説明

水油燃焼装置

【課題】小さい圧力での燃焼を可能とし得て、装置全体の小型化に貢献することができる水油燃焼装置を提供する。
【解決手段】原料水と原料油とを所定の割合で混合する混合器15と、混合器15で混合された水油混合燃料を加熱する加熱器16と、加熱器16で加熱された水油混合燃料に圧力空気を吹き付けるブロア17と、ブロア17で吹き付けられた圧力空気によって混合気とされた水油混合燃料を噴射する噴射ノズル18と、噴射ノズル18から噴射された水油混合燃料を燃焼する燃焼室19と、混合器15と加熱器16との間に配置されて水油混合燃料の燃焼室19への圧力を5〜10MPaの範囲で調整するポンプ25と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料に水と油とを用い、これら原料水と原料油とを所定の割合で混合した水油混合燃料を乳化燃料としたうえで、これを失火せずに安定して燃焼させることができる水油燃焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、原料に水と油とを用い、これら原料水と原料油とを所定の割合で混合した水油混合燃料を燃焼させる水油燃焼装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に、油を燃料として用いて燃焼を行わせる場合、油に水を添加した上で混合燃料を乳化することにより、効率的な燃焼結果が得られることが知られており、特に重質油の燃焼に関しては、大気汚染物質(窒素酸化物、硫黄酸化物、一酸化炭素、二酸化炭素等)の発生が懸念されるが、水添加燃料であればこれらの物質の発生も抑制されることも知られている。
【0004】
この際、水油混合燃料を使用するには、混合燃料の水・油混合比、混合燃料の中に含まれる油の細分化状態、混合燃料の温度、混合燃料の噴射後の拡散等といった複数の要素が良好な状態を保たねばならない。
【0005】
そこで、水・油の混合状態を保つために、界面活性剤等の乳化剤を添加することにより水・油混合燃料を乳化して使用する例が一般的であった。
【0006】
この乳化剤を添加して混合燃料を得るには、乳化剤を定量供給しながら撹拌混合しなければならず、製造のための設備が必要となり、設備費や乳化剤の原料費が燃料単価へと反映され、その分燃料費が高くなる。
【0007】
例えば、特許文献1では、水と油を回転式の攪拌機で攪拌・混合したうえで、高圧ポンプで昇圧すると同時に、燃料導入管の噴射上流側を燃焼器の周囲に巻き付けることで昇温し、乳化剤を用いずに安定に燃焼させるもので、安定燃焼のための条件は、混合燃料温度が200℃〜400℃、噴射圧力が10MPa〜30MPaとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3928969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した水油燃焼装置にあっては、水油混合燃料を使用するには、混合燃料の圧力が10MPa以下では燃料が充分に霧化せず不安定な燃焼となり、30MPa以上では機械的な強度上の問題が生ずるとしているが、これらの条件は、上述したように、混合燃料の水・油混合比、混合燃料の中に含まれる油の細分化状態、混合燃料の温度、混合燃料の噴射後の拡散等といった複数条件を相対的に考慮する必要があり、単なる圧力だけで一義的に問題とされるものではない。
【0010】
また、その圧力を10MPa以上としてしまうと、装置全体が大型化してしまい、小型なバーナー等への利用が困難となってしまうという問題が生じていた。
【0011】
そこで、本発明は、小さい圧力での燃焼を可能とし得て、装置全体の小型化に貢献することができる水油燃焼装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる水油燃焼装置は、原料水と原料油とを所定の割合で混合する混合器と、該混合器で混合された水油混合燃料を加熱する加熱器と、該加熱器で加熱された水油混合燃料に圧力空気を吹き付けるブロアと、該ブロアで吹き付けられた圧力空気によって混合気とされた水油混合燃料を噴射する噴射ノズルと、噴射ノズルから噴射された水油混合燃料を燃焼する燃焼室と、前記混合器と前記加熱器との間に配置されて前記水油混合燃料の前記燃焼室への圧力を調整するポンプと、を備えた水油燃焼装置であって、前記ポンプは、前記水油混合燃料の前記燃焼室への圧力を5〜10MPaとすることを特徴とする。
