説明

水性蛍光インク、それを用いた記録画像及び判定方法

本発明は、水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中に色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いていることを特徴とする水性蛍光インクに関し、耐水性や耐光性を良好にし、更に、従来、濃度消光問題によりインク中に少量しか含有させることができなかったインク中への蛍光色材の含有量を大幅に増加させることが出来、更に、良好な蛍光発光、記録画像の耐水性を得ることが出来、更に、色材の記録媒体への耐固着性、信頼性も良好な水性インクを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、可視光領域で、測定または判定を目的とする蛍光発光を行うための水性蛍光インクに関し、更に詳しくは、通常の可視光下で蛍光発光する水性蛍光インク、通常の可視光下では目視で視認することが出来ないが、紫外光の照射により蛍光発光させて記録画像を視認することが可能となる水性蛍光インク、前記インクを用いた真贋判定方法に関するものである。
【背景技術】
近年、水性インクに求められる特性は、従来の被記録材に文字、描写画等の画像を記録するための着色目的の他に、さまざまな特性が求められ、更に多様な用途に使用されるようになっている。特に、蛍光発光成分を含んだインクを用いることで、得られた画像の目視による彩度を向上させたり、また、発光特性を利用して、アミューズメントへの応用、識別分類目的、セキュリティ等に応用されている。水性インクにより得られた様々な用途で使用可能なインクが求められており、かかる用途としては、単に美麗な有色画像を形成することに留まらず、例えば、インクに蛍光性を持たすことで、文字、数字、記号、バーコード等の情報を記録媒体に記録し、適当な波長の紫外光を照射することにより蛍光インクを有色発光させて、可視情報以外の情報(例えば、セキュリティ情報)等を付与する技術展開が提案されている。その中でも特に蛍光を発光させてその発光強度を読み取る装置を使用して真贋判定(偽造防止)情報やセキュリティ情報を読み取る方式では、その方式で用いられる基準波長(例えば、254nm)で励起させ(基準励起波長)、蛍光色材を蛍光発色させて判定や、測定に用いられている。
従来から上記の用途で用いられる水性蛍光インクに於いて、記録画像の耐水性向上、記録画像の蛍光発光を含む発色性の向上のために、さまざまなインクが提案、検討され報告されている。一般に、水性蛍光インクは、濃度消光現象(インク中に含有する色材含有量を増やしていくと、蛍光発光が低下する現象)のため、インク中に少量しか含有させることが出来ず、蛍光発光強度を強くすることが出来なかった。また、従来の蛍光色材は、蛍光発光を良好にするため、凝集、会合防止を目的とし、良好な溶解性の色材が使用されており、画像の耐水性も悪かった。
また、上記耐水性を向上させる目的で、水溶性蛍光色材に対して造塩する化合物、例えば、酸性染料とカチオン性を有する化合物を用いると、耐水性は向上するが、その代わり、蛍光性が大幅に低下してしまう。
これに対し、水性蛍光染料を、エマルジョンやカプセルに内包する水性蛍光インクが特開平8−053640などに提案されている。この提案は、従来の水性蛍光インクに対して格段に耐水性が向上し、さらに、インク中に水性蛍光染料を内包したエマルジョン、カプセルの含有量を多くしても、水性蛍光染料の凝集、会合が生じないため、蛍光性が低下しにくい提案である。しかしながら、インク中の水分や溶剤含有量が低下すると、増粘しやすく、耐固着性が不十分である。また、インクジェット記録方法に用いられた場合、ノズルの耐目詰り性が不十分であり、最悪の場合は、ノズルでインクが固着してしまう場合がある。更に、熱エネルギーを用いたインクジェット記録方法の場合、ヒーター上にコゲが付着してしまい、信頼性を大きく低下させてしまう。
【発明の開示】
本発明は、上述した濃度消光や耐水性といった問題点を解決するものであり、更に詳しくは、従来、水溶性色材では、解決が難しかった蛍光発光性を耐水性を共に良好するばかりでなく、インク中への蛍光色材の含有量を大幅に増加させることが出来、インクの耐固着性、信頼性も良好な水性インク、記録画像及び上記インクを用いた判定方法を提供するものである。
上記目的は以下の本発明によって達成することができる。
すなわち、
1:本発明にかかる水性蛍光インクは、水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中に色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いていることを特徴とする水性蛍光インクである。
2:本発明にかかる水性蛍光インクは、水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中に色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いていることを特徴とする水性蛍光インクであって、可視光領域の通常光下で視認できるインクであることを特徴とする水性蛍光インクである。
3:本発明にかかる記録画像は、水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中に色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いた水性蛍光インクを用いて形成されたことを特徴とする記録画像である。
