説明

水性生体変換混合物からのアルカノールの単離方法

本発明は水性生体変換(Biotransformation)培養液からのアルカノールの単離方法であって、a)水性生体変換培養液からのアルカノール/水共沸混合物の蒸留によって、共沸混合物が不均一共沸混合物である場合には更に共沸混合物の相分離および水相の分離によって第1のアルカノール相を得、b)(i)抽出剤として溶媒を用いる第1のアルカノール相の液/液抽出、または(ii)添加溶剤としての溶媒の存在下での第1のアルカノール相の共沸乾燥、によって第2のアルカノール相を得、そしてc)第2のアルカノール相を分別蒸留して純粋なアルカノール画分を得る、方法に関する。生体変換培養液は、例えばアルコールデヒドロゲナーゼの存在下でアルカノールを還元することによって得られる。本方法は、生体変換培養液中の目的の生成物の深刻な希釈にも対応し、有機溶媒による抽出時に長期の相分離を起こすこともない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性生体変換混合物からのアルカノールの単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単離された酵素または細胞内に存在する酵素を使用した有機化学化合物のバイオテクノロジーを用いた化学合成は、いわゆる「生体変換(Biotransformation)」として知られている。生体変換の間に、基質、すなわち非天然(生体異物)化合物から目的の生成物への酵素的変換が生じる。
【0003】
生体変換は、複雑な基質および混合物の場合でも、高い化学-、領域-および立体特異性を特徴とする。プロセスの時空収率が高いこと、比較的低コストであること、出発物質が再生可能であること、および環境適合性がしばしば良好であることと併せて、これらの利点によって、工業界で使用される生体変換方法の数が非常に増大してきている。
【0004】
この技術の応用の目的は、光学活性生成物の調製にある。
【0005】
WO 2006/53713号には、特定のポリペプチド配列を有するアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の存在下でブタン-2-オンを還元することによる(S)-ブタン-2-オールの調製方法が記載されている。好ましくは、ADHを用いたエナンチオ選択的還元は、還元の過程で酸化される補因子を再生する還元剤、例えばグルコースまたはギ酸塩の存在下で行う。補酵素を再生するために、第2のデヒドロゲナーゼ、例えばグルコースデヒドロゲナーゼまたはギ酸デヒドロゲナーゼを添加することができる。
【0006】
WO2005/108590号には、アルカノン含有媒体中でデヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼおよびカルボニルレダクターゼのクラスから選択される酵素(E)を還元等価物の存在下でインキュベートし、反応の過程で消費される還元等価物が酵素(E)の助けによって犠牲アルコールを反応させて対応する犠牲ケトンとすることで再度再生される、光学活性アルカノールの調製方法が開示されている。
【0007】
微生物の培養液から生体変換生成物を取り出すための種々の方法が文献から公知である。ここで、取り出しプロセスは、特に培養液中での目的の生成物の相当な希釈および/または細胞成分の混入等の生体変換の特定の仕様に適合するものでなければならない。
【0008】
揮発性または水蒸気揮発性化合物は、ストリッピングガスを使用して反応中に培養液から除くことができる。こうした方法の1つはUS 2005/089979号に記載されている。しかしながら、この方法は、出発基質が注目すべき揮発性を有しない場合にのみ好適である。
【0009】
多くの場合、生体変換に続いて、粗生成物含有培養液を蒸発乾固させ、次いで有機溶媒を用いて生体変換生成物を抽出する。全細胞での生体変換の場合、適切な場合には濃縮前に例えば遠心分離、濾過等による細胞分離ステップを実施する。
【0010】
これらの方法において、生体変換生成物にかなりの親油性細胞成分が混入しており、そのため複雑な精製操作が必要となる。先行技術によれば、多くの場合、親油性細胞成分から所望の生成物を分離するために、熱的精製方法(蒸留)が用いられる。水蒸気揮発性化合物では、このプロセスで高い損失率が観察されることがある。
【0011】
あるいはまた、生体変換生成物は、有機溶媒、例えばエーテルを用いて水性培養培地から抽出される。このためには、通常1〜10倍過剰量の有機溶媒を水相に添加しなければならない。
【0012】
抽出の際の1つの問題は、培地に有機溶媒を添加すると、ゲルおよびスライム(slime)の形成現象が生じることである。これらは、生体触媒によって調製された化合物の単離を時にはひどく妨害し、収率を大幅に損なう。
【0013】
有機溶媒での抽出時のゲル形成およびスライム形成は、細胞懸濁液中、または無細胞培地中の乳化剤の存在に起因する。抽出時に乳化剤が存在すると、単離される生成物の量および純度の点で、抽出効率が低下する。同時に、乳化剤の存在によって、数週間または数ヶ月間安定なゲルまたはスライムの形成に到る。
【0014】
いわゆる生物乳化剤(Bioemulgatoren)は、これらの乳化剤の成分として同定された。加水分解酵素を添加することによってこれらの生物乳化剤を破壊することが知られているが、酵素的解乳化に使用される加水分解酵素はプロセスの複雑さとコストをもたらす。
【発明の概要】
【0015】
従って本発明の目的は、生体変換培養液中の目的の生成物の希釈に対応し、有機溶媒での抽出時に長期の相分離を起こすことなく実施できる、水性生体変換培養液からのアルカノール、特に光学活性アルカノールの単離方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記の目的は、水性生体変換培養液からのアルカノールの単離方法であって、
a)水性生体変換培養液からのアルカノール/水共沸混合物の蒸留によって、共沸混合物が不均一共沸混合物である場合には更に共沸混合物の相分離および水相の分離によって第1のアルカノール相を得、
