説明

水性粘着剤組成物、粘着テープおよびワイヤーハーネス

【課題】 ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを含有してなる水性粘着剤組成物であって、機械的安定性がよく、また絶縁特性、耐湿粘着力が良好な水性粘着剤組成物を提供すること。
【解決手段】 ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを含有してなる水性粘着剤組成物において、粘着付与剤樹脂エマルションが、粘着付与剤樹脂を、ロジン類のアンモニウム塩を含有する乳化剤の存在下に乳化して得られたものであり、かつ、水性粘着剤組成物は、保護コロイドとして、カゼインの水溶性塩を含有することを特徴とする水性粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム系の水性粘着剤組成物および当該水性粘着剤組成物を用いた粘着テープに関する。本発明の粘着テープは、従来より、粘着剤層として、ゴム系の粘着剤層を有する粘着テープが適用されている各種の用途に適用できる。本発明の粘着テープは、例えば、電気絶縁用粘着テープとして有用であり、自動車のワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープ、トランス、コイル等の電気部品、電子部品等の層間絶縁や外面絶縁に使用される絶縁用粘着テープ、表示用粘着テープ、識別用粘着テープ等として用いられる。特に、自動車のワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープとして有用である。上記の他、本発明の粘着テープは、ダンボール包装用粘着テープ、医療用粘着テープ、マスキング用粘着テープ等の各種用途の粘着テープに適用できる。なお、本発明の粘着テープは、テープ状またはシート状で用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来より、粘着剤としては、ゴム系の粘着剤が使用されている。また、これら粘着剤には、ベース樹脂に、粘着付与剤を配合されたものが一般に用いられている。これら粘着剤としては、溶剤型のものが主流であったが、環境保護、省資源、安全衛生等に対する社会的な要請と規制強化から、脱溶剤が重要な課題となっており、溶剤型粘着剤に代わるものが要望されている。前記溶剤型粘着剤に代わる粘着剤として、汎用性や応用展開の可能性から、各種の用途において、ゴム系ラテックスを用いた水性粘着剤が用いられるようになっている。
【0003】
かかるゴム系の水性粘着剤は、水系エマルションであるため、要求性能の一つにエマルションの安定性、特に機械的なシェアーに対する安定性が重要視される。かかる機械的安定性は、ギヤーポンプやロール塗工機等において加えられる機械的なシェアーに対する安定性、さらには近年塗工システムで増加しているスプレー塗工の際に加えられる機械的なシェアーに対する安定性である。このような機械的安定性が劣る場合にはエマルションに凝集物が発生し、商品価値を低下させる。このような水性粘着剤の機械的安定性に対しては、ゴム系ラテックスに、粘着付与剤として、粘着付与樹脂を乳化剤および保護コロイドの存在下に乳化して得られる粘着付与剤樹脂エマルションを用いることが提案されている(特許文献1)。しかし、特許文献1によれば、機械的安定性は、ある程度は向上させることはできるものの、機械的安定性を十分に満足できているものではない。
【0004】
また、ゴム系の水性粘着剤は、その用途の拡大とともに、求められる性能も溶剤型粘着剤と同等の性能が求められるようになり、より高度になっている。例えば、ゴム系の水系粘着剤を、電気絶縁用粘着テープの粘着剤層に適用する場合には、電気絶縁性が求められるが、ゴム系の水性粘着剤は、水溶性のイオン性乳化剤を非常に多く含有しているため、絶縁特性が不十分であった。また、ゴム系の水性粘着剤は、加湿下における、耐湿粘着力も十分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平7−133473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを含有してなる水性粘着剤組成物であって、機械的安定性がよく、また絶縁特性、耐湿粘着力が良好な水性粘着剤組成物を提供することを目的とする。
【0007】
また本発明は、前記水性粘着剤組成物により形成されて粘着剤層を有する粘着テープを提供すること、さらには、当該粘着テープにより、保護または結束されたワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記水性粘着剤組成物により、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを含有してなる水性粘着剤組成物において、
粘着付与剤樹脂エマルションが、粘着付与剤樹脂を、ロジン類のアンモニウム塩を含有する乳化剤の存在下に乳化して得られたものであり、
かつ、水性粘着剤組成物は、保護コロイドとして、カゼインの水溶性塩を含有することを特徴とする水性粘着剤組成物、に関する。
