説明

水性組成物の抗微生物活性を強化するためのビスアミンの使用

薬剤組成物の抗微生物活性を強化するためのビスアミンの使用が記載される。このビスアミンは、人工涙液、眼用潤滑剤、コンタクトレンズ消毒液などの水性眼科用組成物の抗微生物活性を強化するのに特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤組成物などの水性組成物の抗微生物活性を強化するためのビスアミンの使用を対象とする。本発明は、詳細には眼科用組成物の分野を対象とする。
【背景技術】
【0002】
多くの薬剤組成物が、無菌である(すなわち、細菌、真菌、及び他の病原微生物を含んでいない)必要がある。こうした組成物の例には、ヒト又は他の哺乳動物の身体に注入される溶液及び懸濁液;けが、すり傷、やけど、発疹、外科的切開、又は皮膚が無傷でないその他の状態に局所的に施用される、クリーム、ローション、溶液、又はその他の製剤;並びに眼に直接施用される(例えば、人工涙液、灌注溶液、及び薬剤製品)、又は眼と接触するデバイス(例えば、コンタクトレンズ)に施用される様々な種類の組成物が含まれる。
【0003】
前述の種類の組成物は、当分野の技術者に周知の手順によって無菌条件下で製造することができる。しかし、製品の包装が開封されて、この組成物が、大気及び他の潜在的な微生物汚染源(例えば、ヒト患者の手)にさらされると、製品の無菌状態が損なわれる可能性がある。こうした製品は、患者によって通常複数回利用され、したがって、「複数回投与(multi−does)」の性質のものであるとしばしば称される。
【0004】
複数回投与製品は頻繁に繰り返し微生物汚染の危険にさらされるので、こうした汚染が生じるのを防ぐ手段を使用することが必要である。使用される手段は、(1)この組成物中での微生物の増殖を防ぐ、本明細書で「抗微生物性保存剤」と称する化学薬剤(chemical agent)でも、或いは(2)微生物が容器内の薬剤組成物に達する危険を防ぐ又は低減する包装システムでもよい。
【0005】
複数回投与眼科用組成物は、一般に、細菌、真菌、及び他の微生物によるこの組成物の汚染を防ぐために抗微生物薬剤を含んでいなければならない。こうした組成物は、直接又は間接的に角膜に接触する可能性がある。角膜は、外因的な化学薬剤に特に敏感である。したがって、角膜に対して悪影響を与える潜在的可能性を最小限に抑えるために、角膜に比較的無毒な抗微生物剤を使用すること、及びこうした薬剤をできるだけ低い濃度(すなわち、その抗微生物性機能を働かせるのに必要な最小量)で使用することが必要である。
【0006】
抗微生物剤の抗微生物性効果と潜在的な毒性効果のバランスをとるのが、時には実現困難なことがある。より具体的には、微生物で汚染されないように眼科用製剤を保存し又はコンタクトレンズを消毒するのに必要な抗微生物剤濃度だと、角膜及び/又は他の眼組織に対して毒性効果を与える潜在的可能性が生じる恐れがある。より低い濃度の抗微生物剤を使用すると、一般にこうした毒性効果を生じる潜在的可能性を低下させるのに役立つが、濃度を低くすると、必要な殺生物効果(例えば、抗微生物性の保存又は消毒)のレベルを実現するには不十分になる可能性がある。
【0007】
不十分な抗微生物性保存レベルを使用すると、組成物の微生物汚染、及びこうした汚染による眼の感染症の潜在的可能性が生じる恐れがある。緑膿菌又は他の有毒な微生物が関与する眼の感染症は、視覚機能の喪失、更には眼の喪失(loss of the eye)をまねくおそれがあるので、このことも重大な問題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、非常に低濃度の抗微生物剤を、毒性効果を生じる潜在的可能性を増大させることなく、又は患者が微生物汚染及びその結果生じる眼の感染症の容認できない危険にさらされることなく利用できるように、この抗微生物剤の活性を強化する手段が必要とされている。
【0009】
コンタクトレンズ処理用組成物及び他の種類の眼科用組成物は、一般に等張性緩衝液として処方される。こうした組成物の抗微生物活性を強化する1つの手法は、この組成物中に多機能性成分(multi−functional components)を含めることである。こうした多機能性成分は、コンタクトレンズ表面の洗浄若しくは湿潤(例えば、界面活性剤)、この組成物の緩衝化(例えば、ホウ酸塩)、望ましくないイオンのキレート化(例えば、EDTA)などそれらの主な機能を果たすことに加えて、この組成物の総合的な抗微生物活性の強化にも役立つ。例えば、エチレンジアミン四酢酸、並びにその一ナトリウム塩、二ナトリウム塩、及び三ナトリウム塩(本明細書では、集合的に「EDTA」と称す)は、眼科用製品、特にコンタクトレンズ処理用製品に長年にわたって広く使用されている。EDTAは、こうした製品において、様々な目的のために、但し、特にこの補足的な抗微生物活性のために、またキレート化剤として使用されている。コンタクトレンズケア製品及び他の眼科用組成物中にEDTAを含めると、こうした組成物に含有される化学的防腐剤の抗微生物効果、特にグラム陰性菌に対するこうした保存剤の効果が強化される。
【0010】
眼科用組成物の抗微生物活性を強化するための多機能性成分の使用に関するさらなる背景として、以下の特許公報を挙げることができる。
1.米国特許第5,817,277号(Mowrey−McKeeら、トロメタミン)
2.米国特許第6,503,497号(Chowhanら、ホウ酸塩/ポリオール複合体)
3.米国特許第5,741,817号(Chowhanら、グリシンなどの低分子量アミノ酸)
4.米国特許第6,319,464号(Asgharian、低分子量アミノアルコール)
5.米国特許出願公開第2002/0122831A1号(Mowrey−McKeeら、ビスアミノポリオール)
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、組成物の抗微生物活性を強化するためのビスアミンの使用を対象とする。抗微生物活性の強化は、この組成物中の微生物の増殖を防ぐことにより微生物の汚染が生じないようにこの組成物を保存するのに役立つ。本発明はまた、局所的防腐剤や消毒剤の場合のように、この組成物の、この組成物と接触する微生物を殺す能力を増大させるのに使用することもできる。
【0012】
本発明は、詳細には、水性眼科用組成物の抗微生物活性を強化するためのビスアミンの使用を対象とする。ビスアミンは、他の抗微生物剤なしで使用してもよいが、一般に弱〜中程度レベルの抗微生物活性を有する他の薬剤と一緒に使用して、塩化ベンザルコニウム(「BAC」)やポリクオタニウム−1など従来の抗微生物性保存剤が存在しない状態で組成物の微生物汚染を防ぐのに有効な保存システムをもたらす。こうしたシステムによって保存され、従来の抗微生物性保存剤を含まない組成物を、本明細書では「自己保存性(self−preserved)」と称する。
【0013】
本明細書に記載のビスアミンは、コンタクトレンズを消毒するのに利用される溶液など眼用の防腐剤又は消毒剤組成物の抗微生物活性を強化するのに利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で利用されるビスアミンは、次式で表される。
【化1】


