度が低減した水性液が回収され、この際、シュウ酸濃度を検出限界以下に低下させることも可能である。従って、茶葉の抽出成分を含有する水性溶液を処理対象として処理剤に接触させることにより、シュウ酸濃度は低下し、それ以外の有機酸成分やカテキン等の茶由来機能成分は残留した水性液が回収され、そのまま茶飲料の製造に導入できる。作業性や経済性だけでなく、除去性能の点においても、水性液は、実質的に有機溶媒を含まない水単独媒体であることが好ましい。また、水性液中に茶葉や水難溶物等の分散物が共存しても良く、処理剤の共存下で茶葉に水又は熱水を加えて茶葉の成分抽出とシュウ酸除去とを実質的に同時に並行させることも可能である。
【0027】
本発明のシュウ酸除去方法において、シュウ酸除去処理の対象となる茶抽出成分について、その原料となる茶の種類や発酵程度、抽出成分組成について特に制限はなく、緑茶(不発酵茶)、紅茶(発酵茶)、烏龍茶(半発酵茶)等の何れについても適用可能である。シュウ酸除去処理を施す水性液は、水を媒体とするが、茶葉の水又は熱水による浸出液に限られず、水、熱水又は親水性有機溶剤(含水溶剤を含む)を用いて茶葉から予め抽出・乾燥した茶抽出物も、水に再溶解して水性液に調製することで処理を施すことができる。水性液の茶抽出成分濃度は、処理効率等の点を考慮すると、0.2〜5質量%程度が好ましい。水性液は、10〜40℃程度の温度で処理することが好ましく、高温での処理は、成分の変質を生じる。
【0028】
上記処理剤による水性液のシュウ酸除去処理は、バッチ式逐次処理及びカラム式連続処理の何れを採用しても良い。具体的には、バッチ式の場合は、茶抽出成分水性液に粉末状又は顆粒状の上記処理剤を添加し、適宜攪拌して水性液を処理剤に均一に接触させることによって水性液中のシュウ酸が処理剤に吸着され、沈降分離や濾過、遠心分離等の分離操作を適宜用いて水性液を処理剤から分離回収することよって、シュウ酸濃度が低下した水性液が得られる。或いは、茶葉の抽出の際に抽出槽内へ粉末状又は顆粒状の上記処理剤を添加して、実質的に抽出と同時並行でシュウ酸除去を進行するようにしてもよい。カラム式の場合は、顆粒状の上記処理剤を充填して処理剤層を構成したたカラムに水性液を通液して水性液を処理剤に接触させることによって、シュウ酸が処理剤に吸着除去された水性液がカラムより回収される。大容量の水性液をカラム式処理する場合には、例えば、珪藻土濾過器等のような濾過床を配置した濾過器に処理剤を装填して処理剤層を形成し、水性液の供給・濾過速度を適宜調節しながら水性液に濾過器を通過させることによって効率的にシュウ酸を除去できる。
【0029】
バッチ式処理後の濾過について、孔径が0.8μm程度以下のフィルタや濾過助剤(濾過床を形成する濾過材)を使用して濾過分離を行うと、分離効率がよい。使用可能な濾過助剤として、例えば、珪藻土、セルロース、ベントナイト、ゼオライト、セピオライト、多孔質ガラス等が挙げられるが、これらに限定されず、一般的に使用される濾過助剤から本発明の除去処理に実質的に影響を及ぼさないものを適宜選択して使用できる。また、カラム式処理において、上述の濾過助剤のような茶由来成分に影響を与えない粒状材を処理剤に混合して処理剤層を形成すると、処理剤の充填容積及び通液時間を調整することができる。
【0030】
上記処理剤によるシュウ酸除去は、イオン結合形成のような速度の速い反応によると考えられ、水性液と処理剤の接触と共に進行するので、バッチ式における処理剤との接触時間及びカラム式における通液速度は、水性液の茶抽出成分濃度等に応じて適宜調整すればよい。処理能等の観点から、水性液に含まれる茶抽出成分(不揮発分)1質量部に対して酸性白土及び/又は活性白土が0.5〜20質量部程度となる割合で使用することが好ましく、1.0〜10質量部程度が特に好ましい。
【0031】