b)(i)抽出剤として溶媒を用いる第1のアルカノール相の液/液抽出、または
(ii)添加溶剤として溶媒の存在下での第1のアルカノール相の共沸乾燥、
によって第2のアルカノール相を得、そして
c)第2のアルカノール相を分別蒸留して純粋なアルカノール画分を得る、
方法によって達成される。
【0017】
第1のアルカノール相は第1の水分含量を有し、第2のアルカノール相は第2の水分含量を有する。第2の水分含量は第1の水分含量よりも低い。ここで水分含量はアルカノール画分に基づく水の量を意味するものと理解される。
【0018】
ステップc)の分別蒸留は不連続的(バッチ法)または連続的に実施することができる。
【0019】
本発明において、生体変換は、単離された酵素もしくは酵素系、固定化酵素もしくは酵素系、酵素抽出物、全細胞、静止細胞および/または破砕細胞によって触媒される基質の変換を意味するものと理解される。ここに発酵も含まれる。
【0020】
本発明に係る取り出しプロセスは、生体変換が完了した時、すなわち(例えば90%以上の)所望の変換が達成されたらすぐに実施する。
【0021】
本発明に係る方法は、生体変換培養液を、例えば遠心分離または濾過によるバイオマスの分離等の複雑な機械的分離または精製操作にかける必要がないという利点を有する。本方法の第1ステップにおいて既に、後のステップで操作しなければならない体積が減少した有意な濃度の目的の生成物が得られる。従って、例えば2-ブタノールと水との共沸混合物は約72重量%の2-ブタノール含量を有する。この共沸混合物の沸点は、大気圧下で約87℃であり、それぞれ約100℃の水および2-ブタノールの沸点より有意に低い。
【0022】
本方法は、原理的には水との共沸混合物を形成する、生体変換によって調製される任意の所望のアルカノールの単離に適用できる。共沸混合物は均一共沸混合物であっても、不均一共沸混合物であっても良い。アルカノールとしてはC2-C8-アルカノール、特にC4-C8-アルカノールが挙げられ、アルキル鎖は直鎖もしくは分岐鎖であって良く、第1級、第2級または第3級アルコールであって良い。好ましくは、アルカノールは光学活性アルカノール、特に光学活性2-アルカノールから選択される。特に好ましい例は、S-2-ブタノール、S-2-ペンタノールおよびS-2-ヘキサノールである。
【0023】
第1のステップにおいて、アルカノール/水の共沸混合物を水性生体変換培養液から蒸留する。装置内での蒸留の実施は、種々の構成で可能である。
【0024】
生体変換培養液の加熱沸騰は任意の所望の加熱可能な容器、例えば加熱ジャケットを有する撹拌タンク反応器、またはエバポレーター中で行うことができる。装置に関しては、この目的で、撹拌タンク、流下薄膜、薄層、強制的減圧循環(forced-decompression circulation)、および他のエバポレーター設計を自然または強制循環モードで使用することができる。しかしながら、エバポレーターの使用は、生体変換培養液中のある成分がエバポレーターの急速な汚染につながり得るため、あまり好ましくない。目的にかなう一実施形態において、生体変換が完了した時点で生体変換培養液を反応容器中で直接加熱する。沸点までの加熱速度は好ましくは少なくとも20K/分である。加熱をよりゆっくり行う場合には、望ましくない二次的反応、特に光学活性アルコールの場合にはラセミ化が生じる恐れがある。
【0025】
蒸留は、単蒸留、すなわち上昇する蒸気と還流する濃縮物間で質量移動が本質的にないものとして、または精留として構成することができる。後者の場合には、例えば下記で説明するような公知の蒸留または精留カラムの全ての設計が適している。
【0026】
アルカノール/水の共沸混合物の蒸留は、好適な圧力および温度条件下で行う。必要であれば、蒸留を減圧下で実施することができる。一般的に、装置にかかる経費がより少ないという理由で、大気圧下での作業が好ましい。
【0027】
アルカノール/水の共沸混合物を含む蒸気は、少なくとも部分的に濃縮される。この目的で好適なものは任意の望ましい熱交換器または凝縮器であり、これらは空冷式でも水冷式でも良い。
【0028】
アルカノールが水と均一共沸混合物を形成する場合、濃縮物として得られる第1のアルカノール相を更なるワークアップのために戻すことができる。濃縮物の一部は還流として精留カラムに添加することができる。
【0029】
アルカノールが水と不均一共沸混合物を形成する場合、濃縮物は水相と有機相に分解し、これらは好適な相分離用容器またはデカンター内で互いに分離することができる。水相は蒸発用容器に、例えば精留カラムへの還流として戻すことができる。相分離の間、第1のアルカノール相を有機相として得る。
【0030】
水の溶解度のために、第1のアルカノール相は溶解した水を含む。従って、更なる蒸留精製に先立って、第1のアルカノール相は乾燥させなければならない。一実施形態において、第1のアルカノール相の乾燥は、溶媒を抽出剤として使用する液/液抽出によって行う。好適な抽出剤は、水が非常にわずかにしか溶解しない、または実質的に不溶の溶媒である。精製すべきアルカノール中の水の溶解度を低下させる抽出剤の存在によって、水は分離し、それ自体の相を形成するので、これを分離することができる。
【0031】
液/液抽出において、本方法は好都合には第1のアルカノール相を溶媒と密に接触させ、デカンテーションによって水相を分離させて第2のアルカノール相を得ることを含む。
【0032】
強力かつ完全な混合のために好適なものは、例えば撹拌タンク、遠心抽出機、向流抽出機等の好適な装置である。
【0033】
次いで溶媒相および水相を互いに分離する。溶媒相として生成した第2のアルカノール相は、水の画分が顕著に減少した、溶媒に溶解したアルカノールを含む。
【0034】
あるいはまた、第1のアルカノール相を、添加溶剤としての溶媒の存在下で共沸乾燥にかけることができる。共沸乾燥中に、溶解した水を水/溶媒の共沸混合物として除去する。
【0035】