式中、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、H、−CHOH、及び1個又は複数のヘテロ原子(例えば酸素)を場合によっては有するC〜C12の直鎖又は分岐状のアルキル又はアルケニルからなる群から選択され、但し、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、
Xは、1個又は複数のヘテロ原子(例えば酸素)を場合によっては有するC〜C16の飽和又は不飽和アルキレン、(−CH−)CHOH−CHOH(−CH−)(式中、wは、1〜6の整数であり、ヒドロキシ基は、シス又はトランスの立体配置である)、(−CH−O−CH−)(xは1〜6の整数)、(−CH=CH−)(アルケン)(yは1〜6の整数)、及び(−C≡C−)(アルキン)(zは1〜6の整数)からなる群から選択される。
本発明はまた、式(I)の化合物の薬剤として許容される塩を包含する。
【0015】
〜Rの位置の−CHOH基は、式(I)の化合物の疎水性に影響を及ぼす。2より多い−CHOH基が存在する場合、この化合物の抗微生物活性を低下させる程度に疎水性が低減されることが確認された。
【0016】
式(I)の好ましいビスアミンは、
、R、又はRのうちの1つが、−CHOHであり、R、R、及びRのうちの1つが、−CHOHであり、残りのR〜R基が、C〜Cの直鎖又は分岐状のアルキル、好ましくはメチルであり、
Xが、(−CH−)(nは3〜6の整数)、及び上記で定義した他のX基(式中、w、x、y、及びzは、1である)からなる群から選択される化合物である。
最も好ましいビスアミンの例は、次式で示される。
1.化合物番号AL−38571
【化2】


