説明

水晶発振回路の設計値決定方法及び電子機器

【課題】水晶振動子を用いた発振回路の負荷容量CL値、負性抵抗RL値、および駆動電流Ios値の関係を明確にし、水晶発振回路の設計値の決定方法を提供する。
【解決手段】水晶発振回路において、負性抵抗値RL、負荷容量値CLおよび駆動電流Iosの3つの設計値のうち、2つの値を決定することにより、残りの1つの値を関係式或いは関係グラフを用いて決定する。負性抵抗値RLを一定値としたとき、駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係式は、Ios=α*(CL)2+β*(CL)+γ(α、β、γは定数)の2次式で表される。また、駆動電流Iosをパラメータ(一定値)としたとき、負荷容量値CLおよび負性抵抗値RLの関係式は、CL=a*(RL)b(a、bは定数)の累乗式で表される。この結果、水晶発振回路の低CL化により駆動電流を低下でき、水晶発振回路の低消費電力化を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低消費電力の水晶発振回路を実現するためのもので、特に水晶発振回路を構成する負荷容量、負性抵抗および駆動電流などの設計値決定方法、及びその設計値決定方法を用いて設計値が決定された発振回路を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
時計や携帯電話等の携帯機器において、当該機器の無充電による長時間動作や搭載される電池の充電頻度低減化の要求から、当該機器に用いられる水晶振動子等の圧電素子を組み込んだ発振回路の駆動電力の低減や発振回路の待機時(発振回路が発振した状態でかつ無負荷状態の時)における超低消費電力化がますます要求されている。
【0003】
図9は、水晶振動子を用いた典型的な発振回路であり、反転増幅器となるCMOSインバータIV01、CMOSインバータIV01の入力端子XCINと出力端子XCOUTとの間に接続された水晶振動子X2、CMOSインバータIV01の入力端子XCINと接地電位の電源端子Vssとの間に接続された負荷容量Cgを構成する容量素子、およびCMOSインバータIV01の出力端子XCOUTと接地電位の電源端子Vssとの間に接続された負荷容量Cdを構成する容量素子を有している。
【0004】
また、CMOSインバータIV01は、電源電圧Vddが共有される第1の電源端子と接地電位が供給される第2の電源端子との間に直列接続されたPMOSトランジスタPM11とNMOSトランジスタNM11、及び帰還抵抗Rfから構成されている。
CMOSインバータIV01のPMOSトランジスタPM11のソースと第1の電源端子との間、およびCMOSインバータIV01のNMOSトランジスタNM11と第2の電源端子との間には、水晶振動子X2を励振する駆動電流を制限する駆動電流調整用抵抗素子r1およびr2が接続されている。
【0005】
携帯機器等に搭載する発振回路は近年低消費電力化が要求されているが、そのためには発振回路における水晶振動子の駆動電流を低下させる必要がある。そのためには、発振回路におけるCMOSインバータの相互コンダクタンスGmを小さくすることが好適であるが、相互コンダクタンスGmを小さくすると発振回路の発振余裕度を低下させる場合がある。
【0006】
発振回路の発振余裕度Mは次式(1)で与えられる。
M={|−Gm|/(ω2Cg・Cd)}*(1/R1(max))=+RL/R1(max)・・・(1)
ここで、ωは発振周波数の角周波数、RLは負性抵抗、R1(max)は水晶振動子の実効抵抗R1の最大値であり、発振余裕度Mは5以上の値が要求される。
【0007】
水晶振動子の実効抵抗R1は水晶振動子の小型化の要請から決定される値であるから、余り小さくすることはできない。従って、相互コンダクタンスGmを小さくしても発振回路の発振余裕度Mを維持するには、CMOSインバータに外付けされる負荷容量を構成するコンデンサの負荷容量値Cgおよび/またはCdを下げれば良いことが分かる。従ってそれを実現するためには、発振回路の水晶振動子は、組み込まれるマイコン等のICに対して要求される低消費電力化の仕様に見合った負荷容量CLを有することが要求される。すなわち、既に出願人は従来から使用されている水晶振動子の負荷容量CLである12.5pFに対して、負荷容量CLの低減すなわち低CL化(3pF〜5pF)を提案してきた。(特許文献1)
【0008】