【0013】
本発明に記載の水油燃焼装置によれば、燃焼効率を損なうことなく燃焼を維持し得て、装置全体の小型化に貢献することができる。
請求項2に記載の水油燃焼装置は、前記原料水と前記原料油との体積比が50%:50%〜65%:35%の範囲にあることを特徴とする。
請求項2に記載の水油燃焼装置によれば、より一層確実な燃焼を確保することができる。
請求項3に記載の水油燃焼装置は、前記原料水が真水であり、前記原油油がA重油であることを特徴とする。
請求項3に記載の水油燃焼装置によれば、乳化剤を用いることなく、水油混合燃料の燃焼を確保することができる。
請求項4に記載の水油燃焼装置は、前記噴射ノズルの噴射口形状が切頭円錐形状を呈していることを特徴とする。
請求項4に記載の水油燃焼装置によれば、小さい噴射圧力での水油混合燃料の燃焼を確保することができる。
請求項5に記載の水油燃焼装置は、前記ポンプにはギヤポンプが用いられていることを特徴とする。
請求項5に記載の水油燃焼装置によれば、水油混合燃料の加熱前の攪拌機能を確保することができ、水油混合燃料の燃焼効率を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る水油燃焼装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る水油燃焼装置の要部の説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る乳化燃料分離の時系列変化(水分40%vol.油分60%vol.の場合のグラフ図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る乳化燃料の始動性のグラフ図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る攪拌機内の水位、温度の影響のグラフ図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る空気流量、水油比率に対する燃焼温度のグラフ図を示し、(A)は水60%vol.油 40%volで空気増加させた場合、(B)は水0%vol.油100%vol.で水70%vol.油30%volに変化させた場合のグラフ図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る噴射温度による影響)のグラフ図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る水油実験結果のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る水油燃焼装置の説明図、図2は本発明の一実施形態に係る水油燃焼装置の要部の説明図である。
【0016】
図1において、水油燃焼装置10は、水道水(真水)を原料水として貯留する水タンク11と、A重油を原料油として貯留する油タンク12と、各タンク11,12から図示を略するポンプの駆動によって各配管13,14を経由して原料水と原料油とが供給される所定の割合で混合する混合器15と、混合器15で混合された水油混合燃料を加熱する加熱器16と、加熱器16で加熱された水油混合燃料に圧力空気を吹き付けるブロア17と、ブロア17で吹き付けられた圧力空気によって混合気とされた水油混合燃料を噴射する噴射ノズル18と、噴射ノズル18から噴射された水油混合燃料を燃焼する燃焼室19と、を備えている。
【0017】
水タンク11と混合器15とは配管13によって連通され、油タンク12と混合器15とは配管14によって連通され、各配管13,14の内径及び各配管13,14の途中に配置されたポンプのパワーとによって混合器15に供給される原料水及び原料油の供給量が調整される。本実施の形態においては、原料水と原料油との体積比が50%:50%〜65%:35%の範囲で調整される。
【0018】
混合器15の内部には、駆動モータ20の駆動によって回転する攪拌ブレード(図示せず)が配置されている。
【0019】