茶葉には、カテキン類又はその酸化重合物、アミノ酸類(テアニン、グルタミン酸、アルギニン、アスパラギン酸等)、有機酸類(アスコルビン酸、葉酸、パントテン酸等のビタミン)及び他のビタミン類、ミネラルなどの成分が多数含まれており、茶飲料つまり茶葉の水性抽出液は、これらの成分を含有する。また、緑茶飲料には、水溶性のフラボノール類、フラボン類や、脂溶性成分である少量のクロロフィルが含まれ、呈色成分として作用する。上述のシュウ酸除去処理において、水性液中のカフェインは処理剤に吸着されて濃度が減少するが、アミノ酸や有機酸、ミネラル、フラボノール類、フラボン類などは保持され、有機酸成分の中でシュウ酸が選択的に除去される。通常、茶抽出成分に含まれるシュウ酸の割合は、1〜5質量%程度であるが、上述のシュウ酸除去処理の結果、0.5質量%程度以下に減少し、シュウ酸の除去率を70%以上とすることが可能である。この結果、本発明のシュウ酸除去方法を経ることで、緑茶抽出液から、総カテキン含有量が10質量%以上で、シュウ酸/総カテキンの含有割合が0.03以下の緑茶成分を含有する水性液が得られ、シュウ酸/総カテキンの含有割合が0.01以下のものも得られる。カフェイン含有量は茶抽出成分の2質量%以下に減少する。従って、茶の機能性成分による効果の享受に極めて有利な茶飲料が提供できる。
【0032】
本発明のシュウ酸除去処理において、処理剤に含まれるカルシウムの水性液への溶出が確認されている。従って、上記処理を経た水性液は、シュウ酸濃度及びカフェイン濃度が低減すると共に、カルシウム濃度が増加する。通常の茶浸出水には1L当たり数mg程度のカルシウムが含まれ、茶抽出成分(不揮発分)組成中に占める割合は0.1〜0.2質量%程度に相当するが、本発明のシュウ酸除去処理を経ると、概して0.2〜1.5質量%程度に増加する。従って、シュウ酸含有量のカルシウム含有量に対する質量比が5.0以下となるような茶抽出組成物を得ることができ、緑茶抽出成分の場合、総カテキンに対するカルシウムの割合は、0.5〜5質量%程度となる。通常の茶浸出水にカルシウムを添加しても、シュウ酸による沈析によりカルシウム濃度を高めることは困難であり、また、従来の分離技術でシュウ酸を除去した茶抽出物を用いて茶成分水性液を調製しても、そのカルシウム濃度を高めることは平易ではないが、本発明のシュウ酸除去処理を施すと、酸性白土からの溶出によって従来の茶飲料より高濃度のカルシウムを安定的に含んだ茶成分水溶液が得られるので、カルシウム摂取及び吸収性の点でも有利な茶飲料を簡便に提供することができる。
【0033】
このようにして得られる茶抽出成分水性液は、そのまま、或いは、濃度及び組成を適宜調整し、必要に応じて各種添加剤を配合した後に、ペットボトルや缶などの飲料容器に充填することによって、容器詰め飲料として提供することができる。また、水性液を濃縮・乾燥してペースト、固形、粉末又は顆粒状の茶抽出組成物に調製することによって、粉末茶やインスタントティーとして提供したり、茶系飲料の製造原料、飲食品や健康食品、サプリメントなどの着色剤、カテキン配合用添加剤として利用することができ、シュウ酸の過剰摂取による弊害を懸念することなく、茶由来の機能成分による効用を享受することができる。
【0034】
本発明のシュウ酸除去処理は、茶成分の水溶液に限らず、様々な水性液に施すことができ、有機溶剤等の使用による原料費や後処理によるコスト高が避けられる。又、特殊な装備や高価な装置を必要とせず、一般的な設備を利用して簡易に実施できるので、経済的に非常に有利である。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
処理剤として、下記の珪藻土、カオリン、タルク、活性白土1〜4及び酸性白土1〜4を用意した。
【0036】
珪藻土: Darcyの透過率Kが0.1である珪藻土
カオリン: 商品名:ASP-400P(土屋カオリン工業社製)
タルク: (和光純薬製)
活性白土1: 商品名:ガレオンアースV1(水澤化学工業社製)
活性白土2: 商品名:ガレオンアースNC(水澤化学工業社製)
活性白土3: 商品名:ガレオンアースNS(水澤化学工業社製)
