説明

水性防汚塗料組成物、防汚塗膜、船舶および水中構造物、ならびに防汚方法

【課題】全没水時の防汚性だけでなく、半没水時の喫水部における防汚性が極めて良好な水性防汚塗料組成物、および該水性防汚塗料組成物からなる防汚塗膜、ならびに該防汚塗膜を有する船舶および水中構造物を提供する。
【解決手段】第1の防汚剤とバインダー樹脂粒子(A)とを含有し、該第1の防汚剤は、該バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていることを特徴とする水性防汚塗料組成物、および該水性防汚塗料組成物からなる防汚塗膜、ならびに該防汚塗膜を有する船舶および水中構造物である。バインダー樹脂粒子(A)は、硬化性を有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性が向上された水性防汚塗料組成物に関する。また、本発明は、該水性防汚塗料組成物からなる防汚塗膜、ならびに該防汚塗膜を有する船舶および水中構造物に関する。さらに本発明は、該水性防汚塗料組成物を用いた防汚方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶や漁網等の水中構造物には、フジツボ、イガイ、藻類等の海洋生物が付着しやすく、それによって、船舶等では効率のよい運行が妨げられ、燃料の浪費を招く等の問題が生じる。また、漁網等では目詰まりが起こったり、耐用年数が短くなる等の問題が生じる。これら船舶および水中構造物に対する生物の付着を防止するために、船舶および水中構造物の表面に防汚塗膜を形成することが行なわれている。このような防汚塗膜の形成に使用される防汚塗料としては、たとえば非硬化型樹脂を含有する有機溶剤型の塗料組成物などが用いられてきた。ここで、「有機溶剤型の塗料組成物」とは、溶剤として有機溶剤を主に用いた塗料組成物を意味するものである。
【0003】
特許文献1および2に記載の水性防汚塗料組成物は、ともに硬化性を有する水性バインダー成分を含有するものである。特許文献1では、硬化系を選択することで、また、特許文献2では、水溶性分散樹脂と防汚剤とを含有する防汚剤ペーストを用いることで、それぞれ硬化した塗膜から、防汚剤を比較的容易に溶出させることができる。しかし、被塗物の全部を海水に浸漬した際(全没水時)の防汚性には優れているものの、被塗物の一部を海水に浸漬した際(半没水時)の喫水部における防汚性が不十分であり、防汚性に関し改善の余地があった。
【特許文献1】特開2006−182955号公報
【特許文献2】特開2006−182956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、防汚性に優れた水性防汚塗料組成物であって、全没水時の防汚性だけでなく、半没水時の喫水部における防汚性が極めて良好な水性防汚塗料組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、該水性防汚塗料組成物からなる防汚塗膜、ならびに該防汚塗膜を有する船舶および水中構造物を提供することである。本発明のさらに別の目的は、該水性防汚塗料組成物を用いた防汚方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を行なった結果、上記特許文献1および2に記載の水性防汚塗料組成物の喫水部における防汚性が不十分であるのは、水性防汚塗料組成物に含まれる防汚剤または防汚剤ペースト中の防汚剤は安定的に分散されているものの、バインダー樹脂粒子とは別個の粒子として存在していることにより、得られる防汚塗膜中に防汚剤が存在する領域と存在しない領域とが形成されてしまい、当該防汚剤が存在しない領域を起点に海洋生物が付着し始めることに起因すると考えられた。そして、当該課題を解決するためには、防汚塗膜を構成するバインダー樹脂成分自体に防汚剤を含ませ、これにより防汚塗膜の全領域にわたって防汚性を付与すればよいとの着想を得るとともに、バインダー樹脂の硬化性の有無に関わらず良好な防汚性が発現することを確認して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0006】
本発明は、第1の防汚剤とバインダー樹脂粒子(A)とを含有する水性防汚塗料組成物であって、該第1の防汚剤は、該バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていることを特徴とする水性防汚塗料組成物である。ここで、バインダー樹脂粒子(A)を構成するバインダー樹脂は、硬化性を有していてもよい。なお、バインダー樹脂が硬化性を有するとは、硬化剤の存在下または非存在下で硬化する性質を有することを意味する。該バインダー樹脂が単独での硬化性を有しない場合、本発明の水性防汚塗料組成物は、硬化剤(B)をさらに有することが好ましい。
【0007】
また、本発明の水性防汚塗料組成物は、バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていない第2の防汚剤をさらに含有してもよく、あるいは当該第2の防汚剤と水溶性樹脂とを含む防汚剤ペースト(C)をさらに含有してもよい。
【0008】
上記第1の防汚剤と上記バインダー樹脂粒子(A)の固形分との質量比(第1の防汚剤/バインダー樹脂粒子(A))は、2/98〜70/30であることが好ましい。
【0009】
上記第1の防汚剤の含有量と上記第2の防汚剤の含有量との質量比(第1の防汚剤/第2の防汚剤)は、3/97〜40/60であることが好ましい。
【0010】
上記第1の防汚剤および上記第2の防汚剤は、それぞれ独立して、酸化亜鉛、亜酸化銅、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩、トリフェニルボロンピリジン塩、テトラエチルチウラムジスルフィド(TET)、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン(OPA)およびビスダイセンからなる群から選択される1種または2種以上の防汚剤であることが好ましい。
【0011】
本発明の水性防汚塗料組成物に含まれるバインダー樹脂粒子(A)が硬化性を有しており、本発明の水性防汚塗料組成物が硬化剤(B)を含有する場合、バインダー樹脂粒子(A)は、該硬化剤(B)が有する少なくとも1つの官能基または部位と反応し得る官能基を有する樹脂からなることが好ましい。また、当該硬化剤(B)が有する少なくとも1つの官能基または部位と反応し得る官能基は、カルボニル基、アセトアセトキシ基およびアルコキシシリル基からなる群から選択される1種または2種以上の官能基であることが好ましい。
【0012】
また、バインダー樹脂粒子(A)が硬化性を有しており、硬化剤(B)を用いない場合、バインダー樹脂粒子(A)は、硬化剤の非存在下で硬化する性質を有する樹脂、すなわち、バインダー樹脂単独で硬化反応を起こし得る官能基を有する樹脂からなることが好ましい。このような官能基としては、高級不飽和脂肪酸由来基、アルコキシシリル基などを挙げることができ、バインダー樹脂は、これらの1種または2種以上の官能基を含んでいてもよい。
【0013】
上記第1の防汚剤を包接するバインダー樹脂粒子(A)は、1種または2種以上の単量体を、第1の防汚剤および重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合させることにより得られるものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記いずれかに記載の水性防汚塗料組成物を用いてなる防汚塗膜ならびに、防汚塗膜を有する船舶および水中構造物を提供する。
【0015】
さらに本発明は、被塗物の表面に、上記いずれかに記載の水性防汚塗料組成物を用いて防汚塗膜を形成する被塗物の防汚方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、全没水時の防汚性だけでなく、半没水時の喫水部における防汚性が極めて良好な水性防汚塗料組成物が提供される。また、本発明によれば、同等の防汚性を維持しつつ、防汚剤の削減を図ることも可能である。かかる本発明の水性防汚塗料組成物によれば、これを船舶や水中構造物表面に塗布し、防汚塗膜を形成することにより、全没水時および半没水時における海洋生物の付着を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<<水性防汚塗料組成物>>
本発明の水性防汚塗料組成物は、第1の防汚剤とバインダー樹脂粒子(A)とを含有する水性防汚塗料組成物であって、該第1の防汚剤は、該バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていることを特徴とする。防汚剤をバインダー樹脂粒子内に包接させることにより、得られる防汚塗膜全面にわたって防汚剤が存在することとなるため、防汚性、特には被塗物が半没水される際の喫水部における防汚性が向上する。以下、本発明の水性防汚塗料組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0018】
<バインダー樹脂粒子(A)>
本発明の水性防汚塗料組成物は、第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)を含有する。ここで、「第1の防汚剤が包接された」とは、バインダー樹脂粒子(A)の内部に第1の防汚剤が入り込んでいる状態を意味するものである。第1の防汚剤がバインダー樹脂粒子(A)によって包接されていることは、透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)または固体NMRを用いて確認することができる。なお、本明細書中においては、「第1の防汚剤」は、下記の「第2の防汚剤」とは区別されるものであり、バインダー樹脂粒子(A)に包接された防汚剤をいう。「第2の防汚剤」とは、バインダー樹脂粒子(A)に包接されていない防汚剤をいう。
【0019】
バインダー樹脂粒子(A)を構成するバインダー樹脂は、硬化性を有していても、有していなくてもよい。硬化性を有する場合、バインダー樹脂の硬化性は、塗料の使用形態を考慮すると、常温で硬化するものが好ましい。常温で硬化し得るバインダー樹脂を含有する塗料組成物は、塗布後、たとえば自然乾燥または加熱による強制乾燥によって硬化反応を進行させることができる。
【0020】
本発明に係るバインダー樹脂は、乳化剤等を用いて水中に分散可能であるか、あるいは、水に分散・乳化させるための官能基を樹脂中に有しており、水中に分散・乳化可能となっている。水に分散・乳化するための官能基としては特に限定されず、たとえば、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性基やアミノ基等の塩基性基を挙げることができる。酸性基としては、カルボキシル基が特に好ましい。また、樹脂にポリエチレンオキサイドユニットを付加して水に分散・乳化することもできる。水に分散・乳化するための官能基が酸性基である場合、これらの酸性基は、特に限定されないが、バインダー樹脂の酸価として、300mgKOH/g以下の範囲で含まれることが好ましく、より好ましくは1〜60mgKOH/gである。上記塩基性基の場合にも、酸性基と同様にして設定することができる。
【0021】
水に分散・乳化するための官能基が酸性基である場合、バインダー樹脂に塩基を加えて中和することにより、水に分散・乳化させることができる。水に分散・乳化するための官能基が塩基性基である場合、バインダー樹脂に酸を加えて中和することにより、水に分散・乳化させることができる。