【0010】
上記水性粘着剤組成物において、ゴム系ラテックスは、天然ゴム系ラテックスおよびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含有することが好ましい。
【0011】
上記水性粘着剤組成物において、天然ゴム系ラテックスとスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスとの割合(重量比)が、不揮発分換算で、前者:後者=10:90〜90:10であることが好ましい。
【0012】
前記天然ゴム系ラテックスとしては、未変性天然ゴム系ラテックスおよびアクリル系変性天然ゴム系ラテックスの混合物が好適である。
【0013】
上記水性粘着剤組成物において、粘着付与剤樹脂エマルションが、不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂100重量部に対し、ロジン類のアンモニウム塩1〜20重量部を含有することが好ましい。
【0014】
上記水性粘着剤組成物において、粘着付与剤樹脂が、脂肪族石油樹脂とアルキルフェノール樹脂を含有することが好ましい。
【0015】
上記水性粘着剤組成物において、ロジン類のアンモニウム塩が、ジヒドロアビエチン酸を少なくとも50重量%以上含有するロジン類のアンモニウム塩であることが好ましい。
【0016】
上記水性粘着剤組成物において、粘着付与剤樹脂エマルションが、粘着付与剤樹脂を、ロジン類のアンモニウム塩を含有する乳化剤およびカゼインの水溶性塩を含有する保護コロイドの存在下に乳化して得られたものであることが好ましい。
【0017】
上記水性粘着剤組成物において、不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂100重量部に対し、カゼインの水溶性塩1〜10重量部を含有することが好ましい。
【0018】
上記水性粘着剤組成物において、不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂エマルションを、ゴム系ラテックス100重量部に対し、40〜150重量部含有してなることが好ましい。
【0019】
また本発明は、基材の少なくとも片面に粘着剤層を有する粘着テープにおいて、
粘着剤層が、上記水性粘着剤組成物により形成されたものであることを特徴とする粘着テープ、に関する。
【0020】
上記粘着テープにおいて、基材としては、ポリ塩化ビニル系フィルムが好適に用いられる。
【0021】
上記粘着テープは、ワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープとして好適である。
【0022】
また本発明は、上記粘着テープにより、ワイヤーハーネスが、保護または結束されていることを特徴とする、保護または結束されたワイヤーハーネス、に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明のゴム系の水性粘着剤組成物は、粘着付与剤樹脂エマルションに加えて、保護コロイドを含有するものであり、機械的安定性がよい。特に、粘着付与剤樹脂エマルションが、粘着付与剤樹脂を、乳化剤および保護コロイドの存在下に乳化して得られたものである場合には、機械的安定性がよい。しかも、粘着付与剤樹脂エマルションに用いる乳化剤としては、ロジン類のアンモニウム塩を選択しており、かつ、保護コロイドとしては、カゼインの水溶性塩を選択しており、このような、乳化剤と保護コロイドの選択と組み合わせにより、機械的安定性がより向上したものが得られている。
【0024】
また、本発明のゴム系の水性粘着剤組成物は、水系粘着剤組成物にも拘らず、絶縁特性、耐湿粘着力が良好である。絶縁特性、耐湿粘着力の向上する理由については定かではないが、乳化剤として用いた、ロジン類のアンモニウム塩は、粘着剤層を形成する際の乾燥工程においてアンモニウム塩が揮発して乳化剤としての水溶性がなくなること、また残存するロジン類は粘着付与剤樹脂としても機能しうること、さらには、かかるロジン類のアンモニウム塩と保護コロイドであるカゼインの水溶性塩との組み合わせによる作用よって、絶縁特性、耐湿粘着力が向上したものと推察される。
【0025】
このように本発明のゴム系の水性粘着剤組成物を用いた粘着テープは、絶縁特性、耐湿粘着力が良好であるため、絶縁用粘着テープ、特に、自動車のワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープとして好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の水性粘着剤組成物は、ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを含有してなる。
【0027】