活性白土4: 商品名:ガレオンアースNV(水澤化学工業社製)
酸性白土1: 中国河南省産酸性白土(信陽平橋▲金▼遠保温材料厂社製)
酸性白土2: 商品名:ミズカエース#20(水澤化学工業社製)
酸性白土3: 商品名:ミズカエース#200(水澤化学工業社製)
酸性白土4: 商品名:ミズカエース#600(水澤化学工業社製)
各処理剤について、pH、比表面積及び構成酸化カルシウム量を測定した。pHは、各処理剤の5%水性サスペンジョンを調製し、pHメーターを用いて測定した。比表面積は、各処理剤約0.7gを標準セルに取り、測定装置(島津マイクロメリテックスASAP−2400)の前処理部において約110℃で約15時間の減圧乾燥による脱ガス処理を行った後に、N2ガス吸着量の測定を行い、BET法に従って比表面積を測定した。構成酸化カルシウム量は、各処理剤を110℃で乾燥させた後に塩化ビニル製リングを用いて全圧約25トンで加圧成形し、蛍光X線分析装置(島津製作所XRF−1700)を使用し、FP(ファンダメンタル・パラメータ)方による定量分析を行うことによって測定した。測定結果を表1に示す。なお、表面積当たりの構成酸化カルシウム量(CaO/表面積)は、下記の計算式により算出した。
【0037】
CaO/表面積[μg/m2]=
(CaO含有率[%]÷100)×106(μg/g)÷比表面積[m2/g]
【0038】
次に、緑茶抽出物(商品名:テアフラン30F、株式会社伊藤園製)を脱イオン水に溶解して濃度が2.0質量%の水溶液を調製し、上述の各処理剤を用いて、緑茶抽出物水溶液のシュウ酸除去処理を後述の手順に従って行い、処理後の水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインをHPLC分析により後述の分析条件及び定量方法に従って定量した。結果を表2に、各成分の含量比を表3に示す。尚、表中の不等号による記載値は、定量限界以下を示す。
【0039】
<シュウ酸除去処理>
直径6cmの桐山ロートに、5C濾紙、5B濾紙及び5A濾紙を順次敷いて、アスピレーターで吸気しながら、脱イオン水50mLに懸濁させた珪藻土1.413gを濾紙上に投入して珪藻土による濾過床を準備した。次に、処理剤2.825g及び珪藻土1.143gを脱イオン水50mLに懸濁し、これを、アスピレーターで吸気した濾過床上に投入して処理剤層を形成し、脱イオン水500mLを通液して洗浄した。
【0040】
上記で調製した緑茶抽出物水溶液113mLに珪藻土1.13gを加えて懸濁した後、上記処理剤層上に投入して通液し、処理剤層を通過した水溶液を回収した。尚、処理剤層の通液に要した時間は20分程度であった。
【0041】
回収した緑茶抽出物水溶液のBrixを0.25%に調整して孔径0.25μmのフィルターで濾過した後に、HPLCによる各成分量の測定を行った。
【0042】
<シュウ酸及びカルシウムの定量:HPLC分析条件>
HPLC装置:島津製作所社製HIC−NSノンサプレッサイオンクロマトグラフ
カラム:陰イオン Shima-pack IC-A1 4.6mmID×100mm
陽イオン Shima-pack IC-C3 4.6mmID×100mm
移動相:陰イオン 1.2mMフタル酸水素カリウム:アセトニトリル=95:5
陽イオン 2.5mMシュウ酸
検出:電気伝導度検出器 OCD-10Avp
試料注入量:1mL
送液量:1.5mL/分(陰イオン)、0.8mL/分(陽イオン)
<総カテキンの定量:定量方法>
(-)-EGC、(-)-EGCg、(-)-EC、(-)-ECg、(-)-GC、(-)-GCg、(+)-C、(-)-Cg(何れもフナコシ社製)を各10mgずつ100mLのメスフラスコに秤取し、0.5質量%アスコルビン酸−0.01質量%EDTA二ナトリウム水溶液を用いて溶解し、100mLに定容した。この溶液の一部を用いて、2倍又は4倍に前記アスコルビン酸−0.01質量%EDTA二ナトリウム水溶液で希釈した希釈液を調製して、1倍、2倍及び4倍の標準液とした。