しかしながら、負荷容量CLを小さくすると、負荷容量CLの容量許容差と発振周波数の周波数偏差Δfの問題が顕著になる。たとえば、負荷容量CLが通常の容量許容差の範囲であるΔC(±5%)変化した場合の発振周波数の安定性Δf(ppm)は、負荷容量CLが12.5pFのときΔCが1.25pFで発振周波数の安定性Δfは7.3ppmとなり、負荷容量CLが6pFのときΔCが0.6pFで発振周波数の安定性Δfは13.2ppmとなり、負荷容量CLが3pFのときΔCが0.3pFで発振周波数の安定性Δfは20.5ppmとなる。
すなわち、負荷容量CL(3pF)では、従来の12.5pFの場合よりも2.8倍も周波数偏差が大きくなるので、負荷容量CLの低容量化(低CL化)を実現するためには、負荷容量CLの容量許容差に対する発振周波数の安定性を向上させる必要がある。
【0009】
図9における入出力端子間XCINおよびXOUT間の水晶振動子側の等価回路は図10となる。水晶振動子X2には直列に負荷容量CLが接続されていて、水晶振動子は圧電効果により生ずる機械的共振を等価的に表したインダクタンスL1、容量C1、抵抗R1の直列共振回路に電極間容量C0が並列接続した回路として表される。また入出力端子間XCINおよびXCOUT間にはCMOS半導体基板や信号配線等により種々の浮遊容量が存在しているが、これらの(合成)浮遊容量をCsとすると、図11に示すように、負荷容量CLは浮遊容量Csと直列接続された外部(外付け)容量CgおよびCdとの並列接続となっている。
従って、
CL=Cs+Cg*Cd/(Cg+Cd)・・・(2)
となる。
(2)の関係を満足するようなCL値(2pF〜6pF)になるように、発振周波数にマッチングするような外付け容量素子CgおよびCdを選択すれば、発振周波数の安定性を向上できる。すなわち、負荷容量CLは浮遊容量Csと外部容量素子(コンデンサ)Cext{=Cg*Cd/(Cg+Cd)}の和であるため、負荷容量CLと浮遊容量Csとの差に相当するように、外部容量素子Cextの値を選定すれば、(2)式が満足され、水晶振動子の負荷容量CLと、水晶振動子から見た発振回路側の負荷容量がマッチング(整合)することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−205658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、低い負荷容量CLを採用することにより、発振周波数の安定性を保持しながら低い相互コンダクタンスGmを達成することができると考えられる。しかしながら、低い負荷容量CL値を有する水晶振動子を用いた水晶発振回路を採用した場合、どの程度の駆動電流が得られるのかが問題となる。低い負荷容量CL値と駆動電流の間の関係についてはこれまで明確にされていない。しかし、ICを設計するときに事前に水晶発振回路の駆動電流値を推定できるとICの設計が非常に楽になる。あるいは、ICのスペックとして水晶発振回路の駆動電流値の目標値を適当に設定したときに、その駆動電流値を実現できる水晶発振子が存在するのかが分かることは非常に重要なことである。従って、水晶発振回路の駆動電流値Iosと負荷容量CLとの関係を知ることが切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、水晶振動子を用いた発振回路の駆動電流値Iosと負荷容量CL値の関係を明確にし、所望の駆動電流値Iosにするためにはどの程度の負荷容量CL値を用いれば良いかその方法を提供することである。さらに駆動電流Iosおよび負荷容量CLに対して負性抵抗がどのように関係しているかを明確にすることである。すなわち、水晶振動子を用いた発振回路の負荷容量CL値、負性抵抗RL値、および駆動電流Ios値の関係を明確にし、水晶発振回路の設計値決定方法を提供することである。また、この設計値決定方法を用いて設計値が決定された水晶発振回路が搭載された電子機器を提供することである。
【0013】
具体的には以下の方法により行なう。
(1)本発明は、水晶振動子を用いた水晶発振回路において、負性抵抗値RL、負荷容量値CLおよび駆動電流Iosの3つの設計値のうち、2つの値を決定することにより、残りの1つの値を関係式或いは関係グラフを用いて決定することを特徴とする、発振回路の設計値決定方法である。
