説明

水性顔料分散体および水性顔料記録液

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、サーマル方式のインクジェットプリンターにおいて、吐出安定性と印字物の耐擦過性、耐滲み性に優れるインクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製するための水性顔料分散体、該水性顔料分散体を含有してなる水性顔料記録液を提供する。
【解決手段】 少なくとも顔料、水性媒体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、非イオン性界面活性剤からなるインクジェット用水性顔料分散組成物において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価が100〜150KOHmg/gの範囲にあり、かつ非イオン性界面活性剤のHLBが12.1〜13.6の範囲にあることを特徴とするインクジェットプリンター用水性顔料分散体及び該水性顔料分散体から調製した水性顔料記録液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散体および水性顔料記録液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンター用水性記録液には、色材として染料が用いられてきた。染料を用いた水性記録液は着色力や鮮明性に優れているが、耐光性や耐水性等に問題を有していた。
【0003】
近年、前記した耐光性や耐水性の問題を解決するため、インクジェットプリンター用水性記録液の分野において、そこに含まれる色材を染料から顔料に転換することが活発に検討されている。顔料をインクジェットプリンター用水性記録液の色材として使用するためには、長期間にわたり顔料粒子が数mPa・sという低粘度条件下で沈降せずに、分散を保つ必要がある。
特に、インクジェットプリンターの吐出方式として、ヒーターを有し、ヒーターの急速な加熱による発泡の圧力を利用するサーマル方式(バブルジェット(登録商標)方式)と呼ばれるタイプでは、顔料の分散している分散体に対し、室温と300℃以上の温度変化と、発泡部分では気−液の相変化が繰り返されている。この条件下で分散を安定に保つことは非常に難しい問題であった。このことは、結果としてヒーター部分でのコゲーションという現象に繋がり、更にはインクジェットプリンターヘッドからの液滴が吐出しない不吐出という現象にも繋がる。
一方で、打ち出された印字物には、滲みが少ないこと、発色濃度が高いこと、あるいは耐擦過性に優れること等、種々の特性が要求される。滲みについては画線部が太くなることで文字品位等を劣化させる。また耐擦過性については印字物が擦れた時のよごれに対する耐性であり、印刷物としては重要な特性の1つである。
【0004】
特許文献1には、少なくとも水、水溶性有機溶剤、分散染料および界面活性剤を含有する水系分散インクにおいて、界面活性剤が燐酸およびカルボン酸から選ばれたアニオン性解離基をエチレンオキサイド末端に有し、かつHLBが10以上のポリオキシエチレンアルキルエーテルあるいはポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであるインクジェットプリンター用水性記録液が記載されている。
【0005】
しかしながら、引用文献1においては、界面活性剤が燐酸およびカルボン酸から選ばれたアニオン性解離基を有し、且つHLBが10以上のノニオン性(非イオン性)とアニオン性を合わせ持った界面活性剤であること、またバインダー樹脂の酸価が100から450と広範囲であることから、これらを組み合わせたところで本願発明の技術的構成とは明らかに相違し、この構成要件から本願発明を容易に類推することも出来ない。さらに、その技術的効果についても水性顔料記録液の吐出安定性は優れるものの、印字物の耐擦過性と耐滲み性が劣るという欠点を有していた。
【0006】
また、特許文献2には、オフセット媒体上にインクジェット印刷するのに適した水性インク組成物であり、インク着色剤およびHLBが約4から14の非イオン性界面活性剤を
含有する水性インク組成物が記載されている。
【0007】
しかしながら、引用文献2においては、非イオン性界面活性剤がHLB約4から14と広範囲であること、またバインダー樹脂の酸価に関する記載や示唆がないことから、前記界面活性剤単独で本願発明の技術的効果が発現しないばかりか、本願発明の技術的構成ならびにその効果を容易に類推することも出来ない。さらに引用文献中に記載されたバインダー樹脂の登録商標から本願発明の特定酸価と予想させるとしても、これらを組み合わせたところで、その技術的効果は、水性顔料記録液の吐出安定性と印字物の耐擦過性、耐滲み性の3つを同時に満足することはできない。
【0008】
【特許文献1】特開平8−209048号公報(第1―2頁特許請求の範囲、第5頁段落番号0022、第9頁段落番号0030−第10頁段落番号0031、第10頁段落番号0038)。
【特許文献2】特表2004−510028号公報(第2−3頁特許請求の範囲、第6頁段落番号0017−0019、第6頁段落番号0020、第7頁段落番号0022)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、サーマル方式のインクジェットプリンターにおいて、吐出安定性と印字物の耐擦過性、耐滲み性に優れるインクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製するための水性顔料分散体、該水性顔料分散体を含有してなる水性顔料記録液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、前記実状に鑑みて鋭意検討した結果、インクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製するための水性顔料分散体において、非イオン性界面活性剤の特定HLBとバインダー樹脂として(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の特定酸価とを組み合わせることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、少なくとも顔料、水性媒体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、非イオン性界面活性剤からなるインクジェット用水性顔料分散組成物において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の酸価が100〜150KOHmg/gの範囲にあり、かつ非イオン性界面活性剤のHLBが12.1〜13.6の範囲にあることを特徴とするインクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製するための水性顔料分散体および該水性顔料分散体から調製された水性顔料記録液を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性顔料分散体は、少なくとも顔料、水性媒体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、非イオン性界面活性剤とからなるインクジェットプリンター用水性顔料分散組成物において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の特定酸価と非イオン性界面活性剤の特定HLBとを組み合わせて使用することにより、この様な水性顔料分散体から調製した水性顔料記録液は、サーマル方式のインクジェットプリンターにおいて、吐出安定性と印字物の耐擦過性、耐滲み性により優れるという格別顕著な効果を奏する。
したがって、本発明の水性顔料分散体、該水性顔料分散体から調製された水性顔料記録液は、インクジェットプリンター用途に最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0014】