【0043】
上記3種の標準液を、各々、0.2μmバーサポアフィルターを通過させた後に、HPLC分析を下記の条件で行い、得られたクロマトグラムにおける各成分のピーク面積を測定して、ピーク面積と各成分の濃度とから検量線を作成した。
【0044】
上記の検量線を用いて、シュウ酸除去処理で得られた分析試料のHPLC分析による各成分の濃度を求め、カテキン8成分の合計含有量を算出して、茶抽出物の総カテキン量とした。
【0045】
<総カテキンの定量:HPLC分析条件>
HPLC装置:Water 2695 Separation Module
カラム:YMC J'sphere ODS-H80 3.0 I.D.×250mm
移動相A: 水
移動相B: アセトニトリル
移動相C: 1%リン酸水溶液
検出:UV検出器 230nm
試料注入量:5μL
送液量:0.44mL/分
送液グラジエント
時間[分] 移動相A[%] 移動相B[%] 移動相C[%]
0 82.7 7.3 10.0
5 82.7 7.3 10.0
10 80.5 9.5 10.0
15 80.5 9.5 10.0
25 76.0 14.0 10.0
40 76.0 14.0 10.0
45 49.0 41.0 10.0
55 49.0 41.0 10.0
60 82.7 7.3 10.0
74 82.7 7.3 10.0
【0046】
(表1)
処理剤の物性
処理剤 処理剤の物性
pH 比表面積 CaO含有率 CaO/表面積
[m2/g] [質量%] [μg/m2]
珪藻土 5.7 10〜28 0.1〜2
カオリン 5.6
タルク 5.7
活性白土1 5.0 230.1 0.67 29
活性白土2 4.6 50.1 1.09 218
活性白土3 5.0 183.2 0.61 33
活性白土4 5.0 223.4 0.50 22
酸性白土1 5.6 60.0 1.97 328
酸性白土2 5.5 85.8 1.02 119
酸性白土3 5.5 80.8 0.89 110
酸性白土4 5.5 84.3 0.93 110
【0047】
(表2)
処理剤と水溶液の成分濃度との関係
処理剤 処理後水溶液の成分濃度 [ppm]
シュウ酸 Ca カフェイン 総カテキン
(処理前) 17.66 <0.7 132.1 643.7
珪藻土 17.55 <0.7 132.6 649.2
カオリン 15.58 <0.7 132.4 651.5
タルク 17.38 <0.7 127.5 634.2
活性白土1 5.44 9.64 8.6 672.6
活性白土2 <2.5 5.49 1.7 671.7
活性白土3 5.18 9.06 14.0 663.4
活性白土4 5.32 7.24 22.5 646.5
酸性白土1 <2.5 24.18 <0.1 724.8
酸性白土2 11.28 13.80 <0.1 712.4
酸性白土3 8.26 10.13 <0.1 646.6
酸性白土4 5.05 7.70 <0.1 698.1
【0048】
(表3)
処理剤と水溶液の成分比との関係
処理剤 処理後水溶液の成分含量比
シュウ酸/総カテキン シュウ酸/Ca
(処理前) 0.0274 >25.23
珪藻土 0.0270 >25.07
カオリン 0.0239 >22.26
タルク 0.0274 >24.83
活性白土1 0.0081 0.56
活性白土2 <0.0037 <0.46
活性白土3 0.0078 0.57
活性白土4 0.0082 0.73
酸性白土1 <0.0034 <0.10
酸性白土2 0.0158 0.82
酸性白土3 0.0128 0.82
酸性白土4 0.0072 0.66
【0049】
表2において、処理剤として珪藻土を用いた結果から、珪藻土が茶成分水溶液に及ぼす影響は無視してよいと見なされるので、他の処理剤による処理において濾過床による影響はない。
【0050】
カオリンを処理剤として用いた場合、シュウ酸濃度が減少し、タルクを用いた場合は、カフェイン濃度が減少しているが、何れも濃度の変化は非常に小さい。