(2)本発明は、負性抵抗値RLを一定値としたとき、駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係式は、Ios=α*(CL)2+β*(CL)+γ(α、β、γは定数)の2次式で表され、前記関係式を用いて負荷容量値CLから駆動電流Iosを決定するか、あるいは前記関係式を用いて駆動電流Iosから負荷容量値CLを決定することを特徴とする発振回路の設計値決定方法である。
(3)本発明は、事前に得られた少なくとも2つの負性抵抗値RL(RL1、RL2)における駆動電流値Iosおよび負荷容量値CLの関係式は、
Ios=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (RL=RL1)
Ios=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (RL=RL2)
であり、上式を用いて負性抵抗値RL0のときの駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係式Ios=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (RL=RL0)
を決定することを特徴とする発振回路の設計値決定方法である。
(4)本発明は、RL1<RL0<RL2のとき、
Ios=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (RL=RL1)
Ios=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (RL=RL2)
を用いて単純比例で負性抵抗値RL0のときの駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係式
Ios=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (RL=RL0)
を決定することを特徴とする発振回路の設計値決定方法である。
【0014】
(5)本発明は、駆動電流Iosをパラメータ(一定値)としたときの負荷容量値CLおよび負性抵抗値RLの関係式をCL=a*(RL)b(a、bは定数)の累乗式として表し、この関係式を用いて負性抵抗値RLから負荷容量値CLを決定するか、あるいはこの関係式を用いて負荷容量値CLから負性抵抗値RLを決定することを特徴とする発振回路の設計値決定方法である。
(6)本発明において、事前に得られた少なくとも2つの駆動電流値Ios(Ios1、Ios2)における負性抵抗値RLおよび負荷容量値CLの関係式は、
CL=a1*(RL)b1 (Ios=Ios1)
CL=a2*(RL)b2 (Ios=Ios2)
であり、これらの式を用いて
駆動電流値Ios0のときの負性抵抗値RLおよび負荷容量値CLの関係式
CL=a0*(RL)b0 (Ios=Ios0)
を決定することを特徴とする、発振回路の設計値決定方法である。
(7)本発明は、Ios1<Ios0<Ios2のとき、
CL=a1*(RL)b1 (Ios=Ios1)
CL=a2*(RL)b2 (Ios=Ios2)
を用いて単純比例で駆動電流値Ios0のときの負性抵抗値RLおよび負荷容量値CLの関係式CL=a0*(RL)b0 (Ios=Ios0)
を決定することを特徴とする発振回路の設計値決定方法である。
(8)本発明において、負性抵抗値RLは発振余裕度M(M=RL/R1(max)で表され、R1(max)は水晶振動子の実効抵抗R1の最大値である)から決定されることを特徴とする発振回路の設計値決定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、発振回路の重要パラメータである負荷容量値CLおよび負性抵抗値RLと発振回路における駆動電流との間には一定の関係を有することが明らかになり、この関係を用いることにより、各パラメータの設計値を決定できる。特に低消費電流の発振回路を設計するときには有用である。たとえば、駆動電流の目標値Ios0を決めると、負荷容量値CLは負性抵抗値RLの累乗式、CL=a*(RL)bで示されるので、適切な負性抵抗値RL0に対する負荷容量値CL0を決定できる。或いは、負荷容量値CL0を選択すればそれに対応する負性抵抗値RL0を決定できる。また、負性抵抗値RLをパラメータとして、駆動電流値Iosは負荷容量値CLの2次式、Ios=α*(CL)2+β*CL+γで表されるので、適切な負荷容量値CL0を選択すれば、そのときの発振回路の駆動電流値Ios0を求めることができる。或いは、目標の駆動電流値Ios0を得るための負荷容量値CL0を決定できる。