【0022】
バインダー樹脂が硬化性を有していない場合、塗膜化した際の耐水性を確保できるように設計がなされている必要がある。この設計は、たとえば、バインダー樹脂がエマルション樹脂である場合には、エマルション樹脂を得るのに用いられる単量体成分のガラス転移点や溶解性パラメーターを調整することによって行なうことができる。
【0023】
本発明に係るバインダー樹脂が硬化性を有するものである場合、該バインダー樹脂は、硬化反応に寄与する官能基(以下、硬化官能基という)を含有する。水性防汚塗料組成物が硬化剤(B)を含有する場合、当該硬化官能基は、硬化剤(B)が有する特定の官能基または部位と反応し、硬化反応が進行する。
【0024】
バインダー樹脂が示す硬化反応としては、たとえば脱水縮合反応、付加反応および酸化重合反応を挙げることができる。以下、各硬化反応を示すバインダー樹脂についてさらに詳細に説明する。
【0025】
(脱水縮合反応により硬化するバインダー樹脂)
脱水縮合反応は、水を発生する平衡反応であることから、乾燥によって水が除去されることによって硬化反応が進行するものである。さらに、脱水縮合反応で硬化した塗膜を水中に浸漬した場合、多量の水が存在することにより、硬化反応の逆反応である分解が進行する。この硬化/分解の平衡のバランスを取ることにより、耐水性を維持しながら、防汚剤を効率的に放出することができる。
【0026】
バインダー樹脂が脱水縮合反応により硬化する場合、その硬化系としては、たとえば、カルボニル/ヒドラジド系、アセトアセトキシ/アミン系、アルコキシシリル縮合系等を挙げることができる。
【0027】
カルボニル/ヒドラジド硬化系とは、たとえば、バインダー樹脂であるカルボニル基含有樹脂と、硬化剤であるヒドラジド系化合物との脱水縮合反応を利用した硬化系である。カルボニル基含有樹脂としては、少なくとも1つのアルド基および/またはケト基を有する樹脂であれば特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(アルキッド樹脂を含む)、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、それらの変性体/複合体等を挙げることができる。なかでも、耐水性、塗膜物性等の点からカルボニル基含有アクリル樹脂が好ましい。なお、硬化剤については後述する。
【0028】
カルボニル基含有アクリル樹脂は、特に制限されないが、たとえば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド(ダイアセトンアクリルアミド)、ジアセトンメタクリルアミド(ダイアセトンメタクリルアミド)、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート等のアルド基および/またはケト基を含むエチレン性不飽和単量体を単独重合させるか、これら列挙したモノマーを2種類以上選択して共重合させるか、あるいは他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合により調製することができる。
【0029】
アルド基および/またはケト基を含むエチレン性不飽和単量体は、得られた樹脂中におけるカルボニル基が樹脂固形分1gあたり0.02〜2mmolとなる割合で使用することが好ましい。0.02mmol未満であると、硬化反応性が不十分になるため、十分な耐水性が得られないおそれがあり、2mmolを超えると、かえって他の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0030】
また、バインダー樹脂であるカルボニル基含有アクリル樹脂の酸価は、300mgKOH/g以下であることが好ましく、1〜60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0031】
上記他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、特に制限されないが、たとえば、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーサチック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等がある。さらに、種々の官能性単量体、たとえば、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン、(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等を挙げることができる。
【0033】
カルボニル基含有アクリル樹脂として、上記したようなカルボニル基含有アクリル樹脂をアミン等の塩基により中和したものを用いてもよい。塩基により中和する場合は、pHを10以下とすることが好ましい。
【0034】
カルボニル基含有アクリル樹脂は、数平均分子量が3000以上であることが好ましい。数平均分子量が3000未満であると、耐水性が低下するおそれがある。数平均分子量は、10000以上であることがより好ましい。上記数平均分子量は、連鎖移動剤を使用したり、重合開始剤量、重合温度等を調整して樹脂の重合を行なうことにより適宜目的とする範囲に調整することができる。
【0035】
次に、アセトアセトキシ/アミン硬化系について説明する。アセトアセトキシ/アミン硬化系とは、たとえば、バインダー樹脂であるアセトアセトキシ基含有樹脂と、硬化剤であるアミン化合物との脱水縮合反応を利用した硬化系である。アセトアセトキシ基含有樹脂としては特に限定されないが、カルボニル基含有樹脂と同様に、アクリル樹脂であることが好ましい。アセトアセトキシ基含有アクリル樹脂は、たとえば、アセトアセトキシ基を含むエチレン性不飽和単量体を含有する単量体を単独重合させるか、あるいは他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合により調製することができる。
【0036】
アセトアセトキシ基を含むエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、たとえば、アセトアセトキシ基を有するアクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類が挙げられる。具体的には、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート等を挙げることができる。他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、カルボニル基含有アクリル樹脂について例示したものを、ここでも用いることができる。なお、硬化剤については後述する。なお、バインダー樹脂であるアセトアセトキシ基含有アクリル樹脂の酸価は、300mgKOH/g以下であることが好ましく、1〜60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0037】
アルコキシシリル縮合硬化系とは、バインダー樹脂がアルコキシシリル基含有樹脂である硬化系である。アルコキシシリル基のアルコキシ基としては特に限定されず、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。これらのアルコキシ基は、1つのSi原子に1〜3個結合していてよい。なお、アルコキシシリル縮合硬化系の場合、必ずしも硬化剤は必要ではない。
【0038】
アルコキシシリル基含有樹脂は、たとえば、アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体を単独重合させるか、あるいは他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体と共重合させることにより得ることができる。アルコキシシリル基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、たとえば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレン等を挙げることができる。他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、カルボニル基含有アクリル樹脂について例示したものを、ここでも用いることができる。
【0039】
バインダー樹脂であるアルコキシシリル基含有アクリル樹脂の酸価は、300mgKOH/g以下であることが好ましく、1〜60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0040】
バインダー樹脂がアルコキシシリル縮合系の硬化系を有する場合、水性防汚塗料組成物は、硬化触媒として、酸および/または塩基を含有してもよい。当該酸および塩基としては特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の酸基を有する化合物、アミノ基等の塩基性基を有する化合物を挙げることができる。酸基を有する化合物としては、触媒活性が強いことからリン酸基またはスルホン酸基を有する化合物を用いてもよい。また、アミノ基としては、2個のアルキル基が窒素原子に結合した3級のものが好ましく、当該アルキル基は同一でも異なっていてもよいが、炭素数1〜8のものが特に好ましい。このようなアミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジオクチルアミノ基等を挙げることができる。酸基または塩基性基を有する化合物は、酸基または塩基性基を有する樹脂であってもよく、かかる樹脂は、たとえば、少なくとも1つの酸基または塩基性基を有するエチレン性不飽和単量体を用いた重合によって得ることができる。
【0041】
また、硬化触媒としての酸の別の具体例としては、特に限定されないが、たとえば、オルトリン酸、ブチルリン酸、オクチルリン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2,4−キシレンスルホン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、塩酸、蟻酸、酢酸、乳酸等の低分子化合物を挙げることができる。硬化触媒としての塩基の別の具体例を挙げれば、特に限定されないが、たとえば、アンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチルアミン、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、コリンヒドロキシド、ベンジルアミン等である。
【0042】
アルコキシシリル含有樹脂に含まれるアルコキシシリル基量と上記酸および/または塩基とのモル比は、1/10〜1/0.01の範囲内であることが好ましい。当該モル比が1/0.01を超えると、硬化性が不十分となり、耐水性が低下するおそれがある。また、当該モル比が1/10未満であると、未反応の酸および/または塩基の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0043】
上記脱水縮合反応による硬化系の中で、硬化反応の逆反応の分解が進行することによる自己研磨性が良好であることからカルボニル/ヒドラジド系が好ましく、その中でも硬化反応性に優れることから、カルボニル/セミカルバジド化合物の組み合わせがより好ましい。