【0051】
これに対し、酸性白土又は活性白土を処理剤として用いると、水溶液のシュウ酸濃度が明らかに減少し、シュウ酸除去能があることが分かる。表2の結果において、シュウ酸の除去率は36〜85%以上となり、シュウ酸/総カテキンの質量比は、処理前の0.027から、0.016以下に減少し、活性白土では概ね0.01未満への低減を達成している。特に、活性白土2又は酸性白土1を処理剤として用いた場合にはシュウ酸が実質的に完全に除去され、比表面積が小さくCaO含有率が高い場合に除去効率の高さが顕著である。表2の結果に基づくと、酸性白土の場合は、比表面積70m2/g以下、CaO含有率1.5質量%以上の範囲、活性白土の場合は、比表面積150m2/g以下、CaO含有率0.8質量%以上の範囲において、極めて優れた除去能が発揮されると思われる。
【0052】
活性白土と比較すると、酸性白土はシュウ酸除去能のばらつきが大きく、これは天然組成のばらつきや不純物に起因し、活性化処理によって均質化すると考えられる。このことから、酸性白土のシュウ酸除去能が所望のレベルに満たない場合は、表面積増加及びカルシウム減少が抑制されるように処理程度を制限して活性化処理を施すと、シュウ酸除去能がある程度のレベルに集約された活性白土を得ることが可能と考えられる。この際の活性化処理の適用基準として、CaO含有率が0.8質量%以上の活性白土を得るために、CaO含有率が1質量%以上の酸性白土が適正であると考えられ、活性化後にCaO含有率0.8質量%以上、比表面積150m2/g以下を確保できるように鉱酸処理を制限することにより優れた除去能の活性白土が得られ、比表面積300m2/g以下の活性白土は、除去率70%程度以上の安定したシュウ酸除去能を示す。
【0053】
表2の結果は、酸性白土及び活性白土がカフェインに対しても吸着作用を有することを示している。又、シュウ酸除去処理の際に、処理剤から水性液中にカルシウムが溶出し、溶出濃度は処理剤のCaO含有率との相関が見られる。表2の酸性白土又は活性白土によるシュウ酸除去処理によって、茶抽出成分中のカルシウム含有量は0.27〜1.2質量%になり、シュウ酸/カルシウムの質量比は0.85未満となる。
【0054】
(実施例2)
珪藻土濾過器(濾過面積15m2)に、水に懸濁させた珪藻土8kgを加圧送液して珪藻土による濾過床を準備した。次に、実施例1記載の珪藻土7kgに酸性白土1を15kgを加えて水に懸濁し、これを、前記珪藻土濾過器へ加圧送液して処理剤層を形成し、水1tを通水して洗浄することによって、シュウ酸除去処理用珪藻土濾過器を構成した。
【0055】
一方、緑茶葉90kgに熱水を加えて緑茶成分を浸出させた後にイオン交換水を用いてBrixを0.85に調整することによって、緑茶抽出液2710Lを得た。
【0056】
上記緑茶抽出液から少量を分析用に分取し、残部を上述の珪藻土濾過器に加圧送液して濾過し(濾過速度:5t/時間)、濾液をBrixが23.5になるまで濃縮して噴霧乾燥することによって、緑茶抽出物12.4kgを得た。この緑茶抽出物を水に溶解して、Brixが0.25の水溶液を調製し、孔径0.25μmのフィルターで濾過した後に、HPLC分析によって水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインを定量した。又、分析用に分取した緑茶抽出液についても、Brixを調整してフィルター濾過し、シュウ酸除去処理前の成分の定量を行った。その結果を表4に示す。尚、表4中の成分含量は、固形分中の質量含有率を示す。
【0057】
(表4)
処理前後の成分含有率
成分 シュウ酸除去処理前 シュウ酸除去処理後
シュウ酸 0.885% <0.125%
カルシウム <0.035% 0.53%
総カテキン 32.2% 31.7%
カフェイン 6.61% 1.33%
シュウ酸/総カテキン 0.027 <0.0039
シュウ酸/Ca >25.3 <0.236