4:本発明にかかる判定方法は、水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中に色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いた水性蛍光インクにより形成された画像へ紫外光照射することで、インクの真贋判定を行なうことを特徴とするインク判定方法である。
5:本発明にかかる判定方法は、水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中に色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いた水性蛍光インクにより形成された画像へ紫外光照射することで、画像の真贋の判定を行うことを特徴とする画像判定方法である。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1〜3の60℃放置インクを励起波長254nmで励起させたときの蛍光発光強度を示す。
図2は、比較例1〜3の60℃放置インクを励起波長254nmで励起させたときの蛍光発光強度を示す。
図3は、実施例4及び比較例4〜5の印字画像を励起波長254nmで励起させたときの蛍光発光強度を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
次に好ましい発明の実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。先ず、本発明のインクの予想されるメカニズムに関し説明する。
従来の水溶性蛍光インクに於いて、水溶性蛍光染料を用いた場合、使用される蛍光染料は、一般的に一量体であり、よって、該染料の会合、凝集等の影響で、インク中の染料濃度を高くすると蛍光強度が低下する、一般に言われている濃度消光の影響で、インク中での蛍光染料を多く含有することが出来なかった。また、従来、染料の溶解性を良好にすることで蛍光性を良好にしていたため、この場合、当然インクの耐水性は良好ではなかった。
これらに対して、本発明のインクは、蛍光色材として、色材構造中に蛍光発光団を複数有し、且つ水溶性基としてスルホン酸基を用いることで従来の問題を解決した。
すなわち、本発明に使用される色材は、構造中に複数の蛍光発光団を有し、スルホン酸基を水溶性基としているため、インク中では、該色材が会合状態になりにくく、さらに、インク中で該色材の含有量が多くなり、蛍光発光団を複数有しているため、蛍光発光団の発光機能がなくなるような会合状態を起こさない。すなわち、規則性のある会合が生じ難く一部の蛍光発光団が機能するため、蛍光性を低下させ難い。
特に、蛍光発光団に、水溶性基、特に好ましくは、スルホン酸基を有していると、蛍光発光団の周囲に水分子を集めやすく、蛍光発光機能が良好になるため好ましい。また、スルホン酸基であると、水分子を集め易いためインクの耐固着性も良好になる。
更に、上記インクを、被記録材に記録すると、被記録材構成物に、本発明のインクが染着しても、上記理由と同様に、蛍光発光が低下し難く、良好な蛍光画像を得ること出来る。
また、本発明のインク中に含有される色材が、水難溶性であると、被記録材上に形成された記録物の画像の耐水性が良好に成る。更に、本発明のインクに使用される色材の溶解性が、水より良好な有機溶媒を併用すると、被記録材上に付与されたインクが、被記録材構成物に染着する際、例えば、市販の上質紙に付与した場合、水より濡れ性の良好な有機溶媒の特性で、セルロース繊維等の表面が本発明のインク中に使用される色材を含んだ有機溶媒で濡れ、良好な色材の染着状態を形成することで、すなわち単分子状に染着するため、蛍光発光が良好になる。この場合、水への溶解性は、常温において3質量%未満であると本発明が効果的になる。更に、本発明のインク中に使用される色材の本発明のインク中に使用される有機溶媒への溶解性が、水への溶解性より良好である、3質量%以上であると本発明が効果的になる。
また、本発明のインクに使用される色材が、直接性を有していると、蛍光発光性、耐水性の点から好ましい効果を得ることが出来る。本発明のインクに使用される色材が直接性を有していると、例えば、市販の上質紙に記録した場合、色材が、被記録材構成物に対して、水素結合し易く、例えば、セルロース繊維に単分子に近い状態で染着するため、蛍光発光が良好になり、更に、セルロースと色材が水素結合等の染着結合により水に対して流れ難くなり、良好な耐水性を得ることが出来る。
また、本発明のインクに使用される色材の構造中に使用される複数の蛍光発光団が、連結基を解して色材構造中に構成されているのが好ましい。
また、上記の他に、連結基を解して複数の蛍光発光団が色材構造中に存在すると、蛍光発光性を低下させ難くなる。特に連結基が、共鳴性の有さない、例えばトリアジン環の様な形態であるのが好ましい。
蛍光発光団とは、紫外光などを励起光とし、可視光領域で蛍光発光するものを指す。
本発明のインク中に使用される色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材は、色材に所定の励起波長をエネルギーとして照射することで、前記波長と異なった発光波長域で蛍光発光するものをさす。また、励起波長、発光波長は、紫外光領域、可視光領域、赤外光領域、近赤外光領域を指す。
具体的には、下記に基本構造、連結基を含む原子団の一例を挙げるが、これらに限定されるものではない。一分子中に含まれる下記の基本構造、原子団は一種類に限定されず、本発明の効果を満足するものであれば種類、数ともに任意に選択し、組み合わせることができる。また、基本構造に対し、水酸基、スルホン酸基等の水溶性基を有しても、蛍光発光性に大きな影響が無ければ何ら問題ない。
また、連結基は、色材は立体構造となりやすく、色材分子間の会合が起きにくくなるため、濃度消光による蛍光強度の低下を妨げることが可能となる。
基本構造