共沸乾燥において、本方法は好都合には蒸留容器内の第1のアルカノール相を溶媒の存在下で加熱し、そして水/溶媒共沸混合物として水を除去して蒸留容器内に第2のアルカノール相を残すことを含む。水/溶媒の共沸混合物を含む蒸気を蒸留して少なくとも部分的に濃縮し、濃縮物を水相および溶媒相に分離させ、溶媒相を蒸留容器に戻す。
【0036】
抽出剤または添加溶剤として好適な溶媒は、例えば脂肪族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン;芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン;ハロゲン化炭化水素、例えばジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼンから選択される。特にn-へキサン等の脂肪族炭化水素は、相対的に毒性がなく、アルカノールから容易に分離できるため、特に好ましい。
【0037】
次いで、第2のアルカノール相を分別蒸留して純粋なアルカノール画分を得る。分別蒸留の間、アルカノールは添加溶媒、未反応の基質、残存する水、副生成物等を含まない。
【0038】
装置に関して、蒸留の実施は種々の構成で可能である。蒸留または精留カラムの公知の全ての設計が好適である。「精留カラム」は、トレイ、不規則充填物(random packings)および/または規則充填物(structured packings)等の分離効率の良い内容物を含む。カラムでの分離効率を改良するために、通常濃縮物の部分流を再度カラムに戻す。
【0039】
典型的なトレイカラムにおいて、シーブトレイ、バブルキャップトレイまたはバルブトレイを組み込み、これを通して液体を流す。蒸気は特殊なスロットまたは穴を通過し、泡(froth)の層を形成する。これらのトレイのそれぞれで、新たな蒸発平衡が確立される。
【0040】
不規則充填物を有するカラムには、種々の形状の不規則充填物を充填することができる。これに伴う表面積の増加によって、熱および質量の移動が最適化され、カラムの分離能が上昇する。このような不規則充填物の典型的な例は、ラシヒリング、ポールリング、ハイフロー(Hiflow)リング、インタロックスサドル、バールサドルおよびヘッジホッグである。不規則充填物は、順番に、あるいはランダムに(ベッドとして)カラム内に入れることができる。好適な材料は、ガラス、セラミック、金属およびプラスチックである。
【0041】
規則充填物は、秩序立った不規則充填物の更なる進展である。これらは規則的に形成された構造を有する。規則充填物の種々の実施形態がある:例えば繊維またはシートメタル充填物。使用可能な材料は、金属、プラスチック、ガラスおよびセラミックである。トレイカラムと比較して、規則充填物を有するカラムは中に非常に少量の液体を有する。これは、基質の熱分解のリスクを下げるため、精留に有利であることが多い。
【0042】
一実施形態において、第2のアルカノール相を一方の分画カラムに投入し、純粋なアルカノール画分を側流(side-stream)として取り出し、アルカノール画分よりも低沸点の画分をオーバーヘッドで取り出し、アルカノール画分よりも高沸点の画分を底部で取り出す。
【0043】
別の実施形態において、第2のアルカノール相を不連続的に蒸留し、アルカノール画分よりも低沸点の画分、純粋なアルカノール画分、およびアルカノール画分よりも高沸点の画分を連続して得る。
【0044】
アルカノール画分よりも低沸点の画分は、使用した溶媒の大部分を含み、有利には少なくとも部分的に溶媒としてステップb)に戻すことができる。
【0045】
本発明に係る方法で使用される水性生体変換培養液は、基質をアルカノールに変換する任意の所望の生体変換方法によって得られる。これらには、アルカノールの発酵的調製およびアルカノールの酵素的調製の双方が含まれる。発酵的調製において、アルカノールはアルカノール産生微生物による発酵性炭素源の代謝の間に製造される。酵素的調製(またはより狭義の生体変換)は規定純度の基質(出発材料)から生成物への酵素による選択的化学的変換を意味するものと理解され、ここで酵素は生きた細胞、静止細胞もしくは破砕細胞中に存在していても良く、または濃縮もしくは単離されていても良い。
【0046】
a)アルカノールの発酵的調製
アルカノールの発酵的調製は、それ自体先行技術から公知である。例えばWO 2008/137403号には、発酵による2-ブタノールの調製方法が記載されている。
【0047】
発酵的調製のために好適な天然もしくは組換えの、原核または真核微生物の例は、好気的または嫌気的条件下での所望のアルカノールの発酵的製造に好適なものである。特に、腸内細菌科、シュードモナス科、バシラス科、リゾビウム科、クロストリジウム科、ラクトバシラス科、ストレプトマイセス科、ロドコッカス科、ロドシクルス科およびノカルジア科の細菌から選択される細菌に言及すべきである。好適な属の例は、特にエシェリキア属、ストレプトマイセス属、クロストリジウム属、コリネバクテリウム属およびバシラス属を含む。
【0048】
好適な発酵条件、媒体、発酵槽等は、当業者の一般的な専門家としての知識の枠内で確立することができる。この目的のために、例えばRehm等、Biotechnology, Vol.3 Bioprocessing, 第2版, (Verlag Chemie, Weinheim)等の好適な専門家の文献の記載を利用することができる。微生物は、バイオマスのリサイクルをして、もしくはせずに連続的に、またはバッチ法(バッチ培養)もしくはフェドバッチ(フィード法)もしくは反復的フェドバッチ法(反復的フィード法)で不連続的に培養することができる。発酵は、撹拌発酵槽、バブルカラムおよびループ反応器で実施することができる。公知の培養方法の概要は、Chmielの教科書(Bioprozesstechnik 1. Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik [Bioprocess technology 1. Introduction to bioprocess technology](Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))またはStorhasの教科書(Bioreaktoren und periphere Einrichtungen [Bioreactors and peripheral equipment](Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に見ることができる。