ゴム系ラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックス等があげられる。天然ゴムラテックスは、水性粘着剤組成物に用いられるものを特に制限なく使用でき、解重合したもの、解重合しないもののいずれでもよい。また天然ゴムラテックスとしては、未変性天然ゴムラテックスの他に、アクリル変性等を施した変性天然ゴムラテックスを用いることができる。また、天然ゴムラテックスとしては、未変性天然ゴムラテックスおよびアクリル変性等を施した変性天然ゴムラテックスの混合物を用いることができる。スチレン−ブタジエン共重合体系ラテックス、クロロプレンラテックスも通常、市販されているものを特に制限なく使用できる。またスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、クロロプレンラテックスはカルボキシ変性されたものでもよい。
【0028】
ゴム系ラテックスとしては、電気絶縁用テープとした場合に、良好な接着性を発揮する点から、天然ゴム系ラテックスおよびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含有することが好ましい。天然ゴム系ラテックスとスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスとの割合(重量比)は、不揮発分換算で、前者:後者=10:90〜90:10であることが好ましく、さらには、前者:後者=20:80〜80:20、さらには前者:後者=30:70〜70:30、であることが好ましい。
【0029】
また、天然ゴム系ラテックスは、ポリ塩化ビニル系フィルムを基材とした粘着テープにおいて、巻き戻し力を上昇させて結束作業性を良好にする点から、未変性天然ゴムラテックスだけでなく、アクリル変性天然ゴムラテックスを含有することができる。好ましくは、未変性天然ゴムラテックスおよびアクリル変性天然ゴムラテックスの混合物である。未変性天然ゴムラテックスとアクリル変性天然ゴムラテックスとの割合(重量比)は、不揮発分換算で、前者:後者=0:100〜100:0であることが好ましく、さらには、前者:後者=20:80〜80:20、さらには前者:後者=40:60〜60:40、であることが好ましい。
【0030】
粘着付与剤樹脂エマルションは、粘着付与剤樹脂を乳化剤および保護コロイドの存在下に乳化して得られたものである。
【0031】
粘着付与剤樹脂は、各種公知のものを特に制限なく使用できる。例えば、ロジン類、ロジン誘導体、石油系樹脂、テルペン系樹脂、アルキルフェノール樹脂等があげられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
ロジン類としてはガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジンの原料ロジンまたは前記原料ロジンを不均化もしくは水素化処理した安定化ロジンや重合ロジン等があげられる。ロジン誘導体としてはロジンエステル類、ロジンフェノール類があげられる。ロジンエステル類としては前記ロジン類と多価アルコールとをエステル化反応させて得られたロジンエステル、原料ロジンを部分的にフマル化もしくはマレイン化し、次いでエステル化して得られる部分マレイン化もしくは部分フマル化ロジンの多価アルコールエステル、原料ロジンを部分的にフマル化もしくはマレイン化させた後、不均化し、次いでエステル化して得られる部分マレイン化もしくは部分フマル化不均化ロジンの多価アルコールエステル等をいう。また、ロジンフェノール類とはロジン類にフェノール類を付加させ熱重合したもの、または次いでエステル化したものをいう。なお、前記エステル化に用いられる多価アルコールは、特に制限はされず、ジエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール等の各種公知のものを例示できる。
【0033】
また、石油系樹脂としては、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、脂肪族/芳香族混成樹脂、ピュアモノマー樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂や、これらの水素化物等を例示できる。
【0034】
脂肪族石油樹脂としては、石油ナフサの分解留分のうち主にC5留分を精製しカチオン重合したものがあげられ、たとえば、シスピペリレン、トランスピペリレン、イソプレン、2−メチルブテン2、ジシクロペンタジエンなどを主成分単量体とするホモポリマー、およびこれらのコポリマー、ならびにこれらの水添加物などがあげられる。芳香族石油樹脂としては、石油ナフサの分解留分のうち主にC9留分を精製しカチオン重合したものがあげられ、たとえば、スチレン、インデン、メチルインデン、メチルスチレン、クマロン(ベンゾ[b]フラン)などを主成分単量体とするホモポリマー、およびこれらのコポリマー、ならびにこれらの水添加物などがあげられる。脂肪族/芳香族混成樹脂としては、石油ナフサの分解留分のうち主にC5留分およびC9留分のブレンドをカチオン重合したものがあげられたとえば、ジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、およびジエンモノマー(C5留分ダイマー)などと、スチレン、インデンなどのコポリマー、ならびにこれらの水添加物などがあげられる。