加熱器16は、燃焼室19を形成する円筒形のケーシング21と、混合器15で攪拌・混合された水油混合燃料が配管22を介して供給される螺旋状の加熱パイプ23と、ケーシング21の略中心軸線上に配置された燃焼ノズル室24と、を備えている。
【0020】
加熱パイプ23と混合器15とは、その途中にギヤポンプ25を配置した配管22によって連通されている。また、加熱パイプ23と燃焼ノズル室24とは配管26を介して連通されている。
【0021】
燃焼ノズル室24の略中央部には、ブロア17から供給された圧力空気が噴射されるブロア配管27が連結されている。
【0022】
ギヤポンプ25は、図2に示すように、ギヤケーシング28の内部に、互いに噛み合う一対のギヤ29,30を備え、各ギヤ29,30の相対回転によって水油混合燃料をギヤケーシング28内で攪拌しつつ加熱パイプ23に向けて水油混合燃料を圧送する。この際、ギヤポンプ25は、水油混合燃料の燃焼室19への圧力を5〜10MPaの範囲で調整する。
【0023】
(実施例)
尚、本実施の形態においては、ケーシング21は、材質ステンレス304、内径210mm、外径360mm、長さ450mmとされている。また、燃料ノズル室24は、材質ステンレス304、厚さ3mm、内径80mm、外径89.1mm、長さ200mmとされている。
【0024】
加熱パイプ23は、材質ステンレス304、厚さ2mm、内径6.5mm、外径10.5mmとされている。また、加熱パイプ23は、ケーシング21の外壁に沿うように螺旋状に隙間無く巻き付けられており、ケーシング21の内壁(燃焼室19)からの伝熱により水油混合燃料が加熱される。加熱パイプ23は、加熱器16の外に導かれ、加熱器16の後部から燃焼ノズル室24に導かれる。
【0025】
配管26の先端には、その先端の噴射口形状を切頭円錐状とした噴射ノズル18が取り付けられ、ノズル先端から燃焼室19に水油混合燃料が圧力空気で混合気とされて噴射される。尚、噴射ノズル18は、加熱パイプ23の中心軸と燃焼室19の中心軸とが一致するように燃焼ノズル室24に3方向から支持されている。
【0026】
ブロア配管27は、材質塩化ビニル製の管材が用いられ、内径65mm、外径76mmとされている。また、ブロア17(例えば、メーカーと型番)から二系統に分岐され、一方の分岐管27aは燃焼ノズル室24の後部側面に、他方の分岐管27bは燃焼室19の入口側面に導かれる。尚、この二系統の圧力空気の流量を調整するために、燃焼ノズル室24に導かれる分岐管27aの途中には流量調整バルブ31が配置されている。
【0027】
燃焼ノズル室24は、ブロア17からのブロア配管27が後部側面に接続され、空気が流入する。燃焼室19との入口は、板28で遮られている。この板28の中心には、ノズル先端形状に一致する穴が開けられており、その中心に噴射ノズル18が位置するよう加熱パイプ23が支持されている。このとき噴射ノズル18の先端と板28の表面とは一致する。また、板28には、ブロア17から分岐管27aを経由して燃料ノズル室24に流入する圧力空気を燃焼室19に噴射するために、噴射ノズル18の周囲を取り囲むように8カ所の長辺の曲がった長方形の穴(図示せず)が等間隔に配置され、噴射ノズル18を取り囲むような空気流路が設けられている。
【0028】
ブロア17から分岐管27bを経由して燃焼室19に流入する圧力空気は、燃焼室19に導かれ、燃焼室19の内壁形状(円筒形状)にて旋回流を実現する。燃焼室19の内壁外側は加熱パイプ23が螺旋状に巻き付けられており、燃焼室19からの熱で加熱される。燃焼室19の入口面には穴(図示せず)があり、加熱器16の中心軸に対して45°斜め方向から着火用のパイロットバーナ(図示せず)が設置されている。
【0029】
(実験例)
<乳化方法>
混合器15として、市販の攪拌機(阪和化工機株式会社製、型番HZT−830、最大1470rpm)に、市販の攪拌羽(アズワン産業用研究機器カタログから、型番RJ−0495−445、φ80ステンレス、ディスパ型)を取り付け、回転により得られるせん断力で水分と油分を予備的に乳化させる。
【0030】
次に、ギヤポンプ25(カヤバ工業社製、型番KP0570CPFS、ギア面積7cm2、210kgf/cm3、600〜3000rpm、1000rpmで7L/min、)により昇圧および乳化させる。