【0049】
この目的のために、1種または複数種の基質、および更に微生物の成長と生成物産生のために場合によって必要な添加剤、例えば炭素および/または窒素源、微量元素等を含有する殺菌された培養培地を調製し、これに好適な量の新鮮な微生物前培養物を接種する。
【0050】
使用する培養培地は特定の株の要件を好適に満たすものでなければならない。種々の微生物のための培養培地の記載は、the American Society for Bacteriology(Washington D.C., USA, 1981)のハンドブック「Manual of Methods for General Bacteriology」に含まれている。
【0051】
本発明に従って使用することができる媒体は、一般的に1種以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミンおよび/または微量元素を含有する。
【0052】
好ましい炭素源は、単糖、二糖または多糖等の糖類である。非常に良好な炭素源は、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デンプンまたはセルロースである。糖蜜または他の精糖の副産物等の複雑な化合物を介して媒体に糖を添加することも可能である。種々の炭素源の混合物を添加することも有利であり得る。他の可能な炭素源は油脂、例えばダイズ油、ヒマワリ油、ピーナッツ油およびヤシ油(coconut fat)、脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸またはリノール酸、アルコール、例えばグリセロール、メタノールまたはエタノール、および有機酸、例えば酢酸もしくは乳酸である。
【0053】
窒素源は、通常有機もしくは無機の窒素化合物またはこれらの化合物を含有する物質である。窒素源の例は、アンモニアガスまたはアンモニア塩、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは硝酸アンモニウム、硝酸塩、尿素、アミノ酸または複合的窒素源、例えばコーンスティープリカー、ダイズ粕(soya meal)、ダイズタンパク質、酵母エキス、肉エキス等が含まれる。窒素源は個別に、または混合物として使用することができる。
【0054】
媒体中に存在していても良い無機塩化合物として、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅および鉄の塩化物、リンもしくは硫酸塩が挙げられる。
【0055】
使用可能な硫黄源は、無機硫黄含有化合物、例えば硫酸塩、亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、テトラチオン酸塩、チオ硫酸塩、硫化物であるが、有機硫黄化合物、例えばメルカプタンおよびチオールも含まれる。
【0056】
使用可能なリン源は、リン酸、リン酸二水素カリウムもしくはリン酸水素二カリウム、または対応するナトリウム含有塩である。
【0057】
溶液中に金属イオンを維持するために、媒体にキレート剤を添加することができる。特に好ましいキレート剤として、ジヒドロキシフェノール、例えばカテコールもしくはプロトカテク酸塩(Protocatechuat)、または有機酸、例えばクエン酸が含まれる。
【0058】
使用する発酵媒体は、通常他の成長因子、例えばビタミンまたは成長促進物質も含み、例えばビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸塩およびピリドキシンが挙げられる。成長因子および塩は複雑な媒体成分、例えば酵母エキス、糖蜜、コーンスティープリカー等に由来することが多い。更に、好適な前駆物質を媒体に添加することができる。媒体の化合物の正確な組成は特定の実験にかなり依存し、個々の特定のケースのために個々に決定される。媒体の最適化に関する情報は、教科書「Applied Microbiol. Physiology, A Practical Approach」(P.M.Rhodes, P.F.Stanbury編, IRL Press (1997) pp.53-73, ISBN 0 19 963577 3)に見ることができる。増殖培地はまた、例えばStandard 1(Merck)またはBHI(Brain heart infusion, DIFCO)等の業者から入手することもできる。
【0059】
全ての媒体成分を、加熱(1.5barおよび121℃で20分間)または濾過滅菌によって殺菌する。成分は合わせて、または必要であれば別個に殺菌することができる。全ての媒体成分が培養開始時に存在していても、あるいは場合によって連続的にもしくはバッチ式に添加しても良い。
【0060】
培養の温度は通常15℃〜45℃、好ましくは25℃〜40℃であり、実験期間中一定に維持しても、変更しても良い。媒体のpHは5〜8.5の範囲、好ましくは約7.0とすべきである。培養のpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアもしくはアンモニア水等の塩基性化合物、またはリン酸もしくは硫酸等の酸性化合物を添加することによって培養中にコントロールすることができる。泡の形成を制御するために、消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを用いることができる。プラスミドの安定性を維持するために、好適な選択的作用物質、例えば抗生物質を媒体に添加することができる。好気性条件を維持するために、酸素または酸素含有気体混合物(例えば大気)を培養中に導入する。培養の温度は通常20℃〜45℃である。培養は、最大量の所望の生成物が形成するまで継続する。この目標は、通常10時間〜160時間以内に到達する。