【0044】
(酸化重合反応により硬化するバインダー樹脂)
バインダー樹脂が酸化重合反応による硬化系を有する場合、当該バインダー樹脂は、高級不飽和脂肪酸由来基を有する樹脂であり、その硬化反応は、バインダー樹脂が有する高級不飽和脂肪酸由来基が関与するものであることが好ましい。かかるバインダー樹脂からなるバインダー樹脂粒子(A)を含有する水性防汚塗料組成物においては、高級不飽和脂肪酸由来基における不飽和結合が酸化重合することによって、得られる防汚塗膜は、長鎖炭化水素基が酸素原子を介して架橋した構造を有することとなるため、防汚剤が溶出しやすくなる。これは、長鎖炭化水素基同士が架橋した構造が、他の硬化系により得られる架橋構造に比べて、緩やかな網目状になっているためであると考えられる。
【0045】
高級不飽和脂肪酸由来基を有する樹脂として、たとえば、アクリル樹脂、アルキド樹脂等を挙げることができる。高級不飽和脂肪酸由来基を有する樹脂は、たとえば、高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体を単独重合させるか、あるいは他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合により調製することができる。他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、カルボニル基含有アクリル樹脂について例示したものを、ここでも用いることができる。
【0046】
高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、たとえば、高級不飽和脂肪酸とグリシジル基含有エチレン性不飽和単量体との反応によって得られるもの等を挙げることができる。高級不飽和脂肪酸としては特に限定されず、たとえば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸等を挙げることができる。さらに、亜麻仁油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、米糠油脂肪酸、胡麻油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、綿実油脂肪酸、トール脂肪酸等の非共役二重結合を有する乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸等を挙げることもできる。なお、桐油脂肪酸等の共役二重結合を有する脂肪酸を一部併用することができる。高級不飽和脂肪酸の炭化水素部分の平均炭素数は、13〜23であることが好ましい。
【0047】
グリシジル基含有エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、たとえば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、メチルグリシジルアクリレート、メチルグリシジルメタアクリレート等を挙げることができる。
【0048】
高級不飽和脂肪酸由来基を有するエチレン性不飽和単量体のヨウ素価は、60〜180であることが好ましく、70〜150であることがより好ましい。また、高級不飽和脂肪酸由来基を有するバインダー樹脂のヨウ素価は、5〜100であることが好ましい。高級不飽和脂肪酸由来基を有するバインダー樹脂のヨウ素価が100を超えると、塗膜表面の乾燥が早過ぎるため、塗膜表面にクラックが発生したり、塗膜内部の硬化が不十分となったりするおそれがある。また、バインダー樹脂である高級不飽和脂肪酸由来基を有する樹脂の酸価は、300mgKOH/g以下であることが好ましく、1〜60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0049】
バインダー樹脂が酸化重合反応による硬化系を有する場合、水性防汚塗料組成物は、さらにドライヤーを含有することが好ましい。ドライヤーは、高級不飽和脂肪酸由来基の不飽和結合を架橋させるための働きをするものである。ドライヤーとしては、通常、塗料用として慣用されているものであれば特に限定されないが、なかでもコバルト、バナジウム、マンガン、セリウム、鉛、鉄、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム、セリウム、ニッケル、および、スズ等のナフテン酸塩、オクチル酸塩、樹脂酸塩等を挙げることができる。上記ドライヤーの配合量は、通常、バインダー樹脂固形分100質量部に対して0.005〜5質量部である。
【0050】
(付加反応により硬化するバインダー樹脂)
バインダー樹脂が付加反応により硬化する場合、その硬化系としては、たとえば、ウレタン/ウレア系、カルボジイミド/カルボキシル系、マイケル付加系等を挙げることができる。
【0051】
ウレタン/ウレア硬化系とは、たとえば、バインダー樹脂である水酸基および/またはアミノ基含有樹脂と、硬化剤であるポリイソシアネート化合物との付加反応を利用した硬化系である。水酸基および/またはアミノ基含有樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。なお、硬化剤については後述する。
【0052】
水酸基および/またはアミノ基含有アクリル樹脂は、特に制限されないが、たとえば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物(たとえば、ダイセル化学工業社製「プラクセルFM1」、「プラクセルFA1」)等の水酸基を有するエチレン性不飽和単量体;アリルアミン、ビニルアミン等のアミノ基を有するエチレン性不飽和単量体などを単独重合させるか、あるいは他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合により調製することができる。他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、カルボニル基含有アクリル樹脂について例示したものを、ここでも用いることができる。
【0053】
バインダー樹脂である水酸基および/またはアミノ基含有樹脂の酸価は、300mgKOH/g以下であることが好ましく、1〜60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0054】
カルボジイミド/カルボキシル硬化系とは、たとえば、バインダー樹脂であるカルボキシル基含有樹脂と、硬化剤であるポリカルボジイミド化合物との付加反応を利用した硬化系である。カルボキシル基含有樹脂としては、特に限定されず、たとえば、カルボキシル基含有アクリル樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂、カルボキシル基含有アルキド樹脂およびカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。カルボキシル基含有樹脂がアクリル樹脂である場合、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボキシル基を含むエチレン性不飽和単量体を単独重合させるか、あるいは他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合により調製することができる。他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、カルボニル基含有アクリル樹脂について例示したものを、ここでも用いることができる。
【0055】
マイケル付加硬化系とは、たとえば、バインダー樹脂である活性メチレン基および/または活性メチン基を有する化合物と、硬化剤であるα,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物との付加反応を利用した硬化系である。活性メチレン基および/または活性メチン基を有する化合物としては、たとえば、アセト酢酸、マロン酸、シアノ酢酸、および、これらの誘導体を挙げることができる。当該誘導体としては特に限定されず、たとえば、ポリオールと、上述の化合物との反応生成物を挙げることができる。
【0056】
バインダー樹脂が付加反応により硬化する場合、付加反応が過度に進行してしまうと、バインダー樹脂粒子(A)内に包接された防汚剤が溶出しにくくなるおそれがある。このため、バインダー樹脂が付加反応により硬化する場合、硬化官能基の量を調節することにより、防汚剤の溶出性を制御することが好ましい。また、後述する水溶性樹脂を併用することによって、防汚剤の溶出性を制御することも可能である。この場合に用いられる水溶性樹脂は、バインダー樹脂の付加反応に関与しないものが好ましい。
【0057】
上記したようなバインダー樹脂からなるバインダー樹脂粒子(A)は、後述する第1の防汚剤をその内部に包接する。バインダー樹脂粒子(A)の平均粒径は、特に制限されるものではないが、たとえば100nm〜60μm程度とすることができる。本発明においては、バインダー樹脂粒子(A)の平均粒径に関わらず、防汚塗料組成物の防汚性の向上を図ることができるが、防汚剤の溶出速度を適度に保ち十分な防汚性向上効果を確保するという観点からは、バインダー樹脂粒子(A)の平均粒径は、150nm〜25μmとすることが好ましい。バインダー樹脂粒子(A)の粒径は、乳化時の攪拌速度、開始剤濃度、単量体濃度等の条件を適宜調整することにより制御することができる。なお、本明細書中において、「バインダー樹脂粒子(A)の平均粒径」とは、たとえば下記されるような方法で調製された、第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)を含有する水性エマルション樹脂液について、電気泳動光散乱光度計(たとえば、大塚電子社製「ELS−800」)を用いて測定したときに得られる体積平均粒子径である。
【0058】
<第1の防汚剤>
バインダー樹脂粒子(A)に内包される第1の防汚剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができ、たとえば、無機化合物、金属を含む有機化合物および金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0059】