(1,3−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン
2.化合物番号AL−39114
【化3】


1,6−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ヘキサン
3.化合物番号AL−39503
【化4】


1,4−ビス[イソブチルアミノ]2,3−ジヒドロキシブタン
4.化合物番号AL−39504
【化5】


1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタン
及び
5.化合物番号AL−39586
【化6】


1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ブタン
【0017】
式(I)のビスアミンは、当分野の技術者に周知の方法を使用して合成することができる。代表的な反応式を、以下の実施例1〜4に記載する。
【0018】
特定の製剤の抗微生物活性を強化するのに必要な式(I)の1種又は複数のビスアミンの量は、当業者によって容易に決定することができる。必要とされる濃度は、選択された特定のビスアミン、抗微生物活性を有する他の成分(例えば、抗微生物剤、キレート化剤、緩衝剤、又は等張化剤)の有無、及び眼科用組成物に含まれる抗微生物剤の機能(例えば、微生物汚染からのこの組成物の保存、又はコンタクトレンズの消毒)によって変わる。眼科用組成物の抗微生物活性を強化するのに必要な濃度を、本明細書では「有効量」と称する。この濃度は、一般に0.01〜2.0重量/体積パーセント(「w/v%」)、好ましくは0.1〜1.0w/v%の範囲である。
【0019】
微生物で汚染されないように眼科用組成物を保存し又はコンタクトレンズを消毒するのに必要な抗微生物活性のレベルは、個人の経験、並びに米国薬局方(「USP」)及び他の国々の類似の刊行物に記載されているものなど公式に公表された標準に基づいて当業者には周知である。
【0020】
上記で指摘したように、前述のビスアミンは、好ましくはホウ酸塩又はホウ酸塩/ポリオール緩衝剤系と組み合わせて使用される。本明細書では、「ホウ酸塩」という用語は、ホウ酸、ホウ酸の塩、他の薬剤として許容されるホウ酸塩、及びそれらの組合せを含む。次のホウ酸塩、すなわち、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸マンガン、及び他のこうしたホウ酸塩が、特に好ましい。
【0021】
本明細書では、「ポリオール」という用語は、2個の隣接する各炭素原子上にそれぞれ少なくとも1個の互いにトランス立体配置ではないヒドロキシル基を有するどのような化合物をも含む。このポリオールは、生じる複合体が水溶性であり、且つ薬剤として許容される限り、線状若しくは環状の、置換体若しくは非置換体、又はその混合物でもよい。こうした化合物の例には、糖、糖アルコール、糖酸、及びウロン酸が含まれる。好ましいポリオールは、それだけに限らないがマンニトール、グリセリン、キシリトール、及びソルビトールを含めた、糖、糖アルコール、及び糖酸である。特に好ましいポリオールは、マンニトール及びソルビトールであり、ソルビトールが、最も好ましい。
【0022】
眼科用組成物におけるホウ酸塩−ポリオール複合体の使用は、米国特許第6,503,497号(Chowhan)に記載されており、その内容の全体が参照によりここに本明細書に組み込まれる。本発明の組成物は、好ましくは、約0.01〜約2.0%w/v、より好ましくは約0.3〜1.2%w/vの量の1種又は複数のホウ酸塩、及び約0.01〜5.0%w/v、より好ましくは約0.6〜2.0%w/vの量の1種又は複数のポリオールを含む。
【0023】
本明細書に記載のビスアミンを、様々な種類の眼科用組成物に組み込んで抗微生物活性を強化することができる。こうした組成物の例としては、緑内障、感染症、アレルギー、炎症の治療に使用される局所組成物などの眼科用薬剤組成物;洗浄用製品やコンタクトレンズを装着する患者の眼の快適さを高めるための製品などのコンタクトレンズ処理用組成物;及び眼潤滑用製品(ocular lubricating product)、人工涙液、収れん剤など他の様々な種類の組成物が挙げられる。この組成物は、水性でも非水性でもよいが、一般には水性である。
【0024】
上記のビスアミンに加えて、本発明の組成物は、微生物で汚染されないようにこの組成物を保存し、且つ/又はコンタクトレンズを消毒するために、1種又は複数の抗微生物剤を含むことができる。本発明は、利用され得る抗微生物剤の種類に関して限定されるものではない。好ましい殺生物剤としては、ポリヘキサメチレンビグアニドポリマー(「PHMB」)、ポリクオタニウム−1、並びに同時係属の米国特許出願第09/581,952号及び対応する国際(PCT)出願公開WO99/32158号に記載のアミノビグアニドが挙げられ、これらの出願の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
最も好ましいアミノビグアニドは、米国特許出願第09/581,952号において「化合物番号1」として特定されている。この化合物は、以下の構造で表される。
【化7】