これまで、低CL値(8pF以下)を有する発振回路においては、どの程度の駆動電流値Iosを実現できるか、その低CL値に対応する負性抵抗値はどの程度が必要かが明確でなかったが、本発明を用いることにより、それらの関係が明確になり、発振回路設計が非常に容易となる。また、水晶発振回路の低CL化により駆動電流の微小化を実現でき、水晶発振回路の低消費電力化を実現できる。その結果として、当該水晶発振回路を組み込んだ電子機器の低消費電力化も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、駆動電流Ios、負荷容量値CL、及び負性抵抗RLの関係を明確にするために用いた測定回路を示す図である。
【図2】図2は、駆動電流Iosをパラメータ(Ios一定)としたときの負荷容量値CLおよび負性抵抗RLの関係を示すグラフである。
【図3】図3は、駆動電流Iosをパラメータ(Ios一定)としたときの負荷容量値CLおよび負性抵抗値RLの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、負性抵抗値をパラメータ(RL一定)としたときの駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、負性抵抗値をパラメータ(RL一定)としたときの駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、負性抵抗をパラメータ(RL一定)としたときの駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、負性抵抗をパラメータ(RL一定)としたときの駆動電流Iosおよび負荷容量値CLの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、駆動電流Iosをパラメータ(Ios一定)としたときの負荷容量値CLおよび負性抵抗値RLの関係を示すグラフである。
【図9】図9は、水晶振動子を用いた発振回路を示す図である。
【図10】図10は、図9における入出力端子間XCINおよびXOUT間の水晶振動子側の等価回路を示す図である。
【図11】図11は、負荷容量値CLを構成する容量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の目的は、水晶振動子を用いた水晶発振回路の駆動電流Iosと負荷容量CL値および負性抵抗RLとの関係を明確にし、所望の駆動電流Iosを設計するためにはどの程度の負荷容量CL値および負性抵抗RL値を用いれば良いかその方法を提供することである。また、駆動電流Iosを小さくするには、負荷容量CL値をどの程度の値を用いれば良いのか、その時の負性抵抗RL値はどの程度になるかを見積もることができる方法を提供することである。すなわち、本発明は、水晶振動子を用いた発振回路において、負性抵抗値RL、負荷容量値CLおよび駆動電流Iosの3つの設計値のうち、任意の2つの値を決定することにより、残りの1つの値を関係式或いは関係グラフを用いて決定することを特徴とする水晶発振回路の設計値決定方法である。また、この設計値決定方法を用いて設計値が決定された水晶発振回路を搭載した電子機器に関する発明である。
【0018】
図1は、水晶振動子を用いた水晶発振回路において、駆動電流Iosと負荷容量CLおよび負性抵抗RLの関係を明確にするために用いた測定回路を示す図である。基本的に図9と同様の図であり、水晶振動子11にはSII製水晶振動子SSP-T7-FL(基本周波数32.768KHz)を用いた。12はCMOSインバータ、13は定電流源で、水晶発振回路に一定の電流(この電流が駆動電流Ios)を流せるようにし、種々の容量CgおよびCdを用いて負荷容量CL値および負性抵抗RL値を測定した。また、帰還抵抗Rfとして10MΩを用いた。
【0019】
図2および図3は、駆動電流Iosをパラメータ(Ios一定)としたときの負荷容量CLおよび負性抵抗RLの関係を示すグラフである。図2(a)はIos=397n Aのとき、図2(b)はIos=287nAのとき、図3(a)はIos=172nAのとき、および図3(b)はIos=91nAのときのグラフである。これらの4つのグラフは、すべてy=a*xb+c(a、b、cは定数)の累乗関係にある(yはCL、xはRLに対応する)。そこで、累乗近似式から各定数を求めると、Ios=397nAのとき、図2(a)はy=194.06x-0.5(相関係数R=1)、Ios=287nAのとき、図2(b)はy=163.74x-0.4985(相関係数R=1)、Ios=172nAのとき、図3(a)はy=131.73x-0.5054(相関係数R=0.999)、Ios=91nAのとき、図3(b)はy=91.406x-0.5(相関係数R=1)となり、相関係数も極めて高く、b=−0.5、c=0と考えて良い。この関係式CL=a*(RL)-0.5は、上述の(1)式において