防汚剤の具体例としては、たとえば、酸化亜鉛(亜鉛華)、亜酸化銅、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルカーバーメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバーメート、ロダン銅、4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン(たとえば、ロームアンドハース社製の「シーナイン211」(商品名))、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−フェニルメタンスルフェンアミド(ランクセス社製の「プリベントールA4S」(商品名))、1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)メタンスルフェンアミド(ランクセス社製の「プリベントールA5S」(商品名))、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩(ジンクピリチオン)、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩(銅ピリチオン)、テトラメチルチウラムジサルファイド、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート、ジヨードメチルパラトリスルホン、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン塩、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、ラウリルアミン−トリフェニルボロン、テトラエチルチウラムジスルフィド(TET)、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン(OPA)、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(ビスダイセン)等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、酸化亜鉛(亜鉛華)、亜酸化銅、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩(ジンクピリチオン)、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩(銅ピリチオン)、トリフェニルボロンピリジン塩、テトラエチルチウラムジスルフィド(TET)、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン(OPA)、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(ビスダイセン)等を好ましく用いることができる。
【0060】
第1の防汚剤と、当該第1の防汚剤を包接するバインダー樹脂粒子(A)の固形分との質量比(第1の防汚剤/バインダー樹脂粒子(A))は、2/98〜70/30であることが好ましく、5/95〜60/40であることがより好ましく、7/93〜50/50であることが特に好ましい。当該質量比が2/98未満の場合には、防汚性、特には半没水時の喫水部における防汚性が低下する傾向にある。また、当該質量比が70/30を超える場合には、第1の防汚剤の全量を包接し切れないおそれがある。なお、第1の防汚剤を包接するバインダー樹脂粒子(A)の製造時において、バインダー樹脂を構成するモノマー成分に対し、過剰の、すなわち、バインダー樹脂粒子(A)に全量を内包できない程度の第1の防汚剤を使用した場合には、当該過剰分の防汚剤は、バインダー樹脂粒子(A)に内包されることなく、バインダー樹脂粒子(A)の分散液(エマルション)中に、分散されているか、もしくはバインダー樹脂粒子(A)の外側表面に付着することとなる。このような防汚剤は、本発明においては、後述する第2の防汚剤として把握されるものである。したがって、第1の防汚剤を包接するバインダー樹脂粒子(A)の製造時における、防汚剤の使用量は、この意味において特に限定されるものではない。
【0061】
次に、第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)の製造方法について説明する。第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)は、特に制限されないが、たとえば、以下のような方法で製造することができる。
(i)所望する硬化系を示すバインダー樹脂を構成する1種または2種以上の単量体を、防汚剤および油溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合させる方法。
(ii)所望する硬化系を示すバインダー樹脂を構成する1種または2種以上の単量体を、防汚剤および水溶性重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合させる方法。
【0062】
上記重合反応に用いる単量体については上述したとおりであり、所望する硬化系に応じた硬化官能基を有する単量体、および/またはこれと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体が選択される。
【0063】
重合開始剤としては特に限定されず、(i)の方法の場合、たとえばアゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等のレドックス系過酸化物などの油溶性重合開始剤を挙げることができる。また、(ii)の方法の場合、たとえば4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)等のアニオン系化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物などの水溶性重合開始剤を挙げることができる。
【0064】
反応溶媒としては、水を好適に用いることができる。また、必要に応じてアルコール等のような水溶性有機溶剤を併用してもよい。重合温度としては、特に限定されないが、たとえば20〜95℃程度とすることができ、より好ましくは、40〜85℃程度である。
【0065】
より具体的には、上記(i)の方法においては、たとえば、単量体、防汚剤および油溶性重合開始剤を含む水性混合物を、重合温度付近に加熱された水性媒体中に添加する方法を適用することができる。この際、当該水性混合物中および/または水性媒体中には、反応溶液の均一分散性を考慮し、乳化剤および/または水溶性樹脂を添加しておくことが好ましい。特に、単量体、防汚剤および油溶性重合開始剤を含む水性混合物を、乳化剤等を用いて、あらかじめ乳化しておくことが好ましい。
【0066】
乳化剤としては特に限定されず、アニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれであってもよい。乳化剤としては、たとえば、エレミノールJSシリーズ(三洋化成社製)、ラテムルSおよびKシリーズ(花王社製)、アクアロンHSシリーズ(第一工業製薬社製)、アデカリアソープシリーズ(旭電化社製)、アントックスMS−60(日本乳化剤社製)等の市販の製品を使用することができる。
【0067】
上記(ii)の方法においては、たとえば、単量体および防汚剤を含む水性混合物と、水溶性重合開始剤とを、重合温度付近に加熱された水性媒体中に添加する方法を適用することができる。この際にも、当該水性混合物中および/または水性媒体中には、反応液の均一分散性を考慮し、乳化剤および/または水溶性樹脂を添加しておくことが好ましい。特に、単量体および防汚剤を含む水性混合物を、乳化剤等を用いて、あらかじめ乳化しておくことが好ましい。
【0068】
重合反応終了後、得られた反応液に酸または塩基を添加し、反応溶液を中和してもよい。中和に用いる酸としては、特に限定されないが、たとえば蟻酸、酢酸、乳酸等を挙げることができる。または中和に用いる塩基としては、たとえばアンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等を挙げることができる。
【0069】
このようにして得られる第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)は、水性媒体中に乳化されたエマルション樹脂である。当該水性エマルション樹脂液は、本発明の水性防汚塗料組成物の一成分として、そのまま用いることができる。ただし、包接されていない第1の防汚剤が多量に存在することにより、沈降が生じていることが目視で確認された場合、沈降物をデカンテーション等で除去した後、使用してもよい。
【0070】
なお、水性エマルション樹脂液が、バインダー樹脂粒子(A)に包接されていない防汚剤を含む場合、先に述べた「バインダー樹脂粒子(A)の平均粒径」の測定方法においては、当該包接されていない防汚剤も粒径測定の対象となる。
【0071】
第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)の配合量(固形分)は、たとえば、水性防汚塗料組成物の固形分中、15〜60質量%とすることができる。十分な防汚性を得るためには、20〜50質量%とすることがより好ましい。
【0072】
<硬化剤(B)>
硬化剤(B)は、上記したバインダー樹脂が硬化性を有する場合、その硬化系に応じて適宜選択される。以下、各硬化系に用いることができる硬化剤について説明する。
【0073】
バインダー樹脂がカルボニル/ヒドラジド硬化系を有する場合、硬化剤はヒドラジド化合物である。ヒドラジド化合物としては特に限定されず、一分子中にヒドラジド基またはセミカルバジド基を複数有する化合物を使用することができる。
【0074】
一分子中にヒドラジド基を複数有する化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、グルタン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジカルボン酸ジヒドラジド;炭酸ジヒドラジド等の炭酸ポリヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジド、4、4’−オキシベンゼンスルホニルヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ヒドラジド;ポリアクリル酸ヒドラジド等のポリマーヒドラジド等を挙げることができる。なかでも、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。これらの化合物は、単独で使用しても、または、2種類以上を併用して使用してもよい。
【0075】
一分子中にセミカルバジド基を複数有する化合物としては特に限定されず、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−P−フェニレン)ジセミカルバジド、ビュレットリートリ(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)等のセミカルバジド類を挙げることができる。これらの化合物は、単独で使用しても、または、2種類以上を併用して使用してもよい。
【0076】
バインダー樹脂であるカルボニル基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と硬化剤に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。当該モル比が1/0.05を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。また、当該モル比が1/10未満であると、未反応のヒドラジド化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0077】
バインダー樹脂がアセトアセトキシ/アミン硬化系を有する場合、硬化剤はアミン化合物である。アミン化合物としては特に限定されず、たとえば、2−メチルペンタメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ヘキサンジアミン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、フェニレンジアミン、ピペラジン、2,6−ジアミノトルエン、ジエチルトルエンジアミン、N,N−ビス(2−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン等のジアミン基またはポリアミン基を有する化合物を挙げることができる。
【0078】
