説明

水性顔料記録液およびインクジェット記録方法

【課題】 光沢メディア上における有彩色の着色画像の高い光沢と耐擦過性、水性顔料記録液自体の優れた貯蔵安定性と兼備する水性顔料記録液、並びにそれを用いた光沢メディア上により高い光沢と耐擦過性を有する有彩色の着色画像を形成できるインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】 光沢メディア上へベタ印字した際の印字物の20°グロス値=10〜100グロスユニットかつ同(グロス値/ヘイズ値)×100=3〜15である、有機顔料と、重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150のアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体、アルカリ金属水酸化物と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液。前記好適な水性顔料記録液を表面の20°グロス値=10〜50グロスユニット、かつヘイズ値=15〜200ヘイズユニットの光沢メディアにインクジェット記録するインクジェット記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料記録液およびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙やフィルム等の被記録媒体上に所望の有彩色の着色画像を得る方法としては、例えば、少なくとも黄色顔料、赤色顔料、青色顔料の各色顔料をスチレン−アクリル系共重合体のような分散剤で水性媒体中に分散させた各々の色の水性顔料記録液を、ピエゾ方式或いはサーマル方式の微小ノズルから吐出させて、被記録媒体上に単色或いは減法混色によるフルカラー画像の形成を行うインクジェット記録方法が知られている。
【0003】
インクジェット記録方法においては、プリンタの普及や消費者での記録形態のニーズの多様化に伴い、最近では、印字主体のPPC用紙の様な汎用の普通紙のみならず、銀塩写真並みの高品質画像を得るための、写真用専用紙、光沢フィルムの様な表面に光沢を有する被記録媒体(光沢メディア)も用いられるようになってきた。この様な状況のもとで、インクジェット記録に用いる水性顔料記録液には、どの様な被記録媒体上においても優れた着色画像が得られることが要求される。
また、水性顔料記録液は、例えばインクジェットプリンタ用途に適用する場合には、プリンタ稼動時の短時間に少量用いられるに過ぎず、停止時には、長期間に亘ってプリンタのカートリッジ内に貯蔵されたままである。従って、長期貯蔵の前後において、分散粒子の粒子径や粘度が変化しない優れた保存安定性を有する様にしなければならないし、長期貯蔵の前後において、記録液の吐出不良が起こらない優れた貯蔵安定性を有する様にしなければならない。
【0004】
光沢メディア上に有彩色の着色画像を得るために用いることができる、光沢メディアの未記録の記録面の20度鏡面光沢度がa%の被記録媒体にインクジェット記録を施した場合に形成された記録媒体上の画像部分の20度鏡面光沢度がb%のとき、a≦b(但しa≧15)である、スチレン−アクリル系共重合体の様な高分子系分散剤を含有する水性顔料記録液が知られている(特許文献1)。
この特許文献1では、高分子系分散剤としてスチレン−アクリル系共重合体を水酸化カリウムの様なアルカリ金属水酸化物で中和した塩が用いられているが、どの程度の重量分子量の共重合体かは明らかにされておらず、同文献において最適である重量平均分子量10,000以下の場合には、やはり、水性顔料記録液の保存安定性や貯蔵安定性は不充分である。
【0005】
即ち従来の技術の水性顔料記録液は、いずれも、光沢メディア上における着色画像の高い光沢と、記録液自体の優れた保存安定性を兼備するものではなかった。また、着色画像の耐擦過性はスチレン−アクリル系共重合体の特性に影響するものであり、公知文献におけるに着色画像は耐擦過性にも劣るものであった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−356637公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光沢メディア上における有彩色の着色画像の高い光沢と耐擦過性、記録液自体の優れた保存安定性と兼備する水性顔料記録液、並びにそれを用いた光沢メディア上により高い光沢と耐擦過性を有する有彩色の着色画像を形成できるインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高分子系分散剤として、重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150のスチレン−アクリル系共重合体を用い、塩基性物質としてアルカリ金属水酸化物を用いる様にすると、水性顔料記録液における貯蔵安定性がより向上し、かつ光沢メディア上での有彩色の着色画像の光沢や耐擦過性もより優れたものとなることを見い出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、有機顔料と、アニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体とが、塩基性物質と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液において、前記共重合体が重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150の共重合体であり、塩基性物質がアルカリ金属水酸化物であり、光沢メディア上へベタ印字した際の印字物の20°グロス値=10〜100グロスユニットかつ同(グロス値/ヘイズ値)×100=3〜15であることを特徴とする水性顔料記録液を提供する。
【0009】