本発明の水性顔料分散体は、少なくとも顔料、水性媒体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、非イオン性界面活性剤からなるインクジェットプリンター用水性顔料分散組成物において、(メタ)アクリル酸系共重合物の酸価が100〜150KOHmg/gの範囲にあり、かつ非イオン性界面活性剤のHLBが12.1〜13.6の範囲にあることを最大の特徴とする。
【0015】
本発明の水性顔料分散体で使用する顔料としては、特に限定されるものではないが、従来公知の有機顔料あるいは無機顔料を使用することができる。これらは単独で使用してもよいし、また併用で使用してもよい。該顔料としては、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、フタロン系顔料、イソインドリノン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料等の有機顔料、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、アルミナ白、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトボン、カドミウムイエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデートオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺青、マンガンバイオレット、カーボンブラック、アルミニウム粉、パール系顔料等の無機顔料が挙げられる。
【0016】
本発明の水性顔料分散体において、前記顔料の含有量は、質量換算で10〜25%の範囲にあることが好ましい。
【0017】
本発明の水性顔料分散体で使用する水性媒体としては、水のみ又は水と水溶性有機溶剤との混合物であり、質量換算で60%以上の水を含有するものである。
【0018】
水としては、特に限定されるものではないが、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水等の精製水等が挙げられる。
【0019】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、チオジエタノール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール等の多価アルコール類及びそのエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類等が挙げられ、なかでもアルコール類、多価アルコール類が好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
本発明の水性顔料分散体で使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びそれらと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより得ることができる。該共重合物はランダム、ブロック、グラフト等のいずれの構造を有していてもよい。
【0021】
(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられ、なかでも電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御出来ること、入手のしやすさ、価格等を考慮して(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレンエーテルグルコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンエーテルのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0023】
共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エーテル類;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3−クロロプロピレン等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン等のビニル置換複素環化合物類;前記した単量体中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基等の活性水素を含有する置換基を含有する単量体とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等エポキシド類との反応生成物;前記した単量体中の水酸基、アミノ基等を含有する置換基を含有する単量体と酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等のカルボン酸類との反応生成物等を挙げることが出来る。
【0024】
本発明の水性顔料分散体においては、水性媒体中に(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を安定的に分散させるために、その構造中にアニオン性基(例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、チオカルボキシル基等)を含ませることが好ましい。原料モノマーの入手しやすさ、価格等を考慮すると、カルボキシル基又はスルホン酸基を含有する共重合物が好ましく、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できる点でカルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物がより好ましく、アニオン性基がカルボキシル基およびカルボキシル基の塩の両方を含有する(カルボキシル基の少なくとも一部を塩基性物質によってイオン化された形態とする)(メタ)アクリル酸エステル系共重合物がさらに好ましい(カルボキシル基の少なくとも一部を塩基性物質によってイオン化された形態とする)。
【0025】
本発明の水性顔料分散体で使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、前記した(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、モノエチレン性不飽和単量体の他に、スチレン系単量体も含めることができる。ここでスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン等が挙げられ、なかでも本願発明の技術的効果への寄与が高い点、さらに安価且つ容易に入手できる点を考慮してスチレンが好ましい。即ち、上記した(メタ)アクリル酸エステル共重合物は、スチレン系単量体を有するスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体であることが好ましい。
【0026】
本発明の水性顔料分散体で使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価は、100〜150KOHmg/gの範囲にあることが好ましく、なかでも110〜150KOHmg/gの範囲にあることが、インクジェットプリンターの吐出方式において特にサーマル方式での水性顔料記録液の吐出安定性と、被記録媒体として普通紙を対象とした場合に、印字物の耐滲み性と耐擦過性に優れる点でより好ましい。ここで酸価とは、前記した共重合物1gを中和するために必要な水酸化カリウムのmg数を意味するものである。
【0027】
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価が150KOHmg/g以上であると、被記録媒体として普通紙を対象とした場合に、印字物の耐滲み性が劣る傾向にあり、またその酸価が100KOHmg/g以下であると、インクジェットプリンターのサーマル方式における水性顔料記録液の吐出安定性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0028】