バインダー樹脂であるアセトアセトキシ基含有樹脂に含まれる硬化官能基量と硬化剤に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。当該モル比が1/0.05を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。また、当該モル比が1/10未満であると、未反応のアミン化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0079】
バインダー樹脂がウレタン/ウレア硬化系を有する場合、硬化剤はポリイソシアネート化合物である。ポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、たとえば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,5−若しくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)等の脂肪族若しくは脂環族ジイソシアネート化合物;ならびに、これらジイソシアネート化合物の二量体、三量体およびトリメチロールプロパン付加物等のポリイソシアネート化合物を挙げることができる。これらは反応性を制御するため、一部または全部が活性水素化合物でブロックされたものであってもよい。ブロック剤としては特に限定されず、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノール等の脂肪族アルコール;フェノール、ニトロフェノール、エチルフェノール等のフェノール類;メチルエチルケトオキシム等のオキシム類;ε−カプロラクタム等のラクタム類等を挙げることができる。
【0080】
バインダー樹脂である水酸基および/またはアミノ基含有樹脂に含まれる硬化官能基量とポリイソシアネート化合物に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。当該モル比が1/0.05を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比が1/10未満であると、未反応のポリイソシアネート化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0081】
バインダー樹脂がカルボジイミド/カルボキシル硬化系を有する場合、硬化剤はポリカルボジイミド化合物である。ポリカルボジイミド化合物としては、日清紡績社製のV−02等の市販されているものが使用できる。また、先に挙げたポリイソシアネート化合物をカルボジイミド化触媒として知られているホスホレンオキシドを用いてカルボジイミド化して、イソシアネート末端ポリカルボジイミドを得、これを用いて親水化させたものを使用することができる。
【0082】
バインダー樹脂であるカルボキシル基含有樹脂に含まれる硬化官能基量とポリカルボジイミド化合物に含まれる硬化剤官能基量とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。当該モル比が上記範囲外であると、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0083】
バインダー樹脂がマイケル付加硬化系を有する場合、硬化剤はα,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物である。α,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物としては特に限定されず、たとえば、1分子当たり2個以上のメタクリレート基および/またはアクリレート基を有するもの、たとえば、カルボニル基に関してα、β炭素間に二重結合があるメタクリレート基および/またはアクリレート基を2個以上有するもの等を挙げることができる。具体的には、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができ、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキシルジメタノールジ(メタ)アクリレート、4,4’−イソプロピリデンジシクロヘキサノールジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ〔5,2,1,0〕デカンジ(メタ)アクリレート、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)シアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等;アクリルポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステルポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリエーテルポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、エポキシポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリウレタンポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂およびシリコーンポリオールのポリ(メタ)アクリレート樹脂等を挙げることができる。
【0084】
活性メチレン基および/または活性メチン基を有する化合物に含まれる硬化官能基量とα,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物に含まれる不飽和結合とのモル比は、1/10〜1/0.05の範囲内であることが好ましい。当該モル比が1/0.05を超えると、硬化性が不充分となり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比が1/10未満であると、未反応のα,β−不飽和カルボニル基を複数有する化合物の量が多くなり、耐水性が低下するおそれがある。当該モル比は、1/0.6〜1/0.1の範囲内であることが耐水性の観点からより好ましい。
【0085】
硬化剤(B)の配合量は、水性防汚塗料組成物の固形分中、通常0.1〜50質量%程度であり、好ましくは0.5〜20質量%である。
【0086】
<第2の防汚剤>
本発明においては、水性防汚塗料組成物に、上記第1の防汚剤とは別に、第2の防汚剤を含有させることが好ましい。ここで、「第2の防汚剤」とは、バインダー樹脂粒子(A)に包接されていない防汚剤をいう。第2の防汚剤としては、上記第1の防汚剤について例示したものを同様に用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。また、第2の防汚剤は、第1の防汚剤と同一の化合物であってもよく、異なる化合物であってもよい。第2の防汚剤を添加することにより、さらに優れた防汚性、特には半没水時の喫水部における防汚性を得ることができる。
【0087】
第2の防汚剤と、上記バインダー樹脂粒子(A)の固形分との質量比(第2の防汚剤/バインダー樹脂粒子(A))は、5/95〜80/20であることが好ましく、25/75〜75/25であることがより好ましい。当該質量比が5/95未満の場合には、第2の防汚剤を添加したことによる防汚性改善効果が得られにくい傾向にある。また、当該質量比が80/20を超える場合には、硬化後の防汚塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。
【0088】
また、第1の防汚剤と第2の防汚剤との合計配合量は、水性防汚塗料組成物の固形分中、10〜80質量%であることが好ましい。10質量%未満では防汚効果を期待することができず、80質量%を越えると塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。第1の防汚剤と第2の防汚剤との合計配合量は、10〜60質量%であることがより好ましい。
【0089】
水性防汚塗料組成物中における第1の防汚剤の含有量と第2の防汚剤の含有量との質量比(第1の防汚剤の含有量/第2の防汚剤の含有量)は、特に限定されるものではないが、防汚性を十分に確保するためには、当該比は2/98〜40/60とすることが好ましく、3/97〜30/70とすることがより好ましく、上限値を40/60とすることがさらに好ましい。
【0090】
ここで、第2の防汚剤は、水溶性樹脂と当該第2の防汚剤とからなる防汚剤ペースト(C)として配合してもよい。このような防汚剤ペーストとすることにより、防汚剤が水中で経時的に放出され、安定に防汚効果を発揮することができる。すなわち、防汚剤ペーストは水溶性樹脂を含んでいるため、得られた塗膜を水中においたとき、水溶性樹脂が存在する部分が通り道となり、その結果、近傍に位置する防汚剤は、水中に溶出して防汚効果が発現される。
【0091】
上記水溶性樹脂としては特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等公知の水溶性樹脂を使用することができるが、酸価が10〜300mgKOH/g、数平均分子量が1000〜20000の範囲内であることが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満であると、水溶性が低下して安定性が損なわれることがある。一方、酸価が300mgKOH/gを超えると、樹脂の親水性が高くなりすぎて、塗膜の耐水性が低下することがある。酸価の上限は、100mgKOH/gであることがより好ましい。また、数平均分子量が1000未満の場合、分子量が低すぎて充分に防汚剤を分散させることができないおそれがある。また、数平均分子量が20000を超える場合は、水溶性が確保できなくなったり、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になるおそれがある。数平均分子量の下限は、5000であることがより好ましく、数平均分子量の上限は、15000であることがより好ましい。
【0092】
より具体的には、水溶性樹脂としては、種々のものが存在するが、顔料分散剤として市販されているものを用いることができる。具体的な商品名としては、ソルスパース20000、ソルスパース27000、ソルスパース41090(以上、アビシア社製)、ディスパービック180、ディスパービック181、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192(以上、ビックケミー社製)、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550(以上、EFKAケミカル社製)、フローレンG−700、フローレンTG−720、フローレン−730W、フローレン740W、フローレン−745W(以上、共栄社化学社製)、ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社製)等を挙げることができる。
【0093】
防汚剤ペースト(C)において、水溶性分散樹脂と防汚剤の混合比は、固形分で1/99〜50/50の範囲内であることが好ましい。混合比がこの範囲外であると、防汚剤ペーストの分散粘度が高くなりすぎたり、防汚剤の分散性が低下したりして安定性が不十分となるおそれがある。防汚剤ペースト(C)は、たとえば、水溶性樹脂と防汚剤とをサンドグラインダーミル等の顔料分散機を用いて混合する方法により得ることができる。防汚剤ペースト(C)は、水溶性樹脂および防汚剤のほかに、顔料、可塑剤等の慣用の添加剤を含有してもよい。顔料および可塑剤としては、たとえば後述するものを用いることができる。