連結基を含む原子団

(上記式(1)〜(3)中の各Zは夫々独立に、NR、SR又はORを表し、式(2)中のYは、H、Cl、上記Z、SR又はORを表し、式(3)中のEは、Cl又はCNを表す。R、R、R及びRは各々独立に、H、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基又は置換アラルキル基、水酸基を表し、
及びRは、窒素原子と共に5又は6員環を形成してもよい。

(上記式(4)中、Rは、独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、CN、ウレイド基及びNHCORから選択される。該Rは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基及び置換アラルキル基から選択される。式(5)中、Tは、アルキル基を示し、Wは、水素原子、CN、CONR、ピリジウム基及びカルボキシル基から選択される。R及びRは夫々独立に、水素原子、アルキル及び置換アルキル基から選択される。mは、炭素数2〜8のアルキレン鎖を示し、式(6)中、Bは、水素原子、アルキル基及びカルボキシル基から選択される。
なお、上記化2〜化4の各置換基における具体例は所望とする蛍光発光性に応じて選択することができる。
以上に示された基本構造及び連結基を含む原子団を有する本発明において使用される、色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性蛍光色材としては、例えば、以下に例示構造を示すが、これらに限定されるものではない。

また、特に好ましい、複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性蛍光色材としては、蛍光発光団が、スチルベン構造のものであり、特に好ましいのは、ジアミノスチルベンジスルホン酸構造を複数有する色材である。下記に化合物(A)として、可視光領域に吸収スペクトルを有し、目視で視認できる色材の好ましい例を示すが、これに限定されるものではない。
化合物(A)

本発明の蛍光インクに含有させる色材としては、所望の蛍光特性を有する蛍光色材を用いる他、蛍光を生じない水溶性色材を併用できる。従来の蛍光インクの場合は、蛍光性を有さない水溶性色材を併用すると、蛍光発光が大幅に低下し、場合によっては蛍光発光が消光してしまうが、本発明のインクに於いては、蛍光発光の低下を大幅に低減することが可能となる。
水溶解色材は、色材構造中に、遊離酸の状態でスルホン酸基、カルボン酸基、燐酸基、水酸基、アミノ基等の水溶性基を有し、且つ界面活性剤や樹脂等の第二成分の作用無しに水中で安定に存在できるものを指す。その具体例としては、例えば、直接性染料、酸性染料、塩基性染料、バット染料等が上げられ、具体的には、例えば、ダイレクトブラック168、ダイレクトブラック154、ダイレクトイエロー142、ダイレクトイエロー86、ダイレクトレッド227、ダイレクトブルー199、ダイレクトイエロー142、ダイレクトブラック195、フードブラック1,2が挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶解色材も単独で、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、場合によっては、上記水溶解色材の中で、水溶解性が低く、顔料的に挙動を示すものは、水分散色材的に使用できる場合もある。この場合にも本発明においては併用した場合にも蛍光発光の低下を大幅に低下できる。
更に、蛍光を生じない色材として具体的には、カルボン酸を水溶性基とする色材として、例えば、ダイレクトブラック195、ダイレクトブラック51等の、直接性の強いジス又はトリスアゾ色材や連結基を介した二量体構造の色材や、下記に示すような、遊離酸の形で一般式(A)〜(C)で示される色材が挙げられる。本発明においてはこれらの構造の色材と併用した場合にも蛍光発光の低下を大幅に軽減できる。尚、これら併用した場合に本発明の効果が発現できるものは上記の色材に限定されるものではない。
(1)遊離酸の形で下記一般式(A)で表わされる色材:

[一般式(A)中、Pcは含金属フタロシアニン核、R、R及びRは各々独立に、H、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アラルキル基又は置換アラルキル基を表す。Lは2価の有機連結基を表す。Xは、夫々独立に、カルボニル基又は下記(2)〜(4)式で示される基を表す。