以下、これをコード番号「AL−8496」で参照する。
【0026】
アミドアミン及びアミノアルコールもまた、本明細書に記載の組成物の抗微生物活性を強化するのに利用することができる。好ましいアミドアミンは、米国特許第5,631,005号(Dassanayakeら)に記載のミリスタミドプロピルジメチルアミン(「MAPDA」)及び関連化合物である。好ましいアミノアルコールは、米国特許第6,319,464号(Asgharian)に記載の2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(「AMP」)及び他のアミノアルコールである。’005号及び’464号特許の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本発明の組成物は、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム又はマンニトール)、界面活性剤(例えば、RLM100などの陰イオン界面活性剤、及び「テトロニック(登録商標)」の名称で販売されているポロキサミンや「プルロニック(登録商標)」の名称で販売されているポロキサマーなどの非イオン性界面活性剤)、粘度調整剤など幅広い様々な他の成分も含むことができる。本発明は、本明細書に記載のビスアミンを利用する眼科用組成物の種類に関して限定されない。
【0028】
本発明の眼科用組成物は、この組成物によって処置される眼及び/又はコンタクトレンズと適合するように処方される。眼に直接施用するための眼科用組成物は、眼と適合するpH及び等張性を有するように処方される。これは、通常、組成物のpHを生理的pH(すなわち、7.4)又はその付近に維持するために緩衝剤を必要とし、組成物のオスモル濃度を210〜320ミリオスモル/kg(mOsm/kg)又はその付近のレベルにするために等張化剤を必要とする可能性がある。コンタクトレンズを消毒及び/又は洗浄するための組成物の処方には、類似の考察、並びにコンタクトレンズ材料に対する組成物の物理的影響及びレンズによる組成物成分の結合又は吸収の可能性に関する考察が必要である。この組成物は、一般に無菌水溶液として処方される。
【0029】
本発明の選択した実施形態について更に説明するために、以下の実施例を示す。
【0030】
(実施例1)
化合物番号AL−38571の合成:1,3−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン
上述の化合物を、以下に示す反応式によって合成した。
【化8】


2−アミノ−2−メチル−プロパン(1.78g、2当量)及び1,3−ジブロモプロパン(2.02g、1当量)を1時間加熱した。得られた生成物をエタノール、続いてエーテル(3回)で洗浄した。得られた固体を減圧下で乾燥し、1,3−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンを得た。収量は800mgである。この化合物を質量分析及びNMRによって特徴付けた。
【0031】
(実施例2)
化合物番号AL−39504の合成:1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタンジヒドロクロリド
上述の化合物を、以下に示す反応式によって合成した。
【化9】


2−メチル−2−アミノ−プロパノール(6.2g、69.5mmol)を、1,3−ブタジエンジエポキシド(2.67g、31mmol)と共に48時間加熱した。この溶液を冷却し、次いで過剰の出発原料を減圧下で除去した。残渣を再結晶によってシュウ酸塩として精製した。この残渣をシュウ酸(5.5g、61mmol)で処理し、得られた固体を熱メタノールから再結晶し、生じた結晶を冷メタノールで何回か洗浄した。次いで、アンバーライトIR−120H樹脂を使用して、シュウ酸塩をイオン交換クロマトグラフィーによって遊離塩基に変換した。この生成物を水中で樹脂上に充填し、3M水酸化アンモニウムを使用してこの樹脂から溶離させた。この溶離液をロータリーエバポレーター中で蒸発させて乾燥させた。得られたゴムをメタノール(50ml)に溶解し、酸性のpHになるまで濃HClをこのメタノール溶液に滴下した。次いで、この生成物を蒸発乾固させて、褐色のアモルファス固体1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタンジヒドロクロリドを得た(4.2g、51%収率)。この化合物の純度を、ESI質量分析及びH NMR分析によって確認した。
【0032】
(実施例3)
化合物番号AL−39503:1,4−ビス[イソブチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタンジヒドロクロリド
上述の化合物を以下のように合成した。
イソブチルアミン(5.0g、68mmol)を、1,3−ブタジエンジエポキシド(2.95g、34mmol)と共に48時間加熱した。この溶液を冷却し、次いで過剰の出発原料を減圧下で除去した。得られたアモルファスの固体をメタノール(50ml)に溶解した。酸性pHに達するまで、このメタノール溶液に濃HClを添加した。この溶液を蒸発乾固させて白色固体を得た。次いで、この生成物を熱エタノールから再結晶して、1,4−ビス[イソブチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタンジヒドロクロリドを得た(3.0g、38%収率)。この化合物の純度を、ESI質量分析及びH NMR分析によって確認した。
【0033】
(実施例4)
化合物番号AL−39586:1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ブタン
上述の化合物を、以下に示す反応式によって合成した。
【化10】