【0094】
<その他の添加剤>
水性防汚塗料組成物は、上述の成分以外に、可塑剤、顔料等の慣用の添加剤を添加することができる。可塑剤としては、たとえば、ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレンジリン酸、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルスズラウリレート、ジブチルスズラウリレート等の有機スズ系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
上記顔料としては、たとえば、沈降性バリウム、タルク、クレー、白亜、シリカホワイト、アルミナホワイト、ベントナイト等の体質顔料;酸化チタン、酸化ジルコン、塩基性硫酸鉛、酸化スズ、カーボンブラック、黒鉛、ベンガラ、クロムイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドン等の着色顔料等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記のほか、その他の添加剤としては特に限定されず、たとえば、フタル酸モノブチル、コハク酸モノオクチル等の一塩基有機酸、樟脳等;水結合剤、タレ止め剤;色分かれ防止剤;沈降防止剤;消泡剤等を挙げることができる。
【0096】
可塑剤、顔料等の添加剤は、防汚剤ペースト(C)に配合されていてもよい。防汚剤ペースト(C)が顔料を含む場合は、顔料の配合率は、防汚剤ペースト(C)におけるPWCで70質量%以下であることが好ましい。
【0097】
水性防汚塗料組成物の調製方法は、特に限定されないが、たとえば、第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)のエマルション、ならびに必要に応じて添加される第2の防汚剤または防汚剤ペースト(C)、硬化剤(B)およびその他の添加剤を、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。また、第2の防汚剤を防汚剤ペーストとして使用する場合、第2の防汚剤と水溶性樹脂、さらに、顔料、可塑剤、その他の添加剤を予めサンドグラインダーミル等を用いて混合した後、これらを第1の防汚剤が包接されたバインダー樹脂粒子(A)のエマルションおよび必要に応じて添加される硬化剤(B)と混合することにより水性防汚塗料組成物を調製することができる。
【0098】
本発明の水性防汚塗料組成物は、不揮発分量が10〜90質量%であることが好ましい。不揮発分量が10質量%未満であると、厚膜化が困難となる場合がある。不揮発分量が90質量%を超えると、塗装時の粘度調整が困難となるおそれがある。また、本発明の水性防汚塗料組成物は、PWCが50〜90質量%であることが好ましい。PWCが50質量%未満であると、常温乾燥性が低下するおそれがある。一方、PWCが90質量%を超えると、造膜が困難になるおそれがある。
【0099】
本発明の水性防汚塗料組成物は、常法に従って被塗物の表面に塗布した後、常温下で、もしくは加熱乾燥により水を揮散除去することによって乾燥防汚塗膜を形成することができるものである。このようにして得られる防汚塗膜は、船舶、水中構造物等の被塗物への海洋生物の付着を効果的に抑制する。また、塗膜が硬化している場合には、耐水性に特に優れる。本発明の水性防汚塗料組成物を用いて形成された防汚塗膜も本発明の1つであり、当該防汚塗膜を有する船舶および水中構造物も本発明の一つである。また、本発明の水性防汚塗料組成物を用いて当該防汚塗膜を形成することによる被塗物の防汚方法もまた、本発明の一つである。水中構造物としては特に限定されず、たとえば、各種魚網、港湾施設、オイルフェンス、配管材料、橋梁、海底基地等を挙げることができる。
【0100】
防汚塗膜は、たとえば、浸漬法、スプレー法、ハケ塗り、ローラー、静電塗装等の従来公知の方法により水性防汚塗料組成物を船舶または水中構造物表面に塗布することによって形成することができる。塗布後、室温にて放置して乾燥させるか、または80℃程度の強制乾燥を数時間〜1日程度行なってもよい。防汚塗膜の乾燥膜厚は、30〜500μmの範囲内であることが好ましい。乾燥膜厚が当該範囲内であると、耐水性と防汚性とのバランスが良好であるため好ましい。
【0101】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「部」は特に断りのない限り、「質量部」を意味する。
【0102】
<防汚剤包接バインダー樹脂粒子の調製>
[製造例1]エマルション樹脂Iの調製
ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部、亜酸化銅(NCテック社製NC−301、以下同じ。)50部、およびラウロイルパーオキサイド4部からなるモノマー、防汚剤(第1の防汚剤)および重合開始剤の混合物を、イオン交換水100部とアクアロンHS−10(第一工業製薬社製アニオン系反応性乳化剤)6部とを混合して得られた溶液に加えた後、高速せん断乳化機を用いて乳化することにより、モノマー、防汚剤および重合開始剤の混合物であるプレエマルションを得た。次に、滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水120部およびアクアロンHS−10 2部仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。ついで、上記プレエマルションを滴下ロートを用いて、1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度にて、さらに2時間反応を継続した。冷却後、イオン交換水7部およびジメチルエタノールアミン1部からなる塩基性中和剤水溶液により中和した。このようにして得られた、亜酸化銅が包接されたバインダー樹脂粒子を含有するエマルション樹脂Iの固形分は41質量%であり、該バインダー樹脂粒子の平均粒径は、320nmであった。平均粒径は、電気泳動光散乱光度計 ELS−800(大塚電子社製)を用いて測定した。
【0103】
[製造例2]エマルション樹脂IIの調製
防汚剤として、亜酸化銅30部およびビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)銅塩((Cupt)、オーリン株式会社製、商品名「銅ピリチオン」、以下同じ)20部を使用したこと以外は、製造例1と同様にしてエマルション樹脂IIを得た。このようにして得られた、亜酸化銅および銅ピリチオン(Cupt)が包接されたバインダー樹脂粒子を含有するエマルション樹脂IIの固形分は40質量%であり、該バインダー樹脂粒子の平均粒径は、320nmであった。
【0104】
[製造例3]エマルション樹脂IIIの調製
反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を130部としたこと以外は、製造例2と同様にしてエマルション樹脂IIIを得た。エマルション樹脂IIIの固形分は37質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、320nmであった。
【0105】
[製造例4]エマルション樹脂IVの調製
ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部、ならびに、亜酸化銅20部、ジンクピリチオン(Zpt、アーチケミカル社製「ジンクオマジン」、以下同じ。)15部およびイルガロール1051(化学名:2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、日本チバガイギー社製の商品名、以下同じ。)からなるモノマーおよび防汚剤の混合物を、イオン交換水100部とアクアロンHS−10(第一工業製薬社製アニオン系反応性乳化剤)6部とを混合して得られた溶液に加えた後、高速せん断乳化機を用いて乳化することにより、モノマーおよび防汚剤の混合物であるプレエマルションを得た。また、過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水17部に溶解させ、重合開始剤水溶液を得た。次に、滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水70部およびアクアロンHS−10 2部仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。ついで、上記プレエマルションと重合開始剤水溶液とを別個の滴下ロートを用いて、1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、同温度にて、さらに2時間反応を継続した。冷却後、イオン交換水7部およびジメチルエタノールアミン1部からなる塩基性中和剤水溶液により中和した。このようにして得られた、亜酸化銅、ジンクピリチオンおよびイルガロール1051が包接されたバインダー樹脂粒子を含有するエマルション樹脂IVの固形分は44質量%であり、該バインダー樹脂粒子の平均粒径は、200nmであった。
【0106】
[製造例5]エマルション樹脂Vの調製
防汚剤として、亜酸化銅20部、銅ピリチオン(Cupt)15部および4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン(ロームアンドハース社製の「シーナイン211」、以下同じ。)15部を使用し、反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を70部としたこと以外は、製造例2と同様にしてエマルション樹脂Vを得た。エマルション樹脂Vの固形分は43質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、220nmであった。
【0107】
[製造例6]エマルション樹脂VIの調製
防汚剤として、亜酸化銅25部およびジンクピリチオン(Zpt)25部を使用し、反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を110部としたこと以外は、製造例4と同様にしてエマルション樹脂VIを得た。エマルション樹脂VIの固形分は41質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、290nmであった。
【0108】
[製造例7]エマルション樹脂VIIの調製
防汚剤として、亜酸化銅15部および銅ピリチオン(Cupt)10部を使用したこと以外は、製造例2と同様にしてエマルション樹脂VIIを得た。エマルション樹脂VIIの固形分は35質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、290nmであった。
【0109】
[製造例8]エマルション樹脂VIIIの調製
防汚剤として、亜酸化銅20部、銅ピリチオン(Cupt)15部および1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)メタンスルフェンアミド(ランクセス社製の「プリベントールA5S」、以下同じ。)15部を使用したこと以外は、製造例4と同様にしてエマルション樹脂VIIIを得た。エマルション樹脂VIIIの固形分は44質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、170nmであった。