本発明の水性顔料分散体で使用する(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の重量平均分子量は、ヒーター部分でのコゲーションを抑え、吐出安定性に優れた水性顔料記録液(水性顔料分散体の粘度が低く、その分散安定性も良好で、インクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製した場合に長期間安定した印字を行わせることが容易となる)を得るために、スチレン換算で重量平均分子量(Mw)が6,000〜12,000の範囲にあることが好ましく、7,000〜9,000の範囲にあることがより好ましい。重量平均分子量が6,000以下であると水性顔料分散体自体の分散安定性が低下し、逆にそれが12,000以上であると水性顔料分散体の粘度が高くなるだけでなく、分散性が低下する傾向が認められる。さらにヒーター部分に対するコゲーションがひどくなり、サーマル方式インクジェットプリンターのノズル先端からインク液滴の不吐出を引き起こす原因となるので好ましくない。
【0029】
このため重量平均分子量のコントロールは、重合開始剤の添加量、反応濃度等で実施することも可能であるが、経済性を考慮して連鎖移動触媒の併用が効果的である。また、同じ単量体組成で同レベルの分子量であれば、連鎖移動触媒を使用した方が耐コゲーションにより優れる点で好ましい。
【0030】
連鎖移動触媒としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、チオグリセロール、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等のチオール類、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(α−スチレンダイマー)等が挙げられる。またその添加量としては、質量換算で1〜10%程度の範囲にあることが好ましく、なかでも1〜5%程度の範囲にあることがより好ましい。
【0031】
本発明の(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、前記した様に(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びそれらと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体とを共重合せしめた共重合物であるが、本発明の水性顔料分散体の調製に当たっては、そのカルボキシル基の少なくとも一部を後記する塩基性物質によってイオン化された形態とすることで、共重合物の水性媒体中への分散性や分散粒子の分散安定性を発現させるものである。イオン化されたカルボキシル基の最適割合は、通常30〜100%の範囲にあることが好ましく、なかでも70〜100%の範囲にあることがより好ましい。このイオン化されたカルボキシル基の含有割合は、カルボキシル基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。カルボキシル基は、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の含有割合は100%以下であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0032】
この様に、共重合物のカルボキシル基の少なくとも一部をイオン化するために用いられる塩基性物質としては、公知慣用のものがいずれも使用出来る。この様な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン等の有機アミン、アルカリ金属水酸化物からなる群から選ばれる化合物が挙げられる。尚、本発明において、塩基性含窒素複素環化合物は、第三級アミンとする。
【0033】
塩基性物質で共重合物のカルボキシル基の少なくとも一部をイオン化することにより、カルボキシラート基の対イオンは、アンモニウムイオン又はアルカリ金属イオンからなる群から選ばれるカチオンとなる。尚、本発明において塩基性化合物として塩基性含窒素複素環化合物を用いた場合には、前記複素環化合物は、塩基性含窒素複素環化合物のプロトン化カチオンとなる。
【0034】
塩基性物質として、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの様なアルカリ金属水酸化物を用いた場合には、アンモニアや前記有機アミンを用いた場合に比べて、水性顔料分散体中の分散粒子の分散安定性が良好となる点で好ましい。
【0035】
アンモニアや前記有機アミンを用いた場合は、低温においてそれらが揮発性に優れるため、水性顔料分散体の被記録媒体上における着色画像の乾燥性や、インクジェットプリンター用水性顔料記録液の調製直後の吐出安定性に優れる。
【0036】
しかしながら、一方でアンモニアや前記有機アミンは、長時間放置及び/又は高温雰囲気下で揮散するため、インクジェットプリンター用水性顔料分散体及び水性顔料記録液中の分散粒子の分散安定性が徐々に損なわれていき、分散粒子の沈降が観察される場合がある。この様なインクジェットプリンター用水性顔料分散体からそのまま水性顔料記録液を調製した場合、インク中の沈降した粒子がインクジェットプリンターのノズル先端からインク液滴の不吐出を引き起こす原因となるので好ましくない。
【0037】
本発明の水性顔料分散体においては、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との割合は特に制限されるものではないが、質量換算で顔料100部に対して、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物が10〜100部の範囲にあることが好ましく、なかでも20〜60部の範囲にあることがより好ましい。
【0038】
本発明の水性顔料分散体においては、前記した(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の特定酸価と、後記する非イオン性界面活性剤の特定HLBとを組み合わせて使用することにより、サーマル方式のインクジェットプリンターにおいて該水性顔料分散体を使用した水性顔料記録液の吐出安定性を飛躍的に向上させることができ、且つ印字物の耐擦過性と耐滲み性により優れたものを得ることができる。
【0039】
本発明の水性顔料分散体で使用する界面活性剤としては、燐酸およびカルボン酸から選ばれたアニオン性解離基をエチレンオキシド末端に有さない、HLBが12.1〜13.6の範囲にある非イオン性界面活性剤を使用することが好ましい。
【0040】
本発明の非イオン性界面活性剤は、HLBすなわち、疎水性と親水性のバランスの指標値が12.1〜13.6の範囲であることが必要である。HLBが前記した好適範囲を逸脱すると、これを前記した(メタ)アクリル酸エステル系共重合物とを組み合わせた場合に十分な耐擦過性を得ることができず好ましくない。また、非イオン性界面活性剤と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との組み合わせにおいて、系全体の親水性のバランスをとることが水性顔料記録液の吐出安定性には重要である。
【0041】
この様な非イオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル エマルゲン(登録商標)108(HLB12.1)、109P(HLB13.6)、ポリオキシエチレンオレイルエーテル エマルゲン(登録商標)420(HLB13.6)、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル エマルゲン(登録商標)707(HLB12.1)、709(HLB13.3)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル エマルゲン(登録商標)810(HLB13.1)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル エマルゲン(登録商標)909(HLB12.4)、910(HLB12.2)、PI−20T(HLB13.2)のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル(以上は花王株式会社の製品)等が挙げられる。これら非イオン性界面活性剤のうち、炭素数が8〜18のアルキル基を有するポリオキシエチレンモノアルキルエーテルを使用することが好ましく、なかでも、炭素数が12のポリオキシエチレンモノラウリルエーテルを使用することがサーマル方式のインクジェットプリンターにおける水性顔料記録液の吐出安定性により優れる点で好ましい。