(上記式(2)〜(4)中の各Zは夫々独立に、NR、SR又はORを表し、式(3)中のYは、H、Cl、上記Z、SR又はORを表し、式(4)中のEは、Cl又はCNを表す。R、R、R及びRは各々独立に、H、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基又は置換アラルキル基を表し、R及びRは、窒素原子と共に5又は6員環を形成する。)Gは、1又は2個のCOSH又はCOOHで置換された無色有機残基を表し、t+qは3又は4である。]
一般式(A)で表される化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。

(2)遊離酸の形で下記一般式(B)で表わされる色材:

[上記一般式(B)式中、Jは下記式を表す。

一般式(B)中、Ar及びArは、各々独立に、アリール基又は置換アリール基であって、ArとArの少なくとも1つが独立にCOOHとCOSHから選ばれる置換基を1個以上有する。R及びRは独立に、H、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基又は置換アルケニル基を表し、Lは2価の有機連結基を表し、nは0又は1を表す。Xは夫々独立に、カルボニル基、又は下記(2)、(3)又は(4)式で示される基を表す。

(上記式(2)〜(4)中のZは夫々独立に、NR、SR又はORを表し、式(3)中のYは夫々独立に、H、Cl、上記のZ、SR又はORを表し、式(4)中のEは夫々独立に、Cl又はCNを表す。R、R、R及びRは夫々独立に、H、アルキル基、置換アルキル基、アルケニル基、置換アルケニル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基、置換アラルキル基を表し、R又はRは窒素原子と共に5又は6員環を形成する。)又、一般式(B)で表される化合物は、少なくともSOHと同数のCOOH又はCOSHから選ばれた基を有する。]
一般式(B)で示される化合物として、具体的には、例えば、以下のようなものが挙げられる。


(3)遊離酸の形で下記一般式(C)で表わされる色材:

[上記一般式(C)中、Ar及びArは夫々独立に、アリール基又は置換アリール基を示し、Ar及びArの少なくとも1つは、スルホン基、カルボキシル基及びチオカルボキシル基からなる群から選ばれる置換基を有する。J及びJ1は夫々独立に、下記一般式(2)、(3)又は(4)で示される。

(上記式(2)中、Rは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、CN、ウレイド基及びNHCORから選択される。該Rは、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基及び置換アラルキル基から選択される。式(3)中、Tは、アルキル基を示し、Wは、水素原子、CN、CONR1011、ピリジウム基及びカルボキシル基から選択される。R10及びR11は夫々独立に、水素原子、アルキル及び置換アルキル基から選択される。mは、炭素数2〜8のアルキレン鎖を示し、式(4)中、Bは、水素原子、アルキル基及びカルボキシル基から選択される。
又、式(C)中の、R、R、R及びRは夫々独立に、水素原子、アルキル及び置換アルキル基から選択され、Lは、2価の有機結合基を示し、nは、0又は1を示し、Xは独立に、カルボニル基又は下記一般式(5)、(6)又は(7)で示される。

(上記式(5)〜(7)中、Zは、OR、SR及びNRから選択され、Yは、水素原子、Cl、CN及びZから選択され、Eは、Cl及びCNから選択される。R、R及びRは夫々独立に、水素原子、アルケニル基、置換アルケニル基、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アラルキル基又は置換アラルキル基を示し、更に、R又はRは、これらが結合された窒素原子と共に5又は6員環を形成する場合もある。)
且つ、一般式(C)の化合物がスルホン基をもたない場合は、少なくとも2個のカルボキシル基及びチオカルボキシル基から選ばれる基を有し、一般式(C)の化合物は、スルホン基と少なくともスルホン基と同数のカルボキシル基及びチオカルボキシル基から選ばれる基を有する。]
上記一般式(C)で示される化合物として、具体的には、例えば、以下のものが挙げられる。