【0031】
ギヤポンプ25によって昇圧される過程で液体が微小隙間を高速で通過し、壁面に衝突時に乳化される。これにより低粘度液体に大きな乳化能力を与える。
【0032】
このように、従来の攪拌機による混合方法とギヤポンプ25による混合方法とを組み合わせることで乳化剤を使用せずに安定した乳化状態を実現する。
【0033】
このように安定した乳化状態の場合、混合後、すぐにある程度(6%Vol.)分離するものの、その後は24時間以上、乳化状態を保持することができる(図3参照)。実際に使用する際は、混合後すぐに噴射され燃焼させる。
【0034】
噴射ノズル18(スプレーイングシステムスジャパン株式会社製、型番TN−SSTC−3、距離300mmのところでスプレー幅152mm)を使用した場合、3MPa〜7MPaの噴射圧力で失火しない安定な燃焼が得られる。ただし、この燃焼の安定性は、乳化の状態だけでなく、火炎の保炎方法にも関連する。
【0035】
<保炎方法>
ケーシング21には、円周に沿う方向に空気を導入し旋回流を形成し、中心部分から噴射ノズル(前述)を介して燃料を噴射する。旋回流により発生する中心付近の低速再循環領域に向かって燃料を扇状に噴射する方法で火炎を保炎する。この際、低い圧力で噴射して扇状の角度が小さい場合も酸欠状態で不安定燃焼にならないよう、噴射孔まわりから低速平行流も導入している。燃料は、噴射前にケーシング21からの伝熱により加熱され、粘度が下げられる。
【0036】
<ケーシング21の運転方法>
水分として水道水、油分として重油(A重油JIS K2205 1種2号 HAS重油)を使用する。水分と油分の混合割合が、水:油=0%Vol.:100%Vol.〜60%Vol.:40%Vol.の範囲で失火せずに安定に燃焼する。ただし、水:油=50%Vol.:50%Vol.〜60%Vol.:40%Vol.までの範囲では、運転条件によっては失火する。
【0037】
<始動過程>
(1)混合器15を40サイクル(最大出力の2/3)で始動
(2)ブロア17を20サイクル(最大出力の1/3)で始動
(3)着火プラグ点火
(4)プロパン流入でパイロットバーナ着火
(5)40サイクル(最大出力の2/3)、6MPaでギヤポンプ25を始動し、燃焼開始
(6)1分後、ブロア17を40サイクル〜50サイクル(最大出力の2/3〜5/6)に変更
(7)5分後、間欠的な振動を伴う不安定な燃焼状態でなければプロパン、着火プラグ停止
【0038】
尚、始動は、燃料として重油のみ噴射し、噴射温度が上昇するまで継続する。その後、設定したい水と油の混合比(%Vol.)となるよう給油する。水:油=0%Vol.:100%Vol.〜50%Vol.:50%Vol.の範囲ならば、始動時から乳化燃料を噴射することが可能である(図4参照)。尚、始動時から水の割合が50%vol.を超えると、失火する。
【0039】
また、ケーシング21の連続運転過程では次の二つの注意が必要である。
【0040】
第一に、混合器15内の混合燃料の水位が低下し、攪拌バネが液面から露出するようになると、混合燃料に気泡が混入する。またこの状態で給油を行うと混合器15の温度が急激に低下する。これらの二つの原因により乳化燃料が細かい粒状(乳化異常)に変化する。これが原因で噴射状態が不安定となる。そのため、連続的に運転させるために水分と油分の追加は水位が下がりすぎないよう早めに行う必要がある(図5参照)参照。尚、開始19分後まで重油のみで運転した後、水と油とを追加(水70%vol.油30%vol.)し、二回目の給油した場合、乳化異常で失火した。
【0041】
第二に、ブロア17からの流量を変化させるとケーシング21での旋回速度が変わるため、燃焼性状が変化する。また水と油の混合比を変化させることで、火炎長さを変えることが出来る。ただし、これはブロア17からの空気流量に上限があること、燃料噴射が中心部から放射状であることのため、油の比率が高いときにケーシング21内で十分な酸素を得られず、ケーシング21出口後流に火炎が延びることによる(図6参照)。尚、火炎形成位置が変化するため、定点温度が変化することから、油の比率が多い場合、供給される空気不足で火炎が燃焼器後流側に延びるため、燃焼器出口温度は低くなる。
【0042】
<停止過程>
(8)着火プラグ点火