【0042】
その他の非イオン性界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、TRITON(登録商標)、IGEPAL(登録商標)、SILWET(登録商標)、SURFYNOL(登録商標)、TERGITOL(登録商標)、BRIJ(登録商標)、PLURONIC(登録商標)、FLUORAD(登録商標)、ZONYL(登録商標)という商品名のものを使用することができる。
【0043】
本発明の水性顔料分散体において、非イオン性界面活性剤の含有量は顔料のそれに対して、質量換算で7.5〜25%の範囲にあることが好ましい。顔料に対する非イオン性界面活性剤の含有量が7.5%以下であると、サーマル方式のインクジェットプリンターにおける水性顔料記録液の吐出安定性が低下し、25%以上であると印字物の耐滲み性が低下するので好ましくない。
【0044】
非イオン性界面活性剤は、後記する水性顔料分散体の製造方法において、いずれの製造工程で添加してもよいが、なかでも分散工程、再分散工程あるいは遠心分離工程のいずれかの工程で添加することが好ましい。
【0045】
本発明の水性顔料分散体における、そこに含まれる分散粒子は、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との組み合わせにおいて、各々独立した粒子の混合物であっても良いが、顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子であることが分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性等の物性面や印字物の耐擦過性等の使用適性面でより優れた効果を存分に発揮させることができる点で好ましい。
【0046】
本発明の水性顔料分散体は、例えば、以下の様な方法で製造することができる。
(1)(メタ)アクリル酸エステル系共重合物と塩基性物質を含む水性エマルジョンに顔料を機械的に強制分散させて製造する方法。
(2)顔料存在下の水中で分散剤を用いて前記した各単量体を重合させ、必要に応じて会合させて製造する方法。
(3)顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物と有機溶剤との混合物を、水と塩基性物質を用いて徐々に油相から水相に転相させ、脱溶剤を行い(顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子として含まれる)製造する方法。
(4)顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物と塩基性物質と有機溶剤と水との均一混合物から脱溶剤を行い、酸性物質を加えて酸析して析出物を洗浄後、この析出物を塩基性物質と共に水性媒体に分散させて(顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子として含まれる)製造する方法。
【0047】
本発明の水性顔料分散体において、分散粒子は、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との相互作用が強く働いているものの方が分散安定性等の物性面で好ましく、前記した(3)及び(4)の製造方法により得られる水性顔料分散体は、前記した(1)及び(2)の製造方法により得られる水性顔料分散体に比べ、分散粒子の分散安定性が高いだけでなく、それ自体の粘度もより低くなるので好ましい。
インクジェットプリンターの吐出方式においては、ノズルの先端からインクの液滴を飛ばすためにそれが低粘度であることが望まれており、それを調製するための水性顔料分散体自体の粘度も低いことが好まれる。
【0048】
本発明の水性顔料分散体においては、上記したいずれの製造方法をとるにせよ、顔料、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、塩基性物質および水性媒体からなる混合物を分散する工程を必須工程として含ませることが好ましい。具体的には、少なくとも顔料、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、塩基性物質、水溶性有機溶剤および水からなる混合物を分散する分散工程を含ませることが好ましい。水に分散助剤としての水溶性有機溶剤を併用することで前記分散工程における液粘度を低下させることができる場合がある。
【0049】
この様な水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類が挙げられ、なかでも炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールなる群から選ばれる化合物を使用するのが好ましい。これら水溶性有機溶剤は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物溶液として用いられても良く、別途独立に分散工程中において分散混合物中に含有させても良い。
【0050】
この様な分散工程において使用することのできる分散装置としては、特に限定されるものではないが、既に公知の種々方式による装置が使用できる。この様な分散装置としては、例えば、スチール、ステンレス、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、ガラス等でできた直径0.1〜10mm程度の球状分散媒体の運動エネルギーを利用する方式、機械的攪拌による剪断力を利用する方式、高速で供給された被分散物流束の圧力変化、流路変化あるいは衝突に伴って発生する力を利用する方式等の分散方式を採ることができる。
【0051】
こうした分散工程を実施することで、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を含有する液媒体中に顔料が分散した状態が形成される。また、こうした分散工程において塩基性物質をより多く使用することで、液媒体中に含有する該共重合物を分散状態から溶解状態にすることもできる。
【0052】
分散工程に引き続き、必要に応じて蒸留工程を実施することができる。この様な蒸留工程としては、例えば、分散工程で有機溶剤を使用した場合、これを除去する工程、あるいは所望の固形分濃度に調整するため余剰の水を除去する工程等が挙げられる。
【0053】
本発明の水性顔料分散体において、分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性等の物性面や印字物の耐擦過性等の使用適性面でより優れた効果を存分に発揮させるには、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系重合物との相互作用が強く働いて分散している状態、即ち、顔料が(メタ)アクリル酸エステル系重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子という形態で水性媒体中に分散していることが好ましい。
【0054】
この様な状態を形成するため、顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を含有する液媒体中に分散している状態において、前記分散工程の後工程として、溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で顔料の表面を被覆する酸析工程を組み込むことが好ましい。
【0055】