また本発明は、有機顔料と、重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150のアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体とが、アルカリ金属水酸化物と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液を、表面の20°グロス値=10〜50グロスユニット、かつヘイズ値=15〜200ヘイズユニットの光沢メディアにインクジェット記録するインクジェット記録方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性顔料記録液は、有機顔料と、アニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体とが、塩基性物質と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液において、前記共重合体が重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150の共重合体であり、塩基性物質がアルカリ金属水酸化物であり、光沢メディア上へベタ印字した際の印字物の20°グロス値=10〜100グロスユニットかつ同(グロス値/ヘイズ値)×100=3〜15であるので、ベタ印字表面に写り込んだ像が明るく、かつ正反射光量が散乱光量に対して十分多いため、写像が鮮明となりより光沢感に優れるだけでなく、耐擦過性および保存安定性に優れ、またノズル目詰まりもなく吐出安定性が確保されるという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の水性顔料記録液は、有機顔料と、アニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体とが、塩基性物質と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液において、前記共重合体が重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150の共重合体であり、塩基性物質がアルカリ金属水酸化物であり、光沢メディア上へベタ印字した際の印字物の20°グロス値=10〜100グロスユニットかつ同(グロス値/ヘイズ値)×100=3〜15である。
【0012】
本発明における有機顔料としては、公知慣用の黄色有機顔料、赤色有機顔料及び青色有機顔料が挙げられる。尚、本発明においては、黄色有機顔料を主体として含有するインクをイエローインク(Y)、赤色有機顔料を主体として含有するインクをマゼンタインク(M)、青色有機顔料を主体として含有するインクをシアンインク(C)と言う。
【0013】
黄色有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント イエロー 1(以下、Y−1の如く表記),Y−2,Y−3,Y−13,Y−16,Y−73,Y−74,Y−83,Y−93,Y−95,Y−97,Y−98,Y−114,Y−128,Y−129,Y−151,Y−154、Y−180等が挙げられる。
【0014】
青色有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント ブルー 1(以下、B−1の如く表記),B−2,B−3,B−15:3、B−16、B−22、B−60等が挙げられる。
【0015】
赤色有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメント レッド 5(以下、R−5の如く表記),R−7,R−12,R−48(Ca),R−48(Mn),R−57(Ca),R−112,R−122,R−123,R−168,R−184,R−202、V−19等が挙げられる。
【0016】
これら有機顔料は、水スラリー、ウエットケーキ、乾燥粉末(パウダー)のいずれの形態でも本発明の水性顔料記録液の調製に使用することが出来る。顔料の凝集による水性顔料記録液の不具合を避けるためには、水スラリー、ウエットケーキを用いることが好ましいが、着色画像の光沢や耐擦過性のより優れた水性顔料記録液とするためには、乾燥粉末を用いた方が良いこともある。
【0017】
本発明で使用されるアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体は、重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150のスチレン−アクリル系共重合体である。以下、共重合体と略記する。
【0018】
この様な共重合体は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸エステル系単量体と、アニオン性基含有エチレン性不飽和単量体とを共重合することで容易に製造できる。本発明において、スチレン系単量体とはベンゼン環上の水素原子がアルキル基で置換されていても良いスチレンまたはα−メチルスチレンを意味し、一方で、(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。
【0019】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ジメチルスチレン等が挙げられる。
【0020】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体しては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0021】
共重合体は、重合単位として(メタ)アクリル酸メチルの重合単位を含有する共重合体であることが、下記する光沢メディア上において着色画像の光沢や耐擦過性をより高められる点で好ましい。即ち(メタ)アクリル酸エステル系単量体しては、(メタ)アクリル酸メチルを必須成分として用いることが好ましい。共重合体としては、それを構成する全単量体合計を100モル%とした際(メタ)アクリル酸メチルの重合単位が3〜30モル%であるアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体がより好ましい。
【0022】
最適には、構成する全単量体合計を100モル%とした際スチレン系単量体の重合単位が10〜30モル%であり、かつ、(メタ)アクリル酸メチルの重合単位が3〜30モル%のアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体であることがより好ましい。