【0058】
(実施例3)
緑茶葉8gに70℃の温水0.32Lを加えて6分間緑茶成分を抽出し、抽出液を目開き180μmのストレーナーで濾過し、氷水で室温まで冷却した。更に、この濾液を、63μm篩、ネル濾過器、ガフ濾過器及び濾紙(No.1)を用いて順次濾過して、茶成分水溶液を得た。
【0059】
直径6cmの桐山漏斗に、5C濾紙、5B濾紙及び5A濾紙を順次敷いて、アスピレーターで吸引しながら、水50mLに懸濁させた珪藻土1.413gを濾紙上に投入して珪藻土による濾過床を準備した。次に、表5記載の処理剤2.825gを珪藻土1.143gと共に水50mLに懸濁し、これを、アスピレーターで吸引しながら濾過床上に投入して処理剤層を形成し、水500mLを通液して洗浄した。
【0060】
上述で得た茶成分水溶液を、上記漏斗の処理剤層に通液し、得られた濾液を水で0.64Lに定容してアスコルビン酸450mg及び炭酸水素ナトリウム300mgを添加し、炭酸水素ナトリウムを用いてpHを6.2に調整し、Brixを0.25に調整した。これを、孔径0.8μmのフィルターで濾過した後、93℃に加熱して缶に充填し、封止して123℃で7分間レトルト加熱した。この後、流水中で室温まで冷却して容器詰め茶飲料を得た。茶飲料は、開缶して孔径0.25μmのフィルターで濾過した後、水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインをHPLC分析により定量した。その結果を表5に示す。
【0061】
(表5)
容器詰め茶飲料の成分含有率
試験A 試験B 試験C 対照試験
処理剤 酸性白土1 酸性白土1 酸性白土3 なし
+酸性白土3
(1:1)
成分含有率[ppm]
シュウ酸 13.0 22.2 35.6 45.8
カルシウム 12.2 8.9 9.6 <0.7
総カテキン 411.8 434.4 385.5 397.8
カフェイン <0.1 <0.1 <0.1 112.7
シュウ酸/総カテキン 0.032 0.051 0.092 0.115
シュウ酸/Ca 1.07 2.49 3.71 >65.4
【0062】
(実施例4)
緑茶抽出物(商品名:テアフラン30F、株式会社伊藤園製)を脱イオン水に溶解して濃度2.0質量%の水溶液113mLを調製し、これを実施例3の操作における緑茶葉抽出液の代わりに茶成分水溶液として用いて、実施例3と同様にして容器詰め茶飲料を調製した。得られた茶飲料は、開缶して孔径0.25μmのフィルターで濾過した後、水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインをHPLC分析により定量した。その結果を表6に示す。
【0063】
併せて、パネラー8名による茶飲料の官能評価を行い、対照試験の茶飲料との比較によって味の変化を評価した。その結果を表7に示す。
【0064】
(表6)
容器詰め茶飲料の成分含有率
試験D 試験E 試験F 対照試験
処理剤 酸性白土1 酸性白土1 酸性白土3 なし
+酸性白土3
(1:1)
成分含有率[ppm]
シュウ酸 6.9 12.4 14.7 20.8
カルシウム 19.1 8.7 8.4 <0.7
総カテキン 394.2 384.0 445.8 399.3
カフェイン <0.1 <0.1 <0.1 100.2
シュウ酸/総カテキン 0.018 0.032 0.033 0.052
シュウ酸/Ca 0.36 1.43 1.75 >29.7
【0065】
(表7)
容器詰め茶飲料の官能評価
試験D 試験E 試験F
苦味:弱くなった 2 2 4
変わらない 2 3 1
強くなった 4 3 3
渋味:弱くなった 3 4 4
変わらない 4 1 2
強くなった 1 3 2
旨味:弱くなった 2 1 0
変わらない 0 3 3
強くなった 2 3 5
【0066】