【0110】
[製造例9]エマルション樹脂IXの調製
防汚剤として、銅ピリチオン(Cupt)50部を使用したこと以外は、製造例2と同様にしてエマルション樹脂IXを得た。エマルション樹脂IXの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、360nmであった。
【0111】
[製造例10]エマルション樹脂Xの調製
防汚剤として、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン(OPA、日東化成社製の「OPA−SX」、固形分32.6%、以下同じ。)を50部使用し、プレエマルションの調製に使用するイオン交換水の量、反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を、それぞれ80部としたこと以外は、製造例4と同様にしてエマルション樹脂Xを得た。エマルション樹脂Xの固形分は35質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、200nmであった。
【0112】
[製造例11]エマルション樹脂XIの調製
防汚剤として、OPA25部およびテトラエチルチウラムジスルフィド(TET、大内新興化学工業(株)製の「ノクセラーTET−G」、以下同じ。)25部使用したこと以外は、製造例10と同様にしてエマルション樹脂XIを得た。エマルション樹脂XIの固形分は36質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、170nmであった。
【0113】
[製造例12]エマルション樹脂XIIの調製
防汚剤として、OPAを25部使用したこと以外は、製造例11と同様にしてエマルション樹脂XIIを得た。エマルション樹脂XIIの固形分は36質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、230nmであった。
【0114】
[製造例13]エマルション樹脂XIIIの調製
防汚剤として、OPAを25部使用し、プレエマルションの調製に使用するイオン交換水の量、反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を、それぞれ75部、60部としたこと以外は、製造例4と同様にしてエマルション樹脂XIIIを得た。エマルション樹脂XIIIの固形分は39質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、230nmであった。
【0115】
[製造例14]エマルション樹脂XIVの調製
防汚剤として、OPAを25部使用し、プレエマルションの調製に使用するイオン交換水の量、反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を、それぞれ75部としたこと以外は、製造例2と同様にしてエマルション樹脂XIVを得た。エマルション樹脂XIVの固形分は39質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、600nmであった。
【0116】
[製造例15]エマルション樹脂XVの調製
ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部、OPA25部、およびラウロイルパーオキサイド4部からなるモノマー、防汚剤(第1の防汚剤)および重合開始剤の混合物を、イオン交換水75部とクラレポバールPVA−217EE(クラレ社製ポリビニルアルコール)6部とを混合して得られた溶液に加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、モノマー、防汚剤および重合開始剤の混合物であるプレエマルションを得た。次に、滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水75部およびPVA−217EE 2部仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。ついで、上記プレエマルションを滴下ロートを用いて、1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度にて、さらに2時間反応を継続した。冷却後、イオン交換水7部およびジメチルエタノールアミン1部からなる塩基性中和剤水溶液により中和した。このようにして得られた、OPAが包接されたバインダー樹脂粒子を含有するエマルション樹脂XVの固形分は40質量%であり、該バインダー樹脂粒子の平均粒径は、23μm(23000nm)であった。
【0117】
[製造例16]エマルション樹脂XVIの調製
モノマーとして、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)60部、アクリル酸エチル(EA)10部、アクリル酸n−ブチル(NBA)10部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部を用いたこと以外は、製造例13と同様にしてエマルション樹脂XVIを得た。エマルション樹脂XVIの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、200nmであった。
【0118】
[製造例17]エマルション樹脂XVIIの調製
モノマーとして、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)23部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)8部を用いたこと以外は、製造例13と同様にしてエマルション樹脂XVIIを得た。エマルション樹脂XVIIの固形分は39質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、180nmであった。
【0119】
[製造例18]エマルション樹脂XVIIIの調製
モノマーとして、ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)25部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部、エチレングリコールジメタクリレート(EGDM)5部を用いたこと以外は、製造例13と同様にしてエマルション樹脂XVIIIを得た。エマルション樹脂XVIIIの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、230nmであった。
【0120】
[製造例19]エマルション樹脂XIXの調製
モノマーとして、グリシジルメタクリレートの大豆油脂肪酸付加体(GMA−SBO)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部を用いたこと以外は、製造例13と同様にしてエマルション樹脂XIXを得た。エマルション樹脂XIXの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、200nmであった。
【0121】
[製造例20]エマルション樹脂XXの調製
モノマーとして、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製の「KBE−503」)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部を用いたこと以外は、製造例13と同様にしてエマルション樹脂XXを得た。エマルション樹脂XXの固形分は38質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、180nmであった。
【0122】
[製造例21]エマルション樹脂XXIの調製
防汚剤として、ジンクピリチオン(Zpt)50部を使用したこと以外は、製造例3と同様にしてエマルション樹脂XXIを得た。エマルション樹脂XXIの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、290nmであった。
【0123】
[製造例22]エマルション樹脂XXIIの調製
防汚剤として、トリフェニルボロンピリジン塩(北興化学工業(株)製の「PK」、以下同じ。)50部を使用したこと以外は、製造例3と同様にしてエマルション樹脂XXIIを得た。エマルション樹脂XXIIの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、290nmであった。
【0124】
[製造例23]エマルション樹脂XXIIIの調製
防汚剤として、ジンクピリチオン(Zpt)10部、亜鉛華(堺化学工業(株)製の「酸化亜鉛2種」、以下同じ。)15部、PK 15部、プリベントールA5S 10部を使用したこと以外は、製造例3と同様にしてエマルション樹脂XXIIIを得た。エマルション樹脂XXIIIの固形分は40質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、290nmであった。
【0125】
[製造例24]エマルション樹脂XXIVの調製
反応容器にあらかじめ仕込むイオン交換水の量を130部としたこと以外は、製造例2と同様にしてエマルション樹脂XXIVを得た。エマルション樹脂XXIVの固形分は37質量%であり、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、320nmであった。
【0126】
[製造例25〜29]エマルション樹脂XXV〜XXIXの調製
防汚剤として、表1に示した防汚剤の配合となるように配合したこと以外は、製造例3と同様にしてエマルション樹脂XXV〜XXIXを得た。エマルション樹脂XXV〜XXIXの固形分および、バインダー樹脂粒子の平均粒径は、それぞれ表1に示したとおりであった。なお、製造例29で用いたビスダイセンとは、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(ロームアンドハース社製の「TOC−3204F」)のことである(以下同じ。)。
【0127】
[参考製造例1]エマルション樹脂XXXの調製
ダイアセトンアクリルアミド(DAAM)10部、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸エチル(EA)20部、アクリル酸n−ブチル(NBA)30部、スチレン(ST)9部、メタクリル酸(MAA)1部からなるモノマー混合物を、イオン交換水60部とアクアロンHS−10(第一工業製薬社製アニオン系反応性乳化剤)6部とを混合して得られた溶液に加えた後、攪拌機を用いて乳化することにより、モノマー混合物であるプレエマルションを得た。また、過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水17部に溶解させ、重合開始剤水溶液を得た。次に、滴下ロート、温度計、窒素導入管、還流冷却器および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水70部およびアクアロンHS−10 2部仕込み、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。ついで、上記プレエマルションと重合開始剤水溶液とを別個の滴下ロートを用いて、3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、同温度にて、さらに2時間反応を継続した。冷却後、イオン交換水7部およびジメチルエタノールアミン1部からなる塩基性中和剤水溶液により中和した。このようにして得られた、バインダー樹脂粒子を含有するエマルション樹脂XXXの固形分は40質量%であり、該バインダー樹脂粒子の平均粒径は、90nmであった。