酸析工程としては、顔料と塩基性物質の水溶液に溶解している(メタ)アクリル酸エステル系共重合物とを含有する液媒体に酸性物質を加えて酸性化することにより、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物中のアニオン性基を中和される前の官能基に戻して、該重合物を析出させることである。
【0056】
この様な酸析工程としては、前記した分散工程と必要に応じて実施される蒸留工程を経て得られた水性分散体に塩酸、硫酸、酢酸等の酸を加えて酸性化し、塩基と塩を形成することによって溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を顔料粒子表面に析出させる工程である。この工程を実施することにより、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との相互作用をより高めることができる。その結果、前記した様なマイクロカプセル型複合粒子が水性分媒中に分散している形態を取らせることができ、水性顔料分散体として、分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性等の物性面や耐溶剤性等の使用適性面で、より優れた効果を存分に発揮させることができる。
【0057】
こうして相互作用を高めて得られた析出物を濾別する濾過工程を実施し、より好ましくはその析出物を前記濾過工程終了後、洗浄する洗浄工程を実施して、再度塩基性物質と共に水性媒体中に分散させる再分散工程を実施することで、分散安定性により優れた水性顔料分散体を得ることができる。
【0058】
濾過工程としては、前記酸析工程後の析出物を、例えば、フィルタープレス、ヌッチェ式濾過装置、加圧濾過装置等により濾過する工程である。尚、この析出物は顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物とからなる固形分を意味するものである。
【0059】
洗浄工程としては、前記濾過工程で濾別された析出物を洗浄する工程であり、この工程を実施することにより、最終的に得られる水性顔料分散体に含有する無機塩類の低減又は除去が可能になる。水性顔料分散体の調製に使用する有機顔料(市販のもの)は、前記した無機塩類を多量に含有している場合があり、この様な有機顔料を含む水性顔料分散体から調製されるインクジェットプリンター用水性顔料記録液は、それによるプリンターノズルの目詰まり等による吐出不良が起こり易い。しかしながら、洗浄工程を経た水性顔料分散体から調製されたインクジェットプリンター用水性顔料記録液において、この問題は解消される。
【0060】
前記した(4)の方法に従って水性顔料分散体を製造する場合には、例えば、ここで使用した市販の有機顔料に含有する無機塩類とその他の要因で混入してきた無機塩類とをこの洗浄工程で一括して低減又は除去することができる。よって、(4)の水性顔料分散体の製造方法は、その他の製造方法(1)から(3)において前記同様の問題が発生した際に必要となる、有機顔料自体の事前洗浄工程を独立して行う必要がなく、単位操作がより簡便に済むという長所がある。
【0061】
再分散工程としては、前記酸析工程、濾過工程を経て得られた固形分に塩基性物質および必要に応じて水や添加物を加えて、再び水性顔料分散体とする工程である。この工程では、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物中のイオン化したカルボキシル基の対イオンを分散工程で用いた塩基性物質とは別の塩基性物質に変更することができる。
【0062】
再分散工程に引き続き、遠心分離工程を実施することが好ましい。再分散工程後の水性顔料分散体には粗大なマイクロカプセル型複合粒子が含まれている場合があり、この様な水性顔料分散体から調製されたインクジェットプリンター用水性顔料記録液は、プリンターノズルの目詰まり等による吐出不良を起こし易い。しかしながら、該遠心分離工程を実施することにより、粗大なマイクロカプセル型複合粒子は除去され、この問題は解消する。
【0063】
前記した(4)の水性顔料分散体の製造方法の如く、酸析工程と再分散工程と遠心分離工程とを必須の工程として、好ましくは濾過工程と洗浄工程をも含む製造方法で水性顔料分散体を製造すると、その分散粒子が、顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子となり、水性顔料分散体として、分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性等の物性面や印字物の耐擦過性、耐溶剤性等の使用適性面で、より優れた効果を存分に発揮させることができる。
【0064】
本発明の水性顔料分散体からインクジェットプリンターの吐出方式(ピエゾ方式やサーマル方式等)を特に限定するものではないが、前記水性顔料分散体を使用して調製された水性顔料記録液は、いずれの方式においても対応することができる。ここで調製された水性顔料記録液を用いて記録画像を形成させる方法としては、オンデマンド方式のインクジェットプリンターを用いて、各種の紙、シート、フィルム、繊維、金属等に印字させることができる。
【0065】
インクジェットプリンターとしては、前記した様に特に限定するものではないが、例えば、プリンターヘッドに圧電素子を用いたピエゾ方式やヒーターを有し、発熱での発泡による圧力で吐出させるサーマル方式等が挙げられる。なかでも本発明においてはサーマル方式を採用することが好ましい。
【0066】
こうして得られた本発明の水性顔料分散体は、例えば、インクジェットプリンター用水性顔料記録液、水性塗料等の各種着色用途において、被記録媒体上で該水性記録液の吐出安定性が高く、且つ印字物の耐擦過性、耐滲み性に優れた着色皮膜を得ることができる。
【0067】
被記録媒体上で該水性顔料記録液の吐出安定性は、まず本発明の製造方法により得られた水性顔料分散体を調製して得られる水性顔料記録液を、バブルジェット(登録商標)記録ヘッド(BC−30E、キャノン株式会社製)を搭載したサーマル方式のインクジェットプリンター(BJ F300型、キャノン株式会社製)に充填し、A4版普通紙に文字パターンの連続印字を行う。連続印字を行った印字物がシャープではっきりとし、しかも均一な状態にあり、その印字枚数が多ければ多いほど(不吐出なく印字できる枚数を意味する。)水性顔料記録液の吐出安定性は良好であると判断する。本発明においては、水性顔料記録液の吐出安定性の評価を○と×の2段階でランクづけを行う。即ち、印字物が上記特性を有した上で印字枚数が550枚以上のものを○、印字枚数が550枚以下のものを×として水性顔料記録液の吐出安定性の評価を行うものである。
【0068】
印字物の耐擦過性は、まず本発明の製造方法により得られた水性顔料分散体を調製した水性顔料記録液を、バブルジェット(登録商標)記録ヘッド(BC−30E、キャノン株式会社製)を搭載したサーマル方式のインクジェットプリンター(BJ F300型、キャノン株式会社製)に充填し、PB paper(キャノン株式会社製)にベタ印字を行う。ベタ印字を行った印字物を印字直後と10分間経過後にそれぞれ市販の蛍光マーカーペン(例えば、水性で顔料を使用したタイプ等)を使用して擦り、その汚れ具合を目視で評価する。尚、これ以外にも指や消しゴム等で擦って評価することも出来る。上記蛍光マーカーペンを使用する評価法は指や消しゴムを使用するものよりも条件が厳しいものである。具体的には、印字物の耐擦過性は有機溶剤を含む蛍光マーカーペンのペン先で印字物上をなぞることを意味する。本発明においては、印字物の耐擦過性の評価を○と△と×の3段階でランクづけを行う。即ち、蛍光マーカーペンでなぞっても印字物上に尾引きの無い(汚れの無い状態を意味する。)ものを○、蛍光マーカーペンでなぞると印字物上に尾引きはするが、実用上問題の無いものを△、蛍光マーカーペンでなぞると印字物上に尾引きが発生し、その汚れがひどく実用上問題のあるものを×として印字物の耐擦過性の評価を行うものである。
【0069】