上述した色材を併用して用いた場合、使用される色材のインク中への使用量については、目的、使用形態により特に制限されないが、一般的には、インクの全重量に対して0.1〜15質量%の範囲が好適で、より好適には0.1〜10質量%である。この色材の少なくとも一部として、本発明の複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性蛍光色材が用いられる。
また、上述した色材を併用して使用する場合、使用される全色材に占める上述の蛍光を有さない色材の割合は所望とする蛍光発光の特性に応じて選択することができるが、全色材量に対して少なくとも0.1〜20質量%、好ましくは少なくとも0.5〜10質量%とすることができる。
また、本発明においては色材が本発明の構造と異なる蛍光色材との組み合わせにおいても、本発明のインク中への色材の含有量を増加させても蛍光強度の低下を抑制するばかりでなく、蛍光強度を向上できる効果が得られる。ここで用いられる蛍光色材としては染料、顔料いずれも問わないが、インクの記録媒体上でのにじみ率が大きく、より高い蛍光強度を満足させるためには染料が好ましい。
本発明においては、色材として本発明に用いられる色材を単独で用いた場合、本発明に用いられる色材を複数種組み合わせて用いた場合、及び本発明に用いられる色材と本発明の範囲外の蛍光色材と組み合わせた場合のいずれの場合においても、色材の全含有量は、例えば、インク全質量に対して、0.01〜20質量%、更に、0.05〜10質量%とするのが好ましい。
インク中に使用されるその他の成分としては、水と水溶性有機化合物との混合物を溶媒成分として用いることが好ましい。この水溶性有機化合物としては、例えば、グリセリン、キシリトール等の糖アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルフォキサイド、2−ピロリドン等や、結晶性を有する、例えば、尿素、エチレン尿素、εカプロラクトン、スクシンイミド、チオ尿素、ジメチロール尿素等を挙げることができ、これらから選択した1種、あるいは必要に応じて選択した2種以上を用いることができる。
また、これらの化合物に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びアルキルの少なくとも1種を置換基として付加してもよい。これらは、被記録材上に付与された本発明のインクの蛍光発光性を良好に発現するために好ましいものである。
また、好ましくは、環状構造を有している結晶性化合物を用いるとインク中の結晶形成用成分の結晶化が、インク耐固着性、画像中での安定性を維持する点から好ましい。結晶形成用成分は1種を単独で、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。また、常温環境下で固体形態を示すものが、本発明の結晶成分の析出による発明の効果を良好に発現できる。前記、常温環境下とは、20℃〜25℃の範囲を示すが、使い勝手を考慮すると、常温環境下で固体形態を示す結晶形成用成分の融点が30℃以上にあるもの、好ましくは60℃以上に融点を示すものが好ましく、更に好ましくは、120℃以上に融点を有するもが良い。このような結晶形成用成分のインク中における含有量は被記録材に種類に応じて選択することができるが、インク全質量に対して、1〜30質量%、更に、2〜20質量%とするのが好ましい。少な過ぎると、本発明の効果が発現できず、また、多すぎると、インクジェット記録に用いた場合、吐出性に悪影響を与える。
また、上記した水溶性有機化合物の含有量は、一般には、インクの全質量に対して、1%〜40質量%が好ましく、より好ましくは2%〜30質量%の範囲である。
又、インク中の水の含有量は、好ましくは、30〜95質量%の範囲から選択する。30質量%より少ないと水溶性の成分の溶解性が確保できない場合があり、またインクの粘度も高くなる。一方、水が95質量%より多いと蒸発成分が多過ぎて、十分な固着特性を満足することができない場合がある。
本発明のインクの構成成分として界面活性剤を用いるのが好ましい。界面活性剤としては、多種多様のものが使用することが出来るが、好ましい界面活性剤は、ノニオン性、又アニオン性を有する界面活性剤である。
カチオン性を有すると発色性、信頼性が低下するばかりか、使用される色材と反応してしまい、本発明の効果を発現出来なくなる傾向があるからである。ただし、両性界面活性剤の場合は、使用状況によっては、使用する可能性はある。更に、特に好ましくは、ノニオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。ノニオン系界面活性剤は、色材に対し、極性を有さず、信頼性の弊害が少ないからである。また、極性を有していると、インクの蛍光発光性が低下してしまう傾向が大きいからである。
また、水溶液状態で、該水溶液からそれ自身が相分離しないもの、又は色材を含有しないインクで相分離しないものであることが好ましい。相分離してしまうと、インク化したときにインクが不安定になる、更に、インクの収容部材に対し、吸着が生じやすく、本発明の効果が低くなりやすいばかりでなく、本発明の記録機器に対し、信頼性の低下を招きやすいので好ましくない。
このことは、見かけ上は、水に溶けた状態や均一状に分散しているものを使用することが好ましいことを示しており、また該水溶液、色材を除いたインクに対し、相分離する界面活性剤でも、他の界面活性剤と併用することで、例えばエマルジョン状態等の状態で、水溶液、色材を除いたインクで、見かけ上は、水に溶けた状態や均一状に分散していればよい。
また、使用される界面活性剤のインク中の含有量を、臨界ミセル濃度以上にすると、効果が好ましくなる。臨界ミセル濃度以上の含有量にすると、多くの被記録材に対して、被記録材に付与されたインク滴の拡散が良好に成り、被記録材の構成成分に対する蛍光色材の単分子状の吸着性が好ましい傾向、すなわち、蛍光色材の凝集、会合を防止しやすくなるためである。
また、動的界面張力と静的界面張力の差が小さいものが好ましい。
差が小さいと、界面活性剤の配向スピードが早く、上記に述べた、被記録材界面に対する、インク滴の濡れを早くすることが出来るため、本発明の効果を良好にできる。
また、水に対し、又は、インクに対し、溶解性の悪い界面活性剤を、他の界面活性剤と併用し、インク中に、又は水溶液に対し、複合ミセル状態、エマルジョン状態を形成し、用いても良い。
ノニオン系界面活性剤の中でも本発明に好適なものとしては、そのHLBが15以下のものを使用するのが好ましい。水への溶解性が良好なものでも、本発明の効果を得ることは出来るが、一般的に、HLBが15よりも大きくなると、水溶性特性が強くなり、被記録材に対するインク滴の濡れ性、又はインク滴の拡散性が好ましくなく、本発明のメカニズム効果を十分に発現されにくくなるからである。
本発明のインクにおけるノニオン系界面活性剤のインク中における含有量は、具体的には、インク全質量に対して1質量%以上、更には、1〜20質量%とすることが好ましい。1質量%より少ないと、画像形成に於いて、所望とするインクの浸透性や広がり性が得られない場合があり、又、20質量%より多いと、所望とする印字品位のバランス、例えば、画像濃度、画像の定着性、ヒゲ状の滲みであるフェザリングの発生の防止などの各性能の良好なバランスがとれなくなる場合がある。
以上に挙げた要件を具備するノニオン系界面活性剤の中でも、本発明のインクの構成成分とするの特に好ましいものとしては、下記の一般式(I)で示される化合物及び下記(II)〜(VII)に列挙した化合物が挙げられるが、これらに限定されるのもではない。