【0023】
共重合体のアニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン基、ホスホ基、チオカルボキシル基等が挙げられる。
【0024】
共重合体を調製するための、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、4−ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸類;コハク酸ビニル、マレイン酸アリル、テレフタル酸ビニル、トリメリット酸アリル等の多塩基酸不飽和エステル類が挙げられる。またスルホン酸基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸2−スルホエチル、メタクリル酸4−スルホフェニル等の不飽和カルボン酸スルホ置換アルキルまたはアリールエステル類;スルホコハク酸ビニル等のスルホカルボン酸不飽和エステル類;スチレン−4−スルホン酸等のスルホスチレン類が挙げられる。
【0025】
共重合体を調製する際の原料モノマーの入手のしやすさ、価格等を考慮すると、カルボキシル基またはスルホン基が好ましく、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できる点でカルボキシル基が特に好ましい。カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸またはメタクリル酸が特に好ましい。本発明において、最適な共重合体は、アニオン性基としてカルボキシル基及びカルボキシラート基の両方を含有する共重合体である。
【0026】
スチレン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びアニオン性基含有エチレン性不飽和単量体以外のその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−アミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−(メチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(メチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(エチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(エチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピル、等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(2−アミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−アミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(3−アミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−[2−(メチルアミノ)エチル](メタ)アクリルアミド、N−[2−(メチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−[3−(メチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−[2−(ジメチルアミノ)エチル](メタ)アクリルアミド、N−[2−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、マレアミド、N,N−ジメチルマレアミド、フマラミド、N,N−ジメチルフマラミド、等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、オクタデカン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸アリル、プロピオン酸アリル、ヘキサン酸アリル、デカン酸アリル、等のカルボン酸不飽和エステル類;エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、等の不飽和エーテル類;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン、等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3−クロロプロピレン、等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン、等のビニル置換複素環化合物類;上記例示モノマー中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基等活性水素を有する置換基を含有するモノマーとエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シキロヘキセンオキシド等、エポキシド類との反応生成物;上記例示モノマー中の水酸基、アミノ基等を有する置換基を含有するモノマーと酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等カルボン酸類との反応生成物等を挙げることができる。
【0027】
本発明で使用される共重合体は、重量平均分子量は10,000〜40,000の範囲である。重量平均分子量が小さすぎると水性顔料分散体自体の分散安定性が低下し、大きすぎると分散体の粘度が高くなるだけでなく、分散性が低下する傾向が認められる。また重量平均分子量が小さ過ぎたり大き過ぎたり場合には、例えばインクジェット記録用水性インクを調製した場合に、印字特性に関して悪影響を及ぼし、長期間安定した印字を行わせることが困難になる傾向にある。
【0028】
また本発明で使用される共重合体の酸価は、50〜150である。酸価とは、共重合体の不揮発分1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を言い、単位はmgKOH/gである。理論酸価は、用いたアニオン性基を含有するエチレン性不飽和単量体とその使用量に基づいて算術計算することが出来る。酸価が低すぎる場合には分散粒子の分散性や分散安定性が低下し、またインクジェット記録用水性インクを調製した場合に、印字安定性が悪くなる。酸価が高すぎる場合には、着色画像の耐水性が低下する。