塩化スクシニル(4.18g、27mmol)のCHCl(40mL)溶液を、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(14.41g、0.16mol)のCHCl(150mL)溶液中に0℃で(1時間かけて)滴下した。この反応混合物を5時間室温で撹拌した。この溶媒をビュッヒ(Buechi)ロータリーエバポレーターで除去した後、残渣にアセトン(400mL)を添加し、得られた混合物を室温で1時間撹拌した。次いで、固体をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、オイル状固体として得られた濃縮物にCHCl(30mL)を添加した。固体沈殿物をろ過し、冷CHCl(10mL)、続いてヘキサンで洗浄した。濾滓を減圧下で乾燥した。粗生成物を、シリカゲル(120グラム)カラムクロマトグラフィーにより15%MeOH−CHClで溶離させて精製(少量の2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールの塩酸塩を除去)して、白色粉末として(1)を4.70g(67%)得た(以下、この中間体化合物を「化合物A」と称する)。
【0034】
化合物A(4.90g、18.82mmol)のTHF(100mL)懸濁液に、ボラン−THF複合物(THF中に1M、75.3mL)の溶液を0℃でゆっくり添加した。反応混合物を一晩加熱還流した。反応混合物を0℃に冷却後、6NのHCl溶液(17mL)をゆっくり添加した。得られた懸濁液を1時間室温で撹拌し、沈殿物をろ過しTHFで洗浄して、固体としてジヒドロクロリド塩を得た。新鮮なTHF(50mL)をこの固体に添加した後、得られた懸濁液を加熱還流し、次いで室温に冷却し、続いて更に3時間撹拌した。沈殿物をろ過し、濾滓を減圧下で乾燥して、白色粉末として1,4−ビス−[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ブタンの2HCl塩5.34g(93%)を得た。この化合物を質量分析及びNMRによって特徴付けた。
【0035】
(実施例5)
眼科用組成物、特に人工涙液の抗微生物活性を強化するための式(I)のビスアミンの活性を評価するために、以下の表1に示す配合物を調製した。
【表1】

【0036】
表1に記載の配合物を、以下のように調製した。
HPMC溶液:
1. 250mLパイレックス(登録商標)メディアボトルに、正確な量の2%HPMC原液を加える。
2. 30分間121℃でオートクレーブにかける。
3. 後の配合(compounding)のためにオートクレーブ処理した溶液を保持する。
緩衝剤ビヒクル:
1. 250mLビーカーに、精製水150mLのみを使用して200mLバッチ用の残りの配合成分を加える。
2. pHを測定し、NaOH/HClで7.9に調製する。
3. 全体を精製水で100%(150mL)にする。
4. 0.2μmCAフィルタユニットを使用してこの溶液をろ過する。
最終製剤:
1. ろ過した緩衝剤ビヒクルをオートクレーブ処理したHPMC原液にゆっくり添加する。
2. この溶液を十分に混合する。
【0037】
(実施例6)
実施例5に記載の溶液の抗微生物活性を、標準的な微生物分析(例えば、USP26抗微生物有効性試験(Antimicrobial Effectiveness Test))によって評価した。この試験サンプルに、黒色コウジ菌(Aspergillus niger)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の標定懸濁液を加え、7日、14日、及び28日目に生存する微生物の数を求めた。その結果を以下の表2に示す。
【表2】