印字物の耐滲み性は、前記した吐出安定性の評価での印字物(50枚目)の画線部分におけるフェザーリング(紙表面の繊維に沿ってインクの滲み(髭状)が生じる現象)について、目視で観察を行い評価する。印字物の耐滲み性は、フェザーリングを判断基準とし、印字物上に髭状の滲みがはっきりと確認でき、不鮮明であるものを耐滲み性が不良であると判断する。本発明においては、印字物の耐滲み性の評価を○と×の2段階でランクづけを行う。即ち、フェザーリングが無いか、あるいはそれが小さく実用上問題の無いものを○、フェザーリングが大きく、不鮮明で実用上問題のあるものを×として印字物の耐滲み性の評価を行うものである。
【0070】
本発明のインクジェットプリンター用水性顔料記録液において、非イオン性界面活性剤の含有量は水性顔料記録液中に質量換算で0.3〜1%の範囲にあることが好ましい。
【0071】
本発明のインクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製する場合、前記水性顔料分散体に、質量換算で顔料の含有量が1〜10%の範囲となる様に、より好ましくは2〜5%の範囲となる様に水および/又は水溶性有機溶剤を混合して希釈することが好ましい。
【0072】
顔料の含有量が1%以下であると、十分な発色濃度を得ることが困難となる。また、顔料の含有量が10%以上になると、顔料の分散安定性が低下する傾向にあり好ましくない。ここで顔料の含有量とは、水性顔料分散体中の(メタ)アクリル酸エステル系共重合物と一体化していない顔料の単独粒子と、顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子中の顔料との含有量の合計を意味するものである。
【0073】
この際に使用する水溶性有機溶剤としては、水性顔料分散体の調製に使用する前記した有機溶剤の中から適宜選択して使用することができる。該水溶性有機溶剤を併存させることで、特にインクジェットプリンター用水性顔料記録液に必要なインクの浸透性、粘弾性、表面張力、顔料の分散安定性等が容易に制御することが可能となる。
【0074】
ここで水および/又は水溶性有機溶剤の混合の順序としては、特に限定されるものではないが、例えば、水性顔料分散体に、水および水溶性有機溶剤を混合することができる。水と水溶性有機溶剤とはそれぞれ別個に水性顔料分散体に加えることができるが、溶剤ショックの問題を解消できる点において、予めこれらを混合した液媒体として希釈することが好ましい。具体的な混合順序としては、まず水と水溶性有機溶剤とを予め混合しておき、これを水性顔料分散体に加えて水性顔料記録液の組成にすることが好ましい。
【0075】
本発明のインクジェットプリンター用水性顔料分散体やその水性顔料記録液の調製時において、各種添加剤として、生産性を阻害しない範囲で、水溶性ポリエーテル、水溶性ポリエステル、水溶性ポリ(メタ)アクリレート類等の水溶性高分子化合物、染料、各種鉱物等のレオロジー調整剤、でんぷん、セルロース等の糖類、殺菌剤等を必要に応じて加えることができる。水性顔料分散体の調製時において、これら添加剤を加える場合には、水性顔料記録液の調製時において添加する場合よりも、添加量をより少量に抑えることができる点で好ましい。これら添加剤の添加量は水性顔料分散体に対する添加量であり、質量換算で10%以下の範囲にあることが好ましい。
【0076】
また、水性顔料記録液の調製時において、紙への浸透性の制御、顔料分散性の維持、画像の高光沢化などを目的として、前記した様なレオロジー調整剤、湿潤剤、防腐剤等の添加剤をこれに加えることもできる。
【0077】
以下、製造例、実施例、および比較例により本発明を詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」および「%」はいずれも質量基準である。
【0078】
(合成例1)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、及び上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業株式会社製)の反応容器にメチルエチルケトン1,200部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル75部、メタクリル酸169部、スチレン500部、メタクリル酸ベンジル226部、メタクリル酸グリシジル30部、ブレンマーTGL(日本油脂株式会社製)40部及び(パーブチル(登録商標)O)〔有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂株式会社製〕80部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価110KOHmg/g、Tg89℃、重量平均分子量8,000、樹脂分45.4%のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1)の溶液を得た。
【0079】
(合成例2)
前記合成例1において、メタクリル酸230部、メタクリル酸ベンジル165部とした以外は前記合成例1と同様の操作を行い、酸価150KOHmg/g、Tg93℃、重量平均分子量7,700、樹脂分46.4%のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−2)の溶液を得た。
【0080】
(合成例3)
前記合成例1において、メタクリル酸261部、メタクリル酸ベンジル134部とした以外は前記合成例1と同様の操作を行い、酸価170KOHmg/g、Tg97℃、重量平均分子量8,600、樹脂分46.0%のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−3)の溶液を得た。
【0081】
(合成例4)
前記合成例1において、メタクリル酸307部、メタクリル酸ベンジル88部とした以外は前記合成例1と同様の操作を行い、酸価200KOHmg/g、Tg102℃、重量平均分子量9,600、樹脂分47.1%のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−4)の溶液を得た。
【0082】
(合成例5)
前記合成例1において、メタクリル酸138部、メタクリル酸ベンジル257部、パーブチル(登録商標)O200部とし、ブレンマーTGL(日本油脂株式会社製)を添加しないこと以外は前記合成例1と同様の操作を行い、酸価90KOHmg/g、Tg87℃、重量平均分子量9,100、樹脂分46.1%のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−5)の溶液を得た。
【実施例1】
【0083】
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、合成例1で得たスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、水およびフタロシアニン系ブルー顔料を仕込み、攪拌、混合した。ここでそれぞれの仕込量は、フタロシアニン系ブルー顔料1000部、スチレン−アクリル酸系共重合体はフタロシアニン系ブルー顔料に対し不揮発分で40%の比率となる量、25%水酸化カリウム水溶液はスチレン−アクリル酸系共重合体の酸価が100%中和される量、水は混合液の不揮発分を27%とするのに必要な量である。
【0084】
混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミルSC100/32型、三井鉱山株式会社製)に通し、循環方式により4時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
【0085】
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。ガラス製蒸留装置に希釈分散液を入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去し、濃縮分散液を得た。
【0086】