【0029】
本発明で使用される共重合体のガラス転移温度(Tg)は、特に制限されるものではないが、−20〜100℃の範囲にあることが好ましい。このTgが高すぎる場合には安定した印字が得にくく、低すぎる場合には耐擦過性、耐棒積み性等の画像保存性が低下する傾向があるので、好ましくない。
【0030】
本発明で使用される共重合体は、上記各単量体を反応容器に仕込んで反応させることにより製造することが出来る。本発明においては、上記した各単量体の反応率等は略同一と考えて、各単量体の仕込割合を、各単量体の重合単位のモル換算の含有割合と見なすものとする。本発明における共重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することが出来る。この際には、公知慣用の重合開始剤や連鎖移動剤を併用することも出来る。
【0031】
本発明で使用される共重合体は、アニオン性基を含有する共重合体であるが、水性顔料分散体の調製に当たっては、そのカルボキシル基の少なくとも一部を下記アルカリ金属水酸化物によってイオン化された形態とすることで、共重合体の水性媒体中への分散性や分散粒子の分散安定性を発現させる。イオン化されたカルボキシル基の最適割合は、通常30〜100%、特に70〜100%の範囲に設定されることが好ましい。このイオン化されたカルボキシル基の含有割合は、カルボキシル基とアルカリ金属水酸化物のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。カルボキシル基は、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の含有割合は100%未満であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0032】
共重合体の分子量及び酸価等が一定の条件のもとでの対比では、共重合体中のカルボキシル基をイオン化させるためのアルカリ金属水酸化物の使用量が少ない程、着色画像の耐水性や着色画像濃度は向上する傾向にあるが、一方で、分散粒子の分散安定性が低下する傾向にある。従って、アルカリ金属水酸化物の使用量は、用いる共重合体の酸価と合わせて、これら特性がバランスする様に使用量を選択することが好ましい。
【0033】
この様に、共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部をイオン化するために用いられるアルカリ金属水酸化物としては、公知慣用のものがいずれも使用出来る。この様なアルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物で共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部をイオン化することにより、カルボキシラート基の対イオンは、アルカリ金属イオンのカチオンとなる。
【0034】
アルカリ金属水酸化物は、アンモニアや前記有機アミンを用いた場合に比べて、水性顔料分散体中の分散粒子の分散安定性が良好となるので好ましい。
【0035】
またアンモニアや前記有機アミンは、長時間放置及び/又は高温雰囲気下で揮散するため、水性顔料分散体及びインクジェット記録用水性インク中の分散粒子の分散安定性が徐々に損なわれていき、分散粒子の沈降が観察されることが多い。この様な水性顔料分散体からそのままインクジェット記録用水性インクを調製した場合には、インク中の沈降した粒子がプリンタのノズルからのインク液滴の吐出不良を引き起こす原因となる。
【0036】
本発明において最適な共重合体は、アルカリ金属水酸化物によりカルボキシル基の一部が中和された、カルボキシル基及びカルボキシラート基の両方を含有するスチレン−アクリル系共重合体である。
【0037】
本発明における共重合体は、重合可能なエチレン性不飽和二重結合を一つしか有さない、モノエチレン性不飽和単量体のみを重合して得られた線状の(リニアー)スチレン−アクリル系共重合体であることが、水性媒体への良好な分散性及び低粘度の水性顔料分散体を得る上では好ましい。しかしながら、前記特性を損なわない範囲において、共重合体は必要ならば架橋部分を含有していても良い。共重合体に架橋部分を含有させるには、前記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸2,3−エポキシプロピルの様なエポキシ基を含有するモノエチレン性不飽和単量体や、ジビニルベンゼンやエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの様な2以上のエチレン性不飽和二重結合を含有する単量体を、前記単量体に極少量併用する様にして重合する。
【0038】
エポキシ基を含有するモノエチレン性不飽和単量体の重合単位を含有する共重合体の場合は、このエポキシ基を開環反応させて架橋を行う。エポキシ基の架橋に必要ならば硬化触媒を併用しても良い。
【0039】
水性顔料記録液を調製する際に用いられる水性顔料分散体は、例えば、後記する様な1)〜4)の方法で製造することが出来る。
1)共重合体とアルカリ金属水酸化物とを含有する水性エマルジョンに有機顔料を機械的に強制分散する水性顔料分散体の製造方法。
2)有機顔料の存在下の水中で分散剤とアルカリ金属水酸化物とを用いて前記した各単量体を重合させ共重合体とし必要に応じて会合させる水性顔料分散体の製造方法。
3)有機顔料と共重合体と有機溶剤の混合物を、水とアルカリ金属水酸化物を用いて徐徐に油相から水相に転相させてから脱溶剤する水性顔料分散体の製造方法。
4)有機顔料と共重合体と塩基性物質と有機溶剤と水との均一混合物から脱溶剤を行い、酸性物質を加えて酸析し析出物を洗浄後、この析出物をアルカリ金属水酸化物と共に水性媒体に分散させる水性顔料分散体の製造方法。
【0040】