【0038】
この結果は、評価したどちらの化合物(すなわち、AL−38571A及びAL−39114A)についても51mMの濃度で試験微生物に対して全体的に防腐効果があることを実証している。この結果はまた、このビヒクル中で34mM及び17mMの濃度で試験したとき、どちらの化合物についても用量応答があったことを示している(こうしたより低い濃度の化合物を含有する溶液D、F、及びGは、USPの防腐効果要件を満たさなかった)。
【0039】
(実施例7)
以下の表3に示した配合物は、実施例5に記載のものと類似の手順に従って調製した。これらの配合物は、本発明によるビスアミン化合物を含む人工涙液組成物のさらなる例である。
【表3】

【0040】
(実施例8)
実施例7に記載の溶液の抗微生物活性を、標準的な微生物分析(例えば、USP27抗微生物有効性試験)によって評価した。その結果を以下の表4に示す。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式の化合物
【化1】


[式中、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、H、−CHOH、及び1個又は複数のヘテロ原子を場合によっては有するC〜C12の直鎖又は分岐状のアルキル又はアルケニルからなる群から選択され、但し、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、
Xは、
1個又は複数のヘテロ原子を場合によっては有するC〜C16の飽和又は不飽和アルキレン、
(−CH−)CHOH−CHOH(−CH−)(式中、wは、1〜6の整数であり、ヒドロキシ基は、シス又はトランスの立体配置である)、
(−CH−O−CH−)(xは1〜6の整数)、
(−CH=CH−)(yは1〜6の整数)、及び
(−C≡C−)(zは1〜6の整数)からなる群から選択される]
又は薬剤として許容されるその塩。
【請求項2】
前記化合物が、1,3−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン、1,6−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ヘキサン、1,4−ビス[イソブチルアミノ]2,3−ジヒドロキシブタン、1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタン、及び1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ブタンからなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
水性眼科用組成物の抗微生物活性を強化するのに有効な量の次式のビスアミン
【化2】


[式中、R、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、H、−CHOH、及び1個又は複数のヘテロ原子を場合によっては有するC〜C12の直鎖又は分岐状のアルキル又はアルケニルからなる群から選択され、但し、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、
Xは、
1個又は複数のヘテロ原子を場合によっては有するC〜C16の飽和又は不飽和アルキレン、
(−CH−)CHOH−CHOH(−CH−)(式中、wは、1〜6の整数であり、ヒドロキシ基は、シス又はトランスの立体配置である)、
(−CH−O−CH−)(xは1〜6の整数)、
(−CH=CH−)(yは1〜6の整数)、及び
(−C≡C−)(zは1〜6の整数)からなる群から選択される]
又は薬剤として許容されるその塩、及び製薬上許容されるそのためのビヒクルを含む水性眼科用組成物。
【請求項4】
式(I)のビスアミンが、1,3−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン、1,6−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ヘキサン、1,4−ビス[イソブチルアミノ]2,3−ジヒドロキシブタン、1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタン、及び1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ブタンからなる群から選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
薬剤組成物の抗微生物活性を強化する方法であって、前記組成物中に有効量のビスアミンを含めることを含み、前記ビスアミンが、次式で表される方法。
【化3】


[式中、
、R、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、H、−CHOH、及び1個又は複数のヘテロ原子を場合によっては有するC〜C12の直鎖又は分岐状のアルキル又はアルケニルからなる群から選択され、但し、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、R、R、及びRのうちの1つ以下は、−CHOHであり、
Xは、
1個又は複数のヘテロ原子を場合によっては有するC〜C16の飽和又は不飽和アルキレン、
(−CHCHOH−CHOH(−CH−)(式中、wは、1〜6の整数であり、ヒドロキシ基は、シス又はトランスの立体配置である)、
(−CH−O−CH−)(xは1〜6の整数)、
(−CH=CH−)(yは1〜6の整数)、及び
(−C≡C−)(zは1〜6の整数)からなる群から選択される]
又は薬剤として許容されるその塩である方法。
【請求項6】
式(I)のビスアミンが、1,3−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン、1,6−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ヘキサン、1,4−ビス[イソブチルアミノ]2,3−ジヒドロキシブタン、1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]2,3−ヒドロキシブタン、及び1,4−ビス[(ジメチル,ヒドロキシメチル)メチルアミノ]ブタンからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2007−513966(P2007−513966A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544001(P2006−544001)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/041332
【国際公開番号】WO2005/056515
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(502335936)アルコン、インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】