室温まで放冷後、濃縮分散液に攪拌しながら2%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、25%水酸化カリウム水溶液、エマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)と水を加え、分散攪拌機(TKホモディスパ20型、特殊機化工業株式会社製)にて再分散し、pH9.5に調整した。ここでエマルゲン108(登録商標)の仕込み量は、フタロシアニン系ブルー顔料に対して25%の比率となる量である。遠心分離器(50A−IV型、株式会社 佐久間製作所)にて6000G、30分間かけて粗大粒子を除去したのち、不揮発分を調整して不揮発分20%のシアン色の水性顔料分散体を得た。
【実施例2】
【0087】
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をエマルゲン909(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.4)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【実施例3】
【0088】
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をエマルゲン709(登録商標)(花王株式会社製、HLB13.3)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【実施例4】
【0089】
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をエマルゲン109P(登録商標)(花王株式会社製、HLB13.6)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【実施例5】
【0090】
前記実施例1のスチレン―アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)及びエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を、それぞれスチレン―アクリル酸系共重合体(A−2、酸価150KOHmg/g)及びエマルゲン109P(登録商標)(花王株式会社製、HLB13.6)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【実施例6】
【0091】
前記実施例4のエマルゲン109P(登録商標)の仕込み量を、フタロシアニン系ブルー顔料に対して25%から12.5%の比率となる量に変更した以外は前記実施例4と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【実施例7】
【0092】
前記実施例5のエマルゲン109P(登録商標)の仕込み量を、フタロシアニン系ブルー顔料に対して25%から12.5%の比率となる量に変更した以外は前記実施例5と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0093】
(比較例1)
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を添加しないこと以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0094】
(比較例2)
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をエマルゲン104P(登録商標)(花王株式会社製、HLB9.6)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0095】
(比較例3)
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をエマルゲン320P(登録商標)(花王株式会社製、HLB13.9)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0096】
(比較例4)
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をエマルゲン147(登録商標)(花王株式会社製、HLB16.3)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0097】
(比較例5)
前記実施例1のスチレン―アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)をスチレン―アクリル酸系共重合体(A−2、酸価150KOHmg/g)に変更し、かつエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を添加しないこと以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0098】
(比較例6)
前記実施例1のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)及びエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を、それぞれスチレン−アクリル酸系共重合体(A−2、酸価150KOHmg/g)およびエマルゲン104P(登録商標)(花王株式会社製、HLB9.6)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0099】
(比較例7)
前記実施例1のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)及びエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を、それぞれスチレン−アクリル酸系共重合体(A−2、酸価150KOHmg/g)およびエマルゲン147(登録商標)(花王株式会社製、HLB16.3)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0100】
(比較例8)
前記実施例1のエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)をNIKKOL DOP−8N(日光ケミカルズ社製、HLB12.5 燐酸ナトリウムをエチレンオキシド末端に有したポリオキシエチレンオレイルエーテル)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0101】
(比較例9)
前記実施例1のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)及びエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を、それぞれスチレン−アクリル酸系共重合体(A−3、酸価170KOHmg/g)及びエマルゲン109P(花王株式会社製、HLB13.6)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0102】
(比較例10)
前記実施例1のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)及びエマルゲン108(登録商標)(花王株式会社製、HLB12.1)を、それぞれスチレン−アクリル酸系共重合体(A−4、酸価200KOHmg/g)及びエマルゲン109P(花王株式会社製、HLB13.6)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0103】
(比較例11)
前記実施例1のスチレン−アクリル酸系共重合体(A−1、酸価110KOHmg/g)を、スチレン−アクリル酸系共重合体(A−5、酸価90KOHmg/g)に変更した以外は前記実施例1と同様の操作を行い、シアン色の水性顔料分散体を得た。
【0104】
(水性顔料記録液の吐出安定性評価試験)
特開平6−122846号公報に記載の実施例2を参考にして、各実施例および比較例で得られた水性顔料分散体から、サーマル方式インクジェットプリンター用水性顔料記録液を調製した。水性顔料記録液の組成を以下に示す。