水性顔料分散体や水性顔料記録液において、分散粒子は、有機顔料と共重合体との相互作用が強く働いているものの方が分散安定性等の点で好ましく、前記方法3)及び4)により製造される水性顔料分散体は、前記方法1)及び2)により製造される水性顔料分散体に比べ、分散粒子の分散安定性が高いだけでなく、水性顔料分散体の粘度もより低くなるので好ましい。インクジェット記録方式では、ノズルからインク液滴を飛ばすためにはそれが低粘度であることが望まれることから、それを調製するための水性顔料分散体自体の粘度も低いことが好まれる。
【0041】
本発明では、前記いずれの製造方法をとるにせよ、有機顔料、共重合体、アルカリ金属水酸化物及び水性媒体からなる混合物を分散する工程を必須として含ませることが好ましい。この混合物には水溶性有機溶剤を含有させるのが好ましい。より具体的には、少なくとも有機顔料、共重合体、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤及び水からなる混合物を分散する工程(分散工程)を含ませることが好ましい。水に水溶性有機溶剤を併用することにより分散工程における液粘度を低下させることが出来る場合がある。
【0042】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。これらの水溶性有機溶剤は、前記共重合体溶液として用いられても良く、別途独立に分散工程中において前記混合物中に含有させても良い。
【0043】
水性顔料分散体及び本発明の水性顔料記録液における有機顔料と共重合体の比率は、質量換算で有機顔料100部に対して共重合体(不揮発分換算)10〜100部が好ましい。共重合体の比率が低すぎる場合には、水性顔料記録液からの着色画像の光沢性と耐擦過性が低下し、逆に高すぎる場合には水性顔料記録液の粘度が高くなり、吐出安定性が損なわれる傾向があり好ましくない。
【0044】
水性顔料分散体の調製に当たっては、質量換算で、有機顔料/共重合体(不揮発分換算)=100/10〜100/100とするのが好ましい。最適には、質量換算で有機顔料100部当たり、共重合体の不揮発分20〜65部かつ水性媒体835〜880部となる様に、前記した原料を用いて製造することが出来る。
【0045】
分散工程において用いることの出来る分散装置としては、既に公知の種々の方式による装置がいずれも使用出来、特に限定されるものではない。この様な分散装置としては、例えば、スチール、ステンレス、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、ガラス等でできた直径0.1〜10mm程度の球状分散媒体の運動エネルギーを利用する方式、機械的攪拌による剪断力を利用する方式、高速で供給された被分散物流束の圧力変化、流路変化あるいは衝突に伴って発生する力を利用する方式、等の分散方式の分散装置を挙げることが出来る。
【0046】
こうした分散工程を実施することで、共重合体を含有する液媒体中に有機顔料が分散した状態が形成される。またこうした分散工程においてアルカリ金属水酸化物をより多くの量用いることで、液媒体中に含有する共重合体を分散状態から溶解状態とすることも出来る。
【0047】
分散工程に引き続き、分散工程において有機溶剤を使用した場合に、これを除去する工程、所望の固形分濃度にするため余剰の水を除去する工程(蒸留工程)を実施することが出来る。本発明の水性顔料分散体としては有機溶剤を含まないものが臭気がなく、作業環境を良好と出来る点で好ましい。
【0048】
水性顔料分散体は、分散到達レベル、分散所要時間及び分散安定性の全ての面で、より優れた特性を発揮させるに当たって、前記した通り、有機顔料と共重合体とは、より相互作用が強く働き分散していることが好ましい。
【0049】
分散粒子の相互作用を高めるため、溶解状態にある共重合体に有機顔料表面を密着させる工程を、前記分散工程の後工程として組み込むことが好ましい。
【0050】
溶解状態にある共重合体を有機顔料表面に密着させる工程としては、有機顔料とアルカリ金属水酸化物により溶解している共重合体とを含有する液媒体を酸性化することにより、共重合体中のアニオン性基を中和される前の官能基に戻して、共重合体を析出させる工程(酸析工程)が好ましい。
【0051】
酸析工程は、前記分散工程と必要に応じて実施される蒸留工程を経て得られた水性顔料分散体に塩酸、硫酸、酢酸等の酸性物質を加えて酸性化し、アルカリ金属水酸化物と塩を形成することによって溶解状態にある共重合体を有機顔料粒子表面に析出させる工程である。この工程により、有機顔料と共重合体との相互作用を高めることが出来る。こうして相互作用を高めて得られた析出物を濾別後、より好ましくはその析出物を洗浄してから、再度アルカリ金属水酸化物と共に水性媒体に分散させることで、より分散安定性に優れた水性顔料分散体とすることが出来る。
【0052】
濾過工程は、有機顔料と共重合体との相互作用を高めて得られた析出物を濾別する工程である。この析出物は有機顔料と共重合体とからなる固形分である。この工程は前記した酸析工程後の固形分をフィルタープレス、ヌッチェ式濾過装置、加圧濾過装置等により濾過する工程である。
【0053】
洗浄工程は、前記濾過工程で濾別された析出物を洗浄濾過する工程であり、この工程を実施することにより、最終的に得られる水性顔料分散体に含有する無機塩類の低減又は除去が可能になる。
【0054】
前記方法4)に従って水性顔料分散体を製造する場合には、有機顔料に含有する無機塩類とその他の要因で混入してきた無機塩類とをこの洗浄工程で一括して低減又は除去出来ることから、その他の製造方法において前記同様の問題が発生した際に必要となる、有機顔料自体の事前洗浄を独立して行う必要がなく、単位操作がより簡便で済むという長所がある。特に有機顔料は、その原料、反応や微細化等の工程において、無機塩類が混入する余地がカーボンブラックに比べて多いため、この洗浄濾過の工程を経て水性顔料分散体を調製する意義は大きい。
【0055】
再分散工程は、前記酸析工程、濾過工程によって得られた固形分にアルカリ金属水酸化物及び必要により水や添加物を加えて、再び水性顔料分散体とする工程である。この工程では、共重合体中のイオン化したカルボキシル基の対イオンを分散工程で用いたのとは異なるアルカリ金属水酸化物に変更することが出来る。
【0056】
酸析工程と再分散工程を必須の工程として、好ましくは濾過工程と洗浄工程をも含む製造方法で水性顔料分散体を製造すると、分散粒子として前記した様に有機顔料と共重合体との相互作用がより高まった状態を容易に形成させることができ、水性顔料分散体として、分散到達レベルや分散安定性等の物性面や耐溶剤性等の使用適性の面で、より優れた特性を発揮させることが出来る。