【0035】
テルペン樹脂としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテンなどのホモポリマー、または、これらのコポリマー、テルペンフェノールコポリマー、ならびにこれらの水添加物などがあげられる。さらにはテルペン類とスチレン等の芳香族モノマーを共重合させた芳香族変性のテルペン系樹脂を例示できる。
以上を混合して使用してもよい。
【0036】
アルキルフェノール樹脂は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドから得られる樹脂(油性フェノール樹脂)であり、ノボラックタイプ、およびレゾールタイプのものがあげられる。
【0037】
前記粘着付与剤樹脂としては、各種用途に応じて、軟化点等の特性を考慮して、適宜選択して使用できるが、水性粘着剤組成物を、ワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープに用いる場合には、接着性と凝集力の特性バランスが向上する点から、粘着付与剤樹脂としては、脂肪族石油樹脂とアルキルフェノール樹脂を用いるのが好ましい。なお、この場合には、脂肪族石油樹脂とアルキルフェノール樹脂の割合は、前者:後者=95:5〜50:50、さらには前者:後者=95:5〜70:30、であることが好ましい。
【0038】
粘着付与剤樹脂エマルションに用いる乳化剤は、ロジン類のアンモニウム塩である。ロジン類の塩であっても、アンモニウム塩以外のカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩では、機械的安定性、絶縁特性、耐湿粘着力のいずれも十分ではない。なお、ロジン類とは、前述同様の、ガムロジン、ウッドロジンもしくはトール油ロジンの原料ロジンまたは前記原料ロジンを不均化もしくは水素化処理した安定化ロジンや重合ロジン等があげられる。これらロジン類は1種を単独で、または2種以上を併用することができる。
【0039】
前記ロジン類のアンモニウム塩としては、水性粘着剤組成物を、ワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープに用いる場合には、乳化のし易さ、乳化物の経時安定性の点から、ジヒドロアビエチン酸を少なくとも50重量%、さらには少なくとも60重量%含有するロジン類のアンモニウム塩を用いることが好ましい。かかるロジン類は、例えば、不均化もしくは水素化処理した安定化ロジンにより得られる。特に、水素化処理した、いわゆる水添ロジンが好適である。この水添ロジン等のジヒドロアビエチン酸を少なくとも50重量%含有するロジン類のアンモニウム塩は、重合ロジンのアンモニウム塩と混合して使用することができる。重合ロジンのアンモニウム塩と混合することで、例えば、基材にポリ塩化ビニル粘着フィルムを使用した塩化ビニル粘着テープとした場合に、粘着テープの接着特性、具体的には、粘着テープの末端剥がれ性が向上する等の効果が得られる。この場合、ロジン類のアンモニウム塩が、ジヒドロアビエチン酸のアンモニウム塩を少なくとも50重量%含有するように、水添ロジンのアンモニウム塩:重合ロジンのアンモニウム塩の割合は、前者:後者=60:40〜95:5、さらには前者:後者=60:40〜90:10、であることが好ましい。
【0040】
乳化剤であるロジン類のアンモニウム塩の使用量は、特に制限されないが、不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂100重量部に対して、1〜20重量部程度であるのが好ましく、さらには3〜15重量部、さらには5〜12重量部であるのが好ましい。20重量部を超える場合には得られる低温時の粘着性が低下し、また1重量部に満たない場合には乳化時の樹脂エマルションの安定性が悪くなる。
【0041】
本発明の水性粘着剤組成物に用いる保護コロイドは、カゼインの水溶性塩である。カゼインの水溶性塩とは、乳製、大豆製等の天然のリンタンパク質であるカゼインを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、有機アミン類等の塩基性物質の水溶液に可溶化して得られるものをいう。カゼインの水溶性塩としては、アンモニウム水溶液を用いるのが好適である。
【0042】
保護コロイドとして用いるカゼインの水溶性塩は、水性粘着剤組成物中に含まれていればよい。例えば、カゼインの水溶性塩は、ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを配合して水性粘着剤組成物を調製する際に、または前記配合後に添加して水性粘着剤組成物を調製してもよい。また、粘着付与剤樹脂を、乳化剤で乳化させる際に、カゼインの水溶性塩を乳化剤とともに用いて、粘着付与剤樹脂エマルション中に含有させることで、水性粘着剤組成物中にカゼインの水溶性塩を含有させてもよい。本発明では、保護コロイドとして用いるカゼインの水溶性塩は、粘着付与剤樹脂を、乳化剤で乳化させる際に乳化剤とともに用いるのが好ましい。