実施例3及び4の何れも、表面積当たりの構成酸化カルシウム量が高い酸性白土の割合の増加に伴って、シュウ酸の除去効率が向上することが確認された。又、実施例4の官能評価結果から、シュウ酸量が低下し、カルシウム量が増加した茶飲料において、苦味の感じ方が弱まると共に旨味の感じ方が強くなる傾向が見られ、茶飲料の香味を向上させる効果があることが理解される。従って、本発明のシュウ酸除去方法は、茶飲料の製造において、良好な香味の発現に寄与すると言える。
【0067】
(実施例5)
直径95cmの桐山漏斗に、5C濾紙、5B濾紙及び5A濾紙を順次敷いて、アスピレーターで吸引しながら、水50mLに懸濁させた珪藻土3.53gを濾紙上に投入して珪藻土による濾過床を準備した。次に、処理剤として実施例1記載の酸性白土1を7.03gと珪藻土3.53gを共に水50mLに懸濁し、これを、アスピレーターで吸引しながら上記濾過床上に投入して処理剤層を形成し、水1250mLを通液して洗浄した。
【0068】
一方、紅茶葉50gに熱水を加えて紅茶成分を浸出させた後にBrixが15以上になるまで一旦濃縮し、その後にイオン交換水で希釈してBrixを2.5に調整した。この紅茶抽出液283mLに珪藻土2.83gを懸濁し、上記漏斗の処理剤層に通液し、得られた濾液に水を加えてBrixを0.25に調整し、この水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインをHPLC分析により定量した。その結果を表8に示す。
【0069】
(表8)
処理前後の成分含有率
成分 シュウ酸除去処理前 シュウ酸除去処理後
シュウ酸 28.1ppm 3.5ppm
カルシウム <0.7ppm 10.6ppm
総カテキン 75.9ppm 25.3ppm
カフェイン 119.8ppm 6.7ppm
シュウ酸/Ca >40.1 0.33
【0070】
(比較例1)
緑茶抽出物(商品名:テアフラン30F、株式会社伊藤園製)10gを常温で95%含水エタノール49.09gに添加して250rpmの攪拌条件下で懸濁させ、3種の活性炭CL−K、CL−H、Y10S(商品名、ホクエツ社製)の何れかを2gと、実施例1記載の酸性白土4を4.5g投入して10分間攪拌を続けた。40%含水エタノール40.91gを10分間かけて滴下した後、室温で30分間攪拌を継続し、その後、2号濾紙を用いて懸濁液を濾過して活性炭及び沈殿物を除去し、濾液を0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。更に、脱イオン水200gを濾液に添加した後、エタノールを減圧留去した。留去後の溶液のBrixを脱イオン水で0.25に調整した後、水溶液に含まれるシュウ酸、カルシウム、総カテキン及びカフェインをHPLC分析により、後述の分析条件及び定量方法に従って定量した。その結果を表9に示す。
【0071】
(表9)
茶飲料の成分含有率
試験G 試験H 試験I 対照試験
活性炭 CL−K CL−H Y10S −
成分含有率[ppm]
シュウ酸 <2.5 <2.5 <2.5 17.7
カルシウム <0.7 <0.7 <0.7 <0.7
総カテキン 735.7 745.4 727.0 643.7
カフェイン 65.9 72.7 72.7 132.1
シュウ酸/
総カテキン <0.003 <0.003 <0.003 0.027
【0072】
表9によれば、含水エタノール中の緑茶抽出物に活性炭と酸性白土とを作用させることによってもシュウ酸を定量限界以下まで低減することは可能である。又、カフェインの含有量も減少するが、除去率は50%程度であり、本発明と比べると低い。一方、総カテキン含有量の増加がかなり大きく、カフェインの減少が本発明より小さいことを考慮すると、カテキン類以外の成分がシュウ酸と共に吸着されて減少することによってカテキン類の占める割合が相対的に増加したことを示唆する。