【0057】
こうして得られた水性顔料分散体には、必要に応じて、例えば、水性ポリウレタン、水性ポリエステル、水性アクリルからなる群から選ばれる少なくとも1種の水性樹脂を含有させることも出来る。
【0058】
本発明の水性顔料記録液は、前記水性顔料分散体を含有する。この様な水性顔料記録液は、質量換算による分散粒子含有率1〜10%となる様に水性顔料分散体から調製することが出来る。着色に関係する分散粒子は、有機顔料自体の粒子と、有機顔料が共重合体により被覆された複合粒子であり、これらの合計が有機顔料分であり、その含有率が1〜10%である。
【0059】
インクジェット記録用水性インクの様な水性顔料記録液の調製の際には、前記した分散粒子含有率を越える、濃厚な水性顔料分散体に対して必要に応じて水や水溶性有機溶剤を加えて、前記範囲で必要な分散粒子含有率となる様に希釈したり、界面活性剤、湿潤剤、防かび剤、pH調節剤等のインクジェット記録用水性インクの調製に必要な各種添加剤を併用することが出来る。
【0060】
また得られた水性顔料記録液は、必要に応じてミクロフィルターにより濾過をすることにより、ノズル目詰まり等を極めて少ないインクジェット記録用水性インクに適したものとすることが出来る。
【0061】
また、吐出方式に応じて組成を適宜選択し調製することにより、水性顔料分散体から、ピエゾ方式でもサーマル方式でもいずれの方式にも対応出来るインクジェット記録用水性インクの様な水性顔料記録液を得ることが出来る。
【0062】
水性顔料記録液を、光沢メディア上へベタ印字した際の印字物の20°グロス値=10〜100グロスユニットかつ同(グロス値/ヘイズ値)×100=3〜15となる様に調製するための手段としては、重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150の共重合体として、前記(メタ)アクリル酸メチルを重合単位とした含有する共重合体を用いる、塩基性物質としてアルカリ金属水酸化物を用いる、光沢メディアとして前記特定の特性値範囲にある被記録媒体を用いる、或いはこれら手段の二つ以上をより多く組み合わせる等の方法がある。
【0063】
本発明で用いられる光沢メディアとは、着色画像が形成されていない記録前の被記録媒体自体の表面の20°グロスが10〜50GU(単位:グロスユニット)、かつヘイズが15〜200HU(単位:ヘイズユニット)である被記録媒体を意味する。具体的には、ここでいうグロスとは、DIN(ドイツ工業規格)67 530に従い、独BYK−ガードナー社製ヘイズグロスメータを用いて測定した光沢値を、色ガラス標準板での反射指数1.567が100GUになる様に換算した値を言い、ヘイズとはASTM(米国材料試験協会= American Society For Testing and Materials )E430に従い定義される値を言う。
【0064】
この様な光沢メディアは、微細なアルミナまたはシリカ粒子をインク受容層に用いたもので、高い光沢とインク吸収性を持ち、いわゆる銀塩写真並の画像再現を主たる目的としたフォト用または写真用と称するものであり、全ての市販の光沢メディアが包含されるわけではなく、市販の光沢メディア中の一部がこの要件を満たす。市販の光沢メディアが本発明で用いる光沢メディアに該当するか否かは実測を行えば良い。好適な光沢メディアは、着色画像が形成されていない記録前の被記録媒体自体の表面の20°グロスが10〜35GU、かつヘイズが15〜110HUの光沢メディアである。
【0065】
本発明で定義する写像性は、以下の式1で表す。
写像性=20°グロス値/ヘイズ値×100 式1
【0066】
本発明で用いる、着色画像が形成されていない記録前の光沢メディアは、この式における値が5〜130であるものが好ましい。前記グロス値とヘイズ値の測定から求められるこの式の解は、目視による光沢感と正の相関があり、光沢の程度の数値化に非常に有用なである。
【0067】
前記した特性を満たす光沢メディアとしては、例えば、フォト光沢フィルムHG−201、フォト光沢紙GP−301〔以上、キャノン(株)製〕、写真用紙〔光沢、セイコーエプソン(株)製〕、フォトライクQP紙〔コニカ(株)製〕等が挙げられる。
【0068】
着色画像が形成された被記録媒体における、ヘイズ値、グロス値及び写像性は、前記着色画像が形成されていない記録前の被記録媒体における同様の測定方法に準じて測定することが出来る。
【0069】
本発明の水性顔料記録液は、それを用いてインクジェットプリンタで前記した様な光沢メディア上に着色画像を形成させると、その着色画像をヘイズグロスメータで測定した際に、20°グロス値が10〜100GUで、かつ同グロス値およびヘイズ値を前記式1に代入して得られた値が3〜15となる。
【0070】
これらの測定を行う対象は、着色画像であれば良いが、もともとそれ自体高い光沢を持った光沢メディア上の着色画像の光沢の程度を測定するに当たっては、ベタ印字を行った光沢メディアの記録面(印字面)について測定を行うことが簡便かつ確実である。本発明の水性顔料記録液は、前記した好ましい光沢メディアを選択してその上に着色画像を形成させると、その着色画像は光沢に優れるだけでなく、耐擦過性にも優れ、保存安定性及び吐出安定性にも優れている。
【0071】
式1で表される写像性の数値が3〜15となる水性顔料記録液は、有機顔料と前記共重合体との吸着が強固であり、顔料分散が高度なレベルとなっている。そのため、光沢メディア上における着色画像の光沢感に優れ、かつ耐擦過性および保存安定性に優れ、また経時的なノズル目詰まりもなく吐出安定性が確保されている。水性顔料記録液としてイエローインク、マゼンタインク、シアンインクの個々のインクを用いたインクジェット記録方法でのモノカラー着色画像に比べて、これらインクの減法混色によるインクジェット記録方法でのフルカラー着色画像の場合は、黄色、マゼンタ色、シアン色(合わせてYMCという。)のうち一色のインクが優れた特性を有していてもその他の二色のインクに不具合があると、全体として優れたフルカラー着色画像が得られないことが多い。本発明において、前記特性を満たす様に調製された水性顔料記録液でインクジェット記録を行えば、全体としても高品品質の着色画像が得られる。また、YMCの三色の水性顔料記録液に加えて、前記特性を満たす様に調製された、黒色や、ライトシアン、ライトマゼンタ、ダークイエロー、レッド、ブルー等の中間色等の水性顔料記録液を併用して、インクジェット記録を行うことも出来る。