【0061】
製造株に応じて、良好な収率を達成するために、空気、酸素、二酸化炭素、水素、窒素または対応する気体混合物によるガス供給が必要であり得る。
【0062】
発酵が完了すると、アルカノールを含有する発酵培養液を本発明に係る更なるプロセシングに直接かけることができる。しかしながら、好ましくはバイオマスを例えば遠心分離または濾過によって最初に分離し、適切な場合には洗浄し、そして洗浄液をアルカノール相と合わせる。
【0063】
本発明に係る方法における発酵培養液の更なるプロセシングの前に、発酵培養液を前処理することができる。例えば、バイオマスを培養液から分離することができる。バイオマスの分離方法、例えば濾過、沈降および浮遊(Flotation)は、当業者に公知である。従って、例えば遠心分離器、分離器、デカンター、フィルターまたは浮遊装置を使用して、バイオマスを分離することができる。目的の生成物の可能な限り最も完全な単離のために、例えば透析濾過(Diafiltration)の形態のバイオマスの洗浄がしばしば推奨される。方法の選択は、発酵器の培養液中のバイオマス画分、バイオマスの性質、およびバイオマスと目的の生成物との相互作用に依存する。一実施形態において、発酵培養液は殺菌または低温殺菌することができる。
【0064】
b)アルカノールの酵素的調製
好ましい実施形態において、アルカノールの調製は、アルコールデヒドロゲナーゼの存在下におけるアルカノンの還元によって行う。
【0065】
特に好ましい一実施形態において、2-ブタノールを含有する生体変換培養液を、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(EC 1.1.1.1)の存在下でのブタン-2-オンの還元によって得る。
【0066】
デヒドロゲナーゼはケトンまたはアルデヒドを対応する第二級または第一級アルコールに変換する。原理的には反応は可逆的である。この酵素は、カルボニル化合物のプロキラルC原子へのエナンチオ選択的水素化物移動を触媒する。
【0067】
ここで水素化物イオンは、補因子、例えばNADPHまたはNADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸または還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に由来する。これらは非常に高価な化合物であるため、触媒量でのみ反応に添加される。還元型補因子は、一般的に、同時に生じる第2の酸化還元反応によって反応中に再生される。
【0068】
ADHは、例えばクロストリジウム属、ストレプトミセス属またはエシェリキア属の微生物由来のデヒドロゲナーゼから選択する。ADHは、精製されたもしくは部分精製された形態で、または微生物そのものの形態で使用することができる。微生物からデヒドロゲナーゼを取得および精製する方法は、例えばK. Nakamura & T. Matsuda, 「ケトンの還元(Reduction of Ketones)」 K. DrauzおよびH. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol. IM, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheimから当業者には公知である。デヒドロゲナーゼを製造するための組換え方法は、例えばW. Hummel, K. Abokitse, K. Drauz, C. RollmannおよびH.Groger, Adv. Synth. Catal. 2003, 345, No. 1+2, pp.153-159から、同様に公知である。
【0069】
好ましくは、ADHを用いた還元は、好適な補因子の存在下で行う。ケトンの還元のために用いる補因子は、通常NADHおよび/またはNADPHである。更に、ADHは本質的に補因子を含む細胞系として使用することができ、または別の酸化還元メディエーターを添加する(A. Schmidt, F. HollmannおよびB. Buhler「アルコールの酸化(Oxidation of Alcohols)」 K. DrauzおよびH. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol III, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheim)。
【0070】
特に、反応は、変換中に消費される補因子を同時にもしくはずらして(staggered)再生させて行う。このために、再生は、それ自体公知の方法で酵素的、電気化学的もしくは電気酵素的に(electroenzymatically)行うことができる(Biotechnology Progress, 2005, 21, 1192; Biocatalysis and Biotransformation, 2004, 22, 89; Angew. Chem Int. Ed Engl., 2001, 40, 169; Biotechnol Bioeng, 2006, 96, 18; Biotechnol Adv., 2007, 25, 369; Angew. Chem Int. Ed Engl., 2008, 47, 2275; Current Opinion in Biotechnology, 2003, 14, 421; Current Opinion in Biotechnology, 2003, 14, 583)。
【0071】
好ましくは、ADHを用いた還元は、還元の過程で酸化される補因子を再生させる好適な還元剤の存在下で行う。好適な還元剤の例は、糖類、特にグルコース、マンノース、フルクトース等の六炭糖、およびギ酸塩、亜リン酸塩または水素分子である。反応全体の熱力学的および動力学的条件に応じて、酸化可能なアルコール、特にエタノール、プロパノールまたは費用効率が高い第2級アルコール、例えばイソプロパノール(いわゆる「犠牲アルコール」)が反応の最終的な水素化物ドナーとして生じ得る。