【0043】
保護コロイドであるカゼインの水溶性塩の使用量は、特に制限されないが、不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂100重量部に対して、1〜10重量部程度であるのが好ましく、さらには2〜8重量部であるのが好ましい。10重量部を超える場合には乳化して得られる粘着付与剤樹脂エマルションの粘度が上昇して取扱いが困難となり、また1重量部に満たない場合は乳化して得られる粘着付与剤樹脂エマルションを配合してなる水性粘着剤組成物の機械的安定性を十分に改良することができない。
【0044】
粘着付与剤樹脂エマルションの製造は、乳化剤としてロジン類のアンモニウム塩を用いることにより行う他は、従来より知られている乳化方法と同様の方法を採用できる。また、粘着付与剤樹脂エマルションの製造にあたっては、前記乳化剤とともに、保護コロイドとして用いるカゼインの水溶性塩の存在下に乳化を行うことができる。
【0045】
乳化方法としては、たとえば、一般的な高圧乳化法、反転乳化法等があげられる。具体的には前記粘着付与剤樹脂をベンゼン、トルエン等の溶剤に溶解したのち前記乳化剤、必要により保護コロイド及び軟水を添加し、高圧乳化機を用いてエマルション化したのち減圧下に溶剤を除去する方法、粘着付与剤樹脂に少量のベンゼン、トルエン等の溶剤を混合し、つづいて乳化剤と必要により保護コロイドを練り込み、さらに熱水を徐々に添加してゆき転相乳化させてエマルションを得たのち溶剤を減圧下に除去またはそのまま使用する方法、オートクレーブ中にて樹脂の軟化点以上に昇温して乳化剤と必要により保護コロイドを練り込み熱水を徐々に添加してゆき転相乳化させてエマルション化する方法等をあげることができる。
【0046】
なお、前記乳化にあたっては、本発明の目的を損なわない範囲ないであれば、α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエ−テルサルフェート、ポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸ハーフエステル塩等のアニオン系乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン系乳化剤を用いることができ、また、ゼラチン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、セルロースの水溶性塩、セルロース誘導体等の保護コロイドを用いることができる。
【0047】
本発明の水性粘着剤組成物における、ゴム系ラテックスと粘着付与剤樹脂エマルションの割合は、用途に応じて、適宜に決定されるが、通常、不揮発分換算で、ゴム系ラテックス100重量部に対し、粘着付与剤樹脂エマルション40〜150重量部とするのが好ましい。粘着付与剤樹脂エマルションが40重量部に満たない場合は、接着力が低下する傾向にあり、また150重量部を超える場合には凝集力が低下する傾向にありいずれの場合も適当ではない。
【0048】
なお、粘着付与剤樹脂エマルションの製造にあたり、保護コロイドであるカゼインの水溶性塩を用いなかった場合には、ゴム系ラテックスと粘着付与剤樹脂エマルションを配合し、または配合した後に、カゼインの水溶性塩を添加して、本発明の水性粘着剤組成物を調製する。また粘着付与剤樹脂エマルションの製造にあたり、保護コロイドであるカゼインの水溶性塩を用いた場合にも、カゼインの水溶性塩を水性粘着剤組成物の調製にあたり後添加することもできる。このような場合においても、ゴム系ラテックスと粘着付与剤樹脂エマルションの割合は、前記同様に、ゴム系ラテックス100重量部に対し、粘着付与剤樹脂エマルション40〜150重量部とするのが好ましい。また、後添加する、カゼインの水溶性塩の配合量(粘着付与剤樹脂エマルション中にカゼインの水溶性塩を含む場合には、これを含めた合計量)も、前記同様に、粘着付与剤樹脂100重量部に対して、1〜10重量部程度であるのが好ましく、さらには2〜8重量部であるのが好ましい。
【0049】
本発明の水性粘着剤組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、消泡剤、増粘剤、充填剤、充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐水化剤、造膜助剤等の各種の添加剤を適宜に使用することもできる。
【0050】
本発明の粘着テープは、基材の少なくとも片面に、上記水性粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有するものである。なお、粘着剤層は、下塗り層を介して、設けられていてもよい。
【0051】
基材として、各種の材料を各種用途に応じて適宜選択して用いることができる。例えば低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、金属(箔)、紙等があげられる。基材の厚みは、通常、20〜200μm程度である。
【0052】