【0128】
上記各製造例で使用した原料組成および得られたエマルション樹脂の固形分およびバインダー樹脂粒子の平均粒径を表1にまとめた。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
また、上記製造例1、製造例21のエマルション樹脂Iおよびエマルション樹脂XXIについて、以下の方法により、防汚剤がバインダー樹脂粒子に包接されていることを確認した。
【0132】
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
亜酸化銅を内包する製造例1のエマルション樹脂Iを透過型電子顕微鏡(JEOL社製「JEM−2000FXII」のグリッドに乗せ、該グリッドをサンプルホルダーにセットし、真空乾燥機にて24時間減圧乾燥し、水分を完全に除去した。透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行なったところ、バインダー樹脂粒子内に暗色の領域が認められ、該粒子内に亜酸化銅が存在することが確認された。ジンクピリチオンを内包するエマルション樹脂XXIについても同様であった。
【0133】
一方、エマルション樹脂XXXについて、同様の透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行なったところ、バインダー樹脂粒子内に暗色の領域は確認されなかった。また、エマルション樹脂IおよびXXXを混合(固形分比で50wt%/50wt%)したバインダー樹脂粒子について、同様の透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行なったところ、バインダー樹脂粒子内の濃さが異なる2種類の粒子が観察された。
【0134】
(2)電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)測定
亜酸化銅を内包する製造例1のエマルション樹脂Iについて、電界放出型走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製「日立超高分解能電界放出型走査電子顕微鏡S−4800」)により元素分析を行なったところ、バインダー樹脂粒子内に銅(Cu)元素が検出された。
【0135】
また、エマルション樹脂IおよびXXXを混合(固形分比で50wt%/50wt%)したバインダー樹脂粒子について、同様の電界放出型走査電子顕微鏡測定を行なったところ、バインダー樹脂粒子内に銅元素が検出されるものと、検出されないものとが存在することが確認できた。
【0136】
(3)固体NMR測定
上記水分を除去したエマルション樹脂XXIについて、固体13C−NMR測定を行なったところ、ジンクピリチオンに特徴的なピークである、117ppm、137ppm、160ppmにピークを確認した。一方、エマルション樹脂XXXについて、同様の固体NMR測定を行なったところ、防汚剤に特徴的なピークは確認されなかった。
【0137】
<防汚剤ペーストの調製>
[製造例30]
イオン交換水100部に対し、防汚剤(第2の防汚剤)としての亜酸化銅300部、ならびにベンガラ25部、タルク25部を加え、さらに、顔料分散剤としてBYK−190(ビックケミー社製、固形分40質量%)100部および消泡剤としてBYK−019(ピックケミー社製)2.9部を加え、サンドグラインダーミルで分散することにより、固形分68質量%、粒度20μmの防汚剤ペーストP1を得た。
【0138】
[製造例31〜50]
防汚剤、顔料、顔料分散剤および消抱剤の配合量を表2に示される量としたこと以外は、製造例30と同様にして防汚剤ペーストP2〜P21を得た。
【0139】
【表3】

【0140】
【表4】

【0141】
<実施例1>
製造例1のエマルション樹脂I 364.96部、ハードナーSC(旭化成社製セミカルバジド硬化剤、固形分50質量%)10.5部、製造例30の防汚剤ペーストP1 552.48部、およびPUR−2150(アクゾ・ノーベル社製ウレタン会合型増粘剤、固形分35質量%)7.9部を、ディスパーで分散することにより、水性防汚塗料組成物を得た。
【0142】
<実施例2〜33、比較例1および2>
表3に示す配合としたこと以外は、実施例1と同様にして水性防汚塗料組成物を得た。なお、表3における防汚剤合計とは、第1の防汚剤および第2の防汚剤の合計量(質量部)である。
【0143】
【表5】

【0144】
【表6】

【0145】
【表7】

【0146】
(防汚性の評価)
上記実施例および比較例の水性防汚塗料組成物を、サンドペーパー(粒度240)で目荒らししたFRP板(100×300×3mm、ゲルコート処理あり)に、乾燥塗膜が400μmとなるように刷毛で塗装を行なった。塗装後、温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中に1日放置することにより、試験塗板を得た。
【0147】
得られた各試験塗板を、岡山県玉野市の日本ペイントマリン株式会社臨海研究所において海中筏から水深1mに垂下浸漬し(全没水)、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月後の塗膜の表面状態を目視にて観察した。結果を表3に示す。また、別の各試験塗板を、海中筏から、試験塗板のおよそ半分が海水に浸漬するように設置し(半没水)、同様に1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月後の塗膜の喫水部の表面状態を目視にて観察した。結果を表3に示す。
【0148】
防汚性の評価基準は以下のとおりである。
A:付着生物なし。
B:除去容易なスライムのみ塗膜上(あるいは塗膜の喫水部)に付着。
C:試験塗板面積(あるいは喫水部面積)の10%未満に動植物付着。
D:試験塗板面積(あるいは喫水部面積)の10%以上50%未満に動植物付着。
E:試験塗板面積(あるいは喫水部面積)の50%以上に動植物付着。
【0149】
表3A〜3Dに示される防汚性評価結果からわかるように、本発明によれば、半没水時における喫水部への海洋生物の付着が効果的に抑制される。また、本発明によれば、水性防汚塗料組成物中の防汚剤合計量を低減させた場合であっても、従来と比較して防汚性の向上が可能である。
【0150】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の水性防汚塗料組成物は、防汚剤を包接したバインダー樹脂粒子を含有するため、防汚効果の良好な、特には喫水部における防汚効果の良好な塗膜を形成することができる。本発明の水性防汚塗料組成物は、幅広く、船舶や水中構造物に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の防汚剤とバインダー樹脂粒子(A)とを含有する水性防汚塗料組成物であって、
前記第1の防汚剤は、前記バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていることを特徴とする水性防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記バインダー樹脂粒子(A)が硬化性を有するものである請求項1に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項3】
硬化剤(B)をさらに有する請求項2に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていない第2の防汚剤をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記バインダー樹脂粒子(A)内に包接されていない第2の防汚剤と水溶性樹脂とを含む防汚剤ペースト(C)をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記第1の防汚剤と前記バインダー樹脂粒子(A)の固形分との質量比は、2/98〜70/30である請求項1〜5のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項7】
前記第1の防汚剤の含有量と前記第2の防汚剤の含有量との質量比は、3/97〜40/60である請求項4〜6のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項8】
前記第1の防汚剤および前記第2の防汚剤は、それぞれ独立して、酸化亜鉛、亜酸化銅、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩、2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩、トリフェニルボロンピリジン塩、テトラエチルチウラムジスルフィド、ステアリルアミン−トリフェニルボロン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロンおよびビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートからなる群から選択される1種または2種以上の防汚剤である請求項1〜7のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項9】
前記バインダー樹脂粒子(A)は、前記硬化剤(B)が有する少なくとも1つの官能基または部位と反応し得る官能基を有する樹脂からなる請求項3〜8のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項10】
前記硬化剤(B)が有する少なくとも1つの官能基または部位と反応し得る官能基は、カルボニル基、アセトアセトキシ基およびアルコキシシリル基からなる群から選択される1種または2種以上の官能基である請求項9に記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項11】
前記第1の防汚剤を包接するバインダー樹脂粒子(A)は、1種または2種以上の単量体を、前記第1の防汚剤および重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合させることに得られる請求項1〜10のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物を用いてなる防汚塗膜。
【請求項13】
請求項12に記載の防汚塗膜を有する船舶または水中構造物。
【請求項14】
被塗物の表面に、請求項1〜11のいずれかに記載の水性防汚塗料組成物を用いて防汚塗膜を形成する被塗物の防汚方法。

【公開番号】特開2010−77238(P2010−77238A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245644(P2008−245644)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(597091890)日本ペイントマリン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】