水性顔料分散体 33部(顔料分換算で4%となる量)
グリセリン 8部(インク全体の8%相当量)
エチレングリコール 5部(インク全体の5%相当量)
エタノール 5部(インク全体の5%相当量)
水 49部(全体で100%となる様に加える)
【0105】
この様にして調製した水性顔料記録液について、バブルジェット(登録商標)記録ヘッド(BC−30E、キャノン株式会社製)を搭載したサーマル方式のインクジェットプリンター(BJ F300型、キャノン株式会社製)に充填し、A4版普通紙に文字パターンの連続印字を行った。該水性顔料記録液の吐出安定性は、連続印字を行った印字物がシャープではっきりとし、しかも均一な状態にあり、その印字枚数が多ければ多いほど(不吐出なく印字できる枚数を意味する。)その吐出安定性は良好であると判断した。本発明においては、水性顔料記録液の吐出安定性の評価を○と×の2段階でランクづけを行った。即ち、印字物が上記特性を有した上で印字枚数が550枚以上のものを○、印字枚数が550枚以下を×としてその評価を行った。その結果を表1に示す。
【0106】
(印字物の耐擦過性評価試験)
前記した水性顔料記録液の吐出安定性評価試験と同様に、調製したサーマル方式インクジェットプリンター用水性顔料記録液をバブルジェット(登録商標)記録ヘッド(BC―30E、キャノン株式会社製)を搭載したサーマル方式のインクジェットプリンター(BJF−300型、キャノン株式会社製)に充填し、PB paper(キャノン株式会社製)にベタ印字を行った。印字物の耐擦過性は、ベタ印字を行った印字物を印字直後と10分間経過後にそれぞれ市販の蛍光マーカーペン(例えば、水性で顔料を使用したタイプ等)を使用して擦り、その汚れ具合を目視で評価した。具体的には、印字物の耐擦過性は、有機溶剤を含む蛍光マーカーペンのペン先で印字物上をなぞった。本発明においては、印字物の耐擦過性の評価を○と△と×の3段階でランクづけを行った。即ち、蛍光マーカーペンでなぞっても印字物上に尾引きの無い(汚れの無い状態を意味する。)ものを○、蛍光マーカーペンでなぞると印字物上に尾引きはするが、実用上問題の無いものを△、蛍光マーカーペンでなぞると印字物上に尾引きが発生し、その汚れがひどく実用上問題のあるものを×としてその評価を行った。その結果を表1に示す。
【0107】
(印字物の耐滲み性(耐フェザーリング性)評価試験)
印字物の耐滲み性は、前記した水性顔料記録液の吐出安定性の評価での印字物(50枚目)の画線部分におけるフェザーリング(紙表面の繊維に沿ってインクの滲み(髭状)が生じる現象を意味する。)について、目視で観察を行った。印字物の耐滲み性は、フェザーリングを判断基準とし、印字物上に髭状の滲みがはっきりと確認でき、不鮮明であるものを耐滲み性が不良であると判断した。本発明においては、印字物の耐滲み性の評価を○と×の2段階でランクづけを行った。即ち、フェザーリングが無いか、あるいはそれが小さく実用上問題の無いものを○、フェザーリングが大きく、不鮮明で実用上問題のあるものを×としてその評価を行った。その結果を表1に示す。
【0108】
表1
【0109】
【表1】

【0110】
表1の結果から明らかな様に、本発明の水性顔料分散体を用いた水性顔料記録液は、酸価が100〜150の範囲にある(メタ)アクリル酸エステル系共重合物と、HLBが12.1〜13.6の範囲にある非イオン性界面活性剤とを組み合わせることにより、吐出方式がサーマル方式のインクジェットプリンターにおいて、水性顔料記録液の吐出安定性、印字物の耐擦過性、耐滲み性のすべてにおいて優れていることが判った。
【0111】
非イオン性界面活性剤の不存在下、あるいはそれのHLBが前記好適範囲を逸脱したものと、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価が前記好適範囲にあるものとを組み合わせたものは、水性顔料記録液の吐出安定性および印字物の耐擦過性、あるいは印字物の耐擦過性が低下することが判った。また、HLBは前記好適範囲にあるが、燐酸およびカルボン酸から選ばれたアニオン性解離基をエチレンオキシド末端に有する非イオン性界面活性剤と、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価が前記好適範囲にあるものとを組み合わせたものは、印字物の耐擦過性が低下することが判った。
【0112】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価が前記好適範囲を逸脱したものと、非イオン性界面活性剤のHLBが前記好適範囲にあるものとを組み合わせたものは、水性顔料記録液の吐出安定性が低下したり、あるいは印字物の耐滲み性が低下することが判った。
【0113】
したがって、本発明の水性顔料分散体、該水性顔料分散体から調製された水性顔料記録液は、インクジェットプリンター用途に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、水性媒体、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物、非イオン性界面活性剤とからなるインクジェット用水性顔料分散組成物において、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の酸価が100〜150KOHmg/gの範囲にあり、かつ非イオン性界面活性剤のHLBが12.1〜13.6の範囲にあることを特徴とするインクジェットプリンター用水性顔料分散体。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の重量平均分子量が6,000〜12,000の範囲にある請求項1記載の水性顔料分散体
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が炭素数8〜18のアルキル基であるポリオキシエチレンモノアルキルエーテルである請求項1〜2のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレンモノラウリルエーテルである請求項1〜3のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合物がスチレン系単量体を有するスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体である請求項1〜4のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項6】
前記水性媒体が水のみ又は水と水溶性有機溶剤との混合物で質量換算60%以上の水を含有する請求項1〜5のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤の含有量が顔料に対して質量換算で7.5〜25%の範囲にある請求項1〜6のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項8】
前記顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との組み合わせにおいて、顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子として含まれる請求項1〜7のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項9】
インクジェットプリンターの吐出方式がヒーターを有し、発熱での発泡による圧力で吐出させるサーマル方式を採用する請求項1〜8のいずれか一項記載の水性顔料分散体。
【請求項10】
顔料の含有量が質量換算で1〜10%の範囲にある請求項1〜9のいずれか一項記載の水性顔料分散体から調製したインクジェットプリンター用水性顔料記録液。

【公開番号】特開2006−299215(P2006−299215A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159232(P2005−159232)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】