例えば、ワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープに用いる場合には、基材としては、ポリ塩化ビニル系フィルムが好適である。
【0053】
粘着剤層の形成は、上記水性粘着剤組成物を、基材に直接または下塗り層表面に塗布し乾燥させることにより形成することができる。またセパレータ上に形成した粘着剤層を、転写することによっても粘着剤層を形成することができる。粘着剤層の厚み(乾燥後)は、通常、5〜100μm程度、好ましくは10〜70μmである。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下、部は重量部(不揮発分換算)を意味する。
【0055】
実施例1
(ゴム系ラテックス)
天然ゴムラテックス(野村貿易(株)扱い,商品名:HYTEX)20部、アクリル変性天然ゴムラテックス20部およびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(JSR(株)製,商品名:2108)60部を混合してゴム系ラテックスを調製した。なお、アクリル変性天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックス(野村貿易(株)扱い,商品名:HYTEX)100部と乳化剤(サンノプコ(株)製,商品名;ノプコ38C)1部を、30℃、窒素気流下で2時間混合反応させ、その後、メタクリル酸メチル10部とクメンハイドロパーオキサイド1部を混合させたものを添加して1時間撹拌混合させ、さらに、テトラエチレンペンタミンを0.4部添加して4時間撹拌混合することにより反応させたものを用いた。
【0056】
(粘着付与剤樹脂エマルション)
脂肪族系石油樹脂(トーネックス社製,商品名:エスコレッツ1304)80部とアルキルフェノール樹脂(田岡化学社製,商品名:タッキーロール201)20部を粘着付与剤樹脂として用い、これらを、トルエン40部に溶解して、樹脂溶液を作製した。別途、カゼイン4部と、28%アンモニア水をガゼイン100重量部に対して15部、水60部を70℃にて加熱溶解し、カゼインのアンモニア水溶液を作製した。これを保護コロイドとして用いた。前記カゼインのアンモニア水溶液を40℃に冷却した後に、乳化剤として、水添ロジン(ジヒドロアビエチン酸の割合が60重量%)のアンモニウム塩8部を混合した後、前記樹脂溶液を、特殊機化工業(株)製のT・Kホモディスパーを用い、回転数800rpmで1時間撹拌して、粘着付与剤樹脂エマルションを調製した。なお、乳化時の乳化剤溶液および樹脂溶液の温度は40℃に調整して行った。
【0057】
(水性粘着剤組成物)
上記ゴム系ラテックス100重量部、粘着付与剤樹脂エマルション100重量部を混合して、水性粘着剤組成物を得た。
【0058】
(粘着テープ)
上記で得られた水性粘着剤組成物を、厚み80μmのポリ塩化ビニルフィルムに、乾燥膜厚が20μmとなるように均一に塗布、乾燥して粘着テープを作製した。
【0059】
実施例2〜8、比較例1〜5
(粘着付与剤樹脂エマルション)
実施例1において、ゴム系ラテックスの調製にあたり、ゴム系ラテックスの種類または使用量を表1に示すように変えたこと、粘着付与剤樹脂エマルションの調製にあたり、乳化剤の種類または使用量、保護コロイドの使用量を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして粘着付与剤樹脂エマルションを調製した。
【0060】
(水性粘着剤組成物)
実施例1において、粘着付与剤樹脂エマルションを、各例で調製したものに変えたこと以外は実施例1と同様にして、水性粘着剤組成物を得た。
【0061】
(粘着テープ)
実施例1において、水性粘着剤組成物を、各例で調製したものに変えたこと以外は実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0062】
(評価)
各例で得られた水性粘着剤組成物および粘着テープについて、下記評価を行った、結果を表1に示す。
【0063】
(機械的安定性)
水性粘着剤組成物を、不揮発分40重量%に調整した後、マーロン安定度試験機により凝集物の発生率を算出した。
凝集物の発生率(%)=(凝集物/初期固形分)×100を算出した。
マーロン安定度試験機の条件は、荷重:10kg、回転数:1000rpm、シェア時間:10分間である。
凝集物の発生率が1.0%以上であると、ギヤーポンプの輸送では凝集物が発生してしまい、輸送が困難になる。
【0064】
(耐湿粘着力)
粘着テープを、60℃×90%R.H.の加湿条件下に10日間投入した後、23℃で1時間冷却した。その後、当該粘着テープの自背面に対する粘着力(加湿後粘着力)を測定した。耐湿粘着力は、下記に示す、粘着テープを加湿条件下に投入する前の初期粘着力に対する変化率で表した。粘着力の測定は、JIS Z0237に準じる。
耐湿粘着力(%)=(加湿後粘着力/初期粘着力)×100
耐湿粘着力が、85%以下になると、信頼性が低く、結束した後に、ハガレ、浮きが生じる。
【0065】
(絶縁特性)