【0072】
還元剤の酸化のために、それと関連して補因子の再生のために、再生酵素、例えば第2のデヒドロゲナーゼ、例えば還元剤としてグルコースを使用する場合にはグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(EC 1.1.1.47)、還元剤としてギ酸塩を使用する場合にはギ酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.2.1.2またはEC 1.2.1.43)、または還元剤として亜リン酸塩を使用する場合には亜リン酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.20.1.1)を添加することが可能である。犠牲アルコールを用いる場合、ケトンの還元および犠牲アルコールの酸化を同じ生体触媒によって実施できることが多い。再生酵素は、遊離酵素もしくは固定化酵素として、または遊離細胞もしくは固定化細胞の形態で使用することができる。その調製は、別個に、または(組換え)デヒドロゲナーゼ株での共発現によって行うことができる。
【0073】
水性反応媒体は好ましくは、一般的に5〜8、好ましくは6〜8のpHを有する緩衝溶液である。水の他に、水性溶媒は更に水と部分的に混和し得る少なくとも1種の有機化合物、例えばイソプロパノール、n-ブタノールを含み得る。
【0074】
好適な緩衝剤は、例えばリン酸もしくは炭酸アンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属緩衝剤、またはTRIS/HCl緩衝剤であり、これらは約10mM〜0.2Mの濃度で使用する。
【0075】
酵素的還元は、一般的に使用するデヒドロゲナーゼの失活温度以下、かつ-10℃以上の反応温度で行う。0〜100℃の範囲、特に15〜60℃、更に特に20〜40℃、例えば約30℃が特に好ましい。
【0076】
生体変換は、撹拌反応器、バブルカラムおよびループ反応器内で行うことができる。撹拌器の型および幾何学的設計を含む、可能な構造の詳細な概説は、「Chmiel: Bioprozesstechnik: Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik [Bioprocess technology: Introduction to bioprocess technology], Volume 1」に見ることができる。プロセスを実施するために、典型的には当業者に公知の、または例えば「Chmiel, Hammes und Bailey: Biochemical Engineering」に説明された以下の変型:例えばバッチ、フェドバッチ、反復的フェドバッチまたはバイオマスの再利用をするかもしくはしない連続的発酵が利用できる。製造株に応じて、良好な収率を達成するために、空気、酸素、二酸化炭素、水素、窒素もしくは対応する気体混合物によるガス供給を行うことができ、あるいは行わなければならない。
【0077】
酵素反応の実施は、文献から公知の方法で、発酵について上記したのと同様にして、連続的または不連続的に行うことができる。基質、酵素、還元等価物および「犠牲化合物」の最適濃度は当業者が直接決定することができる。
【0078】
例えばWO 2006/53713号には、特定のポリペプチド配列を有するアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の存在下でブタン-2-オンを還元することによる(S)-ブタン-2-オールの調製方法が記載されている。好ましくは、ADHを用いたエナンチオ選択的還元は、還元の過程で酸化される補因子を再生する還元剤、例えばグルコースまたはギ酸塩の存在下で行う。補酵素の再生のために、第2のデヒドロゲナーゼ、例えばグルコースデヒドロゲナーゼまたはギ酸デヒドロゲナーゼを添加することができる。
【0079】
ブタン-2-オンは、好ましくは酵素的還元において0.1g/L〜500g/L、特に好ましくは1g/L〜50g/Lの濃度で使用し、連続的または不連続的に補給することができる。
【0080】
本方法において、例えば初期充填物としてブタン-2-オンをADH、溶媒および場合によって補因子、適切な場合には補因子を再生させるための第2のデヒドロゲナーゼ、および/または更なる還元剤と共に投入し、例えば撹拌または振とうによって混合物を十分に混合することが可能である。しかしながら、反応器、例えばカラム内でデヒドロゲナーゼを固定化し、ブタン-2-オンおよび場合によって補因子および/または補基質を含む混合物を反応器に通すことも可能である。このために、混合物は所望の変換が達成されるまで反応器内を循環させることができる。このプロセスにおいて、ブタン-2-オンのケト基を還元してOH基を生じさせ、アルコールの(S)エナンチオマーを実質的に製造する。一般に、還元は、混合物中に存在するブタン-2-オンに基づいて少なくとも70%、特に好ましくは少なくとも85%、特に少なくとも95%の変換まで実施する。反応の進行、すなわちケトンの逐次的還元は、ガスクロマトグラフィーまたは高圧液体クロマトグラフィー等の慣例の方法によってモニタリングすることができる。
【0081】
WO 2005/108590号には、アルカノン含有媒体中でデヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼおよびカルボニルレダクターゼのクラスから選択される酵素(E)を還元等価物の存在下でインキュベートし、反応の過程で消費される還元等価物が酵素(E)の助けによって犠牲アルコールを反応させることで再度再生されて対応する犠牲ケトンとなる、光学活性アルカノールの調製方法が開示されている。S-2-ペンタノールを含有する生体変換培養液の調製は、WO 2005/108590号に記載された方法によって可能である。