【0072】
本発明の水性顔料記録液は、前記した光沢メディア上への着色画像の形成時に本領を発揮するが、それ以外の被記録媒体上への記録画像の形成にも用いることが出来る。この際の被記録媒体としては、例えば、PPC用紙の様な普通紙や、マット調記録のための樹脂コート紙、天然パルプと合成樹脂との混抄紙、合成樹脂フィルム等が挙げられる。
【0073】
本発明の水性顔料記録液は、サインペン、マーカー等の文具類や各種プリンタ、プロッタ類のインクとして好適に使用することができ、とりわけ、その優れた分散性、分散安定性を生かしてインクジェット記録用水性インクとして好適に使用することができる。
【0074】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、いずれも質量基準である。
【0075】
<合成例1>(共重合体Aの合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にMEK550部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル75.0部、メタクリル酸77.0部、スチレン80.0部、メタクリル酸ブチル150.0部、アクリル酸ブチル98.0部、メタクリル酸メチル20.0部および「パーブチル(登録商標)O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)40.0部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価100、重量平均分子量21,000、Tg(計算値)31℃のアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体AのMEK溶液を得た。反応終了後、MEKの一部を減圧留去し、不揮発分を50%に調整した共重合体A溶液を得た。
【0076】
<合成例2>(共重合体Bの合成)
合成例1と同様にして、MEK550部を仕込み、反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル38.0部、メタクリル酸77.0部、スチレン325.0部、メタクリル酸ブチル30.0部、アクリル酸ブチル20.0部および「パーブチル(登録商標)O」40.0部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価100、重量平均分子量23,000、Tg(計算値)81℃のアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体BのMEK溶液を得た。反応終了後、MEKの一部を減圧留去し、不揮発分を50%に調整した共重合体B溶液を得た。
【0077】
<製造例1>(水性顔料分散体の製造)
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、ファーストゲン(登録商標)ブルー TGR〔大日本インキ化学工業(株)製β型銅フタロシアニン顔料。C.I.ピグメント ブルー15:3。〕1000gと、合成例1で得た共重合体A溶液800部、20%水酸化ナトリウム水溶液143部、MEK100部および水1957部を仕込み、攪拌、混合した。混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式(分散装置より出た分散液を混合槽に戻す方式)により6時間分散した。分散装置の回転数は2,700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
【0078】
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。
【0079】
ガラス製蒸留装置に希釈分散液を入れ、MEKの全量と水の一部を留去した。室温まで放冷後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、20%水酸化カリウム水溶液200部を加えた後、ディスパ(TKホモディスパ20型、特殊機化工業(株)製)にて分散し、さらに水を加えて不揮発分を調整して、不揮発分20%の、シアン色有機顔料が水酸化カリウムで中和されたカルボキシル基含有スチレン−アクリル系共重合体で被覆された複合粒子として水性媒体中に分散した水性顔料分散体を得た。
【0080】
<製造例2>(水性顔料分散体の製造)
ファーストゲン(登録商標)ブルー TGR に代えて、ファーストゲン(登録商標)スーパーマゼンタ RTS〔大日本インキ化学工業(株)製キナクリドン顔料。C.I.ピグメント レッド122。〕の同量を用いる以外は製造例1と同様にして、マゼンタ色有機顔料が水酸化カリウムで中和されたカルボキシル基含有スチレン−アクリル系共重合体で被覆された複合粒子として水性媒体中に分散した水性顔料分散体を得た。
【0081】
<製造例3>(水性顔料分散体の製造)
ファーストゲン(登録商標)ブルー TGR に代えて、ファーストイエロー 7413〔山陽色素(株)製モノアゾ顔料。C.I.ピグメント イエロー74。〕の同量を用いる以外は製造例1と同様にして、イエロー色有機顔料が水酸化カリウムで中和されたカルボキシル基含有スチレン−アクリル系共重合体で被覆された複合粒子として水性媒体中に分散した水性顔料分散体を得た。
【0082】
<比較製造例1>(水性顔料分散体の製造)
合成例1の共重合体A溶液の代わりに、合成例2の共重合体B溶液の同量を用いた以外は、製造例1と同様にして不揮発分20%の、シアン色有機顔料が水酸化カリウムで中和されたカルボキシル基含有スチレン−アクリル系共重合体で被覆された複合粒子として水性媒体中に分散した水性顔料分散体を得た。
【実施例1】
【0083】
(ピエゾ方式インクジェット記録用水性インクの適性評価)
特開平7−228808号公報記載の実施例1を参考にしてピエゾ方式インクジェット記録用水性インクを調製した。インク組成を以下に示す。