粘着テープを、60℃×90%R.H.の加湿条件下に10日間投入した後、23℃で1時間冷却した。その後、当該粘着テープの体積抵抗率(加湿後体積抵抗率)を測定した。絶縁特性は、下記に示す、粘着テープを加湿条件下に投入する前の初期体積抵抗率に対する変化率で表した。体積抵抗率の測定は、JIS C2107に準じる。
絶縁特性(%)=(加湿後体積抵抗率/初期体積抵抗率)×100
絶縁特性が、85%以下になると、電気絶縁性としては使用できない。
【0066】
(末端剥がれ)
ASTM D1000に準じて評価した。
【0067】
【表1】

【0068】
表1中、A:水添ロジンのアンモニウム塩、B:不均化ロジンのカリウム塩、C:アビエチン酸のナトリウム塩、D:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、E:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、F:重合ロジンのアンモニウム塩、保護コロイド:カゼインのアンモニア水溶液、である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム系ラテックスおよび粘着付与剤樹脂エマルションを含有してなる水性粘着剤組成物において、
粘着付与剤樹脂エマルションが、粘着付与剤樹脂を、ロジン類のアンモニウム塩を含有する乳化剤の存在下に乳化して得られたものであり、
かつ、水性粘着剤組成物は、保護コロイドとして、カゼインの水溶性塩を含有することを特徴とする水性粘着剤組成物。
【請求項2】
ゴム系ラテックスが、天然ゴム系ラテックスおよびスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを含有することを特徴とする請求項1記載の水性粘着剤組成物。
【請求項3】
天然ゴム系ラテックスとスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスとの割合(重量比)が、不揮発分換算で、前者:後者=10:90〜90:10であることを特徴とする請求項2記載の水性粘着剤組成物。
【請求項4】
天然ゴム系ラテックスが、未変性天然ゴム系ラテックスおよびアクリル系変性天然ゴム系ラテックスの混合物であることを特徴とする請求項2または3記載の水性粘着剤組成物。
【請求項5】
粘着付与剤樹脂エマルションが、不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂100重量部に対し、ロジン類のアンモニウム塩1〜20重量部を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性粘着剤組成物。
【請求項6】
粘着付与剤樹脂が、脂肪族石油樹脂とアルキルフェノール樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水性粘着剤組成物。
【請求項7】
ロジン類のアンモニウム塩が、ジヒドロアビエチン酸を少なくとも50重量%以上含有するロジン類のアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水性粘着剤組成物。
【請求項8】
粘着付与剤樹脂エマルションが、粘着付与剤樹脂を、ロジン類のアンモニウム塩を含有する乳化剤およびカゼインの水溶性塩を含有する保護コロイドの存在下に乳化して得られたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水性粘着剤組成物。
【請求項9】
不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂100重量部に対し、カゼインの水溶性塩1〜10重量部を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水性粘着剤組成物。
【請求項10】
不揮発分換算で、粘着付与剤樹脂エマルションを、ゴム系ラテックス100重量部に対し、40〜150重量部含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の水性粘着剤組成物。
【請求項11】
基材の少なくとも片面に粘着剤層を有する粘着テープにおいて、
粘着剤層が、請求項1〜10のいずれかに記載の水性粘着剤組成物により形成されたものであることを特徴とする粘着テープ。
【請求項12】
基材が、ポリ塩化ビニル系フィルムであることを特徴とする請求項11記載の粘着テープ。
【請求項13】
請求項11または12記載の粘着テープからなる、ワイヤーハーネスの保護または結束用粘着テープ。
【請求項14】
請求項13記載の粘着テープにより、ワイヤーハーネスが、保護または結束されていることを特徴とする、保護または結束されたワイヤーハーネス。

【公開番号】特開2007−211231(P2007−211231A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283921(P2006−283921)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】