RL=|−Gm|/(ω2Cg・Cd)から予想される式であり、非常にリーズナブルな関係式(近似式)が得られた。以上から、低CL化した水晶発振回路は非常に低い消費電流でも動作可能で、低消費電力化を実現できる。
【0020】
図4および図5は、負性抵抗RLをパラメータ(RL一定)としたときの駆動電流Iosおよび負荷容量CLの関係を示すグラフである。これらのグラフは、図2および図3において示したデータを用いた関係式から得られたものである。図4(a)〜図4(d)は負性抵抗RL=300kΩ、400kΩ、500kΩ、および600kΩのときのグラフであり、図5(a)〜図5(f)は負性抵抗RL=700kΩ、800kΩ、900kΩ、1000 kΩ、1100kΩ、および1200kΩのときのグラフである。これらの10個のグラフは、すべてy=α*x2+β*x+γ(α、β、γは定数)の2次式の関係にある(yはIos、xはCLに対応する)。各負性抵抗RL値における駆動電流Iosおよび負荷容量CLの関係式は、各グラフに示している。非常に高い相間係数を持つことから、駆動電流Iosは負荷容量CLの2乗に比例していると考えることができる。これは、上述の(1)式から導かれるRL=|−Gm|/(ω2Cg・Cd)において、Cg=Cd=2CLとしたときに相互インダクタンスGmがCL2に比例していることから予想できる。従って低CL化すると、非常に低い駆動電流値Iosを実現できることが分かる。
【0021】
これらのグラフを重ねてまとめたものが図6および図7である。図6は、300kΩ〜1100 kΩの負性抵抗値を200kΩごとに記載したものであり、図7は、400kΩ〜1200 kΩの負性抵抗値を200kΩごとに記載したものである。これらのグラフから、同じ負性抵抗RL値の場合、負性抵抗値が高いほど駆動電流Iosが連続的に小さくなることがわかる。従って、ある負性抵抗値RL0を選択したときに、そのときの駆動電流Iosと負荷容量CLとの関係を求めることができる。たとえば、負性抵抗値RL0が800kΩと900kΩの間の値であるとき、800kΩのときの関係式y=9.077x2−7.504x+23.109から負荷容量CL0のときの駆動電流値Ios1を求め、900kΩのときの関係式y=10.181x2−7.9361x+22.061から負荷容量CL0のときの駆動電流値Ios2を求め、これらの駆動電流値Ios1およびIos2から単純比例計算により、負性抵抗値RL0で負荷容量CL0のときのIos0が求められる。また、種々の負荷容量値CLに対する駆動電流値Iosを求めて、プロットして2次式を当てはめれば負性抵抗値RL0における駆動電流Iosと負荷容量CLとの関係式(2次式)も得られる。同様にして、300kΩ〜1200kΩの間における任意の負性抵抗RLに関しても特定の負荷容量CL値に関する駆動電流値Iosを求めることができ、駆動電流Iosと負荷容量CLとの関係式(2次式)も得ることができる。300kΩ以下の負性抵抗RLや1200kΩ以上の負性抵抗RLにおける場合にも、外分比を用いれば同様にして特定の負荷容量CL値に関する駆動電流値Iosを求めることができ、駆動電流Iosと負荷容量CLとの関係式(2次式)も得ることができる。
【0022】
図8は、図2および図3に示した負荷容量CLおよび負性抵抗RLの関係のグラフを1つにまとめたものである。近似式から一部計算したデータも記載しているが、このグラフからも分かるように、任意の負性抵抗RLに対して、負荷容量CLを増加させると駆動電流Iosも連続的に増加するということが予想できる。このグラフおよび関係式を用いて、一定の駆動電流Iosにおける負荷容量CLおよび負性抵抗RLの関係を導くことができる。すなわち、既知の関係式が分かっている2つの関係曲線CL=a1*(RL)b1(Ios=Ios1)およびCL=a2*(RL)b2(Ios=Ios2)を用いて、任意の負性抵抗値RLにおいて単純比例により負荷容量値CLを求めていくことにより、一定の駆動電流値Ios0における負性抵抗RLおよび負荷容量CLの関係曲線CL=a0*(RL)b0(Ios=Ios0)を求めることができる。