【0084】
製造例1の水性顔料分散体 42.0部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 10.0部
ジエチレングリコール 15.0部
サーフィノール465(エアプロダクツ社製) 0.8部
水 32.2部
【実施例2】
【0085】
製造例1の水性顔料分散体に代えて製造例2の水性顔料分散体を用いる以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用水性インクを調製した。
【実施例3】
【0086】
製造例1の水性顔料分散体に代えて製造例3の水性顔料分散体を用いる以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用水性インクを調製した。
【0087】
<比較例1>
製造例1の水性顔料分散体に代えて比較製造例1の水性顔料分散体を用いる以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録用水性インクを調製した。
【0088】
(保存安定性)
上記実施例1〜3及び比較例1にて調製した各インクについて、調製直後(貯蔵前)および70℃の恒温槽中で3日間貯蔵後に平均粒子径を測定した。平均粒子径はレーザードップラ式粒度分析計マイクロトラック(UPA150型、リーズ&ノースロップ社製)で測定したメディアン径をもって平均粒子径とした。貯蔵後の平均粒子径が貯蔵前のそれの110%以内であれば保存安定性が良好とした。
【0089】
(光沢性)
インクジェット記録用写真用紙(光沢)〔セイコーエプソン(株)製〕を用いて評価を行った。この写真用紙は、表面の20°グロス値=16グロスユニット、かつヘイズ値=24ヘイズユニットの光沢メディアである。ピエゾ方式のインクジェットプリンタ(MJ−8000C型、セイコーエプソン(株)製)のカートリッジに、貯蔵試験前の水性インクを充填し、前記写真用紙にベタ印字をした。BYKガードナー社製ヘイズグロスメータを用いて、得られた印字物表面の20°グロス値およびヘイズ値を測定し、前記式1に各々の値を代入して写像性を求めた。
【0090】
(吐出安定性)
前記プリンタを用い、インクの吐出性を以下の評価基準に基づいて調べた。
○:全ノズルで吐出良好
△:一部のノズルで吐出不良あり
×:吐出不良
【0091】
(耐擦過性)
写真用紙(絹目調)〔セイコーエプソン(株)製〕を用いて評価を行った。同写真用紙にベタ印字を行い、10分乾燥後に印字部を指で擦過し、こすれ具合を目視で評価した。評価基準を以下に記す。
◎:印字は全くとれない
○:印字は殆どとれず、周りは汚れない
△:印字が擦りとられ、周りが汚れる
×:かなり印字が擦りとられ、周りもひどく汚れる
【0092】
これらの各評価項目の測定結果は、まとめて表1に示した。
【0093】
表1
【0094】
【表1】

【0095】
実施例1〜3の各インクを用いて、同様な光沢メディアにインクジェット記録を行い、画像形成させたフルカラー着色画像は、比較例1と実施例2〜3の各インクを用いて、同様な光沢メディアにインクジェット記録を行い、画像形成させたフルカラー着色画像に比べて、格段に写像性に優れていた。また、インクジェット記録方法においても、吐出安定性に優れる結果、一部のノズルでの吐出不良による色再現の不良もなく、本来表現されるべき通りに画像形成されていた。
【0096】
表1より、本発明の水性顔料記録液は、特定分子量かつ特定酸価のスチレン−アクリル系共重合体とアルカリ金属水酸化物とを含有し、特定の物性を示す様に調製されているので、着色画像の光沢に格段に優れるとともに、保存安定性、吐出安定性並びに耐擦過性に優れていることがわかる。
本発明の記録方法は、特定分子量かつ特定酸価のスチレン−アクリル系共重合体とアルカリ金属水酸化物とを含有する水性顔料記録液を用いて、特定の物性を示す光沢メディアにインクジェット記録するので、着色画像の光沢に格段に優れるとともに、保存安定性、吐出安定性並びに耐擦過性に優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料と、アニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体とが、塩基性物質と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液において、前記共重合体が重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150の共重合体であり、塩基性物質がアルカリ金属水酸化物であり、光沢メディア上へベタ印字した際の印字物の20°グロス値=10〜100グロスユニットかつ同(グロス値/ヘイズ値)×100=3〜15であることを特徴とする水性顔料記録液。
【請求項2】
共重合体が、(メタ)アクリル酸メチルの重合単位を含有する共重合体である請求項1記載の水性顔料記録液。
【請求項3】
共重合体が、全単量体合計を100モル%とした際(メタ)アクリル酸メチル3〜30モル%の共重合体である請求項1記載の水性顔料記録液。
【請求項4】
有機顔料と、重量平均分子量10,000〜40,000かつ酸価50〜150のアニオン性基含有スチレン−アクリル系共重合体とが、アルカリ金属水酸化物と水を含有する水性媒体中に分散してなる水性顔料記録液を、表面の20°グロス値=10〜50グロスユニット、かつヘイズ値=15〜200ヘイズユニットの光沢メディアにインクジェット記録するインクジェット記録方法。
【請求項5】
共重合体が、(メタ)アクリル酸メチルの重合単位を含有する共重合体である請求項4記載のインクジェット記録方法。
【請求項6】
共重合体が、全単量体合計を100モル%とした際(メタ)アクリル酸メチル3〜30モル%の共重合体である請求項4記載のインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2006−8797(P2006−8797A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186332(P2004−186332)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】