[上記一般式(I)において、A及びBは夫々独立に、C2n−1(nは1〜10の整数)を表し、X及びYは、それぞれ開環したエチレンオキサイドユニット及び/又は開環したプロピレンオキサイドユニットを表す。]

又、上記一般式(I)で表されるノニオン系界面活性剤の中でも特に好ましいのは、下記の一般式(VIII)で示される化合物である。

インクの安定性の面から、本発明のインクは、更に、インク中に一価アルコールが併用されているものであることが好ましい。一価アルコールは、目詰り等に影響を与えるカビ等の菌などの増殖、発生を防止する。更に、一価アルコールは、被記録材上にインクを付与した場合に、蒸発や、被記録材中への浸透に対して良好な効果があるため、本発明の効果をより良好に発現させるものとして有効である。一価アルコールの本発明のインク中への含有量としては、インク全質量に対して0.1〜20質量%、好ましくは、0.5〜10質量%である。本発明のインク成分として使用することのできる一価アルコールの具体例としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール及びn−ブタノール等が挙げられ、これらは単独で、あるいは必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のインクは、必要に応じて、更に、水溶性有機溶剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、水溶性ポリマー及びpH調整剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
本発明のインクは、表面張力が40mN/m以下、さらには30〜40mN/mであることが好ましい。先に説明したメカニズムの発現のためには、例えば、液滴が記録後に広がりを有する方が効果を出すのは好ましいからである。又、本発明のインクのpHは、インクの安定性の面から6.5以上であることが好ましい。
更に、本発明のインクは、色材の対イオンとして、複数のアルカリ金属イオンを併用することが好ましい。インクジェット記録に用いた場合、両者が併用されていると、インクの安定性及びインクの吐出性が良好になる。アルカリ金属イオンとしては、Li、Na、K等を挙げることができる。
本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な方法及び装置としては、記録ヘッドの室内のインクに記録信号に対応した熱エネルギーを与え、該熱エネルギーにより液滴を発生させる方法及び装置が挙げられる。
以上のようにして構成される本発明の水性インクは、通常の文具用のインクとしても用いることができるが、インクジェット記録で用いられる際に、特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させて液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するインクジェット記録方法があるが、特に、熱エネルギーによるインクの発泡現象によりインクを吐出させるタイプのインクジェット記録方法に適用する場合に好適であり、吐出が極めて安定となり、サテライトドットの発生等が生じないという特徴がある。但し、この場合には、熱的な物性値(例えば、比熱、熱膨張係数、熱伝導率等)を調整する場合もある。
更に、本発明のインクは普通紙等に記録した場合の印字記録物のインクの耐水性の問題を解決すると同時に、インクジェット用ヘッドに対するマッチングを良好にする面から、25℃におけるインクの粘度が15cP以下、好ましくは10cP以下、より好ましくは5cP以下に調整されることが望ましい。従って、上記物性にインクを調整し、普通紙における問題を解決するためには、本発明のインク中に含有される水分量としては50質量%以上98質量%以下、好ましくは60質量%以上95質量%以下とするのが好適である。
本発明は、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域で測定または判定を目的とした蛍光発光を行うために使用するのが好ましい。従来の水性蛍光染料を用いたインクを使用した場合、耐水性が悪く、また、蛍光発光強度が弱いため、他の色材と混合すると所望の性能を得ることが出来なかった。しかし本発明のインクを使用すると、耐水性、蛍光強度が良好であるため、例えば、数あるインクの識別用途として、証券等の真贋判別用途として、印字記録物の真贋判別用途として使用することが出来る。
本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも熱エネルギーを利用して飛翔的液滴を形成し、記録を行うインクジェット方式の記録ヘッド、記録装置において、優れた効果をもたらすものである。
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書、同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも一つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも一つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行なわれるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。
このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書、同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組み合わせ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に、熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書、米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。
加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基づいた構成としても本発明は有効である。
さらに、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよいが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、あるいは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