Ios1<Ios0<Ios2であれば、単純比例で任意の負性抵抗RL値における負荷容量CL値を求めてプロットして関係曲線CL=a0*(RL)b0(Ios=Ios0)を求めれば良い。たとえば、172nA<I os0<287nAであれば、y=131.73x-0.5054およびy=163.74x-0.4985を用いて、単純比例を用いて任意のRL(ただし、200 kΩ<RL<1600kΩ)における負荷容量CLを求めてプロットしていき近似式を当てはめれば、所望の関係式を得ることができる。これらの結果から、負荷容量CL<8pFのとき、負性抵抗RLを200 kΩ<RL<1600kΩ(1600kΩ以上でも)、好適には400kΩ<RL<1600kΩ(1600kΩ以上でも)もっと好適には600kΩ<RL<1600kΩ(1600kΩ以上でも)とすれば、駆動電流Ios<400nAを実現できることが分かる。
【0023】
次に上述の(1)式の発振余裕度Mから各設計値を求める方法について説明する。まず発振余裕度Mの値を決めれば(M=M0とする、安定した発振を確保するためには、通常Mは5以上必要である)、(1)式から負性抵抗値RL0を決定できる。{RL0=M0*R1(max)}このRL0が200〜1600の間にあれば、上述した方法によりIos=α0*(CL)2+β0*(CL)+γ0(α0、β0、γ0は定数)の2次式を決定する。この関係式を用いて、目標値の駆動電流値Ios0および負荷容量値CL0を決定できる。RL0が200〜1600の間になければ、上述した外分比を用いた方法により予想式Ios=α0*(CL)2+β0*(CL)+γ0の2次式を決定すれば良い。或いは、負性抵抗RLがこれらの範囲外にあるときの種々の駆動電流値Iosおよび負荷容量値CLを求めて、実測値を基にした新たな関係式を得ていけば良い。従来の高い負荷容量(CL>10pF、たとえば、12.5pF)を用いた場合には、駆動電流Iosを増やして(Gmを大きくする)発振余裕度Mを増加させる手法を取っていたため、消費電力の低減が困難であった。しかし、本出願人が追及している低CL化の手法を用いれば、発振余裕度Mを維持しながら(負性抵抗を調整しながら)負荷容量CL値を小さくして駆動電流を小さくすることが可能となる。
【0024】
以上説明した様に、本発明は負性抵抗、負荷容量、および駆動電流の3つの設計値についてかなり強い相関関係があることを発見したことから見出されたものである。本発明を用いることにより低CL化しても発振余裕度Mを低下させずに極めて低い駆動電流Iosを有する発振回路を設計し実現できる。また、本発明の発振回路は、水晶振動子や他の圧電振動子を使用した発振器や電子機器に用いられる発振回路のすべてに搭載して適用できる。たとえば、時計、携帯電話、携帯端末、ノートパソコン等の電池駆動の電子機器である。さらには省エネや省電力化を要求されている車載用電子機器、テレビ・冷蔵庫・エアコン等の家電製品など広範な電子機器にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、水晶振動子を用いた水晶発振回路に用いることができる。特に低消費電力用の発振回路を設計する場合に有用である。また、圧電振動子を用いた発振回路を搭載した発振器や電子機器等に用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
11水晶振動子、12CMOSインバータ、13低電流源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子を用いた水晶発振回路において、負性抵抗値RL、負荷容量値CLおよび駆動電流値Iosの3つの設計値のうち、2つの値を決定することにより、残りの1つの値を関係式或いは関係グラフを用いて決定することを特徴とする水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項2】
負性抵抗値RLを一定値としたとき、駆動電流値Iosおよび負荷容量値CLの関係式は、
Ios=α*(CL)2+β*(CL)+γ(α、β、γは定数)の2次式で表され、前記関係式を用いて負荷容量値CLから駆動電流値Iosを決定するか、あるいは前記関係式を用いて駆動電流値Iosから負荷容量値CLを決定することを特徴とする請求項1に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項3】