(9)プロパン流入でパイロットバーナ着火
(10)ブロア17を20サイクル(最大出力の1/3)に低下
(11)ギヤポンプ25停止
(12)燃料配管内の残圧により噴射される少量の燃料の燃焼が維持できるよう、ブロア17を随時低下
(13)燃料配管内の残圧が0になったら、ブロア17を60サイクル(最大出力)まで増加
(14)プロパン停止、着火プラグ停止
(15)ブロア17停止
【0043】
この際、ギヤポンプ25を停止するだけでは、燃料配管中に残っている乳化燃料が、内圧の高さのために継続的に噴射され、未燃焼状態で排出される。
【0044】
従って、これを避けるために、空気流量をさげて旋回速度を減少させ、パイロットバーナで着火させて、ギヤポンプ25停止後も間欠的に噴射される残存燃料を燃焼させる。これにより煙の排出を抑えることができる。ただし、酸素不足による不完全燃焼により、ケーシング21内にすすが付着する。
【0045】
<失火による急停止過程>
(16)すぐに上記(8)〜(12)の手順を行う。
(17)燃焼が維持できなければ(13)〜(15)で、停止
ただし、この場合、上記のような燃料配管内に残る未燃焼の乳化燃料の噴射によりケーシング21外に大量の煙(霧化された乳化燃料)が噴出する。
【0046】
<失火による急停止する攪拌状態>
以下の時に乳化燃料の混合が均一ではなく、粒状となり、燃焼が急停止する。
【0047】
・混合器15において燃料が消費され、攪拌羽がむき出しになった状態で攪拌を継続した場合(図5参照)
【0048】
・水の割合が50%vol。を超える時に、混合器15を50サイクル(最大出力の5/6)以上で回転
ただし、攪拌器温度にも関連する。
・水の割合が50%vol。を超える時に、噴射温度が150℃を超える(図7参照)
【0049】
尚、水40%vol.油60%vol.から始動した場合、噴射温度が急激に上がり、29分後に失火した、また、再着火後は噴射温度が下がり燃焼が安定した。
【0050】
特に、水の割合が50%vol.を超える状態での対応は、噴射温度が150℃を超えると、混合燃料が分離しやすく、火炎発光において間欠的な輝度の変化と燃焼騒音を伴う不安定な燃焼状態となる。この状態では、ギヤポンプ25から混合器15に戻る混合燃料の温度も高く、攪拌状態を不安定にするため、混合器15において混合燃料が粒状となる。この場合、燃焼を一旦停止し、噴射温度を下げる必要がある。
【0051】
<実験結果>
原料水と原料油との混合比は、原料油の割合が多い場合(体積比50%までは)安定的に燃焼を確保することができる。また、体積比50%以上に原料水の割合が増えると、供給する空気量が加熱器16内で不足状態から適正状態に接近して燃焼温度が増加し、加熱パイプ23への伝熱量が増加し、噴射温度が上昇する。噴射温度が110℃を超えると燃焼が徐々に間欠的になり、140℃を超えると消炎する。これは、加熱パイプ23内の温度上昇により混合燃料が分離し始め、温度上昇により分離が激しくなると、水が連続的に噴射されることが原因である。また、ギアポンプ25から混合器15に戻される混合燃料の温度も上昇するため、混合器15において混合燃料の局所的な高温領域が出現し、混合状態が安定せずに粒状に変化することも原因である。現在のところ、原料水の割合が体積比65%までは安定して燃焼を確保することができるが、それ以上、原料水の割合が増えると安定燃焼させることが困難となる。
【0052】
混合器15の温度、駆動モータ20の回転数、燃料液面の泡などの状態変化が原因で乳化燃料が粒状に変化した場合、一旦加熱器16、混合器15を停止し、ギアポンプ25からの高温混合燃料の供給を遮断することで、混合器15の温度を均一にする。混合器15を再始動すると燃料の混合が安定し粒状ではなくなる。燃料混合の安定性は、ビーカーに採取して確認した。上記のような再攪拌後の安定混合燃料は、24時間後、全体量の1%のみ水と油に分離した。通常の攪拌による混合燃料は、24時間後には全体量の80%が原料水と原料油に分離した。
【0053】