また、本発明の記録装置の構成として設けられる、記録ヘッドに対しての回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段、電気熱変換体あるいはこれとは別の加熱素子あるいはこれらの組み合わせによる予備加熱手段、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを行うことも安定した記録を行うために有効である。
さらに、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによってでもよいが、異なる色の複色カラー、または混色によるフルカラーの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
以上説明した本発明の実施例においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化するもの、もしくは液体であるもの、あるいは上述のインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものであれば良い。
加えて、積極的に熱エネルギーによる昇温をインクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギーとして使用せしめることで防止するか、またはインクの蒸発防止を目的として放置状態で固化するインクを用いるかして、いずれにしても熱エネルギーの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクとして吐出するものや、記録媒体に到達する時点では既に固化し始めるもの等のような、熱エネルギーによって初めて液化する性質のインクの使用も本発明には適用可能である。このような場合インクは、特開昭54−56847号公報あるいは特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部または貫通孔に液状または固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としても良い。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
さらに加えて、本発明に係る記録装置の形態としては、ワードプロセッサやコンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体または別体に設けられるものの他、リーダと組み合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るものであってもよい。
また、本発明のインクは液晶ディスプレイパネル等のカラーフィルタの着色画素用の色材として使用しても良い。色材は単独でも調色するために他の色材と併用しても良い。着色画素の形成方法としては、インクジェット記録方式を用いてインクを基盤上に付与する製造方法が好ましいが、これに限るものではない。
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中、部及び%とあるものは、特に断りない限り質量基準である。
実施例1のインク組成:
化合物(A)の色材(水溶性蛍光色材) 0.05%
グリセリン 10%
トリエチレングリコール 10%
式(VIII)の化合物で、n+m=10 0.5%
純水 残り
実施例2のインク組成:
実施例1中の化合物(A)の色材含有量を0.5%に変更したもの
実施例3のインク組成:
実施例1中の化合物(A)の色材含有量を1.0%に変更したもの
実施例4のインク組成:
実施例1中の化合物(A)の色材含有量を2.0%に変更したもの
比較例1のインク組成:
C.I.Acid Yellow 73(水溶性蛍光色材) 0.05%
グリセリン 10%
トリエチレングリコール 10%
式(VIII)の化合物で,n+m=10 0.5%
純水 残り
比較例2のインク組成:
比較例1の中の水溶性蛍光色材含有量を0.5%に変更したもの
比較例3のインク組成:
比較例1の中の水溶性蛍光色材含有量を1.0%に変更したもの
比較例4のインク組成:
比較例1の中の水溶性蛍光色材含有量を2.0%に変更したもの
比較例5のインク組成:
比較例1の中の水溶性蛍光色材をC.I.Solvent Green 7に変更し、含有量を2.0%に変更したもの
<評価>
(蛍光性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜3のインクを、60℃環境下に放置し、インク中の水分を蒸発させた、重量変化がほぼ安定した状態のインクを、市販の蛍光測定器FP−750(日本分光(株)製)を用いて、励起波長254nmを照射し、蛍光強度を測定した。得られた結果を、図1及び2に示す。
図1と2の比較により、実施例のインクは、比較例のインクに比べ、インク中の含有量を増やしても安定な蛍光強度を得ることが出来た。
(耐水性の評価)
実施例、及び比較例のインクを市販のインクジェット記録装置のBJS600に搭載し、市販の上質紙に英数文字、50%Dutyのベタ画像を印字し、印字後1日放置後、水道水に、5分間浸漬した。
実施例1〜3のインク:水道水に浸漬したが、浸漬前と比べ英数文字の読み易さは、あまり変わらなかった。また、50%Dutyベタ部の濃度残存率は、全て80%以上であった。
比較例1〜3のインク:水道水に浸漬することで、英数文字が非常に読みずらくなった。また、50%Dutyベタ部の濃度残存率は、全て50%以下であった。
(被記録材上での蛍光性の評価1)
実施例4及び比較例4及び5のインクを、市販のインクジェット記録装置として、BJS600に搭載し、市販のKraft紙に50%Dutyのベタ画像を印字し、印字後1日放置後60℃環境下に放置後、市販の蛍光測定器FP−750(日本分光(株)製)を用いて、励起波長254nmを照射し、蛍光強度を測定した。得られた結果を、図3に示す。
実施例4のインクは、比較例のインクに比べ格段に蛍光強度が高かった。
本発明によれば、従来、インク中の色材含有量を増やしていくと、蛍光強度が低下する(濃度消光)ため、インク中に少量しか含有させることができなかったインク中への蛍光色材の含有量を増加させても、他の蛍光色材や蛍光を有さない色材と併用させても蛍光強度の低下を抑制するばかりでなく、蛍光強度を向上することが出来、且つ被記録材上での記録画像の蛍光強度も良好にすることが可能となった。また、記録画像の耐水性も格段に向上することができた。また、本発明のインクをインクジェット記録用プリンターに用いても、インク滴を吐出するノズルの耐目詰り性、吐出性に何ら問題なく、良好な印字記録を行うことが出来た。また、本発明のインクは、耐固着性も良好であった。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材はその色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いていることを特徴とする水性蛍光インク。