予め得られている少なくとも2つの負性抵抗値RL(RL1、RL2)における駆動電流値Iosおよび負荷容量値CLの関係式は、
Ios=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (RL=RL1)
Ios=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (RL=RL2)
であり、
これらの式を用いて
負性抵抗値RL0のときの駆動電流値Iosおよび負荷容量値CLの関係式
Ios=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (RL=RL0)
を決定することを特徴とする請求項2に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項4】
負性抵抗値RL の値がRL1<RL0<RL2の関係を有している場合、
Ios=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (RL=RL1)
Ios=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (RL=RL2)
を用いて単純比例で負性抵抗値RL0のときの駆動電流値Iosおよび負荷容量値CLの関係式
Ios=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (RL=RL0)
を決定することを特徴とする請求項3に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項5】
駆動電流値Iosをパラメータ(一定値)としたとき、負荷容量値CLおよび負性抵抗値RLの関係式がCL=a*(RL)b(a、bは定数)で表され、前記関係式を用いて負性抵抗値RLから負荷容量値CLを決定するか、あるいは前記関係式を用いて負荷容量値CLから負性抵抗値RLを決定することを特徴とする請求項1に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項6】
事前に得られた少なくとも2つの駆動電流値Ios(Ios1、Ios2)における負性抵抗値RLおよび負荷容量値CLの関係式は、
CL=a1*(RL)b1 (Ios=Ios1)
CL=a2*(RL)b2 (Ios=Ios2)
であり、これらの式を用いて
駆動電流値Ios0のときの負性抵抗値RLおよび負荷容量値CLの関係式
CL=a0*(RL)b0 (Ios=Ios0)
を決定することを特徴とする請求項5に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項7】
b=b1=b2=b0=−0.5であることを特徴とする請求項5または6に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項8】
駆動電流値がIos1<Ios0<Ios2の関係を有しているとき、
CL=a1*(RL)b1 (Ios=Ios1)
CL=a2*(RL)b2 (Ios=Ios2)
を用いて駆動電流値Ios0のときの負性抵抗値RLおよび負荷容量値CLの関係式
CL=a0*(RL)b0 (Ios=Ios0)
を決定することを特徴とする請求項6または7に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項9】
負性抵抗RLは発振余裕度M(M=RL/R1(max)で表され、R1(max)は水晶振動子の実効抵抗R1の最大値とする)から決定されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項10】
負荷容量値CL<8pF、400kΩ<負性抵抗値RL<1400kΩ、および駆動電流値Ios<400nAの範囲の値であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の水晶発振回路の設計値決定方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の水晶発振回路の設計値決定方法を用いて設計値を決定した水晶発振回路を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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