加熱器16出口の中心温度および壁面付近温度を熱電対で測定した。原料油をA重油のみで燃焼させた場合、中心温度=900℃程度、壁面温度=700℃程度である。原料水の割合が増加するほどこれらの温度は増加し、水の割合が体積比60%において中心温度=1000℃程度、壁面温度=800℃程度となる。これは前述の通り、原料水の割合が増加するほど、供給される原料油の量に対して適正な空気流量に近づいていることに起因する。なお、A重油のみで運転する場合、ブロア17からの空気流量が不足しているために、加熱器16の出口での火炎の長さが伸びる。また、原料水の割合を増加するほど火炎長さが短くなる。これは加熱器16の内部で完全燃焼に近づいていることによるものであり、壁面温度を上昇させ、噴射温度の上昇につながる。噴射温度の過度の上昇は、混合燃料の不安定につながるため、制御が必要である。
【0054】
このように、本発明は、混合器15による混合で予備的に乳化させた後、ギヤポンプ25により乳化を加速させると共に、燃焼室19の熱を利用して水油混合燃料の温度を増加させて粘度を下げたうえで、空気の旋回流中心で空気の平行流を周囲流として伴い噴射ノズル18から混合燃料を噴射することを最適バランスとすることにより、添加剤を使用せずに機械的なせん断力を利用して水と油を混合した水油混合燃料(乳化燃料)を失火させることなく安定燃焼を実現することができる。
【0055】
また、ブロア17は水油混合燃料の燃焼室19内における噴射ノズル18からの噴射圧力を5〜10MPaとすることによって、安定した燃焼を確保することが確認され、装置本体の小型化が可能となることを確認することができた。
【0056】
図8は、上述した水油実験結果のグラフ図を示し、攪拌サイクルを40から落とすと燃焼温度も下がり、攪拌サイクルを60に上げると燃焼温度も上がることが判明した。また、燃料を追加して攪拌温度を上げても噴射温度にはほぼ影響がないことが判明した。
【符号の説明】
【0057】
10…水油燃焼装置
11…水タンク
12…油タンク12
13…配管
14…配管
15…混合器
16…加熱器
17…ブロア
18…噴射ノズル
19…燃焼室
20…駆動モータ
21…ケーシング
22…配管
23…加熱パイプ
24…燃焼ノズル室
25…ギヤポンプ
26…配管
27…ブロア配管
27a…分岐管
27b…分岐管
28…ギヤケーシング
29…ギヤ
30…ギヤ
31…流量調整バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料水と原料油とを所定の割合で混合する混合器と、該混合器で混合された水油混合燃料を加熱する加熱器と、該加熱器で加熱された水油混合燃料に圧力空気を吹き付けるブロアと、該ブロアで吹き付けられた圧力空気によって混合気とされた水油混合燃料を噴射する噴射ノズルと、噴射ノズルから噴射された水油混合燃料を燃焼する燃焼室と、前記混合器と前記加熱器との間に配置されて前記水油混合燃料の前記燃焼室への圧力を調整するポンプと、を備えた水油燃焼装置であって、
前記ポンプは、前記水油混合燃料の前記燃焼室への圧力を5〜10MPaとすることを特徴とする水油燃焼装置。
【請求項2】
前記原料水と前記原料油との体積比が50%:50%〜65%:35%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の水油燃焼装置。
【請求項3】
前記原料水が真水であり、前記原油油がA重油であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水油燃焼装置。
【請求項4】
前記噴射ノズルの噴射口形状が切頭円錐形状を呈していることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の水油燃焼装置。
【請求項5】
前記ポンプにはギヤポンプが用いられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の水油燃焼装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−21803(P2011−21803A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166963(P2009−166963)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(504007512)コミュニケーション・リンク株式会社 (2)
【Fターム(参考)】