【請求項2】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、水難溶性色材であることを特徴とする請求項1に記載の水性蛍光インク。
【請求項3】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水難溶性色材が、水に3質量%未満の溶解性であることを特徴とする請求項2に記載の水性蛍光インク。
【請求項4】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、セルロース繊維に対して、直接性を有していることを特徴とする請求項1に記載の水性蛍光インク。
【請求項5】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材の構造中に有している複数の蛍光発光団が1種であることを特徴とする請求項1に記載の水性蛍光インク。
【請求項6】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材の構造中に有している複数の蛍光発光団が連結基を介していることを特徴とする請求項1に記載の水性蛍光インク。
【請求項7】
水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材はその色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いていることを特徴とする水性蛍光インクであって、可視光領域の通常光下で視認できるインクであることを特徴とする水性蛍光インク。
【請求項8】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水難溶性色材が、水に3質量%未満の溶解性であることを特徴とする請求項7に記載の水性蛍光インク。
【請求項9】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、セルロース繊維に対して、直接性を有していることを特徴とする請求項7に記載の水性蛍光インク。
【請求項10】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、該色材構造中に有している複数の蛍光発光団が1種であることを特徴とする請求項7に記載の水性蛍光インク。
【請求項11】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材の構造中に有している複数の蛍光発光団が連結基を介していることを特徴とする請求項7に記載の水性蛍光インク。
【請求項12】
水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材中はその色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いている水性蛍光インクを用いて形成されたことを特徴とする記録画像。
【請求項13】
水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材はその色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いた水性蛍光インクにより形成された画像へ紫外光照射することで、インクの真贋判定を行うことを特徴とするインク判定方法。
【請求項14】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水難溶性色材が、水に3質量%未満の溶解性であることを特徴とする請求項13に記載のインク判定方法。
【請求項15】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、セルロース繊維に対して、直接性を有していることを特徴とする請求項13に記載のインク判定方法。
【請求項16】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、該色材構造中に有している複数の蛍光発光団が1種であることを特徴とする請求項13に記載のインク判定方法。
【請求項17】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材の構造中に有している複数の蛍光発光団が連結基を介していることを特徴とする請求項13に記載のインク判定方法。
【請求項18】
水、水に溶解又は分散する色材及び有機溶媒を含み、所定の紫外光領域の励起波長により、可視光領域の蛍光発光の測定または判定を目的とした水性インクであって、前記色材はその色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材を用いた水性蛍光インクにより形成された画像へ紫外光照射することで、画像の真贋の判定を行うことを特徴とする判定方法。
【請求項19】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水難溶性色材が、水に3質量%未満の溶解性であることを特徴とする請求項18に記載の画像判定方法。
【請求項20】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、セルロース繊維に対して、直接性を有していることを特徴とする請求項18に記載の画像判定方法。
【請求項21】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材が、該色材構造中に有している複数の蛍光発光団が1種であることを特徴とする請求項18に記載の画像判定方法。
【請求項22】
前記色材は色材構造内に複数の蛍光発光団を有し、遊離酸の状態で、スルホン酸基を水溶性基として有している水溶性色材の構造中に有している複数の蛍光発光団が連結基を介していることを特徴とする請求項18に記載の画像判定方法。

【国際公開番号】WO2004/096930
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571337(P2004−571337)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008102
【国際出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】