試験G〜Iの溶液の官能評価においては、未処理(対照試験)の溶液において感じられる緑茶の旨味、滋味が感じられず、カテキン類の苦渋味のみが際立っているとの評価が得られ、実施例4で見られるような香味の向上は認められなかったことから、アミノ酸類等の有機物質もシュウ酸と共に吸着されことが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、茶飲料や茶風味飲食品の製造において利用可能であり、それにより、多量摂取による健康上の懸念を軽減し、茶由来機能成分の効果を安心して享受できる製品を簡便に提供することができる。また、植物を原料とした圧搾液に含まれるシュウ酸の除去にも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸を含有する水性液を、酸性白土及び/又は活性白土を有する処理剤に接触させることを特徴とする水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項2】
前記酸性白土及び/又は活性白土は、比表面積が40〜200m2/gである請求項1記載の水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項3】
前記酸性白土及び/又は活性白土において、CaO含有率の表面積に対する比率が150〜400μg/m2である請求項1又は2に記載の水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項4】
前記処理剤との接触によって、水性液に含まれるシュウ酸がシュウ酸カルシウムとして処理剤に沈析する請求項1〜3の何れかに記載の水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項5】
前記処理剤に接触した後の水性液を前記処理剤から分離するための分離操作を有し、前記分離操作は、フィルタ濾過、濾過助剤を用いた濾過及び遠心分離から選択される1種以上の操作を含む請求項1〜4の何れかに記載の水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項6】
前記フィルタ濾過は、孔径が0.8μm以下のフィルタを使用する請求項5記載の水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項7】
前記処理剤は、通液可能な処理剤層を構成し、前記水性液は、前記処理剤層中を通過することによって処理剤と接触する請求項1〜4の何れかに記載の水性液のシュウ酸除去方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の水性液のシュウ酸除去方法に従って、茶抽出成分を含有する水性液からシュウ酸を除去した後に、前記水性液を用いて茶飲料を調製する茶飲料の製造方法。
【請求項9】
前記茶抽出成分は、不発酵茶、半発酵茶又は発酵茶の何れかの抽出成分である請求項8記載の茶飲料の製造方法。
【請求項10】
茶抽出成分を含有し、固形分中のカルシウム含有量が0.1質量%以上で、シュウ酸含有量のカルシウム含有量に対する質量比が5.0以下である茶抽出組成物。
【請求項11】
前記茶抽出成分は緑茶由来成分であり、固形分中の総カテキン含有量が10質量%以上で、シュウ酸含有量の総カテキン含有量に対する質量比が0.03以下である請求項10記載の茶抽出組成物。
【請求項12】
固形分中のカフェイン含有量が2質量%以下である請求項10又は11に記載の茶抽出組成物。
【請求項13】
請求項10〜12の何れかに記載の茶抽出組成物と水とを含有する茶飲料。

【公開番号】特開2011−19508(P2011−19508A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289664(P2009−289664)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2009−168664(P2009−168664)の分割
【原出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】