【0082】
c)酵素または微生物の固定化
アルカノールの調製のために用いる酵素は、遊離の形態で、または固定化された形態で、本明細書に記載した方法で使用することができる。
【0083】
固定化酵素は、不活性な支持体に固定された酵素を意味するものと理解される。好適な支持体材料、およびそれに固定化された酵素は、EP-A-1149849号、EP-A-1 069 183号およびDE-OS 100193773号から、またこれらの中で引用された文献から公知である。この点について、これらの文献の開示全体を参照する。好適な支持体材料としては、例えば粘土、粘土鉱物、例えばカオリナイト、珪藻土、パーライト、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロース粉末、陰イオン交換物質、合成ポリマー、例えばポリスチレン、アクリル樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタンおよびポリオレフィン、例えばポリエチレンおよびポリプロピレンが挙げられる。支持体材料は、支持された酵素を製造するために、通常微細に分割された、粒子状の形態で、好ましくは多孔性の形態で使用する。支持体材料の粒径は、通常は5mm以下、特に2mm以下である(ふるいサイズ(Sieblinie))。
【0084】
同様に、デヒドロゲナーゼを全細胞触媒として使用する場合、遊離もしくは固定化形態を選択することが可能である。支持体材料は、例えばアルギン酸Caおよびカラギーナンである。酵素は、細胞のように、グルタルアルデヒドで直接架橋することもできる(CLEAへの架橋)。対応する更なる固定化方法は、例えばJ. LalondeおよびA. Margolin「酵素の固定化(Immobilization of Enzymes)」(K. DrauzおよびH. Waldmann, Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002, Vol. III, 991-1032, Wiley-VCH, Weinheim)に記載されている。本発明に係る方法を実施するための生体変換およびバイオリアクターに関する更なる情報はまた、例えばRehm等編, Biotechnology, 第2版, Vol. 3, Chapter 17, VCH, Weinheimに見出すことができる。
【0085】
以下の実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0086】
酵素的還元
2-ブタノンからS-2-ブタノールへの酵素的還元を16m3反応器中で行った。このために、7000Lの水、43.5kgのリン酸水素二カリウム(dipotassium hydrogenorthophosphate)、34kgのリン酸二水素カリウム及び2.4kgの塩化マグネシウム六水和物を投入した。スターラーのスイッチを入れた後、更に1000Lの水を投入し、反応器を25℃に加熱した。1時間後、pHを調整した。pHは6.3〜6.7とすべきであり、適切な場合には、pHに応じて、75%濃度のリン酸または48%濃度の水酸化カリウム溶液を測り入れた。
【0087】
pHを調整した後、901kgのグルコース、水に溶解した1.3kgの補因子NAD、500LのADH生体触媒、400Lのグルコースデヒドロゲナーゼ調製品及び361kgの2-ブタノンを添加した。
【0088】
添加完了後、反応器の内容物を更に24時間内部温度25℃で撹拌した。この間、pHは20%濃度のNaOHの添加によってpH6.3〜6.7に維持した。24時間後の変換率が90%以上である場合には反応を終結させた。変換率が90%未満の場合には、反応溶液を更に2時間25℃で撹拌した。
【0089】
共沸蒸留
酵素的還元からの反応生成物を大気圧下、16m3の撹拌反応器中で内部温度約100℃まで加熱した。一段階蒸留において、目的の生成物を含む約400kgの上相を相分離器によって分離し、水相の方は撹拌反応器に戻した。この段階の終結の判断基準は蒸留物の2相性の終結であった。この基準に達した後、約100kgの単相蒸留物を更に蒸留して、反応生成物からS-2-ブタノールの完全な分離を達成した。この段階の収率は90%を超えた。
【0090】
共沸乾燥+ヘキサン蒸留
共沸蒸留から得られた4つの画分を合わせ、n-ヘキサンによって共沸乾燥した。このために、共沸蒸留からの蒸留物約2000kgを初期充填物として16m3の撹拌反応器に投入し、1600kgのn-ヘキサンと混合した。反応器の内容物を大気圧下で約60℃に加熱した。一段階蒸留において、約600kgの水性下相を相分離器で除去した。有機性上相は撹拌反応器に戻した。この段階の終結の判断基準は、蒸留物の2相性の終結であった。この基準に達した後、残存する約1300kgのn-ヘキサンを接続したカラムを介して留出させ、反応器の内容物を室温まで冷却した。この段階の収率は95%を超えた。
【0091】
蒸留による精製
共沸乾燥で得られた粗S-2-ブタノールを連続カラムを用いた蒸留によって精製した。8つの区域からなる直径50mmのカラムのそれぞれに、0.5mの構造化された繊維充填物(Sulzer CY)を充填した。蒸留は大気圧下で実施した。粗生成物を液状の形態で3mの充填高で投入し、より容易に沸騰する画分、例えばヘキサン、2-ブタノンおよび残存する水を、オーバーヘッドに留出させた。着色高沸点成分は底部に分離された。純粋な画分を充填高0.5mの蒸気用の側部取り出し口から取り出した。S-2-ブタノールは99%を超える純度で存在し、蒸留による連続的精製の収率は90%を超えた。
【実施例2】
【0092】
酵素的還元
2-ブタノンからS-2-ブタノールへの酵素的還元を4Lミニプラント反応器中で行った。このために、2600mlの水、15gのリン酸水素二カリウム、11gのリン酸二水素カリウム及び1gの塩化マグネシウム六水和物を投入した。スターラーのスイッチを入れた後、反応器を25℃に加熱した。1時間後、pHを調整した。pHは6.3〜6.7とすべきであり、適切な場合には、pHに応じて、75%濃度のリン酸または48%濃度の水酸化カリウム溶液を測り入れた。
【0093】
pHを調整した後、300gのグルコース、水に溶解した0.5gの補因子NAD、170mlのADH生体触媒、130mlのグルコースデヒドロゲナーゼ調製品及び120gの2-ブタノンを添加した。
【0094】
添加完了後、反応器の内容物を更に24時間内部温度25℃で撹拌した。この間、pHは20%濃度のNaOHの添加によってpH6.3〜6.7に維持した。24時間後の変換率が90%以上である場合には反応を終結させた。変換率が90%未満の場合には、反応溶液を更に2時間25℃で撹拌した。
【0095】
共沸蒸留
酵素的還元からの反応生成物を大気圧下、4Lミニプラント反応器中で内部温度約100℃まで加熱した。一段階蒸留において、目的の生成物を含む約140gの上相を相分離器によって分離し、水相の方は反応器に戻した。この段階の終結の判断基準は蒸留物の2相性の終結であった。この基準に達した後、約30gの単相蒸留物を更に蒸留して反応生成物からS-2-ブタノールの完全な分離を達成した。この段階の収率は90%を超えた。
【0096】
ヘキサン抽出
500mlの分液漏斗中で、共沸蒸留から得た水含有S-2-ブタノール画分を約100mlのn-へキサンと混合し、室温で抽出した。相分離によって約60mlの水性の下相および約240mlの有機性の上相が得られた。上相の水分含量はヘキサン抽出の結果、5%未満まで減少した。この段階の収率は95%を超えた。
【0097】
ヘキサン蒸留+蒸留による精製
2回のヘキサン抽出から得た有機性上相を、カラム(充填長:約30cm、充填物:3mmメッシュワイヤーリング)を接続した1Lミニプラント反応器中で合わせ、大気圧下、還流比を変えてバッチ蒸留により分離した。ヘキサン、2-ブタノン、S-2-ブタノールおよび水からなる低沸点分子画分の後、目的の画分の生成物が99%を超える純度で、かつ90%を超える収率で単離された。より高沸点の着色成分が反応器の底部に残存した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性生体変換(Biotransformation)培養液からアルカノールを単離する方法であって、
a)水性生体変換培養液からのアルカノール/水共沸混合物の蒸留によって、共沸混合物が不均一共沸混合物である場合には更に共沸混合物の相分離および水相の分離によって、第1のアルカノール相を得、
b)(i)抽出剤として溶媒を用いる第1のアルカノール相の液/液抽出、または
(ii)添加溶剤としての溶媒の存在下での第1のアルカノール相の共沸乾燥、
によって第2のアルカノール相を得、そして
c)第2のアルカノール相を分別蒸留して純粋なアルカノール画分を得る、
上記方法。
【請求項2】
アルカノールが光学活性2-アルカノールから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アルカノールがS-2-ブタノール、S-2-ペンタノールおよびS-2-ヘキサノールから選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
溶媒が脂肪族炭化水素から選択される、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
溶媒がn-へキサンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
液/液抽出において、第1のアルカノール相を溶媒と接触させ、水相を分離して第2のアルカノール相を得る、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
共沸乾燥において、第1のアルカノール相を溶媒の存在下で蒸留容器中で加熱し、水/溶媒の共沸混合物として水を除去し、蒸留容器内に第2のアルカノール相を残す、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
分別蒸留において、第2のアルカノール相を一方の分画カラムに連続的に投入し、純粋なアルカノール画分を側流(side-stream)として取り出し、アルカノール画分よりも低沸点の画分をオーバーヘッドから取り出し、アルカノール画分よりも高沸点の画分を底部から取り出す、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
分別蒸留において、第2のアルカノール相を不連続的に蒸留し、アルカノール画分よりも低沸点の画分、純粋なアルカノール画分、およびアルカノール画分よりも高沸点の画分を連続して得る、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
アルカノール画分よりも低沸点の画分を少なくとも部分的に溶媒としてステップb)に戻す、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
生体変換培養液が生存細胞、静止細胞または破砕細胞を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
生体変換培養液がアルコールデヒドロゲナーゼの存在下でアルカノンの還元によって得られる、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
生体変換培養液がアルコールデヒドロゲナーゼの存在下で2-ブタノンの還元によって得られる、請求項12記載の方法。

【公表番号】特表2013−511498(P2013−511498A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539365(P2012−539365)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068139
【国際公開番号】WO2011/064259
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】